こんごうさんと足柄のその後。それとゴーヤの異動についてです。
ハワイ沖。アメリカの艦隊に付き添われた艦娘が二人。二人とも、手には花束‥‥‥レンと足柄だ。
(雷、吹雪、遅くなってごめんね)
レンが持っていた花束を海に投げた。同時に隣に立っていた足柄も花束を投げる。
かつて雷が南方棲戦姫と共に沈み、吹雪がレ級‥‥‥雷に沈められた場所。一度は人生ごと逃げ出したレンが、漸く戻って来れた場所だ。
(私は、もう逃げないよ。比叡やみんなが支えてくれるから‥‥‥大丈夫)
瞳を閉じて、今は亡き親友を思う。暫しの沈黙のあと目を開くと、既に黙祷を終えていた足柄がアメリカの艦娘と親しげに話している姿が見えた。それも、流暢な英語でだ。相手は戦艦だろうか?金剛なら兎も角、足柄がとは意外な姿に見えた。
此方の視線に気付き、足柄が戻ってきた。
「足柄さん、英語話せるんですか」
「え?」という表情を見せた足柄が、「はぁ‥‥‥」と溜め息。特に変わった事は言っていない筈のレンには意味が分からない。
「あの、足柄さん?」
「あのねぇ‥‥‥貴女が居なくなった後、私がどれだけ大変だったか分かってるの?」
あの後‥‥‥そう、吹雪がレ級に沈められ、『漣』だったレンが自殺して居なくなった後。足柄は当時の事を話してくれた。レンの『自殺という事実』は隠蔽され、漣は重い病に掛かった事になっていたらしい。吹雪が轟沈し、レンが亡くなったとなればその影響は計り知れない。少なくとも病という事にすればまだ治る可能性もあるし暫くは誤魔化せる。世間を欺いている間に新たな対策を、というのが当時の大本営の方針。
一方の足柄は漣の自殺の事実を掴み、それを記事にしている真っ最中だった。その記事を書いている時に突然憲兵に囲まれ、強制連行されたらしい。
「それで人を拘束するなり『コイツが見えるか?』何て言うのよ?全く‥‥‥」
拘束されて連行された先で見せられたのが、当時レンの艤装を駆っていた妖精さん。足柄に妖精さんが見えると分かるや否や、強制的に艦娘として開眼させられたそうだ。因みに、足柄を連行した憲兵こそ後の武蔵だったそうだ。
「レ級を撃沈しろだの、各国へ飛べだの‥‥‥全く人を何だと思ってたのかしらね」
レ級と幾度となく激戦を繰り返し、更には世界各国へと飛んで艦娘の技術提供と新人の教導。文字通り足柄は激動の日々を送ったのだそうだ。
「あの‥‥‥私のせいで、ごめんなさい」
そんな状態になっていたとは思ってもいなかった。自分さえ逃げなければ、足柄を巻き込まずに済んだかも知れない。後悔がレンの思考を覆い、表情は暗くなっていく。そんなレンに気付いた足柄は気遣ってフォローしてくれた。
「‥‥‥まあ、悪い事ばっかりでも無かったし。謝らなくていいわよ。お陰で何ヶ国語も話せるようになったし、こうして今でも美貌を保っていられる訳だしね」
表情を崩し、ウィンクしてみせる足柄。そういえば足柄はいい歳になっている筈だ‥‥‥何てレンが考えていると、ポカッと頭を軽く叩かれた。
「今考えていた事は忘れなさいよ?‥‥‥帰りましょうか」
大して痛みはないものの、ついつい条件反射で叩かれた箇所を擦るレン。「はい、足柄さん。ありがとう‥‥‥ございます」と笑顔をみせて、並走してその海域を後にした。
(見守ってて‥‥‥吹雪、雷)
******
その頃の山本達の鎮守府の食堂。着任したばかりの新人の駆逐艦、天津風と伊58の姿。
「そう言えばゴーヤ先輩って此処の前は何処に所属してたの?」
天津風の『先輩』発言に気を良くしたのか、伊58は珍しく話し始めた。嘗て所属していた鎮守の提督との事や、異動の理由について。
「仕方ないでち‥‥‥今日だけ特別に教えてやるでちよ」
