スター・プロファイル   作:さけとば

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5. 目標、目立たない

 レナスが何の相談もなしにいきなり、ラクール闘技場チームバトルの先鋒を務めると言い出した時。フェイトとレナの二人は当然泡を食ってレナスを止めた。

 

 ──みんなとは違って、私は自分の身を守るので精一杯だから。

 そんな理由でこの旅が始まってから今までの間ずっと戦闘を避けてきた彼女が、よりによって闘技場という舞台の上で、挑戦者のために用意された手強い魔物と戦うと言うのだ。そりゃあ止めるに決まってるだろう。

 またまたいきなり何言ってんですかこの人は、って感じである。

 

 とりもとりあえず受付の人が差し出した用紙の「先鋒」の欄に名前を書こうとしていたレナスの手元からペンを奪い、口々に「馬鹿な事考えるのはやめてください」と言い聞かせたのだが、レナスの方は全く聞く耳持たず。

 

「退く気はないわ。二人とも、いいからそのペンを返して」

 

「ダメですよ。レナスさんがちゃんと危ない事はしないって言うまでは絶対に返しません」

 

「これそもそもレナスさんのペンじゃないですから。受付の人のですから」

 

「ガキかお前ら」

 

 

 頑としてレナスに名前を書かせるまいと頑張る二人に、今度はクリフが言い聞かせ出したのだった。

 

「なあ、落ち着いて考えてみろって。嬢ちゃんは素手、対するこっちは剣だ。差し向かいで魔物とやり合うってなったらどっちがより勝てそうか、こいつはそういう単純な話だぜ」

 

「……わたしだって、素手だけで魔物と戦うつもりはありませんけど」

 

「紋章術にはスキがある。魔物の足が速かったらそれで終わりだろ」

 

「でも、いくら剣持ってるったって。レナスさんは僕らと違って、普通の──」

 

「んじゃ危なくなったら降参でもなんでもさせりゃいいじゃねえか、なにも死ぬまで戦い続けなきゃいけねえルールでもねえんだしよ」

 

 渋る二人に、クリフはいちいち道理に適った事ばかりを言う。

 試合に出る事をすなわち即座に大怪我する事だとばかり考えていた二人は、「危なくなったら降参させればいい」というところで一瞬心が揺らいだ。

 即座に反論しなかった二人を見て、クリフがたたみかけるようにさらに言う。

 

「せっかく本人がやる気出して「戦う」って言ってんだ。勝てたらもうけもんくらいの気持ちで任せる、っつう気にはならないのかねえ」

 

 クリフは言いながらいかにも「少しぐらい信じてやれよ、こいつがかわいそうだろうが」といった風にレナスを見た。

 見られたレナスも一瞬わずかにためらいを見せた後、クリフに合わせるかのようにいかにも真剣な様子で

 

「お願い。私に戦わせて」

 

 と言い。

 その様子に心を動かされたレナはついに、レナスが試合に出る事を許した。

 

「分かりました、先鋒はレナスさんに任せます。頑張ってくださいね、レナスさん。……でも、ダメそうだったらすぐに降参してくださいね。本当に、無理はしちゃダメですよ」

 

 

 そうなったらフェイトだけが反対してももうどうしようもない。

 

(クリフは一体何考えてるんだよ、この人僕らと違って普通のお嬢様だぞ。任せてみろって、どう考えても勝てるわけないじゃないか)

 

 なんて余計な説得をしてくれたクリフの事を恨めしく思いながら、当たり前のように『メリル』の偽名を用紙に書いたレナスにならい、フェイトも次鋒と中堅の欄に、その場で思いついた自分とクリフの分の偽名を書いたのだった。

 

 残る副将はレナで、大将は架空の“五人目”。

 さりげなくクリフに「ほれ、お前もさっさと名前書けよ」と急かされ、フェイトも(なんだクリフばかやろう)とその後の順番をよく考えずに名前を書いたわけだ。

 

 

(レナスさんもあれだけ止めたのに人の言う事聞きもしないで。まったく、怪我しても知らないですからね)

 

 と心配半分投げやり半分な気持ちで、みんなと一緒に闘技場の舞台に向かい。

 本日最後の試合だの、無謀にも飛び入り参加で最高難易度に挑んできた挑戦者チームに拍手をなどと、やたら盛りあげてくる会場のアナウンスを(すでに目立ってるなこれ)と諦め気分で聞き。

