その手を   作:アイリスさん

7 / 31
もう7話ですか。当初の予定の倍の話数くらいになりそうです。

今回はこんごうさんと比叡さんが‥‥‥それに我らが電ちゃんが‥‥‥

では、本編どうぞ


sentence7 休息

時間まではまだ一時間程早いが遅刻よりはいい。部屋を出る事にした比叡とこんごう。こんごうが着替えをしている所を、比叡がジッと見つめている。

 

「比叡さん?」

 

「あ、いえ、その‥‥‥」

 

見つめている自覚が無かったらしい比叡が、言われて慌てて目を逸らした。何か言いたい事があったのかと思い訊ねてみると、比叡が少し紅くなりながら答えてくれた。

 

「こんごうさんは‥‥‥本当に金剛お姉さまと瓜二つだな~、って思ってたんです」

 

一卵性の双子なら兎も角、他人なのに此処まで同じ、という人は見たことがない、というくらい瓜二つ。体型まで同じなのだから比叡がついつい見てしまうのも無理はない。試しに左手人差指に嵌めてみた金剛の形見の指輪すらもピッタリなのだから。こんな偶然そうそうお目には掛かれない。最早ドッペルゲンガー、何処かの軍用クローンのレベルである。

 

遠い目で、昔を懐かしんでいる様子の比叡。そう言えば、金剛が帰国子女だったのを思いだし、その事を少しだけ聞いてみた。

 

「え?金剛お姉さまですか?はい。以前はお姉さまだけイギリスに住んでたんです。榛名が艦娘になるって時に私が大騒ぎして、金剛お姉さまに榛名を止めてもらおうと連絡して‥‥‥」

 

何だか何処かで聞いたような話だな、と思って続きに耳を傾ける。「榛名に霧島が付いていくって言い出しちゃって、それで、お姉さまに日本に帰ってきてもらって‥‥‥」

 

何かが引っ掛かるが、イマイチ思い出せない。うーん、と悩んでも靄は晴れない。

 

「こんごうさん、どうかしましたか?」

 

悩む様が顔に出ていたのだろう。「え?」と惚けた声を出したこんごうは、「あ、な、何でもないです」と隠すように否定して、止めていた手を動かし着替えを続行。

白のカットソーにジーンズ。場所が執務室だし相手も上官。正装の必要があるかと思ったのだが、どうもその必要は無いらしい。今が夜で、基本的に比叡達はローテーションの時間外だからだそうだ。この服装だと身体の線がモロに出るのだが、比叡が「凄く似合ってます!」と笑顔を見せたのでいいか、と思ってしまった。

髪は解いてポニーテールにした。そもそも、あんな複雑な髪型にしていたら時間がかかって仕方無いし、自分では上手く出来る自信が無い。今日だって、金剛の髪型にするのには比叡に結わえてもらったのだ。よくもまあ金剛は毎日あんな髪型にしていたものだ。

 

着替え終わり、比叡に視線を向けてみる。比叡が着ているのは黒っぽいジーンズに白を基調としたロングTシャツ。‥‥‥もしかしてお揃い、なのだろうか?

 

「あの、比叡さん?」

 

「え?どうしました?」

 

‥‥‥自分の気のせいか?比叡の表情からはそういった思考は読み取れない。まあ、今の服も比叡に借りている訳だし、そういうラフな格好が好みなのだろう、と勝手に納得。‥‥‥クルリと背中を向けた時に比叡が一人嬉しそうにほくそ笑んだ事には気付かない。

 

こんごうが扉を開こうとすると、「こんごうさん」と後ろから声を掛けられた。振り向くと比叡は「まだ少し時間がありますし、散歩しませんか?」と誘ってくれた。

 

「え?でも、外出するんですか?今から?」

 

「違いますよ。ほら、ここ水族館じゃないですか」

 

そう言って笑う比叡。こうしていれば、艦娘だって普通の女性と何ら変わらない。榛名や霧島もそうだが、比叡は十二分に美人のカテゴリーに入る。艦娘になる前はさぞかしモテたのだろうなと思い見ていると、見透かしたような表情で比叡がこちらを見てきた。

 

「言っておきますけど、私は金剛お姉さま一筋でしたから男の人と付き合った事なんてありませんよ?」

 

正直、それもどうかとは思う。極度のシスコン。金剛本人は山本に熱をあげていたそうなので一方通行の。(比叡さん折角綺麗なのに)等と思っていて、ふとある事に気が付いた。

 

(あれ‥‥‥?金剛さんと瓜二つの私って、見た目は比叡さんの好みって事‥‥‥?)

