惑星ストリームへと移動を続ける、宇宙艦ディプロの一個室内。
数時間ほど前に眠りから覚めたレナスは今日もそのまま、その部屋の中で一人、なにをするわけでもなく、ただ部屋に備え付けてあるモニターの『宇宙』をぼんやりと見たまま、考え続けていた。
リンガを離れてから今日で何日経っただろうか。
日の光とほぼ遜色ない眩さで部屋を照らしている天井の明かりは、人の手で作られたもの。この乗り物の外の景色を映しているというこの鏡は、いつ見ても『夜』が続くばかり。
この部屋の中で今日の自分は、昨日の自分は、一体どれだけの時間眠っていたのか。
あの日以来よく見る、あの夢のせいでそれもよく分からない。今では一日が過ぎていく感覚さえおぼろげだ。
ディプロに着いてすぐ、ミラージュにこの個室に案内されて以降、レナスはこの部屋の外を一歩も出ていない。
部屋を出なくてもこの場所の中だけで食事以外最低限一日を過ごせるようなつくりになっている事は、あの後時間がしばらく経った頃に、改めて部屋を訪問してきたミラージュが教えてくれた。
来客への対応から飲み水を出す事まで、様々な用途に使うという『操作パネル』の操作手順、部屋奥についている『シャワールーム』という場所での湯浴みのやり方等、生活に必要な事を一通り。
それから食事は自分が届けるから、何かあったら気兼ねなく言ってくださいとも。
あれから言葉通り、ミラージュは毎日食事を持ってきてくれている。
本当にただ、食事を持ってきてくれるだけ。次の食事の量や有無、暮らしに不都合がないかなどを簡潔に聞き、その他の質問は自分からは一切せず、すぐに空いている食器を持って出ていく。
小型艦の中であんな風にいきなり取り乱したレナスに対して、気を遣っている様子なのは明らかだった。
この部屋に入ったばかりの頃のレナスも、とても人の事を気にしていられる余裕などなかったから、そう言われるままされるまま、ミラージュの構わない優しさに甘えた。
あれから、今日で何日経っただろうか。
今日食事を持ってきてくれたミラージュにも、結局自分は昨日と同じ、「ありがとう」としか言えなかった。他に言わなきゃいけない事がたくさんあるはずだって、いつまでもここにいちゃいけないって、頭ではもうとっくに理解できているはずなのに。
勇気を出して声をあげようとしたレナスの様子にも気づいていただろうに、ミラージュはやはり先を促す事もしなかった。言いかけてそれっきり口を閉ざしたレナスに、落ち着いた笑みを浮かべて「それじゃあまた後で来ますね」とだけ。
レナスの方からはっきりこの部屋を出たいとでも言わないかぎり、きっと彼女の方から何か意見を言う事もないのだろう。
彼女はそういう性格の持ち主だという事も、今のレナスには自然と把握できていた。
この部屋に入ったばかりの頃よりも、ずっと冷静さを取り戻した心で。なのにまだ迷いから抜け出せきれない心のままで、レナスはまた思う。
今頃、自分と一緒にこの『艦』に乗ってきたフェイトやクロード達他のみんなは、何をしているのだろう。これからの方針を話し合っているところだろうか。
だとしたら、こんなところで、自分は一体何をしているのだろう。
本当は自分も、みんなと一緒にその場にいるべきなのに。自分の「力」を取り戻すための、この世界を守るための方法を、みんなと考えなきゃいけないはずなのに。
──こんな部屋の中で、毎日毎日、私は一体何をしているんだろう。
この部屋に来て最初の数時間くらいは、レナスにあるのはとにかく何も考えたくないという思いだけだった。
あの夢さえ見なければ。
自分自身がひと月前にとった行動の理由を、創造神としての自覚が自分に足りなかったせいだと結論づけて。だからその結論に則った行動さえしていれば、これ以上間違いを犯す事もなくなると。
真実なんかそれでよかったのに。