 

 レナスが勝てなかった場合はレナが副将として戦う事になると気づいたのは、すでにレナスが先鋒として舞台上に上がった後だったりするわけだが、

 

(まずいよなこれ。もう順番は変えられないし……。あっそうだ。どうせ僕ら偽名だし、いっそクリフに“レナ”として頑張ってもらうとかどうだろう……)

 

 などとこの際に及んでまだ色んな考えをめぐらせていたフェイトはしかし、試合開始からしばらくして、自分の考えがとんでもない杞憂であった事にやっと気づいたのであった。

 ようするにこういう事である。

 

 

(……レナスさん、普通に強くないか?)

 

 

 

 試合が始まるまでフェイトは(まあ勝てないだろうな)と思っていた。

 いよいよ試合が始まる直前、対戦相手の魔物が会場奥の鉄格子から姿を現してすぐ「降参です、降参!」とさっそく言い出したレナを止めようとも思わなかった。

 

 だって対戦相手の魔物は見るからに強そうだったのだ。

 魔物自体は初めて見るタイプではない。フェイト達も何度か相手した事のある、軽装で身を固め、槍を持っているトカゲ人間のような魔物なのだが、なんというかこれまでの道中で倒してきた奴らとは明らかに風格が違う。

 体格の良さ、油断のない武器の構え方などなど。フェイトが日頃遊んでいるゲームで例えると「上位タイプの雑魚」ってやつだ。

 

 あのタイプの魔物は動きもそれなりに素早かったはずだ。

 自分やクリフなら勝てそうだけど。レナでも勝てなさそうな相手に、レナスさんが勝てるわけない。

 

 

 ──と思っているフェイトをよそに、降参する気などさらさらないレナスは剣をゆっくり鞘から抜いて戦闘の意思表示をしてみせ、その意志に従って試合が始まったのだ。

 

 開始早々魔物が放った突きをレナスが剣で受け流した時は、フェイトも思わずレナや周りの観衆と一緒に驚き、同時にほっとした。

 その後レナスが出した最初の斬り下げを魔物に避けられた時も、周りの「ああもうちょっと、惜しい!」という声にしっかりと頷いた。

 

 レナのように舞台ぎりぎりまで近づきかぶりつきで見ながら「レ……メリルさん、頑張ってー!」と力いっぱい声援を送り続ける事こそしていないが、フェイトも手に汗握る一進一退の攻防に

 

(すごいな。やればできるじゃないですか、レナスさん! 頑張れば勝てない相手じゃないですよ!)

 

 と勝たなくちゃいけないという損得勘定抜きに、彼女の試合を興奮がちに見ながら応援してもいたのだ。──最初のうちこそは。

 

 

 大体ゲーム仕込みの我流剣法ではあるが、それでもフェイトもレナスと同じ剣使いだ。

 目の前の彼女の動きのどこが悪手でどこが好手なのかは、手に取るようによく分かる。

 で、

 

(頑張れレナスさん。そこでもう一歩踏み込むんだ。そうそこ、そこで切り返して……って惜しい。どうしてそこでもたつくんだ、もうちょっといい動きできたでしょう今の)

 

 などとレナスの戦いぶりを見てじっくり分析。

 

 自分だったらここはこう動く。そうしたら魔物はこう出るはずだから。

 けどレナスさんはやっぱりあまりこういう事には慣れていないみたいだ。守りすぎなのかな、出るべきところで出ないし。押しきれば倒せそうだった場面何回かあったのに。

 

 それになんかレナスさん、時々ほんのちょっともたつくんだよな。本当にほんのちょっとだけだけど。

 でもそのせいで攻撃のリズムも少し崩れてきてるし。今はなんとか魔物の動きについていけてるし、魔物もそこまで手痛い攻撃してこないけど、あれじゃそのうちに……

 

 

 などとそこまでレナスの戦いぶりをじっくり観察してから、フェイトはようやくある可能性に気づいたのだ。

 試合開始時と比べ攻撃のリズムがほんのわずかに崩れているのは、彼女というより……

 むしろ彼女と戦っている魔物の方なのではないか、と。

 

