事態は動き出します。
それでは駆逐艦夕立『抜錨するっぽい!』本編をどうぞ。え?タイトルが違う?‥‥‥読んだら分かります。
「‥‥‥山本、お前の所で他に艦載機を飛ばせる奴は?」
「生憎ですが、ウチの鎮守府の規模じゃ赤城一人抱えるので精一杯ですよ」
戦況は芳しくない。制空権を取られつつある。深海棲艦、ヲ級が六体。対して此方は赤城と葛城の二人。正直言って二人の零戦はよく此処まで粘っていると言っていい。もしもこのまま押し切られでもすれば、此方の艦隊は深海棲艦側の艦載機をも同時に相手にしなくてはならなくなる。空と海の両面から攻撃されるのだけは何としても避けたい。
「チッ‥‥‥呉からあと何人か連れて来るんだったな」
東郷は舌打ちし、苦虫を噛み潰して戦況を見守る。山本と東郷の連合艦隊は、今は演習メンバーに雷を加えて11人。他の所属艦娘ではまだ練度が低すぎるため、ヲ級や駆逐水鬼が相手では危険だ。かといって近隣の鎮守府からの救援が間に合うかは微妙。この面子で何とかするしかないのだが‥‥‥。
ヲ級6体を相手にしているのが、榛名、霧島、青葉、神通の4人。軽巡ホ級6体と駆逐ニ級11体を雷、那珂、比叡で対処している。駆逐水鬼と対峙しているのは、夕立と電。もしも敵艦載機に此方の零戦を突破されると、戦況は大きく傾く。
「金剛を出せ、山本。やられてからでは遅い」
「ですが‥‥‥」
分かってはいる。現状を突破するには、もう一押し出来る戦力が要る。この場に高火力の金剛がいれば、零戦が落とされる前に押し切れる。しかし、金剛は‥‥‥。
「大抵の事には目を瞑ってやる。早くしろ」
金剛が『こんごう』であること、それとこんごうが記憶喪失であること。この二つがネックとなり、山本の決断を遅らせていた。確かに記憶喪失前のこんごうならば、戦況を引っくり返せるだけの活躍を見せてくれるだろう。だが、今のこんごうは言ってしまえばルーキーと変わらない。それに、こんごうを出撃させるという事は、榛名や霧島にも現実を話さねばならないという事だ。何時までも黙っている訳にはいかないだろうが、出来るならもう少し時間を置きたい。
そうこうしている間にも、零戦はその数を減らしていく。
******
帽子のような何かの口を開いたヲ級が更に艦載機を吐き出す。只でさえその艦載機のせいで思うように近付けない榛名達の表情に、焦りが見え始めた。
「これ以上は‥‥‥。私が、囮になって艦載機を引き付けます。霧島と青葉さんは、その間に一体でも多くヲ級を」
このままではジリ貧だ。ヲ級とやり合う所ではない。艦載機を相手にするだけで手一杯。何時まで持つか分からない。既に青葉と霧島は小破している。空からの爆撃を抑えない事には突破口は見えてこない。
榛名一人に敵爆撃機が集中してくれれば、青葉と霧島、神通の3人ならヲ級を叩ける。
「榛名、正気!?あの数を一人でなんて、幾らなんでも‥‥‥」
霧島が瞳を見開き榛名を睨む。
既に零戦の相手にできる数は越えている。ヲ級6体全部が吐き出した艦載機の数は尋常ではない。四人で爆撃の隙間を縫うように避けながら対空砲撃を続けてどうにか今の状態。もしもそれが榛名一人に集中しようものなら、中破か大破は恐らく免れない。最悪の場合も‥‥‥。
「ですが‥‥‥このままでは‥‥‥」
榛名が真っ黒に染まった空を見上げた瞬間の事。敵爆撃機の一角に何かが多数飛んでいき、爆発。
「今のは‥‥‥葛城さんの‥‥‥ではないですよね?」
