他のみんながいる場所からだいぶ離れたところ。岩の影に隠れるようにして一人座っているディアスを見つけたレナは、その目の前まで行って声をかけた。
「レナスさんは悪いひとじゃないわ、ディアス」
──ディアスはきっと、レナスさんの事を誤解している。
さっき自分達の……いや、その輪の中心にいたレナスから、黙ってディアスが離れていった時。その顔から確かに怒りの感情のようなものを感じたレナは、黙っていられなくって話をしに来たのだった。
対するディアスは仏頂面のまま。
真剣な顔で見下ろしてくるレナを見返して、仕方なさそうに息を吐いて言った。
「俺は、あの女の事を悪く言った記憶は少しもないが」
「えっ……と。それはそう、だけど」
詳しい会話の内容までは聞こえてなかったからつい。さっきのディアスは、クロードにそういう事を喋っていたのだとばかり思っていたのだけど。
さっそく意気を挫かれてたじろぐレナをよそに、ディアスは
「顔を見るなりそれか。相変わらず、お前達は揃っておせっかいだな」
と表情の見えない顔で呟き。
(……“達”? クロードもディアスに何か言ったのかしら)
その言いようが気にかかったレナに向かって、改めて仕方なさそうに言う。
「どうせお前達の事だから、あの女とも仲良くしろとでも言うのだろう」
会話にはちゃんと付き合ってやる、という事らしい。
このままなんとなくではぐらかされなかった事にほっとしつつ。レナの方も毅然とした態度で、改めてディアスに向けて言った。
「レナスさん、だけじゃないわ。メルティーナさんと、アリューゼさんともよ」
ややあってディアスから返ってきたのは、
「分かるだろう、レナ。お前達が想像している通り、俺はあの女にいい印象を持っていない。それにあの二人もあの女の仲間だ。あいつらとなれあう気にはなれん」
予想通りの答えだ。
(やっぱりディアスはレナスさんの事、嫌いなんだ。きっとレナスさんが……)
胸を塞ぐような暗い考えに負けないよう、レナはいっそうしっかりとディアスを見た。
ディアスが彼女の事を嫌いな事もその理由も、はじめから分かっていたつもりなのだ。
予想が確信に変わっただけで、「それなら仕方ない」で終わらせるくらいなら、レナだってわざわざこんな事を言いに、あの場から立ち去ったディアスの後を追いかけたりなんかしない。
「レナスさんは、別の世界の神様よ。わたし達の世界の……エクスペルの神様じゃないわ」
「ああそうだな。だがそれがどうした。今回の事はあの女が原因で起きたのだろう。俺達に厄介事を持ち込んだ神という認識に変わりはない」
「それはレナスさんを罠にかけたひとが悪いんじゃない。レナスさんは悪くないわ」
作戦も何もなく真正面から思っている事をぶつけるレナに対して、ディアスの方はレナが想像しているのとは違う、「レナスを好きになれない理由」をただ淡々と挙げ、
「レナ、お前はあの女の事をずいぶん気に入っているようだが。そもそもあの女はこれまでに、俺達にとって気に入られるような何をした?」
とまで聞いてきた。
「どういう、意味よ?」
「少なくとも俺が今まで聞いていた限りでは、あの女は大した事はしていない。ただレナ達にくっついて旅をして、正体を明かした後もただ周りの奴らに合わせて行動しているだけ。こんな面倒な事をしてくれたのが一体どんな奴なのかと、当人の姿を直接見てみれば……見た通り、セリーヌ達に囲まれてあのざまだ」
「うっ……そ、それは」
「これだけの情報で、あの女を好きになれと言われる方が困るのだが?」
最後の方の女子の輪に囲まれてしまった辺りの事についてはレナにも責任がないわけではないので、今その話を持ち出されるとちょっと彼女に対しての申し訳ない気持ちが思い出されちゃって困るのだが。
(レナスさん今頃どうしてるかな……。メルティーナさんすごい笑顔だったような気もするけど)
今さらながらに放置してきちゃった向こうの様子が気になりかけたレナは、今はそんな事考えてる場合じゃないわと頭を振った。
「そ、そんな事ないわ。さっきのレナスさんは、たまたま、ああいう事になっちゃっただけで。だからレナスさん自体はちゃんと……しようとしてたはずだと思うわ。それに、えーと」
ディアスのペースにつられちゃいけない。
なんとかディアスの言う事を否定しなきゃと、今言われた事に対する否定材料、すなわち「レナスさんが今までにやった、分かりやすくいい出来事」を喋りつつ頭の中から探し。
思い出せたレナは「あっそうだ、そうだわ」と声をあげた。
「それにレナスさんは、チサトさんを助けてくれたのよ?」
「……」
どうしてこんな出来事を思い起こすのに時間がかかってしまったのだろう。
ディアスはやっぱり間違っている。彼女はなんにもしてなくなんかないのだ。
その場に居合わせたあの時はなにがなんだか分からなくて、ただおろおろしているだけだったけど。その後で事情が分かった時も、頭の中が色々ぐちゃぐちゃしてて、彼女がやってくれた事の大切さにもすごさにも気づけていなかったけど。
でも今なら、考えるまでもなくその事だけでよく分かる。彼女はやっぱり、ディアスが思っているような悪い神様なんかじゃないって事が。
「つい数日前、リンガの聖地での事よ。チサトさんもちゃんとそう言ってたでしょ? レナスさんと、それにメルティーナさんとアリューゼさんの二人にも助けられたって」
自分達にとって、これだけ都合のいい事をしてくれたから。
自分は彼女の事を、そんな理由で好きになったわけじゃないって、ちゃんと分かっているはずなのに。ディアスだって本当はそんな理由で他人と関わるかどうかを決めているはずないって事も、ディアスの幼馴染じゃなくったって、ディアスと一緒になって旅をしてきた自分達全員ならすぐに見抜けるはずなのに。
