その手を   作:アイリスさん

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あかんこれ。レ級戦は次回です。


おまけ4 決着を 中盤その3

 

「どうかなさいまして?」

 

横須賀鎮守府の執務室。山本と秘書艦の曙は不在。秘書艦代理、執務補佐官の航空巡洋艦・熊野。栗色の髪をポニーテールで纏め、嘗ての鈴谷と同じ制服の、生まれの良さを感じさせる整った綺麗な顔立ちの、少女と女性の混在する年頃(あくまでも外見上だが)の艦娘。因みに彼女は人間としては本当に御嬢様である。入渠後に全身エステを頼んだりしているが「わたくし個人のお金で払っておりますので問題ありませんわ」との事。

その彼女の視線は今、何かに悩むビッグ7・長門に向いていた。

 

「いや、何故レ級は呉とウラジオストクを狙ったのかと思ってな」

 

「それは‥‥‥嘗て吹雪さんと漣さんが所属していたから、ですわよね?」

 

熊野からしたら長門が悩む意味を理解できない。熊野も立場上、レ級が初代雷の成れの果てという事は知っている。しかしそれは長門も同じ筈で、椅子に座り腕を組んで唸る長門の様子には疑問を抱かざるを得ない。

 

「いや、そうなのだが。何と言えばいいのか‥‥‥本当にそうなのか?」

 

「長門さん、それはどういう事ですか?」

 

長門の言い分はこうだ。レ級が今の吹雪達を狙うのは分からなくはない。レ級‥‥‥初代雷の嘗ての仲間、初代吹雪、初代漣(レン)の同型である今の漣、吹雪、それと雷を狙うという行為自体は過去にも同様の事例はあった。大和の元に現れた元武蔵・南方棲鬼や夕立の前に立ち塞がった元萩風・駆逐水鬼など、深海棲艦が生前関わりのあった艦娘に固執する事は度々ある。しかしながら、長門にはそれだけでは不満らしい。「それならば、レ級にトドメを刺した元・足柄教官の居たこの横須賀を最初に狙うのが普通ではないか?」と。

 

「それに、だ。奴ら深海棲艦は独自のネットワークで此方の動きを把握している節もある。一度体制が大きく変わっているこの日本に、果して過去の情報だけで攻めてくるのか?それに呉、ウラジオストク両方で空振りだったのだ。次を狙う、というのならレ級としても確たる根拠が必要だろう?」

 

そう。今は呉に吹雪は居ないし、ウラジオストクに漣は居ない。だから両方への襲撃は空振りだった訳で、次の三代目の雷を狙いに来るかは分からない、という事だ。

 

「そうですわね。理由としては少し弱いかも知れませんわね‥‥‥ですが」

 

熊野の表情も徐々に疑問の色に染まっていく。そもそも、一度海から忽然と姿を消した深海棲艦達が再び現れた時に最初に狙ったのは日本の観艦式、しかも各鎮守府の提督達の乗った軍艦だった。その時の大襲撃が元で当時の提督達の殆んどは亡くなってしまった。今では残っているのは山本だけ。軍令部総長である東郷は観艦式には参加していなかった為に無事。あとは現・海軍大臣である元横須賀鎮守府提督の木村くらいか。元・電で山本の妻である美鈴が提督をしているのもそういう事情がある。

 

「そうだ。深海棲艦達は今現在の我々の動きも感知している節があるのだ。それなら、吹雪や漣が鎮守府を異動している事を知っていてもおかしくはない」

 

「それは確かにそうですけれど。長門さん、それならレ級の目的は‥‥‥‥‥‥まさか」

 

熊野は気付いた。レ級の真の目的。そう。前の2件の襲撃はブラフで、次に狙われるのが横須賀か今の雷だと思わせる事。横須賀にも警戒の目を向けさせる事で‥‥‥引退していたレンを引摺りだす事。

 

「つまり、全てはレンさんを復帰させる為、ですか?」

 

「多分、な。レ級の目的は初めから『こんごう』だったのではないか?」

 

だとしたら。完全にレ級にしてやられた事になる。もし今の考えが正しいとすれば、レ級が襲撃してくるのはレンが復帰して間もなく。此方が真の目的に気付く前‥‥‥。

 