 

(ん? あれ、よく見ると……? まさかそんな、いやでも)

 

 そんな馬鹿な事あるわけないじゃないか。あの人ただのお嬢様だぞ。

 基本的な動きがうまくできてなくて、それがたまたま戦いに慣れた魔物を惑わせているだけじゃないのか。

 

 頭ではありえないと否定しつつも、それでもそこは剣使いとしての“勘”か。

 避けたり避けられたりなかなか決着のつかない試合、ぱっと見勝てるかどうかぎりぎりのところで一生懸命頑張っているようにしか見えないレナスの戦いぶりを、今度は疑いの目をもってじっくり観察してみたわけだ。

 その結果がつまりこの感想である。

 

 

(強くないかレナスさん)

 

 

 戦闘に慣れていないお嬢様が、一生懸命魔物と戦っているわけじゃない。

 もたついているように見えているのはわざとだ。

 レナスはわざとへんなタイミングで魔物に剣を受けさせたりしているのだ。

 魔物が手痛い攻撃仕掛けてこないのも、そうやって魔物に気づかれないよう、自分に向かってくる攻撃をすべて誘導しているからだ。

 

 ぱっと見どっちが勝つか分からない一進一退の攻防に見えるけど、実はまったくそうじゃない。

 この試合は完全にレナスのペースで進んでいる。魔物は彼女に踊らされているだけだ。

 観客はもちろん、魔物自身もまったく気づかないうちに。

 

 

 すっかり試合に熱中している観客達は、レナスの事を「綺麗な姉ちゃんなのに頑張って魔物と渡り合っててすげえな」ぐらいにしか見ていないだろう。

 剣に自信のあるフェイトだって、舞台すぐ近くという特別席でじっくり見ないと気づかなかったくらい自然な動きなのだ。

 

 そんな巧妙な戦いぶりを。しかもラクール闘技場最高難易度の魔物相手に。

 

 

(……。確実に強いなレナスさん)

 

 

 もう意味が分からない。

 だって「みんなほど強くないから、自分の身しか守れないから魔物と戦うとか絶対無理だわー」みたいな事言ってたのに。

 

 一体なんなんだろうこの戦いっぷりは。

 自分より弱いやつ相手じゃなきゃこんな芸当できるわけない。レナスの実力は間違いなく、闘技場最高難易度の魔物を余裕で上回っている。

 

 なのに「自分の身を守る程度なら」って。

 いくらなんだって謙遜がすぎるだろう。普通に自分達と肩を並べて戦える腕をお持ちじゃないか。むしろレナよりあの人の方が強いまである、ていうかたぶん絶対強いし。

 そりゃ自分から進んで先鋒務めるわけだ。だって負けるはずがないんだから。

 

 これでみんなみたいには戦えないって、またまた御冗談を。

 いやいや、というか本当に。

 

 

(今までの戦闘不参加は、なんだったんですか──?)

 

 

 

 なかなか混乱から抜けだせない頭でフェイトは試合を眺め続ける。

 ペースの“ズレ”は今やその辺にいる試合好きのおっちゃんにも分かる程度にも大きくなっている。試合がようやく佳境に入りかけた、といったところか。

 前方では相変わらずレナが、舞台上のレナスに力いっぱい声援を送り続けていて、

 

(ああレナはまだ気づいていないんだな、レナスさんの強さに)

 

 とかわいそうに思う事しきりである。

 

 そんな一生懸命応援しなくてもいいのに。どうせレナスさんが勝つのに。

 自分もついさっきまではのめり込むように試合を見ていたというのに、いやむしろだからこそ、すっかりしらけきった気持ちで

 

(観客の人達もレナも、どうしてみんな気づかないかな)

 

 とフェイトが周りを見渡すと。

 隣にいるにやついた様子のクリフと視線が合った。

 

 

「……おい。お前まさか」

 

「さあなんのことだかねえ」

 

 笑いをこらえつつ答えるクリフを見てフェイトは確信した。

 この男は気づいてやがったのだ。レナスに闘技試合の魔物を倒せるだけの腕が、十二分にある事を。

 