それにあの日の夜の通信は、ディアスにも聞こえていた。
ディアスにだってとっくに分かっているだろう事実を、けれど改めて説明するレナは、
(これならディアスだって納得してくれる。レナスさんの事も、きっと好きになってくれる)
と、ほとんど楽観的に信じようとしていたのだ。
だけど、
「あの時レナスさん達が助けてくれなかったら、レナスさん達がいなかったら、今頃チサトさんは……」
「どうだかな」
「え……?」
「そもそもチサトはあの女の仲間を探すために、リンガの聖地の奥深くまで入り込んだのだろう」
ディアスは冷たい目で、それも否定した。
「あの女が俺達の世界に来なければ、あの女の仲間もあの女を探しには来なかった。チサトがそこで偶然見かけた奴らを追い続けたあげく、ドジを踏んで死にかけるような事にもならなかったと思うが?」
「どうして? どうして、そんなひどい事言うの?」
「別に、ただ思った事を言ったまでだ。あの女がいなければと今レナは言ったが、チサトの身が危険に晒されたのも、もちろん十賢者が今生きているのも、すべてあの女が俺達の世界に来たからこその結果だ」
そう言った後、こんな事まで言う。
「俺にはなおの事、あの女がいなければよかったのに、としか思えんな」
あまりにひどい言いように、思わず頭に血が上ってしまったレナにも、ディアスは冷たく言い返すだけだ。
「そんな、そんな言い方って……!」
「そうとしか思えないのだから仕方がないだろう。それともあの女がここに来た事への結果も何も関係なく、それでも俺達の益になるような何かをあの女がしたのか?」
改めてレナに聞くディアスの目は、すでに懐疑的な色で染まっている。その質問にふさわしい答えを求めていない事はもうまるわかりだった。
どうせわたしが何か反論したって、無理やり理由つけて否定するくせに。
もともとひどい事を言われて腹を立てていたところに、この目線である。いよいよかっとなったレナは、
「なによそれ。さっきから、まるでレナスさんの方に落ち度があるような言い方ばっかり」
「そう思っているから言っているだけだ」
そう返されたところで、ついに後先考えず声を荒げた。
「そうやってひとのせいにしてばっかり! 嫌いなら嫌いってはっきり言えばいいじゃない! ただの屁理屈をもっともらしく並べないで、自分の気持ちを正当化したりなんかしないで!」
いきなりの大声に驚く事もせず、ディアスがただ静かに座っている中。
「レナスさんが神様だから嫌いだ、って! レナスさん自身がどんなひとだったとしても、そんなの関係なく嫌いだって! 結局そういう事なんでしょう!?」
いったん口に出してしまったら止まらない。
これだけは言ったらだめだと思っていたはずの事も、気づけばすでに言ってしまっていた後だった。
「──レナスさんがディアスのお父さんやお母さん、セシルを助けてくれなかったのと同じ、神様だから!」
しんと静まり返る空間。
それから黙って聞いていたディアスが口にしたのは、否定の言葉なんかじゃなかった。
「そうだな。レナの言う通りだ」
冷めきって諦めきっていて、けれどどこか傷ついたようにも思える声と視線。
一瞬で頭が冷えたレナを前に、ディアスは淡々と言った。
「あ……。ディアスごめんなさい、わたしは──」
「俺はあの女に筋違いの怒りを抱いている。あの女が神だから気に食わない。だからそんな事ばかりを言う。……これで満足か?」
違う。
自分はこんな会話をしたかったわけじゃ、嫌いな理由を追及したいわけじゃなかったのに。
自分のしくじり加減に悔しくなってレナがうつむく一方、ディアスは一通りの会話はもう終わったと判断したらしい。
「腹がすいたな。いい加減戻るか」
とディアスは立ち上がり、土埃を払う。
「ディアス……。どうしても、どうしても許せないの? レナスさんは悪くないわ。十賢者が生き返ったのだって、きっとなにか特別な事情があるからよ」
それでもどうにかしてディアスに考え直してほしい。
すでに背を向けたディアスに必死に話しかけるレナだったが、次の言葉でそれも止まってしまった。
「もし、レナスさんがエクスペルの神様だったとしても。今回の事とはきっと事情が違うわ。だってあれは、もう何年も前の事で、だから──」
「すまないな。俺はまだ、お前のようには割り切れないんだ」
返す言葉が見当たらなかったのだ。
ディアスのお父さんとお母さんが、本当の姉妹のように仲良くしていたセシルが、それから自分のお父さんが目の前からいなくなってしまった時だって。
その時はいっぱい泣いて、その後もしばらく塞ぎ込んで。
「どうして神様はわたしの好きなひとを助けてくれなかったの?」って、どうせいるわけもない存在に、八つ当たりみたいな気持ちを持っていた時も確かにあった。
けどそれだけだった。
今のレナにとっては、それらは全部遠い昔の出来事で。
レナスが“神様”だという事を知ってからも、
「どうしてそのすごい「力」で、十賢者なんかじゃなくて、わたしの大切なひと達を生き返らせてくれなかったの?」
なんて少しも思いもしなかった。さっきのディアスのあの顔を見るまで、レナはその可能性に気づいてすらいなかったのだ。
そうは考えられなかったレナが薄情なのか。そう考えてしまうディアスが未練に心縛られているだけなのか。
答えの出るはずもない問題を前に、ただディアスと自分との考え方の違い、亡き人を想う事への違いに今気づかされただけのレナは、それならどうしたらいいのだろうともどかしさに地面を睨む。
