SO勢とのパワーバランスが真面目に気になる方は要注意。
晴天の下そよ風がなびく、一面穴ぼこだらけの、だだっ広い草原のど真ん中。
設定されたバトルフィールド上にて。フェイトとクロード、最後に残った二人は、手からじわりと滲み出る冷や汗と一緒に剣を握りしめた。
「いやこれ、いくらなんでも嘘ですよね?」
「つ、強すぎる……!」
二人が剣を向けている先の、レナスはただ一人。
いくらなんでもあなた想像力盛りすぎてませんかと問われ、返事に困る表情をしている彼女のまわりには点々と、クリフ、ソフィア、チサトが倒れている。
クリフは戦闘開始後すぐに。
先制の一撃を、レナスがなんかいきなり何もないところから出してきた盾で弾き返され。
さらにその盾に仕込んであったらしい、攻撃をした本人にその威力を倍以上にしてお返しするとかいう反則くさい反撃をもろに食らい、「ぬわーっ」ってなってやられた。
盾による攻撃の反射はたぶん『スターガード』だろう。それならフェイトも知っている。
重い一撃を持つクリフに対して、レナスの方はただの私服。
アレが見ての通り絶大な効果をもたらすためには確か、今の二人のように、その与えられた攻撃が『スターガード』使用者の防御力を遥かに上回っていないといけないはずだ。
有効に使える機会がやたら限られる事、さらには攻撃のインパクトが最大限に響くその瞬間にだけあえてガードを緩める技術、力の加え方、力を返す方向の微細な操作等……
使用に際する脳のキャパシティをやたら求められる事もあって、知っているフェイトも昔試しに何回か使ってみただけのシロモノだったが。
ようするに……前もって色々準備して、いちいち敵の攻撃待つくらいなら自分から殴りに行った方が早いじゃないかっていうシロモノのはずなのだ。本来のアレは。
その場の気分でいきなり繰り出せる便利技なんかじゃなくて。
ソフィアはそのすぐ後に。
後衛に攻撃がいかないようフェイトやクロードが二人がかりでレナスに対峙している最中、吹っ飛んでいったクリフを介抱しに行こうと駆け出したところで。
前衛達の攻撃をまた別のなんか浮いてる盾二個を出して防ぎつつ。これまたレナスが何もないところから出してきた弓で、ソフィアの足元の地面的確に狙って撃ってきて。
その足元付近の地面がなんかいきなり爆発して「きゃあー!」ってやられた。
フェイトが真っ先に思ったのは(その勝手に浮いてる盾ずるくないですか?)である。
いくら某ファンネルのごとく彼女自身がアレを意識的に操作しているものであろうと、これだけはもう本当にずるいと思う。
あと弓矢放ったら地面が爆発するのはもうなんかきっとそういう技なんだろう。矢も彼女が何もないところから出した特別製で、エネルギー弾みたいな感じに光ってたし。
弓ってそもそも地面狙って撃つものでもないような気もしなくもないけど、その辺は
「ここでぼっこぼこにされても本体には全く影響ないから大丈夫」
ってあらかじめ教えておいたにもかかわらず、彼女なりにソフィアに遠慮した結果だと思われる。
……回復術使えるやつを先に倒しておかないと面倒だとか、そういう戦術的な意味での遠慮は一切なかったようだけど。
チサトもさらにそのちょっと後に。
レナスはどうやら一人ずつ確実に数を減らしていく方針をとったらしく、残ったメンバーの中で彼女の第一標的となったチサトは、弓で執拗に狙われた。
逃げるので精一杯のチサトも前衛で(ほぼ盾相手に)戦っているフェイトとクロードと一緒に、なんとか一瞬の隙をついて攻勢に転じようとはしていたらしいのだが、結局それもうまくいかず。
チサトを狙わせないよう射線上に立ち塞がっていたフェイトとクロードの目の前で、レナスが上空向けて放った矢が途中でいきなり直角に曲がり。
やっぱり地面が爆発して「ぎゃあー!」ってやられた。
矢も某ファンネル式だったとは。
これはきっと「弓で矢を放っている」という見た目に惑わされるあまり、「本質的にはエネルギー弾を使った技」という認識が自分達に足りていなかったがゆえの敗因であろう。