 そう思うと納得できる事ばかりだ。

 試合に出ると言い出したレナスを止めるどころか、そのレナスを止めようとしたフェイト達の方をうまく言いくるめた事。レナの順番が最後になるよう仕向けた事。

 それに今思えば、「剣の扱いを一生懸命お勉強なさった」やら「“護身用の”剣持ってらっしゃる」やら、いちいちレナスに嫌味ったらしい言い方してたのも──

 

「お前、いつから気づいてた」

 

「ほお? 俺はてっきり、お前もとっくに気づいてるもんだと思ってたぜ。気づいたうえであんな紳士的な態度をとってんのかと」

 

「っこの、思ってもいない事を──!」

 

 完全に面白がっているクリフにフェイトも一瞬マジ切れしかけたが、そこは一応人の試合中だ。なんとか理性を取り戻して小声に戻り、気づいてたくせにずっと一人で楽しくにやにやしてやがったクリフを睨んで聞く。

 

「気づいてたんならなんで言わないんだよ」

 

「言う必要あんのか? それに大体お前、俺の“勘”は信じてねえんだろ」

 

「はあ? “勘”って……お前まさか、そんなものを根拠に」

 

 途中まで言いかけてから(そうだな、こいつはそういうやつだった)とフェイトは改めて気づく。

 クリフも結局のところ、レナスがこうやって目の前でちゃんと戦ってみせるまで、彼女のはっきりした強さなんて分かっていなかったのだ。

 なんとなく“勘”で、(こいつはきっと強い)と信じていただけの事で。

 

 それだけの事で、きちんとした証拠があったわけでもないのに。

 しょっぱなからもう確実に「強い」前提で、あんな嫌がらせみたいな事ひたすらレナスに言い続けていたのだ、この男は。

 

 今思えばレナスが先鋒を務める事に決まった時、クリフはやたら上機嫌だった。

 これでやっとレナスの実力が見られるとうきうきしていたのだ。実際のところレナスが本当に強いかどうかなんて、あの時点じゃ分かってなかったのに。

 ご自慢の“勘”がまったくの外れだったかもしれないのに。

 

 

「さすが俺の“勘”だぜ」

 

「ああそうだな。その度胸だけは褒めてやる」

 

 得意げに言うクリフに(外れてたらお前は今頃副将の『レナ』だよ、この『ノッペリン』が)とフェイトは心の中で思いきり罵倒を浴びせた。

 そんなフェイトの思いもなんのその、ご機嫌なクリフは舞台を見て言う。

 

「そろそろカタがつきそうだな」

 

 

 目を逸らしている間に戦況はずい分進展していたらしい。

 表向きは一生懸命魔物に立ち向かっているレナスの動きは、これまで以上に危なっかしい。

 魔物もなかなか仕留められないしつこい挑戦者に、いい加減業を煮やしているようだ。

 

 焦るあまりに定石をかなぐり捨て、ひたすら魔物に無謀な攻撃を打ち込んでいるように見えるレナス。その攻撃を怒り猛りつつ振り払う魔物。

 観客およびレナの声援はいよいよ激しさを増しているが、その辺も全部“わざとやってる”と分かっちゃっているフェイトには茶番としか思えない。

 

 どうしてみんなは気づかないのだろうか。

 あれは無謀な攻撃してるように見せてるだけだというのに。彼女の動きにつられて、むしろ魔物の反撃が大振りになっているというのに。

 

 

 それからさほど時間もたたないうちに、試合はフェイトの想像通りの結末を迎えた。

 レナスが実に幸運な動きで、魔物の薙ぎ払いを捌き。

 誰の目から見ても隙だらけになった魔物の首元に、勢いのまま剣を突き刺したのである。

 

 

 会場がしんと静まり返る中。レナスは両手を使って素早く魔物に刺した剣を振りぬき、距離をとった。

 ややあって、魔物が舞台上に倒れる。

 同時に会場は沸き立った。

 

『勝負あり! 挑戦者の勝ちです! ……やってくれました、驚異の粘り勝ちです!』

 

(粘り勝ち、ねえ。確かに魔物はよく頑張ったと思うけどさ……)

 

 この大熱狂の中、ここまで冷めているのはフェイトくらいなものだ。

 観客やレナはもちろんクリフもなんだかんだ楽しそうに試合を見ていたし、応援されていた当人に至っては冷めるもくそもない。最初から平常心であろう。むしろ会場のこの盛り上がりっぷりに困惑しているくらいではないのだろうか。