‥‥‥‥‥‥あれは、戦艦水鬼のイレギュラーとの一戦の日でち。ゴーヤはいつも通り大量の資材を持ってオリョクルから帰ってきて、疲労困憊で入渠してたでち。
『はぁ、疲れた‥‥‥』
何せ装備無しでドラム缶だけ目一杯渡されたんでちよ?深海棲艦に会うたび会うたび逃げ回って、ヘトヘトになってやっと帰って来たんでち。長居する気で伸びてたゴーヤの所に、秘書艦の瑞鳳が尋ねてきたでち。その瞬間、ゴーヤには嫌な予感が電流のように走ったでち。
『ゴーヤさん、すみません』
会うなり瑞鳳は謝ってきたでち。手には‥‥‥バケツを持ってたんでち。ゴーヤはその瞬間悟ったでち。『休みなしでまたオリョクルか』って。瑞鳳だって嫌な役回りをやらされてるんだし、怒ってもどうせ決定は覆らないし、『分かったでち』って溜め息混じりに返事したでち。
『またオリョクル行ってくればいいんでちね?』
『‥‥‥戦艦水鬼のイレギュラーが現れて、山本少佐の所から支援要請があって、それで‥‥‥ゴーヤさんに出撃命令が』
瑞鳳は悪くないでち。でも、怒りは頂点。ゴーヤは思わず叫んだんでち。
『死ねって!?ゴーヤに死ねって事でちか!?』
戦艦水鬼のイレギュラーは横須賀鎮守府の連合艦隊を一隻だけで壊滅させた化け物でち。それが艦隊で攻めてきてる所に飛び込んでこい、って。しかもオリョクルで疲弊しきってる所に、でちよ?もう死刑宣告と同じでち。
その鎮守府ではゴーヤの練度が一番高かったんでち。瑞鳳も勿論一緒に出撃。怒って逆らったらそれだけ瑞鳳の立場が悪くなる。そう思って仕方なくバケツ被って出撃したんでち。
みんな無事に帰ってきて、ゴーヤもヘトヘトで帰艦報告しに執務室に行ったんでち。そしたら‥‥‥てーとくがイクとイチャついてたんでち‥‥‥。しかも『もうすぐゴーヤが帰ってくるのね‥‥‥駄目なの』とか『アイツの事なら大丈夫だ。イクさえ傍に居てくれれば』とか抜かしてやがったんでち!
『全員無事帰投したでち!』
それだけ伝えて思いっきり扉を閉めて、真っ直ぐ食堂に向かったんでち。怒りはあるけど、此処は全員無事だったんだし、使えなくて溜まってた間宮券使ってアイスでも食べて忘れよう、って。
そしたら、そしたらでちよ?あんのクソてーとくの奴、いきなり現れてゴーヤが食べようとしたアイスの一口目を横から奪いやがったんでち!!
『もう我慢出来ないでちぃぃぃ!!こんな鎮守府出てってやるでちぃぃぃ!!』
こうやって、ゴーヤは家出したんでち。
「‥‥‥‥‥‥そのあと、グラーフさんにばったり会って、此処に置いてもらえる事になったんでち」
天津風は「酷い奴が居るのね!」と怒り心頭。こき使った挙げ句の仕打ちは流石に許せない様子。
「いつでも力になるわ、ゴーヤ先輩!」
「その気持ちだけで充分でちよ」
ウンウン、と頷いていたゴーヤの後ろから「No‥‥‥」と呆れ顔で眺める金剛の姿。
「天津風、ゴーヤのstoryは半分は嘘デース‥‥‥」
‥‥‥金剛の説明によると、真実はこうだ。オリョクル帰りのゴーヤがバケツ被って出撃、は真実。ただ、オリョクルにドラム缶装備のみ、というのは大袈裟な表現で、ちゃんと武器は持たされていた。それと、向こうの提督は執務室で伊19とはイチャついてはいなかった‥‥‥というか、アチラには伊19は着任していない。アイスを食べられたのは本当だが。伊58はアイスを一口食べられて激昂、その直前までの事もあって大喧嘩となった訳だ。
「‥‥‥ちょーーーっと大袈裟に言ってみただけ‥‥‥でち」
伊58は「あはははは」と渇いた笑いを残し退散。その場には金剛と、ポカン、とした天津風が残った。
「金剛さん?」
「‥‥‥アッチのテートクは不器用デシタネ。impatienceは禁物デース」
足柄さん、あれから大変だったのです。
元ゴーヤの提督さん‥‥‥金剛は察したようです。まあ、不器用にも程がある。