痛いほどに心を縛りつけるその感情も、だから全部否定してしまえばよかったのに。
この世界のみんなの前で、結局自分は、望んだようには振る舞えなかった。
あの夢こそが真実だと、否応なしに心が理解してしまったから。
部屋のベッドに力なく座り、少しでも気が紛れるよう、ちょうど部屋のモニターに映っていた『宇宙』を見たまま、ただ茫然と時を過ごして数時間後。
次第にレナスの頭は、自分があの夢を見て理解した事はやはり何かの間違いだったのだと、もっと他に納得できる理由があるはずだと、そんな事ばかりを考えるようになっていった。
そうやって否定してしまえば、とにかく心が楽になれる気がしたから。
疲れきった心で何かにすがりつくように見つからない理由を探し。現にそうしている間は、夢の事を受け入れてしまうよりずっと自分を保てていると、実感できた。
だけど、夢の事を否定できたとして。
自分はそれならその先にあるものを、夢を見る前まで自分に言い聞かせていた事を、受け入れる事ができるのか。
あの時だってやろうとしていたのに、でもどうしてもできなかった事を。
考えれば考えるほど分からなくなって、考える事が怖くなって。
そのうちにミラージュが部屋を訪ねて来てくれたから。表面上だけは落ち着けるようになった心で、他の事を一切考えないで済むよう、彼女のこの部屋についての説明を一語一句聞き漏らさないよう一心に耳を傾けた。
一通りの説明が終わり部屋を出ていくミラージュに対して、その時のレナスが抱いたのは。
ひとりにしてほしいと、ひとりにしないでほしい。全くの相反した感情。
ひとりに戻った部屋の中で、こんなにも自分は弱かったのかと嫌気がさして。現実から逃げるようにベッドに横になって。目を閉じて。
それからまた同じ夢を見て、目が覚めた。
二度目、三度目の時は、抱いた感情も最初と全く同じ。
夢もその感情もどうしても認めたくなくて。けど、この夢を見ている事自体、それに夢を見て抱いた感情の理由を必死に否定しようとしている自分自身の心こそ、この夢を真実だと自分が認めている事への証明ではないかと。
二度目の時は考える事自体が怖くなって、これ以上何も考えないで済むよう、何もしていないほとんどの時間をモニターの『宇宙』を見てやり過ごした。
眠りにつくのも怖かったけど、肉体のある今の自分には睡眠が必要な事も分かっていたから、できるだけ何も考えないように、目を閉じて。
三度目辺りからはもう夢の中で、「またこの夢か」と諦めがつくようになった。
いくら否定してもこれ以上考えまいとしても。その夢は度々現れて、レナスの心の奥に隠していたはずの感情を、表層に引きずり出してくる。
自分はこんなもの、見たくないと思っているはずなのに。
だけど結局、自分が何度も同じ夢を見ている事も事実なのだ。夢を見る事に抗っても無駄だという事だけは、その時のレナスにもそうやってすぐに理解できた。
そしてどうにもならないものだと諦める事ができたからなのか。
それとも単に、同じ夢を何度も見て心が慣れたというだけの事なのか。
夢から覚めて抱いた感情に変わりはないのに、三度目の時は最初の頃ほど心は乱れなかった。感情的になって、何もかも否定したくなる気持ちすら薄れていた。
ただ、これが本当に真実なら。
──これから私は、どうやって足を前に出したらいいのだろう。
こんな事を思う自分は薄情なのかもしれないと、心のどこかで自嘲しつつ。
その時辺りからレナスは、相変わらずモニターの『宇宙』を見続ける自分が、そんな漠然とした不安を抱いている事を意識し始めていた。
だって自分はあの夢を見るまでは、この世界に来た理由も、これ以上間違えないで済む方法にもちゃんと答えを出したつもりだったのだ。
二度と後悔しないよう、それをひたすらに信じて足を進めるはずだったのに。
あの夢が真実を示しているというのなら、これから自分はどうすればいいのだろう。