……まあ認識しっかり足りていたからといって、『プロテクション』などの防御術が使えるソフィアが早々にリタイアしちゃったこの状況ではもうどうしようもないわけだが。
あとあの盾やっぱりすごくずるくさいし。
そんなこんなで、すでにほぼ自分達の負けが確定している中。
フェイトはもう一回剣をしっかりと握りしめ、疑惑の目たっぷりにレナスを睨みつつ聞いた。
「レナスさん、なんかズルしてませんか? 精神反映させる前のホムンクルスに細工したとか」
ものすごく強いのは身をもって知ってたけど。
しかも何者かに神様っぽい「力」を大体全部とられた後の状態で、っていうのもちゃんと聞いてたつもりだけど。
「これが、創造神の「力」……。僕達は本当に、こんなものを相手にするっていうのか?」
おかしい。いくらなんでも強すぎる。
だって彼女は今、剣を抜いてすらいないじゃないか。
様々な超常現象を引き起こせる紋章術だって、普通は発動までにそれなりの時間がかかるものなのに。
手を塞ぐ事なく身を守る浮遊盾も、遠くの敵を射抜く弓も。
集中に手間取る事もなく瞬時にして、なんでもかんでも自在に出現させる「力」。
それにあの浮遊盾の動きが彼女自身の意思によるものならば、そのうえ同時に正確に狙いを定めて弓矢まで放ってきた彼女は、異常なまでの処理能力を有している事にもなる。
普通の人間の限界を遥かに超えているだろう事を、どれもこれも、まるで息をするかのように楽々と。
クロードと揃って、このあり得ない戦力差にただ愕然とする中。
目の前のレナスは浮かない顔で言う。
「それは……私にも分からないわ」
「ええっ、分からないって」
「あーやっぱりズルしたんですか。ズルしたんですよね? 正直に言えば怒らないですよ、僕らも。今なら」
「……。そうではなくて。これは単なる、杞憂に過ぎないのかもしれないという事よ」
とかなんとか話していたら。
「ええーい隙ありっ!」
倒れてたはずのチサトがいきなりレナス目がけて、燃え盛る名刺を投げつけたではないか。
死んだふりして様子を窺っていたという事らしい。
(話の途中でやるとは)とはフェイトもちょっと思ったけど、確かに「今回はレナスさんを十賢者だと思って全力でやりましょう」ともあらかじめ言ってあったわけだし。戦術としては間違いなく正しいのでいいと思う。
だけどまあ結局、そのチサトの不意打ちもまるで効果なし。
これも予想していたという事か。レナス本人はチサトの方を見もせず、レナスの周囲に浮かんでいる盾が勝手に動いて、飛んできた名刺を弾いた。
「あちゃー、やっぱダメかー」
「それと、
「え」
手に持っていた弓と浮遊盾とを、ふわっと消し。レナスは言いつつ、今度はチサトの足元目がけて、何か光のようなものを投げつける。
途端に光は水晶柱に変わり、チサトの首から下がまるまる埋まってしまった。
「ええっー何これ!? ちょ……動けないわよ!?」
「晶石は特別なものでない限り、普通は数秒程度で解けるわ」
「あっそうなの?」
ほっとするチサトをよそに、
「でも数秒って……結構長いですよね?」
「もしかして接近戦の最中でもできるんですか、それ」
「……。ええ、やろうと思えば可能よ」
浮かない顔したレナスの答えに、こっちまで暗くなるフェイト達二人である。
「ねえ、十秒くらいは経ったわよ? これまだとけてないんだけど?」
「ごめんなさい。今回はそのまま凍ってもらう事にしたわ」
「しちゃったのね!?」
あげくやろうと思えばいくらでも長く拘束できるらしい。
しかも拘束維持中に、技行使者の行動制限一切なしというおまけつき。
ただなんか手から光出して人にぶつけただけで。これも(フェイトが見たところでは)詠唱も溜めもなしに発動してたのに。
フェイトとしてはこの事実達をどう受け止めたらいいやらである。
(なんかもうめちゃくちゃだな、神様って)
横のクロードも、もはやただ苦笑いを浮かべ突っ立っている中、
「さっきも言った通り、これはすべて仮定の話よ」
やっぱり浮かない顔して言ったレナスは、勢いよくジャンプして上空に飛び上がり、
