スター・プロファイル   作:さけとば

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6-1. 理由と嘘とごまかし、それから

 ディプロ本艦内に到着した後、レナスはミラージュに付き添われて、居住区域内の個室に向かっていった。

 

「空いている部屋があるのでそちらに行きましょう。私が部屋まで案内します。……それでいいですね?」

 

 そうミラージュに気遣わしげに言われるまま、泣き疲れた様子で悄然と連れられていくレナスを静かに見送った後。

 クロードが頭をかきつつ言った事に、同じくクリフが参った様子で言い足した。

 

「レナスさん、大丈夫ですかね」

 

「まあ、昨日の今日だからなあ。しかしまあ、泣くほどとは思わなかったが」

 

 

 昨日の夜の、深刻そうだったレナスの声の様子の事も思い出しつつ。

 クロードは(やっぱりレナスさん、気にしてたんだな)と眉間に皺を寄せて考える。

 

 さっき艦の中で、彼女は泣きながら「こんなはずじゃなかったのに」と言葉に出していたのだ。それに、「なんでもないのに」とも。

 

 つまりみんなの前で気丈に振舞おうとはしていたけれども、やはり彼女の心にはずっと「自分が罠にかかったせいで」といったような罪の意識があったのだろう。

 それで何らかの拍子に、そうやって押さえつけていた思いが一気に出てしまって、あんな風にいきなり取り乱してしまったんじゃないだろうか。

 

 自分の言った事で彼女を傷つけてしまったのかも、とでも考えているらしく、チサトも珍しく落ち込んだ様子でうつむいている中。

 そのすぐ近くではなぜかソフィアが、

「フェイトのせいだからね。顔にバカとか、デリカシーのない事ばっかり言うから」

「あれはその、軽い気持ちで口にしただけで。レナスさんがそこまで気にしていたとは、だから思ってなくて」

 とフェイトを怒っていて、フェイトの方もなぜか本気でうろたえている様子だが。

 

 今のクリフの言いようからしても、さっきのはおそらくレナスの責任感が強すぎた結果という事なのだろう。

 たぶんだけど、自分達のうちの誰かの発言が彼女を傷つけてしまった、という事ではないような気がする。

 

 

(レナスさんが悪いわけじゃないのにな)

 

 とクロードがなんとも言えない気持ちになる中。

 ずっと黙り込んでいるマリアに、クリフがやれやれと声をかけた。

 

「泣いたって何が変わるわけでもないのに、とでも思ってそうな顔だな」

 

「……思ってちゃ悪い?」

 

「いや別に、その辺の考え方は人それぞれだとは思うが。……ただお前な。あれだ、一応言っておくが」

 

「本人が落ち着くまでそっとしておけって言うんでしょ? 言われなくても、わざわざ文句なんて言いに行かないわよ。子供じゃないんだから」

 

 不機嫌そうに言ってそっぽを向くマリアに、クリフは「そうか。分かってんならいい」と妥協した様子で頷く。

 

「そんな事よりいつまでここにいるつもり?」

 

 というマリアの言葉を受け、クロード達はひとまずこの小型艦の収容ドックを離れ、ブリッジの方に移動する事になった。

 

 

 

 レナスがこの世界に来るきっかけになった、彼女が聞いた“声”というのが具体的にどういうものなのか。一通りの説明を聞いただけのクロードにはそこまでよく分からない。

 

 だけどその“声”を聞く「力」で彼女は、彼女にとっては見ず知らずの他人──

 自分達の仲間のチサトの危機を知り、そして迷う事なく助けてくれたのだ。

 

 一か月前に聞こえた“声”が気になった理由を、レナス本人は何も語らなかったけど。

 罠にかけられた時の彼女も、昨日のチサトの時と同じく、本当はその“声”の持ち主を助けようとしたのではないだろうか。

 

