スター・プロファイル   作:さけとば

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11-1. フェイト決死の時間稼ぎ

 リンガの聖地にていきなり操られたレナスを正気に戻すため、クリフが発見した操っているであろう何者かを追いかけていったしばらく後。

 クリフがいなくなってから大して時間が経っていないというのに、レナスと対峙しているフェイトの体はすでに傷だらけだった。

 

 

(まだかクリフ! 早く、早く……)

 

 自分目がけて次々に飛んでくる容赦のない彼女の剣を、後ろの方でレナが今なお一生懸命自分にかけ続けてくれている、対象者の身体能力を大幅に引き上げる補助紋章術『エンゼルフェザー』の力も借りてなんとか捌きつつ。

 フェイトは心の中でひたすら急かすように念じる。

 

 クリフはもう怪しい奴の所にたどり着いただろうか。

 こんな事は止めるよう説得している頃だろうか。

 

 クリフが出ていったのはついさっきなのだ。そんなに早く用事が済むものかと頭では分かっているのだが、こんなアホみたいに強い人の剣を、クリフの用事が済むまでこのままずっと受け続けるというのは無理すぎる状況である。

 どう冷静に考えようとしたって、もうあと少しもすれば彼女も正気に戻ってくれるはずだなどと思ってしまわずにはいられない。

 

(早く……そうでなきゃ、このままじゃ)

 

 相対するレナスはフェイトの僅かな隙も見逃してはくれない。

 集中力がほんの少し途切れたところで、また素早い一撃が容赦なく飛んできた。

 

 急所は外したものの、完全には避けられない。

 また一つ傷が増え、もはや斬られた痛みをそれほど感じなくなってきている事に、フェイトはいっそうの危機感を募らせる。

 

(早くしてくれクリフ! このままじゃ死ぬぞ僕は!)

 

 

 持ち前の運動神経をさらにエンゼルフェザーで引き上げているというのに、互角どころかどう考えてもジリ貧なこの状況は非常にまずい。

 このままじゃ負ける。ていうか確実に死ぬ。

 クリフがいなくなり、レナスと一対一で剣を交えたフェイトは一分と経たないうちにそう悟ったのだった。

 

 単純な身体能力の差だけでいうならば、間違いなく今の自分の方が上のはず。

 操られているだけの彼女には悪いけど、いっそ防戦に徹するのをやめて攻勢に転じるべきかとはすぐに考えたものの、フェイトはなかなかそれを実行に移す気にはなれないでいた。

 

 

 理由の一つは、例えジリ貧だろうが守りに徹している方がまだ安全だろうという事。

 本気の彼女と戦えば嫌でも分かる。

 彼女の強さはずば抜けた身体能力の高さとかそういうのじゃない。

 

 洗練された動きから繰り出される完璧としか言いようのない剣技の数々、かと思えば時折油断した頃を狙って体術なんかも仕掛けてきたり、戦闘に慣れたいっぱしの剣士であるフェイトですらごり押しの反射神経で捌くしかない翻弄の巧みさ。

 つまり総合的に見てアホみたいに強いのである。

 

 例えるなら彼女は(というよりもうフェイトは十中八九そうに違いないと確信している)、とてつもない数の実戦でもって、戦闘経験をこれでもかとばかりに積み重ねた戦闘のプロだ。

 そんなガチのプロ相手に、力に任せて攻撃したって効くわけがない。

 たやすく捌かれるどころか反撃でばっさりやられて即終了であろう。

 

 

 それともう一つ。

 フェイトの中には、仮に自分が彼女と本気で戦う気になったとして、はたして自分はいつも魔物を相手にするのと全く同じ戦いができるのだろうか……という心の迷いがあったりもする。

 

 これは子供同士の喧嘩でも闘技場の試合でも、ましてやファイトシミュレータのボス戦でもない。本物の剣を使った命がけの攻防なのだ。

 これが素手ならば相手を気絶させるなりすればいい話だ。

 よほど当たり所が悪くない限り、多少のアザができてしまっても後でレナに治してもらえば済むだろうが、剣だとそうはいかない。

 

 格下でもなんでもない人を少しも傷つけずに、純粋にその戦闘能力だけを削ぐような戦いをするのは無理だ。

 本気で殺し合いをするぐらいの覚悟が自分になければ彼女は止められない。

 

 ややツッコミどころの多い困ったさんだとは常々思えど敵だと思った事なんて一度もない人に、自分は本当に本気の覚悟で剣を向ける事ができるのか?

