スター・プロファイル   作:さけとば

43 / 69
7. 別の世界の“お友達”

「レナスさん。これ、できましたよ」

 

「もうできたの? ずいぶんと早いわね」

 

「それはまあ、一応、未来の技術ですからね。なんといっても」

 

 宇宙艦ディプロの、ここ最近はもっぱら歓談室として使われている会議室内。

 どうにか平常心を心がけつつも、これ以上ないくらい爽やかな笑顔でフェイトが今レナスに差し出したのは、色々な物質を瞬時に作れる機械レプリケーターで作ったばかりの、新しい鞘に納められた彼女の剣である。

 

 今日はいよいよ惑星ストリームに着く日。

 特にする事もないフェイト、ソフィア、マリアおよびクロード、チサト、レナスの六人は今朝から揃ってこの会議室に集まり、各々お茶やお菓子片手に自由に話したりして待機していたのだが。

 その話の一つの流れで、レナスが抜き身の剣ずっと持ち歩いているのもなんか物騒だという事で、今のうちになんとかしておこうという事になったのだった。

 

 最初に口に出したのはフェイトではない。

 どころか「それ、気にならないの?」とレナスに向けて言ったマリアに続けて、「確かに、そのままだとなんか危ないですよね」「ディプロの人達もなんかびっくりしてますもんね」「近寄りがたい感じって事?」などとクロード達が平然と言っているのを、(なんてデリカシーのない事を……!)と内心かなりびくびくしながら聞いていた方だ。

 幸いレナスの方は別段傷ついた様子でもなく、

 

「そうね。せめてちょうどいい布でもあればいいんだけど、勝手に部屋の物を使うわけにもいかないから」

 

 と考えつつ答えていたので。

 

「そ、そうだレナスさん! じゃあ僕にその剣貸してください。今から鞘作ってきますよ。それなら大丈夫でしょう? 何もヘンな事なんかないですから、気にする事ないですって」

 

 とても元気よく爽やかに言って、むしろ気後れした様子のレナスに「……。それじゃあ、お願いするわ」と剣を預けてもらい。パシリのごとく猛ダッシュでレプリケーターの元まで向かい、ちょっぱやで鞘を作ってすぐに戻ってとびきりの笑顔とともに差し出したのである。

 

「さあどうぞレナスさん。これで元通り、何も恥ずかしい事なんかないですよ」

 

「……」

 

 ソフィアが「フェイトもようやく改心したのね」みたいな感じでうんうんと頷いていたりする中。

 

 レナスはというと、素直に剣を受け取るのに抵抗がある様子。

 気持ちを代弁しようとしたらしく「えーと」と声を出しかけたクロードを、無言で首を振って引き止め。レナスは「昨日も言ったけど」と自分の口で改めて、フェイト以外のみんなにも向けて言った。

 

「あの時は、私も本当にどうかしていたのよ。ただ、少し嫌な事があっただけで。だからみんながあの時話していた事は、私の……あの時の事情とは、本当に何も関係ないの」

 

 途中言いづらい箇所があったらしい。

 が、レナスは一呼吸おきつつもさらに言う。この際だからちゃんと言わなきゃと頑張ったらしい。

 

「だからフェイト。みんなにも、あの時の事は何もなかったように私と接してほしいの。気遣いはありがたいんだけど。今まで通りでいいから。あれは、もう全部忘れて。お願い」

 

 だけどやっぱり言いづらかったらしい。

 最終的に短く言い切ったレナスは、

 

(今まで通り……だと、だいぶ失礼な感じになりますが。本当にいいんですかレナスさん)

 

 などと真剣に考えるフェイトの視線を避けつつ席を立ち。「鞘の事はありがとう。助かったわ」と今度こそ剣を受け取ってから、あくまで冷静さを失っていないそぶりでまた席に着き、静かにお茶を手に取り。

 反対にそれまで黙ってお茶を飲んでいたマリアが、平然と代弁してあげた。

 

「繊細な子扱いは恥ずかしいんですって。ちゃんと分かったら、これ以上その話をひっぱるのはやめてあげなさい」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その後しばらくしてから、移動を続けていたディプロは無事に惑星ストリームの周回軌道上に乗る事ができた。

 今からタイムゲートをくぐるのはエクスペルからやって来たフェイト達八人だけで、ディプロそのものはとりあえずこのまま軌道上で待機だ。

 

 帰る時に自分達が出発してから二、三日後のエクスペルに到着できるようにするには、結局フェイト達がこの時代の宇宙にやって来た時と同じく、ディプロごとタイムゲートをくぐる必要があるのだが。

 タイムゲートというのはそもそも、せいぜい数人がいっぺんにくぐれる程度の大きさしかない代物だ。こんなデカブツを通れるようにするためにはゲートの時空作用空間を広げたり等いろいろ準備が必要なので、そっちはフェイト達八人がFD世界で話を聞いて戻ってきた後に、という手筈になっている。

 