 彼女には、聞こえてきた“声”の持ち主を助けたいと思う気持ちがあった。

 だからこそ彼女を罠にかけた奴は、その気持ちを利用したのだろう。

 こういう“声”を聞かせれば、きっと彼女ならここにやって来るはずだと。

 

 そいつは、人の命を助けようとしたレナスの気持ちを利用して。

 さらにはその彼女の「力」をも利用して、『十賢者』などという人の命を弄ぶような残酷な奴らを、再びこの宇宙に呼び戻したのだ。

 

 

 ──こんなはずじゃ、なかったのに。

 

 

 レナスの悲痛な嘆きを思い出し、クロードは拳をぐっと握る。

 人を助けようとしただけの彼女を、あんなに悲しませた奴が改めて許せないと思ったのだ。

 

 自分達が、そしてなにより、エナジーネーデのみんなが命をかけて守ったはずの宇宙は、そいつと十賢者のせいで今再びの危機に晒されている。元から全員倒すのに十分すぎる理由はあったけど、なおの事十分な理由ができた。

 人の気持ちを弄ぶような奴ら、許せるわけがない。

 

 宇宙を守ってくれたエナジーネーデのみんな。この宇宙に今も生きている自分達。

 それから本来なら今も別の世界で、“創造神”として、たくさんの人達を助けていただろうレナスさん。

 すべてのひとの思いのためにも、彼らは絶対に倒されなきゃいけないんだ。

 

 

 

 ブリッジに向かうフェイト達の後に続いて、しっかりと足を進めつつ。

 決意を新たに前を向いて、クロードは隣を歩くチサトに言う。まだレナスの事を気にしているらしいチサトも、居住区域の方を振り返りつつ、うつむきがちに同意した。

 

「チサトさん。十賢者も元凶も、絶対に僕らみんなで倒しましょうね」

 

「……ええ。そうよね」

 

 

 ☆★☆

 

 

 空、大地、海、たくさんの命。みんな、終末の炎に呑まれていく。

 

 たくさんの人々の“声”。

 心に響くみんなの感情も、私自身の心から響いてくる感情も。時が戻ったような錯覚さえ抱かせる場所。

 だけど今ここに存在しているのは私ひとり。だからこれはあの時とは違う。

 

 このすべてが壊れゆく幻のただ中に佇み、今の私は思う。

 ああ、またこの夢かと。

 

 

 この夢さえ見なければこんなに考える必要もなかったのにとは、今でも思う。

 私がこの世界に来てしまった理由も。

 

 私が創造していないこの全く別の世界の中で、レナやフェイト達、この世界に生きる人々と過ごす日々に、不自然なほどに気を許していた私が確かにいた事。

 その事に、後ろめたさを覚える私もいた事。後ろめたさを覚えるのは私がいない間、それだけ自分の世界の仲間に負担をかけているからだと、思い込もうとしていた事。

 そうやって後ろめたさを忘れないでいられる自分自身に、心のどこかで安心していた事も。

 

 全部、私が“創造神”としての自覚を持ってしっかり頑張ればいい。

 それだけで納得できたはずの事だったから。

 

 だけど、この夢は。私の心は。

 

 

 どうしてこの夢は、私の嘘を許してはくれなかったのだろう。

 今でも私の心は、この夢が、私がこの夢を見て理解した事、感じた事が何かの間違いだったんじゃないかと、必死に否定しようとしている。

 夢から覚めた時、あんなに悲しくて寂しくて、誰でもいいから“私の知らない誰か”を求めたあの感情にも、他に説明のいく理由をつけようとしている。

 

 そうして理由をどうにか見つけられたら、私はすぐにでも、また私の世界の“創造神”として歩き出せるから。

 

 この世界の事は、この世界のみんなは。

 本来なら私には関わりのない事だと。

 私の目的のために行動を共にしているだけなのだと。

 最初から自分に言い聞かせていた通りに、今度こそちゃんと、そうやって振る舞っていけるはずなのに。

 

 