間違った答えを信じてつき進めば、自分はまた、取り返しのつかない過ちを犯してしまうかもしれない。
自分が
“ルシオ”の声を拒絶してしまった、あの時のように。
夢を受け入れるのはどうしても嫌だった。あの夢を受け入れてなお、自分は今までと同じように生きていけるのか。そう考えるととても怖かったから。
けど一度不安に思うと、自分があの夢と向き合わないでいる事も怖くなってきて。
もう間違えたくない。あんな思いをするのはもう嫌。だから今度こそちゃんと正しい答えを出さなきゃ。
焦るばかりでどんなに考えても考えているつもりでも答えは出ず。いつものようにモニターの『宇宙』を見ながら考え続けて、その日は気づけば夢の中にいた。
夢の中でも答えは出せなくて、より大きくなった不安とともに目が覚めた。
目を開けてすぐ、部屋のモニターが変わらず『宇宙』を映し続けているのを確認して。あの夢がただの夢だった事に初めて安堵して、それから思った。
──このまま答えが出せなかったら、どうしよう。
レナスの漠然とした不安は日を追うごとに強くなっていって、そのうち明確な恐怖に変わっていた。
だけどどんなに考え続けても、求めた答えは一向に出せない。
あの夢を見て理解した事は真実か。嘘か。
自分は一体何をしたいのか。
自分の世界の“創造神”として、もっと毅然とした態度でいたいのか。
そんな“創造神”の責任など、自分の世界の大切な仲間達の事もすべて放り出して。
一時の感情に流されるまま、自分がこの世界に来た事によって引き起こされた結果に何も気づいていなかったあの頃と同じように、ただの一個人として、この世界に生きるみんなと行動を共にしていきたいのか。
それじゃあなにより大切なはずの、自分の世界のみんなは? ルシオは?
あの夢が本当に真実なのだとしたら。
私は自分が創った世界の事を、今のみんなの事を、どう思っているの?
どれも、この不安定な心がこれ以上間違わないように、確実に足を前に出すために必要な事なのに。
すべて受け入れて自分の心としっかり向き合えば、答えを出す事は簡単なはずなのに。
いくら考えても、考えているつもりでも、答えが出せない。
そのうち考える事が嫌になって、目を閉じ眠りにつく。
二回に一回くらいは、またあの夢を見て。目が覚める。
それからモニターに映る『宇宙』をぼんやり見つつ、また考え始める。
そんな毎日を繰り返していって、結局レナスが分かった事は、こんな簡単な事もすぐに決められないくらい自分の心は弱かったという事。
それからこんなにも弱い心だから、いつまで経っても答えが出せない今の状態が怖くて怖くて仕方ないという事。
そして今日に至った今でも答えが出せないまま。
モニターに映る『宇宙』を見ているレナスは、また思う。
──この部屋に来てから、一体今日でどれだけ経っただろうか。
あの夢と向き合って、その答えが見つかるまで、答えが見つかってもずっと、考え続けていくべきだと思っているはずなのに。
過去から目を背けるなと言う、自分の心もある。
悲しさが薄れていく事に、都合よく忘れてしまうかもしれない自分に、ずっと怯えてもいる。
それなのにどうしても、あの夢から覚めるたび。この世界の『宇宙』を目にするたび。
レナスの中にある一つの感情が、自分自身により強く訴えかけてくるのだ。
──本当にそれでいいの? 出せそうもない答えにいつまでもすがりついて、理由にして立ち止まって。あなたは、本当にそれで後悔しないの? と。
あの夢を見なければ、自分自身の心を知らなければ。自分は迷う事なく、この感情に従って行動していただろう。
この感情を無視してしまう事も、自分にとっては何より耐えがたい事だから。
今あの夢を見て立ち止まっている自分と矛盾しているとは思っていても、あの夢を見てしまったら。あの夢から覚めるたび、あの夢がまた繰り返されるかもしれないと思うと。なおさらこの感情を否定する事はできなかった。
