エルリアタワーすぐ前の仮設拠点や少し離れた人里で、ひたすら十賢者の居場所が分かるまで待つ、という日々を過ごすようになってからしばらく後。
待ちに待った検索結果画面に初めて『該当パターンあり』の文字を見る事ができた一行は、拠点の守りにミラージュ、クリフ、セリーヌ、アリュ―ゼ、メルティーナの五名を残し、残りの十一名で、すぐさま小型艦一隻に乗り込みその場所へと向かった。
エル大陸より西に行った、ラクール大陸から見ると北北西の位置にある島。
その島中央部にあるホフマン遺跡地下内のどこかにいるらしい、十賢者ハニエルと思わしき存在が今回の目標だ。
辺り一帯森に覆われた場所にあるホフマン遺跡周辺の、かろうじてひらけている場所に小型艦を着陸させ。艦の留守番を、今度は「僕がやります」と自分から申し出たノエル一人に任せ、それ以外の十人でホフマン遺跡内部に突入。
地下の廃坑に降りるため、入り口からすぐにあるエレベーターを使おうとしたところまでは、何の問題もなく進んだのだが。
十人全員で乗ろうとしたところ、乗員オーバーのブザーが鳴り響いたのだ。
ハニエルっぽい人物が現在この地下坑道のどこに潜んでいるのかも分からないし、十人全員が固まって行動して警戒されても困るし、ここから先は二手に別れて探そうと最初に言いだしたのは誰だったか。
二手に分けてもこちらの人数は五人。
相手が「創造の力」を所持していない、つまりクロード達が以前戦った十賢者と戦闘能力が変わらない場合。自分達がよほどなめた真似をしなければ、戦力面での問題はおそらくなし。
そして仮にこのハニエルが本命の元凶だったとしても、一対多数での戦闘においては人数が多ければ多いほど有利というわけでもない事は、自分達もつい最近ディプロで学んだばかりだ。
さらには万が一に備えてエルリアで買っておいた、装備者を一回だけ危険から守ってくれるアイテム『リバースドール』も、一人に一個ずつ支給済み。
通信機も問題なく使えるようだし、異論のある人もいなさそうな様子だったので、さっそくくじ引きでパーティーを二つに分けた。
多少の偏りはあったものの、「まあこれでも戦力的には問題なさそうだね」とお互いの人数を見渡してクロードが言ったのでそのまま決定。
「それじゃあ、僕達が先に行くよ」
「はいはーい。んじゃ、また後でね」
「いってらっしゃーい」
「ま、まさかこの僕が、くじ引きで当たりを……」
誰かさんと同じパーティーになれた事に一人幸運を噛みしめている最中らしいアシュトンをよそに、プリシスとチサトにいつも通りの明るい調子で見送られつつ、
「あっ、ホフマン遺跡ったら、もしかしなくてもアレじゃん? ねえねえ、アタシ今いい事思いついたんだけどさ」
「なになに? ホフマン遺跡って何なの? 何があるの? もしかしてそのリュックの中、関係ある感じ?」
「にっしっしー、でしょでしょ? 必要な部品はしっかりあるんだよねえ」
「うふふ、生きててよかったあ……」
楽しげにリュックの中をがさごそやりだしたプリシスと。
その様子を不思議そうに見ているレナスと。
その面々を憂鬱そうな顔で眺める、マリアの様子までを最後に確認しつつ。
フェイトとクロード、レナ、ソフィア、ディアスの五人を乗せたエレベーターは一足先に、地下坑道へとゆっくりゆっくり降りていった。
☆★☆
ここには確か十賢者の捜索及び撃破という、まともな用事で訪れたはず。
それなのになぜ自分は、この状況を肝試しか何かと勘違いしている人間達のグループに組み込まれてしまったのだろうか。
レナスが申し分なく強いのは言わずもがな。アシュトンだって戦闘中だけはちゃんと頼りになるし、いざとなったらギョロとウルルンも彼に力を貸してくれる。
ハニエルだけが相手なら戦力的に問題はない、と言ったら間違いなくそうなのだろうが……