その様子が、まるでだだをこねている幼い妹にでも見えたらしい。
後ろを振り返ったディアスは、動こうとしないレナに足を進めてくれるよう話しかけ、
「今日からはレナの作る飯も食えるという事だな。期待している」
それでもむっと黙り込んだままのレナに、仕方なしに付け足して言った。
「わざわざ喧嘩を売るような事は言わん。あの女の「力」を奪った元凶と、あの女の「力」で生き返った十賢者共が皆の力を合わせなければ勝てぬ相手だと言うのなら、あいつらと共に戦いもしよう。……だがそれだけだ。それ以上は俺に求めるな」
☆☆☆
ディアスとそういうようなやり取りをした翌朝。
小型艦内の床の上で、レナは浅い眠りから目を覚ました。
ぐっすりと眠れなかったのは昨日のやり取りの事も多少はあるけど、大部分の事情は単純に、寝床の状態があまりよろしくなかったという事につきる。
昨日の夜ご飯の後、大体の女性陣はそれぞれ小型艦二隻の中に別れて入り、席と席の間の床部分を使うなどして就寝。他全員はこれまでの旅と同じように星空の下で眠りについたのだ。
屋外より屋根のある場所の方が上等なのは間違いないのだけど、いかんせん狭いというか、体が縮こまってしまって休んだ気がしないというか。
移動中ただ座ってる分には快適でも、とりあえず一夜を過ごすにはあまり向かない場所だ。
(……うーん。レナスさんやメルティーナさんは外で寝るって自分から言ってたし、わたしもやっぱり外で寝ようかな。譲ってくれたクロードやフェイト達には悪いけど)
朝起きて一番に伸びをしつつレナが思った一方。
昨日ひたすらわくわくした様子で小型艦に入り、
「こんなすっごい機械の塊の中で寝れるなんて、アタシってば幸せ者だなあ」
なんて言っていたプリシスは一体何時までわくわくしたまま起きていたのか。
レナと同じく一緒の艦で寝ていたセリーヌが起き出して動き出しても、ひたすら幸せそうに寝袋にくるまったまま。
「ほら、もう朝よ。起きてプリシス」
「むにゃむにゃ、もう少しだけ……」
「朝だってばプリシス。チサトさんなんかもうとっくに外に出て朝の体操してるわよ」
「むー……。チサトが朝早いのなんかいつもの事じゃん。アタシは特に早くないからいいの。じゃそういう事で、まだ眠いからおやすみなさい」
「眠いわりにはずいぶんはっきりした口答えしますわね」
堂々と二度寝しようとしたプリシスをなんとかレナとセリーヌの二人で起こし、身支度を終えて外に出て。
もう一方の小型艦で一夜を過ごした三人のうちの一人、ミラージュに「おはようございます。よく眠れましたか?」と聞かれた。
最初は返事に困ったのだが、向こうもレナ達に聞くまでもなく同じような事を感じていたらしい。すぐ近くではマリアとクリフが、これからの方針らしきものを真面目に話し合っていて、
「一日二日ならともかく、これが最長でひと月も続くとなると士気に響くわね。せっかく十賢者を見つけても本調子ではなくて返り討ちにされる、なんて事になったらしゃれにならないわ」
「だな。全員揃ってここから離れちまうっつうのもまずいが、全員じっと待ち続けるっつう方がどう考えても現実的じゃねえ。この辺りに町かなんかはねえのか?」
「町と言える規模かどうかは分からないけど、人が住んでる場所はそれなりに近くにあったはずよ。少なくともここよりはずっとマシな環境でしょうね」
結局これからは食料品等の買い出しもかねて、交代制でその人里に行こうという話にまとまったらしいところで。
小型艦のすぐ外で寝ていたクロードやフェイト達の他に、小型艦から少し離れた場所で休んでいたらしいレナスとメルティーナとアリューゼの三人組と、朝の体操を元気に終えてきたらしいチサトに、これまた一人落ち着ける場所で夜を過ごしたらしい相変わらず不機嫌そうなディアスなども、ばらばらと小型艦前に集合してきた。
朝食を終えた後は、これから長い間ここを拠点に待機する事になるだろうからという事で、小型艦前の場所をフェイトいわく「未開惑星の荒野にあってもぎりぎり不自然じゃない」範囲で快適に過ごせる環境に整えた。
自分達全員の頭上をすっぽりと覆う、日よけ兼雨よけの布。
支えの棒はただの頑丈そうな木だ。
それと各自落ち着いて話をしたり、ご飯を食べたりできる椅子とテーブル。
そうやって即席の拠点ができた後は、いよいよ例の検索結果を待っている間にやれる事はやっておかなければと、昨日はもろもろの事情でやらなかった真面目な話の続きを、全員でする事になったのだ。
すぐ近くの仲間とお喋りしつつ、または無言で、『レプリケーター』なる便利機械から出来上がったばかりの椅子に座っていく面々。
レナはその一人ディアスの様子を、昨日の夜や今朝と同じく、注意深く観察していた。
頭にあるのは、昨日の夜以上にはっきりとした問題改善意識である。
昨日の夜のディアスは基本的には喋らず。
クロードやセリーヌやアシュトン、それにプリシスやチサトやノエルやソフィア等、気兼ねなく話しかけてくるような仲間にしつこく話しかけられた時だけ、仕方なさそうに一言二言だけ喋る。
一見しただけだと、いつもとあまり変わらないようにも思える態度だが。
しかしディアスは「あいつらとなれ合いはしない」と言った言葉の通り、レナス達三人とはただの一言も言葉を交わさなかったのだ。
そもそも肝心のレナス達三人の方も、喋りたがらない態度が目に見えている人に、用もないのにわざわざ進んで話しかけるといった事はしない人達だ。だからレナも最初のうちは、たまたま話す機会がないだけなのかもと思おうとした。
