スター・プロファイル   作:さけとば

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4. お金稼ぎの方法

 フェイト達が今いるのはラクール大陸、ヒルトンの港からそう遠くない場所。

 クロス大陸、ハーリーの港から船を使いラクール大陸へ渡ったフェイト達は、ヒルトンの港で一通り情報収集をした後、そこから南東にあるラクール城に向かってさらに旅を続けていた。

 

 

 ヒルトンで得た情報はこれまでと同じく、ここ最近ソーサリーグローブ関連以外で大きな事件は特に聞かない、との事。

 ついでにクォッドスキャナーの方も異常はなし。という事でヒルトン近辺も大体平和だった。

 

 一方レナスの探している「霧のかかる岩だらけな場所」については、ヒルトンの人達からそれなりに当てはまる場所を多く聞く事ができた。

 やれラクール前線基地の辺りはどうだだの、あっちの海岸かもしれないだの、こっちの山じゃねえのかだの……

 ぶっちゃけ多すぎである。どうもラクール大陸は緑豊かだったクロス大陸東部に比べ、岩盤がむき出しになっている場所が多いらしい。

 

 さすがにヒルトンの人達から聞いた所、つまりはラクール大陸中の起伏がある所全部を見てまわる気はしない。とりあえずはラクール城に向かう道すがら、街道からあまり外れていない場所だけを確かめようという事になったのだった。

 

 

 フェイトがそう提案した時、レナスも反対はしなかった。

 先にラクール城まで行ってしまった方が特定の場所をさらに絞り込む事ができると、本人もそう考えたのだろう。もしくはただ単に──

 

 今はのん気にピクニックなんかやってる場合じゃないと、さしもの世間知らずさんも、現在のパーティーの様子をみて察しただけなのかもしれないが。

 

 

 

「みんなに悲しいお知らせがあるわ」

 

「なんだい、レナ?」

 

 街道を歩いていると、レナが唐突に話を切り出した。

 一応聞き返したフェイトの方も、すでにレナが何を言おうとしているのかは大体想像がついている。だってこの話、今が初めてじゃないし。

 

「もうお金がないの。ヒルトンで払った宿代が最後よ」

 

 予想通りの答えを聞き、フェイトは神妙な顔つきで「そうか……」と返事をした。

 すかさずレナが言う。

 

「そうか、じゃないでしょう?」

 

 クリフが背負っている道具袋を横目で見つつ、レナはフェイトの事をちくちく責める。

 フェイトの方も息を吐くようにつらつら言い訳を返した。

 

「あんなにあったのに、なんで全部使っちゃうかなあ……。しかも、要らないものばっかり」

 

「しょうがないじゃないか、どれが有用なアイテムかなんて分からなかったんだから。それにレナもお金は自由に使っていいって」

 

「限度ってものがあるでしょ、限度ってものが。まさかお財布ほぼ空にして帰ってくるなんて思わないわよ普通。船代だってまだ払ってなかったのに……」

 

「船代は別に分けてあると思ったんだって。だってさ……」

 

 レナもフェイトもすっかり足を止めて言い合いっこだ。

 横ではクリフとレナスが、二人の言い合いを「また始まったか」と遠巻きに見ている。

 

 下手に止めようとするととばっちりをくらうので傍観に徹する。その辺は二人とも、ラクール大陸に渡る船の中ですでに学習したらしい。放っておいてもお互いある程度気が済むまで言い合ったら自然に終息する、という事を知っているのもあるだろう。

 今回の言い合いも結局、お互いにいつもと同じセリフを吐いて終わった。

 

「そんなに言うなら、レナも買い物についてくればよかったのに」

 

「それだけは嫌」

 

 

 思い出したくもないといった様子でレナがきっぱり言い切るのにはそれだけの理由がある。

 あのどたばたから一夜明け、レナが紋章術でチンピラ達を一掃した話はすでにハーリー中の噂になっていたのだ。

 なぜかフェイトとクリフがのしたチンピラ達の分についても全部レナがやった事になっており、しかも乗り込んだ理由が「惚れた女を助けるため」だというのだから、噂とはまったく恐ろしいものである。

 

 当然レナは、ハーリーを発つまで一度も宿から出る事はなかった。ついでにレナよりお叱りを受けたレナスも宿に残らされた。

 翌日の買い出しには結局、フェイトとクリフの男二人だけが行ったのだ。

 