 どうして、私はいつまで経っても、その理由が見つけられないのだろう。

 どうして探そうとするたび、言い聞かせようとするたび、どうしようもなく心が苦しくなるのだろう。

 

 こんな夢、嘘なのに。寂しくなんかないのに。

 私は、私が創ったみんなの事だけを考えて生きていけるはずなのに。

 

 

 ☆★☆

 

 

「だからさあ。あいつはいつもバカの一つ覚えみたいに分かった言ってるけど、結局なんにも分かってないわけ。だからバカなのよ、分かる?」

 

「は、はあ。そうなんですか」

 

 惑星ストリームへ向かったフェイトやレナス達を見送った、次の日。

 元の世界での所用を済ませボーマン家に戻ってきたメルティーナは、今現在、レナを相手にこうやってひたすら喋り続けている。

 

 昨日出かけていった時に宣言した通り、思いっきりレナスの話の続きである。

 ていうかただの愚痴である。

 

 

 レナとしては、色々気まずい事はあったけど、やっぱり今まで通りにレナスさんとも仲良くやっていきたいなと思っていたわけだ。

 かといって、さすがに昨日の彼女のあの様子だと、自分の方が普通に近づくだけでは、また彼女に拒絶されてしまうのではないかといった心配も拭えず。

 

 よってちょうど日頃レナスと親しくしているだろうメルティーナが、帰ってくるなりソファーにどかっと座り、「で、あいつの話だけど」と言いだした時。

 レナはそのレナスに関する話を聞ける事を、普通に期待していたわけだが。

 結局、

 

「あいつマジで人の話聞かないから。聞いたふりしてるだけなのよ」

 

「で、バカでしょ? バカが人の話聞かなかったら、そりゃ当然危なっかしい感じにもなるじゃない。なのにあのバカ、なにも分かっちゃいないんだから」

 

「あげく性懲りもなく一人で出歩くっつうね。ちょっと目離したらすぐこれよ。あいつもうマジでなんなんだか……。ねえ、あんたも苦労しなかった? あいつの放浪癖」

 

 などなど。

 お互いの関係性やら仲良くなった過程など全部すっ飛ばして、聞けたのはそんな話ばっかりである。

 

 

 正直聞かされてもどうしろというのか。

 レナにはレナスが普段どういう感じでメルティーナと接しているのかも、そもそもこれらの愚痴話の元になっているであろう、彼女達の間にある事情もよく分からないのだ。

 ……いやその割には、なぜかちょっとだけその話に同意できるところもあったりするけど。

 

 しかし思いっきり同意しちゃうのも、レナスに対してなんか失礼な気がするし。

 かといって、こういう愚痴って大概、「そんな事ないですよ」などと否定してしまったら余計に拍車がかかっちゃうものだし。

 よってレナはメルティーナの愚痴を、さっきからずっと「大変ですね」みたいな神妙な顔を心がけながら、ほどほどに相槌打って聞いているのである。

 

 なおメルティーナと一緒にボーマン家に戻ってきた、アリューゼの方はというと。

 帰ってそうそう彼女が不機嫌そうに口を開くのと同時に、

 

「暇だな。素振りでもしてくるか」

 

 とちょうど同じく暇そうだったプリシスを伴って(というかプリシスの方が乗り気でアリューゼについて行った。インスピレーションがどうのと言っていたから、何か新しい機械作りの参考にでもするんだろう)、大剣を思いっきりぶん回せる場所まで鍛錬に出かけていった。

 

 彼もメルティーナとの付き合いが長いであろう辺り、初めからこういう話になると察していたと思われる。

 家主のボーマンも平常通りお店の方にいるので、自然とメルティーナの愚痴を聞くのはレナ一人になったというわけだ。

 

 

 

 そんなこんなで愚痴に付き合わされてしまった結果。

 この二人の関係性はやっぱり話してくれないからよく分からないけど、それでも聞いているうちにレナもなんとなく分かってきた事がある。

 