しかし食事の最中、他の仲間達が楽しそうに話している話題に対しても、とにかくレナス達に関わる事だけは、ディアスは興味がないとばかりに話を振られても完全に無視。
他の話題なら相槌くらいはするのに。セリーヌ達がレナスから(というかほとんどメルティーナからだったらしいけど)聞き出した例の事について話していた時なんか、心底くだらなさそうに鼻で息を吐いただけ。
あまりに露骨な態度に(ディアスも喧嘩を売る気はないって言ってたし、それならこれでいいのかな)と思いかけていたレナも、やっぱりこんなのはよくないわと、思い直したというわけだ。
だって、あの時はつい雰囲気に押されちゃったけど。
あれで諦めるくらいなら本当にわざわざあんな事、自分はディアスに言いに行ったりなんかしなかったのだ。
レナスさん達はなにも悪くないんだから。
“神様”っていうくくりだけで彼女達を嫌うなんて事、絶対に間違っている。
今のところは彼女達も、ディアスの態度を「もともと不愛想な性格だから」という事で納得してくれているようだけど、こんなのがずっと続けばそれもどうなる事か。
ただでさえ今回の事に時々ひけめを感じている様子だって見せている彼女に、このうえ何一つ身に覚えのない事情で嫌われているなんて事、レナは知ってほしくすらないと思っていたのだ。
「隣、いいかしら?」
「あ、はい。全然いいですよ。むしろどうぞどうぞ」
そんなレナの意気込みもさておき、レナスの方はいつも通りの落ち着いた様子でレナに確認をとり、アリューゼやメルティーナと並んで席に座る。
離れた場所に座っているディアス目がけて、“わたしは彼女の味方だから。考え直すなら今のうちよ”とばかりに挑戦的な視線を投げるレナ。
その視線の意味に気づいたのかどうか。レナと目が合ったディアスは、若干厄介そうに目をそらした。
その辺の個人的な事情はともかくとして。
とりあえず今日の話し合いの目的は、これからも滞りなく全員で協力して、問題に際してより的確な対応をとれるようにするための情報の共有。
そう言えばこれまでに名前くらいしか教えていなかったような気がするので、まずは十賢者達の大体の特徴や能力をすでに知っているレナやクロード達が、今回の騒動で未だ倒していない残りの四人について、フェイト達五人やレナス達三人に改めて説明する事になった。
最初はリーダーのガブリエル。
赤髪のロングヘアをした中年の男で、大体は術師だからとにかく術を使わせないよう全員で集中攻撃すれば倒せると思うけど、一応リーダーだし、なにより『最終破壊兵器』とかいう肩書きがついてるくらいなのでシンプルに強い。
なので一番注意すべき人物。
次はルシフェルで、こっちは銀色の短髪男で、こっちも大体術師。ガブリエルよりは強くないけど、背中に羽が生えてて飛んでたりして結構うざい。
その次、モヒカンのハニエルは体中に色々な兵器を仕込んでいる奴で……。
と、ここまではよかったのだが。
最後の一人を説明するところで、若干の問題が生じた。
「あと一人の名前……確か、カマエル? だよね?」
つまり「カマエルって誰?」問題である。
もちろん彼も十賢者の一人なわけだし、直接目で見た事も倒した事も確かなはずなのだが、レナをはじめに彼が一体どういうやつだったのかが思い出せない。
仲間内で一番十賢者の事に詳しいチサトですら首をかしげつつ、
「資料によると、『情報収集用素体』って書いてあるわね。たぶんこれも他と同じ術師だったと思うけど……うーん」
などと自作の資料を見て、一生懸命記憶を探っているのだ。
「チサトさん、ちょっとそれ見せてもらえませんか?」
「いいわよ。はいどうぞ」
「……」
「あー……。確かにいたねえ、こんなおじいちゃん」
チサトの持つ資料に貼りつけてある写真に写っているのは、頭頂部の髪が円形状になくなっていて、『ゴーグル』という特徴的な眼鏡をかけた白髪のご老人。
レナもプリシスと同じく横から写真を見て、このご老人がカマエルだという事は思い出せたのだが。やっぱりそこから先、他のみんなと同じく、彼がどういう能力を使ってきたとかどうやって倒したとか、そういった具体的な事が思い出せない。
「フィーナル入り口で、三人まとめてかかってきたうちの一人だよね。確か」
「何してたっけあのおじいちゃん」
「うーん……」
「いまいち印象うすいですわね」
みんなしてうなる様子を前に、フェイトやソフィアまでが「そんなに危ないやつじゃなさそうだな」「そんな感じはするね」と核心をついた発言をしてしまってからしばらく後。
ようやくプリシスが「あっ思い出した」と手を打った。
「ほら、ディアスが開幕で眼鏡たたき斬ってさ。その後なんかうろうろしてるだけじゃなかった?」
言われてみれば確かに、そんなだったような気もする。
なんとなく納得したレナと同じく、ディアスもクロードも当時の事をなんとなく思い出して納得し、
「そうだったかもしれんな。よく覚えていないが」
「本当に特に何もしてなかったんだな、カマエル」
結論として、カマエルもたぶん術使いであり、今までの奴らと同じように囲んで叩けば倒せるだろう事。あとたぶん眼鏡壊せばいいと思う事などを、今までの話からすでに察しているらしいフェイト達やレナス達に、かいつまむ必要もなく手短に説明。
「オッケー。とりあえずハゲジジイに会ったら開幕眼鏡狙いに行くわ」
「念のため言っときますけど、緑色のローブを着た明らかに怪しい老人限定ですからね。善良なご老人かたっぱしから襲わないでくださいよ」
自信満々に「眼鏡なら割り慣れてるから任せといて」などと言うメルティーナに、フェイトは不穏な響きを感じ取ったらしい。