 それに、もしそれができたとして、彼女はどうなる? 致命傷を与えてしまった場合は? レナの回復は間に合ってくれるだろうか?

 

 

(……あーもう、どうしてこんな簡単に操られちゃったかなあレナスさんは)

 

 いくら心の中でぼやいたところで現実は変わらず。

 いい方法が思いつかないフェイトは、今も防戦一方でレナスの剣を受け続ける。

 

(暴れるならせめて素手で暴れて欲しかった。ていうかなんなんですか“護身用の剣”って。これが護身って、いくらなんでも護身のハードル高すぎでしょう。変質者どころか剣聖も泣いて謝るレベルじゃないですか)

 

 わずかな隙をつかれ、また一つかすり傷を負わされたところで、

 

(誰だこんな危ない人に剣なんて持たせた奴は)

 

 ぼやき続けていたフェイトはふと思いついた。

 

 

(……。そうか。剣さえなくなればいいんだよな)

 

 

 レナスの剣を受けつつ、フェイトは思いついた事をじっくり検討しようと、彼女の状態を改めて観察する。

 左手に持っていた折れた鞘と人形は、クリフがいなくなってすぐに、彼女自らが地面に捨てている。一対一の戦いには邪魔になると判断したのだろう。

 

 つまり彼女が今持っているのは、両手で握っている剣だけ。

 この剣さえなくなれば──

 

(うまく、加減できるか?)

 

 剣さえなくなってしまえばその後はたぶんどうとでもなる。

 剣を“なくしてしまう”方法もすぐに考えついた。

 

 が、それでもフェイトの決心はすぐにはつかない。

 考えついた方法がそれほどに博打じみているのだ。

 事によっては、レナの回復が間に合うと信じて、彼女に全力で斬りかかった方がまだマシなほどに。

 

(本当にいけるのか? 失敗しましたじゃ済まされないんだぞ)

 

 制御のコツはなんとなく掴めてきているけど、それはあくまで集中できる環境下で練習した時の事。こんな状況でやった事はただの一度もない。

 が、

 

(でも……それでもやらなきゃダメなんだよな、今は)

 

 

 このまま防戦しているだけじゃ、この局面は乗り切れない。

 クリフがどうにかしてくれるより先に、自分は彼女に斬られて死ぬ。そしてその次はレナだ。

 レナの方を見る余裕はとてもないけれども、レナも今、一生懸命自分のサポートをしてくれている。自分一人だけで戦っているわけじゃないっていうのに、このまま何も手を打たないで死を待つなんて事、していいわけがないだろう。

 

 こんな状況だからこそ、自分ができうる事を恐れずやるべきなのだ。

 自分とレナの命を守るためにも。それとうっかり操られただけの困ったさんが、知らずのうちに人の命を奪ってしまわないためにも。

 

(そうだよな。ここは僕がなんとかしてみせるしかないんだ)

 

 

 

 ついに決意を固めたフェイトは、後方にいるレナに聞こえるよう声をあげて言った。

 

「レナ! このままじゃクリフが操っている奴をどうにかするまでもたない! 今から少し手荒な方法をとるから、巻き込まれないよう気をつけてくれ!」

 

 まさかここまでフェイトが押されるとは思っていなかったのだろう。事のなりゆきに動揺はしているようだが、レナもしっかりとフェイトの言葉に答える。

 

「あっ……うん、そうよね……。わかったわ! 頑張ってフェイト、きっともう少しの辛抱よ!」

 

 返事を聞いたところで、さっそくフェイトは行動に出た。

 

(それじゃあ……お願いですからおとなしくしててくださいよ、レナスさん!)

 

 攻撃を受け流さず、やや力任せに押し返してから、後ろに下がってレナスの剣の間合いから離れる。

 レナスが距離を詰めようと前に出たところで、フェイトはすかさず意識を自分の周りに集中させた。

 

 

「ストレイヤーヴォイド!」

 

 

 瞬時にしてフェイトの周囲に、紋章力で作った赤黒い霧が湧き出る。

 危険を察知したレナスは後ろに下がろうとするがもう遅い。フェイトから湧き出る霧が至近距離にいたレナスを逃さず捕えると、彼女の体を覆うように包み込んでぎりぎりと縛りつけた。

 

「……ッ」

 

