その手を   作:アイリスさん

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こんごうの不可解なスペック。電の些細な変化。比叡の焦り。
あーあ、もう9話です。これ本当に倍位の話数になりそうです。

では、本編。


sentence9 刺客

 

「大和か」

 

『はい、提督』

 

早朝のこと。東郷が呉守府の秘書艦代理、戦艦大和に連絡中。

 

「大本営に寄る用事が出来た。秘書艦達だけ先にそっちに帰る。戻り次第秘書艦に仕事を引き継いでお前はサポートに回れ」

 

『畏まりました‥‥‥あまり御無理はなさらないでください』

 

どうやら東郷が無茶をするのはいつもの事らしい。大和ももう慣れたものなのだろう。秘書艦が夕立では一緒に暴走しそうだし、それも当然か。‥‥‥毎日では大変そうだ。

 

「さて。山本よ、これから大本営に行ってくる。まあ、心配するな。危険は侵さん。調べものをするだけだからな」

 

「はい。ですが、余り目立つ素振りは見せないようお願いしますよ」

 

相手が大本営となると、細心の注意が必要だ。此方の動きを気取られる事があってはならない。反逆罪で軍法会議に、等という事になっては洒落にもならない。

 

 

 

呉に向けて鎮守府を出発した夕立達と、大本営へ向けて出た東郷を見送り、山本は一息着こうと食堂へ。身体の何処に消えているのか全く分からない、文字通り山盛りの量のご飯を頬張る赤城を横目に、久し振りの食堂の一番奥の椅子に腰掛けた。

 

「おはようございます、提督」

 

振り向いてみれば、こんごうが紅茶を手に立っていた。隣には酷く眠そうな比叡。

 

「ああ。二人とも早いな」

 

まだ頭が起きないのか、比叡の方は無反応。眼も半開きで乙女が見せてはいけない顔になっている。対してこんごうの方はもう完全に目覚めているようだ。そう言えば金剛も朝は強かったな、等と考えていると、こんごうに不思議そうな顔をされた。

 

「あの‥‥‥私の顔に何かついてますか?」

 

「‥‥‥いや、何でもない」

 

こんごう、比叡は別の席へ。遠くからでも「ふぁぁあ‥‥‥」と欠伸をするのが見える比叡を苦笑いで眺めていると、今度は左手の袖口を引っ張られた。

 

「おはようございます、なのです」

 

「ああ、電。おはよう」

 

夜更かしでもしたのか、少しだけ眠たそうな電。彼女は山本の隣に座り、眼を擦りながらも今日の予定を確認する。

 

‥‥‥そんな穏やかな日常が破られのは、午後のことだった。

 

******

 

「では、今日は此処までにするのです」

 

「はい。えっと‥‥‥秘書艦」

 

肩で息をしているこんごうに「『電』で構わないのです」と笑顔で答える電。今はこんごうの性能テスト中。最大船速や馬力、火力諸々。こんごうの場合は特に、対空ミサイルの性能を見ておく必要がある。海戦に於て制空権の確保は重要だ。味方の艦載機を航空戦で失う事なく敵艦載機を撃滅できるのなら、それは大きなアドバンテージになる。

 

「はい。じゃあ、電ちゃん」

 

電は計測された最大船速に目を止めていた。26ノット‥‥‥おかしい。速度が金剛と全く同じ。実は馬力までも金剛と同じだった。『こんごう』妖精さんも首を傾げていたが、こんごうのエンジンならもっと馬力が出る筈。金剛と同じ(金剛は改である)など有り得ない筈なのだ。明らかに金剛型とは別の軍艦の筈なのに此処まで同じなんて、そんな偶然があるものなのか。

 

「こんごうさん、聞きたい事があるのです‥‥‥『こんごう型ミサイル護衛艦』の艦としての記憶ってどんな感じなのですか?」

 

「えっと‥‥‥」

 

答えに窮した。実際、妖精さんや比叡の話だと、艦としての記憶は軍艦そのものの記憶。洋上での作戦、航行の様子、乗組員達の様子や相手艦隊との戦闘、それに轟沈の時の記憶等だ。けれど、こんごうのそれは全く違っていた。明らかに人間の、それも特定の誰かの記憶。今朝夢で見ていたのも、その誰かの何気ない生活の様子だった。

 

「‥‥‥よく思い出せないんです。『こんごう型ミサイル護衛艦』の装備の使い方は分かるんですけど、どんな理由で、何の為に造られたのかとか、艦の最後とか、全く分からないんです」