 

 次の試合の準備をするため、魔物が出てきた所とはまた別の鉄格子から兵士達が数人ぞろぞろと出てきて、魔物の死体を片づけにかかる。

 

 レナスは観客の盛大な拍手を受けつつ舞台上で一礼をすると、いかにも控え目に勝利を受け取ったという態度でフェイト達のところに戻ってきた。

 さっそくレナが屈託なくはしゃいで彼女を出迎える。

 

「すごいですよレナスさん! あの魔物に勝っちゃうんだから! わたし最初は本当にもうダメかと思って、でもレナスさんがあんなに一生懸命戦ってたから……」

 

「今はメリルでお願い、レナ」

 

「あ、ごめんなさい。わたしすっかり舞い上がっちゃって……。とにかくメリルさんが無事に勝ててよかったです。怪我はしてないですよね?」

 

「ええ平気よ。応援してくれてありがとう、レナ」

 

 レナはすっかり嬉しそう。応対するレナスはいつも通り落ち着いた様子である。

 戦った本人は「私超頑張ったわ」とか思ってないだろうし、「すごいです、おめでとう」と言われても、このように無難に答えるしかあるまい。

 

 とにかくこれまでの事はどうだろうと、今この場で彼女が立派に先鋒を務めた事は間違いないわけだ。

(そんだけ戦えるくせして今までの戦闘全部堂々とサボってたんですか)

 という疑問はわきに置いといて、しっかりチームに一勝を持ち帰ってきたレナスに、フェイトもねぎらいの言葉をかけた。

 

 

「お疲れ様です。いい戦いでしたね、メリルさん。メリルさんがあんなにできるなんて思ってませんでしたよ」

 

「……ええ、ありがとう」

 

 ただしバッチリ含みを持たせたねぎらいの言葉である。

 ついでに言うと目も笑ってない。

 「僕はしっかり気づきましたけどね、あなたの所業に」という気持ちを、この際だからフェイトはレナスにありありと向けてみたのだ。

 

 さすがにレナスもこれには気づいたようで、レナに対する時以上に無難な返事を一応したのみ。明らかにフェイトの出方を窺っている様子だ。

 さらにクリフが、にこにこ笑顔でレナスに話しかける。

 

「よお、お疲れさん。しかしまああれだな、アレじゃお前には役不足だったか? 俺的にはもうちっとばかしいいモンを期待してたんだがなあ」

 

「クリフさん、言葉の使い方違いますよ? それじゃまるで魔物が弱すぎて相手にもならなかったみたいじゃないですか」

 

「おっと失敬、間違えちまったぜ。学がねえもんでよ」

 

「おいおい何言ってるんだよレナ。このいかにも学がなさそうな、役不足の意味さえ知らない大男の名前はノッペリンだろ?」

 

「ご、ごめんなさいクリフさん……じゃなくてノッペリンさん。でもノッペリンさんって、なんかすごく言いにくくて」

 

「変な名前だもんな。偽名使ってるみたいだし。レナが言い間違えるのも仕方ないさ」

 

「間違えられちまったぜ、ははは」

 

 

 などという会話を、わざとらしくレナスの前で繰り広げてみちゃったりなんかして。

 クリフの茶化しにしっかり便乗してみたフェイトは、クリフと一緒に、黙りこくって自分達を見るレナスにわざとらしく爽やかに笑いかける。

 

 

 ちゃんと戦えるくせに堂々と戦闘をサボってるなんて、よくよく考えりゃ別に大した話でもないじゃないかとフェイトは思うのだ。

 道中の敵は雑魚ばっかりで、前衛が自分とクリフの二人だけでも特に苦戦するような戦闘なんてないし。

 

 なんか知らないけど強いのがバレたらダメなお嬢様なんだ、この人は。

 秘密にしたがりさんなんだろう、きっと。別に誰も知らないのに偽名なんか使っちゃってたくらいだし。

 

 今ここで自分の気が済むまで彼女を追及するのもいいが、まあそれは野暮ってもんだろう。

 本人がどうしても内緒にしておきたいっていうのなら、自分もクリフと同じように、これからも彼女の事を温かく見守ってあげようじゃないか。

 

