徐々にその姿が見えてきた。先に牙を剥いている異形の頭の付いた真っ白な尾、黒いフードの奥で不気味に光る真っ赤な瞳。とても生者のものとは思えない真っ白な肌に、真っ白な髪。レンがまだ初代漣だった頃に対峙した恐怖の対象、戦艦レ級だ。ニヘラと笑うその顔は忘れもしない、嘗ての初代雷の顔。
「足柄教官の言った通りだね、前に沈めたヤツとは格が違う」
唇をペロリ、と一舐めして川内が呟いた。戦艦水鬼『金剛』の艦隊と戦った時にもレ級は居たが、威圧感からしてまるで違う。此処が鎮守府正面海域である事を忘れる程にピリピリと張りつめた空気。
「今度こそ、誰も沈ませないよ‥‥‥行くよ!」
相手は一隻。横須賀鎮守府の連合艦隊が壊滅した何時かの戦闘を思いだしながら海面を走り始めた川内の合図で、各艦が予定通りレ級を囲むように展開。そこから離れVLSを何時でも撃てる状態で待機する春雨とレン。
レ級は多数の艦爆を空へと展開、更に周りを囲む艦娘達に向けて雷撃。それと同時に一人向かってくる川内に16inch三連装砲を向ける。
『アハハハハッ』
まだ遊んでいるらしいレ級はゆっくりと川内に向かって前進、一発砲撃。砲弾は真っ直ぐに川内の心臓目掛け向かってくるが、そこは川内。レ級の砲口の向きから予想していたらしく右に身体を捻って避けた。同時に川内は腰の後ろにある魚雷を一本抜いて自身の左舷へと投げ、そのまま投げた左手で砲撃。魚雷が爆発し、その爆風に乗って右舷方向へと大きく旋回。
『撃てっ!』
叫んだ川内の通信に合わせ、レ級の雷撃を避けた面々が砲撃。その集束点に居るレ級に直撃して炎と煙が辺りを包む。
その様子を見て「やったわ!」と思わず声をあげたのは天津風。思いの外アッサリ攻撃が通った為だが‥‥‥これで終わるなら誰も苦労はしない。
『油断しないっ!天津風、構えて!』
一瞬の気の緩みは命取りになりかねない。川内からの通信で我に返った天津風が辺りを見渡す。レ級の姿が見えない。上空のレ級の艦爆は春雨とレンが墜とし続けてはいるものの、絶えず補充しているらしくその数は減っていかない。という事はレ級は間違いなく健在の筈。
直後、天津風の右舷方向から轟音が聞こえた。慌てて視線を右に向けると突き飛ばされて後方へと転がっていく那珂の姿が目に入った。それから、那珂を突き飛ばした本人である青葉が被弾してその場でしゃがみ込んでいる様子も見える。状態は中破‥‥‥だろうか?
(レ級は何時の間にアッチに?なんてスピード‥‥‥)
天津風がそう思った瞬間。息が出来なくなった。突然過ぎて思考が付いていかない天津風は、苦しさのあまりにその首を締め上げている何かを両手で掴み、必死に振り解こうと藻掻く。
(くる‥‥‥しい‥‥‥息が‥‥‥)
天津風の両足は水面から離れ、首を締め上げている何かに持ち上げられ宙吊りの状態。瞳を開いて前方に視線を向け、天津風は漸く理解した。
(うそ‥‥‥ヤバい‥‥‥)
首を締めていたのは尾の先の異形の口。何時の間に目の前に居たのか、真っ白なレ級の尾が天津風を宙に持ち上げていた。『アハハハ』とあざ笑う、間近に見るレ級の姿に恐怖し足をジタバタさせながら両手で異形の頭を離そうとするが、どうにも出来ない。
(くるし‥‥‥たす‥‥‥けて)
徐々に意識が遠退いていく。両手足は力を失っていきダラリと垂れ下がり‥‥‥。
瞬間、衝撃。呼吸を取り戻して「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」と咳き込む天津風は、走りレ級から距離を取る川内に抱えられていた。その背中は雷撃されたかのように焼けている。普通に走っても間に合わないと踏んで川内は魚雷を自身の背中で爆発、その爆風に乗ってレ級に突っこみ、尾に魚雷を食らわせたらしい。誘爆しないよう腰にあった魚雷は左に抱えているようだ。
「間一髪だね。天津風、大丈夫?」
コクリ、と頷く天津風から視線を外して辺りを窺う川内。何かがおかしい。レ級が高速艦とはいえ幾らなんでも速すぎる。瞬間移動したとしか思えない距離を一瞬のうちに移動している。
「気を付けて、天津風。おかしいよ‥‥‥あの距離を一瞬で‥‥‥しかもさっきからレンちゃん達に通信が繋がらない」
*********
「レンさん、おかしいですよ」
その攻防の外側。春雨が険しい表情を見せた。レンにも理解出来る。レンも春雨も先程から呼び掛けているのだが誰一人として通信に答えない。
「なんでだろう、春雨ちゃん。‥‥‥‥‥‥あれ、これ、何処かで」
何処かで見たような、経験したような。そう、確か数年前。こうして鎮守府正面海域で。その時はグラーフと赤城が艦載機と通信出来なくなって‥‥‥。
ハッとして遠くのレ級を思わず目で追った。まさか、という思いが過る。
不味いと思い展開している僚艦の方へと走り出したレンに、航跡が二本微かに向かってくるのが見えた。暫くして伊58が急浮上、レンの元へと近付いてくる。