 そんなこんなで少し遅れて、フェイト達のいる会議室にクリフとミラージュの二人もやってきたので。「おいこらお前ら、ちゃんと準備しとけよな。大体の到着時刻は事前に言っといただろーが」なんてクリフに怒られつつ、みんなで食べ散らかしたお部屋をてきぱきと片付けて、それからフェイト達は全員で会議室を出た。

 

 初めに向かった先はディプロの転送室。

 惑星エクスペルでは謎の転送障害のせいで使えなかった転送装置。物体における分子構成、生物で言うところのDNA配列等、装置に入った対象のあらゆる存在情報をもとに対象を瞬時に分解、別地点で再構築を行う事により、……とまあ色々ややこしい原理はともかくとして、とにかく一瞬で別の場所に行ける便利な機械である。

 

 転送障害のない今、こんな便利な装置の使用を控える理由もないだろう。

 フェイト達は最初、これを使って惑星ストリームにあるタイムゲートの目の前に直接降り立つつもりだったのだが。

 

 結局またしてもこの転送装置の使用を諦め、小型艦での移動を余儀なくされた。

 なんという事はない。作動しなかったのである。

 

 

 

 いよいよ装置を使おうという時。

 といってもフェイトにとっては特に緊張するような事でもない、ただいつも使っている移動手段を使うだけの事だ。自分と同じ時代の人間であるソフィア達ももちろん、時代は違えど先進惑星育ちのクロードとチサトだって戸惑うような事もないだろう。

 ようするにただ一人を除いて、この場にいる全員が転送装置というものには慣れている状況だ。

 

「ようお疲れさん」

 

「なんか久しぶりですねえ、こういうのも」

 

 などとクリフが直前まで転送装置の整備をしてくれていた中年男性と世間話じみた会話をしている中、

 

「そういや例のお嬢さん、まったく別の世界の女神さまって話だって小耳に挟んだんですが。ありゃ本当ですかい?」

 

「自称だけどな。……ほれ、アレだよ。真偽はともかく、見た目はまあ本物で間違ってねえな」

 

「大将の基準はそこなんすね、結局のところ」

 

 などと二人がほぼ本人に丸聞こえなひそひそ話で勝手に盛り上がり始める中。

(ダメだなこのおっさんは。置いてとっとと先に行こう)

 とフェイトが先陣切ってさっさと転送装置に足を踏み入れようとしたところ。

 

「別の世界のべっぴんが気になってんのはお前も同罪じゃねえか」

 

「違いますよ。自分はただ本当なんだとしたら、……ちゃんと動くんすかね、これ。って思ったもんで」

 

 クリフがだしぬけにフェイトを引き止めたのである。

 

 

「おい待て待てフェイト。こういう時はな、初めての奴に一番を譲ってあげるべきだぜ?」

 

「はあ? 初めてって、なにが」

 

「だから初めての転送装置だよ。一人だけいるじゃねえか、俺らの中に。ずぶの機械知らずが」

 

 フェイトに話しかけるクリフはなぜか結構ノリノリな様子。

(初めて、って。そこまで感動しないだろ、レナスさんは。こんなので)

 クリフは彼女を馬鹿にしているんだろうかと思っていると、レナスの方が口を開いたのだった。

 

「今まで通りの応対ありがとうクリフ。私が自称した通り、私が本当に別の世界の存在かどうか、この装置で試そうという事ね」

 

「まあそう言うなって。こんな機会めったにねえんだから、とりあえず乗って見ろって。機械だけにな」

 

 にこにこ笑顔で言うクリフを、レナスは冷ややかな目で見ていて。

 

(確かに僕もその辺は気になってたけど。ある意味馬鹿にしているな、これは)

 

「今まで通りって。いつもあんななの? あの二人」

「大人げないなクリフさん」

「これはフラれるはずね」

 

 などと傍観者である他のみんなもひそひそ話すばかり。

 

「怖がることはないですぜ、お嬢さん。例え転送装置があんたの情報をうまく認識できなかったとしても、事故で体がバラバラなんて事はねえですから」

 

「そうそう。お前はただ、もしもの場合の安全装置がばっちり働く事を祈っていればいいのさ」

 

 ようするに彼女は自分達と違って自称別の世界の人間、いや神様なわけだし。もしも彼女の肉体組成等彼女の存在を構成する情報が、自分達の世界の人間のものと部分的にでも異なっていた場合、この転送装置は使えないのではないかという事である。

 

「考えてみろって。俺らが先行っちまった後で、お前だけ実はこれ使えねえってなったら困るだろ? まあもしも、万が一の話だけどよ?」

 

 レナスに説明した男性の方はともかく、クリフの方は明らかにその“もしも”を信じていない様子なわけだが。

 ついでに言うとフェイトも(……って言ったってレナスさん、今普通に僕らの目の前にいるし。レナの回復術とかも普通に効いてたみたいだし、それならこれも普通に使えるはずだよな)と予想していたわけだが。

 

「こんな装置一つで何が証明されるのかは知らないけど。つまり先に行ってみんなを待っていればいいんでしょう?」

 