 

 

 そんな風にすっかり優位に立ったフェイトを、レナスは複雑そうな表情で見ている。ひとまず追及はされなさそうな事への安堵感と、うざいのが増えた事への精神的疲労が織り交ぜになったような顔だ。

 レナスは着々と整えられていく試合の舞台に目をやって、「後はあなた達次第ね」と言った。

 

「いい戦いを期待しているわ。まさか二人が負ける事はないと思うけど」

 

「そらまあ、ここで負けたら笑い話にもならねえわな。ちゃっちゃと頼むぞライアスさんよ、お前の実力ってやつを会場の皆様方にも見せてやれ」

 

 こんなところで実力なんか見せつけるわけないだろう。とにかく勝ってお金が稼げさえすればいいんだから。

 自分達は未来の先進惑星人。

 観客がその目を疑うような勝ち方をするなんてもってのほかだ。

 実力アピールなんてするべきじゃない。観客達になるべく強いと思われないような戦いをしなければいけないのだ。

 まさしく、さっきのレナスさんがやったような戦いを。

 

「まあそれなりに勝ってきますよ。僕もメリルさんの頑張りを無駄にはしたくないですしね」

 

 あほうな事ぬかすクリフを無視して、フェイトは平然とレナスに言ってのけた。

 まあ「目立たないように勝たなければ」といった縛りを自分に設けたところで、どうせ相手はさっきみたいな、ちょっと手強いだけの雑魚魔物だ。

 レナスさんも余裕しゃくしゃくで一生懸命魔物と戦ってたぐらいだし、そんな難しい事でもないだろう。

 

 

 ほどほどに手加減して、ほどほどに時間が経ったら倒せばいいかな。

 軽い気持ちで考えつつ、レナから

 

「頑張ってねフェイト。フェイトなら勝てるって信じてるから」

 

 と励ましの言葉を貰いつつ。

 次鋒ライアスとして、フェイトは試合の舞台に上がっていった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 結論から言うと、フェイトはちゃんと魔物に勝った。

 観客の人達に、「あいつ強すぎね?」といった疑いの目を向けられる事もなかった。

 ただフラグもしっかり回収した。

 

 観客にバレないよううまく手加減すればいい。そう考えていたフェイトの前に現れたのは、レナスの時とは違って、まったくの初見の魔物。

 日の光を浴び鎧のように黒く輝く胴体を持つ、どっしりとした体型の、四つ足の魔物だったのだ。

 

 

 初めて戦うタイプの敵という事で、始めのうちはフェイトも当然魔物の動きに気をつけていた。

 が、魔物の動きが全体的に遅かったので完全に油断した。

 

 なんのことはない、こいつは見かけがすごいだけののろまだ。

 いかにも硬そうな見かけしてるけど、腹の方は無防備。剣でなんなくダメージを与えられる。背後をとるとしっぽで攻撃してくるから、それだけ注意すればいい。

 

 で、しばらくそんな風に様子見で戦った後。

 魔物が大した攻撃をしてこないと思ったフェイトは、当初の予定通りの戦法で魔物と戦う事にしたのだ。

 先ほどのレナスを見習って。観客に強すぎると思われないように。

 

 そしていかにも素人くさく大げさに剣を振りかぶり、真正面から魔物に向かっていったところ──

 

 

 

(これでいいんだ。何も失敗してなんかないぞ、僕は。かっこよく勝つ必要なんてないさ。そうだ、目立たないように勝ったんだからそれで十分じゃないか)

 

 麻痺で動けないフェイトは、現在うつ伏せ状態で地面に寝っ転がり、目の前の舞台の壁を見ながら自分にしつこくそう言い聞かせている。

 

 うかつにも魔物のブレス攻撃をしっかり食らいつつも、麻痺で動けなくなっていく体を気合で動かしなんとか魔物を撃破したフェイトは、試合終了後に舞台の階段を自力で降りたところで力尽きたのだった。

 

 レナには心配された。レナスにも意外そうに「ずいぶんと無茶をしたわね」と言われた。顔は見えてなかったけど、「そこまでして目立ちたくなかったんだろ、どっかの誰かさんみたいにな」と言ったクリフは絶対に笑っていた。

