「一人くらい残しておいた方がよかったかもな」
屋敷の入り口付近の柵から引っこ抜いて拝借した、手ごろな長さの棒きれを手に、フェイトは足元に転がっているチンピラ達を見下ろして言った。
「見たところそこまででけえ屋敷でもねえし、なんとかなるんじゃねえか?」
「そうだといいけど……」
フェイトもすぐ横のクリフも息ひとつ乱れていない。
足元のチンピラ達は一人残らずみんな呻き声をあげて、とてもレナスの居場所を聞き出せる様子ではない。
やりすぎてしまったようである。
フェイト達二人が今いるのは、元ザンドの屋敷の玄関前。
あの紙切れの文章に書かれていた場所である。レナスが書いたと思われるその手紙を見た二人は、宿には戻らず、道具屋から直接ここまで急いでやってきたのだった。
武器を取りに戻る時間も惜しいし、なにより宿にはレナがいる。
『レナの事で元ザンドの屋敷にいます』と手紙に書いてあった以上、チンピラ共の用事はレナの方にこそあるのだ。
レナが事情を知ったらおとなしく宿で待っていてくれるとは思えない。レナスを助けようと、チンピラ達の前に飛び出してしまうかもしれない。この事をレナに知られるわけにはいかなかった。
町の人から教わった通り、町の北の小高い丘の上に位置している屋敷を目指して走り。
辿りついて早そうフェイト達に「なんだ、てめえら」と言ってきた、見るからにチンケな門番の奴らを五人ほど蹴散らして今に至るというわけだ。
ちなみに道具屋で買った例の彫像は、フェイトの腰につけてあるポーチの中におしこめてあったりする。こんなもん手に持ってたら邪魔だし、何かの拍子に中身が見えちゃったら恥ずかしいだろう。
チンピラは全員拍子抜けするくらい弱かった。
一般人レベルである。言うまでもなく、その辺の雑魚魔物の方がまだ強い。
屋敷の中の奴らに知られると面倒な事になるから手早く片づけたが、ここまで弱いと最初から分かっていたら、フェイト達ももう少し先の事を考えた立ちまわりをしていたであろう。
まあ昔ちょっと因縁があった程度の相手をいつまでもしつこくつけ狙い続け、しかもレナ本人じゃなくレナスさんの方をさらうような小賢しい真似までする奴らだ。この弱さはある意味では納得なのかもしれない。
フェイトが倒れているチンピラ達を見て呆れていると。
クリフが首をかしげて言った。
「なんであいつ、普通にチンピラに捕まったんだ?」
「おい。今さらそこかよ」
即座にクリフの発言につっこむフェイト。
「なんで」もなにも、昼間レナと一緒に歩いてるところをチンピラ達に見られたからに決まっているだろう。あの時めちゃくちゃ目立つ歩き方してたんだから、あの二人。
レナも顔しか隠れてなかったし、知ってる人が見たら一発でレナだって分かると思うし。ていうかそもそもレナスさん自体が人目引く美人じゃん。チンピラに発見されたらそら連れてかれるわ。
油断していたにも程があるだろうと、フェイトは自身のうっかり行動にがっくり肩を落として後悔する。
「そうだよな、レナにだけ気をつけてても意味ないよな。チンピラがレナスさんに目つけないわけないよな。レナスさんも宿に残っててもらわなきゃダメだったのに……」
「はてさて、こりゃ一体どういうワケなんだか。罠かなんかにでもはめられたんかね。それともさては」
「だから美人だからだよ! 普通に忘れてたけど!」
「でけえ声出すと聞こえるぞ、お前」
相変わらず呆けた事を言うクリフに喝を入れてから、フェイトは気を取り直して足を前に踏み出した。
「行こうクリフ。とにかく早くレナスさんを助け出さないと」
「おう」
屋敷のドアはなんなく開き、玄関広間には見張りもいなかった。
潜入はとりあえず成功だが、そんな事より──
入ってすぐに分かるほど、なんか二階の方がやたら騒がしい。
忙しなく動きまわる多くの足音。わいわいがやがやと囃し立てるような男達の声。よくよく聞けば手拍子まで聞こえる。