しかしそれ以前に真面目な戦闘が始まる気がしないパーティーというのは、正直問題しかないのではなかろうか。
エレベーターが戻ってくるまでぼんやりと今の状況を眺めるしかないマリアの他には、
「アタシ達の出番まだかなあ。……よし、ちょっとここ押さえてて無人君。アシュトンはこっちね」
「うん。出番、まだまだ来ないといいよねえ」
「ん? なんか言った?」
「う、ううんなんにも」
「ギャフ」
「フギャギャ」
「な、なんだよー二人とも。やめろよお」
何か機械を作りつつ自分の順番を楽しみに待っているプリシスと、意中の彼女との特別な時間に浮足立っているアシュトン。
それとこの二人に付随している存在というか、自立思考型機械人形の『無人君』はプリシスのお手伝いをしていて。アシュトンの背中に憑いている魔物龍ギョロとウルルンの二匹はというと、宿主の彼をからかっているらしい最中という……、
正直なんでこんなところまで来てこんなもの見せつけられているんだか、まったく理解できないほどのなごやかなムードである。
「で、プリシスは何を作ってると思う? 見た感じなんか四角い箱っぽいけど……」
「“機械”の事は、詳しくないから。聞いた話だと、今回の件に必ず役立つものなのよね?」
それから残りの二人チサトとレナスはというと、そんな奴らのムードもおかまいなしに、普通に機械作りの経過を観察中。
この五人の中で自分の他にまともな緊張感を持ち合わせているのは、せいぜいレナスぐらいではないだろうか、とマリアは思っていたりするわけだが。
しかし彼女の場合はプリシスの「ふっふっふっ、出来てからのお楽しみだもんねー」な機械とやらに、素直に期待を寄せているようだし。
ていうかここ最近の周りからのあのいじられ具合にも一度として本気でキレた様子を見せた事がない辺り、あっちはあっちで根本的に他人のやらかしに寛容すぎる、ある意味困った大人なのだろうし、いざという時の制止役になってくれるかは期待しない方がいいだろうともすでに見切りをつけていたりする。
「なんたってアタシ達は宇宙を救った英雄だからね。レナスもマリアも、大船に乗ったつもりでどーんと任せといてよ」
「おっ、いい事言うじゃないのよプリシス。そうそう、今さら十賢者なんか別にどうってことないってね」
そして今エレベーターが目の前に戻ってきたわけだが。
そんな事を気にも留めず作業を続けている、このいい子達の言う事を素直にじっくりと聞き入っている最中な辺り、あっちももう彼女達の雰囲気に流されている事は確実であろう。
かといってマリア自身も、この惑星エクスペルの様々な出来事に遭遇してきて、色んな事がどうでもよくなってきた今現在。
ソフィア一人だけならいざ知らず、自分一人でこの面々を、真面目な方向にしゃきっとまとめあげられるかというと……
それも中々に自信がないというかなんかもうどうでもよくなってきたというか。
そもそも危機意識がしっかり働いてたらパーティーメンバー決めた段階で異議を申し立てていたはずっていうか。
(……考えすぎなのかもしれないけど、この時点ですでに嫌な予感しかしないのよね、あの機械。いっそここで待っている間に、向こうのみんなが十賢者もどうにかしておいてくれないかしら)
ぶっちゃけ戦力的には自分がいなくても問題ないだろうし、ノエルの申し出を受けたりなんかしないで自分が小型艦に残ればよかったのでは。
などと手に持った通信機をじっと見つめつつ、過ぎた事をぼんやり考えつつ。
マリアは四人に本来の目的を思い出してもらえるよう、せめてもの義務感を働かせて、「エレベーター」という単語だけを口に出したのだが。
「うんそーだね。でも遅れはすぐ取り戻せるから、大丈夫大丈夫。もうちょっとだけ待っててよ」
