その手を   作:アイリスさん

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3月は忙しくなりそうなので、書けるだけ書きます。
‥‥‥ブレブレだなぁ

3話からは山本に少しずつ疑惑が‥‥‥

では、本編をどうぞ


sentence3 姉と妹

食堂で並んで朝御飯を食べているのは、こんごう、雷、春雨の3人。

 

「ん?手が‥‥‥」

 

危うく春雨に『手紙』と言いそうになって、慌てて「Letter、デスか?」と言い直すこんごう。

 

「はい!夕立姉さんからです。えっと‥‥‥『もうすぐ演習でソッチに行くっぽい!山本さんによろしくっぽい!』って書いてあります」

 

駆逐艦、春雨。広島にある呉鎮守府所属の実姉、夕立に憧れて海軍に入った少女。この小さな鎮守府に配属されて間もない、実戦は未経験のルーキーである。今は雷、電と同じ部屋を割り当てられている。春雨は既に朝食は完食。その夕立から送られてきた手紙を嬉しそうに、大切に読んでいる最中。

 

「へー、夕立さんってあれでしょ?規格外の強さの駆逐艦っていう」

 

雷のいう通り。夕立は呉鎮守府の駆逐艦のエース。通称『ソロモンの悪夢』等と呼ばれている、化け物駆逐艦である。その戦闘スタイルは艦娘の常識を大きく逸脱していて、一見すれば特攻にも見えるような戦い振りで有名だ。かくいう雷としても、目標としている駆逐艦の一人だ。

 

「‥‥‥シ、Sisterデスかー?ウラヤマしいデスネ~」

 

噛み噛みの『金剛語』。冷や汗を流しながらの発言ではある。どうにか聞けない事もないが、雷が呆れを含んだ何とも言えない視線を向けてきている。

 

「雷、どうしまシタ~?私の顔に何か付いてマスか~?」

 

「金剛さんは妹の比叡さんと同室でしょ。何言ってんのよ‥‥‥それで春雨、夕立さんはいつ来るって?」

 

手紙の日付を見てみると、演習の日時は『4月12日のヒトヨンマルマル予定』と書いてある。‥‥‥幾ら姉妹の間のやり取りとは言え、こうホイホイと軍の予定を教えてしまってよいものなのだろうか。夕立は色々な意味で外れているようだ。

 

「4月12日‥‥‥ですカ?きょ‥‥‥Todayデス!」

 

どうも1テンポ遅れる。頭の中で言葉を組み立て、それを『金剛語』に変換し、発言する。これは慣れるまで辛そうだ。

‥‥‥そう。4月12日は今日なのだ。春雨が言うには、『多分手紙が当日着くように狙って送った』そうだ。夕立という人物は、そういうサプライズが好きらしい。

 

「大変!部屋の片付けしなきゃ!雷ちゃん、早く食べてください!」

 

「なっ‥‥‥何で私まで!?」

 

春雨に急かされ仕方無くご飯と味噌汁を掻き込む雷。その姿にはレディの欠片もない。

 

「消化に良くないネ~!」

 

こんごうが止める隙もなく、雷は完食。「また後で、金剛さん!」と頭を下げた春雨と共に急ぎ部屋へと走っていく。‥‥‥部屋がそれほどまでに汚いのだろうか?

 

暫くポカン、と呆けていたこんごうだが、我に返って残りを完食。(ごちそうさまでした)と心の中で手を合わせ、ゆっくりと席を立つ。

 

途中、すっかり回復した赤城とすれ違いざまに互いに会釈。赤城の手に持ったお盆の上の、身長の3分の1はあろうかという高さの山盛りカツカレーを目撃してゲンナリしながら、こんごうは自室へと向かう。

 

静かに扉を開けると、丁度朝の哨戒から帰ってきていた比叡が紅茶を淹れている所だった。今は金剛の形見となってしまったティーセットで。

 

「おかえりなさい、こんごうさん」

 

「そちらも。お疲れ様です、比叡さん」

 

‥‥‥前日の夜中のこと。こんごうが『金剛』ではない事を理解した山本提督は、こんごうを自身の鎮守府に戦力として置く事にした。手続きは簡単。『戦艦金剛、轟沈』という報告を、『轟沈改め大破帰還』に変更しただけ。これで、面倒な手続きは全て省けた。もしも、いざ新しい艦娘として正式に手続きしようものなら、身体や性能の検査、その他諸々でいつ配属になるか分かったものではない。それに、あの映像を見る限りだと、おそらくこんごうは横須賀や呉などの日本防衛の要となる鎮守府に回されるのは間違いない。

山本としても、自身の艦隊の主戦力である金剛を失っているし、こんごうには出来れば居て欲しかったのだろう。

 

