本文中の区切り記号について。
☆☆☆ 時間、場所変更
(ちょっとした場面転換にも使用。一番使っている区切り)
☆★☆ 視点変更
(アシュトン視点→プリシス視点など、主視点が変わる時に使用)
★★★ 時間軸の巻き戻し
(回想シーンなど、直前のシーンより時間軸が前になっている時に使用)
上の三つを使用しています。
キャラ別に記号を使い分ける、といった事はしていません。
つい先ほど、私は気づいたのだ。
自分が今、この場に存在していることを。
それまで私は自分の存在に気づかなかったのだろうか。
それとも私の存在は、私が先ほど自身の存在を認めたことによって、初めて「私」となって存在し始めたのか。
私にはどちらが正しいのかわからなかった。
気づいたとき、私に実体としての「存在」はなかったのだから。
私は今、私の意識だけで「存在」している。
それでも、確かに私は存在している。
はっきりとわかるのだ。自分の周りに在る景色も、私にはしっかりとみえている。
私は地上からだいぶ離れた辺り、空をふわふわと漂っている。
実体はないから、風は感じない。
空は青々と晴れている。
雲も少なく、遥か遠くまで周りをよく見渡すことができる。
連なった山々。その山からは水が川となって流れ出している。
川は流れて海へと辿り着き、海の一部になると一緒にゆらゆら揺れ動いて、しきりに大地との境を判らなくしている。
私が今いるここは大陸のようだ。
平野部には交通の要の街道が方方にのびていて、その街道に沿うようにところどころ大小さまざまの施設が点在している。
見える限りでは、ここからそう遠くないところにある町が、この大陸で一番の都市らしい。
お城らしき塔の先端部分もうっすらとみえている。
街道は遠く海辺の街にまで続いている。
遠くの海が、日の光を反射してきらきらと光っている。まぶしくは感じないが、なぜかそれがやたらと私に関心を抱かせるのだ。
もしかしたら、私はこの景色に感動しているのかもしれない。
意外なことだ。確かに綺麗だとは思う。
でも、それがこれほどに気を引く事なのだろうか。
理由を考えようとしたが、どうも意識がぼんやりする。
そもそも私は自分の存在が何なのかもわからないのだ。自分がいつから存在していたのかも、なぜ存在しているのかも。
私にわかっているのは、私がここに存在しているということだけだ。
綺麗な景色に気を引かれる理由など、わかるわけもない。
私は空に留まったままで、この綺麗な景色をただただみ続けている。
私からすぐ近くの地上にも、一村の村が在る。
村は街道に沿った所にぽつりと存在しており、すぐ後ろには森が広がっている。
森のある村、というよりは村のある森、と言った方が正しいか。それぐらい穏やかな村だ。
日はすでに中頃を過ぎていて、暖かな日の光が村の人々や家々、村民に飼われている家畜などの動物達、すべてに降り注いでいる。
私はどうやらこの景色も好きらしい。やはりなぜかは、わからないが。
そんなとてものどかな家並みのなかを、一人の少女が歩いていくのがみえた。
その少女は穏やかな午後の昼下がりに、この場には全くそぐわないような仏頂面で歩いている。年の頃は十代後半といったところか。
活発そうな少女だ。
あんなにむすっとした顔をしていなければ、きっととても可愛い娘だろう。
その身に付けている赤い短めのマントが時々風になびく。
少しはねたセミショートの青髪に、三日月形のおおきな髪飾りをつけている。その髪から何かが覗いてみえる。
耳だ。
少女の耳は尖っていた。
きっとあの娘は、私の世界の娘だろう。あの耳がなによりの証拠だ。
それがなぜ、こんなところにいるのだろうか。
──?
こんなところ? こんなところとはどこだ?
ここはいったいどこなのだろう。
周りをみても、私にみえるのは先ほどと同じ山や森、平原、海、そして村。
やはり綺麗だ。でも、これは、違う。
──ここは、私の世界ではない?