 つまりその買い物の結果が──

 旅半ばにして所持金が底をつくという、今現在のこの切ない状況である。

 

 

 フェイトが好き放題になんかよく分からないアイテムを買ったおかげで、元々かさばっていた旅の荷物はさらなる変貌を遂げ、今はとてつもなくかさばる荷物と化している。持ち運ぶクリフがプレゼント持ったサンタに見えるくらいだ。

 

 肉体が自慢のクラウストロ星人じゃなきゃとてもじゃないけどこんなもん持って旅なんかしていられないだろう。クリフはこういう面では非常に役立つ男だという事を、フェイトは以前共に旅をしたエリクールの地で知っている。

 つまりフェイトは、今回もはなからクリフに荷物を持ってもらう気でいたからこそ、ここまで思う存分買い物ができてしまったのである。というか、じゃなきゃここまで買わない。

 

 

 そんなクリフもフェイト達が言い合いっこしている間まで、このとてつもなくかさばる荷物を背負い続けるわけはなく、今は荷物を地面に置いて休憩中だ。

 一通り言い合いを終えたレナが今度は地面に置かれた荷物袋からフェイトの買った品物、もといがらくたの数々を取り出してみつつ、ぶつくさ言い始めた。

 

「まったくもう、鍋なんか買わなくてもあるのに……。大体なによ、この『火属性半減』って。火が通らなきゃ意味ないじゃない」

 

「まさか本当にあるとは思わなくて、つい」

 

 今レナが持っている鍋はというと、フェイトが興味本位で(合成に使えるかな)と買ってからに、買った後すぐ(けど合成素材ないな)と活用するすべを見失った本気で要らない道具。

 これに限らず、フェイトが買ったアイテムは大体こんなもんである。

 いやはやそこら中初めて見るような珍しい効果のついた品ばかりで、つい心の中でくすぶっていた改造心に火がついてしまったというかなんというか。初めて見るアイテムの誘惑とは、まったくもって恐ろしいものである。

 

 レナはひとしきり呆れた後、

 

「まあいいわ、卵料理の時にでも使いましょう」

 

 と言って鍋を袋にしまう。

 この辺のやり取りも手慣れたものだ。フェイトも荷物袋を漁るレナの小言をすっかり落ち着いて聞き流している。

 

 なにを隠そう、ハーリーに着いた初日に買った例のブツだけは、未だフェイトの腰につけたポーチの中に入っているのだ。こんな事もあろうかと、買ったその他の品物と一緒くたに荷物袋の中に入れておかなかった自分の英断をフェイトは内心で誇っている。

 というより、これレナに見られたらどうしようと心配になるあまり出すに出せなくなり、今現在もポーチの中に入れっぱなしなだけとも言えるが。

 

(……やっぱり買うべきじゃなかったな、アレ。『戦闘用』ったって、まさかアレを戦闘中に堂々と使うわけにもいかないしな)

 

 フェイトがなにより要らない道具を勢いで買ってしまった事を、今さらながらにひっそり後悔していると。

 

 

「どう見ても一番はこれよね。いくらしたの、これ?」

 

 そう言ってレナが取り出したのは『ロマネコンチ』。

 知る人ぞ知る。最後の一文字が怪しい、あの有名なワインである。

 

「あー、それ。うん、それね。いくらしたっけなー」

 

「ごまかしても無駄よ。ちょっとやそっとの値段じゃない事くらいわたしだって知ってるんだから」

 

 しらじらしく言うフェイトにレナはじーっと睨んで言う。

 フェイトはここぞとばかりに悔しそうにこぶしを握った。

 

「僕もそれくらいわかってたさ。これを一本買うだけで、今持ってるお金が全部いっぺんに吹き飛ぶだろうなって事くらい。けど──お買い得だったんだ! まだそこまで高くなってなかったんだよ! あんな値段見せられたら、僕は、僕は……」

 

 いかにも己の過ちを悔んでいるかのように言っているフェイトだが、実際のところ後悔は少しもしていない。

 だって普通はあんなお安い値段で買える代物じゃないもの。一時的にお金がすっからかんになるくらいでなんだ、あそこで買わない方が大後悔じゃないか。

 

「お酒の誘惑に負けたのね、フェイト……」

 

 フェイトの懺悔をレナがじっくり染み入るように聞いている横で、レナスがクリフに聞いている。

 

