スター・プロファイル   作:さけとば

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8. 首のない人形こぼれ話 ~ 誰かの星の未来

 これ以上ないくらい穏やかな午後のひととき。

 キッチンから、とんとんという包丁の小気味いい音が響いてくる中。そしてそんな料理中のレナからおすすめされた、もといまだまだ大量に余っているアクアベリィをお茶うけのおやつにしつつ。

 

 ボーマン家のリビングで本を読んでくつろいでいたメルティーナは、何気ない拍子に、ぼろぼろの首のない人形が床に落ちているのを発見して顔をしかめた。

 

「あー、これ置いてくるの忘れてたわ」

 

 言葉通りかったるそうなメルティーナに続き、すぐ近くで大剣の手入れをしていたアリューゼも面倒くさそうに人形を見て言う。

 

「こんなんのためにもう一度戻るのもかったるいし」

 

「かといって、ずっとこれ持ち歩くのもな」

 

 この二人にとっては自分達の世界に戻る際、レナスに「手紙と一緒に持って帰って」と預けられた人形であるはずなのだが。

 人形をぞんざいに扱いつつ、考えるそぶりをしばらく見せた後。

 

 二人は怪訝そうなレナに一言声をかけて部屋を出て。

 晴天の下でサングラスつけて楽しく機械いじり中のプリシスの脇を通り抜けて、実に自然な足取りで階段を降り。

 それから流れるような手つきでボーマンの店の軒下に人形を置いた。

 

「じゃ、ここの店先にでも飾っときましょ」

 

「やめろ。そんな不吉な人形置いたら客が逃げる」

 

 何食わぬそぶりで立ち去るつもりだったらしい。

 結局、一秒足らずで店から出てきたボーマン本人によって二人の試みは阻止されたわけだが。

 

「世話になってる人様ん家に押しつけようとするとは……。ゴミ捨て場くらい、家の近くにあるんだが?」

 

「ちっ」

「面倒くせえな」

「お前ら、自分に正直すぎるってよく言われるだろう」

 

 悪びれる様子すらない自分勝手共二匹に、ボーマンは大人の対応もとい、ゴミ捨て場の場所をちゃんと教え、

 

「じゃ、捨てるか」

「そうね」

 と結局は二人の方もおとなしくそれに従う事にした様子。

 

「行ってらっしゃーい」

 

 歩き始めた二人に、機械いじり中のプリシスがのん気に声をかけた、その直後だった。

 

 

「だめーっ! 捨てちゃだめーっ!」

 

 

 レナがとびきり必死な様子で玄関から出てきたのだ。

 とにかく急いで駆けつけてきたレナは万能包丁も手に持ったまま、

 

「な、なに!? 何事!?」

 

 とびっくらこいてサングラスを上げるプリシスには目もくれず、階段を駆け下りて、アリューゼとメルティーナの前にひしと立ちはだかる。万能包丁を手に持ったままで。

 

「それ、大切な物なんじゃないんですか!?」

 

 リンガの聖地でレナスさんが発見した人形。

 あの時のレナスさんはこの人形をすごく大事そうに拾い上げて、ぎゅって抱えて、ルシオさんの事すごく心配してた。きっとふたりにとって大切な人形なんだ。

 それをこんな簡単に捨ててしまうなんて絶対にダメだ。

 

 真剣に人形を守ろうとするレナに対して、アリューゼとメルティーナは

 

「いや別に」

「ぜんぜん大切じゃないし?」

「むしろ邪魔だな」

「つかぶっちゃけ気味悪いし、これ」

 

 あろうことか口を揃えてそんな事ばかりを言うではないか。

 これにはレナもさすがに怒り心頭である。

 

「な、なんて事言うんですか! あなた達、それでも血の通った人間なの!? ルシオさんの大切な、大切な形見の品なのに……!」

 

 万能包丁を手にプルプルと震えさせながら声高に叫び始めたレナを見て、「うわあボーマン家の玄関先で! 大事件が!」「客が逃げるだろうが。よそでやれ、よそで」とプリシスとボーマンが口々に言う中。

