ホフマン遺跡で会ったハニエルの言い残した言葉により、十賢者達の目的がどうやらレナスにあるらしい事が判明した、一行のそれからはというと。
相変わらず、エルリアタワー近くの拠点周辺での待機生活が続いていた。
向こうの目的を知る事ができたとはいえ、ハニエルが言っていたのは「ようやく見つけたぞ」だけで、他の十賢者達や元凶に関する言及は一切なし。他の手がかりについても、ただの買い物メモっぽい紙きれを残していっただけ。
ようするにその情報だけでは、今まで以上に効率的な十賢者達の捜索、というのを思いつかなかったのだ。
なんたって肝心の十賢者達の方が、クロード達に待ち構えられていた際本気で驚いていたように見えるジョフィエルやら、同じく居場所を突き止められて本気で驚いていたように見えるハニエルやら……
とにかくこれまでの状況を踏まえれば、こちらの動向をちゃんと観察できているようには到底思えないのだ。
一応ハニエルは最後に、「私達の勝ちだ」みたいな宣戦布告もしていたような気がするのだが。
あれから拠点に戻って数日が経過しても、一向に残りのやつらが襲いかかってくる様子はない。
「もしかして連絡うまく伝わらなかったんじゃないか? 十賢者の事だし」
とかいうクロードの推測にもまあ納得できちゃうほど静かな日々である。
いっそ自分達の方からレナスをおとりにして奴らをおびきだそうにも、その罠自体にちゃんと気づいてくれるかどうか。
なにより今までのやり方でも、時間はかかっているけど十賢者をちゃんと探して倒せている、という事もある。
ろくな情報もないし、ついつい後回しになりかけている元凶の事を考えれば、果たして今のままでいいのだろうか──などといった懸念のある人も中にはいるようだったが、
「はいはい、元凶ね。まあその辺は大丈夫なんじゃないですか? あんまり賢くなさそうだし。根性がねじ曲がってるだけで」
「ちゃんと十賢者を支配できてる感じしないよね。自分で生き返らせたのに」
「ああ、それは私も思ってたわ。正直一番困るのよね、行動に一貫性のないバカって」
という事で結局今回もおざなりに。
できる事からこつこつと。
元凶への対策はこの待機中に考える事にして、あえて危険な橋を渡るような事はせず、安全で確実な方法でいこう。
ついでにそれで発見した十賢者が危なくなさそうだったら、今度こそすぐには倒さないで生け捕りにする方向で頑張ろう。そしてどうにか元凶の方も引っぱり出せるようにしよう。
……という事で、一行の意見はおおむねまとまったのだった。
それとフェイトが懸念していた、この時代では“宇宙”の意味さえ知らない『ミッドガルド星人』の一人──
つまりは自称『一流の魔術師』であるメルティーナが、『紋章術』の事を勉強しちゃっていた件についてだが。
レナスは一応、詳しく調べないようにと、彼女に注意する事はしたらしい。
ただその仕方が、結局フェイトの言いつけを守ってか、あくまでも自分がFD世界で見聞きしてきた事に一切触れない、理由らしい理由もなしにただ
「こういうのは、あまり詮索しすぎない方がいいと思うの」
などとやんわり頼むような言い方だったため、
「まーた意味わかんない事言うわねー、あんたも。どーせ別の世界の術体系の事なんか、あっちに帰ったところでなんに利用できるわけでもなし。暇つぶし以上の目的なんかあるわけないのにさあ。……つかよその世界の理のプライバシーてなによ? あんた頭大丈夫? ちゃんと寝てる? むしろ今ちゃんと起きてる? 実はもう寝てない?」
