スター・プロファイル   作:さけとば

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6-1. 大人のお誘い?

 見事獲得したラクール闘技場の賞金で宿をとる事が出来たフェイト達は、今日の夜もいつもと同じように通信機を使って、エル大陸にいる旅の仲間達と連絡を取っていた。

 

 今日はお互い色々な事があったという事で、報告の内容にもいつもより華がある。

 旅の目的に関する重要な発見をしたという事ではない。

 雑談がいつも以上に盛り上がる、といった意味での“華”だ。

 

 クロード達の話を面白おかしく聞き。

 フェイトとレナもひとしきり今日の出来事、特にラクールに着いてからの事を喋る。

 闘技場で最後にフェイトがレナに受けた仕打ちをしっとりと語ると、話のオチのところで通信機からいくつもの笑い声が流れた。

 

『つまり、すっかり忘れられてたってワケ?』

 

「わ、忘れてなんか」

 

「いやあれは絶対忘れてたぞ。あ、って言ったからねレナ。あ、って」

 

「えーと、あれはそういうつもりで言ったんじゃなくて」

 

 レナがごまかす度にまた、通信機からくすくすと笑う声が洩れる。

 クロスで別れたクロード、セリーヌ、ソフィアとマリア。

 フェイト達がまだハーリーにいた頃、クロス大陸クリクの港から南に位置するラスガス山脈のふもとで、クロード達の仲間に加わったという紋章剣士のアシュトン。

 今日はその五人に加え、さらに別の声も混じっていた。

 

 

『まあレナならしょうがないですわね。時々ありえない暴走しますもの』

 

『すぐ近くにいるのに存在を忘れられてたなんて、僕より不幸だよね。ねえ? クロード』

 

『アシュトン! そっ、そんな事言ったら彼に失礼じゃないか! 存在を忘れられるっていう事は、すっごくつらい事なんだぞ?』

 

『まるで自分も忘れられた事があるみたいな言い方ですねえ』

 

『……実際に忘れられたんだろう』

 

 

 アシュトンと同じく、かつてレナやクロードと共に十賢者を倒した英雄、ディアスとノエルの二人だ。

 彼らとは今日、エルリア市街の外れで偶然会う事ができたのだとか。

 

 なんでもクロード達が町の中に現れた魔物と戦っている時に、偶然近くを通りかかった彼らが加勢してくれたらしい。

 もともとクロードもエル大陸に着き次第、そこにいるだろうかつての仲間達を探すつもりだったから、探すまでもなく向こうから来てくれたのはラッキーだったと言っていた。

 

 戦いが終わった後で二人に事情を説明して、そのまま旅の仲間に加わってもらう事になったというわけだ。

 

 

 通信機越しではあるが自己紹介も互いに済ませた後なので、フェイトも彼らの特徴をなんとなく掴んでいる。

 

 まず、始終のほほんとした調子で喋るのがノエルだ。

 だいぶ聞き慣れたアシュトンの声も大体そんな感じだけど、より緊張感がない方。聞いてるだけのこっちも気が抜けるような声の方。

 

 彼は十賢者事件によって消滅したエナジーネーデの生き残り、つまりエクスペルに現状三人しかいないネーデ人のうちの一人だ。

 レナと同じく回復術を使える紋章術師という事なので、きっとこれからの向こうのチームの大きな助けになってくれることだろう。

 

 

 そしてあまり喋らない方がディアス。喋ってもまず愛想よくないのがディアス。

 エクスペルにその名を知らない者はいないと言われるほどの剣豪なのだそうだが、こいつはきっとすかしたイケメンに違いないとフェイトは睨んでいる。

 

 だってさっきから後ろの方で『おなか空きませんか?』とかなんとかしきりにこいつに話しかけているソフィアの声が聞こえるのだ。

 戦闘の際危ないところを助けてもらったお礼だとかなんとか本人は言っているけど、イケメンじゃなきゃそこまで張り切るはずがないだろう。仮に助けてもらったのがノエルの方でも今と同じ態度で接するというのか、否。

 

 

(ミーハーだもんな、ソフィア)

 

 まったくソフィアはなにやってんだと呆れていたら、通信機からかすかにこんな声が漏れてくる。

 

『どうですか!』

『……うまいな』

『ありがとうございます!』

 

(餌付けが成功してる、だと?)