 それからクリフに「両手に花ってか。羨ましいねえ」と茶化されつつ、レナとレナスの二人に両脇を支えられ、ずるずる引きずられ。

 次の試合の邪魔にならない場所に移動させてもらってフェイトは今に至る。

 

 

 観客の人達に怪しまれないように勝てたんだからいいじゃないか。

 後半なんかどう見ても全力で戦っているようにしか見えてなかったはずだし。

 自分に言い聞かせているフェイトは「自分はこの状況で最良の行動をとったんだ」と思う事は思っているのだが、まあそれ以上に思う事はやはりこれであろう。

 

 手加減しようとか思ってた少し前の自分を殴りたい。

 

 

(なんだよ初見の敵相手に思いっきり手加減しようって。その前によく考えたら手加減はしない派じゃないか、僕は)

 

 相手がいくら弱くてもプリンだとしても、失礼にならないよういつも全力で相手してあげる事にしているっていうのにそんな事も忘れてこの失態。直前のレナスの試合を見て「いける」と思ってしまったのがそもそもの過ちであろう。

 人間やはり、慣れない事はするもんじゃあない。

 

(……いや違うぞ。今の戦いはどうしても手加減しなきゃダメだったんだよ。普段通りに全力はまずいだろ。そうに決まってる)

 

 などとフェイトは一生懸命自分にそう言い聞かせているが。

 

 実際のところ、痺れてからの後半戦でフェイトは必死こいて戦っている。

 麻痺で体が完全に動かなくなる前に勝負をつけなければならなかったので、剣に紋章力を付与する技『アイシクルエッジ』も使った。

 「挑戦者は紋章剣の使い手だったようです!」とアナウンスの人にもしっかり解説された。

 

 ぶっちゃけ手加減なしの通常攻撃のみで魔物をやっつけるのと、目立ち具合はさして変わらなかったであろう。フェイトは本気で無駄に苦戦しただけである。

 

(いいんだ、これだけ苦戦したんだから。これなら強すぎるなんて疑われる事もないはずだ。じゃなきゃこんな間抜けな勝ち方……)

 

 フェイトがやっぱり壁を見ながら自分に言い聞かせていると、会場アナウンスが告げた。

 

 

『それでは三戦目に参りましょう! 挑戦者……ノ、ノッペリン、前へ!』

 

 うん、ちょっと笑ったね今。

 会場からもざわざわと失笑が漏れる中、クリフがぼやく。

 

「どーにかならんかったのかねえ、この名前」

 

(ざまあみろノッペリン、ひとをバカにするからこうなるんだ)

 

 心の中で自分にも突き刺さるようなすごい皮肉言っちゃうフェイトをよそに、クリフはフェイトのすぐ横に座り込んで治療をしているレナと、そのさらに横に立っているレナスの二人に声をかけた。

 

「じゃ、ちょっくら行ってくるぜ」

 

「気をつけてくださいね。ここの魔物、なんかけっこう手強いみたいですから」

 

「分かってるって。せいぜい油断しねえようにってな」

 

 心配そうに言うレナに、これまたフェイトを茶化すような軽い返事をして、フェイトの視界からクリフの足が見えなくなった。

 

 それからちょっと時間を置いて、フェイトが(僕以上に恥ずかしい事にならないかなクリフ。負けたら困るけど)なんて考えちゃう中。

 アナウンスの人が試合開始を宣言したのだった。

 

 

『それでは三戦目──、始めっ!』

「バーストタックル!」

 

(は?)

 

 

 耳を疑うフェイトだが、聞こえてきたのは紛れもない衝突音。

 しかも直後にガシャーン! という、また別の大きな音までした。

 

『……い、一撃です! 我々は夢を見ているのでしょうか!? 体当たりで魔物を……信じられません!』

 

 会場も一面驚きのざわつきである。

 やりやがったなあいつ、とフェイトが心中で頭を抱えていると。

 

 

『と、とにかく勝負あり! 見事挑戦者チームが勝利を……え、あれちょっと……』

 

 アナウンスの人の戸惑う声。

 会場のざわめきが増し、鳥がはばたいたような音が聞こえた。

 