一応そこは忘れてなかったらしいプリシスは、いっそう気合を入れて機械作りを続ける模様。
(遅れはすぐに取り戻せる、か。考えすぎじゃない気しかしないわね)
無人君と一緒に嬉しそうにお手伝いするアシュトンと、言われた通り素直に待っているチサトとレナスにならい。マリアはもはや他人事のような心境で、どう見ても超小型エンジンっぽい何かにしか見えないプリシスの機械の完成を待つ事にしたのだった。
☆★☆
ホフマン遺跡地下に大きく広がる地下坑道は、フェイト達の時代では重要な資源となっている『エナジーストーン』を採掘するために出来たものらしい。
後の世ではこの資源の存在もあって銀河連邦内でも大きな発言力を持っていたエクスペルだが、当然この時代には未開惑星人であるこの星の人間達が、この資源の重要さを理解しているはずもない。
では一体誰が作ったのかという話になると、超古代の文明人、別の星の盗掘業者など色んな可能性が考えられるが、結局のところどれも憶測にしかならないので分からない。
はっきり分かるのは『ホフマン遺跡』という名称の通り、この場所を作ったのも利用していたのもこの時代のエクスペル人ではない、という事だけだ。
とりあえず現在は魔物の住処になっているという話だし、長らく使われていなさそうな坑道内の様子からしても採掘中の一般人にばったり遭遇して巻き込んでしまうという事はなさそうなので、その辺はフェイト達も気が楽である。
エレベーターから降りたフェイト達五人はさっそく、別れる前にマリア達五人に言っておいた通り、右手に沿って坑道内を進んだ。
足元にはかつてこれを使ってエナジーストーンを運んでいたのだろう、過ぎた年月の割には、今もかろうじて使用できそうなくらいにはしっかりとしたレールが残っていて。
空のトロッコなんかも、木片で輪留めをかけただけの状態でそのまま放棄されている。
行きと帰り二本分のレールのかかっている道を本線とし、たまに遭遇した魔物を全員でなんなく返り討ちにしつつ、ところどころで掘られた横穴の先もちらとクォッドスキャナーで確認しつつ進む。
坑道の隅々までを直接目で見て調べるのは大変だし、ハニエルは何もない通路の行き詰まりよりも、作業道具の置き場所や採掘員の待機場所などがある、小部屋のような場所にいる可能性の方が高いのではないかと見ての行動だ。
そして結果的にその作戦は、見事に当たったのである。
坑道内をひたすら歩きまわって、それなりの時間が経った後。
フェイト達が一つ目と二つ目に発見した小部屋には、打ち捨てられたつるはしやヘルメット、それと大量の爆薬が無造作に置かれているだけだったが。
三つ目の小部屋にさしかかった辺りで、なんと早くもハニエルらしき人影が、明かりに照らされて動いているのを発見してしまったのだ。
しかも相手に気づかれないよう静かに行動していたのがうまくいったのか、向こうはフェイト達にまだ気づいていない様子。
坑道全体の広さから考えても運の良すぎる発見である。
あっさり見つけたはいいものの、むしろあっさり見つかりすぎて「これは罠なんじゃないのか」「レナスさんの「力」を持ってるのはまさにあいつなんじゃないのか」といったような警戒心をフェイト達が即座に持ったのも自然な事と言えよう。
情報を相手からうまい事引き出せるように、はじめから元凶かただの十賢者の一員なのか、戦闘前によくよく見極めるつもりだったとしてもだ。
とりあえず目的の人物を発見できた段階で、自分達とは反対方向の坑道内を今も探しているだろう五人に向け、声を出さずに済むよう通信機の伝言モードで
『ハニエルを発見した。危険度はこれから探る』
とだけメッセージは送っておく。
全員ここに合流するほどの人数が必要かどうかはまだ分からないが、まあ向こうにはマリアもいる事だし、その辺の判断は任せておいて大丈夫だろう。