「少し我慢してください。できるだけ早く終わらせますから」

 

 苦しむレナスに声をかけたフェイトは、霧の維持に集中しつつ、それとは別の「力」を自分の左手にも集中させ始めた。

 

 どっちにしろ、この霧を長い間維持し続ける事はできない。

 膨大な紋章力を使って周囲の敵を強引に拘束するこの『ストレイヤーヴォイド』は、激しく気力を消耗する技なのだ。さらに霧を作りだしている間はフェイト自身も動くことができないという欠点もある。

 

 本来なら霧で弱ったところを不意打ちの剣で斬りつけるこの技を、今フェイトがレナスに対して使っているのには、もちろん別の狙いがある。

 つまり、「力」の発動準備ができるまでの時間稼ぎだ。

 

 

 フェイトが持っている特別な「力」、ディストラクション。

 それは、すべてを消し去る破壊の力だ。

 どんな強固なバリアもこの「力」の前では何も意味をなさない。物理法則そのものを捻じ曲げ、「力」に触れたすべての存在を、この世界から消してしまうからだ。

 

 戦艦すら跡形もなく消してしまうほどの威力を持つ恐ろしい「力」ではあるが、それはあくまでもフェイトがその「力」をフルに発動させた時の事。

 うまい事「力」を制御し、威力を最小限に抑える事ができれば──

 理論上は、狙った物体だけを消す事も可能なはずの「力」である。

 

 

 そのまま集中を続けていくうちに、フェイトの頭の奥でかすかに耳鳴りがしだした。いつもと同じ、「力」を発動させる時の感覚だ。

 

(……よし。今ならいける)

 

 準備が出来るとフェイトは霧を解き放ち、剣を捨ててレナスの懐へと飛び込んだ。

 直前まで霧で縛りつけられ動きを封じられていたレナスは、消えゆく霧を割って突然現れたフェイトに対応できない。

 

 見事レナスの不意をつくことに成功したフェイトは、左手でレナスの剣の刃を掴むと、力ずくで体の外側に押し出した。レナスが咳き込みつつも左手で殴ろうとするが、その腕も右手で掴んで力任せに押さえつける。

 

(これで決める!)

 

 すぐさまフェイトが剣を掴んだ左手から「力」を放とうとした時。

 

 押さえつけていたフェイトの腕ががくっと下がった。

 それまで抵抗していたレナスが急に力を緩めたのだ。体勢が低くなっている。

 フェイトはとっさに足元への攻撃を警戒したが、

 

「な」

 

 次の瞬間、頭突きがフェイトの下あごに入った。

 

 

 一瞬視界が白飛びになる。

 左の手のひらが、さあっと切れるような感覚。

 剣を掴んだ手を放したのだと理解する。

 

 かすむ視界に、剣を振り上げるレナスと、自分の左手が映り込んだ。

 左手が熱い。頭の中では耳鳴りが強く──

 

(や、ば……当たる)

 

 フェイトは意識を振り絞って、自分の左手を視界の外へと向けた。

 同時に、レナスの剣がフェイトを袈裟がけに斬り裂いた。

 

 

「フェイトっ! いやあぁぁーッ!」

 

 レナの叫び声が聞こえる。

 

(僕は……、失敗、したんだな)

 

 虚ろな意識でぼんやりと思った。

 意識とは無関係に、フェイトの左手からは青白く輝く光線が放たれている。

 放出された光線はレナスにはかすりもしない。空へ向かって一直線に飛んでいき、近くの岩壁を音もなくごっそりと消し去った。

 

 光線の放出が止むと、フェイトの意識はそのまま闇に包まれ──

 

 ──なかった。

 

 

「…………えっ?」

 

 

 頭に疑問符を浮かべながら、フェイトはぺたんと尻もちをついた。

 

 自分は今間違いなく斬られたはずだ。斬られた感触だってあったのに。

 一体これはどういう事なんだと、たった今斬られたはずの場所を手で触って確認してみても異常はなし。

 

(やっぱり、斬られてない)

 

 とフェイトは自分の体をまじまじと確認する。

 それまでにちびちびと受けた傷はそのままな様子だが、左手の傷の方は中途半端に治っている。

 とすると、ばっさり斬られたはずの一撃も気のせいではなく、本当に斬られたけど一瞬で治ったという事らしい。

 

(一体、どうして……レナが回復してくれたのか?)