 まあレナスの方は結局、この転送装置を使って移動するつもりだった事に変わりはないわけだし、馬鹿にされようがこんなくだらない事で意地を張っても仕方ないと思ったようだ。

 

「私が一体どこの世界に属する存在なのか。今となってはそんなもの、心の底からどうでもいい事だわ」

 

 といかにも気にしてないような独り言呟くわりには釈然としない様子で、転送装置内にレナスが入った結果がつまり。

 作動しなかったのである。レナスが入ってから何秒待っても。

 

 

 装置内にいるレナス本人が怪訝そうに装置を見上げる中。

 装置手前にある操作盤には、しっかりと『転送エラー発生』の文字。

 

 クロードとソフィアとチサトが揃って「おおー」と感心の拍手を送る最中、

(……。そんな馬鹿な)

 と偶然を疑いまくるフェイトと一緒に、クリフは操作盤の文字を目を細めてひたすら凝視。

 

「使えないなら仕方ないわね。ドックに行きましょ」

「そうですね」

 

 マリアとミラージュが全く動じていない様子で移動手段の変更をさっさと決めたので、以下全員、八人揃って小型艦でタイムゲート付近の陸地に降り立つ事になったのだった。

 

 

 

「まあとにかく気楽に頑張っておくんなせえ、異世界から来たお嬢さん」

 

 マリアを先頭に、操作盤のエラー画面を睨んだまま動かないクリフを放置して、フェイト達が普通にその場を離れていく中。

 クリフの横にいる中年男性が、転送装置から出てきたレナスに気さくに声をかける。

 

「我々もあんたの事は気になってましたからね。ディプロ乗組員を代表して、今ここで応援の言葉を述べさせてもらいますぜ」

 

 レナスの方は最初自分自身に呆れたというような仕草を見せたものの、しかし途中で可笑しくなったらしい。自然に微笑んで男性に言葉を返した。

 

「私はずいぶんと周りに心配をかけたようね。昨日もすれ違った人ほぼ全員に、そんな労いの言葉をかけてもらったわ」

 

「おや、そうでしたか。それはどうもすみません。なんて言ったらいいのか……、似た者同士って言うんですかね、ここはお節介がそこら中ひしめいてる艦なもんですから」

 

「そうみたい。とてもいい場所ね、ここは」

 

 男性に笑って言って、レナスも「それじゃあ、また。帰りも世話になるわね」とその場を去っていく。

 後ろの方にいたチサトと、

 

「使えなくて残念だったわね。せっかく初めてだったのに」

 

「別に気にしていないわ。あの装置としくみは違うのかもしれないけど……、似たようなものなら私の世界にもあるもの」

 

 歩きながらそんなお喋りをしつつ、しかしそのわりには心なしか残念そうな顔してちらっとだけレナスが後ろを振り返り、またすぐに前を向いてチサトの話しかけに返事をして。

 さらにしばらく時間が経った後。

 

「なんつーか、きれいな娘さんすね。真偽はともかく、ありゃ確かに女神さまですわ」

 

 その様子を見送った男性が、横に話しかける。

 ようやくクリフが口を開いた。

 

「なあランカー。この機械、本当にぶっ壊れてるって事はねえのか」

 

「さあて、なにせずっと使ってねえですからね。例の転送障害とやらのせいで。実は本当にぶっ壊れてるだけだったってオチも考えられなくはねえでしょうが……」

 

 ひょうひょうと答えて作業に戻る男性をしばらく納得いかない顔で見た後、

 

「まあ皆さんが向こう行ってる間に、こっちももう一回整備はしときますよ。そりゃもう今度こそ、万どころか、兆に一つの故障もありえないくらいにはね」

 

 このままじゃ本当に置いて行かれそうなクリフも「ああしっかりやっといてくれ。マジでな」と仕方なしに歩き始める。

 しきりと首をかしげながらみんなの後を追うクリフの背中に、さらに鼻歌混じりに言う男性の独り言がしっかり届いたのだった。

 

「今度はまた別の世界の女神さま、ねえ。あの英雄殿達とご一緒の旅路といい、毎回毎回土産話がつきねえなあ」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 小型艦の着陸地点から地道に歩いて、タイムゲート前まで辿り着いた後。

 この間来た時と同じようにソフィアが自分の持つ特殊な能力、空間を繋げる『コネクション』を使って、タイムゲートの繋がる先を同一宇宙内の過去や未来ではない“こことは全く別の世界”、すなわちFD空間に設定し。それから八人全員でタイムゲートをくぐった。

 

 ディプロの転送装置前であんなやり取りをした直後なので、くぐる直前にフェイトは(レナスさん、これちゃんと通れるのかな)と思ったりもしたのだが。

 こっちの方は、彼女一人だけ置いてきぼりをくらうような事はなかった。

 

 いやはやまったくどういうしくみで自分達の世界と全く異なる存在だとかいう彼女が、このFD世界で自分達と肩を並べて平然と存在できてるのかまるで意味不明なのだが、まあ自分達三人の特殊能力がとんでもなさすぎるのは今に始まった事じゃない。