それよりも、あとは自分達がこれからどうするかという事だが──
ハニエルらしき人物のいる小部屋は、どうやら採掘員の休息場所らしい。
覗きすぎると向こうにバレてしまうのであまりしっかりと観察はできないが、白いベッドらしきものが視界の端に見えているので大体そんなところだろう。
それと部屋内の地面に散らばっているように見えるのは、空きビンか何かか。
フェイトの位置からはハニエルらしき人物の姿も少しだけ見えている。
散らばった空きビンの中心付近にいる彼は、写真で見たのよりなんというか……パリッとしてないというか、少しやつれているようにも見えるというか。
地面に並べているのは彼が持っている兵器の類だろうか? 観察している途中で、彼がヒートソードらしい武器に手を伸ばしたので、一瞬緊張したけど。
結局その武器も潜んでいるフェイト達に向けるでもなく、彼自身の頭に当てられただけであった。
髪の焦げる匂い。
どうやらモヒカンの手入れだけはきっちりやっているようである。
入り口付近からこっそりと、小部屋の中のそれらの様子を覗いた後。
フェイトは無言でコミュニケーターに文字を打ち込んで、その内容を同じく部屋内の様子を覗いていた仲間達に見せた。
『生活感すごくないか?』
画面を見たクロードも頷いてから、フェイトのコミュニケーターをいったん借り、文字を打ち込んで仲間全員に見せる。
『確かに。ずっとここで暮らしてる感じするよな』
これも全員無言で頷いたところで、もう一度フェイトが文字を打ち込んで見せる。
『それで、あれはセーフだと思う人は?』
ここでの質問はもちろん、おっさんの坑道一人生活の是非についてではない。
元凶か否か、危険な能力を持っていると思うかどうか、という意味だ。
すぐに手を上げたのはフェイトとソフィアの二人。
結構迷ってから手を上げかけたクロードとレナは、またどっちともつかなさそうな表情で手を下げる。ディアスが腕を組んだままなのは、「お前達で勝手に判断しろ」という事であろう。相変わらず協調性のない男である。
一生懸命考えたらしいレナは一方、クロードの真似をしてフェイトのコミュニケーターに手を伸ばしかけ。途中で自分じゃ使い方が分からない事に気づいたらしく、身振り手振りで自分の意見を述べ始めた。
たぶん口パクの感じからして、
『わたしもたぶん大丈夫だとは思うけど、でも、もしもの事があるかもしれないし』
のような事を伝えたいんだろう。
レナの言いたい事は分かるけど、そこまで疑ったらきりがないのではないか。
しかしおっさんが生活感に溢れているというだけで即安全認定をしてしまうというのも、やっぱり危険なのかもしれない。
フェイトが真面目に考え直そうかと思ったところ。
今度はソフィアが自分のコミュニケーターを取り出し、打ち込んだ文字をみんなに見せた。
『あれは絶対セーフだと思う。だってなんかくさいもん』
すかさずフェイトも自分のコミュニケーターでソフィアに文字を送りつける。
『はっきり「くさい」は無しだソフィア。書くならせめて中年男性の生活感がここまで漂ってきていると』
『くさいんだから「くさい」でいいでしょ? 今はそういう言葉の使い方とか言ってる場合じゃ』
『お前、相手がいくら十賢者でも言ったらダメな事があるだろ? こういう時でもそういうのは大事にするべきなんだって、普通は』
そこまで送ったところでフェイトははっと顔を上げた。
目の前のソフィアが、今にも声に出してフェイトに文句を言おうとしていたのである。というかレナが身振り手振りで必死に止めてなかったら間違いなく今頃アウトであろう。
ソフィアにもレナにも睨まれつつ、
(せっかくオブラートに包んだ表現でごまかしてたのに、台無しだよもう)
という思いを押し隠して、フェイトは文字を打ち込んで見せた。