 しばらくしてから、アリューゼが落ち着いた様子でレナに言ったのだった。

 

「包丁をおろせ。お前は大きな誤解をしている」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ええっ。それじゃその人形、ただ単にレナスさんがルシオさんにプレゼントした、っていうだけの物だったんですか?」

 

「まあ大体そうよ。あいつは愛しい男へのプレゼントに、こんなどこの洞窟で拾ったのかも分かんないような小汚い人形を選んだ、つう話」

 

 レナスがリンガの聖地で拾った首のない人形は、別に大事な品でもなんでもなく、ただ単にレナスがルシオに渡しただけの物で。あの時拾ったレナスが動揺していたのも、ただ単に渡したはずの物が、魔物のうろついているダンジョンに落ちていたからであって。

 つまりこの人形自体にはレナが想像しているような、特別な事情など一切ない、と。

 

 絶賛お店営業中のボーマンに「家の中でも事件は起こすなよ?」などというマジ忠告とともにリビングに追いやられた後。

 ソファーに座らせられたレナはメルティーナ達二人からそんな説明を聞いて、気抜けのあまり危うく手に持っていた万能包丁を落としそうになった。

 

「なんか……すごいね。その話」

 

 決してプレゼントの趣味がいい方とは言えないプリシスですら、あまりの話の内容に「うわあ」となる中。

 同じくどう思ったらいいのか分からず、「ええー、なんだそうだったんだ……」と独り言を呟いているレナを、怪訝そうに見てメルティーナ達が聞く。

 

「つか逆に聞くけど、あんたこの人形一体何だと思ってたわけ?」

 

「ルシオの形見だとか言っていた気がするが」

 

「えっ。だってこの人形、すごく古い感じがする人形ですし。だからその……、そういう事情があるから、レナスさんもあんなに大事そうに持ってたのかなって……つい思ってて」

 

「想像力たくましいわねー、あんた」

 

「まあ確かに。そういう事情でもなきゃ、こんな小汚え人形大事に持ってるとは思わないわな」

 

 毎度おなじみの勘違いにレナが恥ずかしくなる中。

 メルティーナはしょうもなさそうに首のない人形を見つつ、

 

「コレがルシオの形見、ねえ。……いやいや、あいつにそんなもんないでしょ。第一まだ生きてるはずだとか言ってた気がするし、ルシオの妹」

 

 など思い出しつつ一人でツッコむ。

 それから今度は思い出したかのようにレナスをぼろくそに言い始めた。

 

「ったく、それにしてもどうしたらこんな色気もクソもないプレゼントあげようって気になんのかしらね。こんなん貰って喜ぶ男がどこにいんのよ。ルシオに愛想尽かされたって文句言えないわよ、これじゃ」

 

「働きすぎで頭回ってなかったんじゃないか?」

「そーなの?」

 

「だったらせめて普通のプレゼント用意しなさいよ。イヤリングのお返しでしょ? 花とか指輪とかいろいろあるでしょうよ、もっとまともで無難な物が。なんでよりにもよってこんなもんを」

 

「俺に言われてもな」

「ホンット、あんのバカは」

「なかなかうまくいかないふたりの仲ってやつ? そういうのはどこの世界も一緒だねえ」

 

 

 自然に話に混じるプリシスに続き、メルティーナが思いっきりため息をついたところで。

 

「あ、あの」

「何?」

 

「この人形、レナスさんがルシオさんにあげたものなんですよね? 確かに、ものすごい趣味悪いですけど、捨てたくなるくらい不気味ですけど」

 

 一通り事情が理解できたような気がするレナは、改めてそう前置きした。

 いくらこの人形に実はこう見えて結構すごい効果があったりするアイテムだったりするかもしれないとかいう付加価値があろうと(正直どこからどう見ても、『変なかたまり』や『へっぽこな飾り』とかと同じ匂いのする品物にしか思えないわけだが)、好きな人にあげるプレゼントに『首のない人形』はいかがなものか。

 口に出して言えば言うほど、

 

