スター・プロファイル   作:さけとば

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※この作品の戦闘はおまけです


12. 三日ぶり~ひと月ぶりの再会

 クロードやらレナスやら、過去の時代の人間達をこれだけ現代の機械技術に付き合わせておいて今さらという気もするが、居残り組の仲間達は大体が未開惑星人である。

 

 よってこうやって惑星エクスペルに戻ってきた以上は、居残り組の仲間達との合流地点および、これからの活動拠点をこのまま宇宙艦ディプロにする……といったような事は、よほどの事情がない限りしたくはない。 

 

 どっちにしろ転送障害なお発生中の惑星エクスペルでは、転送装置の使用による迅速な移動も不可能だ。

 仲間達と合流した後はそれから先の活動拠点も、いつでもすぐに小型艦に乗り込んで十賢者達がいるであろう現場に向かえるよう、惑星エクスペルの中に設ける。

 

 ……といったような事が、すでに話し合いで決まっていた。

 

 

 具体的な合流方法としては、これからの移動手段である八人乗りと十二人乗り、二隻の小型艦にいったんフェイト達八人が別れて乗り込み。エル大陸とラクール大陸、それぞれの地点で待つ仲間達と合流。

 回収した仲間達とも一緒に、今度は片方の小型艦がもう一方の小型艦のもとに行って、全員が合流を果たすといったような具合だ。

 

 最終的な合流地点は、もろもろの事情でFD世界のブレアに作ってもらった手のひら大の機械『十賢者レーダー』の索敵機能を拡張できる(この機械単独でも十賢者捜索に使えない事はないが、その場合の索敵可能範囲はせいぜい数キロが限度だろうとの事)機器類がすでに揃っていて。

 そしてなにより、もし現地住民達に小型艦を見られてもさほど異物感を抱かれないであろう、エルリアタワーの近く。

 

 つまりはエル大陸の方という事にすんなり決まり。

 次いで各小型艦に乗り込むメンバーも、単純に来た時と一緒でいいという事になった。

 

 

 八人乗りの方はマリアの操縦のもと、ソフィアとクロードの計三人を乗せて、一足早くエル大陸に。

 十二人乗りの方はミラージュが操縦。

 残りのフェイト、クリフ、チサト、レナスを連れ、ラクール大陸リンガの町で待っている居残り組を回収し。それからエル大陸に向かう。

 

 

 ようするに、リンガに向かう組はちょっとした二度手間である。

 ていうか行きと違って乗艦定員に余裕がないわけでもないし、ぶっちゃけこんなの艦を操縦してる人間一人さえいればいいわけだしで、わざわざ勢揃いして迎えに行く事もないのだがまあそれはそれ。

 早く仲間の顔見たい人やら忘れ物取りに行きたい人やらもいるわけだし、どうせこっちもただ艦に乗られてるだけなので別にいいんじゃないかなとフェイトも思う。

 

 ただ一刻も早くレナに会いたいのか、

 

「そっか、そっちの席にも余裕があるんだよね。それなら僕も……」

「ほら早く早く! マリアさんに置いてかれちゃう!」

 

 って途中まで言いだしかけてソフィアに連れてかれたクロードの事は爽やかに見送ったけど。

 

「ああ、じゃあまた後で。あんまり迷惑かけるなよ、ソフィア」

 

「もうフェイトったら、なによ急にお兄さんぶっちゃって。……まあいいや、わたしもう行くね」

 

 なんでか知らないけど朝からすでに疲れてるクリフが「性格悪くねーかお前」みたいな目で見てきたけど気にしない。

 レナスとチサトが後ろの方で

「……。クロードは本当にあれでよかったのかしら」

「まあいいんじゃない? ここで焦らされた分だけ、再会の感動もひとしおって思えば。どうせすぐに会えるでしょ、あの二人も」

 とか言ってた通り、どうせ数時間遅れくらいですぐに会えるんだから。

 

 

 そういえば出発前に仲間がいる場所の確認やら、とにかく「これからそっちに行くから」といったようなやり取りをスムーズにしていた辺り、普通に通信機持ってきちゃったクリフと違って、クロード達の方は出かける前に通信機を居残り組のみんなに渡しておいたようである。

 連絡一切できないせいで、レナ達が待機している場所まで直接出迎えに行かなくちゃいけなくなった原因を作った、クリフとは違って。

 

「だよなー。通信機があれば、レナ達だって僕らがいつ帰ってくるか分かったし、あらかじめリンガの町の外で待っていてもらうとかもできたのに」

 