「ほんと、何も分かっちゃいないんだから。なにが創造神よバカのくせして」

 

 とりあえずこんな愚痴を言っちゃうくらいには、彼女はレナスの事が好きだという事だ。

 

 

「あんたが私を付き合わせてると本気で思ってんの? 冗っ談じゃないわ。……この私が、自分の意思で、あんたに付き合ってあげてるのよ。あんたがそんな事も分からず、一人で勝手につき進むくらいにどうしようもなくバカだから!」

 

 また何か思い出したらしいメルティーナは、話を聞いているだけのレナを前に、この場に居もしないレナスに向かってタンカを切る。

 それからまた小さく悪態をついた。

 

「あーもう、マジむかつくわ。一体誰に何を後ろめたくなってんのよ、あんのバカは」

 

 

 いったんクールダウンしたらしい隙を窺って、レナはさっきからちょっと気になっていた事を聞いてみた。

 

「あ、あのメルティーナさん。質問してもいいですか?」

 

「何?」

 

「レナスさんの事でいろいろ思うところがあるのは分かるんですけど。その、なんでわたしに? ……別に迷惑ってわけじゃないんです。ただちょっと、気になったので」

 

 愚痴を聞いているうちにもう一つ分かった事がある。

 詳しい事情も何も教えず、一方的に愚痴を言い続けるメルティーナはおそらく、説明を面倒くさがっているのではない。

 レナの前で口にする言葉を、あえて選んでいるのだろうという事だ。

 

 そこまでして余計な情報を与えたくないと思っているのなら、何もここでレナ相手に愚痴らなくても、誰にも聞こえない場所なり彼女のいた世界なりで好き放題に愚痴ればいいはずだ。

 壁を相手にでも話した方がよほどストレス発散できるだろうに、なぜわざわざ言葉を選んでまで、レナ相手に愚痴を言い続けるのだろうか。

 そんなレナの疑問に、メルティーナはこう答えた。

 

「本人に言ったって聞きやしないからよ。あんた達、あいつとずいぶん仲良くしてたみたいだし?」

 

「なか、よくですか。そんな風に見えましたか? 正直言うとわたしもその辺、よく分からないんですけど」

 

「あれが仲良し以外の何に見えるってのよ。つか私達の時なんか、つい最近まであいつの本名知らなかったのよ?」

 

 そして結局また愚痴になっている様子だ。

 

「あいつマジで一言も言わなかったんだから、そういう事。しかもむかつく奴から偶然聞いて知るっていう……あー、思い出したらなんかまたむかついてきたわ」

 

 

 今の話ぶりだとレナスはメルティーナ達にも、レナの時と同じく最初は偽名を使っていたらしい。しかも「つい最近まで」という事は、その偽名で接していた期間は、レナの時よりもずっと長いのだろう。

 メルティーナもアリューゼもレナスの事を名前で呼んでいない理由が、レナにもなんとなく分かった気がする。

 

(わたしも、名前教えてもらったばかりの時は『メリルさん』って言いそうになってたな……。すぐに慣れたけど)

 

 そういう事を教えてもらったうえで改めて考えてみると。

 今メルティーナが言った通り、レナスはあれでも、レナに十分心を開いてくれていた方らしい。

 よかったちゃんと仲良くできてたんだと、一安心し。

 

 それから自分以上に仲良くしているはずの、メルティーナ達に対してまでそんな態度をしていたというレナスに、(まったくもう、仕方がないひとね)と心の中で呆れ気味に怒る。

 

 

 だって旅の途中、正体を隠していたレナスは自分の身の上話はしなかったけど、自分の“お付きの人達”、つまり彼女達の話ならたまにしていたのだ。

 

 そういう話をしてくれる時のレナスは決まって、その場にいない仲間達の事を懐かしむような、優しげな笑顔を浮かべていて。

 離れ離れになってしまって会えない事を悲しむような、寂しげな様子もその笑顔の中にあって。

 だからそれを聞いているレナも当然のように、

 