 

 驚くフェイトの横で、同じく会話を聞いていたレナが微笑ましそうに言う。それにマリアがいたって冷静な様子で答えた。

 

「ディアスはソフィアとすっかり仲良しさんね。とても今日会ったばかりの二人とは思えないわ」

 

『偶然の一致を運命かなにかと勘違いしたんでしょ。あのこミーハーだから』

 

 

 やはりイケメンなのかとフェイトが納得していると。

 ばたん、と入り口のドアが開いてクリフが部屋の中に入ってきた。荷物で手が塞がっているらしく、クリフは開けたドアを足で蹴って閉める。

 

「いやーまいったなこりゃ、つい買いすぎちまったぜ」

 

「クリフさん、今までどこに……って」

 

「おいっ、お前それ」

 

 ご機嫌な様子のクリフを見るなりフェイトは血相を変えた。

 なんてったってクリフは、大量のワインボトルを抱えて帰ってきたのだ。

 そりゃあせっかくあんな恥ずかしい事になってまでお金稼いできたのに、もう使い果たしてどうする気だ馬鹿野郎と、フェイトだって真っ先にそう思うだろう。お金なくなった理由が理由なだけに。

 

 が、どうやらその心配は杞憂で済んだらしい。

 クリフは抱えたボトルのラベルを見せつけながら、呆れたように言ってくる。

 

「ただの安酒だよ。お前じゃあるまいし」

 

「? なんで安酒なんか」

 

「飲むに決まってるだろ。他に何があるっつーんだよ」

 

「ああ、そうか。そうだよな。なるほど」

 

 そいつはまったく思いつかなかったなと感心するフェイト。

 クリフは酒を手に、にかっと笑って言う。通信機から『クリフらしいわね』とマリアの声がした。

 

「戦勝祝いでも、って思ってな」

 

「でも、そんなにお酒強いんですかクリフさん? 量がちょっと、尋常じゃないですけど」

 

 レナは気後れがちにそう聞く。

 いかにもお酒好きそうだし強そうだけど、その量はすごすぎじゃないですかと思っているんだろう。フェイトもそう思う。

 

(限度があるだろクラウストロ人。安酒だって一応タダじゃないんだぞ)

 

 呆れるフェイトをよそに、

 

「ん、まあ確かに。飲めなくはねえけど、ちと買いすぎた感はあるな」

 

 とクリフは酒を見て言う。

 

「大量の酒を一人さみしくっつうのもどうかと思うし、かといってハンパに残して荷物にすんのもめんどくせえし、さてどうしたもんか。せめて一緒に飲めるやつがいりゃあいいんだが、嬢ちゃんにもお前にも酒はまだ早えしな……」

 

 

 しらじらしい独り言を続けた後。

 クリフは部屋の隅に座っていたレナスに目を止めた。

 

「おっと。いるじゃねえか、飲めそうなやつが一人」

 

 

 レナスはというと思い深げに窓の外を見たまま、クリフの声も耳に入っていない様子。

 クリフは構わずレナスの目の前までつかつか歩くと、ようやく気がついたのかゆっくりとクリフを見上げた彼女に向かって、繰り返し笑顔で言った。

 

「よう、酒はいけるクチかい?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 クリフとレナスの二人が部屋から出て行った途端、それまで無言を保っていた通信機から一斉に話し声が聞こえだした。

 

『いやどう考えたってさ』

『今のは』

『ですよね?』

『それ以外にないよね?』

 

 など好き勝手に喋った後、セリーヌがきっぱりと断定した。

 

『ナンパですわね』

 

 

「やっぱり、セリーヌさんもそう思います?」

 

 レナは通信機にすがるように聞く。

 それから『他に何がありまして?』という返事を受けると、真っ青になってフェイトの方に振り向いた。

 

「フェイト、どうしよう!」

「どうしようって」

「レナスさんが、レナスさんが!」

 