不審がるよりも、急にヘンな事を言いだしたレナスを心配するような反応だったらしい。
「そもそもさー。あんた方法は問わないとか、この世界の人間と協力してだとか、自分で言わなかった?」
「……。それは、言ったわ。でも」
「じゃ、私がこの世界の奴らと協力して、クソバカ共を生け捕りにするのに使えそーなこの世界の術を一緒に考えてあげる、ってのもなんもおかしい事じゃないわよね」
「……」
「それとも何? んな理由も言えないような事にこだわってる場合なわけ?」
結局そんな感じでレナスの方が言い負かされたらしい。
ただそれでもタイムパラドックスが起きないか心配だったらしい。
「……分かった。この一件にどうしても必要な『紋章術』についての模索は、あなたの判断に任せるわ。でも、お願い。それ以上の事は──」
「理のプライバシーがなんとやら?」
「ええ。お願い、メルティーナ」
まっすぐ目を見てお願いするレナスは、とっても真剣というか一生懸命な様子。
「はあー。マジ意味わかんないけど、しょーがないわねー。……別の暇つぶし、なんか探しとくわ。術の事は必要以上に探らない、これでいいんでしょ?」
「ありがとう、メルティーナ」
「はいはい。とりあえずあんたはちゃんと寝なさい。その食事の後片づけとかしなくていいから」
最終的には、お願いされちゃったメルティーナの方がなんか折れたというか。
外野のクリフの
「お前はむしろ手伝えよ。なに普通にふんぞり返って座ってんだ」
とかいうツッコミをガン無視したのは、まあいつも通りの事として。
その口約束を聞けて本気で安心したような反応までしたレナスの頭を、メルティーナは最後まで、逆に心配するような目で見ていたらしかった。
☆★☆
そんな待機生活が続いていた、ある日の事。
アシュトンはまばらに人が座っている拠点のテーブルまで歩み、その中の一人、プリシスに勇気を持って話しかけた。
「あっ、あのプリシス……」
「……。んあ? ああなんだアシュトンじゃん、どーしたの?」
隣でお絵描き中の無人君の席の下、椅子の前に置かれたある物体をぼーっと見ていたプリシスは、きょとんと顔をあげ聞き返す。
どことなくいつもの元気が足りない様子。
原因が分かっているつもりのアシュトンは、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「そ、その……さっきの事、なんだけど」
「さっきの、事? なんだっけ」
首をひねるプリシス。……のすぐ足元には、壊れた機械。
ついさっきプリシスが完成させたばかりの、『魔物発見器』なるものの二号機。
お昼ご飯の前、テーブルに集まった全員の前で嬉しそうに「見て見て!」と披露した瞬間、またしてもアシュトンていうかむすっとしてるギョロとウルルンの目の前でぶっ壊れたシロモノである。
(う、うう……。そんなけなげに、忘れようとして……。で、でも、言わなきゃプリシスに、ちゃんと言うんだ……)
そんなアシュトンの視線の先を見て、プリシスもようやく「さっきの事」に気づいた様子。
「ああこれの事? また失敗しちゃったよね、うん。いやーまいったまいった」
あっけらかんと言い、
(ごめんよプリシス。僕が今度こそちゃんと、プリシスから離れていれば……!)