 そもそもフェイト自身、自分がどういう感じに能力を発揮して自分達をこの次元に存在させてるのかも未だよく分かってないわけだし、とりあえずその辺の細かい事は(なんかすごい「力」をありがとう、父さん)とてきとーに親に感謝する事にして考えない事にした。

 

 ……だってせっかくここまで連れてきたレナスさん、タイムゲート前でひとりお留守番みたいな事になるよりは全然いいと思うし。

 

 

 そんなこんなで着いた先はスフィア社最上階の接続室。

 宇宙艦ディプロに引き続き、見慣れぬ近未来の風景に、レナスはただ不思議そうに周りを見渡している。

 

(やっぱりただの未開惑星人だと思うけどなあ、レナスさん)

 

 なんてどうでもいい事をフェイトが未だに考えていると。

 

「タイムゲートって、ただ単に過去に行けるものっていう認識だったけど……。ここは過去って感じ、しないよな。一体どこの星なんだろう」

 

「少なくともエナジーネーデじゃないわね、私も見た事ないもの。……ねえ、話を聞きに行くタイムゲートさんって、さっき通ったやつじゃなかったの?」

 

 クロードとチサトまでもが不思議そうに辺りを見回しつつ、なんか言っているではないか。

 しかもよりによって余計な事べらべら喋りそうなクリフに聞いていたので、

 

「ん? ああそういや、まだ細けえ事は説明してなかったな。“タイムゲートさん”ってのはただの物の例えで、本当は──」

 

「タ、タイムゲートさんって言うのは……本当は、そ、そう! この先にいるんだよ! あんなのはただのゲートで。本当はきぐるみ着てるみたいに中で喋ってる人が、タイムゲートさんっていう名前なんだ。……ほら、漫画やアニメでよくあるだろ? 時空のはざまに住んでいて、中から千里眼で外の事見てるから周りの事も色々よく知ってるみたいな。時の番人みたいな」

 

 と勢いに任せて、何も知らないクロード達にこのFD空間の事をごり押しでごまかした。

 

 というよりタイムゲートさんに関してはむしろ今のでほぼ真実を喋っちゃった気がしないでもないけども、一番言っちゃダメそうなこの世界の事については一応ごまかせているので多分セーフだ。

 あっちは刺激が強すぎるし。なにより英雄なんかに喋ったら過去が変わっちゃいそうだし。なにがなんでもその辺の事実だけは伏せなければなるまい。例えそれがどんなに無理のあるごまかしであろうとも。

 

「とにかくそういうすごい人なんだよタイムゲートさんは」

 

 ここ最近めっきり薄れていた危機感をしっかり持ち直しつつ、

 

「そうなんだ。それじゃそのタイムゲートさん本人は、今どこにいるんだい?」

 

「まずは部屋の外だね。この近くにいるとは思うけど」

 

 とりあえずは納得した様子のクロード達と、やっぱり興味深そうに周り見渡しているレナスの三人に改めて「ここで見聞きした事は一切他言無用」と言い含めつつ、フェイト達はこのFD世界における一番の協力者、ブレアの元へ向かった。

 

 

 以前フェイト達の時代で起きた事件を解決する際お世話になった彼女とは、今回フェイト達が過去の時代に行くときぶりの再会である。

 この間会った時はちょうど彼女がこの接続室にいるところだったか。その後は同じ最上階にある個室に案内されたので、今回もたぶんそこら辺りにいるのだろう。

 

 予想した通り、前回案内された部屋の前に立ち、訪問ブザーをならすと、

 

『あら。久しぶりねみんな。いくつか初めて見る顔もあるみたいだけれど……、まあいいわ、どうぞ入って』

 

 すぐにモニターから彼女本人の反応が返ってきて、ドアが開いたので。

 

 とりあえずクロード達三人にドアの前で待ってもらって、自分だけ先に部屋に入って大小さまざまな大きさのモニターやら入力デバイスやら記録装置やらとにかく機械だらけな中の様子をきょろきょろと見渡し、部屋に彼女一人しかいない事を確認してから。

 フェイトは開口一番ブレアに「あなたの名前はタイムゲートさんでお願いします」と言い。

 

 後からぞろぞろ来たソフィア達の「フェイト変なのー」「無理があるわよね」「余計うさんくさくなってんじゃねえか」「名前まで隠す必要はあったのでしょうか」とかいう会話も全部聞こえない事にして、さらに後から部屋に入ってきたクロード達三人にブレアもとい“タイムゲートさん”を紹介した。

 

「紹介するよ。彼女がこの時のはざまみたいな世界に住まう時の番人、その名もとても物知りなタイムゲートさんだ」

 

 事前の打ち合わせもほぼなし、ある種危険な賭けとも思える過去の時代の人間達との初顔合わせだが問題はない。なぜなら彼女は察しのいい常識人だからだ。

 

 ブレアさんならきっと分かってくれる。

 そんなフェイトの思惑通り、ブレアの方はフェイトの第一声にこそ戸惑っていたものの、クロード、チサト、レナスの三人が過去の時代のエクスペルからやってきたと聞かされた辺りで大体の事情を理解したようだ。