「たかがボトル一つに旅の資金すべてをつぎ込んだのよね。フェイトはお酒に趣でもあるの?」

 

「あいつみてえな若造に酒の良し悪しが分かると思うか?」

 

 アホらしいとばかりにクリフは答え、「ありゃただの病気だ」とまで言う。レナスの方は意味が分からなかったらしく、仕方ないわねといった感じに肩をすくめた。

 すかさずフェイトがうらめしそうにレナスを見て言う。

 

「レナスさんには分からないでしょうね。熟考の末に有り金全部はたいて買った大切な大切なロマネコンチを、“たかがボトル一つ”で片づけてしまうレナスさんには──」

 

「いえ、むしろ先々の事を考えていたら買わないと思うのだけど」

 

 レナスが言い返したら、今度はレナがなんか言い出した。

 

「それは違いますレナスさん。ちゃんと考えたからこそ、フェイトはロマネコンチを買ったんです。レナスさんには分からないかもしれないですけど、このワインにはそれだけの価値があるんです。買える時に買っておかないと、お金はなにもないところから湧いて出ないんです。レナスさんにとってはないのと同じようなお金でも、わたし達にとっては貴重なお金なんです!」

 

「ごめんなさい、二人が何を言っているのか全く分からないわ」

 

「あー……嬢ちゃんもそっちの人間だったか」

 

 結局レナスはよく分からないまま二人に言い負かされた。

 私間違った事言った? と自信をなくしかけているレナスに、とっくの昔に諦めきった目をしたクリフがせめてもの慰めの言葉をかける。

 

「安心しな、お前は少しもおかしくねえ」

 

 と、レナが気を取り直して言った。

 

「とにかくロマネコンチならしょうがないわ。なくなっちゃったお金の事より、今はラクールに着いた時の事を考えましょう」

 

「そうだね。今は後悔するべき時じゃない。──僕達は、未来の事を考えるべきなんだ」

 

「お前今いい事言ったつもりなんだろうが、原因お前だからな。まあ今さらもうどうしようもねえけどよ」

 

 レナスはもう何も言わず、一応はつっこんだクリフもそれ以上は言わない。

 お金を使い果たしてしまったフェイトを責めたところで、なくなったお金が戻ってくるわけではないのだ。幸いな事に食べ物だけは十分な蓄えがあるが、このままではせっかくラクール城下に着いても町の中で野宿なんてことになってしまう。

 

 

「……なんとかしなくちゃね」

 

 ワインを囲むようにしてフェイト達は考える。

 ほどなくしてレナスが言ったが。

 

 

「それだけ値の張るワインなのよね? お金がないのならそれを売れば──」

 

「なに馬鹿な事言ってるんですかレナスさん、それじゃなんの意味もないじゃないですか」

 

「そうですよ、今売ったら大損じゃないですか! なんのためにフェイトが無理してこれを買ったと思ってるんですか!」

 

 もちろん二人によって最後まで言い切る前に即却下である。

 

「これだから世間知らずは」

 などと言いながらフェイトはワインを大事に大事に袋にしまう。

 

「……」

「大丈夫だ、お前の世間認識は正しい。間違ってるのはあいつらだ」

 

 またまた戸惑いかけるレナスをクリフがもう一度励ましたところで、ワインをしまったフェイトがはっきりと宣言した。

 

「とにかく、ハーリーで買った道具をそのまま売るのはナシです。ただ減らすためだけにお金を使ったみたいでもったいないじゃないですか」

 

「……そうね。買った道具については、できることなら有意義な使い方をするべきだと私も思うわ」

 

「流されんの早えな、お前」

 

 

 普通に同意しちゃったレナスをクリフが驚きの目で見ているが。

 そもそも実際のところは彼女も、例のワインを知らんからいかにも常識的に戸惑っていただけであり、よってぶっちゃけフェイトやレナにも引けを取らないくらいには『もったいない精神』の持ち主とかいうオチなだけだったりする。

 

《あらまあ、改めて濃いパーティーですわねえ。クリフの兄貴はもう諦めて?》

 

 

 ……ということで特に誰も反論しないので、買ったアイテムをそのまま売る案はナシになったらしい。

 袋の中を確認しながら、レナは「うーん」とうなる。

 

 

「フェイトが買ってきたのが素材系のアイテムだったらまだなんとかなったんだけど、どれも加工済みのやつばっかりだし。『マジックカンバス』はあるけど……絵は苦手なのよね」