 ややあって、「おいっ! くそっ」とクリフの焦る声。

 直後に、日が隠れたかのようにフェイトの視界が暗くなった。

 

 

 ばさっ。大きな鳥のはばたき。

 

「え?」

 

 レナの声。

 金属がすれる音。けたたましい鳥の鳴き声。

 それから。

 

「……っ、エリアルレイド!」

「きゃっ」

 

 

(──うわっ)

 

 気づいた時にはもう、クリフが放ったであろう技の衝撃で地面が揺れていた。砂埃が舞い、周りが何も見えなくなる。

 フェイトの視界の隅で、何かがどさっと落ちた気がした。

 

(なんだ、あれ……爪、のように見えるけど。倒したのか?)

 

 魔物が急に来て、そいつをクリフが倒したっぽい事しかフェイトには分からない。

 しばらく状況を把握しきれずにいると、砂埃で隠れていた視界がようやく晴れたのか、アナウンスの人が興奮気味に状況を解説してくれた。

 

『挑戦者チームは一体どうなったというのでしょう……やや、あれは! なんとノッペリン選手が四戦目に出場するはずだった魔物を下敷きにしている! そいつも一撃で倒したのかノッペリン! さすがノッペリンだ、すごいぞこの男は!』

 

 アナウンスの盛り上げによって、ざわついていた観客達も安心したらしい。

 今度こそ拍手喝采の雨あられである。

 

 

「大丈夫?」

「あ……。ありがとうございます」

 

 レナスとレナの声も聞こえ、フェイトも(二人も無事みたいだな)と一安心。

 本当ならこういう時にこそ自分が魔物を返り討ちにするはずなのに、情けなくも痺れて寝っ転がってるだけ。よりによってクリフに助けられる側になっていたという事実は一切考えない事にする。ていうか考えてたまるか。

 

(あーでも、レナスさんも普通に強いんだったな。僕が動けなくても別に問題ないか。はあ……早く麻痺治してくれないかな、レナ)

 

 レナはというと、今の騒動ですっかり治療の手も止まってしまった様子。

 きょとんとした声の様子を聞くに、レナも今何が起きたのかよく分かってないらしい。

 

「あの、わたしよく見えなかったんですけど、今……?」

 

 とレナが困惑していると、クリフがいきなり軽い調子で謝ってきた。

 

「いやー悪いな嬢ちゃん、ちぃっとばかし急いでたもんでよ。目と鼻の先で技ぶっぱなされたら、嬢ちゃんが混乱するのも無理ねえよな」

 

「え……と、そうなのかな、今の」

 

「ん? 他になんかあったか?」

 

「あ、いや、そうですね。わたしなんかちょっと混乱してたみたいです。ごめんなさいクリフさ……じゃなくてノッペリンさん。助けてもらったお礼も言わずに変なこと言って」

 

「なに、いいってことよ。お前も、俺にもっと感謝してくれてもいいんだぜ?」

 

「鉄格子を壊したのはあなたよね?」

 

 

 呆れたようなレナスの返事に、フェイトもやっと事の真相を知る。

 

(はあ? ……ってそうかさっきの音──! あれで鉄格子が壊れたのか!)

 

 体当たりで魔物をぶっ飛ばした先に鉄格子があって、それを壊したせいで、控えにいた魔物が飛び出してきたと。

 じゃあクリフは自分で自分の尻拭いしただけじゃん。一瞬でも助けられたとか思って損した。

 

(なにやってんだよこいつは本当に。普通に勝てってあれほど言ったのに、何雑魚相手に全力なんか出して……)

 

 遅ればせながらフェイトがクリフのしでかしに呆れていると。

 

 

「──けど、そうね。ありがとう、おかげで助かったわ」

 

(お礼なんか言わなくていいですよ、こんなやつに)

 

 レナスはクリフに礼を言った後、地面に寝っ転がりっぱなしのフェイトをちらと見て言った。

 

「それよりレナ。フェイトは治してあげないの?」

「あ」 

 




・本文にも書いたけど、一応今回の名前確認。
 レナス→メリル
 フェイト→ライアス
 クリフ→ノッペリン
 です。
 レナは偽名使う必要がないのでそのままレナ。もしもの時の五人目の名前も、レナが書きました。
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