スター・プロファイル   作:さけとば

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二章
1. 英雄 & よくわからない人と一緒に旅するという事


 なんか変なメッセージ送られてきたんだけど心当たりない? ちゃんと調べに行った方がいいんじゃない?

 

 そんな感じの忠告を前の冒険でお世話になった、元上位世界であるFD世界の住人ブレアより受け、紆余曲折の後。

 マリアが久しぶりに連絡を取ったクリフ達とも一緒に、ディプロごとタイムゲートをくぐって変なメッセージの送り元であるここ、過去のエクスペルにやってきてから二週間くらい経った今現在。

 

 周りに流されるままここまでやってきたフェイトは、夕闇の迫る中、街道脇で酢飯を混ぜ込みつつしみじみ思う。

 

(本当に、宇宙は広いな)と。

 

 

 数か月前、わけあって未開惑星エリクール内を現地住民と一緒に旅した事もあるフェイトは、これでも未開惑星に住む人々のたくましさは十分に知っているつもりだった。

 ──のだが、この現状を落ち着いて考えてみればみるほど、自分の認識は甘かったのだとはっきり思わざるを得ない。

 

 視線を落とせば、自分が酢飯を混ぜ込む桶代わりに使っているのは円形の盾。

 視線を上げれば、すぐ隣ではなりゆきで同行する事になった自称異世界人さんことレナスが、うちわ代わりのなんからくがきが描いてあるカンバスで戸惑いがちに酢飯をあおいでいる。

 

 さらに視線をよそに移せば、そこには自宅で晩ご飯作るがごとく楽しげに鼻歌を歌いながら万能包丁で魚の切り身を捌いている、英雄レナの姿があった。

 

(本当に、すごいよな。こんなところで寿司作れるってさ)

 

 

 ここ屋外だよ?

 エリクールの工房みたいな設備もなんにもない野っぱらで食べられるご飯って、普通たかが知れてるじゃん。せいぜいその辺で魚捕ってきて焼くくらいだと思うじゃん。

 まさか生ものが召しあがれるとは思わなかった。

 

 

 キャンプ飯ってこういうんじゃないだろう。

 心の中でつっこみつつ、フェイトはこれまでの出来事をぼんやりと振り返る。

 

 向こうの四人と別れてからほどほどに歩き続けたフェイト達四人は、暗くなる前に今日の野営場所を決めたのだった。

 荷物を下ろし、水汲みや焚き木集めを始めたところまでは至って普通の野宿形式だったと思う。お嬢様のレナスがレナに指示を出されつつも、思ったより協力的に野営準備を手伝ってくれたのが少々意外だったくらいだ。

 

 おかしくなったのはそこから先、火をおこした後、レナがクリフに持ってもらっていたなんかやたらかさばる道具袋から、次々に道具やら食材やらを取り出し、

 

「それじゃ、晩ご飯を作りましょうか」

 

 と当たり前のように爽やかな笑顔で言ったところからだ。

 

 ここにいるクリフ以外の二人は、まだ知り合って間もない仲間だ。

 これから先、彼女達とうまくやっていくためにも、みんなで協力してご飯を作るという事自体はいい事だとフェイトも思う。場所の是非はともかくとして。

 

 しかしなぜ寿司なのか。

 

 そして兵士達は時に己の装備品を鍋代わりにして調理する事もある、という話自体はフェイトもなんとなく聞いた事はあるが、レナが「これを使ってね」と言ってフェイト達に渡してきた盾もらくがきも飯ごう代わりに使った兜も全部、誰の装備品でもない。

 盾ははなから持ち手がとれている。兜のてっぺんはよほど火に炙られているのか、べこべこにへこんでいる。つまり本来の用途として使われている気配ゼロだ。

 

 もう鍋そのものを持ち歩けばいいのではないか。

 

 

 思い返せば今日昼過ぎに別れたクロードも、当たり前のようになんかやたらかさばる荷物を抱えていた。クロスではセリーヌも買い物の際、当たり前のように米とか肉とか卵とかを買い込んでいた。

 当たり前の事なのだ。

 彼ら英雄にとって、野宿先でも家と同じようにご飯を作るというのは。

 