『ごめん、僕が悪かった。続けてくれソフィア』
そういうわけでどうしてソフィアが「ハニエルはなんかくさいから大丈夫」と思ったかというと、それにはちゃんとした理由があったらしい。
ソフィアが長々と文章を打ち込んで説明したところによると。
神様の「力」を持っている存在ならば、いつでもどこでも、清潔感に溢れた装いでいる事が可能で。
従って、あんな兵器使ってわざわざモヒカン維持する必要もないし、ましてや小部屋に入らずとも外から様子窺ってるだけで即気づいちゃうくらいに、なんかくさ……身だしなみが整っていないはずがないとの事。
なんでもここ最近の待機生活中に、
「そんな事もできるんですか?」
「もち、例え泥沼に頭から突っ込んだとしても、集中ひとつで即風呂上がりのすべすべお肌がカミサマのデフォよ」
「へえ~。いいなあレナスさん」
というような話を、メルティーナからばっちり聞いていたのだそうだ。
小部屋の中では、ハニエルがなにやらきょろきょろと辺りを見渡している中。
クロードとフェイトは、ソフィアの文面にしっかり納得した。
『なるほど。確かに、それはいい判断材料にできそうだな』
(へえ。除菌モードまであるんだな、真レナスさん)
一方、その辺は初耳ではなかったらしいレナは、それでも罠の可能性を捨てきれないらしい。『確かに、そんな事も言ってたけど』と同意する様子を見せつつも、まだ自信なさげに首をひねっていたので、
『そこはさすがに大丈夫じゃないか? 罠をかけるつもりなら他にいくらでもやりようがあると思うし』
悪者だって悪者なりのプライドってものがあるだろうし、ああいう方向に体を張るような真似はさすがにしない気がする。
といったような意見をフェイトが述べ、ソフィアもクロードもその文章に頷いてみせる。
結局みんながそこまで言うなら、という事でレナも納得する事にしたらしい。
『それじゃあハニエルは大丈夫そう、って事でいいかな』
フェイトがもう一度みんなに確認しようと文字を打ち込んだ、ちょうどその時。
背後の坑道のずっと奥の方から、何やらごうごうと低いうなり音が、かすかに響き始めてきた。
急な耳鳴りだろうかと一瞬考えたけども。冷静に聞けば聞くほど、なんかジェットエンジンっぽいような人工的な継続的騒音である。
ていうか、今なんか誰かの悲鳴も混じってたような気もするし。
(……。まずいよな、これ)
案の定、フェイトだけでなく全員がそう思ったらしいタイミングで、
「ほう、そんな所にいたか」
とか言いながらそれまで座ってたハニエルが、ゆっくりと立ち上がったし。
「まったく、進歩のない──」
ハニエルは小部屋の出口に向かって歩いてくる。
比較的安全そうなこいつから情報を得るためにどう動くか。具体的な事はまだ考えてなかったけど、バレてしまったのなら仕方ない。
「私から逃げ出せるとでも思っていたのか?」
無言で顔を見合わせ頷いたフェイト達は、各々いつでも戦闘できるよう態勢を整え、
「ふっ。お前には今から仕事をしてもらおう。抵抗などせず、おとなしくしている事だな」
それから入り口手前で方向転換して立ち止まったハニエルの前に、自ら姿を現したのだ。
小部屋に突入したフェイト達五人を待ち受けていたのは、どっしりと自分達を待ち構える敵の姿ではなく。
なんか紙きれを手に、部屋入り口付近のすみっこにある木箱のうえで羽を伸ばしている一羽のタカさんに、悪役スマイルで話しかけつつ慎重に手を伸ばしているところだったハニエルの姿である。
「あ」
「えっ? え、えーと……」
出鼻をくじかれて戸惑うレナ達を見て、しばらく手を伸ばした体勢のまま固まっていたハニエルは、はっと我に返ったようにタカさんを放置して後ろに下がり、怒声をあげてくる。
明らかにフェイト達の事に本気で気づいてなかったらしい反応だ。
