スター・プロファイル   作:さけとば

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2-1. 世間知らずのお嬢様?

 迷子な先進惑星人のメリルさんをマーズ村で保護したレナとセリーヌの二人は、急きょ彼女を連れてアーリアに向かう事になった。

 

 行きの時はレナと一緒にマーズまでやってきたボスマンには、その日のうちに急いで宿に行って、少々ワケがあって先にアーリアに帰る事を説明。

 それからメリルさんのいるセリーヌ家の客室で三人、軽く食事をとったりしながら色々話し合った後。

 次の日の旅に備えて、まだ体が本調子ではないだろうメリルさんを客室に一人残し、レナもセリーヌのお部屋にお邪魔して早めに就寝したのだった。

 

 

 翌朝レナが客室のドアをノックした時には、すぐにメリルさんの短い返事があった。

 

「おはようございますメリルさん。体調はどうですか?」

 

「お気遣いありがとうございます、レナさん。一晩ゆっくりと休養をとらせて頂いたおかげで、すっかりよくなりました」

 

 落ち着いた佇まいでレナに答えるメリルさんは、すでに身支度もきっちり終えていた模様。

 受け答えから立ち姿まで、人を寄せつけないほどに、非の打ちどころがなさすぎる完璧お嬢様っぷりである。

 

 昨日はベッドに座ってたし、なにより彼女が困ってるのがまるわかりだったからそこまで気にしてなかったけど。

 改めてこうやって、同じ目線の高さで会話してみると。

 美人すぎるし高貴すぎるしで、羨望を通り越してびっくりするというか。

 なんかもうお嬢様オーラがすごいというか。

 

(ま、まぶしい……)

 

「レナさん?」

 

「……す、すみません。なんでもないです」

 

 普通に話してるだけのはずなのに、つい緊張して腰が引けてしまったところでメリルさんに話しかけられ。

 我に返ったレナは、背筋をのばして彼女と同じ目線の高さに戻る。

 けれど彼女の綺麗すぎる目だけは直視しないようにしつつ、セリーヌの待つリビングへと一緒に向かった。

 

 

 朝食の間も、レナ達三人は昨日の夜と同じような会話をした。

 なるべく早く出発する、マーズを出る前に道具屋に寄って旅に必要なものを買うなどの、今日これからの予定の確認。

 ほかには、エクスペルの事を何も知らないメリルさんに色々な事を教えておく、などである。

 

 とりあえず昨日の夜にできたのは、『エクスペル』はとにかく未開惑星で、先進惑星みたいな『機械文明』なんかはなくて、お金とかはもちろん普通にただの紙切れと硬貨だし、先進惑星の人以上にだいたいの事は紋章術に頼る事が多くて、それから『光の勇者様』という超有名な民間伝承があって、メリルさんみたいに“よそから来た”感じがすごい人は間違われて大変な目にあうかもしれないから要注意、などなど……。

 

 自分がエクスペル人から浮いている事を自覚しているらしいメリルさんは、どれも熱心に聞いてくれていたけれど。早めに彼女を休ませる事にしたため、それ以上詳しい説明はほとんどできなかったのだ。

 よってレナとしては昨日の夜と同じく、家を出るまでの少ない時間でみっちり彼女に、エクスペルの常識を教える意気込みだったのだが。

 

 セリーヌの方は、もはやそこまで気を張っていないというか。

 昨日の彼女への授業のやり取りで、すでに何かを察したような様子である。

 メリルさんの方がやっぱり色々知りたそうなので、一応質問に答えてはいるけど、

 

「あなたはただ、いつも通りにしていればいいんですのよ。よっぽど変じゃなきゃ、多少のぼろを出したぐらいでそこまで人に疑われる事もないはずですわ」

 

 なんて事まで言っている。

 そりゃあいつ帰れるか分からなかったクロードの時と違って、彼女の場合はアーリアに着くまでのほんの数日間、レナ達の後ろで目立たないようにしていればいいだけなんだけど。

 たぶん後ろで立ってるだけでも目立っちゃうと思うし。超絶美人的な意味で。

 

(本当に大丈夫かな……)

 

 レナがつい心配になっちゃう中。

 さっきまでテーブルの上に出していた説明用のお金をしまうセリーヌに、メリルさんが言うと、

 