 

「絵、か。売り物になるようなやつを描くのは僕も無理かな」

 

「レナスさんは絵のたしなみとかあったりしないんですか?」

 

「ないわ。人が描いているところを見るだけね」

 

「題材にされる方って感じですもんね、レナスさん」

 

「誰も描けねえんじゃただの白い布じゃねえか。なんで買ったんだよそんな物」

 

「うるさいな、お前だって描けやしないくせに」

 

「言ったな? 描けっつうんなら描くぞ、出来は保証しねえが」

 

「酢飯あおぐ用らくがきは一枚で十分なんだよ」

 

 

 道具袋をのぞいても、誰からもいい案は出てこない。

 どころかぐだぐだ話し合っているうちに魔物が現れてしまった。

 

「じゃ、あいつらで稼ぐっつうのはどうだ?」

 

「どうだかな。いいもの落とせばいいけど」

 

 あまり気乗りのしない案ではあるが、こっちに向かって雄叫びをあげている奴らを無視するわけにもいかない。さっそく駆け出したクリフの後に続いて、フェイトも剣を抜き魔物に向かっていった。

 

 

 

 これも土地柄という事なのだろうか。

 ラクール大陸の魔物は、クロス大陸にいる魔物達よりもずっと手強い。

 

 フェイト達が今いる場所から北の方角、山を一つ越えた先には『ラクール前線基地』という場所がある。

 そこでは数か月前に、魔の石ソーサリーグローブが落ちた地──エル大陸から渡ってきた魔物の軍団との、大規模な戦闘が行われたのだと言う。

 

 今フェイト達が相手している奴らは、大体がその時の残党共というわけだ。

 どこを向いてもおおむね平和だったクロス大陸で、時々気まぐれに現れるような気の抜けた奴らに比べたらそりゃ強いに決まっている。

 

 

 それでもフェイトとクリフの二人にとっては「多少張り合いのある奴らが出てきたな」ぐらいの感覚だ。

 今までのようにごはん食べたりまたその後片づけをしたりしながらの片手間に倒そうとでもしなければ、さしたる苦戦もせずに倒せるほどの強さなのだが、ただレナの場合は違った。

 

 クロス大陸ではフェイト達と肩を並べ魔物を殴りにいっていた彼女だったが、ここへ来てそれも難しくなったようだ。

 ヒルトンを出て初めて会った魔物の時にも、レナはこれまでと同じように果敢に接近戦を挑み、あわやもう少しで大怪我という状況になりかけた。

 その時はちょうど近くにいたクリフに助けられ、レナもちょっぴりすりむいた自分の膝小僧を自分で治して事なきを得たのだが、その後も彼女個人の苦戦っぷりは変わらず。

 

 あまりに危なっかしい場面が続く事に肝を冷やした周りが、それこそ戦わず見ているだけのレナスまでもが揃ってレナを説得したのだ。

 

「レナがそこまで頑張らなくても、魔物なら僕とクリフでなんとかなるからさ」

 

「二人に任せましょう、レナ」

 

「嬢ちゃんはそもそも紋章術使えるんだろ? 直接ぶん殴るだけが戦闘じゃねえって」

 

 若干不本意そうではあったが、レナ自身もこれ以上はフェイト達の足を引っぱるだけだと感じたらしい。それからは無理な接近戦は控え、魔物の数が多い時に紋章術でフェイト達前衛の支援をするようになった。

 

 というより本来それが回復術使いである彼女の戦闘スタイルであろう。

 なにゆえ今まで普通に素手で魔物を殴りにいっちゃっていたのか。前衛ちゃんと二人もいるのに。

 

 

 

 今回の戦闘でもレナは前の方で戦っているフェイトとクリフの二人を、後ろの方でレナスと一緒におとなしく見守っている。

 

 魔物の数は少ないので紋章術での支援もなし。手持ち無沙汰にフェイト達の戦いぶりを見る彼女の目には「わたしだって頑張れば倒せない相手じゃないのに」といった不満がちらちら見え隠れしている。

 フェイト達の方はというと頑張らなくても普通に魔物を倒せているので、レナもそれを口に出す事はしないが。

 

 しかしやっぱりただ守られるのは落ち着かないらしい。

 フェイト達が戦っている間、レナはしきりと「自分が守るから大丈夫」といったような事をレナスに言い続けていた。

 