「貴様ら、いつの間に!」
「ああうん、まあそうなるよな。普通に」
なんかもう戦う前からぐだぐだっていう以前に前にも似たような出オチがあったような気もするけど、自分達から姿を現しちゃったからには、今さらなかった事になんてできるわけがない。
心なしかさっきよりもうるさくなってるような坑道内の謎の音をバックに、剣を構えたクロードは負けじとハニエルに怒鳴り返したのだった。
「覚悟しろハニエル! それとお前の知ってる事を大体教えてもらうぞ!」
☆★☆
「そこのトロッコ! いい加減止まりなさい!」
なんで十賢者を倒しに来たはずの地下坑道内で、さっきからすさまじい速度でなんか楽しげにトロッコアドベンチャーやってる約二名(もはや叫び疲れたのか、後ろの縁をがしっと掴んだまま固まっているアシュトンも含めれば三名だが)を、足じゃ絶対に追いつけないからってプリシスがもう一台用意したハイパーウルトラなんたらエンジンつきの、後続のトロッコに乗り込んでまで必死に追いかけなければならないのか。
ようやくエンジンの取り付け作業が始まってすぐ頃。
通信機に『ハニエルを発見した』との伝言が、向こうの位置情報と一緒に送られてきて。(結局こっちがなにもしないうちに見つかったのね)とかぼーっと思ってる間に
「ふう、やっとできた。じゃあさっそく、これでばびゅーんと駆けつけるよ!」
「おおー!」
プリシスとチサトとこの時点まではうきうきしてたアシュトンの三人が、さっそく改造が終わったトロッコに乗り込んで。言葉通りにばびゅーんとかいうありえない効果音と、アシュトンの悲鳴を残して一気に遠ざかっていって。
わりかしすぐにこの状況を理解して、
「大変だわ。助けなきゃ!」
などとまともな反応を示したレナスの隣で、マリアはというと一瞬なんかもう本当にフェイト達に後の事全部任せたい気持ちに襲われてしまったのだが、実際問題そうも言ってられず。
結果もう一台のトロッコに二人して乗り込んで今に至る。
前方確認などはレナスに任せ、たまたまレール上に乗りあげてきた運の悪い魔物を勢いよくはね飛ばしつつ。
プリシスお手製のエンジンの出力部分をどうにか勘で調整して、前のトロッコに追いつけたまではいいものの、
「んー、なになに? マリアはなんて言ってんの?」
「え、なに?」
「だから! マリアは! なんて、言ってるの!?」
「えー!? ……うーん、エンジンの音でまったく聞きとれないんだけど、なんか怒ってるっぽいからそうねえ。……向かう先ちゃんと知ってる!? とかじゃないかしら!?」
「ふむふむそっか。それなら大丈夫! 今忙しいから、大体は分かるよって伝えといて! ……よっしだいぶ目が慣れてきたぞー、今度こそ!」
さっきから道間違えてばっかりっていうかトロッコ速すぎて分岐点のレバー切り替えられないせいでずっと同じところぐるぐる回ってる気しかしないし、なにより危ないからせめて早くエンジンを切れと、さっきから声を大にして怒鳴っているのに。
なんであのいい年した大人は止める気ないどころかいい笑顔で、両手でおっきくまるなんかつくったジェスチャーを返してくるのか。
「もう本っ当にいい加減にして! あなた達今の状況分かってるの!? 仮にも宇宙を救った英雄なんでしょ!? それをこんなふざけた事ばっかり……!」
「落ち着いてマリア、周りの音で聞こえていないんだと思うわ!」
見るからに何も分かってない顔してる辺りどうせそういう事なんだろうとはマリアも分かっているけど、それなら仕方ないわねとなれるかどうかはまた別の問題である。
ともかくちょっとだけ言いたい事言ってなんとか冷静に戻ったマリアは、プリシスの放った『ロケットパンチ』が奇跡的に分岐レバーにぶち当たって、レールの切り替えを成功させたタイミングで、腰のホルダーから銃を抜いた。