「クリフ!」
「ああ。上だな」
二階の騒ぎを聞いたフェイト達はすぐさま、目の前にある階段を駆け上がった。
あの騒ぎの中にはきっとレナスがいる。もうチンピラ達に気づかれないよう行動している場合じゃないのだ。一刻も早く彼女の元に辿り着かなければ。
一気に階段を駆け上がった先にいた見張りのチンピラ達が、突如現れたフェイト達に目を丸くして驚く。
「おいなんだてめえら、どっからきた!」
「殴り込みか!? 外の奴らはどうしたんだ!」
「くそうなんだってこんな時に!」
「おらっ! 手応えのねえ雑魚ばっかりだな、マジでよ!」
「邪魔なんだよ!」
ひたすら慌てふためくだけの雑魚もといチンピラを、次々と拳や棒きれで殴り倒して先に進み。
フェイト達はいよいよ騒ぎの中心、二階の大部屋に勢いよく、飛び込んだ。
「だから何度も言うようだけど、私にこういう事をしても無駄だと……」
それまで部屋の中でチンピラと向かい合って何か話していたレナスも、突如乱入してきたフェイト達に驚いて目をやる。
「彼女から離れろ!」
「だ、誰だてめえら! どうやって入ってきた!」
「すいません、親分代理! 守りきれませんでした!」
フェイト達を見たチンピラ代表みたいな奴が言い、とっさにクリフが閉めたドアの向こうの廊下からまた別のチンピラがそう叫ぶ。
部屋に入るなり威勢よく言ったフェイトの方はしかし、あまりにも想像と違った部屋の様子に、思いっきり困惑させられてしまったのだった。
──何が想像と違ったのかというと、そりゃもうレナスがちゃんとその部屋にいたという事以外全部である。
御馳走が並べられたテーブル。
余興のつもりなのかご機嫌なだけなのか、テーブルの前で笑顔で踊り狂うチンピラ達。脇の方では歌うチンピラ達に、やんややんやと手拍子で合わせるチンピラ達もいる。
そして救出対象のレナスはというと。
どうみても主賓席に座っていて、チンピラ代表みたいな奴から渡されそうになっているお土産を迷惑そうに断っている所だった。
つまりレナスは、チンピラ達にもてなされていたのである。
文字通り、それはもう丁重に。
フェイト達がどうみても宴会場な部屋の様子に戸惑っている間に、レナスがチンピラ代表みたいな奴にフェイト達二人の事を説明する。
「なんとあのお二人はレナス様のおっしゃっていたお仲間様でおりやしたか。こいつはとんだ失礼を致しやした」
「あ、いえ、こちらこそ」
レナスの説明を受けたチンピラ代表がフェイト達に向かって頭を下げ、フェイトもなんか普通に謝り返しちゃったところでようやくなんとか我に返った。
いつの間にか開いていた後ろのドアの方に振り向き、部屋の中の様子を恐る恐る見ていた、様々に新しいたんこぶをこさえたばかりのチンピラ達にも声をかけてからまた前を向く。
「うん、なんか本当にごめん」
「さっきまでのナシで頼むわ」
「い、いいえ! 我々のことはおかまいなく!」
そうこうしている間にレナスも主賓席を離れ、チンピラ達に道を作られつつフェイト達のところにやってきた。
レナスは意外そうに聞く。
「二人とも、どうしてここに?」
「どうしてもなにも、お前がここにいるっつうから俺らも来たわけだが」
「なにやってるんですかレナスさん」
人にとんでもない心配かけさせておきながら「どうしてここに?」はどうかと思う。
チンピラ共の巣窟にあなたみたいな人が一人でいる事が常識的に考えてどれだけ危ない事か、分かって言ってるんだろうかこの人は。
フェイトとしては呆れるなり怒るなりするべきところなのだろうが、実際の状況がまったくもって常識とはかけ離れているので、今現在のこの気持ちをどう言葉に表していいかも分からない。ただ脱力するばかりである。
「へいっ! 我々一同、レナス様の事を、誠心誠意心を込めておもてなしさせてもらっておりやした!」
