その手を   作:アイリスさん

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お久しぶりの更新です。今回は前半。護衛艦こんごう再び。


おまけ4 決着を 前半

横須賀鎮守府から遠くない、某所。繁華街の一角にある居酒屋。看板には『酒処 妙』とある。店内は木の温かみのある落ち着いた雰囲気の和風の造りで、決して大きくはない。六人程が座れるカウンターが奥にあり、入口側にはテーブル席が8つ程。奥では仕込みを終えて一息ついている女将らしき女性。美人だが勝ち気な感じの、黒髪ロングに白のカチューシャをしている。黒いTシャツに酒屋の前掛け。スタイルも悪くない。ただ、如何せん女将というには若すぎる見た目。

 

そこへ「妙さん、ただいま」と入ってきた少女。ピンク色の髪を何時ものように両サイドで結わえたツインテールの髪、髪と同じピンク色の瞳。羽織っていた上着を脱いだ少女が着ていたのは、『妙(たえ)さん』と呼ばれた女将が着ているのと同じTシャツ。下はジーンズに酒屋の前掛けをしている。

 

 

「おかえり、レン。買ったものはそこに置いといて」

 

「はーい」

 

レンと呼ばれた少女は、手に持っていた買い出し品の入った袋をカウンターの隅に乗せた。レン‥‥‥そう。英雄・初代漣にして元・護衛艦こんごう、彼女である。

 

レンはあの南方棲戦姫との戦いの後、引退。今はこうして居酒屋の看板娘をしている。引退といっても解体はしていない。理由は簡単。レンの『護衛艦こんごう』としての能力は日本としてもおいそれと手放す訳にはいかないから。世界に二つとない力を備えたミサイル護衛艦こんごうを完全に失う事は国力に関わるから。それでもこれまでの対深海棲艦戦における実績と、英雄・漣としての立場と貢献度、旧大本営によってレンが被った不幸を考慮し今は引退という立場を得られた。とはいえ、艤装さえあれば直ぐにでも『こんごう』として戦える状態である事に変わりはない。事実、レンの姿は引退前と全く変わっていない。つまり、数年経った今でも軍からの要請があれば何時でも艦娘に戻れる状態にある。それが、引退の条件だった。

 

「レン~、オープン前にご飯食べちゃってねー」

 

「うん」

 

女将の妙に言われて、レンはカウンター内へ。今日の夕飯はカレー。妙らしく、カツカレー。

 

女将‥‥‥足木 妙。元・足柄だ。足柄は解体してレンと時を同じくして今度こそ引退。前々から艦娘としての力の衰えは感じていたらしい。酒好きと料理好きなのもあり居酒屋を始めることにしたようだ。同時に、既に身寄りのないレンを引き取って養子とした。なので、レンの方も今の名字は足木である。

 

店のラインナップは揚げ物中心、サラダ、焼魚、刺身等々。一通り‥‥‥あるにはあるがやはり揚げ物の数は多い。お酒はビールに日本酒、焼酎と足柄が好きなものが多いが、レンの提案で果実酒も少々。 勿論、圧倒的に男性客が多い。何せ、女将は黙っていれば美人の足柄、接客は美少女のレンなのだから当然。

 

横須賀鎮守府が近いせいもあって、艦娘の利用者も少なくない。今は横須賀に異動している赤城や、川内、明石達もよく利用している。それから、横須賀提督となった山本十三も。

 

「妙さん、美味しいんだけどさ、カツカレー以外のカレーも作ったら?」

 

「何よぅ、旨いんだからいいじゃない」

 

因みに足柄特製のこのカツカレー、メニューに入っている。〆に頼まれるらしく、何気に人気メニューである。

 

無論、比叡は少なくない頻度でこの店に態々通っている。当然ながらレン目当て。レンの方も最近は比叡を少し意識し始めていて、それが妙(たえ)には複雑なようだ。親心だろうか。

 

「妖精さんも。はい、アーン」

 

レンは持っているスプーンでカレーを掬い、妖精さんの口元へと運ぶ。言われるままに口を開けて美味しそうに食べているこの妖精、嘗てレンを漣として見出だし艦娘として覚醒させた最古参の妖精さんだ。今はこうしてレン、妙と共に生活している。

護衛艦こんごうの艤装を駆っている『こんごう妖精さん』達は艤装の維持と春雨のサポートの為に元水族館の鎮守府に残っている。嘗ての『妖精金剛』のようにレンと魂を共有してはいないため。

 