「そうでしょうか。金銭の扱いすら不自然というのは、普通の人では到底ありえない事だと思うのですが」

 

「まあ、それはそうですけど。メリルさんの場合はそれも問題ありませんわね」

 

 ずいぶんはっきりとした言い切りようである。

 レナが聞き返すと、

 

「えっ。なんでですか?」

 

「なんでもなにも……。見たまんま、一人で買い物すらした事ないようなとびきりの世間知らずだと思ってもらえると思いますもの」

 

 なるほど確かに。

 それなら何も問題ないわねと、上から下までメリルさんの完璧お嬢様っぷりを納得しながら再確認してしまったところで、あくせくと言い訳するレナ。

 

「あっいや、セリーヌさんが言いたかったのはそういう意味じゃなくてですね、メリルさんってすごく立ち振る舞いがしっかりしてるから、逆にそこら辺にいるひとからは浮いて見える事もあるかなー……なんて」

 

 メリルさんはというと、レナの慌てようを落ち着いて見てから、普通に納得したように言う。

 “とびきりの世間知らず”などというあまりに失礼な言われようをされても、特に気分を害してもいない様子だ。

 

「辻褄さえ合っていれば、多少の不自然さは見逃してもらえるというわけですね」

 

 そう言えば昔一緒に旅をした、先進惑星のとある名家の御令嬢オペラも、己が度を越した世間知らずである事を自負しているようなところがあった。彼女の場合は多少、いやかなり一般的なお嬢様像とかけ離れたところもあったが──

 オペラといいメリルさんといい、本当のお嬢様というものはこの程度の事はきっと言われ慣れているのだろう。

 

(本当にとびきりのお嬢様なんだな、メリルさんって)

 

 とレナが改めて思う中。

 セリーヌが気安い様子で声をかけ、メリルさんもそれに同意した。

 

「そうそう。変に演技するよりも、いつも通りにしていた方がよっぽど普通に見えるってことですわ。あなたもそっちの方が気が楽でしょう?」

 

「ええ、そうですね。変に気を張る事がないよう気をつけたいと思います」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 村の中を歩いていると、何度かすれ違う村の人達にお礼の言葉をかけられる。

 どうやらセリーヌは昨日の内に、問題を起こしていた魔物を退治した事を皆に報告していたらしい。

 

 セリーヌはともかく、結局セリーヌの家で彼女の帰りを待っていただけのレナまでお礼を言われてしまうのはなんだか気が引けてしまうのだが。

 みなさんにメリルさんの事を説明するわけにもいかないし。お礼の言葉を控えめに受け取るしかない状況である。

 

「いやあ、本当に助かりましたよ」

 

「わたしは何にもしてないですよ。ただセリーヌさんの後ろをついて行っただけですから……」

 

 などと言葉を濁してお礼の言葉をかわしつつマーズの中を歩き。

 レナとセリーヌの後ろを普通に静かに歩いているだけなのに、メリルさんはやっぱりすれ違う人達の視線をちらちらと受けてしまっていたりなんかして。

 道具屋で買い物を終え、店の外に出たところでまで

 

「長老もぜひレナさんに、感謝の気持ちをと言っていまして」

 

 などと村人のおじさんに引き止められかけて、メリルさんの存在のおかげで事なきを得たのだった。

 

 

「というわけで、見ての通りわたくし達先を急ぎますの。長老にはあなたから何とか言っておいてくれないかしら」

 

「あ、ああ。これから皆さんで旅行されるのですか。それは……お引き留めしてしまって……」

 

 たぶん顔見知りであろうセリーヌ相手にまで敬語で言い返しちゃったおじさんの横を、セリーヌが悠然と通り過ぎ、

 

「あ、あの……わたし本当に何にもしてませんから。お礼なんていらないですよ。長老様には時間とれなくてごめんなさいって、伝えてください」

 

 申し訳ない気持ちで言ってから、そそくさとおじさんの横を通り過ぎたレナに続いて、メリルさんが「申し訳ありませんが先を急ぎますので」とおじさんに軽く会釈する。

 

「はい……。どうぞ、お気になさらず」

 