「……。二人と話をしたいの。少し静かにしてもらえるかしら」
「へいっ!」
元気のよろしいチンピラ達をひとまず静まらせ、レナスはフェイト達に聞き返してきた。
「彼から説明は受けなかった? 私も大体の状況を手紙に書いたはずよ」
「ああん? 説明ってなんだよ。確かに物騒な紙切れ一枚渡されはしたけどな、こんな愉快な事になってるたあ一言も……」
言い返しながら問題の手紙を懐からとりだしたクリフは、それをもう一回じっくりと見返してうなった。
「書いてあるな、普通に」
フェイトもクリフの手からひったくって見てみれば、手紙には確かに『元ザンドの屋敷で手厚いもてなしを受けている』と書いてある。
なんて紛らわしい書き方だ。いやまあ本当にその通りなんだけど。
「確かにしっかり書いてあるけどよ、お前これもうちょっとなんとかならんかったのか」
「他にどうしようも説明できないでしょう、こんな状況」
レナスも自分が奇妙な状況に置かれている事は重々承知しているらしい。
もてなしされすぎて帰れそうにないので、仕方なしにチンピラの一人にフェイト達への伝言を頼んだのだとため息混じりに説明した。
「紙では限度があると思って、口頭で説明しておくようにとも言っておいたのよ。できるだけ話の通じる人間を選んだはずなんだけど──」
「震える手で紙だけ渡されてとっとと逃げられましたよ。全然ダメだったみたいですね、レナスさんの人選」
「そのようね」
伝言を頼まれたチンピラはがたいのいいクリフやら謎の包み持ったフェイトに睨まれビビって説明忘れて逃げ帰ったというだけのオチだったりするが、その辺の真相はフェイト達には分かるはずもない。
とりあえず伝言がうまく伝わらなかった事だけは納得したクリフが気を取り直したように肩をすくめ、なにより納得できない現在の状況についてレナスに聞いた。
「つうかそもそもなんでこんなもてなされてんだ、お前」
「……。それは」
言い淀むレナスをよそに、クリフは改めて部屋の中を見渡す。
壁に飾られた『祝親分御来訪』の張り紙を見つけると、クリフは「お前まさか」と片眉をあげてレナスを見た。
「従えたのか、この短時間で」
「違うわ」
(違うんだ)
とフェイトも意外に思う。
だってレナスに「静かにして」と言われたチンピラ達は、廊下にいる奴らも含めさっきからずっと言われた通りに、しかも気をつけの姿勢でフェイト達の会話を見守っているのだ。
なんか全身からすさまじいお嬢様オーラを放って、チンケなチンピラ共を一瞬で従順にさせたのだと聞いても驚かない自信がフェイトにはある。
ていうかむしろそうでもなきゃ説明つかないほど異様な光景だ。
「はあ。じゃあここに書いてある『親分』っていうのは、今の状況とはまったく関係ないんですね」
フェイトが張り紙を指して聞くと、レナスは一段と言いにくそうに目を伏せた。
首をかしげるフェイト達を前に、このまま言わないわけにもいかないと観念したのか。
レナスも結局は仕方なく質問に答えようと、口を開いたのだが。
「関係ないという事はないわ。手紙にも書いたでしょう? 彼らが言う『親分』というのは──」
「親分!」
「親分が来てくださったぞ!」
にわかに廊下のチンピラ達が騒ぎ始めた。
今度は一体なんだとドアの方を振り返ってみれば、誰かが二階に向かって来ている。
「親分親分」とありがたがるチンピラ達に、めちゃくちゃ聞き覚えのある声で「その呼び方はやめてって言ってるでしょ!」やら「そういうつもりで来たわけじゃないから!」やら、いちいちやっきになって言い返しつつ、その人物はフェイト達の前に姿を現した。
「ちょっとみんな! なんでこんな所に来ちゃったのよ!」
「親分! 我々一同、親分のお帰りを首を長くしてお待ちしておりやした!」
「だから親分じゃないって言ってるでしょ!」