 

 フェイトのごり押しのごまかしを訂正する事もなく、実に自然なやり取りで付き合ってくれたので。さっそく「なんかよく分からないけど色々知ってるとにかくすごい人」に相談しに来たという形で、ブレアに今回の件で分かった事のあらまし等を説明したのだった。

 

 

 

「……で、復活しちゃったのならまた倒そうとは思ったものの、肝心の十賢者達が今どこにいるのかが分からなくて。あなたなら彼らの居場所も分かるんじゃないかと、そういうわけです」

 

 フェイトがそう言って話を締めくくったところで、真剣な表情で話を聞いていたブレアは少々考え込んでから、若干言いにくそうに口を開いた。

 

「頼りにして来てくれたところ悪いんだけど……。その復活した十賢者と彼らを創ったという謎の存在が今どこにいるのか。これはそもそも、この世界で見つけ出せるような問題ではないわ」

 

「何も分からねえ、って事か?」

 

「ええ。前にも言ったでしょう? あなた達の世界はすでに私達の世界とは縁が切れているはずだと。差し支えない表現で言うのなら、私達に昔のような「力」はないという事ね」

 

 話がよく分かってないクロード達も前にして、ブレアはさらに言う。

 

「フェイト達から見たら、今宇宙歴三六六年のエクスペルで起きている事は過去の時代で起きている出来事なのかもしれない。でも、それはあなた達の世界だけが知る過去よ」

 

 自分の兄の事を口にした時だけはさすがに表情が曇ったものの、説明するブレアは途中から難しげな表情もどこへやら、どことなく楽しげだ。

 

「私達世界の人間が知っているのはあくまでも……兄さんがああいう事をする前までに知りえたあなた達の世界の情報であって、それから先に形作られていったあなた達世界の時代についての知識は皆無なの。過去も未来も、世界は常に変化していくものだから」

 

 フェイト達の住む世界『エターナルスフィア』が、過去の出来事が勝手に追加されちゃってめちゃくちゃな事になっているくらい、完全に独立した世界になった事を喜ばしく思っているのだろう。

 説明を聞いているフェイトとしては、彼女がそう思ってくれているのはありがたいと素直に思うと同時に、(今はそういう事はいいので、FD側からの干渉でもなんでもできたら僕らの力になってください)と思っちゃったりもするわけだが。

 

 そんなフェイトの心境をよそに、ブレアは

 

「今回の事だって、あのメッセージとソフィアからの呼びかけがなければ私には何も分からなかったわ。それどころかこうやってまた、あなた達が私の前に現れるとも思っていなかったくらいよ。──でしょう?」

 

 と言って話を終えた。

 

「言いたい事は分かったわ。こっちにとってはありがたい話でもあるんでしょうけど」

 

「やっぱ、そううまくはいかねえもんだな」

 

「今の私にできるのは“別の世界のお友達”としてみんなと一緒に知恵を出し合う、くらいかしらね」

 

 ため息ついて言うマリアとクリフに、ブレアは微笑んで言う。

 思わせぶりな未来人達の会話にクロードとチサトが、

 

「つまりどういう事?」

「振りだしに戻った、って事でいいのかな」

 

 と頭をひねる中。

 彼女の穏やかな話ぶりから何かを察したらしい。さっきからブレアを観察するように見ていたレナスに、「それじゃあ情報を整理しましょうか」と前置きしたブレアが親しげに話しかけた。

 

「あなたが私達の世界やフェイト達の世界とも全く異なる、別の世界から来た“神様”という事でいいのよね?」

 

「ええ。私自身の認識が間違っていなければ、そのはずよ」

 

「そして今みんなの世界に存在している十賢者達は、状況からして、あなたが持っていた「創造の力」で創られた」

 

「……ええ」

 

 確認をとったブレアはしばらくの間考え込み、今度は全員に向けて聞く。

 

「それじゃあ次は、みんなの前に再び現れたという十賢者について聞きたいのだけれど。その十賢者は前に倒したという十賢者達と、何か変わったところはあった?」

 

「変わったところ、ですか?」

 

「ええ。見た目とか能力とか、要素はとにかくなんでもいいの」

 

 聞かれてフェイトも横にいたソフィアと顔を見合わせたものの。

 そもそも自分は以前倒した奴とついこの間倒した奴の区別関係なく、十賢者に会ってすらいなかったので口を閉ざす。ソフィアにしても十賢者に会ったのは今回が初めてなので、首をひねったまま何も言えず。

 

 最終的にこの八人の中で唯一両方の十賢者と戦った事になるクロードが、一生懸命思い出しつつ答えた。

 

「どうだろう、あの時はいろいろバタバタしてたからな……。あーでも、たぶん、そんなに変わってなかった……と、思います」

 

「何も? 以前と同じだった?」

 

「うーん。そう、ですね。前と違うところって言ったら、あいつらがかけてた防御シールドが今回はなくなってたりとかありましたけど、あれは装備とか設備の問題だと思うし。……十賢者自身はたぶん、前と同じだったんじゃないかな? 特に強くなって帰ってきたとか、そういう感じはしなかったですね」