榛名の視界に映るのは、十数発の何かが、幾度も空へと上がる光景。その何か‥‥‥対空ミサイルが、ヲ級の爆撃機に吸い込まれるように飛んでいき、爆発する。それは、まるで生き物であるかのようにヲ級の爆撃機だけを追いかけ、確実に撃墜している。しかも、葛城や赤城の放っている零戦には被害はゼロ。
「寮艦の支援砲撃?でも、どうやってあんな‥‥‥?」
榛名には理解出来ない。敵と味方を見分け、方向を変え、敵を追尾して確実に撃墜する砲撃など初めて見る。しかも、同時に複数を、だ。
瞬く間に爆撃機が無くなっていく。すっかり自由を取り戻した零式62型が、ヲ級への爆撃体勢に入る。
同時に、榛名達にも視認できる位まで、砲撃の主が近付いてくる。その姿に「金剛お姉様‥‥‥!!」と感嘆の声をあげると同時に、榛名も霧島も疑問の表情へと変わる。
「金剛お姉様の、あの艤装‥‥‥?」
その背中に背負うのは、金剛型戦艦の一番艦ではなく別の軍艦。主砲である長い砲塔の無い護衛艦だ。手に持つ機関砲は兎も角、その両太股にはホルスターに三連短魚雷。明らかに金剛型の装備ではない。金剛ではなく『こんごう』なのだから当たり前なのだが、榛名達には意味が分からない。
自身に接近してきたヲ級の一体に向け、魚雷を放つこんごう。回避しようと左へと旋回したヲ級の方へ、その魚雷も向きを変え追尾しているのが見える。呆気に取られ砲を持つ手を止めていた榛名、霧島、青葉、神通の四人だったが、「訳は後です!今のうちに、この空母達を叩いてください!」というこんごうの叫びに我に返り動き始める。
「分かりました、金剛お姉様!このままヲ級を叩き‥‥‥ま‥‥‥す‥‥‥?」
榛名は頷きヲ級を砲撃しながら首を傾げる。違和感、どころの話ではない。金剛が、『あの金剛』が標準語を話しているのだ。
「えっ?えっ?」
一体、二体と落ち着いて撃沈。榛名が視線を移すと、爆撃機が消えた事であっさり駆逐と軽巡を片付けた比叡達が、こんごうの元へと合流するのが見えた。
「こんごうさん‥‥‥」
こんごうのすぐ目の前で止まった比叡の頬には、泣き腫らしたであろう跡が見える。
「比叡さん、ごめんなさい。私、皆さんの力になりたくて。これ以上、比叡さんに辛い思いをして欲しくなくって」
本来なら、演習の間はずっと病人の振りをしてやり過ごす予定だった。けれど居てもたってもいられなくなって抜錨してしまい、更には苦戦する比叡達を見て我慢できずに支援攻撃に出た。自身のせいで今後の話が拗れるかも知れないが、何もしないせいで犠牲が出る事の方が余程耐えられない。
「ううん、こんごうさん。貴女のお陰で‥‥‥」
フルフルと顔を左右に振り、比叡がこんごうの謝罪を否定する。こんごうの支援のお陰で状況を打開出来たのは確か。現に、今まさに霧島が最後のヲ級を轟沈させた所だ。
再び涙が溢れてきてしまい、「ありがとう」と口に出来ずに肩を震わす比叡。こんごうは柔らかな笑みを送りながら、演習前のそれのように抱き寄せる。その温かい胸の中で、比叡は声をあげて泣いていた。
******
電の放った魚雷を避けた駆逐水鬼が、被っていたヘルメットをそれに投げつけた。更に駄目押しとばかりに魚雷に砲撃。目論み通り魚雷が爆発する。
その行動の意味を理解出来ない電が「えっ?」と声を洩らし止まる。駆逐水鬼が不気味に笑ったのと魚雷が爆発したのが同時。その行動の意図を一瞬で理解した夕立から、電へと慌てて通信が飛ばされてきた。
『避けてっ!!』