なアシュトンとは対照的に、プリシスはそこまで引きずってなさそうな様子で、あははと笑いつつ振り返る。
「今度のは自信あったんだけどなあ、前に作ったのと違って。なのにこの間以上の瞬殺じゃん? スイッチ入れた瞬間爆発とか、もうただのバクダンじゃんって。さすがのアタシも自分にツッコんだね、あれは」
「てか違うの? 私的には爆発する物体見せられたっつう認識だったんだけど」
「違ったみたいですわね……。なんとなく想像ついてましたけど」
近くで一緒に書き物をしていたメルティーナとセリーヌも、ちらと会話に参加。
プリシスはそれにも平然と答える。
「そうそう、ホントはああなる予定じゃなかったんだよね。……ほら、セリーヌは知ってると思うけどさ、今暴れてる魔物の大半って、『ソーサリーグローブ』が原因のやつなわけじゃん? そういう魔物にはそういう魔物特有の……気配? って言えばいいのかな。なんかそういうのがいっぱいあるらしくてさ」
「確かにクロードも言ってましたわね。『ソーサリーグローブ』が落ちて魔物や動植物が狂暴化したのは、あれに含まれてた膨大なエネルギー?……が飛散した影響だと思う、って」
「うんうん、そういうやつ。まあとにかく、そういうヤバげな気配を感知してお知らせしてくれる、っていう機械のはずだったんだけど……こういう説明する前に壊れちゃったもんだから、もうなにがなんだか」
説明を終えたプリシスに、セリーヌと珍しくメルティーナまでもが感心の声をあげ、
「へえ……。それはいい発想ですわね。成功してたらエクスペル中のひとが大助かりでしたのに」
「意外とまともな事考えてんのね。正直あんたの事、完全に脳が天気なバカだと思ってたわ」
「でしょでしょー? えへへ」
プリシスも照れくさそうに鼻をこする。
そういう状況の中、アシュトンが頑張って、
「そ、その機械が、壊れた事について……なんだけど」
今度こそ全部喋っちゃおうとした時だった。
(……待て。まだ気がつかないのか、お前は)
「へ?」
頭に直接話しかけてくるのは、アシュトンにとってはすでにお馴染みのものとなった体の同居人のひとり、ウルルンである。
「まだって、何を?」
声に出して聞き返すアシュトン。
こうやってはたから見たらいきなり独り言を喋っているようにしか見えないのも、もはやいつもの事なのでプリシス達も気にしていない。
まだギョロと喧嘩が続いているウルルンは、あくまでも無言を貫くつもりの隣の彼をむっとした様子で一瞥してから、アシュトンに告げた。
(お前は今、あの小娘に、あの『機械』が壊れたのは我らのせいだと言おうとしただろう)
「そ、そりゃだって……」
(それはお前の勘違いだ)
「えっ。……ええええぇぇっー!?」
おっきな声をあげたところでセリーヌに「ちょっと! うるさいですわよアシュトン!」と叱られ、ダッシュでテーブルから離れて小声で聞き返すアシュトン。
「だ、だって……なんでそんな事わかるんだよ? プリシスの言ってる“魔物の気配”って、どう考えたってお前達じゃ……」
(小娘の今の説明を聞いていなかったのか? あれは主に、ソーサリーグローブの影響を受けた者共に感応するものだぞ)
「つ、つまり……?」
(我らの存在が、そのような小物同様に測られるはずがないだろう)
思いもしなかった衝撃の真実である。
がっくりしかけてから、
「い、いやでも、お前の言う“小物じゃない”からこそ、っていうのはないのか?」
(どういう意味だ?)
「自分がどういう感じの存在感を出してるかなんて、お前達はちゃんと分かってるのか? ソーサリーグローブのエネルギーの影響は受けてなくったって、元をたどれば全部同じやつかもしれないじゃないか。同じ“宇宙”なんだから」
かつて自分はこれほどまでに物事を筋道立てて考えた事はあっただろうか、とばかりに必死になって言い返すアシュトン。
一方のウルルンはというと、
(ふむ、そう言われてみると。やはり我らにも多少関係はあるのかも知れんが)
「だろ?」
(……いや、それでもやはりないな)
ちょっと面白そうに納得したけど、それもすぐに否定した。
聞き返すアシュトンに、
「どうして言い切れるんだよ?」
(あの小娘はそもそも、我らの事を勘定に入れてあの『機械』とやらを作っていたようだったからな)
これまた思いもしなかった衝撃の真実である。
「へ?」
(あの『機械』の構想とやらの段階で、小娘が我らをやたらとべたべた触ったり、調べていたりした事がある。……“まずはちゃんと除外設定入れとかないと。ギョロとウルルンに反応しちゃったら意味ないもんね”だったか?)