「魔物がこっちに来たら任せてくださいね。わたし、いつでも倒せるように気をつけてますから」

 

「そうなった時は、あの二人が駆けつけてくれるまで魔物と距離をとり続ける事ね。レナが無理に倒そうとする必要はないわ」

 

「それは……もちろんそうしますけど。でも、もし二人とも間に合わなかったら」

 

 やめときなさいと言われても、やっぱり何もしていないのは落ち着かないらしい。

 なかなか引き下がろうとしないレナに、レナスの方も返事に困り気味である。

 

「本当に危なくなった時はどうするんですか?」

 

 というレナの質問に答えあぐねていた時。

 魔物を倒し終わったフェイトとクリフの二人が戻ってきた。

 

「そりゃ嬢ちゃんに守られなくとも、自分でなんとかするんじゃねえの? しっかりと護身用の剣持ち歩いてらっしゃるんだからよ」

 

 クリフは「護身用の」という箇所に思いっきり含みを持たせて言った。

 気分を害したのかクリフを見たまま黙り込むレナスを見て、反射的にクリフをたしなめようとしたフェイトは途中で考えを改めた。今はレナの無茶な考えを諦めさせる事の方が大事だと思ったのである。

 

「そんなに心配する事ないよ、レナ。クリフじゃないけど、レナスさんだって一応ちゃんと剣を持ってるんだ。レナもレナスさんと同じように、自分の身を守る事を優先に考えて動いてくれればいいから」

 

「……でも」

 

「この話は終わりだ。嬢ちゃん達のところにゃ魔物はまず来ねえ。もし来たとしても、そん時は下手に手出さずに自分の事だけ考えて逃げる事」

 

 みんなに揃って言い聞かせられ、レナはしぶしぶ引き下がった。

 まだどこか納得がいっていない様子のレナにクリフが重ねて言う。

 

「なに、なにもろくに動けやしねえ死にかけの病人を見捨てて、自分だけ逃げろって言ってるわけじゃねえ。こいつも自分で言ってたじゃねえか、自分の身を守れる程度の腕はあるってな。──だろ?」

 

「……。そうね。もしもの時があったとしても、その時は自分で対処できるわ。私の事はいいから、レナは自分の身を守る事だけを考えて」

 

 少し間を置いてからレナスもクリフに同意し、レナに言い聞かせる。

 ここまで言えばレナももう無茶をやろうとはしないはずだろう。会話が落ち着いたところで、フェイトは仕切り直した。

 

「よし、それじゃ戦利品の確認だ」

 

 

 ずばりさっきの話の続きである。

 さっきクリフが言ったのは、その辺うろつきまわっている魔物倒しまくって戦利品かき集めればお金貯まるんじゃね? といういかにもフェイトが日ごろ遊んでいるようなゲーム的発想案だが、しかし。

 フェイトはそれにはあまり期待していない。言い出したクリフもおそらくは同じ気持ちだろう。

 

 ここまでそれなりに魔物は倒してきているつもりだが、奴らはどういうわけか金目の物をさっぱり落としやがらないのだ。揃いも揃ってさして使いどころのない、売ったところで二束三文にしかならないアイテムばかりを持っているのである。

 今回倒した奴らも、案の定、他の奴らと同じアイテムしか持っていなかった。

 

「で。一応聞いておくけど、何があったんだクリフ?」

「アクアベリィとアクアベリィとアクアベリィだな」

「やっぱりか」

 

 嫌がらせかよと誰に対してでもなく憎々しげに思うフェイトをよそに、クリフはやれやれと新しく手に入れたアクアベリィを、すでに大量にストック済みのアクアベリィ専用袋に、先に古いのを出してから入れた。

 

 

 『アクアベリィ』は毒消しの効果を持つアイテムなのだが、これがなかなかどうして使う機会のない代物なのである。

 現状苦戦せず魔物を倒しているフェイト達が、魔物から毒を貰う事なんてまずないし。その前に回復術のエキスパートであるレナが毒消しの紋章術『アンチドート』を普通に使えてしまうのだ。

 もしもの時に備えて三、四個ほどあればいいようなアイテムの代表格であろう。

 