そうだ。
ここは私の世界ではない。
だとしたら私はなぜ、私の世界ではなく、こんなところに存在しているのだろう。
どうにもぼんやりする。でも──
だんだん意識がはっきりしてきた。ようやく思い出せそうだ。
☆★☆
──今からさかのぼる事、数か月前。宇宙歴366年。
きっかけはレナ達の住む惑星『エクスペル』に、『ソーサリーグローブ』という隕石のようなものが落ちてきた事だった。
“厄災の象徴”とも“魔の石”とも呼ばれたそれは、石が落ちたエルリアの地に物的な被害をもたらすだけでは終わらなかった。
地震や津波などの天変地異、魔物や動植物などの凶暴化……
惑星エクスペル全体にも、様々な異常事態を引き起こし始めたのだ。
ある出来事をきっかけにアーリア村で出会ったレナとクロードの二人は、その『ソーサリーグローブ』を調査するため旅に出た。
道中いろんな出来事があって、一緒に旅する仲間も次第に増えていって……
結局そのソーサリーグローブはただの隕石ではなく。『十賢者』というとても悪い人達が、人工惑星『エナジーネーデ』という場所に戻るためにやっていた事の、巻き添えのような事になっていた事が判明。
それで巻き込まれたエクスペルが、一度は星ごと、この宇宙から消滅したりもして……
そんな事をしてくれた、十賢者達の狙いは宇宙征服だった。
でも十賢者の長『ガブリエル』だけは、宇宙全体をも消滅させようとしていた。
惑星エクスペル消滅の際、偶然エナジーネーデに転移していたレナ達全員は、十賢者達と戦う事を決意。
目的を同じくするエナジーネーデの住人達と協力して、彼らに立ち向かった。
最終的に十賢者は全員、レナ達によって倒された。
ただ、死に際にガブリエルが発動させた『崩壊紋章』だけは、どうしても止められなかった。
結局は人工惑星エナジーネーデに崩壊の全エネルギーを集中させるという、大きな犠牲と引き換えに、全宇宙は守られた。
レナ達の住んでいた惑星エクスペルは、その崩壊の時のエネルギーを使った時空転移技術によって無事復活。
故郷に戻ったレナ達も、あるいはここで新たな生活を始める事になった者達も、それぞれの日々を過ごし──
それから数か月の時が経った、クロス大陸にあるマーズの村。
のどかな家並みのなかを、同じくクロス大陸にあるアーリア村から来た少女、レナは不機嫌そのものといった顔で歩いていた。
今から数日前。
アーリア村長レジスにお使いを頼まれたレナは、炭鉱の町サルバやクロス城下を通り抜け、わざわざ泊りがけでこのマーズまでやって来たのだった。
マーズ村までの付き添い人は、現在アーリア村長家で居候をやっているクロードではなく。同じ村に住む大工のボスマン。
出発の直前までは、クロードもレナと一緒に行くはずだったのだが……
(これじゃ、なんのためにここまで来たのかわからないじゃない)
何が腹立たしいって、気を抜けばすぐにクロードの事ばかり考えだしている自分の頭が、である。
こんな事、こんなところでいくら考えたって仕方ないんだから。
頑張って忘れようとしてるんだから邪魔しないで! ……とばかりに頭をぶんぶん振って、ちらつくクロードの顔を無理やり追い出したり、
「そうよ、わたしはマーズの長老様に手紙を届けに来たんだから」
などと本来の目的をもっともらしく口に出したりしながら、レナは一人、長老様がいるだろう集会場までの道のりを歩いていった。
そんなこんな集会場に着いた時には、レナも普通に愛想よくドアを開ける事ができたのだが。
「こんにちは! 長老様はいますか?」
集会場の中には、なにやら大勢の村人達。
長老もいることはいたが、村の人達と真剣に話し合いをしている最中で、中々声をかけづらい雰囲気だ。
どうしようかなと考えつつ、とりあえず部屋を見渡してみると。
なんと村人達の中に、レナがとてもよく知っている顔があるではないか。
「セリーヌさん! 帰ってきてたんですか?」
「あら、久しぶりですわねレナ!」
思いもかけない再会に、はしゃぎながら声をかけるレナ。
名前を呼ばれた女性──セリーヌの方も、嬉しそうに返事をした。
セリーヌは数か月前の旅の仲間の一人だ。
彼女はあの一件の後、また、本来のトレジャーハンターとしての活動を再開したらしい。マーズは彼女の故郷だから、今ここにいるのはたまたま里帰り中だった、といったところだろう。
普通にしていれば、ばっちり「美人さん」と言っていい彼女だが。
本人的には普通なのはイヤらしい。相変わらず独創的できわどいピチピチ衣装に身を包み、やっぱり相変わらずなこの喋り方である。
「せっかく帰ってきたっていうのに、二人ともいないんですのよ! しょうがないから長老の家におじゃましたんですけどね……」