 

 あまりの不思議さに、座り込んだままで、じんじんと痛む顎を手の甲でさすりつつ理由を考えていたフェイトはすぐに我に返った。

 

(ってしまった! 今はのん気に考えてる場合じゃ──)

 

 慌てて見上げれば、なんとレナスも不思議そうに首をかしげているではないか。

 隙だらけのフェイトにとどめを刺そうとする気配もない。本当にただ不思議そうに前を見て突っ立っているだけである。

 

(……レナスさんものん気だったな)

 

 さっきまで殺す気まんまんで剣振ってたくせにそんなばかなと思わないでもないが、そのおかけで助かったのだからまあよしとしておこう。

 とにもかくにもレナスの気が変わらないうちに、フェイトがさっと距離をとって立ち上がると。

 

 

「な……こっ、これは!」

 

 レナスの視線の先、フェイトの目の前の空中に、見覚えのある『妖精の像』がきらきら光り輝いて浮かんでいた。

 

 

「……」

 

 

 無駄に艶めかしい、世の男共に対してこれでもかとばかりに挑発的なポーズをとった、とっても肉付きのいい妖精の像を凝視した後。

 

 我に返ったフェイトは即座に自分の腰のポーチに手をやった。

 ない。入ってない。ていうかさっきの一撃でポーチ破れてる。

 

(すると今僕の目の前にあるコレは、やっぱり──)

 

 こんなんどうしたって疑いようがない。

 この像は自分がハーリーの道具屋で買った、あのエロい彫像ではないか。

 見覚えがありすぎるフォルムだし、第一、目の前で光り輝いている像のおみ足には『戦闘用』の商品タグもしっかりとくくりつけられている。

 

(戦闘用……)

 

 そう。この彫像、タグに書いてある通り“戦闘用”なのだ。

 装備者が戦闘不能になった場合。

 受けたはずの致命傷及びそれまでに体に蓄積した傷を、瞬時にしてしかし中途半端に治してくれるという効果を持つ、おなじみの──

 

 

「リ、リバースドールだったのか!?」

 

 

 フェイトが驚愕するのも無理はないだろう。『リバースドール』は確かに妖精を模した像である場合が多いのだが、道具屋に広く流通しているのはもちろん汚れを知らない、ファンシー路線な妖精さんである。

 こんなちびっ子には見せられない魅惑の妖精、個人製作の品にしたってまずお目にかかれるもんじゃない。

 

(アレンジきかせすぎだろ製作者)

 

 しかもこのリバースドール。

 さっき効果をしっかり発動したにもかかわらず、砕け散らずにずっときらきら宙に浮いているのだ。

 普通なら効果が発動したら、一発ですぐに壊れる代物のはずなのに。

 

 どうやらレシピ指定で破壊確率を下げる改良までしていたらしい。製作者はよほど精魂込めてこの彫像を作ったのであろう。

 

(すごい情熱だ……。リバースドールとして作らなきゃいいだけなのに)

 

 

 色んな事に驚いていると、首をかしげて突っ立っていただけのレナスが、急に思い出したかのように剣を構えなおした。

 

 瞬時に緊張を取り戻したフェイトも、宙に浮いていたエロい彫像もといリバースドールを掴みとり、さっき地面に捨てた自分の剣も拾って構える。

 その口元には先ほどまでにはない、余裕のある笑みがあった。

 

 

 そりゃ壊れるまで効果を発動し続けてくれるリバースドールなんて頼もしいアイテムが出てきてくれたのだ。

 まあちょっとこの見た目はどうかと思うが、道具として十分以上に使えるなら何も問題はない。一瞬痛い思いをしようが、それでも本当に死んでしまうよりはずっとマシだ。

 さっきみたいに殺られかけてもこのリバースドールが発動するのだと思えば、クリフが操っている奴をどうにかしてくれるまでの時間稼ぎだってどうにかできそうではないか。

 

(絶望的な状況だったけど、これならなんとかなりそうだな)

 

 ほっと一安心したフェイトは、どこからでもかかってきていいですよと言わんばかりの余裕の表情でレナスの攻撃を待つ。

 そして再び襲いかかってきたレナスの剣を受けた結果。

 

 

「うわっ、た……うわあッ……どわああぁぁーッ!」

 

 

 さっそくリバースドールの効果が二回も発動。さっきまでの粘りが嘘のようなやられようである。

 レナスにいいようにボッコボコにされつつ、

 

(これは……まずいぞ! 非常にまずい!)