「やだフェイトったら、心配性なんだから」
「いくらなんでもそんな事、しないわよねえ?」
「んー? どうだか?」
とりあえず説明と一緒にチサトの資料で十賢者達の容姿も各々しっかり確認してもらいつつ。なんかよくわからないところでやる気を出してしまったメルティーナを中心に、数人が少しくだけた会話をし始めたところで。
時間の無駄だとばかりに仏頂面のディアスがそのやり取りを遮り、もしかしなくてもこれが初めてとなる直接的な言葉かけを、一方的にレナス達にしたのだった。
「俺達の知っている情報は大体こんなところだ。一通り目を通したら、今度はそちらの知っている事を教えてもらおうか」
ディアスの言い方はともかくとして、レナス達三人はもちろんフェイト達やレナ達全員も、真面目にやるべきところはちゃんと真面目にやれる子達の集まりである。
宇宙艦ディプロでの移動中にクロード達はすでに聞いていたらしい、レナスが奪われた「創造神の力」についてのおさらい。
どういった使い方が可能なのか、元凶に「力」をどこまで使いこなされているかの推測。
また、「力」を奪った元凶の正体について、現時点で考えられる可能性の話。
十賢者自身もその可能性に含められる事。
もしその元凶と、敵として相対する事になった時の注意点……などなど。
最後に昨日も話し合った、正体も居場所も何一つ判明していない元凶の方はどうしようもできないので、とりあえず居場所を突き止められる十賢者達の方を倒すついでに可能そうなら元凶の事を探る、という方針の再確認。
他にいい案が思いついた人は発言してください、とまとめたクロードに誰一人として手を上げなかったところで、一連の情報確認は終了したのだった。
途中に昼ご飯も挟みつつ、それからの情報確認は大きな脱線をする事もなく進み。必要な情報を聞くだけ聞いたディアスは
「あれえ? 今からお出かけですか?」
「そこらで剣でも振ってくる。こうも待ち続けだと、体が鈍って仕方ないな」
と近くにいたノエルに言い残し、さっさとその場から離れていってしまった。
「陰気くさい奴ねえ」
どうでもよさそうに姿を見送ってから、メルティーナがぽつりと呟き。
一瞬の沈黙の後、
「まあまあ、ディアスはあれでけっこう人見知りなんですよ」
「だいたい機嫌悪いのがいつものディアスだしね」
「こういう雰囲気にあまり慣れてないのよね」
「そだね、うん。とりあえずこっちがしつこく話しかけるのが基本な感じでさ」
「ですわね」
クロードからセリーヌまでが揃って返事をした。
見事な息の揃いように「そうなんですか?」とソフィアが首をかしげちゃう中、
「まあここ最近、ろくに剣を振る機会がないって言ってましたからねえ。彼もちょっと苛立ってるんですよ」
ノエルまでもがまったりとした口調で言ったところで、メルティーナの方も納得してくれたらしいというか、そもそもディアス自体にあまり興味がなかったらしく「ふーん」で終了。
レナが内心ほっとする中。おそらく同じ気持ちだろうクロード達も
「それじゃあ、今日のところは話し合いもこれで終わりかな。これからどうしようか?」
「とりあえず明後日、最初の結果が出るまでは全員ここにいてもらおうと思ってるんだけど」
「なるほどなるほど。つまりそん時まで確実にヒマって事だね」
などとマリア達を交えての、一応内容はまだ真面目だけどあまり真面目じゃない雰囲気の会話を再開。
わいわいがやがやし出したみんなの会話をてきとーに聞きつつ、メルティーナはというと思い出したようにレナスに話しかけ。
レナスの方も、ごく落ち着いた様子で質問に答えていた。
「そういやあんたの方はどうなの。『宇宙艦』、つーの? 毎日あんな狭い場所にいたら、それこそろくに剣も振れないでしょ」
「私がいた場所は、あの『小型艦』よりずっと広い場所だったから。それなりの鍛錬はできていたけど──。そうね。こちらに比べたら、できる事は限られていたと思うわ」
その後、最初の検索結果が出るまでは食事時間以外、各自自由に待機という事が改めてちゃんと決められてから、もはやほぼ雑談になっている話し合いはなんとなく解散となった。
モニターの様子を見に小型艦へ戻ったミラージュ以外の他のみんなが、なんとなく席を立たずにいる中。
レナスは先ほどの会話で、気兼ねなく剣を振れる環境に戻ってきた事に思い立ったらしく、
「ほお、心身ともに武闘家にクラスチェンジしたわけじゃなかったのかお前」
「もちろん格闘鍛錬も別に継続して続けるつもりよ。ただ今は剣の方を優先すべきだと思うだけ。格闘鍛錬に入れ込むあまり、剣を忘れたら元も子もないでしょう」
本気なのか冗談なのか分からないクリフの驚きように真面目に言い返し、すぐ近くのアリューゼも手合わせ相手に引き連れて、ディアスが消えたのとは別の方向に離れていく。
そのまま二人を見送りかけてから、
「あっそうか。ここならトレーニングルームの時よりは実戦に近い動きができるんだよな。……待ってくださいレナスさんアリューゼさん、僕も付き合わせてください!」
と後を追うクロードに続けて、同じくフェイトもいそいそと剣を持っていなくなり、
「なんかヒマねえ。私もあっち見学してこようかしら」
かったるそうにメルティーナもいなくなった。
この時点でこの場に残っているのは、レナを含めて九人。
残った全員が全員ともディアスの過去を知っているわけでもないし、ましてや今現在のディアスの態度の理由に気づいているわけでもない。
がしかしレナにとって今重要なのはそんな事ではなく、今はそれぞれディアスとレナス達三人が揃って席を外している、絶好のチャンスであるという事だ。