しかしながら、問題もある。金剛とこんごうは姿こそ瓜二つ(実妹の比叡が判別出来ない程)だが、話し方、艤装が全く違う。話し方だけは先の春雨達との会話のように誤魔化せるが、艤装はどうしたものか。暫くは『身体の不調により実戦は控える』という事にしてあるが、その後は未定だった。

 

こんごうの素性を知っているのは、山本、妖精さん、秘書艦の電、それから比叡。他の面子には『金剛が帰還した』と報告してある。『敵を欺くには先ず味方から』と山本は言っていたが、『敵を』という部分には少し引っ掛かる。

 

そんな訳で、こんごうには今迄金剛が使っていた部屋、比叡と同室が割り当てられた。真実を‥‥‥金剛が轟沈したという事実を突き付けられた比叡の哀しみは計り知れないが、それでも今はこうして気丈に振る舞っているように見える。

 

「ごめんなさい」

 

紅茶を渡されたこんごうは、視線を下に逸らせながら謝る。比叡をぬか喜びさせた揚げ句、こんな役を‥‥‥こんごうに『金剛』を教える役をさせてしまっているのだから。

 

「どうしてこんごうさんが謝るんですか?」

 

不思議そうに覗き込んできて、笑みを見せる比叡。ただ、その笑みには何処か暗い影が見え隠れしている。

 

「こんごうさんは司令の指示で仕方無くやってるだけですし。それに、この比叡も何時までもクヨクヨしていられませんから」

 

「でも‥‥‥」

 

尚も変わらないこんごうを見かねてか、比叡が右手を前に出してグッと拳を突き上げて見せる。

 

「比叡は大丈夫ですよ!お姉さまの分まで気合いッ!入れてッ!行きますッ!」

 

その体勢のままウィンクしてみせる比叡に、漸くこんごうも微かに微笑む。やっと座って紅茶を一口含んで‥‥‥その顔がびっくりするくらい真っ青になった。

 

「比叡‥‥‥さん‥‥‥この‥‥‥紅‥‥‥茶」

 

そこまで言葉にして、こんごうは前方に突っ伏すように倒れ込んだ。動く気配の無いこんごうをベッドに寝かせ、比叡はチロッ、と自身の淹れた紅茶を舐めてみる。

 

「‥‥‥ウェッ!?化学兵器!?」

 

思わず吐きそうになって座り込む。やっと落ちついてきて立ち上がった比叡は、ベッドで気を失っている金剛ソックリのこんごうに視線を移し、込み上げてくる涙を誤魔化すように天井を見上げた。

 

(お姉さま‥‥‥比叡は‥‥‥比叡は‥‥‥もう一度会いたいです)

 

******

 

ヒトマルサンマル。やっと片付けを終えてベッドでうつ伏せに伸びていた春雨の頬に、冷えた缶ジュースが当てられた。その急な冷たい刺激に「ひゃっ」と声をあげて飛び起きる。

 

「冷た‥‥‥夕立姉さん!」

 

「久し振り、春雨。差し入れっぽい!」

 

オレンジの缶ジュースを春雨に差し出し、笑顔を向けている夕立の姿。どうやら呉鎮守府一行は既に到着しているようだ。

 

「元気にしてたっぽい?山本さんは?」

 

「司令官なら、電ちゃんと執務室だと思います」

 

所在を確認した、春雨と会えて上機嫌の夕立は、春雨の手を引き部屋の外で待っている呉鎮守府の提督、東郷の方へとパタパタと走っていく。

 

「平八さん、山本さんは執務室っぽい!」

 

豪快な笑顔で「おう、そうかそうか」と夕立に答えた人物、東郷平八。呉鎮守府の提督にして大佐である。因みにだが、夕立はこれでも東郷の秘書艦。

 

「えっ!?東郷提督!?はっ、はっ、初めまして!じゃなくって、えっとえっと‥‥‥お疲れ様です!」

 

慌てまくった揚げ句、不器用に敬礼をする春雨。「そんなに緊張しなくても平気っぽい!」と夕立はあっけらかんとしているが、普通はそうはいかない。春雨のような新米ならなおの事。「ガハハハ」と豪快に笑った東郷は、春雨と手を繋いだままの夕立と共に執務室へと歩く。

 

執務室では山本と電が直立して待っていた。

 

「そう畏まるな、山本。そんな仲ではないだろう?」

 

「そういう訳にはいきませんよ、東郷大佐。部下達の目もありますし」

 

何故か春雨もその場に混ぜられ、座って今日の演習について話す5人。それから話題は先の深海棲艦の大艦隊の事件や、金剛の帰還についてに変わり‥‥‥。

 

「そうそう、お前ん所の金剛、無事に帰還したんだってな。ウチの榛名と霧島が泣いて喜んでるぞ。『早く会わせろ』ってさっきから五月蝿くて叶わん」

 