「急いで提督に知らせなくては‥‥‥あら?」

 

熊野が椅子から立ち上がろうとしたその時。執務室の電話が鳴った。相手は当然ながら山本達。その内容は‥‥‥。

 

「はい、提督」

 

『熊野か。木村大臣に会ってきた。大鳳の復帰の同意を取り付けてきた。それと、金剛、赤城に美鈴の所へ行くよう言ってくれ。彼女達なら向こうの艦隊と直ぐに連携できる。至急、だ』

 

どうやら山本も気付いたらしい。レ級を迎え撃つ為に金剛達を出すようだ。執務室内の空気が張りつめたものへと変わっていく。

 

「ええ。畏まりましたわ、提督」

 

*********

 

那珂が神社から戻った後に川内を交えミーティング。レ級についての元足柄である妙からの情報と、呉で実際に一戦交えた大和の情報を元に対策を練った。

‥‥‥但し、それはレ級が単独で襲撃してきた場合の話だが。

 

一度解散。各々が部屋へと戻る。レンも大和と比叡と共に、変わらず設置されている魚群の大きな水槽を横目に見ながら、嘗て何度も通った通路を歩く。

 

「レンさん、無理はしないでくださいね」

 

浮かない表情をしていたのだろう。大和に心配されて声を掛けられた。レンはハッとして笑みを作った。仕事柄、作り笑いなら得意だ。

 

「大丈夫です。覚悟ならしてきましたから」

 

前回‥‥‥と言っても遥か昔の話だが。前回とは違う。今度は、逃げない。今度こそ雷に安らかな眠りを。そう決意してきた。帰る場所だってある。待ってくれている人だっている。それに‥‥‥。レンの視線はチラリ、と比叡に向けられる。比叡も気付いて目が合った。合った瞬間、気恥ずかしくなって思わず目を逸らし、側にあった熱帯魚の水槽の方へと視線が逃げた。何も気にしていなさそうに泳ぐ色鮮やかな熱帯魚が羨ましい。

 

「フフッ。私はお邪魔なようですね。美鈴ちゃんと話したい事もありますし、暫く退散していますね」

 

様子を察し、大和はそんな事を言い残してクルリと向きを変えて執務室の方へと歩いていっている。残され二人きりとなったレンと比叡。周りは熱帯魚の水槽群。紅く染まった頬。「あの‥‥‥」と同時に口を開いて止まる二人。

 

「レン」

 

比叡に名を呼ばれ、立ち止まった。向き合って視線が重なる。

 

「あの‥‥‥比叡?」

 

比叡の顔が少しずつ近付いてくる。伸びてきた比叡の両腕がレンの首の後ろに回って‥‥‥思わず瞳を閉じた後。

 

抱き寄せられた‥‥‥のだが。比叡の唇はレンの顔の右側へとすり抜けた。伸ばしていた比叡の手は右手の方がレンの項へ。

「青葉さんッ!」と耳元で怒鳴る比叡の声。直後、ミシッと何かが潰れる音がした。目を開いて音の方へと視線を向けると、見えたのは比叡の右手の中にある機械の残骸。レンの首の後ろに付けられていた盗聴器。

 

「油断も隙もないんですからッ!」

 

脹れっ面を見せて憤る比叡の様子に、レンは思わず吹き出した。相変わらず締まらない。比叡は、変わらない。

 

「本当に。青葉さんってば‥‥‥ひゃっ」

 

そう思った瞬間。グイッと引き寄せられ強く比叡に抱き締められて‥‥‥。

 

*********

 

二人がそんな事をしていた頃。執務室へと入った大和と、浮かない表情の美鈴。ちょうど横須賀の熊野から連絡が入った所だ。金剛と赤城が急遽此方へと向かっている事と、レ級の真の目的。

 

「成る程。そういう事でしたか」

 

納得いった、という表情の大和。美鈴は執務室の椅子に座ったまま瞳を閉じて天を仰いでいる。

またしても。またしてもレンに背負わせてしまった。思えば呉でのレ級は本気ではなかった。呉の第一艦隊が最盛期と比べ弱体化しているとは言え、遊んでいるようにも見えた。大和自身も轟沈寸前まで追い込まれていたにも関わらず生き残ったのは、つまりはレ級にとって呉の艦隊が『どうでも良かった』からだ。呉やウラジオストクは最初からレ級の眼中には無かったのだ。