(本当にレナスさんはなんでこんなものをあげちゃったのかしら。その辺の洞窟で拾ったやつをプレゼントするなんて……。そんなに趣味悪いようには見えないのに)

 

 とは正直レナも思うけど。

 なんかもう彼女の事だから、ろくに考えずにたまたま手元にあった物をあげちゃったんじゃないだろうか。というような疑惑すら自然に頭に浮かんじゃうけど。

 もっとちゃんと考えないとダメじゃないですか! などと頭の中でレナスにダメ出ししつつ、

 

「それでもやっぱり、ひとのプレゼントを勝手に捨てるのはどうかと思うんです。どんなに趣味が悪くっても、レナスさんがルシオさんにあげたものには変わりないんですから。……一応思い入れとかあるかもしれないですし。ものすごい不気味な人形ですけど」

 

「ねえ。あんたその包丁、いい加減テーブルに置かない?」

「怖いよレナ! 落ち着いて落ち着いて!」

 

 レナはメルティーナ達二人に向けて、真剣に自分の思うところを言ったが。

 返ってきたのはさらに思いもよらない返答。

 

 

「こんなもん、渡した当の本人だって何の思い入れもないぜ?」

「渡された方もね。同じようなの何十個もあるし」

 

「えっ」

 

 さらにさらに

 

「全部捨ててもまたどっかで拾ってくるだろ」

「へんなところでみみっちいのよね、あいつ」

「創造神のくせしてな」

 

 

 こんな衝撃的な言葉すら当たり前の事のように言われてしまっては、レナももう常識的な考えを一切放棄して、先ほどと同じくプリシスと一緒に言葉を失うしかあるまい。

 

 これと同じようなのが何十個も。

 全部捨てても拾ってくる。

 

 彼女達が住んでいるという“神界”。

 言葉の響きからしていかにも綺麗な感じのするお屋敷中に、乱雑に置かれまくっている、おびただしい数の首のない人形達を想像した結果。

 最終的にレナがなんとか言葉にできたのは「レナスさんは、そんな本気でどうでもいい物をプレゼントにしちゃったの?」ではなく、もっと直接的な疑問であった。

 

「“神界”って、ゴミ屋敷なの?」

 

「アタシの部屋みたいな感じなのかな。なんか……イメージと違うね」

 

 なんかがっかりした気分でレナとプリシスがひそひそ話す中。

 自分達の住んでいる場所がそんなとんでもない風評被害を受けている事にも気づかず。

 メルティーナとアリューゼの二人は、首のない人形をプレゼントされた当時のルシオの事を好き勝手に話し合っていたりする。

 

「明らかルシオも困ってたわね」

 

「苦笑いだったな」

 

「実は落としたフリして捨てていったとか?」

 

「だったら最初から受け取らねえだろうが、こんなもん」

 

「わっかんないわよー。あいつへたれだし、断れなかっただけなんじゃない? んで、本人いなくなったところで「いるかあこんなもん!」って投げ捨てた、みたいな」

 

 

(……はあ。本当にもう、レナスさんったら仕方がないひとね)

 

 二人の言いようを横で聞きつつ、レナはいよいよ呆れてため息をつく。

 今レナがレナスに対して抱いている印象は、決して初対面の時のような“完璧すぎるお嬢様”などではない。

 だっていくらお嬢様としてのたしなみは完璧でも、恋する乙女としてのたしなみはまるでダメダメなんだから。あとついでにたぶん部屋がゴミだらけなんだから。

 

 レナスさんが帰ってきたら最初になんて言おうとか、本当はもっと真面目に考えてたと思うけどもういい。考えるだけバカみたいだ。その時の勢い任せでいいと思う。

 

 きっと自分の口から出るのは、「要らないものは売るか捨てるかしてください」「あとそういう物をプレゼントにしたらダメです」「ルシオさんの事、ちゃんと好きなんですよね? だったらもっとちゃんとしたやつをあげないと」とか、そんなおせっかいな言葉ばっかりになるんだろうな、などとレナがぼんやり考える中。

