『パラケルススの円卓』にて、初めて“創造神レナス”の「力」を目の当たりにした直後は全員、さすがにショックを受けていたものの。
なんやかんやの末、実際はここまでじゃないと思う、でもやっぱり可能性はないとも言い切れないわけで、実際の相手がどこまで使いこなせているかも分からないし、だからこそもしもの事があってもみんな対応できるように鍛錬していく事が大切だ。
……というレナスの言葉を、各自信じてみる事にしたらしい。
クリフなどはぶっちゃけ(またぞろ周りの空気に流されただけなのかもしれないが)自分でもちょっと自信なくなっちゃってるような奴の気休めを、手放しで受け入れられるほど楽観的ではないつもりなので、
「お前それ、本当にそう思ってんだろうな?」
と念を押してみた結果。
レナスいわく、
「使いこなされていたらエクスペルはとっくに崩壊しているはずよ。それこそ私の「力」を奪ったその日か、その次の日にでも」
まあ確かに宇宙征服、崩壊を企んでいた『十賢者』を創ったという事から考えても、レナスの「力」を奪った存在は、世界に対してなんらかの害意を持っていると考えてまず間違いないわけだ。
他の理由だって考えられる。崩壊ではなく征服目的だから破壊活動に使用する気はないなど、何らかの理由であえて使っていないだけかもしれない。所詮推測の域を出ていないと、言ってしまえばそれまでなのだろうが。
「ひと月もの間、私達が相手の事に気づく事すらなく旅をしていたというのは、たぶんそういう事なんだと思う」
今までエクスペルに災害らしい災害も起きていないっぽいから大丈夫だろうというレナスの言い分については、一応クリフも納得できた。
だがしかし、
「マジに本気出したら一瞬で惑星蒸発できるってか」
マジかお前。マジか。それはマジで言ってんのか。
できる事なら耳を疑いたくなるような事実を、レナスはやっぱりマジとしか思えない真剣な表情で話し、
「創造の「力」は方向を変えただけで、簡単に破壊の「力」にもなるわ。どころか物質の存在構成も力の加減も一切考えなくていい分、考えようによっては物質化より扱いやすい「力」かもしれないわね」
「つまりレナスさんにとっては比較的やりやすそうな惑星破壊もされてないから、たぶん大体は大丈夫だろうと」
「ええ。私はそう考えているわ」
ドン引きしながら確認をとったフェイトにもマジに答えたのである。
本当にやる気出したらいけるという事らしい。
「……うわあ。見事に想像の上をいっちゃった神様像だわ」
「やっぱり神様、なんだよなレナスさん。分かってたつもりなんだけど、こういう事聞くと改めて驚くしかないよな……」
素直に驚いているチサトやらクロードやらをよそに、ぶっちゃけ自称創造神の言う事を一部除いてほとんど信じてなかったクリフの内心は
(待て待て、エクスキューショナーの進化系か何かかこいつは)
って感じだったのだが。
そんな馬鹿な話があるか。それじゃあ本当にこいつは、絵に描いたような神様みたいなもんではないか。
頭から否定したくもなったが。
ついさっき瞬殺された時の事を思い返してみれば、恐ろしい事にアレでもレナスの方は、本当に全力中の全力を出していたわけでもなかったという事だけは……クリフも素人じゃないだけに、嫌というほど理解できてしまうわけで。
それに最悪の場合を想定するのなら、例えレナスが大げさに言っているのだとしてもそれを含めて信じておくべきなのだろう。
結局クリフも疑いを口に出したりはせず、レナスの気休めになるようであまりならない推測を信じておく事にしたのだった。
ことこういう状況に至って、こいつがどれだけ人間の範疇からかけ離れているかなんて細かい事を気にしたってしょうがない。肝心なのはこいつが言うようなもしもの最悪の事態に備えて、せいぜい腕を磨いておく事なのだ。
こっちもどうせ敵わないだろうからって、やれる事もやらずに腐るつもりはないわけだし。
☆☆☆
ぶっちゃけ十賢者の強さ前と変わらないらしいし。しかもフェイト達未来人の実力も、実際にそいつら倒した事のあるクロードやチサトに劣っているわけでもないし、と。
そんなこんな今までは戦いの勘が鈍らない程度に、っていうか遊び半分でやっていた対戦ゲームだったが。
真面目に「創造神の力」対策授業をやるとなると話は別だ。
フェイト達と一緒に鍛錬に加わるべきマリアが(できる事ならミラージュも)いなかった事もあって、その日はそのまま対戦終了。