(そうよね。どうしたらいいのかなんて思いつかないけど、でもなんとかしなきゃいけない事は確かなんだから)
あの四人に気づかれずに何かの行動を起こすなら、今こそ動かなければ。
思い立ったレナはすっくと席を立ち、この場に残っている人達を見渡し。
マリアとクリフ以外の六人、とにかくこういう事に進んで協力してくれそうな仲間を選んで声をかけた。
☆☆☆
「あーやっぱり? なんかおかしいと思ったんだよねえ、ディアス」
「プリシスも? ……そっか。僕の気のせいじゃなかったんだね、あれ」
「明らかに会話を避けてましたものね」
「そうだったんですか? うーん……言われてみれば、わたしやマリアさんにはちゃんと返事してくれてたような……?」
集まった七人は他の仲間達から離れたところで、ひそひそと話し合いの第二弾中。
議題はもちろん、ディアスがレナス達を嫌っている問題についてである。
レナが現状を訴えるまでもなく、一部の人を除いた全員がすでにディアスの態度には気づいていた様子。よって大多数の第一声も「やっぱり」から始まった。
あまり思わしくない事態に、プリシスやセリーヌ達がうーんとうなる中。
「ははあなるほど、今朝のあれはそういう事ね」
何か一人で納得したチサトは、今度はぷりぷりと怒り出した。
「しかし言うに事欠いて嫌いな理由が、神様のくせに余計な事しかしてないからって。……本っ当に失礼な奴ね。ひとの恩人をなんだと思ってんのかしら、まったく」
ちなみにレナがこの場のみんなに説明したディアスが三人を嫌っている理由は、おそらくディアス本人も建前として使っていたであろう「今回の事で余計な事しかしてないから」の方である。
ディアスの過去の事なんか、ソフィアはもちろん他のみんなだって、ディアス自身が自分から打ち明けていなければ知らないはずの事なのだ。
クロードの時はディアス自身も知っておいてほしそうだったから打ち明けたけど、でも今はそうじゃない。いくら問題解決に大切な事かもしれないとは言え、この場で自分の口から言うべきじゃない事くらいはレナにだって分かっていた。
がしかしそんな表面的な説明だけされれば、チサトの反応もごく納得できてしまうものであり、
「よし、ちょっと本人に文句言ってくるわ」
むうと考え込んだ後、当然のごとく即行動に移そうとしたチサトに続き、プリシスやセリーヌ、アシュトンやソフィアまでもが勇気を出して「じゃあ一緒に行きます」という流れになりかけ、
「ちょっと待ってチサトさん、みんなも。それじゃダメなんです」
「なんで?」
「それはあの……昨日、すでにわたしがやったので」
すでに全く同じ行動をとっていたレナに言われ、また全員揃っておとなしくうーんとうなる。
「つまり、効果がなかったんですわね」
「そっかあ。レナでダメならアタシ達でも無理だよね」
「そうよねえ……」
「ひとから言われてあっさり考え直すくらいなら、ディアスも最初から意固地になってないでしょうしねえ」
もっともな事を、緊張感なく言うノエルにぶーたれるプリシス。
「それじゃあどうすんのさ。ノエルはこのままでいいとホントに思ってんの?」
「いやいや、そうは思いませんけど。でも……難しいんじゃないんでしょうかと。本人の気持ちの問題ですから」
やっぱりまったり口調でもっともな事をノエルに言われ、プリシスのみならず全員が再びうなる結果となった。
うなりつつ、半ば独り言ぎみに、改めてみんなを集めた理由をレナは話し始める。
「そうなのよね……。だからどうにかして、ディアスの気持ちを変える方向で行きたいのよね。わたし達が口で言うんじゃなくて。何か別の方法で」
「別の方法?」
「うーん。具体的には、レナスさん達を好きになってくれるきっかけ? を、こう……わたし達が自然な感じで作るとか、かな」
「し、自然な感じで?」
「あやふやな上に難度がめちゃ高いですわよレナ。大体、好きになってくれるきっかけを自然に作るって、どうするつもりなんですの」
「それが思いつかないからこうやって相談してるんじゃないですか」
「……」
「……」
「よっしわかった! みんなでどうにかしましょう!」
「ええー!? チ、チサトさん、本当に今のでわかったんですか? あの僕、やっぱり無理なんじゃないかって気が……」
「大丈夫大丈夫、こんだけ人いたら話してるうちになんかいいアイデア浮かぶって」
「おおーなるほど、その意気やよし! じゃあアタシもなんか頑張って考えるね! ほらアシュトンもなんか考えて、ね?」
「う……うん。じゃあ……まず、どういう方向でレナスさん達の事を好きになってもらったらいいのかなって、僕は思うんだけど」
「アリューゼとメルは、確かレナスの仲間だからっていう理由だけなんだよね。じゃあレナスの事さえ好きになってくれれば二人も全然セーフじゃん?」
「うーん、レナスさんかあ。レナスさんって言ったらやっぱりきれいで強くて、本当はすごい神様なんだろうなって感じですし。ディアスさんも強いひとが好きそうな感じですし。“こんなにすごい神様なんだぞー”っていうところをアピールしてみるとか?」
「ま、待ってソフィア、それはダメよ」
「そうなの?」
「ほら、ディアスは神様のくせに面倒な事をしてくれた、っていう理由で嫌っているわけだから。だからこの場合、神様を強調するのはむしろ逆効果っていうか……」
「あー……。だったらどうして今こうなってるとか、力の持ち腐れもいい加減にしろとか、そういう事言いそうだわ確かに」
「オッケー。その方向でレナスを推すのはやめといた方が無難なんだね。てことは」
「見た目? ……で好きになるのは」