 

 ちょうどいい機会に自分自身を見つめ直したらしいプリシスは、「うーん……。ちょっと部屋、片付けてこよっかな」と神妙な顔でリビングを出ていき。

 それからメルティーナはレナ達二人の誤解を訂正する事もなく、

 

「君を守れる強さが欲しい、ねえ……」

 

 さらに呆れ果てた様子で言いたい放題に言ったのだった。

 

「ルシオもなんでそんな回りくどい表現しちゃったんだか。直訳理解するようなバカ相手にしてんだから、もっとはっきり言ってやんなきゃダメじゃないのよ、ねえ?」

 

「だから俺に言われてもな」

 

 

 ☆★☆

 

 

 一方、仔細は省くがブレアの協力により『十賢者レーダー』なるものを無事手に入れ、FD世界から戻ってきたフェイト達。

 それから予定通りに“ズル”をしてディプロごとタイムゲートをくぐり、さっそく自分達が出発してから三日後くらいの時点の惑星エクスペルに辿り着けるよう、舵を切った。

 

 こうして艦に乗ってしまえばフェイトにできる事はもうない。行きと同じく、目的地に到着するのをひたすら待つだけである。

 

 

 現ディプロ乗組員の一員でもあるクリフとミラージュの二人以外は、言ってしまえばここでは部外者だ。

 しばらくの間彼らにお世話になった事があって結構顔見知りがいたりする(というかなんかやたら敵視してくる奴までいるわけだが。つい三日ほど前にも通路で視線を察知して振り返ったら案の定すごい睨まれてた)程度にしかこの場所に詳しくないフェイトでは彼らの邪魔にしかならないので、クリフ達と同じように艦内の仕事をこなしたりはしない。

 ソフィアと同じく、さらに言うならこの艦に初めて乗ったクロードとチサト、レナスとも同じく、ただの客人として扱われるのみである。

 

 ついこの間までこのディプロでリーダーをやっていたマリアは、行きの時もたまに艦の仕事を手伝ったりもしていたようだが。それもあくまで自分の暇つぶし程度に、旧友とのお喋りの片手間にする程度。

 艦を降りた人間が必要以上に出しゃばらないようにしている、という事のようで残りの半分くらいはフェイト達と一緒に、ただの客人として過ごしていた。

 

 あと現リーダーでありこの艦の責任者でもあるクリフは、さぞかし忙しいのかと思いきやそうでもなく、なんか普通に半分くらいフェイト達と一緒にいた。

 進路を決めたりする際にはさすがにブリッジで指揮をとったりするものの、それ以外、つまり大半の細かい実務は他の人にぶん投げているらしい。本人いわく、「自分がやるより確実な事は人に任せた方が安心」だとの事。

 実際その言葉の通りか。堂々とサボっているクリフを呼びに来る時とレナスの事以外、一切会議室に姿を見せなかったミラージュの方は、本当に色々やる事があったようだ。

 

 

 そんなこんなで仕事のあるクリフとミラージュを除いて、ディプロの人達の邪魔にならないよう歓談室と化したディプロの会議室に戻ってきたフェイト達六人は、艦が無事航行を始めるまでひたすらに待機。

 やっぱりお菓子などを食べ散らかしつつ、ソフィアが持っていたトランプでまったり遊びつつ、お喋りなどしていたのだった。

 

 

 

「おーい、もう自由に動いていいぞお前ら」

 

「あっクリフさんも来た。席あいてますよクリフさん、どうぞ」

 

「……。すでに自由だったなお前らは」

 

 艦がようやく重力ワープ空間に入った頃には、しばらくしてクリフも会議室にやってきた。

 お達しがあった時点で、各自部屋に戻るのも食堂でご飯食べるのもリフレッシュルームで安らぐのも、トレーニングルームで腕を磨くのもシャワールームでその汗を洗い流すのも自由。

 

 全員揃って会議室に居続けなくてもいいのだが、即座にこの部屋を出ていく奴は誰もいない。

 フェイトをはじめに全員、まあせっかくだしもうちょっとゆっくりしてようかな、みたいな雰囲気である。現状ここもリフレッシュルームみたいなもんだし。

 