 それとももしや自分が今まで知らなかっただけで、エリクールがそうではなかっただけで、未開惑星の人々全部にとってこれは当たり前の事なのだろうか。

 

 すぐ隣で酢飯をあおいでいる自称異世界人のどうみても未開惑星人さんの表情からは、フェイト以上にわけもわからずやらされてる感しか伝わってこないが。この人は初対面の人間との距離感さえろくに測れないような、とびきりの世間知らずさんなのでまったく参考にならない。

 ただ自分の常識ではありえない旅のあり方を目の当たりにして、

 

(英雄と旅してるんだな、僕は)

 

 とフェイトは改めて実感するのみである。

 

 

 英雄のすごさをしみじみ感じつつ、あらかた酢飯作りを終えたフェイトは

 

「こんなもんでいいかな」

 

 と呟き手元から目を外した。

 やっぱりわけもわからず手伝っていたらしく、フェイトが手を止めてもあおぎ続けていたレナスに「レナスさんももういいですよ」と声をかけ、ふうと息をついて辺りに目をやる。

 

 気づけばさっきまでは米の番を、そして今は火の番をしているクリフが、若干緊張した面持ちでフェイトに

 

“生ものはまずいんじゃねえのか”

 

 としつこく視線で訴えていた。

 なぜ僕に訴える。そう思うんなら自分でレナに言えばいいだろう。

 強気な視線をクリフに返し、フェイトは今なお楽しそうに鼻歌を歌いながら巧みに包丁を操っているレナの方を見た。

 

 

 

 さて、そんなこんなでいよいよ食事の時間。

 フェイト達が作った銀シャリの上に、レナが捌いたネタを乗せた寿司の完成である。

 今さらできあがった料理を見て思いきり戸惑いを見せるレナスに、この人やっぱなんも分かってなかったかと、他人事でないにもかかわらず同情を寄せるフェイト。

 

「ねえレナ、この料理は──」

 

「お寿司は初めてですか? 大丈夫ですよ、ちゃんと新鮮なやつ使ってますから」

 

 不安そうなレナスに向かってレナはにこやかに言うが。

 ネタの魚はついさっき近くの川で捕った物ではない。道具袋から取り出したところから察するに、どんなに新しくても昨日クロスでセリーヌが買った代物である。

 

「本当に新鮮なんだよな、嬢ちゃん」

 

「クリフさんまで。本当に大丈夫ですってば、わたしこういうの結構詳しいんですから。保存方法とかにもちゃんと気を使ってますし」

 

 念を押すクリフにも言ってから、レナは「ほら大丈夫」と言うが早いか、さっそく寿司を一貫つまんでぺろりと食べてしまった。

 他三人がはらはらと見守る中、レナは笑顔を崩さず寿司を味わい。しばらくしてから「うんおいしい」と満足げに頷く。

 揃いも揃って信じられないものを見た三人は、レナに声をかけられて我に返った。

 

「食べないの? みんな」

「あ、いや……そうだな。食べようか」

「そうだな。食うか」

 

 最年少の女子がまっさきに食べて「おいしい」とまで言っちゃったのだ。こうなってくるとフェイトももう食べないわけにはいかないだろう。

 なんのこれしき、精神ががっつり削られるようなヤバい失敗料理を食べた事くらいならフェイトにだってあるのだ。見た目は普通においしそうな寿司だし、尻込みなんかしていたら「食べ物粗末にするんじゃないよ」なんていうお叱りの声がどこからか聞こえてくるようではないか。

 

 そんなこんなで勇気を出して食べたお寿司の味はというと──

 

 普通においしかった。

 ネタの味に全神経を集中させてみても、口の中に広がるのは酢飯の爽やかな酸っぱさだけ。三途の川をとうに渡りきっちゃったお魚さん特有のアレな風味なんてものは一切感じられない。

 

 どういうわけだか分からないけど、本当の本当に大丈夫なようだ。

 未開惑星で旅がてらにまる一日生でいけるような鮮度を保つ保存方法って、本当にどういうわけなんだ。すごすぎるぞ英雄レナ。

 

「ほう、こいつはすごいな嬢ちゃん。店で食うのと変わらん味だぜ」

 

「シャリ作ったのは僕だけどね」

 

