書き終わってから話が進んでいないことを再確認。
気付いたのですが登場人物恐ろしいほど少ないです。
余談ですが長期間泊まるホテルのネット環境は調べとくべきでした。
現在猛烈後悔中。
「どうしたのじゃ孟徳、そなたも名乗らぬか。」
呆けた私に対しておじい様が促す。
荒れ狂う心の内を押し隠しながら私は何とか名乗る。
「・・・・・・曹操、字は孟徳と申します。」
私は名乗りながら目の前の男を見つめていたが、特に気にした様子が感じられないことに胸が痛くなるばかりだった。
だが見つめすぎたからだろうか、銀河は不思議そうな顔を此方に向けながら問いかけてきた。
「・・・えっと、曹操殿。俺の顔を見てどうかしたか?」
「いや、・・・変な事を聞くようだが・・・以前あった事はないか?」
気付いたのは問いかけた後だった。
気持ちを押し隠したつもりだったができていなかったようだ―――曹孟徳ともあろうものが不甲斐ない。
そんな私の問いに一度首を傾げていた銀河だったが、
「多分、今日が初めてだと思うぞ。流石にあんたみたいな人を忘れはしないだろうし。」
「・・・・・・そうか。」
予想はできていたはずなのにその答えは重かった。
堪らず零した返事には気落ちを十分匂わせていたようで、普段あまり驚く事が無いおじい様がわずかに目を見開きながら、
「今まで他所の男に興味をほとんど示さなかったというのに、・・・馬騰殿のご子息を気に入ったようじゃのう。」
などといいながら興味深く此方を見やる。
だがおじい様のその言葉を聞いて、銀河の横でずっと退屈そうにしていた馬超が銀河の腕を取って引き寄せながら、
「銀河はやらん。」
などと抜かしてきた。
「姉弟仲がよろしいですな。」
「仲が良すぎて困っております。孟起はいつも銀河にべったりでして、孤児だった銀河を拾ってきたのも娘なのです。」
困っているといいながら、ちっとも困った顔をしないで馬騰が話す内容を聞いて、銀河の生まれ自体に変わりはなかったのだと言う事を知る。
私が銀河に初めて会ったのは戦場だった。
大陸のいたるところで黄色い頭巾を身につけた民が、天公将軍を自称した太平道の教祖張角を旗頭に反乱を起こした時のことだ。
漢の命脈が永くない事を察していた私は、これを飛翔の時と見定め、私兵を率いて馳せ参じた。
官軍の指揮を執っていた将軍朱儁の失態により膠着状態に陥っていた戦場に、突如として奴は現れた。
その身に黒く大きな鎧を纏い、顔すらも不気味な兜で隠したその男は散歩をするかのごとくふらりと戦場に現れ、官軍を苦しめ続けていた張角の末弟、人公将軍張梁を瞬く間に討ち果たし敵味方問わずにその存在を恐れられることとなる。
その男の名前は―――呂布、字を奉先。
黄巾の乱と呼ばれることになるこの反乱より少し前から中華全土で噂となっていた伝説の武人の名であった。
万夫不当の鬼神、前漢の李広になぞらえて飛将軍と称された一騎当千の武人。
善悪問わずに戦場を蹂躙し、後には何も残らない冷酷な将の名を名乗った。
誰もが疑いを持ちはしたものの、男の戦いぶりが真実か虚偽かの是非を問う必要の無いものとしていた。
この私ですら魂を揺さ振られる存在であったその男―――呂布は、何の冗談かと眼を疑ってしまうほどに、見るからに小物な丁原と名乗る男に付き従っていた。
気紛れに付き従っていると一目でわかる呂布の前で、御しきれると何処から来るのか分からない自信を持った顔で座す丁原を見て思わず噴出しそうになってしまったぐらいだ。
戦場で何度か共に戦ううちに、呂布も此方に興味を持っていたのか直接たずねてくる事もあった。
私は子廉や子孝に対して余裕の態度を崩さないようにしていたが、内心では言い知れぬ喜びに酔いしれ、そんな自分に戸惑ってもいた。
長く続いた乱も張角が病死、最後まで抵抗していた地公将軍張宝も討ち取られた事で終結、私も呂布と別れ領地に戻り一先ずの平穏が訪れる。
しかし時を置かずして洛陽にて董卓が帝を擁して専横を始める。