「……レナスさん? 次、レナスさんの番ですよ」

 

 どっこいしょと椅子に腰かけるクリフに、ソフィアがお茶を差しだしている中。

 トランプの手札を持ったままぼーっと部屋のモニターを見ていたレナスに、クロードが声をかけた。

 現在モニターには普通の、宙域図でもなんでもない『宇宙』が映っている。

 

 レナスの方はというと明らかに別の事を考えているようで、言われるまま自分の札を一枚、ろくに見もせず場に置いた。

 固唾をのんで待っていたチサトが「やった! 上がった!」とはしゃぐが、レナスはそれもあまり耳に入っていない様子。

 

 捨て札の山に目を落とし、しばらくむうと考え込んだ後。

 レナスがさりげなく声に出して聞いてきたが、

 

 

「ねえフェイト。あの『宙域図』というのは、このディプロでも普通に見られるものなのよね? もう一度確認をとりたいのだけど……」

 

「絶対にダメです。無理です。諦めてください」

 

 もちろん即座に却下である。

 なんか余計な事言ってきそうだったクリフにも即座に言い返した。

 

「なあフェイト、お前」

「けちじゃない! 少しもだ!」

 

 

 そりゃそうだ。自分の住んでる星が宇宙に浮かんでいる星の一つっていう事すら知らなかったようなガチ未開惑星の人に、自分の星に関する事の詳細な情報なんか教えちゃっていいわけないだろう。

 機械の事ちょいちょい教えちゃったり艦にも乗せちゃったり、あげくこんな感じで今現在も先進惑星人の文化に触れされちゃったりを許しているフェイトも、この点だけは何があろうと絶対に譲らないつもりである。

 

 ことに、あんな事実が判明しちゃった今となっては。

 というかフェイトもあれを見るまでは

(どうせレナスさん別の世界の神様らしいし、もうこういうの知られてもいいのかな)

 とか危うく自称創造神さんの言う事ちょっと本気で信じそうになってたけど。

 

 

 

 ──FD世界にて、レナスが偶然にも『惑星ミッドガルド』という星の名前を宙域図の中から発見した時。

 最初はレナスも一人で困惑しているだけだったので、フェイトにも何が何やら分からなかったのだが。

 

「この宙域図がどうかしたんですか?」

 

「この、名前が……確かにミッドガルドと」

 

 不思議そうに聞くクロード達に、困惑しつつもレナスが答えていて、

 

「はてどっかで聞いたような。お前の知ってる名前か? それ」

 

「ええ。人間界ミッドガルド、これは確かに私の世界の──」

 

 そこまで聞いた瞬間、フェイトはモニターの電源をブチ切ったのだった。

 

 

「ええーちょっと! なんで消すのよ!」

 

「わたしまだ見てなかったのにー!」

 

「そりゃいくらなんでもねえだろうがフェイト。ようはこいつの星なんだろ? 今の『ミッドガルド』とかいうのが」

 

「だからだろバカ野郎!」

 

 本人よりもその周りからのブーイングがすごかったけどそんな事気にしない。

 

 

「とにかく、今のではっきり分かりました。レナスさんはやっぱり僕らと同じ世界に住む、未開惑星人です。しかも過去の時代の」

 

 もっとじっくりしっかり確認したかったらしいレナスに(というよりむしろ好奇心丸出しな周りの奴らに)ちゃんと言い聞かせ、

 

「あなたが未開惑星人だと分かった以上、本来ならあなたが知っているはずのない情報を教えるわけにはいきません。この件はここまでという事で。……いいですね?」

 

 これ以上その星について余計な事を知られないよう念を押して。

 それとレナスが実はやっぱり別の世界の神様なんかじゃなかったらしい事を後で知って、意外そうに「あら、そうだったの?」と首をかしげたブレアにも、

 

「そういうわけで危険なので、レナスさんの星の事はこれ以上調べないようにしたんです。あなたも、どうしても気になるというのなら僕達が帰った後でお願いします」

 