 しばらく歩いてから後ろを振り返ると、レナ達の後ろ姿をそれまでがっつり見ていたであろうおじさんが慌ててレナに向かって頭を下げ、早歩きでその場から立ち去っていった。

 やっぱりね、と思いながら再び前を向くレナ。

 すぐ隣のメリルさんは、今の出来事を特に意に介した様子もなく歩いている。

 彼女は実は別の星から来た人間なのだという事は、レナ辺りがうっかり口をすべらせでもしない限り絶対にわかりっこないだろう。

 

 大変な秘密を抱えている身でありながら、「いつも通りにしていればいい」というアドバイス一つでここまで堂々としていられるのだから大したものである。これも生まれついてのお嬢様、という身分がなせる業なのであろうか。

 レナがなんだか畏れ多い気分でメリルさんを見ていると、そのメリルさんが言った。

 

「お二人は立派な方なのですね」

 

「ええっ。……いやいや、ぜんぜんそんな事ないですよ」

 

 意味も分からずとりあえず否定していると、

 

「まあわたくしの手にかかれば、あんな魔物イチコロですわね」

 

 とセリーヌが自慢げに言う。

 なんだ魔物退治の事か、と納得してレナも言った。

 

「なりゆきでこうなっちゃっただけで、わたしは本当に何にもしてないんですよ」

 

「あら。わたくしの力だけじゃ、メリルさんの事はどうにもできませんでしたわよ。今回の事はレナの力があってこそ解決できたんですわ。レナも存分に胸を張っていていいんですのよ」

 

「でもそれって、魔物退治には関係なくないですか?」

 

 と首をかしげるレナに、メリルさんは微笑んで言った。

 

「どちらも普通の人間には中々出来ない事です。セリーヌさんもレナさんも共に立派な方なのだと、私もこの村の方々と同様にそう思います。──お二人のような立派な方に助けて頂いたのは、私にとってかなりの幸いでした」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 村の入り口を示す看板は、今はもうレナ達の後方へと過ぎている。

 ここまで来れば、たぶん“あの子たち”も恥ずかしがらずに姿を現してくれるだろう。

 いったん足を止めたレナ達は、不思議そうに見守るメリルさんの前で、道具袋の中からエサの入った箱を取り出した。さっき道具屋で買ったやつだ。

 

「メリルさんの星にはいないんですか、バーニィ」

 

 レナがなんとなく聞いてみたら、

 

「バーニィ、とは一体?」

 

 やはり彼女の星には“あの子たち”は生息していないらしい。『バーニィ』というものがいかなるものなのか、メリルさんは想像もつかないといった様子だ。

 

「旅の乗り物ですわ。エクスペルでは、ごく一般的な」

「それは、動物ですか?」

「ええそうですわよ」

 

 まあ説明するよりも、実際に見てもらった方が早いだろう。

 さっそく彼らの好きなエサを手にしたレナは、眼前に広がる平原に向かって、心を込めて元気よく呼びかけた。

 

「カモン、バーニィ!」

 

 

 いよいよ不思議そうに見守っているメリルさんの前で、しばらく時間が経った後。

 平原からではなく後ろのしげみからヌッと現れたのは、おなじみ、ヒトと同じくらい大きなもふもふのかたまり。

 二足歩行なウサギのバーニィが、ちょうど三匹である。

 

「もきゅーん」「もきゅ」「もきゅきゅ」

「きゃ、ちょ、ちょっと……」

 

 揃ってレナの周りに集まった彼らは、ちらちらレナの顔を見つつ、レナに体をすりすりと寄せながら、手のひらにあるエサの匂いをくんくんと嗅いでいる。

『これちょーだい!』『これ食べたい!』の意だ。

 

「もうっ、そんな慌てなくっても大丈夫よ。ちゃんとみんなの分あるから、ね?」

 

 おしくらまんじゅうのくすぐったさにレナが笑って言ったところで、バーニィ達もセリーヌの持っている箱に気づいたようだ。

 三匹で顔を見合わせ「もきゅん」と鳴いた後、さっそく一匹を残してレナから離れていった。誰が誰からエサを貰うのか、今の一瞬で解決したらしい。こういうところで、バーニィは実に賢い生き物なのである。

 

「はいどうぞ」

 

 セリーヌも慣れた様子で、自分の分のバーニィのエサを箱から出した後。

 隣にいるメリルさんに向けて、エサの入った箱を傾けたところ。

 