部屋に来るなりフェイト達に言ったレナは、一斉に挨拶したチンピラ達に向かって力いっぱい否定した。
その様子を見たフェイトも、
(ああ、『親分』はそっちか。そういやレナスさんの手紙にも『レナの事で』って、しっかり書いてあったよな)
と一瞬で納得したのだが、まあせっかくなので「なんと真犯人は一番身近な人物だったのだ!」みたいなノリでクリフと一緒に真面目くさって驚いてみる。
「レナ。まさか、君が」
「親分だったとはな」
「だから違うの!」
「そんな! まだ我々を認めてくれねえんですかい親分!」
「あなた達はちょっと黙ってて!」
「へいっ、親分!」
チンピラ達を黙らせたレナは、頭を押さえてがっくり肩を落とした。
「関わっちゃダメってあれほど言ったのに。どうしてみんな揃って来ちゃうかなあ……」
「えっと、なんて言うのかな。レナとこの人達がこういう関係性だって知ってたら僕らも関わってなかったと思うよ」
気の毒に思いつつもとりあえず言い訳しておくフェイト。
最初に関わっちゃったレナスが気まずそうに視線をそらす中、クリフが咳払いしてレナに聞いた。
「まあなんだ、嬢ちゃんがこいつらを避けてたのはこいつらに『親分』扱いされるのが嫌だったからって事で、前に揉めたからっつうのは違ったわけだな」
「違くは……ないです。原因ですから、それ」
レナはふてくされつつ答える。
状況がこうなってしまってはもうごまかしても仕方ないと思ったらしい。昼間の宿では言葉を濁して語らなかった事を、レナは渋々話し出した。
レナいわく、揉めた事はしっかり揉めたそうだ。
元ザンドの屋敷が“元”のつかない『ザンドの屋敷』だった当時、レナは親分ザンドに連れ去られたある友人の青年を助けるため、単身ザンドの屋敷に乗り込んで行ったのだとか。
で、乗り込んだ先で、どういうわけだかレナはザンド親分とサシのステゴロで戦うはめになり。
そんでもってその結果が──
「倒しちゃったんだ、ザンドの元親分」
「うん。どうしても負けられなかったから、癒しの力もしっかり使ったわ」
「あの時の親分の雄姿は今でも覚えておりやす。何度攻撃を喰らっても決して倒れずにザンド元親分に立ち向かっていくその様、まさに親分の中の親分!」
「だから癒しの力だって言ってるでしょ! 勝手に男前にしないでよ!」
「見事返り討ちにしちまったせいで、この通りの有り様ってか」
クリフもフェイトももはやただ感心するばかりである。
レナのような年頃の女の子が一人でチンピラの住まう巣窟に乗り込むとかどうなんだろうと、冷静に考えればついさっき思ったような事も思わないでもないが、実際普通に倒せちゃってるんだからそんなもん考えるだけ野暮なんだろう。
見た目かよわい年頃の女の子であろうと、レナはやっぱり英雄なのだ。
その辺の魔物だって普通に殴ってるのに、その辺の魔物より弱いチンピラなんかを恐れるわけがないではないか。それでもやっぱり男として一応忠告はしておくけど。
「あまり危ない事はしない方がいいよ。女の子なんだから」
「うんそうする」
「あとレナスさんも。害がなかったからよかったですけど、一人でこんなとこ来たらだめじゃないですか」
「……ええ。軽率な行動だったわ」
この一件でこりごりしているらしく素直に頷くレナと、不意打ちで言われ一瞬動揺するレナス。
フェイトがいまいち危機意識の足りてない女子二人にまとめて釘を刺すと、レナの方が首をかしげてレナスに聞いた。
「一人で? 三人で一緒に行動してたんじゃないんですか?」
「そうですよ。勝手にいなくなったと思ったらいつの間にかこんなところに」
「……。二人ともとても大事な話をしていたようだから」
「なっなんの事ですかレナスさん、やだなあ」
眉を寄せるレナスから無意識に腰のポーチをかばいつつ、フェイトは話を切り替えた。