「そうね。そうさせてもらうわ。──惑星ミッドガルドに住む、『創造神』。まるで絵に描いたような神様が当たり前のようにあなた達の世界に存在していたなんて、私も今初めて知ったから。……惑星全体の管理プログラム? いえ、それにしては素体の自我が……でも、そうね、フェイト達の事例から考えてみればあながち的外れとも……」

 

「あの、すみません本当にタイムゲートさん。そういう推測も僕達が帰った後でお願いできませんか?」

 

「ああごめんなさい。本当に今回の事といい、あなた達の世界はどこまでも興味がつきないわね」

 

 となんとか話をつけ。その後FD世界から戻ってきて今に至るのである。

 つまりあの時のフェイトの対応はばっちり効果があったのだ。

 

 

 そんなにしっかりモニターを見ていなかった周りはもちろん、レナスにも結局『惑星ミッドガルド』という単語を見つけた以外、その星がどのくらいの大きさなのか、どういう形状なのか、どこにあるのか、周辺の星々の状況などといった具体的な事はまったく分からなかったらしい。

 消す直前まで映っていたのが、雑多な点の集まりみたいな星々の中、文字ばかりがやたら強調して書き込まれている状態の宙域図だった事も幸いしているだろう。

 

 

「何もかも知ろうというわけではないわ。あの『ミッドガルド』という星が、本当に私の世界の事を示しているものなのか。それだけ知りたいの」

 

「知らなくったって困る事はないでしょう。星の場所なんか分からなくったって、レナスさんはちゃんとリンガの聖地から帰れるんですから」

 

 どうしても気になるらしいレナスに、またしてもフェイトはきっぱり言い切った。

 

「大体星の名前だけで十分確認できてるじゃないですか。あれが間違いなくあなたの星です」

 

 FD世界から惑星ストリームに戻ってきた時。

 普通に転送装置を使ってタイムゲート前に転送降下してきたディプロの人達を見て、フェイト達もディプロ内に直接転送収容してもらおうとしたけど。やっぱり最初に座標内に入ったはずのレナスがいつまで経っても収容されなくて、通信できっぱり

『ほい出た、転送エラー。皆さん諦めて小型艦で戻ってきてくだせえな』

 とか言われちゃったりしたとかそういう事はあったけど、それが何だと言うのだろう。

 

 彼女の知っている世界、つまり彼女の住んでいる星の名前が、確かにあの宙域図の中にあったと他ならぬ彼女自身が認めたのだから、彼女は間違いなくその未開惑星の住民なのだ。

 別によくある名前でもないけどたまたま名前が同じだっただけの星、とかいう万に一つもあるかどうかという偶然の一致でもない限り、それ以外に説明なんてつくはずがないのだから。

 

 転送装置が使えないのは……たぶんよっぽど体質が特別なんだろう。

 いやフェイトもそんな話今まで聞いた事ないけど。でもこの宇宙にはまだまだ未知の領域ってものがあるわけだし。

 それにこれでも一応、死んだはずの十賢者とか簡単に生き返らせちゃう特別な「力」があったくらいには、ちゃんと自称神様なんだし。彼女は。

 

「ちょっとくらいならいいじゃんねえ」

「フェイトのけちー」

 

 とかいう外野の文句も無視して、FD世界でも言ったのと同じような事を再度言い聞かせる。

 

「いいですかレナスさん。あそこにあった宙域図も、この艦にあるのも、本当はこの時代のものじゃない。未来のものなんです。あれをあなたが目にしてしまった事自体、本来あっていい事じゃないんです。あなたは本来ならこの時代、宇宙の意味も知らない未開惑星人のはずなんですから。……僕が言ってる意味、分かりますよね?」

 

 

 その星の文化レベルでは分不相応でしかない文化、情報を、その星の人間が決して持つべきではない時に持ってしまった場合の危険性、および結末は宇宙の歴史の数々から察して知るべし。

 それが未来の人間からもたらされた情報だというのならなおさらである。

 