「この兎が、バーニィですか」

 

 エサを手のひらに受け取ったメリルさんは、なぜか釈然としない様子。

 

「ええ、そうですわよ」

 

「お二人は先ほど……、この動物を『乗り物』と」

 

「言いましたけど。それが何か?」

 

「かわいいですよね、バーニィ」

 

 メリルさんは返事する事なく、自分の手のひらのエサをもちゃもちゃと音を立てておいしそうに食べるバーニィをただ黙ってじっと見ている。

 心なしか、眉間にしわが寄っているように見える。

 

「かわいくないですか? バーニィ」

「いえ、そういう事ではなく」

 

 心配そうなレナを前に、メリルさんは何かを言いかけてやめた様子。

 

「失礼しました。見慣れない動物だったもので、気が動転してしまって。……エクスペルでは、彼らが一般的な乗り物なのですね」

 

 言いながらメリルさんはエサを食べ終わったバーニィの頭をそっと撫でる。撫でられたバーニィは気持ちよさそうに「もきゅー」と鳴いた。

 優しげな笑みを浮かべた後、メリルさんはレナ達に向き直って言った。

 

「私に、彼らの乗り方を教えて頂けませんか?」

 

 

 乗り方とは言っても、バーニィは頭のいい子なので、いったん乗ってしまえば特に乗り手が何かをしなければならないということはない。

 メリルさんもすぐに乗り方を覚えたので、さっそくマーズを出る事にした。

 ただ試し乗りした際、メリルさんは一言だけ感想を漏らした。

 

「結構、揺れますね」

「そりゃまあ、ウサギですもの」

 

 さらにセリーヌの言葉に、ほんの一瞬だけ腑に落ちない表情を見せたのが気にかかるところではある。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 今日はひとまず、このままクロスまでバーニィに乗って移動する予定だ。

 『クロス』はここクロス大陸の中心部にある城下町で、マーズとアーリアのほぼ中間に位置している。よほどの強行軍でない限り、バーニィを使ったとしてもマーズから一日でアーリアに辿り着く事はとてもできないからだ。

 

 

 街道上にそって西に進み続け、しばらく経ったところで、移動しながらの今朝からの授業の再開だ。

 メリルさんはどうやら紋章術の事に一段と興味があるらしく、紋章術師の里マーズの出身であるセリーヌがごく基本的な事を教えた。

 

 紋章術というのは──こういう風に、体に刻んである特定パターンの紋章に、術者の精神力を流し込む事によって、火や雷といった様々な現象を意図的に発現させる事ができる、いわば「特殊な力」の総称である。

 簡素な術なら詠唱も要らないので、ちょっと勉強したらその辺歩いてる子供にでも扱えるくらいには、エクスペルではとってもポピュラーな術なのだと。

 

 

 自分の肌に刻んである紋章を、指で指し示したりして大雑把に説明した後。

 セリーヌがメリルさんに聞くと、

 

「メリルさんのところにはそういうの、ありませんの?」

 

「名称は違いますが、似たような「力」はありますね。ただ……私の世界の術は、広く一般の人々まで浸透している術というわけでは」

 

 そう答えた後、メリルさんは興味深げな様子で言う。

 

「術者が術式を体に直接刻む、というところも気になります。向こうの術者はむしろそういった事は避けているのではないかと──。エクスペルでは、肉体に影響が及ぶ危険性は一切ないと考えてしまって構わないのですね」

 

 そう言ってから、さらにメリルさんが聞いてきた。

 自分の正体がバレる決め手となったあの一件の事が、よほど気になるのだろう。

 

「それと昨日の夜、レナさんが私に使ってくださったあの「力」は、“紋章術”ではないのですか? お二人とも、私がごく自然にあの「力」を受け入れたのは不自然だ、と」

 

「ああそれはですね、ちょっと説明が長くなっちゃうんですけど……」

 

 

 聞かれるまま、レナはメリルさんに癒しの「力」の事を説明した。

 なぜレナが癒しの「力」を扱えるのか。

 レナが本当はエクスペルの人間ではなく、遺伝的に治癒紋章も持っている『ネーデ人』という種族である事。

 その『ネーデ人』の身体的特徴。『ネーデ人』であるレナが本来いるべきはずだった星、人工惑星エナジーネーデの話。

 