「っせえな。どうせ待機場所も大体分かってんだからいーんだよ。これ以上文句言うなら置いてくぞ」

 

 という事なので小型艦に乗り込んだフェイト達が向かったのは、ラクール大陸南西にあるリンガの町。

 人目につかない町の外に小型艦を着陸させた後、艦の留守にミラージュを残し、フェイト達四人はさっそくレナ達が待っているであろうボーマン家に向かった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ボーマン家に着いて顔を見せるなり、レナスはレナに叱られた。

 

「ねえレナ。私は今、普通にただいまと言っただけよね? なぜレナは、そんなに私の事を怒って──」

 

「なぜもなにも! 自分の胸に手をあてて考えてみたらどうですか、レナスさん自身がやってきた事を!」

 

 戻ってきたレナスの顔を見た時は、ほっと一安心したような表情までしていたのに。ごく普通に「ただいま」って言われただけでこの怒りよう。

 困惑しつつも言われた通り、胸に手をあてて考えているらしいレナスと同じく。フェイトも一体今のやり取りのどこにレナが怒る要素があったのか、まるで見当がつかないのだが。

 

 まあ久しぶりの光景にエクスペルに帰ってきた実感が湧いてきたので気にしない事にする。どうせまた自分が知らないところで、レナに怒られるような事でもしてきたんだろう、レナスさんが。

 

 後ろの方でチサトとプリシスがひそひそと、

 

「で、なんでレナはあんなに怒ってるわけ?」

「ん? たぶんそれはねー……」 

 

 チサトは「ほー」だの「へえ」だの、意外そうにレナスを見ながらプリシスの内緒話に相槌を打ち、

 

「なるほど。それは確かに問題大アリだわ」

「レナはそういうの、黙ってらんないもんねえ」

 

 最終的になんか納得したチサトは、忘れたハンカチを取りに戻るとかいう、小学生みたいな用事を思い出し自分の部屋に直行。ついでにプリシスも無人君と一緒に、自分の家に置いてある荷物を取りに猛ダッシュ。

 

(あれだけかさばる荷物持っていったのに、本当にかさばるだけだったとは)

 

 とか思いつつ、フェイトがその慌ただしい後ろ姿を見送っていると。

 

 

「ごめんなさいレナ、ちょっといいかしら? その話は後で聞くから。先に済ませておきたい事があるの」

 

 レナスが助けを求めてるつもりだかなんなんだか、こっちもなぜだか自業自得だと言わんばかりに薄ら笑いで静観を決め込んでいたメルティーナと、ひたすら退屈そうなアリューゼの方に目をやった。

 

 真面目そうな雲行きを察したのか、レナが我に返って、レナス達三人の邪魔をしていた事を謝ろうとするが。

 

「あー別に、お構いなく? 今さらこいつと話し合っとく事とかなんもないし」

 

「えっ……そうなんですか? でもレナスさんが」

 

「私がない、っつったらないでいいのよ。そこの心配性の言う事は無視しといていいから」

 

 メルティーナはつれない様子。

 若干諦めた様子でレナスが聞く。

 

「とりたてて言うべき事はないと、そういう事ね」

 

「どうしてもちゃんと報告してほしいっての? しょーがないわねー、じゃあ……やっておかなきゃいけない事は予定通りにやってきました、報告終わり、以上」

 

「……」

 

「なによなんか文句あんの?」

 

「いえ、最善を尽くしてくれたならいいわ。ただ……、本当に誰も連れてきてくれなかったのね」

 

「そりゃそう言ったんだからその通りにするわよ。あんたどうせ問題解決するまで戻れやしないくせに、向こうの状況いちいち確認するだけの連絡係なんかいたって意味ないって」

 

 

 会話の内容からすると、留守中に頼んでいた事柄を一部勝手に却下されてしまったらしい。

 

「……それとも何? この私が、むしろそんなもんない方がマシって判断に至った理由も、一から十までこの場で説明してほしいワケ?」

 

 恨みがましい視線は送りつつ、レナスも「……分かってる。確認しただけよ」と反論しなかった辺り、今さら文句言っても仕方ないと思ったのか、それとも自分でも思い当たる節があるという事なのか。

 レナスはまた別の質問をして、

 

「それじゃあメルティーナ。例の封印もすべて、あなた自身の手で厳重に行なってきたのね?」

 

「それこそ聞くだけアホらしい質問だわ。他に誰がいるってのよ、この世界に。……ま、そういう意味でもヘタな奴連れてこなくてよかったんじゃないの? 向こうの世界側とこっちの世界側、両方ともこの私自らが、いつも以上に腕によりをかけて張ってきたんだから。通り抜けれる奴なんかまずいないわね」