 

声も同じ。顔も、身長も、スリーサイズはおろか指のサイズまで同じ。違う所は比叡と姉妹ではないという事と、金剛本人との性格の差くらい。否、血が繋がっていないから尚更危険と言えないだろうか?

そんな事を考えていたこんごうの左手を比叡が握ってくる。思わずビクッと反応して、意識したせいか少し頬が染まってしまった。

 

「魚、見に行きましょう。きっと気持ちも落ち着きますから」

 

ニコッと微笑み手を引っ張ってくる比叡。その純粋な様子に、邪な考えを持ってしまった自分を反省しながら、こんごうは水族館として残されたスペースへと案内されていく。

理由がどうであれ、端から見たらそれが『水族館デート』という体を成している事には全く気付かずに。

 

そこからは比叡の独壇場。なんでも、ここは比叡が子供の時に初めて連れてきてもらった水族館らしい。鮫が有名な水族館だったとか、大きなマンボウが居たとか。電気ナマズだか電気ウナギだかとか。時々クラゲを眺めに来て癒されているとか。今ここに所属の艦娘達が使用している入渠施設は元々イルカショー用のプールだったとか。

どおりで、更衣室に何の脈絡も無くイルカの骨格の標本が飾ってあった訳だ、等と納得しながら、こんごうは促されるままにゆっくりと見学して回った。

 

******

 

それから。こんごうと比叡が執務室の扉を開けると、ホットミルクを両手で持ち、一人ソファにもたれる電の姿があった。

 

「電ちゃん!もう大丈夫なんですか?」

 

こんごうが心配そうに声を掛ける。電はまだ身体はダルそうだが、ニコリと微笑んで答えてくれた。二人をもてなそうと立ち上がった電だが、上手く立てずにバランスを崩し倒れそうになって、比叡に支えられる。

 

「まだ身体は重いのですが、怪我は大丈夫なのです」

 

まだ無理はさせられない。電をソファに逆戻りさせ座らせた比叡。電の身体の具合を見てまた昼間の事を思い出したのか、その表情が少し陰りを見せている。

 

‥‥‥と、バタン、と入口の扉が開いて夕立が駆け込んで来た。まっすぐソファへとダイブし、電に抱き着いた。

 

「電ちゃん!良かった!元気になったっぽい!」

 

電が助けられて心底嬉しそうな夕立。「夕立ちゃんのお陰なのです」と頭を下げる電。確かに夕立が居なければ、電は今頃海底に沈んでいたかも知れない。駆逐艦の身分でたった一人で鬼級を破った、とはどうにも見えない夕立がはしゃぐ姿を、こんごうは微笑ましく見ている。

 

「アタシももう元気っぽい!平八さんに優しくしてもらったお陰っぽい!」

 

頬を染めイヤンイヤンと首を振りながら話す夕立の姿。前言は撤回。夕立には純粋さが足りない。

 

「電ちゃんは?山本さんに優しくしてもらったっぽい?さっきまで山本さんと二人で一緒に‥‥‥」

 

直後、片手でホットミルクのカップを死守しつつ、もう片方の手で慌てて夕立の口を塞ぐ電。その顔は真っ赤で、過剰なくらい全力で否定の言葉を発する。

 

「ちっ、違うのですっ!山本さ‥‥‥司令官さんとは何にもしてないのです!キ‥‥‥何にもしてないのです!!」

 

何かを言い掛け、ハッとして止めた電。夕立は追及する気満々のようだったが、そこでタイミング良く?他の面子が集まってきた。実に残念そうな夕立と、ホッと胸を撫で下ろしている電。電と山本に何かあったのだろうか?