その傍若無人ぶりに当然のごとく諸侯は反発したが、董卓を誅することはできない二つの理由があった。
一つ目の理由として董卓は帝の信頼を一身に受けていた事、そして二つ目の理由が飛将『呂奉先』を常に身近に控えさせた事であった。
丁原にしたがっていた呂布が何故董卓のもとにいるのか、何があったのかは知らないが、問題は私にとって奴は倒さなくてはならない存在になったということだった。
その時私に浮かんだ感情は才を惜しむ哀れみであった。
董卓の周辺には破滅の臭いしかしない、それはまるで董卓自身が破滅を望んでいるかのようで、呂布がその中にいることが惜しかったのだ。
董卓を討伐する為に結成された諸侯の連合が都に迫る際に何度も私と呂布はぶつかった。
奴はその名に相応しくないほど心が揺れ動き戸惑っていた、親とはぐれた幼子のように。
連合が都に迫り、後一歩といったところで呂布が董卓を斬り、逃走するという出来事があった。
その一連の出来事によって連合は自然消滅、事実上再起不能となった漢を見限り、諸侯は自軍を率いて我先にとそれぞれの領地へ引き返していく。
漢が滅ぶ事を事前に察知していた私はいち早く行動を起こしている最中、再び奴と見えた。
久方ぶりに会う男―――呂布は酷くやつれた状態で樹にもたれかかり瞳を閉じていた。
体の至る所に負った傷から血を流している有様で意識が無いのかと思ったが、私が近づくと薄っすらと瞳を開いて此方に視線を寄越した。
「久しいな、呂布。見ないうちに随分と見窄らしくなったではないか。」
「・・・此処で会うのがあんたか。・・・まぁ、あんたなら文句はねぇな。」
「まったく本当に惜しい才だよ、お前は。・・・だが、だからこそここで斬らねばならん。」
私は奴を斬る事はしたくなかった。
当然だ、この曹孟徳をしてここまで心を揺さ振る存在をせっかく見つけたのだから。
だからといって此処でこの男を斬らないという選択肢は無い、私がこれから歩む覇道に飛将呂布はいてはならないのだから。
「呂奉先、お前は乱世そのものだ。私は乱世全てを飲み込み覇道の先を行く。だからこそ、この曹孟徳をして惹かれたそなたの、本当の名を教えてはくれないか?」
その私の言葉に奴は眼を僅かに見開く。
「何でもお見通しかよ。・・・・・・銀河だ、ただの銀河」
「・・・銀河、か。何とも大層で、そなたに良く合った名だな。」
私はその名を胸に刻む。
そして黄巾の折、銀河が私に問うたことを思い出しながら告げる。
「銀河、そなたの名この曹孟徳の心にしかと刻んだ。だから安心して逝け、お前が夢見た天はこの曹孟徳が覇道のもとで実現する。」
私の言葉を聴いて、驚いた顔をした後に銀河は柔らかく微笑む。
「・・・そうか、ありがとう。」
私は兵に銀河の首を落とすよう命じる。
兵は命令に従い構えた刃を一度首筋に沿わせた後振り上げ、勢いを付けて下ろした。
その時であった、刃が首筋に届く後一歩のところで突然大きく地が揺れた。
兵は堪らず体勢を崩し銀河の首を落とす事が叶わず、振るわれた刃は地面に突き刺さった。
私を含めこの場に居合わせたものは騒然となった。
何故なら今の揺れがまるで、この男を生かさんとする天の意思のように感じられたからだ。
普段の私であればそのような考え一笑に付すであろうが、何故かこの時は素直にそうなのだろうと納得してしまった。
「ふっ、・・・天よ!曹孟徳を前にしてこの男を生かすというのか!!」
私は言い知れぬ興奮を抱きながら天に向かい声を張り上げる。
その様子を見て傍らに控えていた惇が私の考えを悟ったのか、苦々しい顔をしながら止めに入る。
「・・・!!孟徳、何をふざけた事を言っている!この男は危険だ、生かすなどありえん!!」
「そう言うな、惇よ。天がこの男を生かすのだ、この私の覇道に必要だと。ならばその意思すら飲み込んでこそ、曹孟徳の歩むべき天よ!」
今までの経験上からか、惇は私が引かないであろう事を悟ると憮然とした表情ながらも後ろに下がった。