 

「……。そうね、おそらくは大丈夫だと思うけど」

 

「その反応ムカつくわね、マジで」

 

 真剣に考えだしたので、メルティーナに眉をひそめられた。

 自分達の留守中に変な奴が勝手に行き来したりしないよう、帰り道をあえて塞いできたという話らしい。

 メルティーナの方も眉をひそめたものの、今度はこっちが反論できず、

 

「あーはいはい、分かったわよ。仮にあんたが想定してる誰かさんとかに結界を破れられたとして、私だって破られた事自体に気づかない事だけは確実にありえません。どんな離れた場所にいても、破られたと同時に一瞬で分かるようになってます。……で、オーケー?」

 

 というか不本意ながらそういう場合も想定していたのだろう。

 何か不思議な力が込められているらしい、自分の手首に身に着けている紐状のブレスレットを、投げやりにレナスに見せつけ、

 

「つーか向こう側の出口なんか、私の結界なくても普通に交代で見張り立ててるから。そもそも場所神界だから。あんたの現状知らないのに後先考えず全員なぎ倒して来ようとするほど見境なしじゃないでしょ、さすがのあいつも」

 

 さらにたたみかけるように言って、しまいには説教気味にレナスへの報告を終わらせた。

 

「あんたも余計な心配してる頭の余裕があるなら、とっとと「力」取り戻して、とっとと帰る事に専念なさいよまったく」

 

 

 

 そんなやり取りの後。

 結局この事件が解決するまで一切向こうに戻らず、連絡も一切取らない事に決めたレナスは、他のみんなの準備を待っている間に、一人で、一階の店の方にもちらと顔を見せに行った。

 

 店番中のボーマンに自分の仲間二人を含めて数日間世話になった礼を言い。ついでに、もう当分の間はリンガに戻ってくる予定がない事も簡潔に話す。

 

 と、ボーマンが確認のため聞いてきた。

 

「じゃあ、あんたらはそれまで、ここにも一切姿を見せねえつもりなんだな」

 

 レナスはちょっとだけ迷った様子を見せたが、

 

「まあなんだ、絶対戻ってくるとは言いきれんが、もしかしたらって事もあるしな。その『通信機』とやらを置いといてくれれば、俺も連絡係くらいにはなれるつもりだ。それもしなくていいのか?」

 

「……来るかどうかも分からない連絡を、その時が来てくれるまでずっと気にし続けるの?」

 

 ある事への期待を持たせすぎないよう、気遣うように聞いてくるボーマンに対し、レナスは「大丈夫、必要ないわ」と首を振り、

 

「もう決めたの。今度ここに戻って来る時は、「力」を取り戻した時だけって。他の事によそ見はしない。とりあえず今は、ひとつの事だけに集中する」

 

 と迷いを振り切った様子で言う。

 

「私は、同時にたくさんの方向を見れるほど器用じゃないから」

 

 レナスの大真面目な、けれど決して後ろ向きではない決意を、ボーマンは最初ふいをつかれたように聞き。

 それから呆れたように笑った。

 

「そうかそうか、全く、そりゃあの姉ちゃんも苦労させられるわけだ」

 

 真面目すぎるその考え方に思うところはあれど、今度のはまあ悪くもない突っ走り方だと思ったか。結局はボーマンもその意志を尊重する事にしたらしい。

 

「俺としても、それくらいのよそ見は別によそ見でもなんでもねえと思うんだが……あんたがそう決めちまったんなら仕方ねえ。留守は俺に任せときな。あんたはせいぜい愛想つかされねえ程度に、はりきって世界を救って来てくれや」

 

 

 

 そんなこんな連絡なしの帰還ではあるけれど、大体の戻る日だけは前もって伝えていたので、居残り組のレナ達も大体の準備はすでにしていたようだ。

 それほど待たされる事もなく全員の準備が整ったので、さっそくボーマン家を離れる事になった。

 

「ふーん。その十賢者レーダー? っていう機械があれば」

 

「十賢者の居場所が分かるのね」

 

「まあそんなとこかな。そのレーダーも先に持っていってもらってるから、まずは向こうのみんなと合流しないとね」

 

 餞別にいろんな薬草やら薬品やらを特別価格で譲ってもらった後。

 今までお世話になりましたと、八人揃って小型艦に向かうフェイト達を、店の前で見送る側のボーマンの隣にはもう一人。

 ボーマンの妻ニーネである。

 

 フェイトなどはこの時初めて彼女の姿を見たわけであるが。何のお構いもできなかったけどせめてみんなの見送りくらいはと、若干色の白い顔で玄関から出てきた彼女と、

 