 恐る恐るだった一口めが嘘のように、軽口を叩きつつも次々と寿司に手を伸ばすフェイト達二人。その様子を未だ警戒心を捨てきれずに見ていたレナスも、

 

「大丈夫ですよレナスさん。万が一の事があってもアンチドートがあります」

 

 と笑顔でレナに言われ。

 ついに納得したように寿司を手に取ったのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 食事の時間も大体終わった頃、フェイトの腰につけていた通信機から音が鳴りだした。

 あらかじめ決めておいた、向こうのチームとの定期連絡の時間だ。

 

 レナとレナスの二人が物珍しそうに見る中。

 通信機を手にとり、通話モードに切り替えてさっそく話しかける。

 

「はいこちらフェイト。そっちは?」

 

『ええと、こっちはクロードだ』

 

 返ってきたのは少し慣れない様子の返事。今使っている通信機はクォークの備品なので、彼が使い慣れた代物とは少し勝手が違うのかもしれない。

 どうやら今日別れた時点で通信機を持っていたマリアに代わり、向こうチームのリーダーであるクロードが持つ事になったようだ。

 

 

 ちなみに今フェイトが通信機を持っているのは、フェイトがこっちチームのリーダーだからという事ではない。本来のリーダーはレナである。

 

「使い方わからないし、壊しちゃうかもしれないから」

 

 と言う彼女に代わり、そしてそもそもの通信機の持ち主クリフの

 

「んじゃ、お前がサブリーダーな」

 

 と言うぶん投げにより、結果フェイトが持つ事になったのだ。

 現在進行形で組織のリーダーやってるくせに。この面倒くさがりおっさんめ。そう内心で悪態をつきつつ、フェイトはクリフから通信機を受け取ったのである。

 

 どうせ通信機を持つ役割はチームのリーダーがすべきとかいう話は、ただ気分の問題にすぎない。

 相手の言葉は通話している本人にしか聞こえないわけでもなく、この場にいる四人全員にきちんと聞こえているのだ。通信機の近くまで寄れば、フェイトに代わって他の誰かが相手に言葉を伝える事もできる。

 

 

 一日の終わりに定期連絡をしよう、とは決めたものの。

 なんせ昼間別れたばっかりなので、特に報告する事はない。せいぜい魚はまる一日放置でも生でいけるという驚きをソフィア達にも伝えたいくらいだ。

 

 通信機も名乗った後はうんともすんとも言わない。

 向こうも特に報告する事はないようだ。

 しばし沈黙が流れた後、

 

『元気かい?』

 

 とクロードが気の抜けるような声を発し。

 それを聞いていたレナはフェイトの近くに来て、励ますように通信機に言葉を返した。

 

「ええ、とっても元気よクロード」

 

 英雄好きのソフィアから聞かされ、のちの二人の未来をなんとなく知っているフェイトとしてはさすがとしか言いようがない。

 

(ああやっぱり、この段階ですでにデキてたんだな)

 

 と目の前で歴史に触れている事実を、本人達にバレないようしみじみ実感するのであった。

 

 

 その後『おおー』と感心の声を隠さずに出したソフィアを、フェイトが慌てて止め。クロードとレナの二人が揃って、全員の前で仲睦まじさをアピールしていた事に気づいて慌て始め。それを見てさらにセリーヌが『アツアツですわね』なんて言って二人を茶化す。

 

 そんなやりとりですっかり緊張が解けたフェイト達はそれから、報告する事がないなら仕方ないよねとばかりに、今日別れるまでやっていたような雑談の続きをだらだらと喋り合った。

 

 なんでも向こうの晩ご飯はソフィアの希望通りカレーだったとか、『あんな物が飯ごう代わりになるなんて思わなかった!』というソフィアの驚きぶりとか。

 なんのこっちの晩ご飯は寿司だぞとフェイトが自慢げに言った時ばかりは、聞き手側に回っていたマリアも驚いたように『どういう事?』と言っていた。

 

 レナもクロードもセリーヌも一緒になって会話に参加していた。クリフとレナスの二人はマリアと同じく大体静かに話を聞いている側だったけど、何か話を振られた時にはためらうことなく言葉を返した。