 時空転移の事や、また最終的にエナジーネーデがどういう運命を辿ったのかまでは説明しなかったけど、一から順を追って説明するとなるとそれでも十分すぎるほどに長い話だ。

 こんなにややこしい話だったっけと、説明したレナが自分の事のはずなのに不思議な気持ちになっていると、

 

 

「そのような話、興味本位で聞く話ではありませんでしたね。すみません、レナさん。無理強いをしてしまって」

 

「ええっ、ぜんぜんそんな事ないですよ。そんなつもりで話してたわけじゃ」

 

 と謝るメリルさんに恐縮してから、今のは聞きようによってはとっても暗い話なのだという事に、ようやく気づくレナ。

 

(そっか、そうよね。産みの親と死に別れて、周りに自分と似たような人間が今まで一人もいなくて……って、何でこんな話をしちゃったのかしら)

 

 とっくに自分の中で気持ちの整理がついていたせいで普通に話しちゃったけど、どう考えてもべらべら人に話すような事ではないだろう。

 黙ってしまったメリルさんを見て、レナがこっちこそいきなりこんな暗い話聞かせちゃってすみませんという気分になっていると。

 二人の様子を見ていたセリーヌが言ってくれた。

 

「そんな深刻に考えなくっても、レナも言いたくなかったら言わないですわよ、こんな話。普通に言葉濁せばいいだけなんですから。ですわよね、レナ?」

 

 ほっとした気持ちで、セリーヌの言葉に「は、はい。もう全部昔の話なので」と答えて、気まずげに笑ってごまかすレナ。

 メリルさんの方もこのままではまずいと思ったのだろう。気を取り直したように笑みを作ってレナに答えた。

 

「ちゃんと全部説明した方がわかりやすいかなーって思ったんですけど……。なんか、余計にメリルさんを混乱させちゃったみたいで」

 

「いえ、そのような事は決して──。ありがとうございますレナさん。とても分かりやすい説明で助かりました。エクスペルの一般的な“紋章術”に治癒の術は一切含まれていないというのは、つまりそういった理由からだったのですね」

 

 あの時全然驚かなかったという事は、メリルさんの星にはつまり普通に回復術があるのだろう。

 反対に質問してみたレナ達に、メリルさんは

 

「ええ。私の世界の“術”にはレナさんが使うような「力」も含まれています。エクスペルにおいての、いわゆる一般的な“紋章術”に相当する扱いですね」

 

 とか、

 

「まるで夢のような話ですわね、誰にでも癒しの「力」が使えるなんて」

 

「いえ、誰にでも使える術というわけでは……」

 

 ちょっとだけ羨ましそうに言ったセリーヌには、そう言ってから、

 

「私の世界でも、レナさんの術はかなり高度な部類に属するもののように見受けられます。高度な術を扱う際には術者に相応の力量が求められますし、それに第一、術者自身の術に対する適性というものもありますから」

 

「へえ、その辺の理屈はこっちと似たようなものなんですのね」

 

 そういった事まできっちりと話してくれる。

 面白そうにメリルさんの話を聞いて感心したセリーヌは、一際感心したようにメリルさんを見て言った。

 

「それにしても詳しいんですのね、メリルさん」

 

「……。そう思われますか?」

 

 メリルさんは少し戸惑った様子で聞く。

 ちなみにレナもセリーヌと全く同意見である。口にこそ出さなかったが(へえ~そうなんだ、すごいなメリルさん)と思いながら今の会話を聞いていた。

 

「ええ。まるで常日頃からその「力」と親しく接しているかのような話ぶりでしたわよ、今の。あなたも何かそういった勉強でもしてらっしゃるんですの?」

 

「私自身が、という話ではありませんが……。親しい、と言えばそうなのかもしれません。そういった類の術に精通した者を、私は何人か知っていますから」

 

 とメリルさんは遠慮がちに答えた。

 

「術に精通した人、っていうと」

「ははあ、なるほど。用心棒ってやつですわね」

 

 レナが考えていると、セリーヌが感心したようにそう言う。

 ちょっと困った様子で控え目に微笑むメリルさんを見て、レナも納得した。

 

(ああー、そっか。そうだよね)

 

 