 

 状況を即座に理解したフェイトは、効果発動の度にいちいちぴきんぴきんと光り輝いて存在アピールをしてくるエロい彫像を手に、後ろの方に向けて声をあげた。

 

 

「レナっ! 切れてる切れてる! エンゼルフェザーが、切れてるって!」

 

「……」

 

「補助をっ、どうか補助を……た、助け……レナぁっ!」

 

 

 なかなかレナの返事が聞こえてこない。

 おまけの一撃で彫像がもう一回光り輝き、これ以上ないくらいフェイトが必死にレナの名前を叫んだところでレナスがいったん攻撃の手を休め、そしてようやく慌てた様子で謝るレナの声が聞こえてきた。

 

「……あっ。ご、ごめんフェイト! すぐにかけなおすわ!」

 

 どういうわけだか、こんな大事な局面で集中を切らしてしまっていたらしい。

 

(そうか! さっきので僕が本当にやられたと思っちゃったんだな、レナは!)

 

 

 それなら仕方ないよなとフェイトが無理やり納得する中。

 レナは対象者のフェイトに意識を向けつつ、かつフェイトが大事そうに握っているドン引き案件必至のシロモノをなるたけ意識しないようにしつつ、難しそうな顔で完全に切れてしまった『エンゼルフェザー』の詠唱を一から始める。

 

 集中が必要な高度な紋章術を、こんな状況で詠唱しなきゃいけないレナもなにげに大変だったりするわけだが。

 それよりなにより、エンゼルフェザーなしの素の状態でレナスと向き合うはめになったフェイトはもちろん大変だ。今自分が大事に持ってるモノに対するレナの印象なんかマジで気にしていられない。

 

 

(そんなすぐには完成しないよな、エンゼルフェザー。レナスさんの攻撃次第じゃもたないぞこれ)

 

 見れば今は彼女も少しお休みしている様子。

 このままエンゼルフェザーがかかるまで休み続けてくれないだろうかと淡い希望を抱いてみたものの、そうはうまくいってくれないらしい。

 手を休めていたレナスが剣を構えなおし、またまたフェイトに襲いかかってきた。

 

(頼む。壊れるな、壊れるなよ)

 

 彫像片手に一心にそう祈りながら、フェイトはレナスの猛攻撃をひたすら耐え忍ぶ。

 そんな一方的と言ってもいいような戦闘がしばらく続いた後。

 ついに恐れていた事態が起きた。

 

 

 何度目か分からない攻撃を、フェイトがレナスから受けた時。

 フェイトの手にあるリバースドールがひときわ強く光り輝くと、心なしかやりきった顔をしながら崩れて消え去ったのだ。

 しかも最悪な事態はそれだけではない。

 

(まずいぞどうする!?)

 

 これで後がなくなったとフェイトが怯んだすきに、レナスに剣を弾き飛ばされてしまったのだ。

 飛ばされたフェイトの剣は、レナスの後方の地面に落ちた。どうあがいても手の届かない場所である。

 

 そしてそんな状況になってようやくレナの詠唱が終わったらしい。

 

「エンゼルフェザー!」

 

 というレナの声とともに、フェイトはさっそく増強された身体能力でもって、辛くも素早く後ろに下がってレナスの剣を逃れる。

 先ほど痛い目をみたからか。レナスもすぐに追い打ちをかけようと近づいてはこないが、それも時間の問題だろう。なんたってこっちは丸腰だ。

 

(まだだ! まだ死んだわけじゃない……諦めるな、僕!)

 

 と自分に言い聞かせるけど。

 大技出せるような気力も体力ももう残ってない、剣も手元にない。こんなで一体どうしろというのか。

 

(なんでもいい、とにかく今できる技を出すんだ!)