そんな惇を尻目に、私は状況が分からず此方を見ながら固まっている銀河に、多くの者にとって転機となる言葉をかける。
「銀河よ、天がお前の命運を守った。故に私はお前の行く末を見定めねばならん。私の元へ来い、銀河。覇道の先を見せてやる。」
「何を言ってやがる、曹操!!俺は呂布だ。呂布を引き入れるということがどういう事か、お前がわからねぇ訳ないだろ!!」
「何を言っている、銀河。呂布はこの地にて我が曹軍が斬った。私が欲しているのは銀河、お前であって董卓殺しの飛将などではない。」
「・・・・・・なっ!?」
にやりと笑いながら告げた私の言葉に、銀河は顔を引きつらせながら見たことの無いような間抜け面を晒していた。
銀河が私の言葉に頷いたのはそれから少し経ってからだった。
「お、おぃ馬超。恥ずかしいから離れてくれよ。」
いつもの飄々とした表情では無く、照れて少し紅くなった顔で銀河はなかなか離れようとしない馬超を引き剥がそうとする。
「何が恥ずかしいのだ、銀河?」
言葉通り全く理由がわからないのか、馬超は不思議そうな顔で銀河に問いかける。
当然のごとく腕を取る力を微塵たりとも緩めずに。
「・・・だ~から、くっ付きすぎだって!!」
「・・・・・・?銀河は何を言っているのだ、姉弟なのだから別にいいだろう?」
「姉弟でも恥ずかしいものは恥ずかしいって!!」
私が銀河との出会いを思い返し終えても、未だに二人はじゃれあっていた。
現在の私にとって、銀河とは初対面に過ぎぬとは言え心には言い知れぬ怒りが湧き出てきていた。
私のものになるまでに多くの噂がたっていた銀河の女性事情を思い出したのも理由の一つだ。
このままでは馬超に銀河を盗られてしまうと危機感を抱いた私は現時点に於ける最も強力な方法を使う事にした。
その方法は勿論―――正面突破だ。
「銀河、・・・私はお前が欲しい。」
私は馬超を一瞥した後、銀河に眼を合わせ宣言した。
元より曹孟徳に逃げなどありえない、立ち塞がる者は退けるのみだ。
おじい様や馬騰、銀河が突然のことに驚いている中、馬超だけは真っ直ぐに私を見ていた。
その後睨み合っていた私と馬超におじい様と馬騰は何度も声をかけたが、私たちは互いに相手から目線を外そうとしないまま返事もおざなりであったため諦めて二人で話を進めたようだ。
そうして会談が終わるまで睨み合いは終わらなかったのだが、その間銀河がちらちらと此方に視線を向けては背けていたことが、初心であった頃を知らない私としては非常に嬉しく思えるものであった。
会談が終わった後、おじい様が私に問いを投げかけてきた。
「のぅ、孟徳。どんな男に対しても興味を向けなかったそなたが、あの小僧に何を見た?」
その問いに私は微笑みながら答える。
「おじい様、銀河は私にとって天なのです。私をして手を伸ばし続けないと届かない・・・。」
そんな私の言葉に驚きを浮かべた後、目を細めながらおじい様は言う。
「そうか、ならば決して逃さぬようにしなさい。・・・後悔しない様に。」
「もちろんです。・・・・・・今度は手放したりなどしない。」
返事をした後、私は小声で呟く。
相手は強敵だ、だが銀河が生きていて手が届くところにいる。
ならば曹孟徳は勝つのみだ。
決意を胸に私はおじい様の部屋に戻る回廊から青空を見上げるのだった。
銀河
涼州の孤児。
馬騰に拾われる事がなかった世界では丁原のもと、飛将呂布の名を騙り各地を転戦。
常に鎧兜を身に纏っていたため一部の者以外には顔は知られていない。
丁原
呂布(銀河)を使って成り上がりをはかる。
董卓
宦官を忠殺した後、帝を擁して政権を掌握。
考えの読めない不気味な男で、呂布(銀河)に斬られる際もそれを良しとするなど独自の価値観を持っていた。
呂布
大陸に昨今噂される驚異的な武勇を持つとされる武将。
圧倒的なその力から飛将軍と呼ばれるが、実在するかどうかは定かではない。
忘れた頃に惇が喋る。