イメージトレーニングも延々やり続けられるものではない。
使用しているアイテムの性質上、長時間精神が抜けたままの状態だと本体に影響がでてくるという話も聞いた事があるし、やりすぎるとお勉強で頭が疲れるのと似たような感覚というか、とにかく精神面での疲労というものが出てくるのだ。
そもそも実際に体を動かせる場所を探していたはずのレナスは、ここでようやくトレーニングルームの場所を教えてもらい。
なんだかんだで若さゆえの切り替えの早さという事か、最終的にはいい方向に刺激されたらしいクロードやフェイト、チサトとも一緒に会議室を出ていった。
見送ったクリフはというと、全く刺激されなかったわけではなかったのだが。
まああそこはそんな広い場所でもないし。ていうか正直全員連れだってトレーニングルーム行くのに抵抗があったのである。女子のトイレじゃあるまいし。
あいつら終わってからにするか、とぼんやり考えつつ。
一通りくつろいだクリフも結局その日は、これまた真面目に紋章術理論の本を読み始めたソフィアの邪魔にならないよう、諦めて仕事場に戻る事にしたのだった。
移動のついでに、艦内放送で呼びつけるほどの用事でもないし、明日からの予定を伝えておこうとマリアの姿も探したのだが。
ようやく見つけた時には「ええ分かってる。フェイト達から聞いたわ」との事。探されるまでもなくさっきその辺で偶然ばったり会ったらしい。
おっさんひとりで狭い艦内だなちくしょうなどと若干虚しい気分になりつつも、今度こそ観念して仕事場に向かい、
「珍しいですね。クリフが自分から細事を片付けにくるなんて」
とか言ってきたミラージュにも、「お前も明日から、任せられる仕事は他のやつに任せとけ」と手が空いたら例の対策授業に参加するよう説明して、ぼちぼち真面目に作業記録や通信記録等の目録に目を通すなどして時間潰し。
真面目に仕事中とはいっても……しょせんここは元の時代の刻一刻と変化する情勢も何も関係ない、過去の時代である。
外交相手やら何やらとの通信システムが軒並み遮断されている状況で、一組織のリーダーとしてやれる事なんかたかが知れてるわけであり、よって正直ヒマである。
ヒマすぎて個人モニター覗いてる途中に、せっかくだからさっき気になった事を確かめてみようと『惑星ミッドガルド』で検索をかけてみたところ。
ブブーという音とともに、開いたウィンドウが勝手に閉じた。
「……おいミラージュ」
「やはり一番にひっかかるのはクリフでしたか。フェイトさんの言った通りになりましたね」
やはりミラージュの仕業らしい。
注意喚起から一日足らずで、他と独立している艦長席のシステムにまで限定的な情報制限プログラムを仕込むとは、さすがの仕事の早さである。
「お前なー、ここのボスは俺だぜ? なにフェイトの言いなりになってんだよ」
「言いなりだったら今頃クリフの個人モニターは物理的に壊れています。検索時の挙動をシステム強制終了にしなかった事を感謝してほしいくらいですね」
正直クリフの席が艦長席じゃなかったらやっていたという事か。ミラージュなら本当にためらいなくやりそうだから困る。
純粋な興味だけでこっそり情報を覗こうとした事含めて何も言い返せなくなったクリフに、ミラージュは自分の作業を続けつつ聞く。
「彼女の事を調べようとしたのですか?」
「ん、ああ、まあな。少なくとも昨日見た惑星概要のトコには、やる気出したら惑星まるごとふっ飛ばせる奴がいたなんて事は一言も書いてなかったからな」
クリフが見た概要にあったのは、まず先進惑星だという事。
それから惑星の規模、総人口等の数字の羅列に続き、政治形態は民主制であり、現在の代表者の名前はうんぬん……。で、最後備考の欄は空白。
ようはよそ様に向けて特筆するような事は何もない、至って普通の先進惑星だという事だ。
昨日はなんとも思わず流し読みしたが。今改めて考えると、あれは不自然なほどに『ごく普通の先進惑星』だったのではないだろうかと思ったのだ。
いくら何百年も昔の人物だろうと、あんなヤバい奴がいたら普通は備考の欄に名前くらいは載っている。
そんなのいちいち特筆する必要もないくらい当たり前、っていうくらいにミッドガルド星人全員が途方もない「力」を持ってるなんて話は聞いた事もない。大体そんなトンデモ種族がいたらクリフだって『ミッドガルド』の名前くらい、レナスに会う前からちゃんと覚えている。