 なのにこのアクアベリィ、やたら魔物が落とすせいで道具袋に溜まっていく一方。

 溜めこんでいても腐るだけなのでここ最近のおやつは毎日アクアベリィ。朝ごはんにもついてくるアクアベリィ。もったいないからちゃんと拾っているけど、いい加減うんざりだ。アクアベリィ以外の物をよこせとフェイトは声を大にして魔物共に言いたい。

 

 ちなみにそんな毎日アクアベリィ生活を続けた結果、現在パーティー全員のお肌の調子はとてもよろしかったりする。正しくデトックス効果というやつであろう。

 レナやレナスは、フェイトほどにはアクアベリィにうんざりしていないのかもしれない。

 

 

「魔物倒してもアクアベリィじゃ、資金稼ぎにはならないよな」

 

「そうね。これは今日の分のおやつにするとして、ほかの方法を考えましょ」

 

 結局、魔物退治の戦利品で稼ぐ案もボツだ。

 さらに投げやりに言うクリフに、フェイトもレナスも真面目に反論する。

 

「いっそ傭兵にでも志願してみるか? その前線基地とやらじゃ確か、魔物の残党狩りに参加できる有志を募ってるんだろ。人手もまだまだ足りてねえって話だし、そこそこいい金にはなるんじゃねえの」

 

「今から傭兵って、どれだけ時間がかかるんだよ。僕達はここで暮らすわけじゃないんだぞ」

 

「私も資金稼ぎのためだけに、一所に長く留まる事には賛成しかねるわ。旅を続けつつお金を得られる方法を考えましょう」

 

 とりあえず言ってみただけの案を立て続けに否定され、クリフも少々むっとした様子だ。

 お前らがくっそどうでもいい道具の数々を売りたくないとか言うからこっちだってない頭ひねって考えてやってんのになんだよ、ああでもないこうでもないと人の否定ばっかりしやがって。といったような心境であろう。

 

「お前らなあ……。旅ってのはそもそも金がかかるものなんだよ。道具は売りたくねえ足止めは食らいたくねえ、旅しながら手っ取り早く金稼ぐ方法はねえのかって、自分でも言ってる事贅沢だと思わねえのか?」

 

「そうは言っても、じゃあどうしろと」

「仕方がないわね。宿を諦めましょう」

「そうですね。ラクールに着いてもお金ないんじゃ、もう宿を諦めるしか……」

「いや、道具の方を諦めろよ」

 

 中途半端に言う事を聞いた二人にクリフが驚いていると。

 レナが急に「あっ、そうだ!」と声を出した。いかにもいい事思いついた、といった感じである。

 レナは得意げな表情で、フェイト達に向かってこう言ったのだ。

 

「お金がないのなら、魔物を倒せばいいのよ!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 それから数日後。結局お目当ての「岩だらけな場所」を探し当てる事ができなかったレナスを含めたフェイト達一行は、やっとラクールに到着した。

 

 途切れる事なく続く外壁の中、唯一開かれた町の入り口では、しっかりと武装した兵士達が絶えず町の外に気を配っている。

 クロス城下とは比較にならないほどの警戒ぶりだ。このラクールはそれだけ魔物の脅威にさらされてきた、という事なのだろう。

 

 幸い彼らの警戒心はもっぱら魔物共の方にのみ向いているようだ。

 フェイト達は怪しまれる事もなく、いくつかの質問にレナが答えただけですんなり町に入る事を許された。

 

 

 手続きを終えラクール城下に入ったフェイト達は、にぎやかな街並みには目もくれず、ラクール城目指して大通りを突っ切る。

 フェイトの足取りは重かった。

 

「やっぱり、他の方法を探そうよ。レナ」

 

「今からそんなの探してたら宿に泊まれなくなっちゃうでしょ! もうお昼過ぎなのよ? 早く行かないと受付がしまっちゃうじゃない。ほら、早く!」

 

 向かっている先はラクール城内の一角にある、ラクール闘技場。

 レナの言う「受付」とは、つまりそこでやっている闘技試合の受付の事だ。

 

 

 ラクール闘技場では現在、不足している人材の確保および日夜魔物の脅威に怯えている街の人々への娯楽提供を目的とした、闘技試合が毎日行われているのだとか。

 対戦相手はラクールの兵士が捕まえてきた本物の魔物で、対する人間側に求められる出場資格は特になし。とにかく魔物を倒せる奴ならばいきなりの飛び入り参加も、賞金目的での参加もオーケーという大盤振る舞いっぷりだ。

 