「一民間人ならまだしも、彼女の場合は“創造神”ですからね。現時点で彼女が知るはずのない、彼女の星周辺の情勢等を知ってしまうのは……確かに、あまりよろしくない事かと」

 

 とはフェイトがブーイングを受けた後、しばらくしてから作業を終え、騒動を起こした双方の言い分を冷静に聞いたミラージュの言だ。

 

「……。そういやこいつそんなだったな。んじゃ仕方ねえか」

 

 あろうことか本来のレナスの立場を本気で忘れていたクリフがなぜか感心する中、(僕以外にもちゃんと真面目に考えてくれる人がいてよかった)とフェイトが心から安堵した事は間違いない。

 

 

 ──そんな事はともかく。結局のところレナス自身も今フェイトにしている要求が、自分の個人的な疑問を解消するため以外に他ならない事を分かっているようだ。

 目線では明らかに他の外野同様「フェイトのけち」みたいな事を訴えつつも、最終的にはおとなしく引き下がった。

 

「……ええ。それは、分かっているわ」

 

 というよりこの場合、レナス以上に危険なのは他の外野であろう。

 ぶっちゃけレナス本人には教えてないけど、宙域図なんかこの会議室に限らず、見ようと思えば各個人の部屋でだって見られるものなのだから。機械に疎いレナスとは違って、他の全員がその気になれば『惑星ミッドガルド』を自由に調べる事ができちゃうのである。

 従ってそこから知った情報を、レナス本人に包み隠さず伝えちゃう事も。

 

「他のみんなも、これ以上レナスさんの星について調べるのはダメだ。……特にチサトさん、いいですね? レナスさんに教える教えないにかかわらず、『惑星ミッドガルド』を勝手に検索したりしないように」

 

「なんで名指しよ?」

 

「あなたが一番そういう事しそうだからですよ。ああちなみに、みんなが艦内で見られるデータにはちゃんと制限がかけてあるはずだって、ミラージュさんが言ってました。無理やり覗こうとすればすぐにバレるのでそのつもりで」

 

「いやいや念押されなくてもしないって。私一応エナジーネーデの出身よ? いろいろ情報知られちゃう危険性とかは、これでもちゃんと分かってるつもりだし」

 

 という事で彼女の言い分が信用できるかはともかく、ここまで念を押しておけば、他のみんなもまず『惑星ミッドガルド』に関する情報を盗み見ようとは思わないだろう。

 

 

「でもあの時画像操作した感じだと、あの星、この帰り途中のどっかその辺にあるって感じだったのよね。案外エクスペルのすぐ近くにあったりして」

 

「そうだったんですか? それじゃあレナスさんの星、帰りに見えるかなあ」

 

「いやそれはさすがに……。ワープ空間だし、無理じゃないかな」

 

「肉眼で見えたら人間じゃないわね」

 

 期待通り多少推測するような会話は繰り広げつつも、言ってしまえば結局、他のみんなにとっては他人事である。

 どうしてもそれ以上詳しく知りたいというわけでもなさそうなみんなの様子に、フェイトが一息ついたのもつかの間。

 

 

「そういやさっき少しだけ調べたぜ、惑星ミッドガルド」

「ええっ! 調べたんですかクリフさん!」

「おお。ヒマだったもんで、ついでにな」

 

 こんな近くにいた情報制限かけられてない人間が。

 

 

(……ミラージュさんにちゃんと言っとかなきゃな、クリフの個人モニターぶっ壊しといてくださいって。どうせ仕事してないんだから)

 

 と一瞬フェイトが遠い目になる中、

 

「暇だったんだなクリフさん。責任者なのに」

「昔からこうだから。平常時は誰もクリフに期待してない事は確かね」

 

 同じくそっちの方が気になるクロードにマリアがしれっと言う中。

 

「そんな事よりどんなだったの? ミッドガルドって」

 

「教えてください! ちょっとだけでいいですから!」

 

「いやー俺もな、これでも知ってる事全部こいつに言っちまうのは、さすがにまずいかなとは思うわけでな」

 