なによりレナス本人が簡単に人々から忘れ去られるような一民間人などではなく、周りから『創造神』などという御大層な呼ばれ方をされ、大勢の配下もいるという身の上だったのだ。
アレは間違いなくレナス個人だけが持つとんでもなさと考えていいだろう。
にもかかわらず、あのあっさりとした記述内容は一体どういうわけなのか。
ただ単に一番目立つ場所に書かれていなかっただけで、もう少し詳しく調べればすぐに出てくる名前、という事だったのかもしれないが──
(なんかこう、ひっかかんだよなあ。きな臭えとまではいかねえが、うさんくせえっつうか白々しいつうか)
なおも首をひねるクリフに、ミラージュはごく冷静に私見を述べる。
「彼女が神様だというのは、本当なのかもしれませんね」
「……んな非科学的な。あいつはただ単に、むちゃくちゃ強えだけの人間であってだな」
「そう考えるのが一番自然では? 普通の人間ではありえない能力の数々を、クリフは今しがた目にしてしまったのでしょう?」
意地でも認めようとしないクリフを面白がってすらいるような口調である。
「転送装置が使えなかった事もそれなら簡単に説明がつきます。つまり神様である彼女の存在は私達人間の持つ機械技術では到底捉えきれない、極めて特殊な構造をしている、と」
うーむと唸るクリフに、ミラージュはさらに冷静に話し続け、
「いずれにせよクリフが昨日調べた惑星概要に彼女の名前がなかったという事は、彼女の存在は世に出てはいけないものだったのでしょう。あるいは彼女自身が、歴史に名を残さないようにしていたのか」
「……」
「偶然に知った過去の時代の、人の身に過ぎたる「力」を必要以上に探る事は、私達未来の人間にとっても好ましい事とはあまり思えません。クリフがこれをきっかけに、現代の交渉相手と対等以上に渡り合える切り札を手に入れたいと言うのなら止めはしませんが──」
「バカ言え。俺がそんなコスい手に頼るかよ」
「ええ、分かっています。ですから私達も、あなたに安心して行き先を委ねられるのですよ」
最終的にはこの結論誘導である。
もとからクリフも多少の不自然さが気になっただけで、そこまでの必要性があると踏んで『ミッドガルド』を調べようとしたわけではないのだ。
自分でレナスの事を必要以上に調べない事を宣言してしまった以上はもう、自身にかけられてしまった情報制限についても納得するしかない。
昨日もうちょっとよく調べておけばよかったぜとか思いつつ。
結局ミラージュにこの先どうしても調べる必要が出てきたと感じた時には、その都度、自己判断で必要な箇所だけを調べるよう命令し、自分はおとなしく形ばかりの仕事消化に戻る事にしたのだった。
☆☆☆
夜まで適度に時間を潰した後。
予定通りトレーニングルームに行く前に、通りかかった会議室にちらと寄ってみたところ、先ほど出ていった連中も一人を除いてここに戻っていた模様。
ソフィアは相変わらず真剣に紋章術の勉強をしていて。
フェイトとクロードは『パラケルススの円卓』上で対戦の真っ最中。
「一人足りねえな。あいつは?」
「うんー……レナスならもうちょっと残ってるって言ってたわよ。ご飯の後だったから、もう二時間くらいは前の話だけど」
武器の手入れ中という事らしく名刺を一枚一枚丁寧に研いでいるチサトに聞いてみたところ、そんな答えが返ってきた。
こいつら出ていってから大分時間も経ったし、それからさらに二時間も前の事ならたぶんもう自室にでも帰ったのだろうとてきとーに考えつつ、
「別に今日明日で十賢者達との決戦ってわけじゃねえんだ。お前ら、急に張り切るのもいいが程々にしとけよな」
と一応声をかけてから会議室を後にして、トレーニングルームに行った結果。
「お前なあ。張り切るのもいいが、程々にしとけよな。じゃねえと……」
「言われなくても、明日に疲れを残すような愚は犯さないわ。明日からの模擬戦闘には私の精神上での知識が必要不可欠。みんなの役に立つには私がしっかりしていなければならないのに、私がそんな事も分からず無理をすると思う?」
「やりかねねえから言ってんだよ、お前なら」
まさかとは思ったが、そのまさかの極端な奴がここにもいたようである。
フェイト達二人と対戦して理想的な勝ち方ができなかったのがよほど悔しかったのか。
あれはどうせ「力」を使わない事を重視するあまり、本来普通にできる動きさえできてなかった、というだけのオチだったはずだろうに。
呆れるクリフを尻目にレナスは一人、鞘から刀身が飛び出ないよう紐で縛った剣を手に、様々な剣術の型をひたすら繰り出しつつ言う。