だけど、本当にそれでいいのだろうかと。
そうやってまだ自分を引き止める、自分の心も確かにある。
しょせんそれも、一時の感情にすぎない。一時の感情に流されて行動して、失態を犯した自分をもう忘れたのか。
自分にとって一番大切なものが何なのか、わからないわけでもないだろうに。
自分は、何より自分の世界に忠実でありたいはずではなかったのか。この感情に喜んで従うという事はすなわち、自分の世界への裏切り行為に等しい事だと。
そうやって引き止める自分の心も決して無視できなかったから、レナスは今もまだ、最初の頃と同じ迷いの中にはいるけども。
考え続けるレナスは後ろめたさと、けれどそれとは全く正反対の、強い意思の宿った目で、部屋のモニターを見て思う。
この乗り物はあとどれくらいで『ストリーム』に着くのだろうか。
もう少しだけ考えて、それでも答えが出なかったら。
──みんなは、ルシオは。私は。私のわがままを許してくれるだろうか。
☆☆☆
そうやって一人、部屋に閉じこもって考え続ける日々が終わったのは、それから間もなくの事だった。
それはいつもミラージュが食事を持ってきてくれるのとは違う時間帯。
まだまだ聞き慣れない機械音とともに、レナスがずっと見ていた『宇宙』の映像が突如消え、代わりにこの部屋の前の映像がモニターに映し出される。
映っていたのはやはり。いつものミラージュではなく、マリア。
すぐ後ろにはソフィアとチサトの二人もいた。
『本当にごめんなさい! 私その、ぜんっぜん気が利かなくて。あの時の私、すごくしつこかったわよね?』
『本当にごめんなさいレナスさん。あの、フェイトもちゃんと反省してるんです。だからその……』
『明日にはストリームに着くわ。それで、あなたはどうするつもり? そっとしておいてほしいって言うのなら、そっとしておくけど』
モニターに映し出されるなり揃って身を前に乗り出し、各々よく分からない理由でレナスに謝り始めたチサトとソフィアを無視して、マリアは淡々とレナスに向けて言う。
部屋の前でみんなが待っている。
あまり長く待たせてはいけない。
諦めたような苦笑を浮かべてから、レナスはミラージュに教えてもらった通りの手順で、いつものようにモニター近くにある『操作パネル』に手を伸ばす。
部屋のドアの開閉操作を行って、足を自ら前に進めた。
☆☆☆
久しぶりに姿を見せたレナスを見るなり、マリアは首をすくめ、平然と言った。
「思ったよりは元気そうね」
「ちょ、ちょっと……」
「マリアさん!」
後ろのチサトとソフィアが慌てて止めようとするが、マリアはそれもすぐに手で制して黙らせる。
それからまっすぐにレナスの目を見て聞いてきた。
「答えを聞かせて頂戴。あなたは一体どうしたいの?」
今の自分は、取り返しのつかない決断をしようとしているのかもしれない。
そんな不安や恐怖は今でも消えずに、この胸にある。それでもこうして目の前のマリア達に向き合っているレナスの心は、不思議と落ち着いていた。
レナスはゆっくりと口を開く。
「ずっと、それを考えていたの。私は一体、何をしたいのか。私にとって一番大切なもののために、私は一体どうあるべきなのか」
どうやったら間違えずに、例え転んだとしても痛くないように、すぐに起き上がれるように、足を前に出す事ができるか。
足を踏み外す事がとても怖かったから、毎日毎日この世界の『宇宙』を見て、考え続けて。
「でも結局、いくら考えても、私にその答えは出せなかった」
それどころかそうやって考えるほど。何もしないでいる時間が過ぎていくほど、自分の中にある不安や恐怖は増していくばかりだったから。
「だから。今はただ、私自身の感情に従って動こうと思う」
ごめんなさい。でも今は、どうしても立ち止まっていられないの。