そうして少し早い夕飯を食べていたレン達の元に、訪問者。まだ開店前の入口が開く。思わずそちらを向いた三人(?)の視界に見えたのは、山本提督。それとその現在の秘書艦、紫がかった長い髪をミヤコワスレと大きな鈴の付いた髪止めで右サイドテールで纏めた可憐な少女、駆逐艦・曙の姿だった。

 

「ボノ!」

 

駆逐艦漣だった性もあるのだろう、スプーンを置いたレンは嬉しそうに曙の元へと走る。

 

「何よ、この前飲みに来たばっかりじゃない」

 

答えた曙も満更でもなさそうな表情だ。曙が言う通り店に来たのはつい先日。金剛と大和、また日本に滞在する事になったグラーフと共に飲みに来たばかり。

そんな様子のレンとは違い、妙の表情は渋い。山本達が来た理由が何となく理解できているようだ。妙の様子を察してか、山本の開口一番の言葉は「申し訳ありません」だった。

 

「二人とも座りなさいよ。立ったままってのも、ね」

 

そう妙に促され、カウンターに座る山本と曙。二人の表情は優れない。やはり、妙の睨んだ通りのようだ。事情を飲み込めていないレンは「あの‥‥‥二人とも?」と戸惑い気味に山本と曙の顔を覗き込む。

 

山本の「実は‥‥‥呉とウラジオストクが襲われまして」という一言で妙は確信を持った。呉、ウラジオストク。思い当たる共通点は一つしかない。呉の吹雪、ウラジオストクの漣。初代の、南方棲戦姫を倒した英雄艦の三人、漣、吹雪、雷の同型艦が所属していた鎮守府だ。妙が呟く。「レ級、か」と。

 

水の入ったグラスを二人に渡そうと思っていたレンが、乗せているトレンチごとグラスを落とした。床に割れたガラスの破片と氷、水が散乱する。

 

「レ‥‥‥級?」

 

レンの表情は固まっていた。悪夢を思い出したような、辛い記憶を呼び覚まされたような、そんな表情。

 

戦艦レ級。嘗てレンが漣だった頃、南方棲戦姫を命と引き換えに撃沈させた初代の雷の成れの果て。初代の吹雪を轟沈に追いやり、漣が自殺する原因ともなった個体。

南方棲戦姫が蘇っている事実がある以上、レ級が復活しても何ら不思議ではない。しかしながら、問題はそこではなかった。山本がレンの前でその話を切り出したという事が意味するところは一つしかない。

 

ばら蒔いた破片を片付けた妙が、後ろからレンの両肩にポン、と手を乗せた。完全に動揺して震えていたレンだったが、それで漸く我に返って少しだけ落ち着いた。

 

「ナツが‥‥‥どうして‥‥‥」

 

レンが口にした『ナツ』というのは、初代の雷の本名だ。そのレ級が現れ、呉とウラジオストクが襲われたとなれば、次に狙われる場所は予想する迄もない。現・雷の所属している鎮守府。元水族館のあそこしかない。あそこには雷は勿論の事、親友の春雨、妹のような存在の天津風や、レンの引退まで共に戦い抜いた仲間達、それに何より比叡が居る。彼女達が負けるとは思えないが、レンには黙って指を咥えている事は出来ない。

 

「山本提督、横須賀からは出せないの?赤城や葛城だって居るじゃない」

 

「すみません、妙さん。その横須賀が狙われる可能性もありますので」

 

妙が「チッ」と舌打ち。横須賀が狙われる可能性がある、というのならそれは妙のせいだからだろうか。嘗てレ級を滅ぼしたのは足柄。足柄が所属していたのが横須賀。横須賀から元水族館の鎮守府は近くはない。一度横須賀を離れれば、戻るには時間が掛かる。空母が留守にしている間にレ級に襲われては堪らない。赤城や葛城達空母が不在の所を狙われれば制空権を完全に掌握されて、幾ら曙達でも圧倒的に不利だ。

 

あの曙が本当に申し訳なさそうに「レン、ごめん」と頭を下げた。つまり、そういう事なのだ。二人はレンを迎えに来たのだ。『ミサイル護衛艦こんごう』としてレ級を迎え撃ってもらう為に。再び艦娘として海に立ってもらう為に。

 

*********

 

「妙さん、妖精さん、それじゃ行ってくるね。ちゃんと毎日連絡するから」

 

「馬鹿ね、3日に1回くらいで大丈夫よ。行ってらっしゃい。気を付けるのよ?」

 