「私が普段どれだけ「力」に頼っていたか、今日はっきり分かったわ。それだけじゃない。剣の腕も戦いの勘も、何もかも単純に鈍っているのよ」
とかなんとか、レナス本人はものすごく真剣に焦りを感じているようなのだが。
とりあえず現在クリフが見ている限りでは、レナスの動きはとてもじゃないが長時間トレーニングルームにいる奴の動きには見えないわけだし、それだけ体動かし続けてほんの少し疲れの色が見えている程度の奴に「腕が鈍った」とか言われても困るというのが正直な感想である。
「ただでさえ最近は、ろくに体も動かしていなかったから……」
なんというか、ろくに体を動かしていなかった結果がそれかよと。
それじゃお前以上に休みなしに体動かし続けてるつもりでお前以下の奴全員どうすんだよと。
「これから少しでもまともに動けるようになっておかないと、とにかく「力」に頼らない動きを体に叩き込んでおかないと、今の私では、みんなの足手まといになってしまう……」
せめてレナスが今言った「最近」というのが、ここディプロに乗ってから二、三週間の事だと信じたいところである。
……まあ今の様子見る限りではどうせ、行きの時は部屋でずっと何もせずじっとしていた、ってわけでもなさそうだが。
(いやはやあれだけ盛大に引きこもっといて、やる事はしっかりやってたとはな。真面目ここに極まれりっつうか……心配するだけ無駄だった、つう事かねえ)
そもそもレナスに人間の体の常識を当てはめて考えるという事が間違いだとまたしても忘れているクリフは、足手まといどころか、現状でも十分主戦力レベルなレナスの剣術練武を一通り眺めてから、
「とりあえず飯は。ちゃんと食ったのかよ」
「ええ。みんなと食堂に行ってきたわ」
「んじゃもう部屋帰って風呂入ってとっとと寝ろ。明日は遅刻すんなよ」
と命令口調で言い。
レナスが口答えするより早く、
「俺が使いてえんだよ、この場所を。お前はもう十分すぎるほどに使ったんだろうが。あとは明日にしろ明日に。一日だけやる気出したってしょうがねえんだから」
そう理由をつけ、別に一人くらい先客がいたからってそこまで邪魔になるわけじゃないトレーニングルームから、レナスを半ば無理やりに追い出した。
☆★☆
翌日からは予定通りマリアとミラージュも加わっての、“創造神レナス”による、神様っぽい「力」対策授業の開始である。
実戦に入る前に、昨日の段階では手のうち全部を見せていなかったという事もあり、レナスがみんなの前で説明しつつ、思いつく限りの一通りの「力」を実演していった。
いわく、『物質化』とは名の通り、行使者がイメージした『存在』をこうして手にとれる形にして実体化させる「力」である。
『存在』を実体化できる条件は主に、行使者が元からその存在自体の霊体を有している事、もしくはその存在に関するありとあらゆる存在構成を理解している事などがあげられると。
「霊体? を持っているって、つまり……どういう事ですか?」
「どう言えばいいのかしら。無から創り出すのではなく、目に見えない形ではあるけれど、すでに存在しているものに実体を与えるという事よ」
それでもいまいち分かっていない様子のフェイト達に、レナスは例の浮遊盾をぽんと出現させ、説明を続ける。
「例えば、この盾。みんなからすれば、この盾は今一瞬でみんなの前に現れたのかもしれない。でもこれは、こうやって実体化しなくても、私の中にはすでにあるものとして認識されているの」
「認識……?」
「普段霊体として持ち歩いているものを、必要に応じて実体化してみせただけ、と言った方が分かりやすいかしら」
「えーとつまり、レナスさんは最初からその盾を持っていたんですか。あくまでも僕達の目に見えてなかっただけで」
「ええ。私もすべてのものを、いちいち最初から創り出しているわけではないの。すでにあるものを実体化するだけだから、完全な無から創るより、遥かに単純で手間がかからない方法だと考えて構わないわ。……こうやって霊体化する時も」
言ってレナスは、出現させた盾をふわっと消してみせた。
今の説明からすると、ようするに『霊体化』というのは『物質化』の反対、物体を目に見えない形にする「力」と考えていいものなのだろう。
話を聞いていたマリアが何か思いついたらしく、レナスに聞く。
「無から創るより、遥かに単純で手間がかからない……。ねえ、という事は、もしかしたら十賢者も」