 

 やぶれかぶれな気持ちでフェイトは手に力を込める。

 レナスもフェイトが何か技を出す事を察知したようだ。

 その場で警戒し、間合いを詰めてはこなかったため、フェイトの放った技はレナスには当たらなかった。

 

 

「ショットガンボルト!」

 

 二人の間、何もない空間で、空気が立て続けに小さな破裂を起こす。

 バババン! と乾いた音がそこら中に響き渡った。

 

 

(……。無理か。やっぱり、だよな。こんなうるさいだけの技。猫だましじゃないんだから)

 

 とはいっても、今の状況で他にできそうな技なんてない。

 レナがいるから背中斬られる覚悟で全力で走って逃げるわけにもいかないし、このまま諦めてやられるわけにはもっといかない。せいぜい無駄なあがきでもするよりほかにないじゃないか。

 

(クリフは、そろそろ操ってる奴どうにかしてるかな)

 

 レナスさんが近づいてきたらもう一発打とう。

 そんでもってうまいこと怯んでくれたらどうにか頑張って剣回収しよう。

 そんなやけっぱちな気分で構えるフェイトだったが。

 

 

「……ん?」

 

 どういうわけかレナスがその場に立ち止まったまま、いつまでも襲ってこないのだ。

 今までの情け容赦のない暴れっぷりから考えれば、丸腰のフェイトなど今頃すでに斬り捨てられているはずなのに。

 

 得体の知れない技をまた出すかも、と警戒しているだけなのかもしれないが、それにしても時間が経ちすぎている。こっちにはもうろくな策なんてない事も、戦闘のプロである彼女ならとうに見抜いているはずだ。

 

 

 というより──

 よく見れば、様子が少しおかしいような。

 不思議そうに首をかしげ、ちょっと困っている感じだ。

 

 

(レナスさんが、困ってる? という事は──もしかして!)

 

 フェイトが真っ先に思いついたのは、彼女にかけられた操りの術が切れかかっているという可能性。つまりクリフがついにやってくれたのだ。

 

(やっとかクリフ、待ちくたびれたぞ! 本当にもうだめかと──)

 

 などとさっそく安堵のため息をつきかけたフェイトの目と鼻の先で、レナスの剣が空を切った。

 

 

「うわあっ、ショットガンボルトぉ!」

 

 

 フェイトも急いで猫だましをもう一回放つ。

 攻撃はまたしても余裕で当たらず、何もない空間でもう一回、バババン! と大きな音がした。

 

(ダメじゃんクリフ! レナスさんまだしっかり操られてるじゃないか!)

 

 とぬか喜びにがっくりするフェイトだったが。

 これまたどういうわけなのか、レナスはすぐに攻撃を止めたのだ。

 

 一回剣を振ったきり、やはり不思議そうに首をかしげて突っ立っているその様子に、フェイトもすぐに気づいて(どういう事だ?)と考える。

 ほどなくしてクリフが操っている奴をどうにかしているという事以外に、もう一つの可能性が頭に浮かんできた。

 

 

(……あ。これもしかして)

 

 ちょうど思いついたところで、突っ立っていたレナスがまた思い出したかのように剣を構えなおす。

 すかさずフェイトは何もないところ目がけて技を放った。

 

「ショットガンボルト!」

 

 バババン! と大きな音がし、レナスの動きが止まった。

 

 思った通り。レナスは剣を下げ、不思議そうに首をかしげている。

 フェイトの予想も確信に変わった。

 

(やっぱり、“音”か!)

 

 

 とにかく大きな音を出すとレナスが襲ってこなくなるのだ。

 恐らく術者はレナスを特殊な音か何かで操っているのだろう。周りがあまりにもうるさいと、操りの音がレナスまで届かなくなってしまうらしい。

 

 よくよく思い起こしてみれば、これまでにもレナスが襲ってこなかった場面は何回かあった。こちらの出方を窺っているのだと思っていたが、実際はその時も、単に周りがうるさかっただけだったのだろう。

 今と同じように困惑して動けなくなった、というわけだ。

 

 

 そうと分かれば、あれだけ手強かったレナスももう借りてきた猫同然。

 後はクリフが操っている奴をどうにかしてくれるまで、定期的に大きな音を出し続ければいいだけだ。

 

(大きな音を出し続ければいいだけなんだけど)

 

 またレナスが動き出す気配を見せたので、フェイトも技を放った。

 バババン! と音がして、レナスがおとなしくなる。

 

(これ、いつまでやってればいいんだ? 思いのほか疲れるぞこれ)

 

 技を出すには当然気力体力が要る。

 大技ほどの消耗具合ではないにしろ、気力も体力もさんざんすり減った今の状態で、この技をずっと出し続けられるのかと思うと甚だ心許ない。

 せめてクリフがいつ向こうの用事を終わらせてくれるのかが分かれば、気の持ちようも変わってくるのだが──

 

