スター・プロファイル   作:さけとば

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5-2. 嘘っぱちメリルさん(偽名)

 いきなり「私は異世界からやってきました」と聞かされた時、人はいかなる反応を示すものなのか。

 ついさっき「未来からやってきました」のくだりをやったばかりの今となっては、想像つかない人の方が極めて稀であろう。

 

 というわけで、一応説明しておこう。

 現在の場の様子は、満場一致で「なに言ってんの、このひと」状態であると。

 

 

「この世界の“艦”というものに乗れば、確かに夜空に浮かぶこの世界の星々に足をつける事は可能なのでしょう。けれど──、私はこの世界の人間ではない。私の世界に、“惑星”という概念などそもそも存在しない」

 

 しーんと静まりかえった空気の中。

 ポカンとしているみんなを気にも止めず、メリルさんは淡々と話し続ける。

 

「その“艦”に乗っても、私は私の世界に帰る事は出来ないと思うのです。ですから私は、エクスペルで私の世界に帰る“道”を探すため、あなた方の旅についていくべきだと判断を……」

 

「ちょ、ちょっと! ちょっと待ってください、今なんて言ったんですか!?」

 

 そこまで聞いたところで、いち早く我に返ったフェイトが慌ててメリルさんに聞いた。

 メリルさんも要望通りに、先ほど言った事を丁寧に繰り返す。

 

「帰る“道”を探すために、旅に同行したいと──」

「違う、もっと前です!」

 

 さらにせがまれ、メリルさんも丁寧に繰り返す。

 

「“艦”に乗っても──」

「もっと前!」

「それでは、私はこの世界の人間では──」

「それはさっき聞きました!」

「……」

 

 さすがのメリルさんもちょっとむっとした様子だったりするが、フェイトはそんな事お構いなしに彼女を問い詰める。

 

「そのすぐ後ですよ! なんか惑星がどうとか言ってませんでしたか、あなたは!?」

 

「ええ。私の世界にそんな概念は存在しないと、そう言いました。それが何か?」

 

 メリルさんは粛々と言い、怪訝そうに聞き返した。

 フェイトはというと、口を開けたまま何も答えない。呆然としている、といった表現がぴったりだ。

 未来から来た皆さん、およびクロードも遅れて何かを察したようで、「あ、これもしかしてやっちゃったかもしんない」といった表情を一様に浮かべている。

 レナはというと、

 

(異世界って何? 何なの? 艦に乗っても帰れないって……メリルさんは一体どうしちゃったの?)

 

 何が何だか分かってない。ただ困惑するばかりである。

 ちなみに同じく未開惑星人のセリーヌも思いっきり眉間に皺寄せてるから何が何だか分かってないとは思うけど、先の話を聞き洩らさないようしっかり注意を傾けている分、少なくともレナよりはマシと言えよう。

 しばらくしてようやく硬直が解けたフェイトが深いため息をつき、

 

「メリルさん、僕の質問に答えてください」

 

 と相変わらず粛々とした様子なメリルさんに聞いた。

 

「あなたの世界で、“星”は──どういったものだと考えられていますか?」

 

「星は燃えるものです。この世界と違って、そこに人が住みつく事などありえない」

 

 

 大体思った通りの答えを返され、フェイトはがっくりと肩を落とした。

 そんな中、他の皆さんがさほど気にしていない様子で口々に言う。

 

「やっちゃったわね」

 

「目の前で思いっきり喋っちゃいましたね。あんなこととか、そんなこととか」

 

「そういえばタイムゲートの事まで話しましたね、私達」

 

「あー……。ま、しゃーない。たまにはそういう事もあるさ。元気出せよ、な? フェイト」

 

「おいっ、なんで僕がただ落ち込んでるだけみたいな流れになって……どうするんだよ。お前が余計な事言ったせいで、よりによって……」

 

「そりゃお前、向こうが先進惑星人だって言うから」

 

「いいんじゃないの? どうせ過去の時代なんだし」

 

「条約違反もくそもねえってか。言えてるぜ。はっはっはっ」

 

「だからそういう問題じゃないっ!」

 

 

 向こうの方は大層盛り上がっているようだが、レナにはやっぱり何が何だか分からない。

 これ以上自分で考えてもやっぱり分かりそうにないので、隣で気まずげに顔をぽりぽり掻いているクロードに聞いてみる。ていうか最初からそうすればよかった。

 

「ねえクロード、みんなは一体何の話を……」

「メリルさんは未開惑星の人だよ、レナ」

「え」

 

 反射的に「でも」と口に出しそうになったところで、

 

「あー、そういう事ですの」

 

 セリーヌまで一連の流れに納得した様子。

 

(……メリルさんが、未開惑星の人?)

 

 そんなのおかしい。今までの彼女の振舞いは、どう考えてもクロードと同じ、先進惑星人そのものだったのに。

 でもクロードも、それにメリルさんも今、自分で「先進惑星人じゃない」って……

 困惑たっぷりにメリルさんの方を見て、レナが一生懸命考えていると、

 

 

「何か誤解をされているようですね。私は自分の事を、先進惑星の人間ではないと言ったのです。未開惑星の人間、とは一言も言っていません」

 

 メリルさんは毅然とした態度で、そう言い張る。

 フェイトはそんな彼女を見て、やれやれと息を吐き、

 

「いいですかメリルさん。あなたはただ事故で、あなたが元いた未開惑星から、あなたの知らない、どこか別の未開惑星に来ちゃっただけの人なんです」

 

 と仕方なしにメリルさんに言い聞かせたが。

 

「いきなり聞き覚えのない単語聞かされて否定したくなる気持ちは分かりますけど、あなたは間違いなく未開惑星の人なんです。あなたの言う“別の世界”が、エクスペルっていう“未開惑星”なんですよ」

 

「間違いなく、と決めつけられても現に違うのですから、私としては否定するほかありません。私の言った事、信じては頂けませんか」

 

「僕が言いたいくらいですよ、それは」

 

 

 フェイトもメリルさんも、互いに譲る気はないらしい。

 メリルさん自身は、自分は別の世界の人間だと主張している。

 けどフェイトが言うにはメリルさんは、自分が別の世界からやって来たと、そう思い込んでいるだけの未開惑星人らしい。

 