「もっと無理ですわね。却下で」
「じゃあ性格、しかないような? でもそういうのって、すぐに分かってもらえるものでもないような……」
誰も何も思い浮かばないなりに、
「いやはやこれは、ディアスが折れるのも時間の問題ですかねえ」
とかまったりと言っているノエル以外の全員がなんやかんやと問題解決に向けて真剣に意見を重ね続け。
みんなしてなんか気のせいかも知れないけど少しずつ糸口が見つかってきたような気がしつつ、現実はひたすらに時間が過ぎていくのであった。
☆★☆
十賢者達の居場所検索を始めてから、待ちに待っての五十時間後。
エル大陸の半分を調べ終わった機械が出したのは、『該当パターンなし』。大方予想通りではあったが肩すかしな結果に終わった。
無感動な表情でマリアが検索結果のウィンドウを閉じ。自動的に次の地域の検索が始まっているらしいモニターの表示はそのままにし、わざわざエルリアタワーまで様子を見に来たクロード達は何の収穫もなく、元の待機場所へと戻った。
さてこれでまた少なくとも数日間以上の待機が決定したところで、今度は全員で待機ではなく、買い出しと休息をかねて何人かはここから比較的近い人里までお出かけだ。
食糧や生活水のたぐいは最悪『レプリケーター』でなんとかなるし、小型艦から少しだけ離れた場所には申し訳程度に川も流れているのだが、やはり申し訳程度は申し訳程度だ。
食べ物はやっぱり手作りの方がおいしいし、休むところだってそりゃできたらベッドの方がいいに決まっているだろう。
ここから一番近い宿となると、以前クロードがマリア達を連れエルリアタワーに向かい、そして十賢者達とばったり遭遇するはめになったあの日に利用した所か。
あの時は探索時間をより多く使えるようバーニィを使って移動したような気がするので、仮に歩きで行くとなると半日以上はかかるだろうか。それくらい結構な距離である。
……まあぶっちゃけ今回も次回もバーニィ使ってもらえばいいだけの話なので、その辺はどうでもいい事なのだが。
お出かけ中に十賢者の居場所が分かった場合など、もしもの時のために一応通信機を持っていってもらう事も忘れずに。
それから肝心のお出かけする人員決めは、なんとなくの話し合いというか。ようするに希望制で決まったのだ。
ごく一部の誰かを除いて。それはもうあっさりと。
「レナスさんはわたし達と一緒に行きますよね」
それはお誘いというより決定事項だったのだと思う。
疑問形でもなんでもなくいきなり言ってきたレナに、とりあえずもう数日は剣の鍛錬に集中していたかったらしいレナスは困惑の表情を見せたのだが、
「え? いえ、私は──」
「そうだよ、レナスは行かなきゃ! プレゼント買わなきゃだよ!」
「プレ、ゼント?」
「もちろんルシオさんのですよ。時間もたくさんある事ですし、せっかくだからこの機会にもっとちゃんとしたの買った方がいいって、みんなで言ってたんです」
「そうそう、主役がいなきゃお話になりませんわ」
「うんうん。だからみんなでお買い物行きましょうね、レナスさん」
「え、えーと……。エルリアもまだまだ復興中なんですけど、一応ちゃんとしたお店もあるので、だから僕達案内するんで任せてください。ですよね、セリーヌさん?」
アシュトン辺りはなんかもう周りに言わされてる感ありありである。
それからレナスの方はというと、そんな理由でお出かけさせられるのはなおさら嫌だったらしい。
「……ねえレナ。みんなも。私はそもそも、この世界のお金を何一つ持っていないのよ」
とまではちゃんと言い返したのだけれど、
「お金なら、レナスさんが自分で稼いだお金があるじゃないですか。闘技場で」
「……。あれは、旅の資金を得るためにやっただけで。第一あのお金は、私だけの力で手に入れた物では──」
「遠慮しなくていいんですよ。どうせ余りまくっているお金なんですから。稼いだ一人のレナスさんが多少好きに使うくらい、わたしは別に構わないと思います」
「そうそう、私達も個人的に買いたい物とかあるし。全然大丈夫だって」
そこはもう決定事項にしていたらしいみんなの方が一枚上手である。
レナがなんかすごい笑顔で「──ね、使ってもいいよねフェイト?」と、今回の留守番組でもありすでに莫大な個人的消費をしでかしているフェイトにもしっかり確認をとり。ついでに周りのソフィアとかも笑顔で答えを待っていて。
「ああうん、全然いいんじゃないかな。うん。いいと思いますレナスさん。じゃんじゃん使っちゃってください。お気をつけて」
女子達の雰囲気というか迫力に押されたフェイトが素直に頷いたところで、レナがダメ押しの確認をとり、
「ほらなにも問題ない。じゃ、レナスさんも行きましょう」
「……」
無言になったレナスに、
「付き合ってあげれば? どうせヒマなんだし。私も行こっかなー、面白そうだし」
とどめのメルティーナの賛同。
こうしてレナスもレナ達と一緒にお出かけする、もといさせられる事に決まったのである。
お出かけメンバーはレナ、プリシス、アシュトン、セリーヌ、チサトにソフィア、それからレナスとメルティーナの計八人。
「それじゃあみんな、行ってらっしゃい」
のほほんと見送るノエルの横で、同じく留守番組のクロードが、
(レナスさんもアシュトンも行っちゃうんだ。せっかくレナスさんも剣の手合わせに乗り気だったのになあ)
とか
(まあディアスとかは行かないみたいだし、いいのかな。レナスさんの用事も大事みたいだし……それになんかレナ達も、すごくやる気みたいだからなあ)
とか
(……。プレゼント選ぶのって結局レナスさんだよな? なんで周りのレナ達が……?)