それは一体誰に向けた弁明なのか。無意識に胸に手をあて、最後まで抵抗をしようとしている自分の心に言い聞かせた後、レナスはマリアに言った。
「この世界も守りたいの。だから、私も連れて行って」
ずっと部屋の中で一人考え続けて、最終的にレナスの心を捕らえて離さなかった思いは、モニターに映るこの世界の『宇宙』はとてもきれいだという事。
このきれいな『宇宙』に浮かぶ星々には以前レナから聞いたように、数えきれないほどたくさんの人々が、懸命に今を生きているのだという事。
自分が答えを出せないでいるうちに、立ち止まっているうちに。
あの夢のように、このきれいな世界もなくなってしまうかもしれないという事。
答えが出せないままで足を前に出す事は怖い。だけどこのままだと何もできないと自分に言い訳して、答えが出るまでずっと立ち止まり続ける事はもっと怖かった。
それだと自分は、自分の世界も、この世界も守れなくなる。
そんなのは絶対に嫌だと思った。
だからもう少しだけ考えて、それでも答えが出せなかった場合は。
例えそれが間違った考え方だとしても、それでもいいから、守りたいもののために足を前に出してみようと思ったのだ。
レナスの答えを聞いて、マリアは「安心したわ」と息をつく。顔にかかった髪をかきあげ、それからレナスの方を見ずにさらりと言った。
「あなたを嫌いにならずに済んだ」
さっきから後ろで心配そうになりゆきを見ていて、レナスの答えに揃ってほっとしていたソフィアとチサトも、マリアのこの言葉でそれまでの緊張が一気に緩んだ様子。各々好き勝手に感動したり首かしげつつ言ったりしている。
一方、言われているマリアは実に面倒くさそうな様子だ。
「マ、マリアさんが……。そんなにレナスさんの事心配してたなんて……!」
「ツンデレなのね?」
「おバカさんが増えて大変だわ」
はっきりおバカさん扱いに「マリアさん……」「えっ何? おバカさん? ……が増えたって、誰がよ?」などと、感動から一転しょんぼりしたりやっぱり首かしげてたり、ソフィアとチサトは思い思いの表情を見せている。
彼女達が住んでいる世界は、今も大変な状況に置かれているはずだというのに。
目の前にいるみんながそんな事を一切感じさせないくらい、今を明るく生きているのが、どうにもちぐはぐで。明日の情勢も見えない世界の中、それでも希望を失わず自分とともに生きてくれる大切なみんなが、まるで今も目の前にいるみたいで、妙に心地よくて。
ああ。だから自分は、この世界のみんなにも心惹かれてしまったのだと。
てきとーに「さあ一体誰の事かしらね」などとチサトをあしらっているマリアに、気づけばレナスも自然と笑みを浮かべつつ聞いていた。
「増えたという事は、私もその“おバカさん”でいいのかしらね?」
だがしかし、
「本気でそう呼ばれたいのなら一向に構わないわよ? 自分の「力」とられた事にもろくに気づかない、顔に『バカ』書かれたまま人助けはするわ、人前でいきなり泣き出すわそのまま引きこもるわで、今さら真面目に“神様”なんか気取ったところでもうどうしようもないと思うし」
「……」
「正直あなたもおバカさん扱いするには十分すぎるのよね」
「マママ、マ、マリアさんっ! な、なんていう事言うんですか! 顔にバカなんて、レナスさんは繊細な心を持った素敵な女性なんですから! それ以上ひどい事言ったら、いくらマリアさんでも怒りますよ!?」
「そうよそうよ! レナスはバカなんかじゃないわよ、ただ顔にそう書いてあっただけで!」
マリアの容赦ない本音を、ソフィアとチサトが一生懸命諫めてくれているのだが。二人とも話の内容自体は否定していない辺り、レナスとしてはむしろそんな二人のフォローの方が耳に痛かったりする。
というより、こうして改めて自分がこれまで彼女達に見せてきた醜態を並べ立てられてみると。