 そしてこの会話を聞いているレナとしては、どっちの言い分を信じればいいのか、正直ちっとも分からない。

 “異世界人”なんてありえないとは思うんだけど、でも目の前に“未来人”いるし。異世界人も何かいそうな気もする。

 それじゃ本当に異世界の人なのかも。メリルさん、未開惑星の人っぽくないし。でもフェイトさんの言う事も、なんかそれっぽいような……。

 

 レナが一生懸命考えながら、とりあえず両者を見比べている中。

 

「それじゃあ逆に聞きますけど、あなたはどうしてここが“別の世界”だって、そんなきっぱり言い切れちゃうんですか」

 

 とフェイトの方が切り口を変え、メリルさんに質問し始めた。

 

「ここが、あなたがこれまでに見た事のない場所だからですか? これまでに見た事のない道具でも見つけたからですか? それともここで、これまでに見た事のない、あなたの知らない種族にでも出会ったからですか?」

 

「それは……」

 

 メリルさんは何かを言いかけて止め、ため息をつく。

 

「あなたはこう言いたいのですね。己の世界の事をすべて知り尽くしているわけでもないくせに、己の知らないものを目にしただけで、どうしてここが“別の世界”だと断定できるのか、と」

 

 

 それは確かに、ここが“別の星”じゃなくて“別の世界”だと言いきれる根拠なんて、どう考えたってあるはずがない。

 エクスペル中を旅慣れた今となっても、レナはエクスペルの外の事なんて、クロードが教えてくれた事以外はほどんど知らない。メリルさんもそれは同じはずだ。

 

 メリルさん自身が今言った通り、いかに自分の住んでいる星の中を旅慣れていようと。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、自分の知らないものを目にしただけで“別の世界”だなんて、言い切れるはずがないのである。

 

 

「……あなたの想像通りです。私は自分に見覚えのないものを目にし、ここが私の住む世界とは違う“別の世界”なのだと判断しました」

 

 案の定メリルさんは、フェイトの正論に対して反論するすべがないらしい。

 

「あなたに示せる、具体的な根拠は何一つありません」

 

 目を伏せて仕方なしに答える彼女を見て、レナもようやくフェイトの言い分の方が正しそうだと思い始めた。

 

(やっぱり異世界なんてないのかな)

 

 思いながら周りを見れば、みんなは揃って「やっと分かってくれたか」といった視線をメリルさんに向けている。

 みんなはとっくにどっちの言い分が正しいのか分かっていたらしい。

 今の今まで必死になって考えていたのは、レナだけだったというわけだ。

 

「あなた方に信じて頂けない事は分かりました」

 

 ところがどっこい、どうしたってフェイトの言い分が正しいのにもかかわらず、メリルさんはまだ自分の主張を曲げようとしない。

 

「しかしそれでも私の世界は、この世界のどこかにある“未開惑星”などでは決してない。私が帰るべき世界は異世界にあるのです」

 

 言っている事にはやはりなんの根拠もない。さっき言った事の繰り返しだ。

 ただそれを言うメリルさんの態度はなぜか、自分の考えがみんなから否定されムキになって言い返しているだけの人にしては、不自然なくらいに落ち着いている。

 

 そんな彼女の態度が気にかかったらしい。

 まだそんな事言ってるんですか、と呆れたように口を開きかけたフェイトを、マリアが止め、メリルさんに聞いた。

 

「ねえ。あなた、FDって知ってる?」

 

 

 その一言で、未来から来た皆さんが一斉にメリルさんを見た。

 言ったマリア自身も、注意深くメリルさんの反応を観察している。

 

(えふでぃー? ……って、何?)

 

 向こうの皆さんのなんだか思わせぶりな態度に、レナが思いっきり首をかしげる中。

 

「それは何らかの共同体の名称ですか? 何度も言うようですが、私の世界はそもそも、あなた方の世界とは一切関係のない異世界にあるのです」

 

 とメリルさんはやや面倒くさそうに答える。

 

「あなた方が何を疑っているのかは知りませんが、私はそのようなもの、知りもしない。当然、あなた方の世界の煩雑な事情にも一切関わっていません」

 

 敵対勢力か何かの人間だと思われても困る、といった口ぶりだ。

 そしてそれは、未来から来た皆さんが思うような反応ではなかったらしい。

 みんな一斉に緊張を解き、マリアも安心したように息をついて、メリルさんに言った。

 

「ええそうね、私の思い過ごしだったみたい。知らないならいいのよ」

 

 メリルさんがわずかに頷いたのを皮切りに、フェイトが先ほど止めかけた事をまたメリルさんに言い聞かせる。

 

「メリルさん。やっぱりあなたは、どこからどう見たって、間違いなく未開惑星の人です。あなたが信じなくても、あなたが未開惑星の人だっていう事は変わらないんですよ」

 

 

 メリルさんはフェイトの言う事を、ただ黙って聞いている。

 理論ずくで言われた事だから、根拠もなく言い張る彼女としては、信じたくない事でも静かに聞くしかないのだろう。

 

(メリルさん……)

 

 誰も味方のいない彼女に、ここまできっぱり言う事ないのに。これじゃメリルさんがかわいそうじゃない。

 ──と、レナが思った矢先。

 

 

「あなたの中では、あなたが今まで生きてきた星の中が全部なのかもしれないですけど。あなたの知らない世界なんて、それこそ星の数ほど……」

 

「それではあなた方は、私の事をどう対処するおつもりですか」

 

「……え?」

 

 静かに聞いていたメリルさんが、いきなりフェイトの言葉を遮った。

 

 

「何も知らない私を“艦”に乗せるとでも?」

 

 ふいをつかれて言葉を引っ込めたフェイトをしっかりと見据えながら、メリルさんは続けて言う。

 

「私の事を、この世界のどこかにある“未開惑星”の住人と決めつけたところで、私にはそのような自覚は一切ありません。あなた方に告げるべき行き先など、私は結局何一つ知らないのです」

 

 

 メリルさんは相変わらず落ち着いている。口調も丁寧なままだ。

 けど──メリルさんは今、これまでのように、礼節を持って人と話すためにあんな態度でいるんだろうか?