「可能性はあるわ。私の世界も、みんなの世界の一部分でしかなかったという事は……当然存在構成のしくみについても、私の世界と同じ理が働いていても不思議じゃない」
とレナスは言う。
「クロード達が倒した十賢者はあくまで肉体を失っただけで、その後も転生せず、幽体の状態でエクスペルに存在し続けていたのかもしれない。だとしたら」
「元凶は十賢者をゼロから創ったんじゃなくて、その辺に浮かんでた十賢者の幽霊てきとーに拾ってきただけ、ってか?」
まとめてみたクリフにもレナスは「ええ」と浮かない顔で頷いた後、
「それどころか──」
と若干口にするのを迷った様子で、こんなとんでもない事まで言いだした。
「私の「力」を奪い彼らの肉体を創ったのが、当の十賢者自身だった可能性もあるわ」
「……」
一同しばし無言である。
ようやく理解が追いついて「十賢者が、自分で自分を?」「んな無茶な」とざわざわする中、
「できなくはないのね? 自分で自分の肉体を創るのも」
「さっき言った通りよ。すでに存在するものに形を与えるのは、無から創るより遥かに単純な事だと」
マリアの質問に答えたレナスは、
「もちろん盾のような単なる無機物と肉体は、同列には考えられない。その存在構成が複雑であればあるほど、霊体化や物質化も同様に複雑になっていくものだけど──」
そう言うと目を閉じ、みんなの目の前でふわっと自分自身の姿を消してみせたのだ。
「レ、レナスさんが、いなくなっちゃった!」
消えたレナスはソフィアの驚きとともにまた姿を現し、
「私は私自身の存在構成をはっきり理解しているから。存在が霊体化していようと、行使者に知識と自我があれば、物質化で肉体は創り出せる」
と眉を寄せつつ、言葉を続ける。
「だから……何らかの理由で自我が残っていた十賢者自身が私を呼び寄せ、私の「力」を奪って、自らの肉体を得た可能性もあるわ」
つい当時の事を思い出してしまったらしい。
レナスは途中でため息をついて頭を振った。
「この世界を壊すために。私にあの“声”を聞かせたのも、全部……」
「だとしたら、本当に許せない奴らだな。絶対に倒さないと」
すんなり納得したらしく憤るクロードに、異を唱えたのはクリフだ。
「ちょっと待てよ。元凶がそもそも十賢者って、そりゃいくらなんでも無理がねえか?」
「なんでですか? あいつらなら悪霊になっててもおかしくない。レナスさんを卑劣な罠にかけたのだって、いかにもあいつらがやりそうな手口じゃないか」
「その辺に関してはよく知らねえが。十賢者が元凶なら、あのクソふざけたメッセージはなんなんだっつうな。あれも十賢者がよくやる手口なのか?」
「……。それは」
「やんのか? 十賢者が、わざわざモールス信号で『宇宙マジヤバい』を」
ごもっともな疑問を投げられ、クロードは言葉に詰まった。
チサトも真面目に首をひねって答える。
「……うーん。やらないんじゃないかしら、十賢者は。『貴様らの世界滅ぼしてやるから首を洗って待っていろフハハハハ』、みたいなのならありそうだけど」
それでも十賢者が全部悪い説をなかなか捨てきれないらしい、クロードが
「いやでも。あいつらならもしかしたら、そういう嫌ないたずらまでやるかもしれないし」
と頑張る中。
「ええ分かってる。これはあくまでも可能性の話よ。元凶は別に存在していて、十賢者は本当にその者に創られただけだったのかもしれない」
言い出したレナスも、あっさりクリフの疑問に同意した。
「私が言いたかったのは……元凶が何者か分からない以上は、今現在私の「力」を持っている存在が誰であっても不思議ではないという事。だから」
「一度倒した奴が相手でも気を抜かないように、ってか」
「まあそんなところね。例えば以前は格下だった相手が、一人で武器も持たずにいるからと安心していると。こうやって──」
レナスが前方に手をかざすと、話を聞いていたフェイト達の後ろから手ごろな大きさの槍が急に姿を現し、レナス目がけてすっ飛んできた。
ぎょっと驚く一同の間をすり抜けてきた槍を、レナスはなんなく手に取り、
「今のはあらかじめあちらに配置しておいた霊体状の槍を実体化し、手元に引き寄せた場合ね。こういう風に背後から思わぬ奇襲を受ける可能性もあるから、できる限り注意は怠らない方がいいわ」
そう言った後、
「もっとも十賢者の危険性については私なんかよりクロードやチサトの方がよほど詳しいはずだから、こんな事、今さら私から言う事でもないとは思うけれど」
とまとめてから、再び「力」の説明に戻ったのである。