セリーヌの言う二人というのは、セリーヌの両親の事だ。
なんでも親戚の結婚式で、揃って外出している最中なのだとか。
「まあこのタイミングで顔を合わせても、小言を言われるに決まってますからね。かえっていなくてよかったのかもしれませんわ」
「あー……まあ、そうなのかもしれないですね」
「そうに決まってますわ」
察するに彼女の両親は、現在二十三歳の一人娘に落ち着いて所帯を持ってほしいのだろう。
トレジャーハンター業も安定とはほど遠い職業だし、ご両親の心配はもっともだとレナも思っているけれど。
実はその事に関係して、レナはセリーヌの両親に隠している事がある。
セリーヌ当人に内緒にしてくれと言われたからなのだが、いざ二人を目の前にして「うちの娘に浮いた話でもないか」とでも聞かれでもしたら──平静を装える自信はレナにはあまりない。
そんなわけで、レナもセリーヌの両親には少々顔を合わせづらいのだった。さっきも留守と聞いて、ほんの少しではあるが内心ほっとしたくらいだ。
「レナは長老にご用事?」
セリーヌに言われて、レナは「あっ、そうだった」と我に返った。
忘れないうちに(忘れかけていたけど)レナはマーズの長老に、アーリアの村長レジスから預かっていた手紙を渡した。
手紙の中身は、アーリア周辺においての簡単な現状報告だ。
マーズの長老はなんともいえない表情でそれを眺めている。
十賢者達との闘いの後、エクスペルに戻ってきた日常。
それでもそれは、ソーサリーグローブがエクスペルに落ちてくる前とすっかり同じ、というわけにはいかなかった。
天変地異こそおさまりはしたが。凶暴化した魔物に襲われるような事件は今も、そこら中で起きているのだ。
ソーサリーグローブによって汚染された地上は、ソーサリーグローブがなくなっても、汚染そのものを取り除かないとだめなのだとクロードが言っていた。
今は取り除く方法がないとも。クロードのいた『地球』にすら、その方法があるかどうかもわからない、とも。
レナはでも、今のエクスペルの環境を、そこまで悲観的に考えてはいない。
だってエナジーネーデにいた時と違って、アーリアに帰ればちゃんとお母さんがいるのだ。
そう思えば元のエクスペルとそれほど変わらないし、というか逆にそう思わなければ、犠牲になったエナジーネーデのみんなに申し訳ないとも思うし。
それになんといっても。
今のレナにはクロードも、旅先で出会ったみんなもいるのだ。
(うん。でも、クロードは──)
「ところでレナ、あなたにも少しだけ手伝ってほしいんですの。付き合ってくれるわよね?」
またしても色々考え始めたところでセリーヌにいきなりそう言われたから、レナは少し面食らってしまった。
「えっ……、何をですか?」
時間をかけてから、レナはやっと聞き返す。
聞かれたセリーヌはすぐに答えた。
「もちろん、魔物退治ですわ。他に何かありまして?」
☆☆☆
レナが集会場に着いたのは、最近この近辺を荒らしている魔物をどうやって退治しようかと、村人達が相談しているところだったようだ。
目撃した村人いわく、
「そんなに強い魔物ではないが、とにかく逃げ足が早い」
というその魔物は、おそらくマーズのはずれにある『紋章の森』から来ているのだろうとの事。
そんなこんなレナはセリーヌに連れられ、流れるように紋章の森までやってきたわけだが──
鬱蒼とした森の中を歩くレナは、やっぱりいつの間にか不機嫌顔である。
(あいかわらず強引ね、セリーヌさん)
さすがにレナも、マーズの人達が困っているのを黙って見過ごせるほど冷たくはないつもりだ。事情を知っていれば、例えセリーヌに頼まれなかったとしても、レナの方から魔物退治の協力を申し出ていただろう。
しかし仮にそうだとしても、当然のように「手伝ってくれるよね」と言われて、気分よく「うん手伝う」と答える事ができるかどうかはまた別の問題だ。
ことさらに今のレナにとっては“気分よく”というのは難しいのだから、ひとに物を頼む際には細心の注意を払って頼んでいただきたい、とついつい心の内で思ってしまうのも仕方ない事なのである。
(そりゃあ、あと二、三日はボスマンさんも帰らないわよ? けど……)
村の入り口まで一緒についてきてくれたボスマンは、ここまで来たついでに知り合いの大工仕事を手伝いに行くとの事。
レナ一人でアーリアに帰るわけにもいかないから、どのみちあと二、三日はマーズをぶらぶらしてヒマをつぶす予定ではあったけど……
(クロード、今頃どうしてるかな)
自分から率先してここまで来たくせに、またしてもそんな事を考えていると。