 なにか違う。いつもの穏やかなメリルさんじゃない。

 

 これまでのメリルさんからは想像もつかない、どこか冷たい印象すら受けるメリルさんの様子に、レナが内心戸惑っている中。

 冷静に質問をぶつけられたフェイトが、呻くように答えている。

 

「それともあなた方の世界の乗り物は、己の行き先も知らない搭乗者を、望むとおりの目的地へ送り届ける事も可能だとでも言うのですか?」

 

「……そんなの無理ですよ。行き先を言ってくれなきゃ、僕達だってどうしようもできません」

 

「ですから私は、あなた方の旅についていくべきだと判断をしたのです」

 

 

 メリルさんの言い分を要約するとつまり──

 自分がただ勘違いしただけの未開惑星人だったにしろ、それは「自分も連れて行ってほしい」という要望を却下する理由にはなりえないだろうと。

 

 さらに要約するなら、

 “今までの会話なんてどうでもいいから私も連れてって”である。

 

 ……こんな強引な話の持っていき方って正直どうなの? と思うかも知れないが。

 現にお願いされる立場のはずのフェイトの方が困っているのだから、彼女の会話術はまあ成功していると言えよう。

 

 

 うろたえるフェイトを、メリルさんはなおも静かに見ている。

 二人のやり取りを見ていたクリフが鼻で息を吐くと、助け舟を出すようにメリルさんに聞いた。

 

「何も知らないってのは確かなんだな。あんた、自分の住んでる星の名前も知らねえのか」

 

「先ほど言った通りです。私の世界では、星はただ燃えるものだと」

 

 メリルさんはそっけなく言い返す。

 そんな彼女の態度に、今度はミラージュが少し困ったように笑うと、丁寧に繰り返して問いかけた。

 

「聞き方が悪かったですね。あなたが元いた世界に、あなたの世界そのものを指すような単語はありますか?」

 

「……。世界そのものを指す単語、ですか」

 

「ええ。この星の方々が言う、“エクスペル”のようなものです。もしあなたがそういった単語を知っているようであれば、そこからあなたの住む星を探し当てる事ができるかもしれません」

 

 ミラージュは親身になって、相談に乗るようにメリルさんに聞く。

 メリルさんの方もさっきと同じ態度ではいけないと思ったのだろう。ミラージュの言う事を真剣に考え込むように聞いた後。やや時間をおいてから、目を伏せて言った。

 

「……。私の世界では、“世界”は区別する必要のないものです。世界の名は“世界”でしかありません」

 

 メリルさんの言葉に、みんなはいっそう難しそうな表情だ。

 メリルさんの様子に戸惑うばかりだったレナも、周りのみんなの諦めムードに満ちた様子を見て、今の発言がどれほど重要なものだったのか遅れて気づく。

 

 メリルさん自身が帰る場所の名前を知らなければ、艦に乗せてもらっても意味がない。

 彼女がさっきからずっと「帰れない」と言っていた事が、今になって、レナにもようやく実感をもって伝わってきたのだ。

 

 

(それじゃあメリルさんは、……どうなっちゃうの?)

 

「街の名前くらいなら、いくつか答えられますが」

 

「そこから絞り込むのは、厳しいでしょうね。我々も、未開惑星の都市情報を、細部まで完璧に網羅しているわけではありませんから」

 

「そうですか」

 

 深刻そうに首を振るミラージュに、メリルさんは特に落ち込んだ様子もなく答える。まるで、最初からそう言われると想像がついていたかのようだ。

 

 一方ミラージュはというと、しばらく真剣に考えた後。

 黙って会話を聞いていたクリフに視線を送った。

 レナはもちろんクロードやセリーヌ、メリルさんも気づかない、未来から来た彼らにしか伝わらない意味のこもった視線。

 

 ずばり“思いつく手立てが一つありますが、どうしますか?”だ。

 

 視線を受けたクリフは、首をすくめて言う。

 様子を見ていたフェイトがほっとしたように小さく息を吐いた。

 

「手がかりはなし、ってことだな。あんたの言った通り、あんたを艦で送ってくってのは、どうも現実的な案じゃねえようだ」

 

「そのようですね」

 

 力にはなれないと宣告されたようなものなのに、メリルさんはやけに落ち着いた様子だ。

 こうなる事も、彼女は最初から分かっていたのだろうか。

 

「で、艦じゃ帰れそうにねえから、エクスペルで帰る“道”を探すつもりだと」

 

「ええ。確証はありませんが、そちらの方が可能性は高いのではないかと考えています」

 

 

 メリルさんに聞いた後、クリフはふむふむと独り言を呟く。

 

「巻き込まれ事故、ねえ……。転送装置の使えねえ、今度のエクスペル事情とも関係あるかもしれんな」

 

 言いながら、クリフはメリルさんをじっと見つめた。

 美人がどうとか言っていた時と違い、そこにおちゃらけた様子は少しもない。メリルさんも気後れする事なく、クリフの視線を静かに受け止めている。

 しばらくしてから、クリフがもう一つ確認をした。

 

「俺らがあんたの頼みを聞き入れない場合、あんたはどうする気だ?」

 

「その時は、一人で旅を続けるだけです」

 

(えっ?)

 

 

 相変わらず落ち着いた様子で話すメリルさんを、レナは信じられない気持ちで見た。

 これから一人で旅をするつもりなんて、そんなの無茶だ。

 

 だってメリルさんは、何の準備もなしにうっかりこっちに来ちゃった人で、荷物も何にも、お金すら持ってなくて、エクスペルの事なんか何にも知らない、考え方なんかはしっかりしすぎなくらいにしっかりしてるんだけどそれでも世間知らずが服着て歩いてるようなお嬢様で、それなのに、そんな彼女が一人でどうやって──

 

 

 クリフの問いにも、メリルさんは淡々と答える。

 

「土地勘もねえってのにか」

 

「こうみえて旅には慣れています。もちろん見知らぬ土地という事で、多少の苦労はあるでしょうが……。まあそのような事、いざとなればどうとでもなるでしょう」

 

「そうか」

 

 めちゃくちゃだとしか思えないのに。

 それなのにメリルさんは、やけを起こしているとか意地になっているとかいった風には見えない。

 彼女の言い方はどう聞いても、“場合によっては、自分は本当にそうするつもりだ”としか受け取れないのだ。

 

 

(ダメですよ、そんなの絶対……! なんでそんな事言っちゃうんですか!)