レナスの単独行動に言及するという事はつまり、現在自分のポーチの中にあるブツにまで追求が及ぶという事だと、いかにも反論したげな彼女の表情を見てフェイトもようやく思い出したのである。
「そんな事よりもう帰ろう、みんな。レナも親分としてもてなされるのは嫌だろ?」
「それはそうだけど」
がしかし、レナはまだどこかが納得いかない様子だ。
フェイトがさっそく「いやー、レナスさんが無事でよかったよかった」とごまかして帰ろうとする中。
レナは懐から一枚の紙をとりだしてチンピラ代表に聞いた。
「ねえ、この招待状って一体どういう事なの? どうしてレナスさんまで──」
「帰りましょうレナ」
レナの言葉を遮ってレナスが促すが間に合わず。
チンピラ代表はとびっきりの笑顔で言った。
「へい、そりゃもう、レナス様は親分の好いお人でございやすから。親分の愛しいお方は我々にとって親分も同然。誠心誠意心を込めておもてなしさせていただくのは当然の事でございやす」
一瞬時が止まったんじゃないかと思う。
固まったままのレナをよそに、一足早く我に返ったクリフとフェイトが“これはまた一体どういう事なんですか”という視線を揃ってレナスにやると、
「違うわ」
「いや、そこはちゃんと分かってますけど」
「誤解されてる理由を聞いてんだよ」
レナスは嫌そうに答える。
「今日大通りを歩いている時、偶然仲睦まじく歩いている私とレナの姿を見かけたと──彼らは皆、口を揃えて嬉しそうに言っていたわ。きっとそのせいでしょう」
「あの獅子舞が!?」
「──しし?」
「え、あー……そ、そうだったんですか! それは大変な誤解だな!」
「まったく、とんでもねえ野郎どもだな」
フェイトの失言を男二人でごまかしていると。
チンピラ代表がやけに嬉しそうに言ってきた。目の前のレナスが本気で嫌そうに眉をひそめていてもこの解釈、どこまでも幸せな思考回路の持ち主である。
「レナス様ったらまたまた、てれ隠しなんぞしてもあっしらにはすべてお見通しですぜ。あのお姿を拝見した時はもう我々一同、揃って感動にうち震えたものでございやす。──そう、お二人は完璧にできていると!」
握りこぶしを上げたチンピラ代表に合わせて、周りのチンピラ達も興奮した様子で「親分バンザイ!」「レナス様バンザイ!」などとのたまいだした。こいつら全員脳内百合畑か。
「なるほどな。店の親父が言ってた通り、ダメになるとこうなると」
「ああ。なにが彼らを変えてしまったんだろうな」
冷やかな目でチンピラ共のバンザイ三唱を見ていたフェイトは、他のみんなと一緒に、冷やかどころではない目つきで紋章術を詠唱し始めたレナの近くにそっと寄った。無事避難完了である。
テンションが上がりきってしまったチンピラ達の方はというと、最後までレナの詠唱に気づかず。ひたすらに女親分レナを褒め称えているところでお仕置きを受けたのだった。
「レナス様のようなお人を選ばれるとは、さすが親分! 我々一同もかねてより親分の傍らにはレナス様のような絶世の美女こそがふさわしいと何度も何度も話し合っていたところでございやす! それがどうでしょう! 今回親分久方ぶりのハーリー御来訪、その事だけでも十分に我々の心を揺さぶったというのに、まさか親分が、親分が……! こんなにも早く我々の思いが親分に届くとは、まさに眼福至極でございやす! つきましては今日この日をもって我々が親分とレナス様の仲を──」
「ライトクロスッ!」
そこから先は細かく説明するまでもない。
「ありがとうございます!」
などと言いながらチンピラ達が幸せな顔で光の十字につぎつぎ焼かれていくのを、レナを除くフェイト達三人は最後まで粛々と見続けたのである。
すっかり場が静まりかえった後。フェイトは床一面に転がっているチンピラ共に、色んな意味での黙とうの意を込めて手を合わせた。