 

「また‥‥‥レンちゃんに苦しい思いをさせてしまうのです」

 

美鈴の瞳には、涙が滲んでいる。涙脆いのは変わっていないようだ。

 

「今は最善を尽くす事を考えましょう。金剛さんと赤城さんに合流していただければ、此方としてもより確率が‥‥‥」

 

大和がそう言い掛けた時だった。今度は鎮守府‥‥‥ではなく直接艦娘から通信。別の鎮守府(北上や大井、瑞鳳の居る鎮守府)に所属している筈の秋津洲から。

 

『グスッ‥‥‥エグッ‥‥‥大変‥‥‥かも‥‥‥』

 

「秋津洲さん!どうしたのです!?」

 

美鈴が慌てて通信に出るも、秋津洲は泣いてばかりで話が進まない。途切れ途切れの話からやっとの事で理解できたのは、その時が来たのだという事。

 

『レ級を‥‥‥見つけたかも‥‥‥エグッ‥‥‥大挺ちゃんが‥‥‥大挺ちゃんが‥‥‥グスッ‥‥‥やられたかも‥‥‥大挺ちゃんが‥‥‥』

 

秋津洲の二式大挺が捉えたのはレ級、それともう一隻の深海棲艦の姿。見たことの無い人型の、セーラー服姿の深海棲艦だったらしい。それはまるで‥‥‥。

 

『特型‥‥‥ヒック‥‥‥駆逐艦かも‥‥‥‥‥‥ビェ゛ェェエ゛ンッ』

 

二式大挺は墜とされたものの、遂に大泣きし始めた秋津洲自身はどうやら無事らしい。彼女の哨戒範囲から言って、レ級が鎮守府に着くのはもう時間の問題。金剛と赤城は間に合わない。

 

「不味いのです‥‥‥第一艦隊、すぐに出撃準備なのです!夕張ちゃんにも連絡なのです!」

 

美鈴の指示で第一艦隊の青葉、那珂、伊58、天津風はドックへ。春雨は既に鎮守府正面に出ていて、哨戒ヘリを飛ばしている。

 

ドックに大和が合流。少しだけ遅れてレンと比叡が合流して扉が開いた瞬間、二人が繋いでいた手を放したように見えたのは気のせいではないだろう。

 

「遅れましたッ」と息を切らせている比叡に「何やってるのよ!御召艦でしょ!」と天津風が怒鳴る。ただ、その天津風の両脚は震えている。そうして声を出しでもしなければやっていられないのだろう。相手は天津風にとって初めて経験するであろう化け物だ、無理もない。

 

「落ち着いて、天津風ちゃん。大丈夫、誰も沈ませないから」

 

そんな明らかに震えている天津風を、レンがそっと抱き締める。「こっ、怖くなんてないんだから!」と強がって見せている天津風も、それで少しだけ落ち着いたようだ。今までなら嫉妬の眼差しを向けていたであろう比叡は何故か今は大人しくしている。

 

『相手はレ級ともう一隻、特型駆逐艦の深海棲艦なのです!全員‥‥‥生きて戻って来てください』

 

祈るように指示を出した美鈴の通信。特型駆逐艦がレ級に同行しているらしい。レンの脳裏にある事が思い浮かぶ。まさか、と。

 

美鈴の通信の後。先行して出た春雨からの通信が響く。どうやら彼女のレーダーに捉えたようだ。

 

『敵艦捕捉しました!相手は一隻です‥‥‥多分戦艦レ級です!』

 

(‥‥‥えっ?今度は一隻?)と疑問の表情を浮かべたレンの右隣。最後に到着した川内がニヤリ、と不敵な笑みを見せ呟いた。

 

「さーて。最っ高に素敵なパーティ、始めようか」

 

 

 




次回やっとレ級‥‥‥と何雪戦。もう一隻の特型駆逐艦は何処に行ったのかなー(すっとぼけ)

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