 

期待していた答えが戻ってこなかった事に「そう、なのですか」と落胆した様子を見せる電。

 

こんごうとしても、せめて艦の生まれた理由位は知っておきたい。それが分かれば、今後の戦闘に活かせる。その事を意識して動けば、恐らく自身の能力を上手く発揮できるのだろう、と。

‥‥‥ただ、他にも何か大切な事があるように思えてならない。今は欠落してしまっている記憶にきっと関係がある、何かが。

 

「ごめんなさい、お役に立てなくって‥‥‥」

 

「あ、いえ、大丈夫なのです。少し休みましょう」

 

二人は港に向かう。現在の日本の港としては珍しく、魚市場が開いている。知っての通り、海に深海棲艦が蠢く現在、漁船が遠洋に出て漁業、など自殺行為だ。それが此処では、哨戒任務という名で提督が誤魔化し、艦娘が漁船の護衛に付いている。日本で消費される魚の殆んどが養殖になった現在、昔よりは少し高めにはなったが今でも天然の鮮魚が手に入るこの市場は盛況だ。

 

「司令官さんはいい人なのです。とっても、とってもいい人なのです」

 

電自身は気付いていないのだろうが、山本の事を話す時の電の表情は、恋する乙女のそれだ。頬を染め、嬉しそうに、何処か恥ずかしそうに、柔らかな表情をしている。

 

「電ちゃん‥‥‥山本さんの事、本当に好きなんですね」

 

「っ!?はわわわっ‥‥‥」

 

余程恥ずかしかったのか、電は下を向いてしまった。表情は見せていないが、真っ赤になった耳朶が良く物語っている。

 

『電さん、司令官が呼んでますよ』

 

そんな時。助け舟とも言えるタイミングでの青葉からの通信。何かあったのか、と思い急ぎ鎮守府へと戻る。

電が執務室まで来てみると、山本はなんとも言えない表情をしている。何があったのかと訊ねてみると、全くの想定外の言葉が出てきた。

 

「おかしい。おかしいんだ。今月と来月、ウチに補正予算が付いてるんだよ」

 

事件かと思えば、予算が増えた、という話だった。それなら然程問題ない。寧ろ、こんごうのミサイル建造に余計に出費がかさむ分、助かるとも言える。

 

「駆逐水鬼を仕留めた褒賞金‥‥‥という訳でもない。かと言って他に変わった事はしていない筈なんだが‥‥‥」

 

嫌な予感がする。まさか、昨日話していた事が既に大本営にバレていて、その口止め料、かも知れない。

 

「落ち着くのです。理由が、きっと理由があるのです」

 

冷や汗を流す二人の元に、電報が届いた。大本営からだ。書かれていた内容は‥‥‥『二ヶ月間、ドイツ艦の滞在を受け入れろ』という内容。どうやら、艦娘の本場である日本で色々学ばせてやって欲しい、というドイツからの受け入れ要請があったらしい。つまりは艦娘間の交流というやつだ。どうやら日本からは横須賀の戦艦、長門がドイツに行くらしい。しかも、向こうは既に1ヶ月前にドイツを出発しており‥‥‥到着は今日の午後、とある。

 

「おかしくないか?横須賀の長門が出るなら向こうさんの受け入れは普通なら横須賀鎮守府だと思うんだが‥‥‥」

 

電報によれば、日本側は当然ながら横須賀鎮守府での受け入れを準備していた。しかしながらドイツ側から再三、この山本の鎮守府での滞在の要請があったらしい。結局ギリギリで大本営が承諾。結果今日の補正予算と電報になった、と。

 

「‥‥‥大変なのです!あと30分しかないのです!」

 

到着予定時間まで、あと30分。色々と不味い。部屋の準備だとか、その他受け入れ体制を作っていない。それに、こんごうの事もある。

 

「受け入れの準備をしないとな。部屋は‥‥‥そうだな、青葉と那珂と同室で構わないだろう。こんごうと比叡に『バレないように』と一応伝えてくれ。ドイツ艦なら面識は無いだろうし大丈夫だとは思うが、一応な」

 

「はい、なのです」

 

電が自室の春雨達の所に向かおうと扉に手を掛ける。急に呼び止めるように「電」と後ろから山本に呼ばれ、電は「はい、司令官さん?」と振り向く。

 

******

 

「すまない、そこの方。鎮守府はこの辺りだろうか?」

 

哨戒任務から戻り、海岸に座り一人海を眺めていた比叡。明らかに日本人とは違う、銀髪の女性に声を掛けられた。鎮守府を探している様子だと海軍関係者だろうか?