 彼女のようなお嬢様にはきっと、用心棒を必要とするような危険もつきものなのだろう。さっきも普通にしてても目立ってたし、という事はつまり悪い人達にも見つかりやすいんだろうし。

 メリルさんは「何人か」と言ったけど、実際は何十人もの護衛が、彼女の周りで常にひしめき合っているんだろう。

 さっきのちょっと言いづらそうな感じはきっとそういう事に違いない。

 

 

 レナがそんな非日常な光景を想像して内心どきどきしている中。

 当のメリルさん本人は、淡々とセリーヌに話している。

 

「その者達が術を使う様子を私はいつも近くで見ていますから、自然と術に対する知識も深くなるのでしょうね。ただ実際術を使うための知識となると……」

 

「そりゃ全く別の話でしょうね。聞きかじりの知識だけで紋章術が使えたら、誰も真面目に修行なんていたしませんわ」

 

 セリーヌは納得した後、息を吐いて言った。

 

「残念ですわね。わたくしの全く知らない術を見せてもらえるチャンスかと思いましたのに……って、どうせ“未開惑星保護条約”とやらのせいで無理な話なんでしたわね、それって」

 

「“未開惑星保護条約”、ですか。差し障りのない知識しか持ち合わせていない私にとっては、まるで意味のない制約という事になりますね」

 

 と何気ない様子で話しているメリルさんに、レナはおののきながら聞いた。

 今の話にどうしても聞き流せない単語があったのだ。

 

「“いつも”ってメリルさん、そんなにしょっちゅう危ない目に会っちゃうんですか? その、お屋敷の人たちも大変ですね、ヘンな人対策とかいろいろ……」

 

 

 なんて恐ろしい毎日を送っているんだろう、メリルさんは。常に危険と隣り合わせの人生なんて。自分だったらとてもそんな環境で暮らしていけない。

 世間知らずなまでの金持ち。常に危険と隣り合わせ。身の周りにはウン百人もの護衛。

 メリルさんはお嬢様はお嬢様でも、もしかしたら実はとってもヤバげな組織の長の身内とか、そういった方向性のお嬢様なのではなかろうか。

 

(わ、わたし、なんてお方と、気安い口を聞いてしまったのかしら……)

 

 

 あってはならない想像をし始めちゃったレナを、メリルさんはなんだか不思議そうに見た後、

 

「説明が不十分でしたね。“いつも”というのは、居住区で何か問題が起きた時の事ではありません」

 

 と微笑んで言った。

 

「旅をしている時、しばしばその時々に応じた術をその者達に使ってもらう事がある、という意味です」

 

「旅、ですか? ……メリルさんが?」

 

「この格好は旅に向いているようには見えませんか?」

 

 と自分の服に目をやって言うメリルさん。

 横からセリーヌが、メリルさんの服装を見直して納得した。

 

「なるほど。そういえばそうでしたわね」

 

 彼女が今現在着ている服は、まごうことなき旅の衣装。

 出会ってすぐに、ごく自然な流れでメリルさんと一緒に旅をする事になったから、彼女がこの服装でいる事も違和感なく見ていたけど……

 

 冷静に考えたら、メリルさんは不慮の事故で突然エクスペルに来てしまった人なのだ。

 心の準備をする時間すらろくになかったはずなのに、そんな彼女がこんなに都合よく旅の衣装を着て、今レナ達と一緒に旅をしているわけがない。

 エクスペルに来る前からすでに、この格好をしてでもいない限りは。

 

 

(そ、そうよね。何考えてたのかしら、わたし。そんな危ない家柄の人が、こんな穏やかな物腰で会話してくれるわけないじゃない……)

 

 レナが安心すると同時に、一瞬だけでもヘンな想像をしてしまった事を申し訳なく思う一方。

 セリーヌはやたら楽しそうにメリルさんに話している。

 

「ふとした瞬間に、急に旅に出たくなるんですのよね。わたくしも分かりますわ、その気持ち。それでいてもたってもいられなくなって、その日のうちに出かけちゃう、みたいな……」

 

 どうやらメリルさんの事を、自分と同じく、ただの物好きでしょっちゅう旅に出ているだけと決めつけたようだ。……もしかしたら、お嬢様ならではの大事な用事でしょっちゅう旅に出ざるを得ない人なのかもしれないのに。