「……へ?」
(あれは確か、お前がすやすやと寝ていた時だったな)
「な、なな、なんでそれを……!?」
(仕方なかろう。なにせ私も今思い出した)
嘘だ。こいつら絶対知ってて今まで黙ってたんだ。
純粋な性格のアシュトンですらそう直感したのは、堂々と居直るウルルンのみならず、この時ばかりは無言を貫いているつもりのギョロからも楽しそうな様子が、背中からばっちりと伝わってきたからである。
「……」
(まあそうへそを曲げるな。頑固者の言葉を借りるわけではないが、傍観者たる我らが表に出すぎるわけにもいくまい。これでも我らは、お前達人間に気を遣っているのだぞ)
今まで教えてくれなかったのはやっぱりちょっと腹が立つけど。
正直なところプリシスが、ギョロの事もウルルンの事もちゃんと考えていてくれていたのだという事実が嬉しいので、まあ良しとする。
単純なアシュトンはあっさりと許し、ウルルンに再確認した。
「うー……分かったよ。それじゃあ本当に、お前達ふたりとも、あの機械の故障には関係してないんだな?」
(無論だ)
「じゃあ、壊れた本当の理由は?」
(最初の出来にはそもそも自信がなかったと、小娘が自分で言っただろうが)
そういえばそうだった。納得したアシュトンがさらに聞くと。
「じゃあさっきのは? プリシス自信あったのに壊れちゃったけど?」
(……知らん。それこそたまたま近くにあった、どっかの馬鹿でかいエネルギー元でも探り当てたんだろう)
首をひねっているところで、ずっと黙っていたギョロが
(……いい加減にしないか。干渉が過ぎるぞ)
と短くウルルンに注意し。
ウルルンもまたむっとした様子に。
(ともかくそういう事だ。機械の故障は我らのせいだなどと、とんちんかんな事は言ってくれるなよ。こっちが恥ずかしいからな)
最後に念を押した後。そうしてふたりともアシュトンに話しかける前の、むすっと不機嫌そうに黙り込む状態に戻ってしまった。
「いい加減仲直りしろよー……っても、もう無視か。まったくもう」
話しかけても全く反応なし。
やれやれとテーブルの方に視線を戻したアシュトンは、そういえば自分から話しかけたままだったと、急いでプリシスの元に戻った。
「ギョロとウルルンなんだって? ふたりとも仲直りした?」
「ううん、それはまだっぽいけど……。雑談をちょっとね」
「むうー。ちゃんと仲良くしなきゃダメじゃん!」
プリシスがぷんすか怒っても、やっぱり反応なし。
ちぇっと不満そうな顔はしつつも、とりあえず二匹の事は今まで通りそっとしておく事にしたらしい。プリシスはアシュトンに話しかけてきた。
「それで、さっきのってなんの話? この機械がどーかしたの?」
「あーえっと、その……」
そういえばさっきまで言おうとしていた事は、全くの見当違いだったのだと今さら気づくアシュトン。
僕のせいでごめん、が違うのなら、じゃあどう言ったらいいんだろう。
ちょっと考えた後、アシュトンは改めて素直に答えた。
「その、プリシスが元気なさそうだったから。さっきの機械、失敗しちゃった事を気にしてるのかな、って思って」
「んん? それはつまり……機械を秒でぶっ壊したアタシを、慰めようとしてくれてるって事?」
不思議そうに聞き返すプリシスに、
「ああうん。そういう事に、なるのかな」
と答えるアシュトン。
「僕は、プリシスの才能は本物だと思ってるから」
「あ……うん」
まっすぐな目で見つつ言い、きょとんと相槌だけ打ったプリシスにさらに言葉を続ける。
「今回はダメだったけど、次は絶対うまくいくと思うんだ。機械の事はよくわからないけど……」
そうと思えば最初からそのために来たような気がする、などと思いつつ。
「……ほら、無人君とか、その無人君の口から飛び出てくる無人君の……映像?とか、そのまた無人君の口から飛び出てくる無人君とか、あとその無人君たちが一斉に並んで組体操始めたりとか……、今までだってなんかよくわかんないすごいモノ、いっぱい作ってたじゃないか。だから」
ちらっと目に入った無人君の事を例にあげ、一生懸命励まそうとしたが、
「ああうん、だよね。やっぱなんか意味わかんなかったよね、あの無人君のほろほろ体操。仕込んだアタシもあとで思ったけど」
どうやら例えが悪かったらしい。
プリシスの隣でがたっと席を立ちかけた無人君は、しょんぼりした様子でお絵描きに戻る。