 

 レナがはらはらしながら、とんでもない事を言うメリルさんを見る中。

 一通りメリルさんの言い分を聞き終わったクリフがやっぱり鼻で息を吐き、横に目をやって言った。

 

「──だとよ。で、どうするんだフェイト?」

 

「なっ。……なんで僕に聞くんだよ」

 

 いきなり判断をぶん投げられ動揺するフェイトに向かって、クリフはしれっと言う。

 

「そりゃだって、嫌がってんのお前くらいだしな」

 

「はあ? なんだよそれ」

 

 と言いつつ周りを見るフェイト。

 

 

 ミラージュはクリフにならってフェイトの判断待ち。

 不安そうに見ているだけのソフィアとクロードに、同行者が増えようがなんだろうがどうでもよさそうなマリア。

 セリーヌとレナに至っては、まさか嫌なんて言わないよね? という圧迫感バリバリの視線をフェイトに送り続けている。

 

 特にレナはすごい。

 “困ってる人を見捨てようなんて、この人でなし!”みたいな。

 初対面の時の“クロードを地球に連れてこうなんて、ひどいわ!”に続き、二度目の悪者扱いである。

 

 あなたどう考えても未開惑星人ですからー、ってちょっと厳しめにツッコんだだけなのに。

 嫌だなんて一言も言ってないのに。ていうか一回目も誤解だし。

 

 

「こ……断るわけないじゃないですか。あなたみたいな人が一人旅するつもりなんて、無謀もいいところですよ」

 

「ありがとうございます」

 

 内心ちょっとショックだったりするフェイトは、なんか上手いこと嵌められたっぽいと思ったらしい。

 相手のお礼の言いっぷりを複雑そうな表情で受け止めた後。

 さっそくメリルさんに何かを言いかけたが、

 

「一緒に行くのはいいですけど……」

 

「よかったですね、メリルさん! 一緒に行ってもいいって!」

 

「ダメって言われたらどうしてくれようかと思いましたわ」

 

 安心したレナが、フェイトの言葉を遮ってメリルさんに元気いっぱいに話しかけ、ついでセリーヌも当然でしょと言わんばかりの態度で息をつく。

 いきなり話しかけられたメリルさんは、自分の事のように喜ぶ二人を、ほんの少しだけ戸惑った様子で見つめると、

 

「ありがとう。けど少し待って」

 

 さっきと同じ言葉を、さっきとは違う、レナが見慣れたいつもの柔らかな表情で言ってから。

 フェイトに向き直って真面目な顔で聞く。

 

「それで、今何と?」

 

「……。一緒に旅する前に、ちょっと、教えてほしい事があるんですけど」

 

 若干居心地悪そうに言った後。

 訝しむメリルさんに「そんな難しい事じゃないです」と前置きして言う。

 

「何も知らないくせに、どうして先進惑星人のふりなんかしていたんですか? 誤解されてとんとん拍子に話が進んじゃったにしろ、違うなら違うって言えばいい話じゃないですか」

 

 

 すっかり安心しきっていたレナも、その質問でまたすぐ不安になる。

 確かに、どうしてメリルさんは“違う”って言ってくれなかったんだろう。

 さきに勘違いしたのは自分達だったかもしれないけど。フェイトの言う通り、彼女の方も否定もせずに、わざと“先進惑星人のふり”をし続けていたのだ。

 

 他のみんなも同じく気になるようで、メリルさんの答えをじっと待っている。

 やや間を置いてから、メリルさんは静かに言った。

 

 

「その質問、答えないわけにはいかないのでしょうね」

 

「まあそうね。あなたがあんな紛らわしい態度さえしなければ、こっちも余計な事を言わなくて済んだわけだし?」

 

「んなやましいところがあるやつと、これから一緒に旅ってのも……なあ?」

 

 聞いているメリルさん自身も、彼らの言い分はもっともだと思ったらしい。

 ふと表情を緩め、

 

「分かりました。質問に答えましょう。といっても……これもあなた方に納得して頂けるような、明確な理由があったというわけではありませんが」

 

 そう言い、レナとセリーヌの方をちらと申し訳なさそうに見てから言った。

 

「誤解をそのままにしておいた方が、私にとって都合がよかったからです」

 

「都合って、なんですか?」

 

 戸惑いつつ聞き返したレナを見て、メリルさんはやっぱり申し訳なさそうに続ける。

 

 

「“事故でエクスペルにやってきた先進惑星人”という私に、あなた達は親身になってくれたから。だからそのまま先進惑星人のふりをして、この世界の事を──私が元の世界に帰るために必要な事を、あなた達から教えてもらうべきだと思ったの」 

 

 これまでの事は全部、自分の置かれた状況を見据えたうえでの行動だったと。

 彼女の口から語られるのは、どこまでも冷静な言葉ばっかりだ。

 

「この先、あなた達と別れた後も、この世界での行動に戸惑う事がないように」

 

 メリルさんは最初から、レナ達の言う通りにしたところで、自分が“帰れる”なんて思っていなかったのだ。

 それどころか彼女は今、“別れた後”と言った。

 レナ達と一緒にアーリアまで来た後は──

 レナ達と別れて、レナ達から教わった知識を頼りに、一人でエクスペルを旅する事まで考えていたのだ。

 

「誤解を解く機会は何度もありました。それをしなかったのは、ここで彼女達に見捨てられては困ると思ったからです」

 

 フェイト達にも向けて、つらつらと打ち明けた後、

 

「私が“先進惑星”の人間ではない事を知ったら、彼女達は私の事をどう見るだろうかと。手に余る事柄だと判断されれば私は一体どうなるのかと、そのような不安ばかりが先立って、それでつい──」

 

 それからメリルさんはレナ達に向き直り、どこか寂しげに微笑んで言った。

 

「今までずっと騙していて、ごめんなさい」

 

 

 メリルさんが今言った“ごめんなさい”は、本当の事を言わずに、わたし達を自分に都合のいいように付き合わせていたから、っていう事なんだと思う。

 けど違う。メリルさんは誤解している。

 

 だってわたしは……メリルさんの事を先進惑星人だと思っていたから、メリルさんにそう“騙された”から、助けようとしたわけじゃないもの。

 

 ──などとレナが思う一方。

 

 

「つまりあなたはそんな理由で、今までずっと先進惑星人のふりをしていた、って言うんですか?」

 

「そんな理由で、ついつい言い出せなかったと」

 

「ええ。ですからあなた方に納得して頂けるような理由ではないと、そう言いました」

 

 そんな事ぐらいで? と訝しむフェイト達に対して、メリルさんは“だって本当にそうなんだから説明しようがないじゃない”というような返事をしてみせた。

 