 

 ブレアはまたしばらく考え込む。

 それからまたレナスに聞いてきた。

 

「つまり今回創られた十賢者は、創られる前のものと同じ。あなたの持っていた「創造の力」というのはなにがしかのデータを元に、対象をそのまま復元する「力」だと考えていいのかしら?」

 

 レナスの方はというと、これには答えに思いっきり悩んでいる様子。

 

(もしかしてレナスさん、今の質問の意味わからなかったんじゃ)

 

 コンピュータ用語はだめですよブレアさん、彼女にはもっとわかりやすい単語を使わないと。などとフェイトが考える中、ブレアも重ねて丁寧に問いかける。

 

「難しく考える事はないわ。あなたが普段その「力」を使っている時の事を話してくれればいいの。今回だって十賢者は以前と同じように創られているという話だし、なんとなくの想像だけで創れる、というわけではないんでしょう?」

 

 レナスはさらに考え込み、それから歯切れ悪くではあるがようやく答えた。

 

「それは……、私には、断定はできないわ。その者がただ肉体を失っただけというのなら、あなたの言う通り私はその者の魂に触れ、その情報に基づいて肉体を再び物質化すればいいだけ。だけど……」

 

「だけど?」

 

「……分からないの。私の「力」が、こんな風に外の世界でも適用できるものだとは思っていなかったから」

 

 言い淀んだレナスはため息をつき、

 

「私の世界、人間界で人が人として存在するためには、肉体、魂、精神の三つが必要よ。人間の死というのは主に肉体から魂が離れる事で起きるけど……」

 

 と自分の世界での事を話す。

 

 

「肉体を失えば死ぬ、というのはこちらの世界も同じなんだと思う。……だけど、私にはみんなの世界で命のしくみがどうなっているのか、そもそも魂というもの自体存在しているのかさえ分からないわ」

 

 眉間には皺。一生懸命頭の中で比較しつつ考えているのだろうが、なんだか本当は言いたくなさそうな様子にすら見受けられる。

 

「同様に私の「力」を使って十賢者を創った者が、自分自身の世界のしくみと、私の「力」についてどれだけ把握していたのかも」

 

「まだるっこしいな。で、結局何が言いたいんだ?」

 

 しびれをきらしたクリフにも、レナスは浮かない顔で言った。

 

「何もかも不確かな事だらけで、死んだはずの十賢者は一体どうやって創られたのかと私に問われても……私の場合にそのまま当てはめて考える事はできない、という事よ」

 

 なんとなくブレアがした質問の答えにはなっていないような気がするのだが。

 

「つまり……色々な場合が考えられるから一概にそうとは言えない、という事でいいのかしら」

 

 考え込みつつ再度確認をとるブレアにも、レナスは無言のままだ。

 ブレアは質問を少し変える。

 

「それじゃあ、あなたのなんとなくの勘でいいわ。今回はどうやって創られたと思う?」

 

「……みんなの話を聞く限りでは、おそらくあなたの推測通りだと思うわ。十賢者に対する勝手な想像だけで創ったわけじゃない。魂にしろ共有した記憶にしろ、彼らを創る際にはその元になった、“十賢者”の情報があったと思う」

 

「創られた十賢者は、元の十賢者と存在構成がすっかり同じと捉えていいのね?」

 

「……」

 

「それも断定はできない?」

 

「ええ、完全一致とまではいかないかもしれない。ただ共通点は数多く存在するはずよ。厳密に考えない場合、元になった“十賢者”と同一の存在だと言っていいくらいには」

 

 

 レナスの話を最後まで聞いた後、ブレアはまたしばらく考え込む。それから

「DNA鑑定で言ったら、99.9 % は同一人物の可能性ありという事かしらね。だとしたら……」

 と呟き、おもむろに席を立ち上がった。

 

「何か分かったんですか?」

 

「ええ、まあ。居場所をすぐ言い当てられるというわけではないけど。あなた達が十賢者を探す手助けならしてあげられるかもしれない、と思ってね」

 

 

 言いつつブレアが移動したのは、部屋の中でも一際大きい機械のすぐ横にいくつか並んで置いてある、操作パネルの前。

 

「今あなた達を困らせている十賢者の方はともかく、元になった“十賢者”の方のデータならここにあるわ」

 

 停止していたモニターも作動させると、ブレアはさっそく操作パネルを操作しつつ、フェイト達に言った。

 

「創られた彼らが元とほぼ同じ存在だと言うのなら、この古いデータだって、彼らを探す手段の一つになりえると思わない?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ブレアが思いついた案とはつまり、ここスフィア社に残っている今は独立したフェイト達の世界『エターナルスフィア』のオフラインデータベースから昔の十賢者の存在情報等をまるごと抽出し、そのデータを使って今回創られた十賢者の存在を、フェイト達世界のフィールド上で検索できるようにしようというものである。

 

 さらに簡単に言うのなら、フェイト達の世界で使える十賢者レーダーを作るという事である。

 