『魚雷が‥‥‥魚雷が追いかけて来る!助けてくだち!』
やっと通信の繋がった僚艦、伊58は左肩を押さえ苦しそうにしている。速度も出ていない。敵の魚雷を受けたらしく、状態は芳しくない。
レンは確信を持った。戦艦水鬼『金剛』、その艤装。それが敵に使われている。レ級にその様子は見えないとなれば、残る可能性は‥‥‥。
『ゴーヤさん、落ち着いて!大丈夫だから!』
伊58に通信を入れてその場に停止させた。レンは自身の三連短魚雷を発射。正体不明だった魚雷と見事相殺。「ふぅ」と胸を撫で下ろした直後、背中の方から凍えるような冷たい声が響いてきた。
『マッテタヨ、レンチャン』
嘗てこの海域の水底に沈んだ筈の戦艦水鬼『金剛』の艤装を背に、ニコリと笑う特型駆逐艦のセーラー姿。レ級と同じく真っ白な肌、後ろで縛ってある肩くらいの長さの髪は黒く、その瞳が紅く怪しく光る。
‥‥‥間違いない。
「‥‥‥ユキ。ユキ、なんだね」
『ウン、レンチャン!レンチャンモ一緒ニ行コウヨ!』
本名ユキ、嘗てレンと共に戦った親友、初代吹雪。
「そっか。初めから私が目当てだったんだね‥‥‥」
全て理解した。ユキもナツもずっと機会を窺い、レンを沈める為だけに現れたのだ。ユキの右手‥‥‥生前レ級に吹き飛ばされた右手の代わりに生えている触手の先の主砲がゆっくりとレンに向けられる。
『ダカラ‥‥‥沈ンデ!』
砲は放たれて、辺りに轟音が響いた。
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「放せっ!放しなさいって言ってんのよ、このクソ提督っ!!」
横須賀鎮守府、執務室。扉の前で今にも出ていこうと藻掻く曙の右手首を掴み離さないのは山本。
「放せって言ってんでしょ!放せ!変態!変態!セクハラ!」
怒鳴り振りほどこうとしている曙から、山本が手を放す様子は無い。「落ち着け」と宥めるように話す山本を、曙はキッと睨みつけた。
「落ち着ける訳ないじゃない!狙われてるのはレンなんでしょ!?行かなきゃ‥‥‥私が行かなきゃ!」
「冷静になれ。今からでは間に会わない。金剛達を信じろ。レン達の事も」
睨む曙の瞳に涙が滲んでいる。尚も右手を振り回しながら暴れる曙の左手が、山本の頬をパシンッと叩いた。
「ふざけないで!鈴谷さんはそう言って帰って来なかったじゃない!まだ間に合う!行ってレンを助ける!」
鈴谷。曙が艦娘として横須賀に着任して一年程の時。深海棲艦との激闘で鈴谷は大破。他の僚艦も危険な状態だった時だ。『鈴谷が囮になるからさ。みんなは先に行って』と一人残った鈴谷を曙は泣く泣く見送った。『大丈夫、絶対戻ってくるからさ』と最後に不敵に笑った鈴谷の横顔は、今でも忘れない。結局轟沈し帰らぬ人となった鈴谷は、再び曙の前に現れた。‥‥‥深海棲艦、重巡ネ級として。
それからもうひとつ、軍艦としての記憶。何も出来ずに目の前で漣を失った記憶。その二つが曙の脳内で幾度となくフラッシュバックしている。
我慢の限界、遂に泣き出した曙の手を、山本は漸く離した。山本は椅子へと座り瞳を一度静かに閉じて、ゆっくり開いて曙を見つめる。
「‥‥‥分かった。金剛と赤城に直ぐに合流しろ。但し、相手が相手だ。無理だけはするなよ」
「ぐすっ‥‥‥分かって‥‥‥るわよ‥‥‥」
涙を拭いて、曙は走り出ていった。残った山本は、移動中の金剛へと通信を繋ぐ。
「金剛か。曙が合流する事になった。三人揃い次第、急いで目的の海域へ向かってくれ」
『What!?ボノもデスカ?ボノの実力は認めるケドサー、今回は賛同出来ないデース』
通信の向こう、金剛の言い分は尤もだった。今回の相手はレ級という化け物。駆逐艦の薄い装甲、戦闘は昼間。幾ら曙が歴戦を戦って来ていても役に立てるかは分からない。
「無理を言っているのは分かってるさ。ただね、僕は後悔はさせたくないんだよ」
『‥‥‥ハァ』と大きく溜め息をついたらしい金剛。『仕方無いネ』と呆れたように呟いた。
『分かりマシタ。ボノはワタシが全力で守りマース!ワタシの実力、見せてあげるネー!その代わり‥‥‥帰ったら指輪を貰いマスカラネ!』
思ったより話が延びました。次回決着。何雪さんは吹雪さんだったのか(棒)
金剛「Hey、比叡。何してるデース?」
比叡「あ、お姉さま。Android版艦これですよ。この前のアップデートの後ショートランド泊地に滑り込みで着任出来たんです!」(←※実話)
金剛「そうデスカ。初期艦は‥‥‥あっ‥‥‥聞くまでも無かったネー」
比叡「はい?」←初期艦:漣
比叡「ヒェェ!?正面海域突破できませんよぅ‥‥‥レンさんが大破して‥‥‥大破‥‥‥ゴクリ(゚A゚;)」
金剛「『レン』じゃなくて『漣』デース。改になったらレンソックリになるケドネ‥‥‥って、比叡!?ladyがそんな顔したらNOなんだからネ!?」