その通信とほぼ同時。顔をあげた電の視界に映ったのは、空中で両手に四本の魚雷を握った駆逐水鬼の姿。魚雷の爆発を推進力に変え、もう電の目の前に居た。
「う‥‥‥え?」
直後、爆発。轟音と火柱が上がり、艤装を木端微塵に吹き飛ばされ血塗れになった電が、その場で倒れピクリとも動かずにゆっくりと浸水していく。
「電ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!!」
その電の姿に怒号をあげた夕立が、最大船速で走る。それでもスピードが足りない。夕立はあろうことか自身の艤装に魚雷を叩きつけ爆破。その爆発の勢いを推進力代わりに、半ば吹き飛ばされるような格好で電の元へと辿り着く。
間一髪、沈む寸前の電の左手を何とか掴み、引き上げ抱く。自身も大破状態になっているにも関わらず、赤く光る鋭い瞳で駆逐水鬼を鬼の形相で睨みつけ、怒りに任せ吠える。
「絶対許さないっぽい‥‥‥許さない‥‥‥萩風ぇぇぇッ!!!」
意識の無い電を抱いたまま立ち上がった夕立。その瞳は濡れていた‥‥‥電を守れず、こんな状態にしてしまった事への申し訳なさと自身に対する不甲斐なさ、それから目の前の恐らく萩風であろう駆逐水鬼を自らの手で殺めなくてはならない事への苦しさで。
夕立は駆逐艦ですら有り得ないスピードで駆逐水鬼との距離を一気に詰め、その口に連装砲を捩じ込む。
三発、四発、五発と砲撃。喉を貫通し、駆逐水鬼の後頭部の一部が飛び散り、真っ黒なオイルが血のように噴き出す。
それでも駆逐水鬼は倒れない。夕立はその空いた後頭部の穴に魚雷を力任せに突き立て砲撃。魚雷が轟音と業火をあげて爆発。駆逐水鬼は上半身もろとも頭が吹き飛び沈んでいく。
駆逐水鬼が沈み切った頃に漸く我に返った夕立。腕の中の電に未だ意識が無い事に気付いて、慌てて呼び掛ける。
「‥‥‥っ!電ちゃん!?電ちゃん、確りするっぽい!電ちゃん!!」
******
艦隊は電以外の11名が提督二人の元へ無事帰投。電は微かに息はあるが、夕立に抱かれたまま動く気配を見せない。
「山本さん‥‥‥ごめんなさい。電ちゃんを守りきれなかった‥‥‥」
悔しそうに、辛そうに、夕立が電を山本へと抱き渡す。宝物を扱うように電を抱き受け、瞳を閉じて大きく深呼吸した山本は、表情は固いまま「いや、ありがとう」と呟くように口にし、立ち上がる。
「‥‥‥電を休ませてくる。旗艦の赤城、葛城両名は改めて報告を」
「司令官っ!」
叫んだのは青葉。雷も、霧島も山本を睨んでいる。
金剛の異変と、夕立が『萩風』と呼んだ駆逐水鬼。未だにどちらも話そうとしない山本に業を煮やし、青葉はその目の前に回り込み詰め寄る。上官とはいえ山本に怒りの籠った視線をぶつけ、怒鳴る。
「一体どういう事なんですかっ!!司令官、答えてください!電さんをこんな目に遭わせておいて、何も知らないなんて言わせませんからね!電さんは‥‥‥電さんは‥‥‥貴方の事‥‥‥!」
そこまで口にした青葉を遮るように、か細い、弱々しい声が微かに聞こえてくる。発していたのは山本の抱く、電。どうやら目を覚ましたようだ。
「だめ‥‥‥なのです‥‥‥それ‥‥‥以上‥‥‥は‥‥‥言わ‥‥‥ない‥‥‥約‥‥‥束‥‥‥」
そこまで言って、電は再び気を失う。もう殆んど告白しているのと変わらないが、山本はそれには答えず。
「‥‥‥詳しい事は、執務室で話す」と静かに語った山本は、寄り添うように並び立っている比叡とこんごうの方を振り向いて「二人とも、すまない」とだけ発して、電を抱いてその場を後にした。