 ぶっつけアイデアのうえにまだまだ作業途中なため、その十賢者レーダーとやらの精度も検索可能範囲も当然不明。当初フェイト達があてにしていたような、十賢者を即座に見つけ出してくれる便利な道具になってくれそうな気は今のところしない。

 結局地道に探す事になりそうな気もするが、それでもエクスペル中をしらみつぶしよりは全然マシだ。

 

 なによりお手上げ状態でここに来た以上、フェイト達にはそれ以上にいい案なんて思い浮かぶはずがない。よって心からありがたくブレアの提案を受ける事にしたのだった。

 

 

 そんなわけで現在ブレアとそういう作業が得意なマリアとミラージュの三人は、各々操作パネルの前にて目まぐるしい速さで作業中。

 残るフェイト達六人は基本的にその様子を見つつ、十賢者レーダーが出来上がるまでひたすらに待機中だ。

 

 方向性も決まったのでこれ以上特にする事もない。

 各々その辺の空いている椅子に座ったりして、あとは自由に待つだけである。

 

「なんかよくわかんないけど、結局なんとかなりそうな感じになりましたね」

 

「ねー。私結局来た意味なかったような気もするけど、まあいっか。なんとかなりそうだし」

 

 などとクロードとチサトが端っこの方で話しているのを、

(確かに。無理にチサトさん連れてこなくてもレナでよかったよな)

 とフェイトも内心素直に思っちゃう中。

 

「そういえばここのデータベースって、他にもいろいろ見れちゃったりなんかもするのかしら?」

 

 などというチサトの不穏な言葉にフェイトがビクッとする中。

 

 

 興味があるらしく、三人の作業を近くでじっと見ているレナスに、ブレアが作業を続けつつ声をかけた。

 

「あなたとはもうちょっとゆっくりお話ししたかったわね」

 

 

 いきなり話しかけられたレナスはすぐには返事しなかった。

 その怪訝そうな様子が伝わったのだろう。ブレアはおかしそうに笑って一人会話を続ける。

 

「だって全く別の世界の存在、それも神様よ? 気にならない方がおかしいじゃない? もっと話を聞きたいと思うのが当然の感情だと思うけど」

 

「……」

 

「でも、これができたら、あなたもすぐに戻るんでしょう? フェイト達と一緒に、フェイト達の世界に」

 

「ええ、そのつもりよ。私にはやる事があるから」

 

「そうだと思った。それじゃあ頑張ってね、全く別の世界の神様。私も陰ながら応援しているわ」

 

 ブレアはそう言って会話をやめる。

 しばらくしてから、レナスが聞いた。

 

「完全に自分の手を離れた世界でも、やはりずっと見守っていたいものなの?」

 

「……。どうしてそんな事を聞くの?」

 

「私も、あなたに興味があるから」

 

 ブレアは笑って言う。

 

「私はただの別の世界の人間よ。フェイト達とはただのお友達。あなたのような、特別な「力」を持った“神様”なんかじゃない」

 

 それから思い直したかのように、

 

「ただ──。そうね、フェイト達の世界は今でも好きよ」

 

 と付け加えて言った。

 

「兄さんとは最後まで分かり合えなかったけど……、私個人はあの世界が独立できた事を素晴らしい事だと思ってる。だから、かしらね。好きな世界の人間が困っていたら、やっぱりこうやって、自分にできる事はやってあげたいじゃない?」

 

「好きな世界の人間、友達だから。今のあなたにとっては、それが答えなのね」

 

「手助けしたいという思いは上から一方的に与える者だけでなく、対等の関係にだって成り立つはずよ。少なくとも私は昔からそう思っていたわ」

 

 真剣な様子でブレアの話を聞いていたレナスは

 

「本当の“神様”は、そういう風に単純な理屈もあるって思わないものなの?」

 

 逆にそう聞かれ、表情をふっと緩めた。

 

「いいえ。私も素敵な考え方だと思うわ」

 

 さらに何か言おうと口を開きかけたが、

 

「ちょ、ちょっとチサトさん! 何勝手な事やってるんですか!」

「いいじゃんいいじゃん、ちょっと暇つぶしに見てるだけだって」

 

 いきなりのフェイト達の騒がしい様子に気を取られたらしい。結局それ以上レナスはブレアと会話を続ける事はなかった。

 

 

「チサトさん、あなたは自分が何をやっているのか本っ当に分かってるんですか? このデータベースの中には、本来ならあなた達時代の人間が知りえない情報もたくさんあるんですよ?」

 

「大丈夫よ、ちょっと見るだけだから。見たらちゃんと忘れるから」

 

「そんなわけないでしょう。ほら、いいから早く消してください。すぐに」

 

「言ってもただの宙域データでしょ? これ。そんな危険なシロモノでもないと思うけどなー」

 

「そういう問題じゃなくて。知らなくていい事を知っちゃう危険性が少しでもあるならダメなんです」

 

 

 そんなこんなでチサトが『エターナルスフィア』のデータベースを好き勝手に覗いてしまっている事に気づいたフェイトは、さっきから慌てて彼女を止めていたのだった。

 