「けど、もしも私の「力」を奪った者が、この「力」の使い方を完全に把握していた場合。これらの「力」を自在に扱う力量を、完全に備えていた場合は──」
それから青白く光り輝く翼を、なんか唐突に背中に生やし。
柄の部分までしっかり金属製っぽい、彼女の身の丈の倍はあろうかという、巨大な槍を手に出現させ。
「こういう事もありうるかもしれない、という教訓ですか。そうですか」
「なんか……女神さまって感じだなレナスさん。女神さまなんだけどさ」
完全に諦めちゃってる状態のフェイトとクロード目がけて、槍を思いっきり投げつけたのだった。
投げつけられた槍は、案の定地面で勢いよく大爆発。
視界が真っ白になり、そのままフェイトの意識は遠のき。
意識が戻ってきた時フェイトがいたのは、おなじみディプロ艦内の会議室の中。
先に意識を取り戻していたクリフとソフィアも、フェイトと一緒に起きたクロードとチサトも。
テーブルの真ん中に置かれた貴重なアイテム『パラケルススの円卓』の、辺り一面完全な死の大地と化したバトルフィールドを、一様に浮かない顔で見つめていて。
あとしばらくしてから起きたレナスも、やっぱり浮かない顔でみんなと同じところを見つめ始めて。
以下一言も喋らないみんなの気持ちを代表して、クリフが実に投げやりに言い放ったのだった。
「こんなに強かったら宇宙守れねえっつーの」
★★★
現在フェイト達がいるのはもちろん、だだっ広い草原のど真ん中などではなく、惑星エクスペルへ向かって航行を続けている宇宙艦ディプロの中。
『パラケルススの円卓』は、その名の通り円卓状のアイテムである。
その円卓上の中に、疑似的なバトルフィールドを作成。さらに特殊な製法で作られたという親指サイズのホムンクルス、つまり人形のようなものに自分自身の精神を反映させる事により、その精神の持ち主が、思う存分その中で戦う事ができるという仕組みのモノだ。
つまり機械技術とは異なる、魔訶不思議な古代人の技術で作られたイメージトレーニング装置といったところか。
これを使えば、現実世界ではとてもじゃないけど手合わせ相手にはできないような本気の技を使った戦いができたり、うっかりお互いに本気出しすぎてディプロに大穴開けて、揃って全員宇宙の藻屑になる心配もない。
従ってフェイトも結構便利に使わせてもらっているシロモノなのである。
現に惑星ストリームに向かう途中でも、トレーニングルームで体を動かす他に、フェイト達はこれを使って各自自由に腕を磨き合ったりもしている。
ひたすら待機のあのヒマな時間中、確かにフェイト達はこの会議室に集まる事が多かったが、それでもここでずっとだらだらお菓子食べてお茶飲んで喋っていただけではないのだ。……たぶん、一応。本当に。
わけあってVIPルームから出てこないレナスの件とかで、なんかずっとお喋りし続けるのも気まずかったりする時とかもあったし。
そんなこんなで、行きの時はいまいちみんな戦闘に身が入ってないような時もあったが、今回からはその心配の種もない。
惑星ストリームを発った翌日。
仕事で忙しいミラージュ、今日はディプロの人達と過ごす事にしたらしいマリアを除いた、会議室常連のフェイト達全員が心置きなくなごやかな表情で、この『パラケルススの円卓』を使って一緒に遊ぼ……いや十賢者達を倒すための鍛錬をしようと。
ちょうど戦闘訓練のできる場所を探していたらしく、トレーニングルームの場所を尋ねてきたレナスにも誘いをかけたのだった。
またしてもよく分からないアイテムの使い方についての説明を受けたレナスは最初、なぜか『ホムンクルス』という単語がやたら気にかかったらしい。
「どうやって作ったのって言われても……昔の人が作ったアイテムらしいですし。たぶん粘土こねるみたいにして作ったんじゃないですかね? なんか特殊な力こめたやつで。武器合成に使うやつとかはそんな感じで作りますし」
「……。作ったの? フェイトも」
「いや、僕はあんまり。でもソフィアは結構得意ですよ、そういうの」
「はい。心を込めてこねこねするんですよ。かわいい子ができますようにって」
なぜだか一瞬警戒するような表情までしたレナスは結局、屈託なく言うソフィアにつられて安心したらしい。