言って聞かせられないのなら、こちらでどうにかすればいいのだ。
こんなに声を張り上げてまでなお、話の通じない人間に言う事を聞かせようとする必要などどこにもないではないか。
「やったあ! 曲がるよ二人とも、しっかりバランスとって!」
「オッケープリシス!」
「ひっ、ひいいい……たすけてー、たすけてよおー……」
カーブを乗り切った前方のトロッコに続いて、マリアとレナスを乗せたトロッコもカーブにさしかかる。
いったん構えかけた銃を下ろし、レナスと一緒に体重をトロッコの片方に傾けてカーブを乗り切ってから、マリアは改めて前方に銃の狙いを定めた。
目標はプリシスが作った問題のエンジンの動力に使われている、握りこぶし程度の大きさのエナジーストーンだ。
先ほどの出力調整の際、自分達のトロッコについているやつをじっくり見るはめになったので、このエンジンのしくみは大体理解できている。
むき出しの状態のエナジーストーン。
しかもその辺のトロッコに積まれたままだった、どう見ても加工前の代物をそのまま動力部にはめこんだだけという、なんとも大胆な使用方法である。
中型艦の動力くらいなら余裕で賄えるほどの大きさの、それも現在駆動中のエンジンに使われているものを狙って撃つなど、普通なら気が狂ってると自分でも思っただろうが、幸いにしてこれらに使用されているのは原石の状態のエナジーストーン。
命中してもせいぜい石自体に細かな傷が入る程度で、ホフマン遺跡まるごと爆発でふっとぶ事態にはならないので問題はない。
それに動力源を無理やりに取ったらブレーキの制御すらできなくなって余計に危険ではないかと、これに乗る前の自分なら即思っただろうがそもそもこの乗り物はその辺のトロッコの後ろにまんまエンジンをくっつけただけの代物であり、よってブレーキ機能なんか最初からついていない、念のためトロッコの前方部分も確認してみたけど逆噴射装置のたぐいも一切見当たらない、あるのはトロッコ自体に元からついている原始的なブレーキレバーだけと、正直駆動させた時点で詰んでいるので問題はない。
「……っ、はずさないっ!」
せめて一撃で決めてやるとやけっぱちな気分で狙いを定め撃ったマリアの銃は狙い通り、前方トロッコの動力であるエナジーストーンに命中した。
揃って前を向いていたり小さく縮こまっていたりでエンジンが撃たれた事にすら気づいていないプリシス達をよそに、エナジーストーンがぽろりと剥がれ落ち。
前方トロッコのエンジンが停止したのと同時に、自分達のトロッコの分も、レナスに剣を使って無理くり外してもらう。
これでどうにか両方のエンジンを停止させる事ができたわけだが。
まあ結局のところ、それだけですぐに速度を落とせるわけでもなく。
「そろそろ目的地だね! このまま颯爽と突入するぞー!」
「……無理無理無理無理もうホント無理だって、はやいはやいはやい……」
「ねえねえプリシス、そんな事よりあの辺なんかレール途切れてない!?」
「ええっほんとだ!? これまずいね!?」
「まずいわよねえ! ……んん!? しかもあの後ろ姿レナ達じゃない!?」
「うわあほんとだ! みんなー! どいてどいて、危ないよお!」
途切れたレールの先、小部屋の入り口付近にはフェイト達五人の姿があり。
騒ぎに後ろを振り返った五人がぎょっとして脇に避けたところで、プリシス達を乗せたトロッコはレールを外れ、勢いよく宙に浮いた。
「無人君、エアバッグモードだっ!」
しゅぽーんとトロッコから放り出されたプリシスは、即座に無人君に命令。
同じくチサトもしゅぽーんと宙に放り出され。
恐怖のあまり縁をがしっと掴んでいたアシュトンだけは、最後までトロッコと命運を共にし、
「マリア、手を!」