「私の紛らわしい態度のせいで、あなた方に本来私の前で言うべきでなかった事を口にさせてしまった事、心よりお詫びいたします」

 

 さらには俗に言う、心のこもってない謝罪である。

 一応頭こそ下げたものの、なんなら“勝手に喋ったのそっちじゃん”みたいな、開き直りじみた態度すらひしひしと滲み出ている。

 

「……」

 

 当然そんな対応されちゃった方は、彼女の言い分をそのまま信じる気にもなれず。

 約一名のお人よしを除いたこの場の全員が、思い思いの「うさんくさー」という表情で、一体何を思っているんだか知らないけど堂々と居直って相手の受け答え待ちをしちゃっているメリルさんの事をじーっと見つめる中。

 

 

「……そうですの」

 

 納得いかなげに言ったセリーヌを見て、一瞬かすかに、メリルさんの表情に動揺の色が浮かぶ。

 目を伏せ、「ごめんなさい」と静かに繰り返したメリルさんをしばらく見た後。

 セリーヌは仕方なさそうに言った。

 

「まあ、あなたがそう言うのなら、そういう事にしておいてさしあげますわ」

 

 

 セリーヌに“信じる”と言われても、メリルさんはやはりどこか気まずげだ。

 

(今まで嘘ついてた事、気にしてるのかな)

 

 メリルさんが後ろめたく思う事なんてないのに。

 本当の事言ったら見捨てられるかもなんて、そんな風に思われてた事はちょっとショックだけど、でもそれだけだ。

 

 メリルさんはつい不安に思っちゃっただけなんだ。

 いきなり知らないところに来ちゃって、自分達以外に頼れる人が誰もいないって状況になっちゃったら、見捨てられたくないって、つい嘘ついちゃう気持ちにだってなるはずだ。

 そんな彼女を責める気になんて、なれるはずがない。

 

 

「メリルさん。帰れなくて困ってるのは、本当なんですよね?」

 

 わたしはそんな事、全然気にしてないですよ。そんな思いが伝わるような、とびきり温かな笑顔をつくって、レナはメリルさんに話しかけた。

 

「……ええ、そうね」

 

 気まずそうに答えるメリルさんに言い聞かせるように、さらに優しい声色で言う。

 

「だったら、“ごめんなさい”なんてメリルさんが謝る事ないです。だってわたしメリルさんが先進惑星の人じゃなくっても、メリルさんの事、きっと今と同じように助けたいって気持ちになってたと思うから。……セリーヌさんだってそうですよね?」

 

「ええまあ、そうですわね」

 

 セリーヌは首をすくめて同意する。

 そのセリーヌと、それとあえて無表情なその他の皆さんの視線の先。

 ひたすらあったかーいお言葉をレナより頂いているメリルさんは、ぶっちゃけさっき以上に気まずそうだったりするが……

 

「メリルさんを助けたのは、メリルさんに都合のいいように言われたせいなんかじゃ絶対ありません」

 

 レナはまだ気づかない。

 つと顔をそむけたメリルさんに向かって、会心の笑顔で言い放った。

 

「わたしもセリーヌさんも、騙されたなんて思ってないですよ。だってわたし達が好きでやってた事なんですから」

 

 

 さてそこまで言われてしまったメリルさんはというと。

 しばらく眉間に皺寄せて、なにやら一生懸命に考え事をした後。

 ふうと息を吐き、

 

「こういうごまかしは、やっぱりよくないわね」

 

 と独り言を言った。

 そうしてから、メリルさんは再びレナに向き直った。

 

 

「ごめんなさい、さっき言った事は忘れて」

 

「え? 忘れる、ってメリルさん、それはなんの……」

 

「二人の事を信じていなかったわけじゃないの。私が本当の事を言わなかったのは、単に私の側に、人には言いたくない隠し事があったからよ」

 

 いきなりそんな事を言われ、何が何だか分からず戸惑うレナを、メリルさんはじっと見ている。

 

「隠し事、ってなんですか? メリルさん?」

 

 忘れて、というのが“見捨てられたくなかったから嘘ついた”の事だと、ようやく理解できたレナがそう聞くと。

 レナを見ていたメリルさんが、

 

「まずは、その名前……かしらね」

 

 考え込みながらぽつりと呟いたかと思うと、はっきり言った。

 

 

「私の名前はレナスよ」

 

 

 

「……。え?」

 

 しばし時間を置いてから、今のは一体どういう意味なのかしらとバカみたいにぼうっとした頭で考えつつ、

 

「レナス、さん?」

 

 と本人に確認してみれば。

 目の前にいる“メリルさんだった人”はこくりと頷く。

 

「あの、じゃあ……メリル、っていうのは」

「ごめんなさい」

 

 困惑しっぱなしのレナに向かって、メリルさん(偽名)もといレナスがもう一度謝ったところで、

 

「そこも嘘だったんですのね」

 

 セリーヌがやや呆れた様子で言った。

 

 

「驚かないのね」

 

「そりゃまあ、一応は驚いてますけど。どうせそんな事じゃないかと思ってましたし」

 

 えっ、そうなの? と耳を疑うレナと、あまりのうさんくささに呆れ返っている周りの皆さんをよそに、

 

「それに、わたくし達に見捨てられるかもしれなくて、なんて言われるより、自分の素性を隠したいから嘘をついていた、って言われた方がよっぽど納得いきますしね」

 

 と二人の会話は続けられていく。

 

 

「でも、言っちゃってよかったんですの? 偽名使ってまで隠しておきたい名前だったんでしょう?」

 

「この世界ではなんの意味もないようだから。あの時はとっさに“メリル”の名を使ったけど──」

 

 レナスはそう言ってから、

 

「本当はここが別の世界だと、確信を持った段階で言うべき事ね。“先進惑星人”の事も含めて」

 

 と改まってレナ達の方に向き直り、謝罪した。

 

 

「私は自分の都合で、あなた達に嘘をつき続けていたわ。本当にごめんなさい」

 

「だから謝らなくても結構ですって。偽名使ってたにしても、困ってるのはやっぱり本当なんでしょう?」

 

 セリーヌの方はまったく気にしていない様子。

 なんでもない事のように言って、レナに同意を求めてきた。

 

「騙してたとか嘘ついてたとかなんとか、そこまで大げさに言う話でもありませんわ。ねえレナ?」

 