抑揚をつけずに「帰りましょう、みんな」と言ったレナの後に従い、他二人と同じく、フェイトもただ静かに色んな物が散乱した元宴会場を後にする。
その時前を歩くレナの背中に“親分”の貫録を感じたのは、きっとフェイトだけではなかったはずだ。
☆☆☆
みんな揃って宿へ帰る途中、暗闇から「にゃあ」と猫が飛び出してきた。
「あら、夜のお散歩?」
もう怖くなくなったレナが猫に話しかけるも、猫の方は落ち着かない様子。
フェイト達にぴったりくっついて歩き続け、レナスの方をちらちらと見上げつつ、猫は甘えた声で「にゃあ」と鳴く。
「好かれちゃったみたいですね、レナスさん」
フェイトがそう言うと、レナスは事もなげに否定した。
「食べ物をねだっているだけだと思うわ」
言って足を止めるとレナスは自分の服の袖に手を入れ、しばらくして何かを取り出した。
まごう事なきごちそう肉のかけらである。
「これを狙ってたのね、あなた」
とレナが一段と甘えた声で鳴く猫の前にしゃがみ込んで言った。
「なっ、なんでそんなものを袖に……。お土産ですか?」
「美味しすぎてつい持ってきちまったってか。こいつあけっさくだぜ」
のん気に思った事を言うフェイトに、その発言に大ウケするクリフ。
けらけら笑うクリフを無視し、レナスはごちそう肉のかけらを見て言う。クリフも笑いつつ快諾した。
「あなた達の持っている“機械”は確か、こういった食物に含まれるわずかな異質物を調べる事もできるのよね。せっかくだからこれ、調べてみてくれない?」
「ん? ああいいぜ。あの様子だと、どうせ何もねえとは思うけどな。──おいフェイト。ものは試しだ、これ調べてみろよ」
「結局僕がやるのかよ……」
文句を言いつつ、フェイトは自分のクォッドスキャナーを取り出した。
夜の通りに人はいない。いかに未来の先進惑星の機械であろうと、猫一匹に見られる分にはなんの問題もないだろう。この猫はどう見てもただの猫だ。
クォッドスキャナーを使えば食べ物に含まれる微量な毒素も調べる事ができるのだと、ハーリーまでの道中でレナ達に話した事はフェイトも覚えている。ちゃんと調べておけば寿司にそこまでビビる事もなかったのにとか、今度から生ものを食事に出す際はそれ使おうとか、そんな雑談混じりにやった話だったはずだ。
あの時大雑把に説明した通りに、レナスが持っているごちそう肉のかけらに照準を合わせ、フェイトは慣れた手つきでクォッドスキャナーを操作した。
しばらくして出た結果は、クリフの予想通り異常なし。
普通にただの美味しそうなごちそう肉である。
「お腹壊すようなものはなにもない、ですって。よかったですねレナスさん」
「──そう。警戒する必要もなかった、という事ね」
結果を聞いたレナスは持っていたごちそう肉のかけらを地面に落とした。
さらに袖からつぎつぎ食べ物を取り出し、全部地面に落として猫にあげる。一目散に食べ物の山に飛びついた猫を見て、レナが「今日はごちそうだね」と微笑ましそうに言った。
「お土産多すぎじゃないですか、レナスさん」
「警戒していたと言ったでしょう」
「えっ」
またまた何言っちゃってるんですかあなたはと、レナスの言葉をはなから疑ってかかるフェイト。だって彼女は、警戒してた女性なら本来絶対にするはずがない事を平然とやっているのだ。
武器も持たずに(もっともこの人の場合、持ってたからってどうなるものでもないと思うけど)一人でのこのこチンピラ達の巣窟に行っちゃってからに、警戒してたからごちそうに手をつけなかったなんて、フェイト達にバカにされたくない一心で見栄を張っているとしか思えないではないか。
「レナスさん、ちゃんと警戒してたんですか。そうですか。ふーん」
「あんな話聞かされて、罠だと思わない方がどうかしているわ」
あまりにしらじらしいフェイトの表面的な納得ぶりに、レナスもつい正直に言い返したが。