 旅をしつつ手っ取り早くお金を稼ぎたいフェイト達にとっては、これ以上になくおいしい話だろう。ただ──

 エクスペルの外からやってきた、未来の先進惑星人という、フェイト達が現在置かれている立場をまるっきり無視すればの話だが。

 

(公衆の面前で魔物と戦うってどうなんだろう。目立つよな、やっぱり)

 

 

 自慢じゃないがフェイトは自分自身でも、自分がそこらの一般人じゃありえないような戦闘能力を有している事を知っている。それも前回の旅で戦闘に慣れているからという次元の話じゃなく、もっと根本的なところ、生まれついての“センス”の段階でだ。

 さらには隣のクリフもクラウストロ人で、こっちも恐らく普通のエクスペル人ではありえない身体能力の持ち主なわけで。

 

 観客の皆様方の前で普通じゃありえないような戦いぶりを披露してしまって、後世に名を残すような事になったらどうしよう。

 未来人が目立つなんて危険じゃないのか。歴史に矛盾が生じでもしたら……

 

 

 不安ばかりのフェイトにレナの方は気楽に言ってのけるがむしろ逆効果だ。

 レナに返事するクリフが、フェイトのような不安を一切抱いていなさそうなところもまたとびきり不安である。

 

「大丈夫だって、二人なら楽に勝てるわよ。あんなに強いんだから」

 

「おう、任せときな。さくっと稼いできてやるぜ」

 

「お前普通に勝てよな? 本当に分かってるんだろうな?」

 

「んな心配する事でもねえだろ。城でやってんのはただの見世物だぜ。普通の奴らが倒せねえような魔物が出てくるわけねえだろうが」

 

 念を押すフェイトにクリフはひらひら手を振って答える。

 ちゃんと分かっているんだか、それとも面倒くさくて聞き流しているだけなのか微妙な反応だ。

 

 

 不安を拭い切れず、しかしかと言って今さら他にいい案が思い浮かぶわけでもない。渋りながらレナについて行くうちに、とうとうラクール闘技場の受付まで来てしまった。

 ここまで来たら仕方ない。なるべく目立たないように勝とうと自分に言い聞かせるフェイトをよそに、レナは何の迷いもなく受付の人に話しかける。

 

「すみません。今から試合に出たいんですが、今日の受付はまだやっていますか?」

 

「今日これから、ですか? 試合形式は?」

 

「ええと、シングルバトルの、一番報酬のいいやつでお願いします」

 

 レナが言うと、受付の人は手元の書類を見つつ言う。

 

「申し訳ございません。本日のシングルバトルの受付はすでに終了していますね」

 

 やはりラクールに着いてすぐの飛び入り参加は少々無理があったようだ。目当ての試合はすでに終わってしまったらしい。

 試合がないなら仕方ない。

 お金は稼げないけど帰るしかないなと、フェイトがこっそり安堵したのもつかの間。

 

「それじゃ、ほかの試合はありませんか? なんでもいいですから、とにかく今日中に出れそうなやつ」

 

「他の試合ですね。ただ今の時間から本日中のご参加となると──ありました、チームバトルの A ランクでしたらすぐにでもご案内頂けます」

 

「あっ、じゃあそれでお願いします」

 

 レナは受付の人から話を聞くや、二つ返事で話をまとめてしまった。

 これでちゃんと宿に泊まれるわねとばかりに一安心するレナに、フェイトが声をかけると、

 

「レナ、チームバトルって」

 

「予定とは違っちゃったけど、まあ仕方ないわよね。ようは勝てばいいのよ、うん」

 

 などという不穏な独り言を返され。

 さらに受付の人が言い、レナがさらに一生懸命それに言い返す。

 

「出場者の方は皆さん全員ですか? 規定の五人には一人足りないようですが──」

 

「あ、えーと……あと一人は、……大丈夫です、後からちゃんと来ます。とりあえず今は名前だけ書いておくので、──それじゃダメですか?」

 

「分かりました。その方の順番になってもその方が現れないようであれば、チーム全体を棄権扱いとさせて頂きます」

 

「ありがとうございます」

 

 困った事に受付の人はそういう事に理解のある人だったらしい。「大将はその方の名前でよろしいですね」とかなんとか、“五人目”なんか最初からいやしない事に気づいているとしか思えない確認をしているわけだが、という事は『チームバトル』というのはやっぱりどう考えてもそういう事であろう。