「これも私の認識違いという事ね」
とかなんとか物珍しそうに円卓上のホムンクルス見ながら独り言を言っていたので、たぶん彼女の星にも『ホムンクルス』というものがあるのだろう。
(……レナスさん、一体なんだと思ってたんだろうな。このホムンクルス)
あんな不穏な反応された後に「そっちの星での作り方」とかは正直聞きたくなかったので、フェイトもその話題にはそれ以上触れず。
「それじゃあ、さっそく戦ってみますか?」
と一戦をもちかけてみたのだった。
最初は一対一で。
フェイトにとっては実に、リンガの聖地以来の彼女との対決だ。
あの時彼女の方にそういう意識は一切なかったとは思うが、ていうか今でもフェイト達に凶行を止めてもらったという認識しかないらしいけど。ぼこぼこにやられたフェイトにとってはあの時の事は苦い経験である。
「今回はお互いに本気でやれますね」
あの時は単に本気出せなかっただけとカッコつけたような事を、フェイトが戦闘開始前にレナスに向かって宣言するが。
しかしレナスの方は、その宣戦布告を全く聞いていなかった様子。
「これが、あのホムンクルスの肉体……。不思議な感覚ね」
自分の精神を一時的に別のものに乗り移らせるという事に、(たぶん彼女もそんな経験初めてだろうし仕方ないとは思うけど)なんかずいぶん慣れない様子だったのだ。
戸惑ったように自分の手を見つめた後、
「これはまるで……」
と呟き。
「……あの、レナスさん?」
「ねえフェイト。この場所での事は確か、自分自身の精神に影響されるのよね? 自分ができないと理解している動きは、ここでもできない。自分自身の肉体が覚えている事しかできない、と」
「はあ、そのはずですが」
「……。戦闘の前に、少し動きの確認をしてもいいかしら?」
「はあ別に。いいですよ」
何やら考えつつ、許可をもらったレナスはなぜか準備体操するわけでもなく、ただその場でフェイトに背中を向け。しばらくそのまま硬直。
「確認はまだですか? なんならその辺ちゃんと走り回ってみた方が」
「……あ。ええそうね、もう大丈夫よ」
「えっ。何もしてないですけど、もういいんですか?」
「ええ、もう大丈夫。確認は済ませたわ」
なぜかちょっと慌ててフェイトに向き直り、腰の剣を抜いて構えたのだ。
フェイトの方もまるっきり不思議に思わないでもなかったが、彼女が挙動不審なのはまあ大体いつもの事なので深くは気に留めず。
「それじゃあ今度こそ。お互い今持っている力のすべてを使って、全力で戦いましょう」
「……ええ。努力はしてみるわ」
フェイトの呼びかけに、レナスは自信なさそうに答えたのだった。
今思えば、様子見で剣を交えてみるまま、そこからなかなか本気を出そうとしてくれないレナスにもっと疑問を抱くべきだったのか。
なんといったらいいのか。様子見の段階でも彼女が十分に強いのはちゃんと分かるんだけど、あの時はこんなものではなかったはずなのに、っていうか。
以前戦った時のレナスだったら苦もなく受け流していただろう攻撃を、かろうじて防ぎ。
その時のレナスだったら間違いなく踏み込んでいただろう、フェイトの一瞬の隙をつけない。
また例の手加減戦法でもしているのかなとも思ったけど、そのわりに彼女の表情は余裕なさそうな様子。
明らかに彼女が全力で戦っていない事は確かなのだが。本気を出していないというより、出せないという感じである。
(まだ体がなじんでない、って事かな)
と思ったフェイトは結局、ちょっと考えた末、自分から本気を出してみる事にしたのだった。
いつまで経ってもお互い様子見じゃしょうがないし。(いざ危険がせまったら、レナスさんも本能的になんか体が動いたりして本気出せるんじゃないかな)ぐらいの軽い気持ちで。
本気モードのフェイトというのはつまり、純粋な剣技だけでなく、『ストレイヤーヴォイド』や『ショットガンボルト』などの特殊技も遠慮なく使うという事である。
この前戦った時のレナスは尋常じゃなく強かったけども、技らしい技は一切使っていなかったはず。あの時は操られていただけだから力が制限されていた、という可能性も考えられなくはないが……。