「無理しちゃダメですよニーネさん。ちゃんと寝てないと」

 

「いいのよレナちゃん。病気じゃないんだから、少しは動かないと逆に体に悪いわ。それに今日は大分気分がいいの」

 

 こんなやり取りをしていた辺り、フェイトより長くこの家に滞在していたレナの方は、この数日間それなりに彼女との交流もあったようだ。

 

(病気じゃないって言っても、顔色もあまり良くないように見えるけど……。ニーネさんどうしたんだろう)

 

 いまだに不調の原因が分からないフェイトが、心配だなあと素直に思っている中。

 

「こういう時でなきゃ、俺もついてったんだがなあ」

 

「ダメですよ。ボーマンさんは自分のご家庭を守らないと」

 

 やや残念そうに言ってみただけのボーマンに、レナがすかさず言い。

 同じく事情を知っているらしいメルティーナも「そら今ついてったらダメよねえ、男として」などとレナに同調。

 チサトやらプリシスにまで

 

「大丈夫だってば、みんな強いし」

 

「そーそー、アタシ達にどーんと任せといてよ」

 

 と胸を張って置き去りにされる始末。

 言われ放題のボーマンは、くすくすと笑いを漏らす妻ニーネの隣でわざとらしい咳払いをし、投げやりな見送りの言葉をかけたのだった。

 

「お前ら全く……。その団結力がありゃ十分だな。心配はしてねえから、とっとと悪いヤツやっつけて、とっとと元気なツラ見せに戻ってこいよ」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「うわやば、そういやルシオの事忘れてたわ」

 

 総勢九人を乗せた小型艦が、エル大陸に向けて移動を始めてしばらく後。

 「余計な事考えてないで集中しなさい」とか説教してたメルティーナのいきなりの独り言に、隣にいたレナスがなぜかものすごい速さでメルティーナの事を二度見した。

 

「私らいない間に戻ってきてたらどうするつもりなんだか、あいつ。結界張って来ちゃったから帰るにも帰れないだろうし……」

 

 なぜか動揺を抑えるように口元を押さえているレナスをよそに、本気で今ようやくはぐれたルシオの事を思い出したらしいメルティーナは、普通にやっちまったわねとばかりに独り言を続け、

 

「あの店に連絡手段くらいは残しときゃよかったわね……って、なによあんたも今気がついたの? その可能性。あんたあれだけルシオルシオしてたくせに、抜けてるわねー」

 

 これまたなんでだか一人で落ち込みかけているレナスの様子にもようやく気づく。

 

「ま、いーじゃないの。ひと月以上戻ってこなかった奴が、今になってあそこに戻ってくるとも限らないんだしさ。……つか創造神サマなら人探しも余裕でしょ? この際だから、ルシオは自分へのご褒美にとっときなさい」

 

 そうメルティーナに言われた事を、なるほどそういう考え方もありかな、みたいな感じにさっそく真面目に検討し始めているらしいレナスとのやり取りを横目で見つつ、

 

(……メルティーナさんから見たら、レナスさんって扱いやすい人だろうな)

 

 などと比較的どうでもいい事を思うフェイトは現在お察しの通り、座ってエル大陸への到着を待っているしかない、とっても暇な身分である。

 

 

 でっかい機械の塊であるこの艦に、同じく初めてこういうものを目にしたはずの他三人とは比較にならないほど大変な興味を示し、

「ほえー、中どうなってんのかなー」

「バラシテみたいなー」

 などと案の定恐ろしい事を言って出発の際もなかなか艦内に入ろうとしてくれなかった、フェイトの目下最大の懸念相手であったプリシス女史については、

 

「こらこら、これはみんなの大事な移動手段なんだから。そういう事する人は艦に乗せてもらえないのよ」

 

「分かってるよーだ。言ってみただけなのに、レナってば大げさだなあもう」

 

 というやり取りをしていた通り、見た事もない機械そのものに乗って移動できる、というところだけで十分満足する事にしたらしい。

 とりあえず現在の彼女は、ちゃんと自分の席について、ワクワクした様子できょろきょろ辺りを見回しつつ、

 

「お茶ほしいなあ」

 

 とか言いながらさっそく開けたお土産(チサトがプリシスの「なんか未来の機械の技術とか? そういうの関係あるのがいいなあ。……ダメ?」というお土産リクエストに応えて、未来の機械レプリケーターで作ってきた『クォークまんじゅう』である。渡された時ちょっと騙されたような顔してたけど、それはそれ、というかむしろどうして希望通りのものが手に入ると思ったのか)にぱくついているだけ。