などと考えつつ、未だ腑に落ちていない感じの一人を除いてわいわい楽しくお出かけの準備中の、みんなの様子を見て。
それからプリシスやらソフィアやらがなんかいかにも、レナスとメルティーナの注意を引きつける役、みたいな感じで話し出したのも見て。
さらに他のみんなが隙を狙って、なんかひそひそと再確認みたいな会議をやりだして。
次第になんかよくわからないけど嫌な予感がし始めたのはそのひそひそ話中、レナをはじめとしたみんなが、やたらとクロードの方を見てくるからである。
それはクロードというより、隣にいたノエルへの視線だったのかもしれないが、
「うーん。これってやっぱり、僕も頑張らなきゃなんですかねえ」
というセリフだけはしっかり困ってるけど案の定緊張感のかけらもない様子な彼の分までクロードに賭けてみよう、みたいな雰囲気がひしひしと伝わってくるので、実質クロード向けという事で間違いあるまい。
ひそひそ話が一通りまとまったらしく、レナが代表としてクロードに言ってきた事が何よりの証拠であろう。
「そういうわけで、クロード。わたし達はこれから、ディアスが考え直してくれるようなレナスさんのいいところをたくさん集めてくるから」
「えっ」
「クロードはその間、ディアスの方をどうにかしておいてほしいの。ノエルさんと一緒に」
「……えっ?」
何から何まで初耳である。
そりゃ確かに、ディアスとレナスの事で、レナがかなり真剣に考えていたのはクロードも知ってたけど。
数日前の夕方ディアスの後をついて行ったきり、その話題には一切触れてこないから。てっきり諦めたのかなって思っていたのに。
まさか自分がフェイトやレナスやアリューゼ、あるいは一人で剣振ってるディアスと、あっち行ったりこっち行ったりしながら剣の手合わせに熱中している間に。
賛同者もとい協力者までしっかり集めていたとは。
(……ああ。おとといからアシュトンあんまり捕まらなかったのってそういう……)
いきなりの無茶ぶりに質問や抗議するより先に、今さらになって気づいた事をただただ納得してしまったクロードをよそに、
「──ああはい、もう準備できたんですね。今行きます。……じゃあクロード、ノエルさんも後は頼みました」
レナは言うだけ言って、レナス達二人に怪しまれないようにするためなのか、慌ただしくクロードの元から去っていった。
お出かけ組の移動手段はレナがたった今呼び出したバーニィ。
普通に騎乗するレナ達やソフィアと、一瞬尻込みしたけど気合で乗る事にしたらしいメルティーナと、まさかの鍛錬代わりの運動とかいう理由で自分の足でバーニィに並走していくらしいレナスは、八人揃って人里へと向かう。
クリフやマリア、アリューゼ等、無茶ぶりをされていない他の居残り組の方々はとっとと自分の生活ペースに戻っていき。
クロードはすっかり気の抜けた顔で、
(さすがレナスさん、あれ本当にそのまま向こうまで走っていくつもりなんだろうな。さすがすぎる)
などと八人が荒野の向こうに消えていく様を、ずーっと見続ける。
相変わらずさほど困ってなさそうなのんびり口調でノエルが
「いやあ、頼まれちゃいましたねえ」
と言った辺りで、
(……いやいやいやいや。ディアスをどうにかしておいて、って言われても。どうにかってなんだ? なんなんだ?)
レナに言われた時点で即聞き返しておくべきだった事をようやく考え始めたのだが時すでに遅し。というよりあんなあやふやな頼み方してきた時点でレナ達も具体的な事とかなんにも考えついてなさそうだった気もするので、どっちにしろ詰みである。
(……う、うーん。とにかくどうにかしてって言われたら、どうにかしなきゃだよな……)
ノエルはいつも通りの何考えてるのか分からないまったり具合。
クロードはひたすらに困り果てつつ、それでもなんとかみんなのリーダーとしてできそうな事はやらなければと一生懸命に頭を回転させる。
(どうしようどうしよう、とりあえずディアスだったら大体いつも剣の修行してる感じだし、だったら……)
これなら多少は効果あるかもしれない事を一つ思いついたクロードはそれから、「なんかクロードも忙しそうだし、剣の相手を残り二人のどっちかにお願いしようかな」のような事を考えていたらしく、ちょうど見える所にいたディアスの方に声をかけようとしていたフェイトを、急いで捕まえた。
いかにも奇遇だなあという体を装い、自分から手合わせを申し込み。
あまりに不自然な行動っぷりに無言でクロードの方を見てきたディアスには、最後までごまかし笑いだけで押し通し。
とにかく自然な感じを装って、よく分かってない様子のフェイトを連れ、そそくさとその場を離れたのである。
ややあってクロードの背後からかすかに聞こえたのは、心底厄介そうな、一人の大人のため息。
もしかしてディアスは僕達の行動の意味にも気づいているのかもしれないな、とも思いつつ。
(ごめんなディアス。でもどっちかというと、僕もレナスさん達の味方なんだ)
もうここまでやっちゃったらどうにでもなれだ。
レナ達が、というより僕自身が納得できるまでとことんディアスを困らせてやろうと、クロードは大人げない決意をひそかに固めた。