実際に剣を交えたフェイトとしては、レナスはおそらく、ひたすらに剣の腕のみを磨き上げてきた純粋な剣士だろうと踏んでいたのだ。
正直なところ通常攻撃しか使えない人相手に技ガンガンぶっ放すってどうなんだろうな、とはフェイトもやる前にちょっと思ったけども。
でもこれ実戦形式だし。お互い持っている力のすべてを使ってやりましょうって言っちゃったし。……そもそも本気出した彼女だったら、こっちが遠慮なく技使ってようやく互角ぐらいだと思うし。
この間のように技出そうとした際の隙を狙ってやられるかもしれない、というデメリットも当然あるわけだし。
という事で、隙の少ない技中心に攻撃を織り交ぜ、フェイトが遠慮なく本気を出してみた結果。
押されに押されまくったレナスは、ようやく本気を出さざるを得なくなり。
いい感じの勝負ができていると、フェイトが思ってからしばらく後。
フェイトは破壊の力『ディストラクション』を使うと見せかけてからの、軽く飛んで上から衝撃破を叩きつける技、『バーティカルエアレイド』でレナスの体勢を崩し。
そこから繋げて、ふいを狙った横蹴り技、『リフレクトストライフ』を発動。
(──もらった!)
その直前まで、レナスの頭は確かにそこにあったのだ。
さすがの運動神経を持つ彼女もこれは絶対に避けられないだろうと、フェイトが勝ちを確信したところで、どういうわけか視界が急にぼやけ。
フェイトの蹴りは、力なく虚空を泳いだのみ。
(……なんだ? どうして──)
どさっと地面に崩れ落ち。薄れゆく視界の中。
倒れたフェイトを上から覗き込むレナスの顔には、はっきり苦々しい表情が浮かんでいたのだ。
つまり──
しまったついうっかり、みたいな感じのやつが。
(……。それで、今のは一体なんだったんですかね)
現実世界に意識が戻ってすぐ、フェイトは疑惑の目でまだ寝ているレナスを見たのである。
「お疲れさまー」
「負けちゃったねフェイト。本気出したのに」
「……あいつマジやべえな。今の本当に人間の動きか?」
「やっぱり神様ってすごいんだな。あんなすごい戦いが見れるなんて」
外から戦闘の様子を眺めていた面々が口々に言う中。
レナスが起きたらすぐに先ほどの事を問いただそうとしたものの、
「よーし! それじゃあ、次は僕の番だな!」
と興奮した様子のクロードが、とっとと円卓上のホムンクルスに自分の意識を向け。嬉々としてバトルフィールド上に登場。
レナスの方も断れなかったらしく、そのまま二戦目に突入。
とりあえず二人の戦闘中に、さっきの戦闘を見ていたみんなに自分が負けた理由を聞いてみたところ。
「よく分からないけど気がついたらフェイトが倒れてた」が二人。
「あれは無理だ。俺でも避けれん」が一人。
どうやらクラウストロ星人も真っ青なとてつもない運動能力を、土壇場でレナスに発揮されたという事らしい。
(……それであんな顔を? まさか、あっちの方がレナスさんの本当の本気ってわけじゃ)
今の今まで全部手を抜いてた結果がアレなんてそんな馬鹿なと、思いつつ。
でもこの人ならそういう事平気でしでかしてても不思議じゃないのかもしれないとも、ちょっと納得しかけつつ。
(いやでも。待てよ。それじゃあサディケルに操られていた時のアレは、一体どういう事なんだ? あの時も実は手を抜いていたっていうのは……何かおかしいような)
円卓上の二人の戦いぶりを見つつ、フェイトが首をかしげて考えていたところ。
「あれ、どうしたのかな?」
「いったん休憩しよう……って感じじゃあないわよね」
クロードが至近距離で放ったはずの、足元の地面からいくつもの鋭い岩塊を突出させて敵を攻撃する技『爆裂破』を、驚くべき事にレナスがまったくの無傷で受けた直後。
急に構えていた剣を下ろし、クロードに向かって何か話しかけたのだ。
クロードの方は言われた事にも、突然剣を下げられた事にも納得していない様子で、レナスに何か言い返している。
声が小さくて聞き取りづらいが、二人の様子からするとどうやらレナスが急に戦闘を諦めたらしい。