 

「では、残りの方のお名前を出場順にお願いします。先鋒は誰になさいますか?」

 

 受付の人に言われ、順番を相談しようと振り向いたレナに、フェイトは真っ先に反対した。

 

「そんなのダメに決まってるだろ。チームバトルなんて、何考えてるんだよレナ」

 

「だってしょうがないじゃない、もうそれしかやってないって言うんだから」

 

 フェイトがきつめの口調で止めても、レナは一歩も退かない。

 どころかこんな事まで言い出した。

 

「五人で戦うって言うけど、ようは先に三勝しちゃえばいいだけなんだから。レナスさんを危ない目になんか合わせないわよ」

 

「だからそういう事じゃなくて……」

 

 レナだって危険じゃないかだの。

 心配しすぎよ、二人ほどじゃなくったってわたしだってちゃんと戦えるんだからだの。

 そんなフェイトとレナの言い合いっこを、さっきから後ろの方でレナスとクリフの二人は聞いているわけだ。

 

 レナスはどこか諦めたように、ひたすら静かな様子で。

 クリフはこの状況を、少し面白がってすらいる様子で。

 

 

 そして、

 

「それじゃあどうするつもり? 試合に出れなきゃ今日の宿代だって払えないのよ?」

 

 というレナの言い分にフェイトがたじろいだ時。

 

「先に三勝すればいいのね?」

「みたいだな」

 

 黙って会話を聞いていたレナスが横のクリフに確認をとると、つかつかと前に進み。言い合いっこを続けていたフェイトとレナの前を通り過ぎて、受付の人に申し出た。

 

「先鋒は私が務めるわ」

 





・原作ゲームだと魔物がもっとまともなアイテム落としたり、アクアベリィ売った金で宿にも普通に泊まれそうだったり、ほかに色んな金稼ぎ方法あったり、そもそも魔物倒して賞品貰える闘技場はラクール闘技場じゃない方だったりしますが、その辺はご愛敬。
 レナが「リバースサイドでお金を稼ぎましょう」とか笑顔で言い出しちゃわないよう、この小説内での原作ゲームのシステム再現はほどほどにしてやっていくつもりです。

 ちなみにエル大陸組のみんなはアシュトンを仲間にした後、
 ・その流れで山岳宮殿探索したり
 ・その後港町クリクまで辿り着き、復興中の町の中で懐かしのサブキャラに再会する
 などのちょいイベントがあったりしました。
 フェイト達がお金ないない言いながらラクール街道を移動していた頃には、みんなエル大陸に渡る船の中にいます。


以下、おまけの小話プロット。

・アシュトンさんはなんにもないです

「へえ、十賢者事件ってそんな有名なんだね」
「はいそれはもう! みなさんは未来だと英雄なんですよ」
 ソフィアと雑談するアシュトン。
 ソフィアが言うには十賢者倒した僕達十二人は、後世にばっちり名を残しちゃうほど色々すごいらしい。レオンは偉い研究者、クロードは銀河連邦軍憧れの存在、レナは元祖回復術使いで、セリーヌさんもなんか乙女の憧れ的存在らしい。
「そういうの、あんまり喋ると未来変わっちゃうんじゃないかな」
 会話聞いてたクロードがおっかなびっくり止める。いやあもう本当にびっくりした。全部喋っちゃうんだもんソフィア。マリアもまったく止めないしさ。

 という事でこの話は終了。
 本当はもう聞いちゃダメなんだろうけど、ちょっと気になったので聞いてみたアシュトン。
「ねえ、僕は? 僕はどう有名になるの?」
「アシュトンさんですか? アシュトンさんは──」
「あ、待って! 全部は言わなくていいよ。全部は言わなくていいけど……ほら、未来変わらない程度にちょっとだけ」
 僕、これからどう有名になっちゃうのかなあ。ってどきどきしながら答え待つアシュトン。
 ソフィア笑顔で言う。

「アシュトンさんはなんにもないですね」
「え……そうなの?」
「はい。ギョロもウルルンも有名ですけど、アシュトンさんの名前はまったく聞かないです」
「フギャー」「ギャフギャフ」
「……」

マ「未来が変わる心配もなかったわね」
ク「というかギョロとウルルンは有名なんだな」かわいそうに……
セ「まあお互い無事に離れられたと思えば、いい事なのかもしれないですわね」
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