 

「あ、私鎮守府の関係者なんです。良ければ案内します」

 

立ち上がって砂を払う。銀髪の女性はそんな比叡の顔を覗き込んできた。眼が余り良くないのだろうか?

 

「あの‥‥‥?」

 

「‥‥‥アキホ?もしや貴女の名はアキホではないか?」

 

比叡が驚く。基本的に艦娘のプロフィールはトップシークレットとなっている。軍関係者と言えども、アクセス権限があるのは一部の提督以上。もしや大本営の抜き打ちの査察か?前回の戦闘でこんごうが派手に対空ミサイルを使ったのがバレたのか?だとしたら‥‥‥もしかするとこんごうが別の鎮守府に回されるかも知れない‥‥‥。

 

(嫌ですよ、そんなの‥‥‥)

 

気持ちが顔に出てしまったらしく、浮かない表情になってしまっていたようだ。「そうだな。いきなり名前で呼ばれれば警戒するのは当たり前だな」と勝手に解釈され納得された。

 

「ヒェェ~、そういう訳じゃ‥‥‥」

 

慌て否定するも、もう遅いかも知れない。端からみれば、自分は海岸でサボっていたようにも見える。こんごう云々以前に自分が左遷されるかもとか、最悪素行不良艦として解体されるかもとか‥‥‥色々と悪い方へと考えてしまう。

 

「紹介が遅れたな。私はグラーフ・ツェッペリン。Deutschlandの空母だ。ニホンゴは勉強してきたつもりなのだが‥‥‥上手く発音できているだろうか?」

 

「‥‥‥え?」

 

益々分からなくなった。ドイツの艦娘、ということだけは理解出来たが、比叡の人間としての本名を知っている理由が全く分からない。何せ、比叡の本名は山本ですら知らない。それを何故ドイツの艦娘が知っているのか。

 

「君の所にはアカギが居るのだろう?是非とも会っておきたい。それに‥‥‥」

 

赤城に関係のある人物なのか。それなら少なくとも、この鎮守府に来る理由はあるという事だ‥‥‥等と思考していた比叡だったが、グラーフの次の一言が全てを思い出させた。

 

「ナツミも居るのだろう?早く会いたいものだな。元気にしているのだろうか?」

 

「‥‥‥‥‥‥あっ!!」

 

思わず声をあげてしまった比叡だが、思いだした。グラーフ‥‥‥以前に金剛が言っていた、ユーロの艦娘だ‥‥‥人間時代の金剛の親友の。流れる冷や汗。

 

「ヒェェ~‥‥‥あっ、えっと、その、えっと‥‥‥」

 

「もしや‥‥‥ナツミは体調が悪いのか?」

 

余りの焦りように相手を心配させてしまったらしい。誤魔化そうとして「だっ、大丈夫ですッ!お姉さまは元気にしていらっしゃいますッ!」と思わず叫んでしまった。

 

(不味いですよぅ‥‥‥こんごうさん‥‥‥司令‥‥‥)

 

******

 

どうにか笑顔を作り、鎮守府に向かう道中、グラーフの昔話を聞く。イギリス時代の金剛と撮った写真や、グラーフが金剛に貰った比叡達の写真等を見せてもらいながら。

 

ゲートに着いて中に入ると、入口で電が待っていた。「ようこそ、なのです。秘書艦の電なのです」と笑顔で挨拶をしている電。‥‥‥なんだか頬がほんのり紅い気がするし、いつもより嬉しそうな感じがする。出迎えの為に笑顔の練習でもしたのだろうか?

 

「Deutschlandの空母、グラーフ・ツェッペリンだ。宜しく頼む。他の者より一足先に来させてもらった。‥‥‥Admiralの所に案内してもらえるか?」

 

グラーフの日本語は実に流暢だ。それもこれも金剛に会うため、だとしたら‥‥‥胸が締め付けられる思いだ。比叡はチラリ、と電に視線を送る。電はどうやら分かってくれたらしい。本当に一瞬だが「不味い」という表情を見せた。

 




グラーフ・ツェッペリン:空母。イギリスに居た頃の、金剛の人間時代の親友。色々バレそうで危険。

山本提督、どうやらまたやらかした模様。
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