 一緒にしたら失礼ですよ、とレナが言おうとしたら。

 意外にも聞いているメリルさんも、なんだか楽しそうな様子。

 

「知らない土地はもちろんの事、すでに何度も足を運んだような場所でも、行ってみるとワクワクしませんこと? 今回はどんな冒険がわたくしを待っているのかしら、って──」

 

「ええ。私もすべての機会を大切にしたいと、常々そう思っています。人との巡り合わせにも、やはり時期というものがありますから」

 

 とメリルさんは穏やかに微笑んで、セリーヌの話に言葉を返している。

 この様子からして、セリーヌの決めつけは案外失礼でもなんでもない事実のようだ。

 

(へえ、なんか意外だな)

 

 とレナはそんなメリルさんの様子を見て思った。

 メリルさんはそのおしとやかさに似合わず、実は結構行動派なお嬢様だったというわけだ。

 

 

 行動派なお嬢様といえば──

 愛する人を追っかけにたった一人で宇宙船に乗って、エクスペルに不時着して。その場の勢いで知り合ったレナ達と行動を共にして。エクスペル中を巡って、見事彼女の愛する人エルネストを探し出して。そしてその後めでたく彼と一緒に元の星へと帰っていった、あのオペラの事が真っ先に頭に思い浮かぶ。

 

 さすがにメリルさんはあそこまではっちゃけたお嬢様ではないが……

 オペラといいメリルさんといい、本当のお嬢様というものは、むしろ一般的にはお嬢様らしくないと思われる一面を平気で覗かせるものなのだろう。

 

(家でじっとしてるだけ、っていうのはつまらないのかもね)

 

 本当に楽しそうにセリーヌの話につきあっているメリルさんを見て、レナもそんな彼女に、どことなく親近感のようなものを覚えた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 そんな感じでバーニィに乗っての移動中、レナ達は色んな会話をした。

 エクスペルの事に関するメリルさんの質問にはレナとセリーヌが二人で答え、反対にレナとセリーヌの二人は揃ってメリルさんに彼女自身に関する事を聞く、といった具合だ。

 そうやってクロスに向けての行程の、およそ半分以上も過ぎた頃──

 

 

 興味津々でメリルさんの話を聞いていたレナは、ふと彼女がレナ達の質問に控え目な様子で答えている事が気になった。

 時折目を伏せるその仕草が、まるで表現を選んでから慎重に言葉に出しているかのようにも見えるのだ。

 

「お付きの人達も毎回旅についてくるんですの?」

 

 というセリーヌの質問にも、

 

「単独での行動には、やはり様々な問題が生じるかと……。行き先を決めた時点で、なるべく早く皆に声をかけるようには心がけていますね」

 

 といった風に彼女は答えている。

 そりゃまあ、本当のお嬢様であるメリルさんが「ええ、毎回大人数のしもべを引き連れて旅をしています。お金がかかって大変ですけれど、私の身を守らせるためには仕方ない事ですね!」なんて風に答えるわけがない。彼女が謙遜したように言葉を選ぶのも当然の話なのだろうとは思うけれど。

 

(こういう話を聞いてくるのって、メリルさんからしたらどういう気分なんだろう。やっぱり迷惑なのかな? しつこい人達だ、って思われてたり……)

 

 

 メリルさんの事は聞いちゃダメなのかな、とレナが不安に思い始めた時。

 例のごとく伏し目がちに話していたメリルさんが、いったん会話を止めると、物憂げに前方に広がる草原を見てため息をついた。

 

 それも見るからに、“しつこいなこの人達”ではなく。

 “まだ着かないのかしら”といった様子で。

 

 

(そういえばメリルさん、バーニィが「結構揺れる」って……)

 

 ようやくすべてを察したレナは、なんだか顔色の悪いメリルさんに声をかけたのだった。

 

「あの、大丈夫ですか? つらいようでしたら、この辺でいったん休憩でも……」




・ちょっとした補足。
原作でバーニィを呼ぶ際には、”エサ”は必要ないです。
ただ呼べばいいだけ。
原作そのままの設定だとちょっと便利すぎるので、「バーニィを呼ぶ際には”エサ”がいる」等の設定を付け加えました。

あと、バーニィの鳴き声はかなりてきとうです。
間違ってたらごめんなさい。
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