(レナスさんはその人達の事、本当に大切に思っているのね。早く帰り道を見つけてあげなきゃ)

 

 と思っていたのに。

 蓋を開けてみれば、彼女に大切に思われているはずの人間の一人の話ぶりから推察できた、なけなしの事情がこれである。

 そりゃ事情をよく知らないレナだって、(大切な人達なんだったら、もっとちゃんと大切にしなきゃダメじゃない)ぐらいのダメ出しはしたくなるってものだろう。

 

 

 ところがそんなレナの心境が伝わったらしい。

 ついさっき愚痴を垂れたはずのメルティーナは急におとなしくなり、いかにも独り言っぽく言い直した。

 

「まあ、そこはもういいんだけど。あいつもいろいろあったわけだし」

 

 

 どうみても今のは、レナに向けてレナスの事を擁護したとしか思えない態度である。

 

(メルティーナさん、レナスさんの事本当に好きなのね)

 

 そうレナが改めて思う中。

 メルティーナはそんなレナを考え深げに見つめ、ため息とともに呟く。

 

「全く別の世界の人間、か。あいつの思考回路は気に食わないけど、これもいい機会よね」

 

 

 首をかしげるレナに、メルティーナはふてくされたように「べっつにー?」とごまかし。それから気を取り直して、

「まあ質問の答えはようするにそういう事よ」

 と言った。

 

「あんたみたいな人生何十年と生きてない小娘にまでそういう事本気で言われたら、あいつも少しくらいは心入れ替える気になるかなってね。だからおとなしく私に喋らせなさい」

 

 

 

 そんなこんなで、レナはそこから先もメルティーナの愚痴に付き合わされた。

 あいかわらず事情は教えてくれないので、なんとなくで話を理解するしかないのだが、さっきのメルティーナの話ぶりからするとたぶんそれでいいのだろう。

 その辺も結局よく分からないけど、とりあえず彼女がこういう話をしてくれている事に、レナ自身も嫌な気持ちはしない。それになんとなくとは言え、聞いているうちに、愚痴の内容から彼女の知るレナスの事が少しずつ分かっていくような気もした。

 

 意外に思ったり、なんかすごく納得できたり。

 そのうちにアリューゼとプリシスが帰ってきて。

 リビングに入るなりアリューゼは、愚痴を続けているメルティーナを見て呆れたように言った。

 

「まだやってたのか」

「そりゃそうよ。他にすることないんだから」

 

 堂々と言いきるメルティーナに、アリューゼはやれやれとため息をつく。

 不思議そうに聞くプリシスにレナが答えると、メルティーナはやけっぱちな様子でそっちにも話を振った。

 

「ん? なんの話?」

「レナスさんの話を、ちょっとね」

 

「そーよ。この際だから、ついでにあんたも聞く? あんたもそういうお友達ごっこ好きでしょ、絶対」

 

 首をかしげるプリシスは、なんかよくわかんないけど新しい仲間の事を聞けるという事は理解したらしい。

 あとメルティーナも快く自分とお友達になってくれると即座に思ったらしい。

 

「うん! よろしくねメル!」

 

 笑顔で元気よく返事をするプリシスを無視し、

 

「ほら、あんたもなんか言いなさい。これはあいつの頑固を矯正するいい機会よ」

 

 とメルティーナは言うが。

 アリューゼの方は「くだらねえな」と言い捨てた。

 

「俺はクソ面白くもなくなった奴に付き合い続ける趣味はねえってだけだ。お前は違うのか?」

 

「……違わないわよ。つか、だからこそ厄介なんじゃないっつう話をしてんのよ私は」

 

 いっそう不機嫌な顔で、アリューゼの質問に答えた後、

 

「そりゃあ転んで泣いたって勝手に一人で起き上がるでしょうよ、あのバカは。結局いっつもそう。根性出すとこ本気で間違えてんだもの」

 