この世界で自分は確かに“おバカさん”に相応しい振る舞いしかしていないのかもしれないと、言われた事を真に受けて普通に落ち込みかけたので、すぐに平静を装った表情でマリアに頼んだ。
「ごめんなさいマリア、撤回するわ。普通に名前で呼んで」
「でしょうね」
マリアは一息ついてから、
「とにかくまともな返事が聞けてよかったわ。本当言うと、私達の知らない情報を持つあなたに非協力的になられるのは困るのよね」
と仕切り直してレナスに言う。
「で、今日のところはあなたにしてもらう事は特にないわ。行くのか行かないのか、ちゃんと聞いておきたかっただけだから。ストリームに着くまではこのまま自由行動という事ね」
事務的に告げるマリアのすぐ後ろでは、ソフィアとチサトが期待を込めた表情でレナスを見ている。
レナスも迷う事なくマリアに聞いた。
「あなた達の言う“未開惑星”の住民が、好き勝手に部屋の外を出歩くのは構わないの?」
「さあ? 私は旧銀河連邦が作った保護条約なんかどうでもいい人間だから、そうしたいのなら勝手にすればとしか言いようがないわね。……ああ、一応言わなくても分かると思うけど、ディプロのみんなの邪魔はしちゃダメよ。迷子も勘弁して頂戴。探すのが面倒くさいから」
「……。本当にそうなったら、目も当てられない事になるわね」
見ず知らずの場所を向こう見ずにも一人つき進んで、迷子になって探される。
どういうわけか、そんな情けない自分の姿が容易に想像できてしまい。そういうのは嫌だなと普通に思ったレナスは、自分から目の前にいるマリア達三人に話しかけた。
「それじゃあ、今からあなた達について行ってもいいかしら? 私も、これ以上“おバカさん”にはなりたくないの」
一番大切な世界さえろくに守れないのに。
ほんの少しの間人の優しさに触れただけの世界に、こんなにもたやすく心惹かれるのは、薄情な事なのかもしれない。
でも、それでも。
心惹かれたものと別れるのは、とても悲しい事だから。
あんな悲しい思いは、二度としたくないと思ってしまったから。
創造神として強くあるために、何をこの心に刻んで生きていけばいいのか。
答えが出せないのならもうしばらくは、薄情でも弱くても、わがままでもいい。
大切なものをこれ以上失わないように、私が守りたいものすべてを守れるように。自分自身の弱い心にも臆さず、前に進めるだけの強さがどうしても必要だから。
今はただ、この世界に生きる人々とも共に。
はっきりと私の近くで輝いて見える、この星々の光を頼りに歩いてみようと思う。
以下、読後感台無しになりそうな後書き補足なので改行。
そんなこんなで、今回でなんとかガチシリアス展開を一区切りさせる事ができました。
中には分かりづらかったり、少し不自然な場面もあったかもしれませんが、その辺気になってしまった方も気にしないで頂けると助かります。「なんかこの辺書くのに苦労したんだろうなー」程度に流してやってください。……十賢者がまだ六人も残ってしまっているので。なんていうかそういう事でお許しください。
ぶっちゃけ作者は書きたいものを好きに書いてる系作者です(開き直り
それと、とてつもなく今さらですが補足説明などを。
・この作品中における創造神レナス、およびAED後の創造された世界について。
大事な所がごまかし気味になっちゃった本文と同じく、この後書きでも一応ぼかして説明しますが……
この作品のVP側の世界設定等は、知っている方は知っているVP1の「とある裏設定」に作者個人の独自解釈を加えたものを使っています(具体的に書くとPS版ファミ通攻略本P. 299の記述)。
恐らくこの作品以前にもこういう感じの設定を使った、他の作者の方のVP二次があるんじゃないかなっていう。その辺は勉強不足なのでよく分からないですが、たぶんそれなりにあると思う。
とにかくそれくらいには知られている設定だと思います。