「えっ? ……そっ、そうですよ! わたし達、全然気にしてないですから! だからメリルさんも……じゃなくてえっと、レナスさんも気にしなくて大丈夫ですよ?」

 

 不自然なほどに一生懸命同意するレナを見た後。

 レナスはほんの少しだけ、安心したような、寂しそうな微笑みを浮かべた。

 

 

「本当に、あなた達のような人間に助けられてよかったと思うわ」

 

 

 言葉通りの意味に受け取るのが普通なのだろう。

 だけど一瞬だけ戸惑ってしまったレナが、それ以上何も言えなくなってしまったところで、

 

「あー、もういいか? で、あんたが本当の事素直に言わなかった理由っつうのは分かったが」

 

 クリフの咳払い。

 次いでマリアが言う。

 

「肝心な事を言ってないわよね、あなた」

 

 未来から来た皆さんは、当然のごとく揃って訝しげな表情である。

 そちらに視線を移したレナスに向かって、フェイトが代表して聞く。

 

「レナスさん、ですよね。先進惑星人のふりして、偽名使ってまで、ごまかしたいあなたの素性って一体なんなんですか」

 

 レナスは少しの間、考えるそぶりを見せてから

「このような事、今まであなた方を謀っていた私自らが言う事ではないのかもしれませんが」

 と言う。

 

「私が名を隠さなければならないような立場にあるのは、あくまで私の世界の中に限った話です。この世界では、私はただの一個人でしかありません。ですから」

 

「素性を聞かれる筋合いはないと」

 

「都合のいい話ね」

 

「これからあなた方と旅をするにあたって、私の元の世界での立場があなた方を困らせるような事はないと、そう言っただけでは納得して頂けませんか」

 

「おいおい。そりゃあんたにしっかり話を聞かせてもらったうえで、俺らが判断する事だろうぜ」

 

「そうですか。分かりました。では──私は決して、日の下を歩けぬような疾しい立場の者ではありません」

 

「……。あの、すみません。怪しさしか感じないんですけど」

「っていうか、やましくなかったら言うわよね、普通に」

「なあ、お前本当にそれでいけると思ったのか?」

 

 

 などとごちゃごちゃ言い合っているところで。

 セリーヌが横から言った。

 

「その辺は大丈夫だと思いますわよ? 彼女、ただ世間知らずのお嬢様なだけだと思いますし」

 

 

「あ? お嬢様だあ?」

「そうなんですか?」

「本当に?」

 

 揃ってじろじろとレナスを見るみんなに、セリーヌは重ねて説明する。

 

「だってほら、見てみなさいな。言動からして思いっきり世間様から浮いているじゃありませんの」

 

「はあ、確かに」

「中々いないですよね、こういう人」

「とりあえず、賊の類いに見えねえ事だけは確かだな」

 

「それに人に怪しまれたくないようなやましい事情があったら、普通はもっと怪しまれないような演技をすると思いませんこと? 例えば、なんかてきとうな身分でっちあげるとか……。それをあんな言い方、自分から怪しんでくれと言っているようなものじゃありませんの」

 

「確かにそうね。これで本当にやましい事情があったら」

「バカだな、ただの」

「けど、その辺全部計算に入れての演技ってことは……ないですね、やっぱり」

 

 

 言いたい放題である。

 そして言われているレナスは心なしかむっとした表情で、それでも反論ひとつせず彼らの品定めが終わるのを待っていたりする。

 

「ただ世間知らずなだけのお嬢様、ですか。まあ、なんとなくはわかりましたけど」

 

「なんであんなごり押しで隠そうとしたのかな」

 

「さあ? それこそ賊対策とかじゃない?」

 

「それもあるでしょうけど、別の世界に来てまで、元の世界みたくお嬢様扱いされるのが嫌だったんでしょう、きっと。まあよくある話ですわね」

 

 

 とびきり説得力のある憶測をセリーヌが述べてまとめたところで、みんな「なるほど」と頷いて終わった。

 審議の結果は、セリーヌが言った通り──

 

 レナスはただのお嬢様で、隠してた理由は単に「だって言いたくなかったんだもん」であると。そういう事でまとまったようだ。

 黙って会話を聞いていたレナスが、どこかしら本意ではなさそうな表情で確認をとる。

 

「私に害意は一切ない事、理解して頂けましたか」

 

「おう。明日からよろしくな、レナスお嬢様」

 

 クリフのわざとらしい返事に、レナスは嫌そうに眉をひそめてから言う。

 言っている内容もその言い方も、“特別扱いしてほしくないお嬢様”そのものとしか思えない自然さだ。

 

「先ほども言いましたが……。これからあなた方と旅をするにあたって、私はただ一個人として振舞うつもりです。従ってあなた方にも、私をそのように扱って頂ける事を望みます」

 

「じょーだんだよ。こっちも要人接待しながらの旅なんつう、考えただけで肩がこりそうな事はごめんだからな。お望み通り、そこらの一般人と同じように扱わせてもらうぜ」

 

 やり取りを聞いていたフェイトが呆れたように「だったらなぜあんな言い方を……」と呟くと。

 クリフはこれまたわざとらしい調子で言い返す。

 

「そりゃだって、向こうはアレが一個人としての振舞いだと思っていらっしゃるみてえだし? だったらこっちもそれなりの礼儀で返すべきじゃねえの?」

 

「おい。喧嘩売ってどうするんだよ、明日から一緒に旅する人だぞ? もっとこう、自然な言い方ってものが……」

 

「よそよそしい態度で悪かったわね。──これでいいかしら? クリフ」

 

 無愛想に突然口調を変えたレナスを見て、クリフは勝ち誇ったように口角を上げて言う。

 

「分かって頂けたようでなによりだ」

 

 

 レナスは息を吐いた後。

 話のなりゆきを気後れがちに見ていたり、静かに見守っていたり、はたまた興味なさそうにただぼーっと待っていたりしていたみんなに向かって、改めて普段通りの言葉づかいで挨拶をしたのだった。

 

「明日から世話になるわね、みんな」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 このエクスペルには大雑把に分けると、今いるクロス大陸を入れて、エル大陸とラクール大陸の三つが存在する。

 対して明日から旅に出ようというメンバーは、このままアーリアでお留守番するというミラージュを除き(小型艦を残して全員が遠くに離れるわけにはいかない、という事らしい)、全部で八人。

 