 対するチサトはフェイトの制止もなんのその。

 ちょっとした暇つぶしに惑星エクスペル周辺の宙域図を拡大したり縮小したりして見ていただけだから、自分が今見ている画面にはただの珍しくもなんともない宙域データがあるだけだから大丈夫だと、平気で操作パネルをいじくり続けている。

 

 ていうかどうして自分しか彼女を止めないのか。

 たかが宙域図だって大事なデータには違いないだろう。彼女達の時代ではまだ発見されていない星があるかもしれないし(エナジーネーデの人はあの時代でもばっちり把握しつくしていたような気もするけど)、気にしすぎだろうが気にしすぎて損する事はないだろうし、余計な情報を与えないに越した事はないのに。

 

 大事な作業を続けている二人はしょうがないとして。

 わりかし常識人だと思ってたクロードも「えっ。ダメだったかな?」とか言ってるし、クリフあくびしてるし、ソフィアも勝手に猫画像見て癒されてるし。

 

(改めて危機感ないな、みんな!)

 

 とフェイトが愕然としていると。

 言わんこっちゃない、一番こういうの見せたらダメな未開惑星人さんまで、不思議そうな顔してチサトが見ているモニターを覗きに来ちゃったではないか。

 

「宙域、データ? 『宇宙』の映像に、……文字? が書き込まれているのね?」

 

「あっそうか。レナスさんはこういうの見た事ないですよね」

 

「平たく言うと宇宙の地図ってやつだな」

 

「立体的に見える地図? 『宇宙』に浮かぶ星の位置情報は、平面ではなく三次元で管理されているのね」

 

「そっちのが分かりやすいだろ? ちなみにそれ、見ようと思えばディプロでも普通に見れるぜ。細けえとこはもしかしたら違うかもしれんが」

 

 クリフ普通に教えちゃってるし。レナスも普通に理解して感心しちゃってるし。

 チサトもレナスが見やすいようわざわざ椅子をずらして、

 

「私達がずっといた惑星エクスペルが、この真ん中のやつね」

 

 とか宙域図指差しつつ説明しちゃってるし。

 これは非常にまずい雲行きである。

 愕然とするあまり普通に目の前のやり取りを見守っちゃっていたフェイトは、

 

「この辺で一番近い恒星は……これかな? あっ、恒星って言うのはまあ大体お日さまの事なんだけど」

 

 とチサトが画像をあっちこっち操作しつつ、未開惑星人さん相手に平気でエクスペル周辺に浮かぶ星説明等を始めたところで我に返った。

 

「これがエクスペルの衛星、お月さまね。で、この辺をこう、ずーっとこっちの方に進んで行ったら……」

 

「見たらダメですレナスさん。目を閉じて、すぐに向こう戻ってください。耳も塞いで。チサトさんも、お願いですから本っ当に勘弁していただけませんか。これ以上は──」

 

「けちくせえなフェイト。いいじゃねえかこれくらい」

「っ、いいわけないだろ!?」

 

 チサトを一緒に止めるどころか開き直りやがったクリフについムカッと来たので、フェイトがそっちに気を取られていると。

 

 

「待って。今の、もう一度見せてくれない?」

 

 チサトが操作しているモニターを見ていたレナスが、急に真剣な様子で言った。

 

 

「え……今の、って?」

 

「お願い。ついさっき見えたの、見間違いかもしれないけど」

 

 うまい説明もままならないまま、レナスは気もそぞろとばかりに食い入るようにモニターを見ている。

 チサトが見せていた宙域図の中に、よほど気になるものを見たのだろうか。

 

 何がそんなに気になるのかはともかく、チサトもとりあえずレナスが頼んでいる事については理解したらしい。

 さっきまで惑星ストリームに向かうルートをなぞるように、なんとなくてきとーに動かしていた映像を、今度は星一つ一つの名前が書かれた文字がはっきり確認できるくらいにゆっくり、エクスペルの方に戻っていくように動かしていくと。

 

 ある星の名前が見えたところで、レナスはすぐ言った。

 

「とめて」

 

 不思議そうな顔で言われた通り操作パネルから手を離すチサトや、これまた不思議そうにレナスの様子を見ているフェイト達をよそに、レナスはモニターに書かれている単語を、穴が開くほどじっくりしっかり確認中。

 

 一言も発さないので、フェイト達には何が何やら分からないのだが。

 レナスはただただモニターを見続けている。

 困惑しているというか、とにかく驚いているといった様子だ。

 

「なんだよ、なんか変なモンでも見つけたか?」

 

 クリフが軽い調子で言いつつモニターを確認しようと近づいてくるが、レナスはやっぱり反応なし。

 彼女の急な戸惑いように首をかしげつつ、フェイトもレナスが見続けているモニターを興味本位で覗き込んでみると。

 

 

『惑星ミッドガルド』

 

 大小たくさんの星の名前が書かれた、宙域図の端っこ。

 レナスの視線の先に、その名前は確かに存在していた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。