その手を   作:アイリスさん

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20話です。次回が最終話になります。思ったよりだいぶ長くなりました。

本編どうぞ。


sentence20 その手を

「こんごうさんっ!!」

 

電とこんごうに気付き、青褪めた比叡が声をあげた。比叡の位置からは血塗れのこんごうの背中が見える。

一瞬で頭が真っ白になった。艤装は見る影も無く、こんごうはピクリともしないし、浮力も無い。絶望的な考えしか浮かばない。もう手後れだとか、もしかしたら見えていない水面下の下半身は無くなってるんじゃないかとか。

 

当然ながら、そんな状態に陥った比叡は棒立ち同然。重巡棲姫の構えた、巨大な白蛇のような砲が向いている事も見えてはいない。流石に不味いと焦るグラーフが「ヒエイっ!」と声を張るも届かない。

 

重巡棲姫の砲が発射‥‥‥されたのと、その足元で爆発が起きたのが同時。右足に魚雷をもらって重巡棲姫はバランスを崩し、比叡を狙っていた砲が見当違いの方向へと飛んで行く。

 

「クリティカルヒットでち!MVPはゴーヤが貰うでちぃぃぃ!!」

 

海面から微かに顔を出したのは伊58。間一髪、重巡棲姫を撃ったのは彼女だ。

支援艦隊‥‥‥というにはおかしい。伊58は単艦。他の僚艦の姿は見えない。

 

「あんのクソてーとく、帰ったらドラム缶に詰めて海の藻屑にしてやるでち!」

 

伊58は彼女達の提督に他の僚艦に先行して送られた。何故彼女がエキサイトしているのかと言えば‥‥‥オリョール海から帰って来たばかりの所を休む間もなく出撃させられたからだ。伊58の気持ちは分からなくもないが、結果的にはそれが比叡を救う事になった。

 

「コイツはゴーヤに任せるでち!比叡は金剛さんと電を助けに行くでちよ!」

 

「‥‥‥ありがとうございます、ゴーヤさんッ!」

 

焦る気持ちを抑え、比叡はこんごうの元へと走り出す。伊58は「任せるでち!オリョクルの怨みを思い知らせてやるでち!」と右手でサムズアップして、魚雷片手に潜行していく。

 

こんごうとぶつかりはしていたし流石に無傷とはいかなかったが、電はほぼ無事だった。ただ、その手で必死に支えていたこんごうの方はそうはいかない。幸いまだ脈はあるし、微かにだが息もある。しかしながら、時間が無いのは火を見るより明らかだ。

 

「電さんっ、こんごうさんは!?」

 

電は動揺してしまっている。目を游がせながら「こんごうさんが‥‥‥こんごうさんが‥‥‥」と繰り返しているだけ。泣きたいのを抑え、比叡はこんごうを海中から引き揚げて抱き上げた。

 

「電さん、確りしてください!こんごうさんの代わりに、戦艦水鬼を‥‥‥っ!」

 

抱き締めるようにこんごうを抱え、まだ動揺している電の肩を叩いた比叡。やっと我に返った電が、落ち着こうと深呼吸して高角砲を握り締めた。

 

「はい、比叡さん‥‥‥電の本気を見るのです!」

 

走り出した電の背中を視界に納めながら、比叡は抱き締めていたこんごうの膝と背中に手を回してお姫様抱っこに変えて姿勢を立て直す。比叡の艤装を駆る妖精達と阿吽で連係を取りながら、重巡棲姫に向かい走り始めた。

 

「早く‥‥‥早く敵を倒して、早くこんごうさんを‥‥‥」

 

一瞬だが、比叡は今度は躊躇する事無く、こんごうの唇に唇を重ねた。必ず。必ず救ってみせる。その誓いの為に。

 

走りながら、前方で再び重巡棲姫の足元で爆発。今度のは伊58のではない。酸素魚雷。遠目だが見える姿は北上と大井、それに他の僚艦の姿もある‥‥‥支援艦隊だ。

 

『比叡、聞いてマスか?』

 

「お姉さま?」

 

艦隊に合流しようと走る比叡に話し掛けてきた金剛。どうやら妖精としての『金剛』の方は無事のようだ。しかし、その言葉には何というか、比叡が嫌な感じの決意のようなものが滲んでいる。比叡の表情が曇る。金剛はそれを敢えて見ずに、戦艦水鬼『金剛』の方をを見据えた。

 

『ワタシを、ghostの所へ連れて行ってくだサイ』

 

************

 

(‥‥‥ここ、は)

 

こんごうが目を覚ましたのは、何時かと同じような空間。丁度金剛の記憶を垣間見た、あの時のフワフワした空間とそっくりだ。立ち上がって、辺りを見回す。

 

(一面まっ白な‥‥‥ううん、違う)

 

一見、全面真っ白。だが、よく目を凝らしてみると、そこかしこに白黒だが映像が並んでいた。肩くらい迄の髪をツインテールで結わえ、セーラー服で走る姿。南方棲戦姫と思しき深海棲艦と対峙する姿。レ級と思しき深海棲艦と対峙する黒髪の少女と泣きながら別れる姿。

 

(‥‥‥これが、漣?)

 

漣のものと思われる記憶の映像を、ゆっくりと見ていく。その最後にあったのが、天井から吊るされたロープに自分で首をかける映像。足元の椅子を蹴って視界が真っ黒に染まった所で、映像は終わっていた。

 

(‥‥‥自殺、だったの?)