「むうー。アタシってばやっぱ、役に立たないモノ作ってばっかなのかなあ」
「そ、そんな事ないよ! 十分役に立ってるよ! ねえ無人君!」
プリシス以上に落ち込んでる無人君に同意を求めるアシュトン。しかし効果はやはりない。
やり取りを眺めていたセリーヌとメルティーナが言い、
「完全にいじけてますわね、プリシス」
「いやまじで意外だわ。行いを省みるような事絶対しないタイプだと思ってたのに、こいつら」
後者のあまりにもな言いようが耳に入ったプリシスも反論。
「むっ。そりゃあアタシだって、やらかした時は落ち込むぐらいするよ。だってこれじゃ完全に役立たずじゃん」
なんか話の方向がおかしい事になっていると今になって気づけたアシュトンは、改めて聞き。
プリシスが落ち込んでいる原因から何から、自分の勘違いでしかなかったとようやく分かったのだった。
「ねえプリシス。やらかしたって、なんの話?」
「そんなの決まってるじゃん。トロッコでハニエルやっつけちゃったアレだよ」
プリシスが言っているのはついこの間の、ホフマン遺跡での出来事だ。
みんな自分達がトロッコで突入する前の時点で、ハニエルは「創造の力」を持っていなさそう、つまりは安全に情報を引き出せそうな相手だと推測できてたのに、自分のせいでそれがめちゃくちゃになっちゃったと。
その件についてクロード達が言ったのは
「普通に問い詰めたところで、どうせまともに喋らなさそうだった」
とか、
「不意をついたおかげで、重要な事を聞けたのかもしれないしな」とか。
あともう一台のトロッコに乗ってたマリアもなんか投げやりに
「正直なところ、なりゆきに流されるままになっていた私にも責任はあるわ。今回の事は、全員無事で済んでよかったと思う事にしましょう。……ただ次からは、エンジンブレーキ機構だけは絶対に忘れないで。私はもう乗らないけど。絶対に」
とプリシスに念を押しただけ。
とにかくハニエル即撃破事件については、プリシスを責めるような事は誰も言ってなかったのだが。
そんなみんなの優しい対応が、かえってプリシスの心にはこたえたらしい。
今現在のいじけっぷりに繋がるというわけだ。
「ていうかさー……。ハニエルの事がなかったとしても、アタシそんな役に立ってなくない? っていう。ザフィケルの時だって、アタシ遠くから無人君一発ぶん投げただけだし。なんかなあー……」
「プ、プリシスはそんなやらかしてないよ! そんな事言ったら僕だって……!」
死にかけのハニエルの近くで大声出して叱られちゃったし。十賢者戦で活躍した記憶だって、せいぜいジョフィエルを囲んだ内の一人ってくらいだし。
記憶が飛んでていいのならミカエルの時があるけど、あれ結局頑張ったの僕じゃなくてウルルンだし。
ぼやくプリシスに、自分の方がいかに活躍してないか、これまでの事をずらずらと言い並べるアシュトン。
「うーわ、なにこのネガティブな慰め」
「地味にこっちまで傷つきますわね……」
近くの二人はドン引きである。
セリーヌの方がぱんぱんと手を打って中止させた。
「ほらほら、不毛な会話はそれくらいにして。……あなた達この現状で、自分は十分な活躍をしたと、胸を張って言える人間がどれだけいると思って? この会話を耳にしたみんな、軒並み落ち込ませる気ですの?」
確かに。セリーヌの言う通りになりそうな人には、アシュトンにもプリシスにも何人か心当たりがある。
大部分の人達は鍛錬やらなにやらで今この場にはいないけど、休憩か何かでこっちに戻ってきてしまったら大変だ。
「アタシ達、もっと頑張ろうねアシュトン」
「うん。頑張ろうねプリシス」
プリシスもアシュトンも、お互いにそういう事で穏便に話を終わらせた。
せっかくなので話しの切り替えついでに、一応聞いてみるアシュトン。
「それじゃあさっきの機械の事は、そんなに気になってなかったんだね」
「ああアレ? うんまあ、多少は気にするかもって程度? 自信あったのに即壊れちゃったわけだしね」
プリシスはそこについては本当にそこまで気にしてなさそうな様子で話す。
それから、
「けどその辺の事はもういいんだ。アタシも今回の事が片付いたら、クロードとレナと一緒に地球に行く事にしたし」
「えっ」
今日一番の、ていうかここ最近で一番の、具体的には十賢者が生き返ったっていうニュースよりもずっと衝撃的発言である。
(……ち、きゅう? プリシス、今、なんて……?)