少し前を歩いていたセリーヌがレナの顔を覗き込みながら、からかうように言ってきた。
「どうしたんですの? クロードと離れ離れなのがそんなに嫌なのかしら?」
大当たりだけど。
たぶんセリーヌさんが想像しているような理由じゃない、と思う。
「クロード、『地球』に帰るかもしれないんです」
「えっ……?」
クロードは元々、この惑星エクスペルの住人ではない。
想像もつかないような遠く離れた場所にある、『地球』というところからやってきたのだ。
クロードのいた地球は、ここエクスペルとは比べようがないほど技術が発達していて、遥か空の上にある、星々の間を飛び越える事も楽々とできるらしい。
そういう技術が進んだ星の事は『先進惑星』と呼ばれ、惑星エクスペルのように技術が発達していない『未開惑星』とは、いろいろ区別して考えられているのだとか。
そのうちの一つの取り決めが、『未開惑星保護条約』。
先進惑星の人間が、未開惑星の住人と関わりを持つ事を禁止する。
かいつまんで言えば、そんな取り決めだ(ただし緊急時には反故にできるとか、住民の安全確保が第一とか、例外はいくつかあるらしいけど)。
そう、この取り決めは──
何か特別な事情がない限り、先進惑星『地球』からきたクロードが、未開惑星『エクスペル』の住民レナと関わりを持つ事を禁じている。
先進惑星の出身にもかかわらず、今も未開惑星エクスペルの片田舎、アーリア村で暮らしているクロードは当然、その『未開惑星保護条約』違反をしている最中だ、ということになるのだ。
最初エクスペルにやってきた時は不慮の事故だったそうだから、『緊急時の例外』が適用されて、ギリギリ保護条約違反にはなってなかったらしいけど。
旅の途中で、迎えの『艦』が来たけど自分の意思で降りたと、クロードは言っていた。だから今のクロードはたぶん、その条約に違反しているのだろう。
まあその後色々な事があって、結局その迎えの乗り物はなくなってしまい。
帰りたくなっても地球に帰る事ができなくなったクロードは、今現在に至るまで、このエクスペルで生活しているワケだが──
数日前のことだ。
そのクロードの元に、はるばる“地球から”客が来たのだった。
あの時の客人二人の様子を、レナは今でも鮮明に思い出す事ができる。
レナとクロードの二人がアーリア村長の家で、村長のレジスからマーズ村へ持っていく例の手紙を受け取ろうとした時。その二人は現れた。
クロードを訪ねてきたというその二人は、迷うことなくクロードの前に出ると、声をひそめてクロードと会話をし始めたのだ。
最初はただ怪訝そうに彼らの会話を聞いていたクロードも、話が進むにつれ、だんだんと真剣な顔になっていって、
「それじゃ、あなた達は本当に……の地球から……」
二人にそう確認するクロードの声が、断片的に耳に入ってきた瞬間。
レナの心は一気に落ち着きを失った。
(……地球から? まさか、あの人たちは──)
考えられる事はひとつしかない。
あの人達はきっと、クロードを迎えにきたのだ。未開惑星エクスペルにいるクロードを、彼が本来いるべき場所──先進惑星の地球に連れ戻すために。
レナはあの場所に居たくなかったのだ。だからアーリアを出てきた。
「本当は、マーズにはクロードと来るはずだったんです。でも、出発の直前に、お客さんが……。『地球』から来た、って言ってました」
客人二人は、クロード以外の人に会話を聞かれたくないようだった。
理由は決まりきっている。周りはみんな『未開惑星』の人だからだ。
あの時のクロードのとても真剣な顔が、今もレナの頭から離れない。
「そんな、クロードが……」
セリーヌもすっかりしょげてしまったようだ。
かつて共に旅した仲間がいなくなるかもしれないと、いきなり聞かされたのがショックだったのか。それとも軽い調子でレナをからかったことを後悔しているのか。
それまで暗い表情で話していたレナは、それに気づくと、明るい声色をつくってセリーヌを励ました。
「大丈夫です、セリーヌさん。クロードは誰にも何も言わずに、地球へ帰ったりなんかしませんから」
先々の事を考えてつい塞ぎ込んでしまっても、これだけは強がりでもなく、自信を持って言える事だ。
自分がいない間に、クロードが地球に帰ってしまう事だけは絶対にない。
ひそひそとした話し合いもかなり長引きそうな様子だったし。なにより地球からやってきたあの客人達は、対面したクロードを無理やり自分達の『艦』に乗せて帰る、といったような手荒な事は一切しなかったのだ。
半ば飛び出すようにして村長の家を出たから、その後の事はよく覚えていないけど……
(大丈夫、わたしは気にしてない。だからセリーヌさんも元気だして、ね?)