 

 もちろん旅に差し支えないよう、早めに就寝するという事もお互い忘れてはいない。

 ほどほどに雑談した後、「おーい、そろそろ寝るぞお前ら」というクリフの呼びかけをきっかけに、フェイト達は今日の通信を終える事にした。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ええ、明日にはマーズに行けると思うわ。それじゃクロード、みんなもまた明日ね」

 

 最後にレナがそう確認をとり、フェイトに通信機を返した。

 半日ぶりの彼女との会話がよほど嬉しかったのか、通信機からクロードが『またね』と若干なごり惜しそうな声を出す中。通話モードを終了し、通信機を元の位置にしまう。

 と、レナがこんな事をフェイトに向かって言いだした。

 

「見張り番の順番はどうしよっか」

 

 自分とクリフの二人だけでやるつもりだったフェイトは驚いて聞き返す。

 

「いいのかい?」

「いいのって、何が?」

「何がって、そりゃ……」

 

 戸惑うフェイトに向かって、レナは馬鹿にしないでとばかりに胸を張って言う。

 

「わたしは十賢者を倒した“英雄”なのよ? 見張り番のひとつやふたつ、できないわけないじゃない」

 

 言われてみれば確かに。

 あんなたくましい食事の用意できちゃうようなコが、野宿の際の見張り番に参加できないはずがない。ことそういう事に関しては、レナはフェイトより経験豊富だとすら言える。

 それでもなぜか任せては申し訳ない気持ちになるのは、男としてのプライドというやつだろうか。

 

「いや、今日は僕達二人だけでも大丈夫だしさ。レナは気にしないで休んでていいよ」

 

「先の長い旅になるかもしれないんだからそういう遠慮はやめにしましょう。初日の今日こそ、あらかじめちゃんと三人でやるって決めておくべきだと思うの」

 

 煮え切らないフェイトと譲られる気のないレナが言い合っていると。

 様子を見ていたレナスがさらりと言った。

 

「私は数に入れてもらえないのね」

 

 

 フェイトとレナ、二人で顔を見合わせてから、いやいやいや何言っちゃってるんですかと二人して止める。

 

「いえ、レナスさんは本当に気兼ねなんてしなくて結構ですから。見張り番は僕らに任せて、あなたは朝までゆっくりおとなしく休んでてください」

 

「そうですよ、見張り番はわたし達に任せて、レナスさんはちゃんと休んでください。無理して夜ふかしなんてしたらまた朝起きられなくなっちゃうじゃないですか」

 

 見事な信用のなさである。

 レナの方なんかいつのまにか世話の焼けるお嬢様通り越して赤ちゃん扱いだ。

 

「……旅には慣れてるって言ったつもりだけど?」

 

 さすがに納得がいかないのか、さりげなく自ら自分の能力をアピールするような事まで言うレナスだったが、それもまったく効果なし。

 

「はいはい。それは知ってますんで早く寝てください」

 

「そうですよ、今回の旅はお付きの人が何から何までやってくれるようなのとはわけが違うんですから」

 

 いいように言い負かされてうっかりまともな反論もできず、仕方なしについと目をそらした視線の先で、クリフが平然と言った。

 

「俺はべつにどっちでもいいけどな?」

 

 

 ──とまあ、そんなささいな言い合いはあったが。

 結局、野宿の際の見張り番は四人全員で、平等にやる事になった。

 クリフが仲裁に入ったのである。

 

「なんてな。……本人ができるって言ってんだからよ、ここは任せてみたらどうだ。いけそうだったら今後も任せる。無理そうだったらそん時は今夜限り、って事でよ」

 

 

 そう言われればフェイトも納得だ。

 一日二日で終わる旅というわけではないのだ。ついさっきレナには大丈夫と言ったが、見張り番のできる人間はやはり多い方がいい。

 

 英雄であるレナ、よく知った仲のクリフと違って、このレナスというお嬢様の事はまったく分かっていない。

 自分では「旅慣れてる」とか言っちゃってるけど、あなたそれあの岩の上で魚捌く英雄の姿見ても同じ事言えるんですか。

 フェイトは現在、そんな疑惑たっぷりの目でレナスの事を見ているわけだ。

 