 

 要らないと断ったアリューゼ以外のみんなにも、お土産のおすそわけをしたり。

 乗ってる最中にいきなりスパナで艦分解し始めるかもしれないみたいな、フェイトの最悪の想像から考えるとずいぶんおとなしいものである。

 

「どう? 手作りには劣るけど、これもまあ悪くない味よね」

 

「んー宇宙の味って感じ。チサトはこういうの毎日食べてたんでしょ? いいないいなー」

 

「ふふーん、いいでしょー」

 

 そんなチサトとプリシスのやり取りも聞きつつ、

 

「この真ん中の黒いやつ、ない方がおいしくない?」

 

「ええっ。いや、おまんじゅうは、黒いところが大事な食べ物ですけど……」

 

 とかいうメルティーナとレナのやり取りも聞きつつ。

 相変わらずの暇具合に大あくびをした後。

 

 艦内前方上部にあるモニターに目をやったフェイトは、同じく前方で艦を操縦しているミラージュの動きが落ち着いた頃合いを窺って、その隣にいるクリフに声をかけた。

 

「今、向こうのみんなに通信って繋げられるかな」

 

「んあ? 順調に向かってるっつう連絡なら、すでにミラージュがしといたはずだぜ」

 

「それは分かってるけどさ。ただなんとなく」

 

「おいこらお前、その辺のコミュニケーターかなんかと勘違いしてねえか? 艦の通信設備を一体何だと……」

 

「構いませんよ、手も空いている事ですし。呼び出してみましょうか」

 

 という事で、快く許可を出してくれたミラージュがさっそく今エル大陸にいるであろう、もう一方の小型艦に通信をかける。

 向こうもちょうど小型艦の中にいたのだろう。

 さほど時間もかからずに『どうしたの? 何か異常が──』とまで言いかけて、

 

「え、マリア、よね? ……ああそっか。そういえば『もにたー』ってこんなのだったわね」

 

「おおー! ホントに映った! すごいや!」

 

「やっほー数時間ぶり、元気?」

 

 どうみても緊急性のない英雄達の声に、呆れた様子のマリアが艦内モニターに映し出された。

 

「技術は認めるけど使い方アホね」

「……メルティーナ、そういう言い方は」

 

「一応言うぞ。俺はやめろと言ったんだ」

 

『はいはい、用がないなら切るわよ』

『あっ待ってくれマリア』

 

 後ろの人達がなんか言ってる中。

 カメラ位置の関係で、向こうからは一番大きく見えているであろうクリフの弁明を聞き流し、しょーもなさそうに操作パネルに手を伸ばしたマリアを横から止めたのはクロード。

 さらには画面にたくさん映るよう身を乗り出して、

 

『レナ、僕達は今エルリアタワーの近くにいてね。だから……えっと、待ってるからさ』

 

『みんな待ってるから、フェイトも早く来なよー。はいどうぞ、セリーヌさんも一言』

 

『はいはい、わたくしもいますわよー』

 

『プリシス! いるよね? ……プリシス! 僕だよ僕、アシュトン! ねえ僕、ちゃんと見えてる?』

 

 とかそれぞれ好き勝手にやってる辺り、向こうのみんなも今暇なのは間違いない。

 誘ったのに来ないなどと漏れ聞こえてくる向こうの人達のやり取りを聞くに、見張り番と退屈しのぎを兼ねて艦の外に出ているらしいディアスとノエル以外は、このモニターの向こうに勢揃いしているという事のようだ。

 

「うーん。アシュトン声しか聞こえないねえ」

 

「かろうじて映ってはいるんじゃない? アシュトンってかギョロだけど」

 

「水鏡にもこういう機能つけたら面白くない? 主にあんたの対応が」

 

「……やめて、メルティーナ」

 

 とまあ一通りそんなやり取りを眺めつつ。

 ふと思い出したフェイトは、今度はモニターを見ていたレナ達に向けて、暇つぶしがてらに聞いてみたのだ。

 

「そういえば聞いてなかったけど。僕達がいない間、そっちは何か変わった事はあったのかい?」

 

 とは言っても。自分達にとっては長い間の留守であっても、待機していたレナ達四人にとってフェイト達がいなかったのは二、三日程度。

 迎えに行った時も見るからに平和そうだったし、特に変わった事もないだろうなーと思いつつ。聞くだけ聞いてみたフェイトに、プリシスもレナも、果てにはメルティーナまでもが

 

「えーあったかなー」

「さあ、特には……」

「ないんじゃない?」

 