 まるで彼女が悪者に無理やり連れ去られでもしたかのような慌てようである。

 そりゃフェイトだってレナスがあっさり「分かった。付き合うわ」と言った時は目玉が飛び出るくらい驚いたけど、だからってそこまで慌てる事ないだろう。本人がいいよって言っちゃったんだから。

 

(趣味悪いなレナスさん)

 

 などと思いつつ落ち着いてレナをなだめようとしたフェイトだったが、

 

「嫌ならレナスさんも断ってるはずだろ? 本人がいいって言ったんだからさ、僕らがどうこう言うのは──」

 

「甘い!」

 

 

 びしっとレナに指をさされた。

 いきなりなので、ちょっとびっくりしたのは秘密だ。

 

「な、何が甘いんだよ」

 

「よく考えてよフェイト。あんなみえすいた手口、喜んでついて行く女のひとなんてまずいないのよ? 鼻であしらって終わりよ? それなのにレナスさんはどう? 付き合うって言った時、どんな顔してた?」

 

 すごい言いようだなと思いつつ、レナに言われた通りに、フェイトもその時のレナスの表情を思い出そうと頭をひねる。

 セリフの方がショッキングすぎてあまり覚えていないけど、たしか。

 

「べつにどういう顔もしていなかったけど?」

 

 至っていつも通り、かは分からないけど多分無表情だった気がする。少なくともクリフの事、喜びも蔑みもしていなかったんじゃないだろうか。

 だからって、それが一体なんだというのか。

 

 疑問に思うフェイトに向かって、

 

「でしょ? ふたりっきりでお酒を飲むっていうのに、何も考えていないような顔なんて普通はしないものよ。なのにそんな顔をしてたのよ、あの時のレナスさんは」

 

 とまとめた上で、レナはとんでもない結論を出したのだった。

 

 

「きっとレナスさんはあれがナンパだって気づいてないんだわ。クリフさんの言葉をそのまま受け取ったのよ。本当に、一緒にお酒を飲むためだけについて行ったんだわ……」

 

 

 聞いた瞬間思わず噴き出しそうになったフェイトも、「そんなことあるわけ」とまで言ってから、セリーヌの言葉を聞いてはっと真顔になる。

 

『ああ、そういう可能性もあるかもしれませんわね。あのこなら』

 

 ある。あの人なら十分ありうる。

 ハーリーでだって、さしてなんも考えずに怪しい奴らにほいほいついて行っちゃったあの人の事だ。おいしい酒が飲めるぞー、なんて誘われるままクリフについて行っちゃったんだとしてもなにも不思議じゃない。

 

 現実味を帯びてきたレナの結論を補足するように、クロードもぽつりと言う。

 

『そういえばレナスさん、今日はあんまり喋ってなかったな』

 

 言われてみればそうだ。

 あの人はいつもそこまで発言する方でもないけど、今日はそれにも増して黙っていたと思う。せいぜい自己紹介の時に二言三言喋ったくらいじゃないだろうか。

 剣も差したまま、隅っこに座って。

 なんかすごいうわの空だった気がする。

 

(……レナスさん、さっき部屋を出てった時もまだ剣差してたな)

 

 ほぼ確信に変わったところで、ノエルがのほほんと言った。

 

 

『ぼーっとしてて、よく考えずに「いいよ」って言っちゃったんですかねえ』

 

「……」

 

 

 しばらく静寂が続いた後。

 レナがすっくと立ち上がった。

 

「行きましょうフェイト。レナスさんを助けに」

 

「助けに、って」

「どこに行ったのかはわかってるのよ! このまま黙って見てろって言うの!?」

 

 二人が向かったのは、ここから右に三つほど離れた部屋。

 寝る時のためにもう一室とっておいた、フェイトとクリフ用の男部屋だ。

 レナスさんが何も考えてなかった事はもう確実なんだろうが、場所を考えると、フェイトにはレナが想像しているような事態に至るとはやはり思いにくい。

 

 落ち着いて言うフェイトに、レナが突き刺さるような質問をぶつける。

 

「いくらクリフに下心があったってそんな大胆な事しないよ。あと三時間もしたら寝る時間だし。それまでには戻って来なきゃいけないんだから」

 

「戻って来なかったら?」

 

 