「レナスさんが言ってる事はよく分からないですけど……。こんな終わり方、納得いきません。現実世界なら僕が勝っていたとしても、僕はレナスさんと最後まで戦いたいです」
結局はクロードの熱意に負けたのか、レナスの方もいったん下げた剣を再び構え、また戦闘を再開。
戦闘後、やっぱりレナスより先に起きてきたクロードは
「いやあ強かったなレナスさん。本当に、すごく強かった。僕もまだまだだなって、本当にそう思うよ」
と開口一番嬉しそうに感想を述べ。
反対にしばらくしてから起きたレナスは、自分が勝ったはずなのに、この戦闘結果に納得がいっていない様子。
「ありがとうございますレナスさん。いい勉強になりました。……それで、この勝負も私の負けって、さっきのは一体どういう意味だったんですか?」
クロードが改めて不思議そうに聞いたところで。一連のレナスの、不可解な戦闘能力についての事がようやくフェイトにも分かったのだった。
「つまりあれか。お前のマジの全力は本来あっちの方だと」
「なんかよくわからないですけど、レナスさんはやっぱりすっごい神様だったっていう事なんですかね?」
「今使えないはずの技も使えちゃうっていうのは分かるけど……。やっぱり神様ともなると、さすがにスケールがでかいのねえ。私なんかついうっかりネーデ防衛軍にミサイル頼むくらいだわ」
「つまりあれか。今までのはやっぱノーカンって事でいいんだな?」
いわく、円卓上の中で自分の精神は、何者かにとられて今は使えないはずの様々な「力」も問題なく使えると錯覚しているらしいと。
現実世界じゃどう頑張っても使えないのに、この中でだけ、特に意識もしてないのに、自分の世界で“創造神”やってた頃と同じような感覚で普通に使えちゃうと。
それで、これじゃ鍛錬の意味全くないから、それらの「力」は使わないよう、今の自分をイメージしてフェイトやクロードと戦っていたはずなのに。
まあ普段慣れ親しんでいる「力」なものだから、意識的に「力」を制御しつつ、なおかつ本気で戦うっていうのがちょっと難しくて。
結局どっちの戦闘でも追い詰められた瞬間うっかり本気になりすぎて、「力」を使ってしまったと。
レナスの話はそういう事だった。
ようするにフェイトの「レナスさん実は手抜いてた」疑惑は、半分くらいは当たっていたのだ。
(……。そういえば、レナスさん自分でちゃんと言ってたんだよな。今は神様っぽい「力」大体全部使えないって)
特殊技とか一切使ってこないから。
てっきり彼女は技に頼らず、通常攻撃のみを限界まで鍛えている人だと思っていたのに。
たぶん実際のところは、本来の彼女はそれ以外にも技をちゃんと持っていて。それが神様っぽい「力」を使った技なものだから、「力」がなくなった今は技も使う事ができないとか、そういう事なのだろう。
つまり彼女は、俗に言う『通常攻撃縛り』を強制されているだけだったと。
フェイトの知っている『とても強いレナスさん』は、すでに思いきり弱体化を食らった後の状態だったと。
ものすごく苦戦したのに。
技とか遠慮なく使って、ようやく互角になれるくらいかなって思ってたのに。
(……。元より弱くなっててアレって。そんな馬鹿な)
あまりの事実にフェイトの理解がおいついてない中。
同じく信じられないといった様子で言葉を返せないでいるクロードに、レナスはどことなくふてくされた様子で言う。
「これで分かったでしょう? フェイトの時も、クロードの時も。私は二人に勝ってなんかいない。あれがこの円卓上で起きた出来事でなければ、致命傷を負っていたのは私の方だわ」
フェイトの時はとっさに、自身の身体能力を増大させ。クロードの時はとっさに、自分の身を守る障壁を展開してしまったのだと言う。
今使えないはずの「力」で戦局を変えてしまったのだから、現実世界だったら私の負けという彼女の主張は正しいのだろうが。だがしかし。
クロードもフェイトと同じ事を思ったのだろう。レナスの言い分を最後まで聞いてから、きっぱりと口に出した。
「言いたい事は分かりました。やっぱり、今の勝負はレナスさんの勝ちです」