固まるアシュトンをよそに、
「へえ。あの話、結局そういう事でまとまったんですのね」
「ふっふっふっ、そりゃもうバッチリ! やっぱ先にレナから、っていうのが効いたよね。クロードも文句言わなかったもん」
「ふう~ん。愛しい彼女に「一緒について行きたい」だなんて言われたら……まあ断らないでしょうね、クロードは。プリシスもうまくやりましたわね」
さっきまでの落ち込みようもどこへやら。よっぽど地球へ行くのが楽しみな様子のプリシスは、すでに事情を知っていたらしいセリーヌと実に楽しげに会話。
(行っちゃうの……? 『地球』って、確かすっごく遠い所なんだよね……?)
内心むちゃくちゃショックなアシュトンをよそに、
「だから機械の事は、今はダメでも、これからもっともっと詳しくなれば済む話なんだよね。……というコトで大事なのは今! 今どうみんなの役に立つかって事だよ!」
「今度は急にやる気になりましたわね、プリシス」
「まあね! これからの輝かしい未来を思えばこそ、ってやつだよ」
気合を入れ直したプリシス。
その様子を見ていたメルティーナが、急に首をかしげた。
「ん? んん?」
「どーしたのメル?」
「いや、なんつーか? そういう反応、なんか見覚えあるっつーか?」
「そういうって、どんなのですの?」
「だからそういうアレよ。みょーに前向きなやる気出しちゃってるやつ。今も不死王に殴り勝つとかいうイミフメイな理由で、なぜだか格闘鍛錬にまで身入れちゃってるやつの事よ」
メルティーナが言っているのは十中八九レナスの事なわけだが。
「そうなの? レナス、一生懸命頑張ってるなあって感じはするけど」
「前向きなやる気、ですの? わたくし達にはそういう風には……」
「いやそれは間違いないわ。あんなはしゃいでんの初めて見た、ってくらいよ」
とメルティーナは首をかしげつつも断言する。
「それこそホントさっきのあんたみたいな。たまに朝落ち込んでるかと思えば、昼にはもうなんか勝手に前向きスイッチ入ってるみたいな。てかそもそも朝クソ早いし。忙しすぎるんだけど逆にあんた大丈夫?……みたいな」
表立って十賢者達と戦う事を禁止されてしまった、レナスの現在はというと。
せめて周りのみんなの戦闘技術の向上にでも役立ってもらおうとでも考えたらしい。このところはひたすらに手合わせざんまいな日々を送っていたりする。
彼女の置かれた状況からしても、その真面目な性格からしても、きっと本来ならもっと率先してみんなの役に立ちたいと考えていたはずだろう。それがこういう事になってしまっているのだから、さっきのプリシスみたいに内心落ち込んでいても不思議じゃない。
レナス自身、落ち込んでいる様子を表に出したりはしていなかったけど。
手合わせに一生懸命になっているのも、それ以外にできそうな事がないからというやけくそな気持ちだからなのかもと。
今ここでプリシスの発言にフリーズしてるアシュトン辺りも、当たり前のように思っていたわけだが。
ところがどっこい彼女の事をよく知るメルティーナからすれば、最近の彼女の様子は、なぜかそういった後ろ向きな気持ちからはほど遠いところにあったのだと言う。
「最近?……っても、いつからなのかしらね、アレ。少なくとも『宇宙』とかいうのから戻ってきた時にはなんかあんな感じだったわよ。行く前はあんだけへこんでたくせに」