 

背後に気配がして、振り返った。先程までは無かった筈の画面があって、今度は水底に沈んでいく金剛が映っていた。

死に際の金剛が此方に伸ばしてきた右手。明らかに躊躇している漣としての自分。

 

(‥‥‥そっか。そうだったんだ)

 

そうだったのだ。本当は、もう二度と関わらないつもりだった。けれど、金剛の想いに触れて‥‥‥『その手』を掴んだ。もう一度。もう一度だけ。金剛達にかけてみようと思ったのだ。

 

『思い出しまシタか?』

 

「金剛さん‥‥‥?」

 

気付くと、金剛が目の前に立っていた。妖精の姿ではない、人間としての金剛が。

 

『お礼を言いに来マシタ。Thank you、漣』

 

金剛の意図が全く分からなかった。人としてまた蘇れたのだとしたら、それは金剛が居たからこそだ。金剛の事は妖精の身体に押しやってしまっているし、お礼を言われるような身分ではない。

 

「そんなの‥‥‥此方こそ」

 

『No、違うネ』

 

金剛は少しだけ大きく首を横に振った。こんごうを制止し、静かに言葉を紡ぐ。

 

『お別れを言いに来たンデス。漣とワタシのfusionが弱くなってマス。今なら、ワタシの魂だけ抜けられるネ』

 

そんな事をすれば、金剛は永遠に消えてしまう。いや、妖精の身体の方に定着するという意味なのか。それなら、今以上に自由に動けるようになるし良いことなのかも知れない。それに、今の自分は瀕死の状態。このままならきっと助からない。そんな自分の身体に居るよりは、きっと‥‥‥。

 

『ワタシは‥‥‥ワタシの身体を止める義務がありマス‥‥‥もう行くネ。漣だけでも、助けてみせマス!』

 

朧気ながらも、その意味を理解した。戦艦水鬼『金剛』は元々金剛の身体だ。霊体でなら、復活は無理にしても一時的にでも動き位は止められるかも知れない。その止まった所を一斉に叩けば、或いは‥‥‥。

だが。戦艦水鬼『金剛』を倒す事が出来れば自分は助かるかも知れないが、それは同時に金剛がこの世から消える事を意味している。犠牲の上に成り立つ生命など‥‥‥あっていい筈が無い。

 

止めようとしたこんごうだが、身体が動かない。声も出せない。笑顔で手を振る金剛の像が遠ざかっていくのを、ただ見つめる事しか出来ない。

 

『貴女は‥‥‥生きるべきデス。No problem、貴女が居れば比叡も大丈夫デース!』

 

そう言い残し、金剛が完全に消えた。それと同時に、こんごうの意識が再び途切れた。

 

************

 

「どういう事ですか、お姉さま?」

 

金剛の意図を理解できない比叡。これから戦艦水鬼『金剛』の方に向かうのは余りにもリスクが有りすぎる。瀕死のこんごうを抱えているのだから尚更だ。

 

『いいデスか?アレは元々ワタシの身体デス。それなら、ワタシならきっとあの艤装も動かせる筈デス!』

 

つまり。金剛の言い分だと、戦艦水鬼『金剛』の艤装を金剛が止めて、その隙に叩く、という事だ。それが嘘である事は、比叡が気付ける筈はない。深海棲艦の艤装に、妖精の力など必要ない。

 

「お姉さまは!?」

 

『上手く脱出するネ!大丈夫デース!』

 

サムズアップして左目をウィンクしてみせる金剛。こんごうには余り時間が残されていないのは事実。どのみち、このままでは戦艦水鬼『金剛』に勝てるかどうか分からない。ならば、一か八かだが賭けるしかない。

 

「分かりました。お姉さま、絶対に死なないでくださいね」

 

『任せテヨ!』

 

比叡は一時後退してきた夕立の元へと向かう。「分かったっぽい!」と強く頷いた夕立に金剛を託し、自らは再び重巡棲姫の方へ。

 

******

 

肩に金剛を乗せ、夕立は全速力で走る。降り注ぐ砲を避けながら、戦艦水鬼『金剛』へと一直線に。

 

「金剛さん、突っ込むっぽい!」

 

加速し、夕立は飛翔。飛んできたミサイルを足蹴にして戦艦水鬼『金剛』の胸元へ。自殺行為とも取れる突撃だ。先に砲撃を撃ち込んではいるが、戦艦水鬼『金剛』には効いている様子がない。魚雷に右手を掛けた所で、夕立の身体は戦艦水鬼『金剛』の艤装の巨大な両腕に掴まれた。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」

 

太い両腕に締め付けられた夕立が、悲鳴をあげる。今にも骨を砕かれんばかりの腕力。ミシミシと嫌な音が響く。

と同時。肩の妖精『金剛』が動かなくなった。それはまるで魂が抜けたかのように虚ろだ。そしてその直後、夕立を締め上げていた艤装の腕も動かなくなった。

 

******

合流するなり、比叡は大井から戦線離脱を宣告された。腕の中のこんごうが危険な状態だったからだろう。

 

「此方は私達で何とかしますから。比叡さんは駆逐艦のその子を、早く!」

 

「分かりました。私は‥‥‥‥‥‥え?」

 

大井の言葉に思わず停止した比叡。それはそうだ。戦艦金剛の事は大井だって少しは知っている筈で、それ故『駆逐艦のその子』等と表現する筈が無い。そもそも、こんごうは駆逐艦には見えない筈だ。思わず抱いているこんごうへと視線を落とすと、比叡は思考停止。丁度ハッと我に返ったくらいの頃に、背中の方から聞き慣れた、叫び声が聞こえてきた。

 

 

 

「さあ、ワタシの出番ネー!follow me!!全砲門‥‥‥Fire!!」




因みにですが、グラーフさんはレベル50、足柄はレベル155です。
次回がラストです。
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