 できない事を考えても仕方ない。向こうが少しくらい長引いても大丈夫なように、こっちもできるだけ時間をもたせるようにすべきだろう。

 さっそくフェイトはレナに言った。

 

 

「レナ! 今さっき分かったけど、レナスさんはどうやら「音」で操られているみたいなんだ! それでとにかく大きな音を出せばしばらくレナスさんの動きを止める事ができるんだ! だからレナも僕と一緒に大きな音を出してくれ!」

 

 どうせ大きな音を出すための技しか使わないのだから、エンゼルフェザーは切れてしまっても構わない。今必要な補助は“とにかく大きな音”なのだ。

 レナもフェイトに答えたが、

 

「えっ、とにかく大きな音を? わたしも出すの? ちょっと待って……大きな音って、大きな音って……例えばどんな音!?」

 

 

 いきなり簡潔に説明された上にそんな事を要求され、すっかりテンパってしまったようである。

 早くフェイトを手伝わなきゃ、という気持ちがさらにレナを慌てさせるのだろう。

 

(……なんか僕が無茶ぶりでもしたみたいだな)

 

 言ってしまえばまあその通りなのだが、余裕を持ってレナと会話するのは今のフェイトにも困難なわざだ。丁寧に説明している時間なんかない。

 けどこのままだとレナが当分テンパり続けそうな気もしたので、またまた『ショットガンボルト』でレナスをおとなしくさせてから、フェイトはさっと思いつく限りの助け船をだした。

 

「なんでもいい、と思う! 大きい声出すだけでもいいし……そうだ! 道具袋に何か入ってないか? 大きい音出すアイテムみたいなのとかさ!」

 

 この騒動が起こった時からずっと、道具袋はレナの足元辺りに置かれたままになっている。

 いかにクリフといえども道具袋を背負ったままの戦闘はさすがにしない。相手がめっちゃ強いとくればなおさらだ。

 

 

「わかった! とにかく大きい声ね!」

 

 とりあえずの方針を示してもらった事でレナも大分落ち着いたようだ。

 さっそく大きい声で「あー! あー!」と叫びながら、道具袋の中をがさごそ漁り始めた。

 フェイトも頷き、また技を放つ。

 

(よし、後はクリフを信じて待つだけだな)

 

 

 

 なお、レナが道具袋の中から何かを発見する頃には、フェイトもクリフを待つ以外にやれる事をさっそく二つほど思いついたわけだが。

 

「あー! あー! ……あっ! これなら使えるかも!」

 

(おっと。飛ばされた僕の剣、早く回収しとかなきゃな。……ん? これうまくいけば、レナスさんからも剣取りあげられるんじゃないか?)

 

 レナと二人がかりで命がけのだるまさんが転んだをやった結果、成功したのは自分の分の剣回収だけ。

 もう一つの剣については──

 まあ条件反射で剣振り回してくるガチプロから剣奪い取れるわけがないっていうか、危うく今度こそ本当に死ぬところだったというか。

 

 危険すぎる試みを早々に諦めたフェイトは、とにかくこのまま現状維持でうるさくし続ける事にしたのだった。

 




 今回はここまで。
 アイテムやらなにやら基本SO2基準だったりするくせに、リバースドールだけSO3仕様なことに深い意味はありません。ただSOっぽい戦闘させたいなっていうだけのネタ+一回こっきりで壊れたら時間稼ぎできないね! っていう作者の苦肉の策です。
 リバースドールの見た目についても同様、作者が好き勝手に書いただけです。
 ぶっちゃけゲームだと妖精ですらない。ていうかそもそも戦闘用アイテムじゃなくアクセサリー扱いだし。

その他、戦闘についての補足など。

・エンゼルフェザー
 効果は大体原作ゲームと一緒ですが(単体の全パラメータ上昇)、詠唱にけっこうな時間がかかるうえに、ずっと集中し続けてないとすぐに切れる仕様に。よってエンゼルフェザー維持したまま、レナが別の事をしたりするのは非常に難しかったりします。
 まさに最強の補助って感じの性能なので、この作品中ではそれなりの制約を付け加えてみました。……これやら「癒しの力」やら、レナは全体的にゲームより弱体化してますね。それでもこんなに便利性能なんだから恐ろしい。

・ショットガンボルト
 なんか見た目うるさそうっていう作者のイメージだけで、この作品中ではSO4の荒燕並みにうるさい技になりました。
 実際、原作ゲームだとそこまでうるさくない技。
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