 さっそく食いつくチサトやソフィアに、自分で言いだしておきながらもったいつけるクリフである。

 

 本当は誰よりも知りたいくせに

「教える気がないならいいわ」

 とか気分を害した感じですぐに言っちゃうレナスに、

 

「早まんなよ。何にも教えられねえとは言ってねえだろ?」

 

 などと得意げに言い返したあげく。「おいクリフ。あまり余計な事は……」というフェイトの制止を聞き流して、クリフは結局言ってしまったのだった。

 

 

「とりあえず、“創造神”が国治めててどーたらみたいな御大層な事は書いてなかったな。あと普通に先進惑星だったぜ、お前の星」

 

 

 よほど意外だったらしい。クリフの言葉をレナスはただ呆然と聞き。

 しばらくしてから、まだ混乱冷めやらぬ様子でようやく聞き返した。

 

「先進、惑星? ミッドガルドが?」

 

「ああ。俺達の時代の情報では、だけどな」

 

「クリフ達の、時代で……。ねえ、それは一体いつ頃の──」

 

「さあて大体数百年先ってとこか? それ以上は知らねえなあ」

 

 とぼけた風に答えた後、

 

「俺が教えられるのはここまでだな。お前は今の時代のお偉いさんなんだろ? それ以上は未来のお楽しみにってな」

 

 とクリフは質問を打ち切る。

 レナスの方はというと本当に予想外だったらしい。

 

「……数百年後? それだけの期間で、ミッドガルドが『先進惑星』に?」

 

 

 今しがた教えられたばかりの事の意味をじっくり噛んで含めるように、口に出して繰り返し、

 

「こういう時、言う言葉があると思うんだがな?」

 

「ええ、そうね。教えてくれてありがとうクリフ」

 

 驚きようを茶化したように、礼を催促してくるクリフにも眉間に皺を寄せる事なく、レナスは素直に礼を言う。

 

「なんだ、じゃあレナスさんも結局は先進惑星人だったっていう事ですよね。フェイトはやたら機械の事とか秘密にしたがってたけど」

 

「これから数百年も先の事だからな、ソフィア。レナスさん自体は結局未開惑星人で何も間違ってないんだぞ」

 

「えーでも」

 

「ま、ゆくゆくは俺達の仲間入りって事でいいじゃねえか。……つうかなんか普通に交信もした事あるみたいだったからな、お前んトコと。こいつらはともかく、そのうち行く機会もありそうな気がするぜ。俺は」

 

「ええっ、そうだったんですか?」

 

「散々帰り道も探してあげたのに結局知り合いだったって事? 世間は狭いわね」

 

 

 好き好きに話しているフェイト達を見ているうちに、ようやく実感が出てきたらしい。軽い調子で差し出されたクリフの手を、しばし戸惑ったように眺め。

 

「その時はせいぜい歓迎してくれよ?」

 

「──ええ。一つの世界の神として、あなた達が私の世界に訪れるその時を楽しみに待っているわ」

 

「つってもまあ大分先の事だし、お前に言ってもしょうがねえよな」

 

 

 正直に思うところを伝えたのだが、本気にはされず。

 またみんなが好き好きに他の話題に移り、これまたチサトにとりとめのない話を話しかけられている中。

 

 

 ──今までやってきた事は決して無駄ではなかった。自分の世界の人々も、いつかきっと、自らの足でこの広い『宇宙』に飛び立てる日が来るのだと。

 

 自分が理解しつくしていたはずの世界の様々な真理が、一瞬で、根底から覆されたばかりだというのにもかかわらず。

 この時レナスはそれでも、いつになく安らかな感情に満たされていた。

 




・ちょっと前半ネタが分かりにくかったかもしれないので一応、奇岩洞窟こもってアイテム稼いだ事がない方へのちょっとしたVP1攻略情報を。

『首のない人形』
 ゴミではありません。大事にとっておくと、上級配列変換でいいモノになります。
 バドラックやルシオ等、通常攻撃ヒット数の多いキャラにつけるのがおすすめ。
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