『行ってらっしゃい、レンさん』

 

結局、レンは引き受ける事にした。勿論悩んだ。悩んだし恐怖が無い訳でもないが、仲間達や比叡が襲われるのを見過ごす等到底できない。妙と妖精さんに見送られ、着替えと少しの荷物を持って迎えの車に乗り込んだ。知らない海軍の関係者なら兎も角、運転手は青葉だし心配は無いだろう。

 

「では行きますよ、レンさん」

 

「はい。お願いします、青葉さん」

 

実は、海軍は嘗てレンが所属していた頃とは大きく変わっている。先ず、艦娘の数が圧倒的に少ない。艦娘大国だった頃からは想像も出来ないが、それも仕方の無い事。何せ、半数以上の艦娘は引退している。理由は一つ。レンや比叡達が南方棲戦姫を倒した後、深海棲艦は一斉に姿を消した。それから数年間、深海棲艦は全く姿を見せなかったのだから、その間に艦娘の体制は大きく変わるのも無理はなかった。世界の艦娘の数は急激に減り、各国の保有率は大きく下がった。束の間の海の平穏が破られたのは最近の事だ。再び深海棲艦達が現れた。まるで、世界の艦娘が弱体化するのを待っていたかのように。

 

青葉の運転で高速道路に乗って走る事、二時間程。懐かしい光景が見えてきた。海岸沿いにある大きな建物。嘗てレンが『こんごう』として所属していた鎮守府だ。今回の滞在‥‥‥一時復帰の期間は取りあえず3週間。その間に必ずやレ級は現れる、というのが山本提督の見解だ。

 

その山本に『妻を頼む』と頭を下げられた。理由はと言えば、その鎮守府の門の前で立って出迎えにいる人物。

 

「お久しぶりなのです、レンちゃん」

 

「はい、美鈴ちゃん。お久しぶりです」

 

美鈴。元・電にして山本の奥さん。嘗ての電の時の姿から少しだけ成長し、今は見た目高校生くらいになっている。幼さと大人の入り交じった感じの可愛らしい姿になっている美鈴は、訳あって今は提督になっている。山本とは月に何度かしか会えないが、抜き差しならぬ現状では致し方ない。

 

「一先ず部屋に案内するのです。比叡さんと同室で大丈夫ですよね?」

 

ニコリと微笑む美鈴に「えっと‥‥‥はい」と口ごもり紅い頬で答えたレン。3週間も同じ部屋とは、意識するなという方が無理だ。嘗てはずっと相部屋だった筈なのだが、今は心境が違う。

 

美鈴達の鎮守府は、今は新人艦娘の最終研修施設を兼ねている。成りたての新人達が演習に励んでいるのを横目に見ながら、レンと美鈴は本棟へと歩く。

 

「一先ず雷ちゃんに会って欲しいのです。口には出してないけれど、きっと不安になっている筈なのです」

 

促されるままに本棟内を歩き、作業を終えたらしき夕張とすれ違いざまに再会を喜びあいつつ、雷の部屋へ。コンコン、と美鈴が扉をノック。

 

「雷ちゃん、入るのです」

 

中から「はーい」と返事が聞こえて、美鈴が扉を開いた。中には椅子に座っている雷。髪が少しだけ乱れているし、本人は隠してはいるようだが頬に涙の跡。ベッドの毛布が乱れているので、恐らく毛布を被って泣いていたのだろうか。雷の気持ちを思うとレンの胸が締め付けられるように痛む。

 

「‥‥‥レンじゃない!久しぶりね、元気だった?」

 

「雷ちゃん」

 

言うなり、レンは雷を抱き締めた。察したのか、美鈴の姿はいつの間にか部屋に無い。雷は最初こそ驚いた様子だったものの、美鈴の姿が見当たらない事を確認すると瞳に涙をいっぱいに溜めていた。相当我慢していたのだろう。

 

「大丈夫。大丈夫だから。雷ちゃんは守るよ、絶対に」

 

レンの言葉がトリガーになったようで、雷はすがり付いて泣き出した。やはり恐怖と不安に苛まれていたようだ。

悲劇は繰り返させない。必ず、必ずレ級を止める。レンはそう誓う。

 

(ナツ、貴女の身体、深海棲艦から取り戻すよ。絶対に)

 

 




レ級との決着、過去との決着をつける為レンちゃん再び護衛艦こんごうとして抜錨する事に。

え?夕立?なんの事でしょうか?分かりませんねぇ。
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