 と返す。

 予想通りの答えに(会話が終わってしまったなあ)とフェイトが思っていると。

 

「おい待て。本当に忘れたのかお前ら」

 

 いきなり後ろから声があがった。

 

(起きてたのかアリューゼさん)

 

 ちょっとびっくりしたフェイトをよそに、さすがに黙っていられなかったらしいアリューゼの言葉にも、レナ達三人の方は鈍い反応を示すのみ。

 思い当たるふしが急には出てこないらしい。

 

「忘れたって、何を?」

 

「……。つい昨日の事だ。報告すべき事がしっかりあっただろうが」

 

「昨日……と、いうと」

 

「レナが包丁持って玄関から飛び出してきたやつ? 人でなしーっ、とか叫びながら」

 

「ちょ、ちょっとプリシス、その話は……」

 

「それじゃねえ。その前だ」

 

「その前? ……というと」

 

(……人でなしって。何なんだよレナ)

 

 今ものすごく気になる会話があったのだが、残念な事にそれはアリューゼの言いたい事とは全く関係ないので教えてくれないらしい。 

 しばらく考えたレナ達三人はようやく、

 

「ああーっ! アレ、そうだアレだよ!」

「そーだそーだ、あったわ」

「あったわね……。すっかり忘れてたわ、レナスさんの話が衝撃的すぎて」

 

 となんか思い出したらしいので、

 

「それで、何があったんですか?」

 

 そこまで大した出来事でもないんだろうなと思いつつ、フェイトが聞いてみると。

 メルティーナが答えた。

 

 

「十賢者一人倒してたわ」

 

大事(おおごと)じゃないですか」

 

 

 どうしてそんな出来事を人に言われるまできれいさっぱり忘れていたのか。

 一通り喋って通信を切ろうとしていたクリフと向こうのみんなにも、今の会話は聞こえていたらしく、一斉にそちらに注目を向ける中。

 

「ボーマン家にね、なんか向こうの方から訪ねてきたんだよね」

 

「んで、お礼参りだ、みたいな事ぬかしてたから」

 

「みんなで返り討ちにしたのよ」

 

 十賢者を倒したという当人達は、なんとも緊張感のないやり取りを繰り広げる。

 

「何だっけ、名前……何か頭ツンツンした奴だったわ」

「大剣持った奴」「半裸の」「アリュ―ゼ?」

「違うだろ」

「頭はツンツンしてないわね」

「俺の事はいい」

「ザフィケルだよ」

「ああそうそう、それね。ザフィケルザフィケル」

 

 ようするにフェイト達の留守中に襲ってきた十賢者の一人、ザフィケルを倒したという事らしい。

 話をまとめた後、そんな驚いてどうしたの? みたいな顔で見てくるレナ達に、フェイトは他全員の気持ちを代表して答えた。

 

「いや……なんでそんな大切な事を忘れるかな、って思ってね」

 

「だって弱かったんだもん」

「至って日常生活に支障をきたさないくらいに」

「ええー……」

 

 言い切ってしまったプリシスとメルティーナに続き、アリューゼが暴れ足りなかった様子で

「五対一じゃなあ」

 とぼやく。

 

 サシでやりたかったのに、ボーマンも含めてみんな仲良く全力で撃破したらしい。

 ていうかボーマンも一言もそんな事言ってなかった辺り、つまりは彼も十賢者を倒した事をすっかり忘れていたらしい。

 

 一人の敵に対して五人全員が理想的なフォーメーションを組み、前衛中衛後衛、それぞれ無駄のない連携攻撃で一気にカタをつける……もとい、その半裸のザフィケルとやらをタコ殴りにしていた様が目に浮かぶようだ。

 そして全員、何事もなかったかのように日常生活に戻ったところも。

 

 敵の事ながら、あまりの扱いにフェイトがつい哀悼の意を込めたくなってくる中。

 

「死体も消えちゃうから、倒した実感もないしねえ」

 

「いちいちゴミ捨て場に捨てに行く手間もねえしな」

 

 さらには何も残らないだけゴミよりマシみたいな、恐ろしい感想まで言いだしているところで、メルティーナが唐突に思い出してレナスに報告。

 なんかもうぐだぐだである。

 

「ああそうそう、あの人形捨てといたから」

「え? ……ええ」

 

 いきなり言われたレナスもすぐには何の話だか分からなかったらしい。

 理解した後、ちょっとだけもったいなさそうな顔して短く返事したところで。

 

「そうですよレナスさん、ですから今度、ちゃんとしたプレゼント買いに行きましょうね! あんなゴミじゃなくて!」

 