余程恥ずかしかったのか、電は全身真っ赤になり、か細い声で「無かった‥‥‥のです‥‥‥のです」と下を向いて呟くのみになってしまった。

 

******

 

そうして、やっと全員が集まった。電も夕立も浮かない表情に戻っている。やはり夕立と電の先程のじゃれ合いは、気分を一時的にでも誤魔化す為だったのだろう。

 

提督用の椅子に座っていた山本が立ち上がる。「先ずは、金剛の事だ」という一言で、全員の視線がこんごうに集まった。

 

「‥‥‥先に謝らせて欲しい。比叡、こんごう、無理を言って申し訳なかった。それから、榛名、霧島‥‥‥本当にすまない」

 

山本は榛名と霧島に向かい深々と頭を下げた。比叡は俯き、今にも泣きそうな表情へと変わっている。それを気にしながらも、山本は続ける。

 

「金剛は‥‥‥轟沈したんだ。11日のあの時。此処にいる彼女は‥‥‥瓜二つだが金剛ではない別人だ」

 

榛名と霧島の二人の視線がこんごうに向く。堪え切れずこんごうにすがり啜り泣き始めた比叡の辛そうな様子に、それが嘘では無いのだと理解したようだった。

 

「お二人とも‥‥‥騙すような真似をして申し訳ありませんでした」

 

比叡を優しく撫でながら、こんごうも頭を下げる。「ごめ‥‥‥ごめん‥‥‥なさい‥‥‥私の‥‥‥わた‥‥‥しの‥‥‥せい‥‥‥で」と泣いているせいで上手く言葉に出来ない比叡。榛名は余りのショックにその場で倒れ込み青葉に支えられ、霧島は力無くへたり込んだ。

 

「それじゃあ‥‥‥金剛お姉様は‥‥‥」

 

霧島の視界に、比叡が映る。そこで漸く昼間の事を思い出した霧島の瞳から、ポロポロと雫が零れる。

 

「そんな‥‥‥私‥‥‥比叡姉様に何て事を‥‥‥!」

 

霧島にしてみれば、あんな事を言ったのも金剛が無事だと聞いたからこそだ。それが違ったとなれば、あの言葉は比叡に対する死刑宣告と同じ。『お前のせいで金剛が死んだのだから、お前も責任をとって死ね』と言ったのと変わらない。金剛を、姉を失った悲しみと、後悔と自責の念。霧島の心は今にも押し潰されそうなくらいに沈んでいる。

 

ただ‥‥‥その説明では納得いっていない者も居る。例えば、青葉。『こんごう』と『金剛』、赤の他人というには余りにも似すぎている為だ。別人と告白されるまで、実の妹達の誰一人として見抜けない程の瓜二つさ。これが偶然、と言われても納得出来ないのは当然だろう。

 

「別人‥‥‥ですか?こんなにソックリなのに?赤の他人だと?」

 

青葉は態々こんごうのところまで来てその手を取って、そう言って山本に視線を向ける。

 

「僕にそう言われてもな。金剛の艤装も装着できないし、妖精達も金剛ではないと言っている以上、そういう事なのだろう」

 

‥‥‥とは言え、山本も『こんごう』と『金剛』が完全に無関係とは思っていないのも事実。金剛が轟沈した後に現れ、名前も同じ、姿も同じ。山本にもある程度の推測は出来る。だからこそ、自身の手元にこんごうを置いた。かなりのレアケースではある。ただ‥‥‥確証は無い為、おいそれと口には出来ないが、恐らくは‥‥‥。

 




水族館デート。それと、一途アピール。狙われてますよ、こんごうさん!

電ちゃん‥‥‥山本に何された?いや、山本に何した?
夕立さんには自制が必要らしいです。「平八さんに優しくしてもらったっぽい!」←決して一部をカタカナ変換してはいけませんよ?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。