「んん? その“あんな感じ”が、つまり今のアタシにそっくりって事?」
「たぶんね。今なんとなく思っただけだから知らないけど」
話を聞いたプリシスは首をひねり、
「うーん……。よくわかんないなあ、メルの言ってる事」
「正直私も言ってて意味わかんないわ、マジで」
言ったメルティーナの方も怪訝そうに首をひねる。
「なんであいつがあんたと似たよーなリアクションよ? 知らないけど、あんたこの事件解決したらなんかいい事あるんでしょ? ……対してこっちはクソバカぶっ倒して帰るだけよ? 輝かしい未来もくそも」
「なんだろうねえ。レナスもなんかいい感じの目標みつけた、ってコトなのかなあ」
二人して首をひねっているところでセリーヌが言い、
「まあまあ、いいじゃないですの。とにかくレナスが楽しそうならそれで。わたくし達もそれを聞けて安心しましたわ、ねえアシュトン?」
「……」
「アシュトン?」
「……ハッ! そ、そうですよねセリーヌさん! こういうのは本人の気持ちが一番だからね!」
我に返ったアシュトンは元気いっぱいに返事した。
挙動不審が板についている彼の事なので、この場の誰も不審には思わない様子。
「だよね。レナスがむしろはしゃいでたって、アタシもなんかホッとしたもん」
「そりゃあ私も文句はないのよ? ただなんかまるで意味わかんないっつうか、いやまあ、あいつが意味わかんないのとか今に始まった事じゃないんだけど。けど……あんたどんだけ不死王元気に殴り倒したいのよ、っていう」
どうしてもレナスの事が気になるらしいメルティーナが、「つかそれルシオとの再会よりも楽しみとか何事? それでいいの? あっちもいい迷惑よ?」などと本気で心配そうに独り言を続ける中。
「よーし。アタシもとりあえずなにがしかの役に立つぞー! おー!」
用事も済んだし僕もとりあえず今の事を頑張らなきゃと、腰に下げた自分の双剣を改めて見て、アシュトンは自分がさっきまでいたクロード達の所に戻ろうと足を向ける。
プリシスは元気いっぱい、それも未来の事ばっかりじゃなくて、今の事もちゃんと考えているのだ。
「じゃあ、僕はこれで」
「あ! 待ってアシュトン、さっき言いそびれたから」
今振り向いたら、地球に行ってほしくない自分のわがままな気持ちが、ついつい表に強く出てきちゃうかもしれない。
プリシス自身の幸せが一番だと思ってるアシュトンはそういうのは嫌だったから、プリシスがにかっと笑って言ってくれた事で、そんな自分の心配が杞憂に終わってよかったと思った。
「アタシの才能、信じてくれてるんだよね。ありがとアシュトン、なんか嬉しかったよ」
「……うん。元気でね、プリシス。僕は、いつでも応援してるから」
「ふぇ? やだなあもうアシュトンったら、まだまだ先の話なのに」
本当に今さらですが、本編でまったく触れていなかった気がするので一応。
二章でかっ飛ばした、エルリアタワーの三賢者戦プロットは大体こんな感じでした
・意識乗っ取られたアシュトン(ウルルンのブレス)がミカエルの炎防ぐ。
とどめはクロード?
・メタトロンの絶対防壁はマリアが無効化(アルティネイションの力)
とどめはディアス?
・ソフィアがラファエルに吸われる
→「……なんてことを!」誰かが怒り発動、ラファエル倒す。
→異空間に吸われたソフィア、あっさりと自力で外に出てくる(コネクションの力)。「あーびっくりしたー」「感想それだけかい」