「アタシも一緒に選んであげるよ!」

 

 今度はレナとプリシスが会話に入り込んできた。

 

 きょとんと聞いた後、

「メル、まさかあの話を」

 瞬時に嫌な予感が駆け抜けたらしいレナスに、

 

 

「この際、別の世界のプレゼントってのもオシャレでいいんじゃないの? どうせあんた、“このアタシをプレゼントするわ”なんて思い切った事できやしないでしょうし」

 

「──!!」

 

 

 メルティーナはにやにや笑いで、しかもこの場にいる全員に聞こえるようなよく通った声で言い放つ。

 

『ちょ……なんですのそれ、初耳ですわよ!?』

『誰!? お相手は誰なんですか!?』

「んー? 相手? それはねー……」

「メル待ってお願い」

「うひゃあ、てれてるてれてる」

「純情だわあ」

『レナスさんかわいいー』

 

 果てにはさっきから真面目に

 

「お礼参りを返り討ち、ねえ。さすがに今度のは、偶然にばったりってわけじゃなさそうだな」

 

『こちらの行動と居場所を知っていたという事?』

 

「向こうも仲間内で連絡を取り合っているのかもしれませんね」

 

 とかやってた人達の会話に割り込んでまで大騒ぎ。

 なんかもう本当にぐだぐだである。

 

 

(ザフィケルとかいう十賢者の話より食いつきがいいって、一体どういう事なんだろうな)

 

 とフェイトが盛り上がってしまった女子達を見て思う中。

 一呼吸してから、レナスが(できるだけ)落ち着いた様子で言ったが、

 

「待って。こんな話はどうでもいいの。今は十賢者の話をしましょう」

 

「「かわいいー」」

「……」

 

 やっぱりダメだったみたいである。

 

(今はって。後ならいいんですかね)

 

 ダメだと思うけどなあとフェイトが他人事のように眺めていると、画面の向こうでマリアが手をパンパン叩いて鎮めた。

 

『はいそこのおバカさん達、はしゃがないで頂戴。話を元に戻すわよ』

 

 しかもすんげーくだらなさそうな言い方で。

 

 

(他人の色恋とか、本気でどうでもいいんだろうな)

 

 とフェイトが思う中、鎮められた女子達も

『はーい』「ちぇっ」

 とおとなしく引き下がり。

 改めてマリアが確認する。

 

 

『で。その十賢者は、“お礼参り”の他には何か言ってなかったの?』

 

「他に?」

 

『例えばだけど、他の仲間の居場所とか。とにかく私達にとって有利な情報よ』

 

「そうねえ……。たぶん色々喋ってたとは思うんだけど」

 

「てめえの強さ自慢がやたら長くてな」

 

 

 ようするに途中から聞き流して倒したらしい。

 

「どーせろくな事言わなさそうな感じだったから、まあ構やしないわって感じでとっととやっちゃったけどー」

 

「無理にでも引き出すべきだったか?」

 

 と聞いてみたメルティーナとアリューゼの二人に、レナスは落ち着いて答える。

 

「いいえ。結果的には違ったみたいだけど、その彼が私の「力」を持っていた可能性もあったわけだから。むしろ賢明な判断だったと思うわ」

 

 まあ確かに。 

 余裕で勝てそうだからって油断してからの惑星ドカーン! ……みたいな事になるくらいなら、容赦なくタコ殴りで構わないだろうとはフェイトも思う。

 なによりあの場所から戻ってきた今の自分達には、そこまで頑張って十賢者自身から情報を引き出す必要性も感じないし。

 

 レナ達四人に聞いてみたマリアも、あくまで確認のために聞いてみただけだったらしい。

 肩をすくめて、

 

『そうね。彼らの居場所、というのはただの例えよ。別にそんな事聞かされなくても、こちらにはすでにこれが──』

 

 言いつつ手元にあるらしい機械に視線を落としたマリアは、ぴたっと言葉を止めた。

 

『マリア?』

『どうしたんですの?』 

 

 次いで、不思議そうな反応を示した向こうのみんなも、マリアの手元にある機械の表示を見て、

 

『えっ? これ……がそうなの? っていうかこれ、今のだよね?』

 

『本当に効果あったんだな、この機械』

 

 などと困惑するやら感心するやらである。

 

 

 そんな向こうの様子に、もしやと思ったフェイトの直感は正しかったらしい。

 アシュトンやらセリーヌやら、他のみんなが、慌ただしく画面の前から離れる気配のする中。

 どうしたんだとこちらから聞くまでもなく、マリアが最後に言って通信を切った。

 