「……。なぜ?」
「いくらレナスさんにそう言われても、僕が負けたと思った事には変わらないからですよ」
レナスはやはり納得いかない様子。
クロードの後を引き継いで、フェイトも言った。
「これは十賢者達を倒すための鍛錬なんですよね? 今は使えないはずの「力」を使わないようにしてたのに、っていうのはあくまでもレナスさんの側の理屈であって、僕達の理屈じゃないですから」
とまあ目の前のレナスにはそれらしい事を言い聞かせているが。実際のところはなんという事はない、フェイトの方もただ単に納得できなかっただけである。
本当は一切使わずに勝つつもりだったけど、使っちゃったから自分の負け。
今彼女が言ったのはようするにそういう事であろう。
「今のレナスさんの戦闘能力がどうだろうと、目の前の敵の戦闘能力に対応できなかった時点で僕達が負けなんです」
意識的に手加減されて「あなたの勝ち」と認められたところで、こっちだって全然嬉しくない。
そりゃどうせ彼女が内心で思っている通りに、自分の方が格下なのだろうけど。神様っぽい「力」とられる前だかの、言うなれば全盛期の彼女になんか勝てる気は全然しないけど。
フェイトにだってプライドってものはあるのだ。
相手の一方的な負け宣言による勝利は勝利にあらず。
さっきは一瞬本気出されただけで、よく分からず終わっちゃったけど。本来ならあれくらい強かったというのなら、その全力状態の彼女を倒してこそ本当の勝利ではないか。
ちょっとやそっとじゃ越えられそうにない目標を目の当たりにして、むしろ気合が入った様子のクロードとフェイトを前に、
「なるほど。じゃあやっぱり、ネーデの技術使用もアリという事で」
「だからノーカンだっつうの」
不正をごまかしたつもりのチサトに一応つっこんでから、こっちはこっちでやっぱり勝ちを譲られたくない様子のレナスにも聞こえるように、
「そもそも、鍛錬に勝ちも負けもねえだろうが」
とクリフがまとめ、さらにつけ加える。
「つかもっと言うなら、お前のその「力」、俺らにとっては非常にいい鍛錬になりそうなんだがな。お前の「力」を奪ってった、ふざけた野郎の予習も含めてっつう意味で」
「……それは」
「そうか、それもそうですよね」
レナスも一応そういう使い道がある事には気づいていたらしい様子だ。
クロード達も納得する中、言い渋るレナスにクリフがさらに言う。
「なんだよ、十賢者はそもそもお前から奪った「力」で生き返ったんだろ? 普通に考えりゃ、そいつが今もお前の「力」を持ってるって事じゃねえか」
そいつが持っているであろう「力」はレナスにとってはよく知っている「力」でも、フェイト達にとっては全く未知のものなのだ。
口で説明されるより実際に目の前で使ってもらった方が分かりやすいわけだし。
「俺らの敵は十賢者だけじゃねえんだ。いざそいつとも戦うってなった時に、お前の「力」の事を事前に知っとくのと知らないのとじゃえらい違いだぜ」
フェイト達はそれを見て実際に受ける事で、それを使うだろう敵への対策を立てる事ができる。十賢者達を倒すための鍛錬という意味でも、むしろ『パラケルススの円卓』の中ではレナスに思いっきり「力」を使ってもらった方がいいのだ。
「って事でだ。お前は次から、一切手抜きナシな。一方的な蹂躙でもなんでもいい、全力で俺らに手のうち見せまくれ」
しかしレナスは、自分でもそうする事の重要性を理解しているだろうに、それはそれで気が進まない様子。
「……ある程度、「力」を使うのは構わないわ。だけど、だからといってみんなと全力で戦うというのは」
とかなんとか困った感じで考えつつ言っていると、
「大人げねえなあお前も。自分だけ鍛錬にならねえからって、んなマジでへそ曲げる事ねえだろ」
「そういう事ではないわ。ただ──」
「ただ?」
「……だから、私はそこまでする必要はないと」
かちんときたらしくクリフに即座に言い返してからまた言葉に詰まった辺り、個人的にへそ曲げてない事も全くなくはないけども、それでも気が進まない主な理由は別にあるらしい。