 せっかく八人もいるのだから全員で同じ所を調べて回るより、途中で二手に別れようという事で。今はみんなで、誰がどの方面に行くかの話し合い中だ。

 

 

 みんな明日からは、一緒に旅する仲間だ。

 それぞれお互いに「これからよろしくね」とくだけた挨拶を改めて交わしたりした後は、雑談混じりになった話し合いも、おおむねなごやかな雰囲気で進行中。

 

 レナも年頃が近そうなソフィアに、これからは敬語なしで話してくれるようお願いしてみたり。

 いろいろあって個人的に印象があまりよくなかったフェイトも、話してみれば普通に人のよさそうな青年で(さっきレナスを散々に問い質していたのも、気になる事があったらつい指摘しちゃう性分というだけの事だったらしい。ツッコミ体質とかいうやつだろう)、これなら仲良くできそうねと安心したり。

 

 まあみんないい人じゃなかったら、宇宙の危機がどーたらなんてうさんくさい情報に振り回されて、過去の世界にまで来たりはしないだろう。

 これなら誰と一緒になっても、性格的な面での問題は起こらなさそうな感じではあるけど──

 

 

 

 現在はレナスやクリフも、ミラージュが見守る中、同じく大人組なセリーヌを交え、地図を指差しながら普通に仲良く話し合い中。

 

「マーズはこの位置にあるのね?」

 

「ええ。この分かれ道を右に行った先ですわね。そのまま街道をまっすぐ行けば、ハーリーの港ですわ」

 

「……クリフ。一度、私が助けられた場所の確認をしておきたいの。痕跡は残っていないと思うけど、何か手掛かりがあるかもしれないから」

 

「分かった。んじゃ、お前はラクール行き方面希望……と」

 

 というか片方はすでに“お前”呼ばわりである。最初の頃は「美人の姉ちゃんぐへへ」みたいな態度だったくせに。

 言われてるレナスさんも、別に気にしてないみたいだし。

 会話に加わっているセリーヌさんも、まるで何にもなかったみたいに普通だし。

 

 

(大人って、分からないなあ……)

 

 “大人”というか、レナがよく分からないと思っているのは、その実“あの中にいる特定の一人”だったりするわけだが。

 

 向こうの落ち着いた様子を見て、レナがすっかり気の抜けたような息をもらす中。

 クロードとフェイト達も、好き勝手に談話を続けている。

 

 

「未来だと回復術は誰でも使えるって、それじゃフェイト、君も?」

 

「いや僕は、あんまりそういう勉強はしてなかったから。どっちかって言うと、体を動かしている方が得意かな」

 

「体を動かすゲームだよね、フェイトの場合」

 

「ゲームで? 体を動かす? 指じゃないのかい?」

 

「あ、それはねー……」

 

「ダメだソフィア。その言葉もそれ以上言ってはいけない」

 

「っていうか、普通にバスケのゲームでいいんじゃないの?」

 

 

 同じく向こうの方は向こうの方で、今も話し合いが普通に続けられている。

 その様子を見れば見るほど、レナの釈然としない気持ちは増すばかりだ。

 

 

「この星にも魔物はいるっつう話だし、一応戦力面も考えといた方がいいな。……つってもまあ、ここにいるのは十賢者を倒したあの英雄の皆さま方だ。シロウトは一人もいねえから、相性のみでの組み合わせになるだろうが」

 

「クリフ。彼女の事を忘れていませんか?」

 

「あ? ……そういやそうだったな。お前、戦闘経験はどれくらいだ?」

 

「直截的な質問ね。あるはずがない、と言いたいところだけど……。自分の身を守れるくらいの腕はあるつもりよ」

 

「それについてはわたくしも保障いたしますわ。ここに来る途中、彼女は魔物を一匹、護身術で返り討ちにしてますもの」

 

「ほーそうかそうか。だよな、魔物一匹撃退できねえやつが一人旅できるわけねえもんな。安心したぜ」

 

「……」

 

「やっぱり喧嘩売ってますわね、あなた」

 

「じゃ、改めて、戦力面での問題もなし……と」

 

 

 向こうの会話が一区切りついたらしきところで、ソフィアが急に目を輝かせて主張し始めた。

 

「クリフさん、わたしラクールに行きたいです! お願いします、わたしをラクール組にしてください!」

 

 理由は知らないけど、こんな元気いっぱいな彼女を見るのは初めてだ。

 いや、自分の前でたまたまそういう一面を見せていなかっただけで、実は“彼女”は、元からそういう性格なのかもしれない。きっとそれだけの事なんだ。そんなのよくある事だ。

 はしゃぐソフィアをぼんやりと見ながら、レナはぼんやりと思う。

 

「おいソフィア、それってまさか……。ダメだ危険すぎる、絶対ダメだ!」

 

「やだ! ラクール行くもん、絶対行くもん!」

 

「分かってるなクリフ、ソフィアを絶対ラクールに行かせるな! ラクールだけはダメだ!」

 

「ちょっと、なんでそんな事言うのよ! わたしがどれだけラクールに行きたいか、フェイトなら分かるでしょ?」

 

「分かるからダメなんだよ! だって……ソフィアだぞ?」

 

「どういう意味よ!?」

 

「おいうるせーぞお前ら。とりあえず落ち着いて話せ。こっちの話が終わった後にな」

 

 

 クリフに叱られた二人は、両者むっとした表情で、今度は小声で言い合いっこを始めた。

 

「認めないからな」

「いいもん、別に。クリフさんに頼んでるんだもん」

 

 今ので気が散ってしまったらしく、二人のやり取りをクリフが呆れたように見ている。

 レナの気も散りっぱなしだ。

 玄関の方で突然がちゃりと開いたドアの音にすぐ気が向いたのも、ごく当然の事と言えよう。

 

(レジス様かな)

 

 と思った時にはもう、レナは椅子から腰を上げていた。

 

 

「レナ?」

「手紙の事、レジス様に報告しとかなきゃ」

 

 部屋の入り口まで歩いてから振り返り、

 

「あ。わたしの分も、他のみんなで決めちゃっていいから。特に希望もないし」

 

 みんなにそう告げてから、ドアノブに手を伸ばす。

 一瞬レナに注目を向けたクリフ達も、レナの言葉を理解したように聞き届けた後、気を取り直したように話し合いをまた続けている。

 

「それで、どこまで話したんだ? ……ああ、護身術で魔物を倒したってトコまでか。んじゃ、お前の戦闘スタイルは格闘って事でいいのか?」

 