同様の結末を目前にしたマリアも、レナスに言われるがままトロッコの縁から手を放し、運に身を任せた。
☆★☆
十賢者ハニエルはトロッコによって倒された。
剣を構え対峙していたフェイト達の「お前達の目的はなんだ?」「どうやって生き返ったんだ?」などの質問に、不意の登場に驚いた時よりもちょっと落ち着きを取り戻したのか悪役スマイルに戻って、
「ふん、素直に喋るとでも思うのか?」
などと直前まで強気に言い返していた最中の出来事であった。
後ろを振り返るなり危険を感じて脇に避けたフェイト達とは違って、見れば一発で分かる事なのに
「む、これは……近づいてくる?」
わざわざじっと目を凝らして見ていたハニエルは、自分を目がけてまっすぐ突っ込んでくるトロッコを避ける事ができなかったのだ。
何かを乗せたトロッコがハニエルごと壁に勢いよくぶつかり、ようやく停止した一方。
フェイト達の位置からだと何が起こっているのかまったく見えなかったのだが、一瞬で自らの体を巨大エアバッグに変えた無人君は、宙に放り出されたプリシスとチサト、それから後から突っ込んできたトロッコだけを器用に手でぺしっとはじき飛ばし。
さらにはお姫様だっこでマリアを抱えたまま坑道の柱を蹴り、アクロバティックに衝撃緩衝と方向転換を決めて向かって来たレナスまでを全員、しっかりその体で受け止めてみせるという大活躍を見せたらしい。
壁に突っ込んだトロッコと、部屋の入り口を塞ぐ巨大な無人君の後ろ姿の間で、その時のフェイト達は「今の……なに?」と困惑するばかりだったのだが。
ぷしゅうといつものサイズに縮んでいく無人君の影からプリシス達が慌てた様子で現れ、壁に突っ込んだトロッコに向かって「アシュトン、大丈夫!?」と話しかけた辺りで、ようやく我に返る事ができたのだった。
「う、うーんなんとか、このリバースドールのおかげかな……」
不幸中の幸いというか、アシュトンはトロッコの後部にしがみついていたおかげで、壁にめり込んだ前方部分よりは被害が少なかったらしい。
命拾いしたアシュトンは頭をかきかき言い、ほっとして大きく息をついたところで、すぐ後ろの壁のなんかぶつぶつ言ってる妙な気配にようやく気づき。そろりと振り向いてまた絶叫した。
「って、ううう、うぎゃあー! な、なにこれ誰これ!? ハニエル!? ハニエルだよねこれ!? ちかいちかいちかい顔近いこわいスプラッタだよたいへんだたいへ」
「黙って! 聞こえない!」
マリアに一喝されたアシュトンは、びくっと両手で口を押さえる。
他全員もハニエルの最後の言葉をしっかり聞きとろうと、耳に意識を集中させたところ。
「ふ、ふふ……貴様ら、これで、勝ったと思うなよ……」
(いや誰もそんな事思ってないけどな。こんなので)
口に出してつっこみたい気持ちを抑えるフェイトをよそに、もう消える寸前らしいハニエルは、焦点の合わない目で、途切れ途切れにどうにか言葉を絞り出しているのに、どういうわけか最後まで笑っていたのだ。
「……よう、やく、み、つけたぞ……は、はは……これで、私、達……勝……」
最後にそんな言葉を残したハニエルの肉体は、これまでと同じように身に着けた衣服や装備品も含めて、どんどん細かい光の粒になって消えていったのだが──
トロッコの中、ずっと口を押さえて腰を抜かしているアシュトンの足元に、ある物がひらりと落ちたように見えた。
クロードが近づいて確認したところ、やはりハニエルが手に持っていたあの謎の紙きれである。
トロッコから紙きれを拾い上げて、中身を一瞥したクロード。
小部屋のすみっこの、関係あるんだかないんだか分からない、相変わらずのびのびとくちばしで羽を整えているタカさんの方を見て首をかしげる。
それからこの場にいる全員を代表して、言ったのだった。
「今のって、もしかして……」