今でもクロードはアーリアにいて、わたしの帰りを待ってくれているはずだからと。
レナの方を向いたセリーヌに、そう言い聞かせるようにゆっくりと頷く。
そんなレナの想いに、セリーヌも応えるように頷いた。
(よかった、ちゃんと伝わったかな?)
とレナがほっとしたのもつかの間。
「……そうですわね! クロードがそんな事、するはずありませんわね!」
何を思ったのか、セリーヌはとびきり大きな声で叫びだしたのだ。
「よーっし! 魔物なんてちゃっちゃとやっつけてしまって、さっさとアーリアに帰りましょう! あなたの顔をみれば地球に帰りたいだなんて気持ち、すぐにでも消えてなくなるに違いないですわ!」
鬱蒼とした森の中。
セリーヌの大音声が、目が点になったレナの周りを、ガンガンに反響していく。
気持ちはすごく嬉しい。
元気になったようで、なによりだとも思う……けど。
(セリーヌさん、ここ……紋章の森なんですけど?)
魔物を退治しにやってきたのに、よりにもよって魔物出現場所付近でこの大声。しかも元気に高笑いまで始めてるし。
……まさかセリーヌさん、ここがどこだか忘れちゃったのかしら。
「あの、セリーヌさん聞こえてます? もうちょっと、声を」
ひとしきり呆然とした後。
ようやく我に返ったレナが、慌てて彼女を止めた時だ。
ガサガサッというか、バリバリッというか。
いきなり森の中から、派手に木々が折れたような、そんな音が聞こえてきた。
音がしたのはすぐ近く。
レナ達のいる場所から、おそらく何十歩と離れていない場所だ。
「あー……やっぱり、ね」
「魔物! 探す手間が省けましたわね。行きますわよ、レナ!」
レナががっくり肩を落とす一方。
セリーヌは勢いよくそう言うと、音のした方へ颯爽と駆けていった。
きょとんとその後ろ姿を見送るレナ。
もしかして彼女は、今わざと大声をだして魔物を呼び寄せたのだろうか。
そう思ってもおかしくない素早い行動っぷりだけど、やっぱり今のはわざとやったようには見えなかったような。
なんかたまたま叫んだら、たまたま魔物が来ただけ、って感じがするような。
……というかそれはそれですごいけど。さすがはセリーヌさん。
「いけない。感心している場合じゃないわね」
と呟き、レナは駆け出した。
セリーヌの後を追わなくては。このままだと本当に何しに来たのかわからなくなってしまう。
レナはすぐにセリーヌの後を追いかけたが──
不思議な事に、先に現場へと向かったはずのセリーヌが魔物と交戦しているような物音が、少しも聞こえてこない。音が聞こえたのはついさっきで、さらに音がしたのも、レナ達がいた場所からとびきり近い場所だったというのに。
(もう逃げられちゃったのかな)
とにかく逃げ足が早い魔物、という事を聞いていたレナはそう考えながら走った。
ようやく音のした場所付近に到着したレナは、視界を塞いでいる邪魔な木の枝をよけながら、すでにその場にいるであろうセリーヌに聞いた。
「セリーヌさん? 魔物は?」
視界が開けた瞬間。
レナはさっき思った通り、目当ての魔物がそこにいない事を見てとったが──
「レナ、早く回復を!」
「はっ、はい!」
セリーヌは膝をつき、下を見たまま、緊迫した様子で追いついてきたレナに言う。
説明されるまでもなく状況を一瞬で把握したレナも、慌ててセリーヌの元に駆け寄っていった。
膝をついたセリーヌの前には、見知らぬ銀髪の女性が倒れていたのだ。
登場キャラ紹介。
・レナ(スターオーシャン2)
17歳。SO2本編の女主人公。
治癒能力を持つ、エクスペル在住のネーデ人の少女。一応格闘術も使える。
アーリアの実家で暮らしている。
まんまクロードED後です。アーリア暮らしの方。
……出番多いからあんまり説明する事もないですね、彼女は。
・セリーヌ(スターオーシャン2)
23歳。紋章術師の女性。紋章術師の里、マーズ村の出身。
主にトレジャーハントをして暮らしている。クロス大陸を拠点に活動。
例の特殊イベントは発生済み。数か月後設定なので、この時点ではまだ微妙な関係といった感じ。現在の彼女は一般ピープルとして存分に自由を謳歌しております。