「いえ。できることなら……」

 

 その会話を最後まで聞かないうちに、レナは部屋の外へ出た。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「おおレナか。早かったの」

 

「……お邪魔してます、レジス様」

 

 廊下に出てすぐ、レナは思った通りの人物に話しかけられた。

 村長レジスは柔和な笑みを浮かべてレナに聞く。

 

「無事に戻りなによりじゃ。ボスマンも一緒か?」

 

「あ。すみません、その事なんですけど……」

 

 レナは村長レジスにこれまでの事を、一部事情を伏せて説明した。

 一部事情とはつまりレナス関連の事だ。

 迷子の先進惑星人(だと思っていた人)を、同じ先進惑星人に送ってもらおうと思って早く帰って来た、とはさすがに言えない。村長は、今も自分の家に滞在している客人達の正体はおろか、『先進惑星』という単語すら知らないはずなのだ。

 

 全然大した事ではないけども、ちょっとした用事を思い出したから、マーズでばったり出会ったセリーヌ、レナスと一緒に一足早く帰って来た……。

 そんな言っているレナ自身も下手なごまかしだなと思っちゃうような説明を、村長レジスは何一つ問い詰める事なく理解した。

 いいのかな、と後ろめたく思うレナに、村長レジスは言い聞かせるように言う。

 

 

「一人で帰って来たわけではないのじゃろう? それなら大丈夫じゃ。手紙もきちんと渡してくれたようじゃしの」

 

 レジス様は馬鹿じゃない。レナの見え透いた嘘なんて、簡単に見抜いているはずなのだ。

 それでも本当の事を追求しようとしないのは──

 レジス様の優しい目は、きっとレナにこう伝えようとしているに違いない。

 事情があるのなら、本当の事を教えてくれなくても構わない、と。

 

(気になったりしないのかな、レジス様。……色々)

 

 フェイト達は一週間もの間、ずっとこの家にお世話になっているのだ。レジス様に何一つ、本当の事を言わずに。

 自分の家で、ずっと自分の耳には入らないようなひそひそ話をされ続けて、レジス様はフェイト達の事、本当に何も思わないのだろうか?

 

 

「あの、レジス様。レジス様は……今いるお客様の事、どう思ってますか?」

 

 戸惑いのままに聞いてきたレナを見て、村長レジスはひげをなぞりながら、困ったように答える。なんでそんな事を聞くのか分からない、といった様子だ。

 

「どう思うも何も。彼らはクロード君の所に来たお客様じゃろう? わしのお客様ではないからのう……」

 

「それは……分かってます。けど、そういう事じゃなくて」

 

「クロード君が認めた客人じゃ。信用ならない、とは思っておらん」

 

 返事に詰まるレナに、村長レジスは片眉をあげ「これでいいかの?」と確認してきた。

 

「そう、ですよね。すみませんレジス様、ヘンな事聞いて」

 

 本当にヘンだ。わたしはなんでこんな事、レジス様に聞いたんだろう。

 レジス様がそんなちっぽけな事、気にするはずがないのに。

 心の中の、自分自身に対する戸惑いを振り払うように気持ちを切り替え、レナは村長レジスに元気いっぱいに報告をする。

 

「レジス様。わたし明日から、旅に出る事にしたんです。あの人達と一緒に」

 

 

 みんなと一緒に旅に出る。

 新しい仲間と、新しい冒険の旅に。

 考えただけでわくわくするような事が待っているっていうのに、ちっぽけな事いつまでも気にしたってしょうがない。

 

 事情があったから、本当の事を言われなかっただけだ。

 本当の名前を教えてくれなかったのだって、事情があったからだ。

 レナスさんは「ごめんなさい」って言ってた。事情があったから、仕方がなかったから今まで嘘をついていたんだ。

 

 事情があるから嘘をつく。そんなのわたしだってやってる事じゃない。

 気にするなんてどうかしてる。わたしだって子供じゃないんだから、セリーヌさんやレジス様みたいに、もっと大人な対応をするべきなんだ。

 

 

(それに、出会ってまだ四日しか経ってないもの。知らない事なんて、たくさんあって当たり前なのよね)

 

 レナスのこれまでの言動についても、結局レナはこう割り切る事にした。

 一方いきなり重大発表を聞かされた村長レジスは、面食らった後、やれやれといった様子で言う。

 

「そんな気はしておったが、明日とは……。ウェスタも気が休まらんの」

 

 その言葉を聞かされた今になってようやくレナも、旅に出る事を母ウェスタに何にも言わず、その場の勢いで決めてしまった事に気づく。

 お母さんになんて言おう。お母さん、寂しがるかな……。

 そんな後ろめたさが頭をよぎったりもしたが、そんな心配事で現在レナの心に燃え上がる気合の炎が消えたりはしない。

 

 もう決めた事なんだから。気にしたってしょうがない。

 とにかく元気よく旅立とう。そうしよう。

 

 

 ありがたい事に、これから一緒にレナの家にいる母ウェスタに、事情を説明しに行ってくれるというレジス様と並んで歩きつつ。

 レナは心の中で、自分に強く言い聞かせる。

 

(今までの事が全部“嘘”だったわけじゃないよね。これからもっと、仲良くなれればいいだけなんだよね)

 

 

 あの時「全然気にしてない」って言ったわたしの嘘を、彼女は見抜いていた?

 気づいてたのに、彼女はあんな顔をして言った?

 ううん違う。そんなはずない。

 だってそれじゃ、まるで……

 

 

 ──本当に、あなた達のような人間に助けられてよかったと思うわ。

 

 そう言われたあの時、自分が彼女に抱いた小さな疑惑は。

 自分がいっつもよくやらかすような、そそっかしい思い違いでしかなかったのだと。

 彼女の事を、心の奥底から強く、信じきる事ができるように。

 




 説明回後半終了。
 本文詰め込みすぎてごちゃごちゃになってしまった感があるので、旅の目的等を以下簡単にまとめてみました。

・SO3の皆さん
 ヘンな信号の内容を確認する。
 本当に宇宙ヤバくなりそうだったらどうにかする。
 信号送りつけた奴も探す。いたずらだったらふん捕まえてとっちめる。

・“メリルさん”をやめたレナスさん
 元の世界に帰るための“道”探し。そんだけ。

・SO2の皆さん
 いい子。
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