 メルティーナはまたなにやらぶつくさ言いだしている。

 アリューゼは降参とばかりに手をあげた。

 

「そりゃまた、ずいぶんな仲間想いになられたもので。……あの師匠が聞いたら涙流して喜ぶぜ」

「ああ? 今なんつったこら」

 

 メルティーナのガン飛ばしを面倒くさそうに避け、アリューゼはというとまた外へ出ていく。付き合ってられるか、という事らしい。最後にこんな注意までしていった。

 

「友達ごっこは構わねえが、こいつらに妙な認識植えつけるのも程々にしておけよ。俺はただのバカに付き合ってやってる覚えはねえからな」

 

 

 ドアに向けて悪態をつくメルティーナ。

 

「この世界の奴らにどう思われたって、なんか不都合でもある? かっこつけてもどうせあんたもただのバカの仲間だっつうの」

 

 一部始終を見ていたプリシスとレナは、顔を見合わせて笑った。

 

「なんかよくわかんないけど、みんな仲良しなんだね。メルもアリューゼも、レナスも」

 

「ふふっ、そうね」

 

 プリシスはさっそく元気よくメルティーナにすり寄って話をせがむ。

 アタシも混ぜて! という事らしいが。つい一昨日顔を合わせたばかりの奴に馴れ馴れしく接され、メルティーナの方は心底嫌そうな様子だ。

 

「じゃあ、お話しよっかメル!」

 

「……。ちょっとねえ。何であんた当たり前のようにひっついてくるわけ」

 

「なんでって、だってお友達ごっこするんでしょ?」

 

「は? なんで私があんたなんかと」

 

「まあいーじゃん細かい事は。アタシ達みんな、十賢者を倒すっていうところで集まった仲間なんだし。みんなで仲良くやってこーよ」

 

「……」

 

 にこにこ笑顔なプリシスにひっつかれつつ、メルティーナはうんざりした様子でレナを見てくる。

 たぶん「こいつなんとかしてくれない?」の意であろう。

 助けを求められたレナの方はしかし、(ちょっとずるいかも)と内心で舌を出しつつ。こんな含みを持たせた笑顔を彼女に返したのだった。

 

 ──レナスさんのために、お友達ごっこに付き合ってあげるんですよね?

 

 

 

 創造神としての彼女本来の姿や、そんな彼女に付き合っているというメルティーナさん達が本当は何者で、どうやって彼女と出会い、そしてどんな事情を経て今のような関係性を持つようになったのか。

 たぶんそういう事は聞いてもごまかされてしまうのだろうし、今はこれだけ教えてもらえれば十分なんだと思う。

 わたしが知りたかった事は、だってこの世界にいる時のレナスさんとの接し方なんだから。

 

 メルティーナさんから聞いたのは、レナスさんは真面目で頑固な頑張り屋さんで、どこでもお悩み相談室開きたくなるような人助けが趣味なひとで。

 なんとなく分かったのは、やりたい事いっぱいありすぎてすぐどっか行っちゃって、それで自分の事を後回しにしちゃうところがあって、そのうえ大切なひと達を大切にしすぎて頼るのが苦手っていう、なんだか不器用な生き方をしているひとだという事。

 

 それから教えてもらったのは、やたら落ち着き払ってるように見えるのは見た目の印象だけで、実はだいたい余裕ない時がほとんどで、喜怒哀楽なんかかなり分かりやすい方だし、煽り耐性も低いし……

 勇敢というより無謀としか思えない行動ちょくちょくするし、基本的に根性でゴリ押しだし、とにかく落ち着きがなくて、ちょっと目を離したらすぐどっか行ってるし……

 

 

 わたしが聞いて思ったのは、結局わたしが知っているレナスさんと、そこまで大きな違いはないんじゃないかなという事。だから。

 

 せっかくこうして出会えたんだから、みんな一緒に仲良く。

 難しく考えなくても、今までと同じでいいのかもしれない。

 

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