『十賢者が一人、こちらに向かっているみたい。それじゃあまた。忙しくなるから切るわよ』

 

 

 ☆☆☆

 

 

 そんなこんな、いかにも大変な事が起こりそうな予感とともに切られた通信であったが。

 

 数十分後、何事もなかったのように向こうからの通信が来て。 

 それからまだまだ移動中の小型艦の中で、向こうのみんなが何事もなく、十賢者の一人を普通に撃破した事をフェイト達は知った。

 

 いわく、連絡が絶えていた間のほとんどは、十賢者出現待ちの時間であったと。

 実際の戦闘時間はたぶん一分もかからなかったと。

 

 

 遠く荒野の向こうから、地面の上を滑るような独特の移動方法で現れた十賢者の一人、ジョフィエルに対して、待ち構えるこちらは総勢七人。

 

 あちこち素早く動き回るジョフィエルに、まずセリーヌの隙の少ない紋章術代表『サンダーボルト』が、頭上からばっちり命中。

 さらにソフィアの移動制御術『グラビテーション』で素早い移動を封じつつ、マリアの援護射撃でジョフィエルの攻撃も封じつつ。

 

 後はそんな感じで、ジョフィエルを三方から囲む事に成功したクロード、ディアス、アシュトンの前衛三人が、それぞれ全力の必殺技『鏡面刹』『夢幻』『ソードダンス』でタコ殴りにして撃破。

 もしもの時に備えて回復術発動に備えていたノエルは最後まで出番がなかったと言う。

 

 

 もう少しすればフェイト達の小型艦もエル大陸に着くし、とりあえずこの件に関しては、話は合流した後でしましょうと。

 

 画面の後ろの方にいる全員とも、今しがた十賢者を倒したばかりとは思えない至ってなごやかな雰囲気の中、これまた平常通りにマリアが言って通信が再び切れる。

 レナやらプリシスやらも普通に笑顔で「じゃあまたね」と、画面に向かって手を振る中。

 

「……」

 

「ふっ。深刻に考えてたあんたバカみたいね」

 

 なんか色々と複雑な気持ちになったらしい。

 さっきから無言だったレナスを見て、他と同じくすでに十賢者を倒した経験のあるメルティーナは、ほくそ笑みを浮かべてそう言ったのだった。

 




という事で一応、運悪く今回が出番になってしまった十賢者紹介を。
・ザフィケル
 大剣使い。半裸。
・ジョフィエル
 ひょろ長。機械口調。

……なにより十賢者ファンの方、こんなノリの作風でごめんなさい。
ぶっちゃけ味方勢が全体的に強すぎた結果こうなりました(白目


以下、おまけの「尺の都合やら何やらで登場させられなかったけど、この作中に出てたらプリシスとかと相性よさそうだなー」っていう思いつきからのPAっぽい小ネタ。

・戦乙女プリシス、アリュ―ゼを選定。

プリシス「ねー、一緒に行こー? アタシと行ったら、すっごい楽しいよ? もうね、今なら大サービスしちゃう!」色仕掛け的な?
アリューゼ「やめろ。俺にガキの趣味はねえ」
プリシス「えー。じゃあ……今ならこのドリルを追加で」
アリューゼ「どうする気だ。俺につける気か」
プリシス「うん、その左腕にちょちょいとね。すっごい強くなれるよ!」
?????「いい案ではないかアリュ―ゼ! 今すぐわらわと同じエインフェリアとなり、戦乙女に改造を施してもらうのじゃ!」
アリューゼ「んなふざけた強さのために人間やめろってか」
プリシス「いーじゃん、いーじゃん。どうせもうすぐ死んで人間やめちゃうんだし、ちょっと腕の形変わるくらいじゃ、そんなに」チュイーン
?????「さあアリュ―ゼ! 今すぐ最強の戦士に生まれ変わるのじゃ! さあ!」
アリューゼ「今すぐ俺の目の前から消え失せろこの死神が。後お前は黙ってろ。わくわくしてんじゃねえ」
?????「ぶ、無礼者! 戦乙女は死神ではない! そのような物言い──」

 ──万死に、値するぞ! …………

「……おーい。アリュ―ゼー? アリュ―ゼどこー?」

アリューゼ「ハッ! 夢か……やれやれ、とんだ悪夢を見ちまったぜ」
プリシス「あっ、アリュ―ゼいたー。ねえねえ、アタシいいコト思いついたんだけどさ」
アリューゼ「なんだ」
プリシス「その左腕のガントレットにこのドリルつけたら」
アリューゼ「断るッ!!」
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