「そうですか。じゃあレナスさんは、怪しいと思ってたのに彼らについてっちゃったんですね。無理やり連れ去られたわけじゃないんですよね、結局のところ」
「……ええ、道具屋の外で声をかけられたからついていっただけよ」
「え……レナスさん、あの人達に話しかけられて普通についてっちゃったんですか? あの人達に関わったらダメだって、わたしちゃんと言ったのに」
フェイトにもっともな事を言われ言葉に詰まり、さらにうっかり正直に答えたら今度はレナにも問い詰められ。レナスは一気に返事に窮した。
目そらしながら、とっさに言い返した言葉がこれである。
「それは──、彼らがあまりにしつこく私を屋敷に招待したがるものだから」
この上なく正直な答えを言ってしまったレナスは、首をかしげるフェイトとレナの前でまた返事に窮した。
「彼らがしつこかったから?」
「だから──なんですか?」
「いえ、なんでもないわ」
「断りきれなくてついてっちゃったんですか。怪しいと思ってたのに」
「怪しい人達にそんな簡単についてったらダメじゃないですか!」
それ以上何も言い返せなくなったレナスに、呆れるフェイト、叱るレナ、そしてにやにやしてるクリフ。
「……レナスさんがエクスペルに来ちゃった理由がなんとなくわかりましたよ。つまりそういう事だったんですね」
「今回はただの危ない人達だったからよかったですけど、声をかけたのがもし本当に危ない人達だったりしたらどうするんですか! 一人で行っちゃうなんてもってのほかですよ! 今はお付きの人達だっていないんですから、もっと色々気をつけて行動してください! ……」
「……ええ分かってる。本当に、軽率な行動だったと反省しているわ」
「まったくな。やべえ奴らの招待素直に受けるとは、とんでもねえお嬢様もいたもんだぜ」
ぶっちゃけみんな同じ穴のむじなだし、オハナシ目的で怪しいチンピラ達の巣窟に単身向かった彼女の事を偉そうに言える人間はこの中には一人もいないはずなのだが、当人達はその事には全く気づかない。
怒られてる一人以外言いたい放題叱りたい放題しつつ、フェイト達は宿までの道をにぎやかに帰ったのだった。
後編終了。
モブキャラがなんかおかしい事になりましたが、今回の話はあくまで原作ゲームのアイテムをネタにしたギャグです。
原作キャラも作者もそういう趣味はありませんのでご安心ください。
だって原作が自由すぎるから…
以下、おまけのエル大陸組プロット。
・ラスガス山脈ふもとでアシュトン発見。
「あれは!? やっぱりそうだ、アシュトンじゃないか! ……でやああッ!」
クロードぼっちから卒業。感動のあまり兜割で接近。
ビビって逃げ出すアシュトン。
「アシュトン! 僕だよ、クロードだよ!」まだ空中。
「それは見ればわかるよ! そんな見事な逆バンジー、できる奴なんて君ぐらいしかいないだろ!?」
「嬉しいなあ。僕にちゃんと気づいてくれたんだね、君は」空中ではにかむ。
セ「気持ち悪いですわねクロード」
女性陣に引かれつつ、アシュトンにとびかかる(まんま)クロード。
「心の友よー!」「うぎゃあー!!」
クロード、アシュトンに事情を説明。
「……ってなワケなんだ!」
「そうなんだ。色々大変なんだね、君たちも」
「分かってくれたかい? じゃあ一緒に旅しようかアシュトン!」
「う、うん。構わないよ。……僕も、エル大陸には行くつもりだったんだしね」
アシュトンが仲間になった!
・プロローグその1でリンガにいたはずのアシュトン。
ラクール大陸から直接エル大陸に行けるのに、なんでクロス大陸に?
A.そ、それは……色々あったんだよ! アシュトン不運だから!
エル大陸行きの船がなかったとか、乗ったけど難破して漂流したとか、はたまた乗る船間違えたとか、ここまで来たついでに故郷に帰ろうとしてたとか……
とにかく、見えない所で何かしらの冒険はしてたはずだ。たぶん。