******
説明は、夜に改めてする事になった。そう提案したのは東郷だ。
『先ずは傷を癒せ。それと冷静になれ。でなければ正しい判断など出来ない』と。
両秘書艦は大破。電に至ってはそのままだったら轟沈していた程の重体。他の面々も爆撃の中の戦闘だった為、小破や中破。無事なのは空母の二人とこんごうくらいだ。確かに入渠し、落ち着いてからでも遅くはない。
東郷は戦闘の間に山本からこんごうの事を聞いたらしい。『初戦闘で疲れたろう。部屋で少し休んでこい』と言われた。霧島や榛名をこんごうと離し、二人の頭を冷やす意味もあったのだろう。
そんな訳で、 今はこんごうは部屋にいる。既に入渠を終えた比叡と共に。
東郷の言う通り初戦闘の緊張の糸が切れたのか、疲れがどっと出た。いいと言ったが比叡に押し切られ、比叡の膝枕で横になって静かに寝息をたてていた。
―――――こんごうが見ていた夢は、妙にリアルな夢だった。
とある部屋。夜中らしく、外には星空。部屋の中はアンティーク調の、センスの良い家具が並んでいる。椅子に深く座り、何処かで見たティーカップで紅茶を飲みながら、英語で書かれた本を読む自分。
と、これまたアンティークの電話がチリリン、と鳴る。こんな夜中に誰かと思いつつ、受話器を取る。
「Hello?」
『夏美お姉さま!』
どうやら妹、らしい。それにしても、何処かで聞いたような声だ。
「秋穂?コッチは夜中デスヨ?」
『ごめんなさい、お姉さま!でも、大変なんです!妹の春奈が、春奈が‥‥‥艦娘になるって言うんです!あんな海の怪物と戦うなんて、春奈には絶対無理ですって~!』
電話の向こうの秋穂の焦りようは半端ではない。しかし、その春奈‥‥‥夏美と秋穂の妹‥‥‥の決めた事だ。
「ン~、デスガ秋穂、それは春奈が決めた事デス。春奈の意思は尊重すべきデ~ス。それに、ワタシも此方に来る時に艦娘に護衛してもらいマシタ!日本の艦娘は優秀ネ!確か名前は‥‥‥speed starとblizzardデース!」
『え?それ本当に日本の艦娘なんですか?‥‥‥じゃなくって!それで今度は塔子が『それなら私が付いていく』って言うんですよ!何とか説得して止めてくださいよ~!』
「塔子が、デスカ?それなら大丈夫デスネ!塔子が付いていくなら春奈も安心デース!」
『ヒェェ~、お姉さま!』
はぁ、と溜め息。本当は妹達の意思は尊重すべき所だが、事が事だ。
「分かりまシタ。近々ワタシも日本に帰りマ~ス!大丈夫ネ!friendのグラーフが力になってくれマス!EUROの艦娘デ~ス」
―――――
「‥‥‥あれ?」
夢から醒めたこんごう。頭を撫でてくれていた比叡と目が合う。
「あ、起きました?こんごうさん、そろそろ執務室に行きましょうか?」
こんごうさんの見た夢について
speed starとblizzard:察しの通り島風さんと吹雪さんです。
夏美について:金剛「ナツミ?誰でショウネ?分から無いネー‥‥‥‥‥ハッ!!思い出しまシタ!ナツミはmust prettyでmust popularな天才女優デース!!!‥‥‥今、笑いまシタか?Shit!!後で財布持って体育館裏まで来やがれデース!!」
秋穂について:比叡「ヒェェ~!知りません!私の本みょ‥‥‥秋穂なんて人知りません!」
春奈について:榛名「あの‥‥‥どうして私だけ読みが同じ‥‥‥いえ、何でもありません」
塔子について:霧島「塔子?さあ?誰ですかそれは?ですが‥‥‥恐らく美人で賢い方なのでしょうね」