「レナスさん、お願いできませんか? 全力のレナスさんがどれだけ強くても構いません。僕達、敵の強さをちゃんと知っておきたいんです」
「私もお願い。ほら、心の準備があるのとないのとじゃ、やっぱ結構違うと思うし」
「それに僕達だって、そこまでやられっぱなしになるつもりはありませんからね」
クロードやらチサトやらに真面目にお願いされ、フェイトにもそんな事を言われ。
結局はレナスも要望通りに“全力”で戦ってみる事にしたのである。
「……。確かに、最悪の場合を想定しておくのも大事な事よね」
それでもなお思いきりがつかない感じで呟かれた不穏な言葉の真意には、この時点でフェイト達の誰も気づけず。むしろ気づいてなかったからこそ、フェイト辺りはすごく強い人に存分に挑戦できてラッキーくらいの気持ちだったのだ。
次はもうちょっと粘ってみせる。
それじゃあ最初は誰が相手に、いやソフィア辺りは術師だし一人じゃ勝負にならないから二、三人ずつまとめてかかっても大丈夫なんじゃないか彼女なら、などとさっそくみんなで順番の相談をしているところで、レナスが言い。
「私以外のみんなでいいわ」
以下レナスの言葉通り、この場にいる五人全員でいっぺんに“全力”の彼女と戦ってみた結果がつまり──
バトルフィールド全体にできあがった見事な隕石衝突跡である。
☆☆☆
「今のはあくまでも最悪の場合よ。おそらくだけど、実際の相手は今の私のようには「力」を使ってこないと思う」
自分を含めた会議室内の沈んだ空気に耐えかねたらしい。
咳払いしてから気休めのような事を言いだしたのは、こんなヤバすぎる「力」を大体全部とられちゃった張本人のレナスである。
いわく、「力」は持っているだけでは意味がない。
何より必要なのはそれに関する知識と本人の力量、感覚で、今くらいに「力」を自在に操るにはそれ相応の実力がいるはずだ。
説明は省くが、自分の場合は少々特別なので例外として。
それに自分にとっては慣れ親しんだ自分の「力」であっても、相手にとってはそれまで全く他者の「力」であったはず。
いきなり手に入れた他者の「力」を当人と同等、もしくはそれ以上に自在に扱う事などできるのだろうか?
確かに最低限、十賢者を創っただけの実力はあるのだろうが、今までのエクスペルの状況を考えると……
もしくは使えないのではなく、単に使う気がないだけなのかもしれないが、とにかく相手がそこまで優れた実力を有しているとは思えない。
だから最悪の場合を想定しておくのも大事なんだけど、みんながそれを気にしすぎてはだめ。
みんなだって十分強いんだから、それぞれが連携をしっかり意識して戦えば勝てない相手じゃないはず。
私もちゃんとこれからも協力するから、もしもの時のためにさっき見せてなかった「力」とかもいっぱい使っていくから、諦めないで地道に鍛錬していこう? 頑張ろう? ……。
さっき“全力”を出す事を渋っていたのはつまり、みんなの心をべっきべきに折ってしまうかもしれないという事だったらしい。
危惧した通りのみんなの暗い表情が薄れるまで、あと周りの空気につられて深刻になりかけている自分自身も励ますように、レナスは一生懸命そんな感じの言葉を続けたのだった。
レナスさんの強さ設定についての補足
・「力」をとられた今の状態
特殊技は一切使用不可能。長年戦い続けてこつこつ積み重ねてきたとてつもない数の戦闘経験と、人間離れした素の身体能力は大体そのまま。基本的にはこれでもヤバいくらいに強いが、いかんせん通常攻撃しか使えないので状況次第で負ける時もある。
あくまで普通の人間っぽくなってしまっただけで、まるっきり人間かっていうと……
・とられる前
レナスマジ創造神。頭おかしい強さ。もしかしなくてもラスボスより強い。
……正直レナスさんの強さ設定については作者も妥当な落としどころが分からずかなり迷ったのですが、あまり弱くしすぎても「レナスさん長く生きててしかも元戦女神なのに十九歳達と強ささほど変わらないとか逆に今まで何やってたの?」って感じになっちゃうので結果こうなりました。
他キャラが好きな方、レナスさん贔屓な作者で素直にごめんなさい。