 明日は野宿ではなくマーズ内に泊まれる予定だし。

 本当にできるからできると言っているのか、それともただの見栄張りさんなのか。レナスの事を確かめるには、今日はまたとない機会とも言えた。

 

「なに、今日は俺がこっそり見といてやる。それなら平気だろ?」

 

 よほどレナスの事が心配なのか、最後まで渋るレナには、クリフが耳元でこう囁いて納得させた。

 

 

 

 そんなこんなでレナスさんはじめてのおつかいならぬ、はじめての見張り番開始である。

 順番は最初。

 一番負担の少ない時間帯を、次のクリフに交代する時間が来るまで頑張ってもらう事になる。

 

「それじゃ、レナスさんこれ」

 

「これは?」

 

 そう言ってレナが心配そうに、レナスに差し出したのはオルゴール。

 不思議そうに渡された品物を見るレナスに、レナが丁寧に説明する。

 

「魔物よけになってるんです、これ。ここの所をこうやって持って、こうやって回すと音が……」

 

「オルゴールは知っているわ」

 

(そこまでいくとさすがに失礼だろ)

 

 なんてひそかにつっこみつつ、フェイトもオルゴールを見て感心する。

 魔物よけの音が出るオルゴールなんて代物は、フェイトも初めて見たのだ。

 日頃住んでいる先進惑星の環境下はおろか、以前お世話になった未開惑星エリクールの地でも見た事がない。あそこでは確か、特殊な宝珠を使って周辺の魔物の動きを抑制させていたはずだ。

 

 未開惑星って事で全部一緒くたにはできないもんだ。

 ひとしきり感心した後、フェイトは

 

「それじゃあお休みなさい。頑張ってくださいね、レナスさん」

 

 と軽く声をかけ、とっとと横になって目をつむった。

 レナみたいな過保護な心配はしていられない。クリフの次は自分の番なのだ。

 彼女の見張りがちゃんとできてるかどうかの確認も全部クリフに任せて、早いとこ体を休めておくに限る。

 

 クリフもすでに眠ったふりをしている。

 オルゴールの音がゆっくりと鳴りだした。

 

「ええ、大丈夫よ。この音と火を絶やさなければいいんでしょう?」

 

「無理しなくていいんですよ。眠くなったらすぐにクリフさんに代わってもらって大丈夫ですからね」

 

 まだ起きていたらしきレナの声も、本気で子供をはじめてのおつかいに送り出すかのごとき言葉をひとしきりレナスにかけた後、「お休みなさいレナスさん」と言うのを最後に聞こえなくなった。

 

 これでこのメンバーでの第一日目も無事終わったな。

 眠りにつく直前、フェイトはこれまでの状況、これからの事をぼんやりと振り返る。

 

 

 

 ひとつ。

 一体どこの誰が、何のつもりで『宇宙マジヤバい』なんて謎メッセージを、もう自分達の住む世界とは全く関係のない“元”神様、すなわちFD世界のブレアに送りつけたりなんかしたのか。

 

 

 あの世界が自分達の住むこの世界を消そうとした経緯を考えれば、せっかく関わりの切れたあの世界に、こちらの世界の人間が進んで接触を持とうとする事などあってはならない。それは自分達はまだあの世界に干渉できるのだと、そうアピールしているともとられかねない行動なのだ。

 

 そんな事をしたらどうなるか。

 お互いの世界にとってよくない事ぐらい簡単に想像つくはずなのに、よりによっていたずらなんかで──

 

 今分かっているのは、そいつはソフィアと同じく、別世界に干渉できる「力」を持っていて、さらに惑星全体に転送障害を発生させる事もできるという事。

 未来に住む自分達にとってすら全く未知の「力」を持つ存在が過去の未開惑星にいたという事は驚きだが、だからといって恐れるには足らない。メッセージからして、相手は無駄に技術が高いだけのアホだからだ。

 

 そのアホを見つけ出し次第、きつくお灸を据えてやる事。それがこの旅の一番の目的だ。

 

 

 ふたつ。

 自称異世界人のどうみても未開惑星人レナスが探している、元いた場所への帰り道を、どっかの誰かが

 