東郷の言葉の直後。山本の表情が引き攣り、その額から冷や汗。榛名と霧島が今日の演習に来ているようだ。道中で金剛の帰還を聞いたらしい。比叡は冷静さを失っていたのでこんごうとの微細な差に気が付かなかっただろうが、榛名と霧島はどうやって誤魔化したものか。

この場には夕立や春雨もいる。少しだけ暗い表情になっている電への注意を逸らせる為、話題を変える山本。

 

「そうですか‥‥‥ところで其方の翔鶴の事、聞きました。この度は何と言ってよいか‥‥‥」

 

「ああ、翔鶴か。アイツには返せない借りが出来ちまったな‥‥‥横須賀では駆逐の萩風がやられたらしい」

 

翔鶴は呉鎮守府の航空母艦だった。少し前‥‥‥丁度2週間前に轟沈している。駆逐艦の萩風は先日の大規模作戦で‥‥‥。萩風は嘗て呉に所属しており、夕立が可愛がっていた。夕立が悔しそうに唇を噛んだのが見えた。

 

暗い話題になってしまった。「その話は、また夜にでも」という山本の発言で、話題は再度演習の話へと戻った。

 

******

 

ヒトヨンマルマル。山本達は演習場。今は誰も居ない筈の執務室には、人影が二つ。

 

「やっ、止めましょうよ、雷ちゃん」

 

「駄目よ。電は司令官に騙されてるのよ!」

 

雷と春雨が忍び込んだ理由は‥‥‥。雷の手には、R-18なお姉さん方の写った写真集が数冊。『山本提督はこんなエッチな本を持ってました!電を幻滅させよう作戦』である。

 

暁型駆逐艦としては雷は三番艦であり、電は四番艦ではあるが、人間としては電は容姿は別として18歳。雷は11歳。雷にとって、電は大好きな従姉妹のお姉さんだった。

 

そんな大好きなお姉さんの電が、山本という男に惚れている。この事実は、雷にとって由々しき事態だったのだ。何とかして幻滅させようとあれこれ悩んだ結果が、これ。

 

「大丈夫。演習だからみんな戻ってこないし。何処に隠そう‥‥‥」

 

山本のデスクに回り、引き出しを開ける。「ここがいいかな?」と覗き込んだ雷は、二重底がある事に気が付いた。

 

「あれ?何これ‥‥‥」

 

春雨と共にそれを引っ張ってみると、中にはレポート。姫級や鬼級の深海棲艦の写真が貼られている。下には、名前付き。

 

「深海棲艦‥‥‥何で隠して‥‥‥こいつ、この前の‥‥‥」

 

雷が見ていたのは、空母水鬼。長月達を何とか逃がした時の、深海棲艦の大艦隊を率いていた悪魔だ。

 

「雷ちゃん、これ捲れます」

 

春雨が、深海棲艦の写真が捲りあげられる事に気付く。空母水鬼の写真を捲ってみると、後ろには艦娘の写真と2週間前の日付の隣に『航空母艦翔鶴、轟沈』と書かれていた。それを見て、二人は絶句した。

 

「ねえ春雨、この写真の翔鶴って人‥‥‥この空母水鬼とソックリなんだけど‥‥‥」

 

「‥‥‥雷ちゃん」

 

レポートにあったのは写真が6枚。

 

『水母棲姫』、その裏には、『水上機母艦瑞穂』。

『防空棲姫』、その裏には、『駆逐艦秋月』。

『重巡ネ級』、 その裏には、『重巡洋艦鈴谷』。

『空母水鬼』、その裏の、『航空母艦翔鶴』。

そして、『こんごう』を襲った『駆逐水鬼』‥‥‥その裏には、『駆逐艦萩風』。

 

いずれの艦娘の写真にも、『●月●日、轟沈』とある。そして恐ろしい事に、いずれの深海棲艦も、『轟沈』と書かれ貼られていた艦娘と瓜二つだったのだ。

 

そして、二人が固まった写真‥‥‥。深海棲艦の写真は上から貼られてはいなかったが‥‥‥『戦艦金剛、4月11日轟沈』という写真だった。

 

「雷ちゃん、これ‥‥‥どういう事なんでしょう?」

 

「分かんない‥‥‥分かんないわよ」




人物紹介

東郷:大佐。呉鎮守府の提督。変り者だが腕は確か。某バルチック艦隊を破った帝国海軍の英雄の末裔。

夕立:駆逐艦‥‥‥の形をした何か。化け物。東郷の秘書艦。レベル138‥‥‥おい東郷www

春雨:駆逐艦。山本の鎮守府のルーキー。夕立の大事な大事な実妹。レベル3‥‥‥コラそこ、わるさめフラグとか言っちゃ駄目

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