 ぐうの音も出ない。というか。

 そうなった場合は部屋に戻れなくなった自分がこのままレナの所にお邪魔する事になるわけだが、それは気づいているのだろうか。人の心配するよりそっちの心配が先じゃないのかとフェイトとしては思わずにいられない。

 

(それとも──まったく気にならないですか? レナさん)

 

 なんて思っていると、通信機から『……くだらんな』というぶっきらぼうな声が聞こえた。たぶんディアスだ。

 

『そのクリフとやらは、気にいった女に酒を飲ませて無理やり自分の思い通りにさせようとするような輩なのか? そうならレナの言う事が正しいんだろうが……』

 

 

 ぐうの音も出ない。

 なんで今日会話したばかりで、会った事もないようなやつにこんな正論を先に言われてしまったのか。

 

「ディアス……」

 

 レナが一瞬でしおらしくなる中、今度はマリアがきっぱり断言した。

 

 

『クリフは確かに女の人が好きよ。彼女みたいな美人は尚更ね。……でも、旅の途中で勝手に仲間に手を出して、チームを分裂させるような無責任なマネは絶対にしないわ』

 

「マリア……」

 

 ごめんクリフ。僕が悪かったと、さしものフェイトもこれには大反省である。

 信じてあげられなくてごめん。なんでお前の事、一瞬でも疑ってしまったんだろう。

 女好きだからって、ひとでなしとは限らないよな。軽いセリフばっかり言ってたけど、ネルさんにだって結局手ひとつ出さなかったもんな。

 まあネルさんがほいほいついて行かなかっただけかもしれないけど。

 

『なんかすごい落ち込んでるね、向こう』

『通信機が壊れたかと思いましたわ』

 

 一通り反省した後で気を取り直してみれば、いつの間にか落ち着きを通り越して落ち込んだレナをアシュトンが優しくなぐさめている。

 

「みんなごめん。わたし、つい取り乱しちゃって……」

 

『僕らに謝る事じゃないよ。それにそんなに慌てるっていうのは、それほどレナスさんの事を、仲間を大切に思っているって事なんでしょ? ならしょうがないんじゃないかな。フェイトもそう思うよね?』

 

 

 いいやつだなアシュトン。いいやつすぎて「お友達でいましょう」って言われるタイプとみた。

 改めてそんな事を思いつつも、フェイトもいいやつなアシュトンに同意したのだった。

 

「うん、そうだね。ありがとうアシュトン」

 

 

 

 その後も、少しだけみんなと会話をした。

 話題はもちろんさっきの事以外だ。あえて触れないようにしたのだが──

 

 通信を切る時、マリアが『さっきの話だけど』と言ったので聞き返したら。

 

 

『手は出さなくても、お酒で気分が良くなったら、からんで抱きつくくらいはするかもね』

 

 マリアはレナにも聞こえるような声で言ってから、ぷつっと通信を切った。

 




ちなみに本文でやらなかったディアスとノエルの加入場面プロットはこんな感じ。
・市街探索中に魔物の来襲。もたもたしてたソフィアが階段から落っこちる。
→ちょうど下を通りかかったディアスが串焼き屋の看板で受け止める。
→イケメンのどアップ。ソフィアはズキューンと運命を感じました。

ついでに登場キャラ紹介。

・ディアス(スターオーシャン2)
 25歳。剣豪として知られる男性。レナの幼なじみ。
 今も武者修行の旅をしている。最近はエル大陸にいるらしい。

 原作ゲームのイケメン枠。しかしこの作品中で彼がイケメンな活躍をするかどうかは、今のところ作者にもわかりません。
 とりあえずED後なので、SO2の頃よりは人柄がまるくなっている感じです。ブルースフィア基準?


・ノエル(スターオーシャン2)
 24歳。ネーデで動物学者をしていた男性。癒しの術も使える紋章術師。
 現在はエル大陸でのんびりと動物の保護活動中。ちょうどディアスと行動を共にしていた時に、クロード達と再会した。

 ノエルはノエルです、以上。
 キャラを例の四コマ仕様にしようかとも思ったんですが、さすがに取り返しがつかなくなりそうなのでやめました。よってそのままノエルでいきます。
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