「もう他に方法ねえしFD世界に残ってるデータベース借りて検索かけりゃ一発じゃねーの」

 

 なんてふざけた事を言い出す前に、なんとしてでもこのエクスペル内で見つけ出してみせる事。

 

 

 そりゃそうだけど。

 縁はすっかり切れたとはいえ、この世界のこれまでの情報は残っているのだ。

 たぶんあそこなら、未開惑星の都市情報を何個か入力しただけで、彼女のいた星の名前もばっちり出てくるはずだろう。

 

 しかし断固として却下である。

 当然だ。むしろ過去の未開惑星人をFD世界に連れていけるとどうして思うのか。彼女にはどうあっても、自分の帰り道をこのエクスペル内で見つけ出してもらうしかない。

 他の仲間はどう思っているか知らないけど、フェイトはこの件では心を鬼にして、最悪の場合は一生をこの星で過ごしてもらおうとまで考えている。

 

 来ちゃったんだったらたぶん帰れるはずだ。とにかくそういう事で頑張ってください。一応こっちも旅すがら協力は惜しまないつもりなんで。

 

 

 みっつ。

 レナ達英雄に、実は知られたらマズイ事がめちゃくちゃいっぱいあるのを気取られないよう、十二分に気をつける事。

 

 

 彼らに接触を図った理由を「なんとなく」で済ませるのは流石に無理があるし、十賢者事件はもう過去の事なので言っても大丈夫だろうという事で、本人達には

「十賢者を倒した英雄として、連邦のデータベースに記録が残っていたから」

 と説明したが──

 

 あれは大嘘である。

 十二英雄の事なんか連邦のデータベース覗くまでもなく知ってる。

 彼らは後の世、つまりフェイト達の時代ではそれほどに有名人なのだ。

 

 そして彼らが有名なのは単に「十賢者を倒したから」というだけじゃない。

 彼らは十賢者を倒した後も、つまり今フェイト達がいるこの時代より先でも、いろいろとすごいのである。

 

 例えば今から二年後の惑星エディフィス。

 五年後のプリシス女史、マナクリーナーなる機械開発、汚染されたエクスペル全体の洗浄に成功。レオン博士に至っては肖像画が紙幣の絵柄にもなっている。

 今まさにフェイト達と行動を共にしているレナだってそうだ。

 現代人が回復の紋章術を使えるのは、この後地球に留学して紋章術による医療研究に精を出した彼女のおかげなのである。

 

 十二人全員というわけではないけれど、大体みんな壮大なアフターストーリーてんこもり。

 その辺の事情を英雄好きのソフィアから聞かされているフェイトにも、つまり彼らの未来がばっちり分かっちゃっているというわけだ。

 

 

 もし、未来から来た自分達が不用意な発言でもしようものなら。それで英雄達が、自分達のこれから先の未来を知っちゃったりなんかしたら。

 タイムパラドックスなるものが発生して、それこそ『宇宙マジヤバい』事になっちゃうかもしれない。

 宇宙を救いに来た自分達のせいで宇宙消滅、なんて事にならないよう、言動には細心の注意を払わなくてはならないのだ。

 

 今のところはレナ達英雄が何か重大な事実に気づいちゃった様子も、未来が変わって大変な事になっちゃった様子もないけど──

 

 頼むからこの後何事もなく、夫婦共々博士達も引き連れて地球に行ってくれ。

 フェイトは現状歴史通りに物事が進むよう始終どきどきしながら、この偉大なるお人よしさん達のお世話になっているというわけだ。

 

 

 

 現状を頭の中でまとめつつ、うつらうつらしながら、フェイトはふと疑問に思う。

 

(あれ? そういえばいつどうやって行くんだろう、地球。二年後には留学してるはずだよな。だとすると……)

 

 本人達はこの旅が終わったら、未来から来たフェイト達に気軽に頼むつもりだという事など、むろんフェイトには知る由もない。

 

 考えても分からない事を考えても仕方ない。

 意識はどんどんうつろになっていく。

 

 満天の星空の下。

 たき火の爆ぜる音と、レナスの奏でるオルゴールの音を聞きつつ、

 

(シュールな情景だな)

 

 と改めて思ったのを最後に、フェイトは意識を手放した。

 

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