スター・プロファイル   作:さけとば

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18-1. より分けられた仲間達

「向こうのみんな、そろそろラクールに着いた頃かしらね」

 

「まだじゃない? もうちょっとはかかるんじゃないかなあ」

 

 クロス洞穴内、最奥部。

 オブジェクトの最後の調整を早々に終えたり、十賢者レーダーを片手にぽつりぽつりと会話したりして、ひたすらに待機していたレナ達六人だったが──

 

 

「言ってもねえ。向こうもちゃんとレーダーあるし。着いて早々、ぱぱっと倒して戻ってきてくれるんじゃないかなあ……って、んん?」

 

 それまでヒマそうに、地べたに座り込んでいたプリシス。

 小さな警告音が、手元からいきなり鳴りだしたのに驚いて目をやる。

 

「えっなにプリシス、まさか本当に来たの? 十賢者が?」

 

「おおー……。本当に来たわね、十賢者。まず来ないと思ってたのに」

 

 気になって手元を覗き込むアシュトン、チサトと同じく、レナもなんとなくこのまま平和に終わるような気がしていたので正直びっくりである。

 ピーピーうるさいレーダーの警告音を、プリシスが手動でオフにする。

 

 十賢者レーダーの画面は、ここから少し離れた場所に点が一つ。

 残り三人の十賢者のうち、ガブリエルとカマエルは現在ラクールにいる。よってこの反応は残りの一人、ルシフェルのものだ。

 点の場所からして、彼が今いるのは、おそらく洞穴の入り口辺りだろうか。

 

「こっちに来るのかな、ルシフェル」

「どうかしら……」

 

 点の動きは現在、こっちに向かってきびきびと移動しているような、移動していないような。

 目的を持って移動しているんだか、偶然その辺を歩いてるだけなのか、なんとも判断できない感じである。どっちにしろ入り口からここまで、まっすぐ走ってすぐに来られるような場所でもないので、それもまあ当然なのだが。

 

「偶然? ではなかったとしたら、彼はどうやって私達の居場所を?」

 

「さあてどうかしらね。すぐ思いつく理由なら、あんたにもばっちりあるんじゃないの?」

 

 レナ達と同じく予想外だったらしいレナスに、こっちはばっちり予想の範疇だったらしいメルティーナが言い、

 

「……。情報が少なすぎる。現時点では、原因の断定をしない方がいいわ」

 

「あーはいはい。別にどう思っててもいいけどさー。まさか向こうがこのまま平和に帰ってくれるなんて、さすがに警戒心ゆるゆるのあんたでも思っちゃいないわよね」

 

「その通りね。いずれにせよ、彼はここへ向かって来ているものとして行動を考えるべきだわ」

 

 原因が気になるらしいレナスも、とにかくルシフェル来襲に備える事についてはメルティーナに同意したのだ。

 

 

 とりあえずレナ達の元にルシフェルが現れるには、もう少々時間がかかりそうな感じだ。

 下手に移動するよりここで待ち構えた方がいいだろうとの事で、相手が現れるまで、入り口の方を注視しつつ。

 各々いつでも戦闘に入れるよう、戦闘時の隊形だけ先に決めて、その時に備える。

 

 ホールの入り口から見て、最前衛にアシュトン。

 そのすぐ後ろに、無人君と一緒に機械に乗ったプリシス。プリシスに調整してもらったスタンガンやらを手に持ったチサトも、プリシスの隣に。

 プリシスの機械を盾にするようにして、術師のメルティーナがその後ろに。

 そのさらにななめ後ろ、最後列に、補助回復術が得意分野のレナ。

 万が一に備えて、護衛対象のレナスもレナの隣で待機する事に決まった。

 

 メルティーナに「戦闘は他のヤツに任せときなさい」と言われたからだが。特に反論もせず考えがちに「そう……すべきなのよね」とおとなしく彼女の後ろについた辺り、レナスはどうやら自分の判断に自信が持てなくなってきているようだ。

 

 

 それは自分の身に迫る危険を、正確に深刻視できていなかったせいなのか。

 数日前の不安材料をなかった事にして、この場を安全なはずと信じこみ、自分と仲間達を現在の状況に至らせてしまった事に対してなのか。

 それともまたは、この状況に至ってもまだ、自分達の居場所を敵に知られていたその原因に、どうしても納得できていないせいなのか。

 

 自信なさげに考え込みつつ。

 他のみんなが、入り口に罠を張る作業などをしている最中。レナスはメルティーナに向けて指示を出す。

 

「守護方陣はいらないわ。あなたはルシフェルの捕縛を第一に考えて」

 

 捕まえて本人から理由を聞きだす。

 真っ先にそう考えたため出した指示だったが、

 

「……ねえメルティーナ。あなたはどう思う?」

 

「はあ? どう思うって、明らか頭おかしい事言ってたら黙って従うわけないでしょ」

 

 まさしく黙って言われた通りにしようとしていたらしいメルティーナに、「今さらそんな事聞いてきてあんた頭大丈夫?」とでも言いたげな調子で言い返された。

 

「てか今のうちに言っとくけど。いざとなったら、あんただけ連れて逃げるって選択肢もあるわけだし」

 

「……メルティーナ、それは」

 

「なんで私がアリューゼにあれ持たせたと思ってるの」

 

 と言われ、黙り込むレナス。さらにメルティーナははっきりと言う。

 

「こいつらとつるんでるのだって、あんたが「力」とられたまま帰ったら向こうで面倒な事になるから、ってだけだから。それ以上にヤバい事になりそうだったら、当然、あんたが何言おうと連れ帰るわよ」

 

 結果的にこっちの世界がどうなろうが、そこまでは自分の知った事ではない。

 正直に答えたメルティーナの発言内容に、いろいろ思うところがあったらしい。何かを言い返しかけたレナスは、けれどやはり自信なさそうに黙り込み、

 

「……つっても、さすがにルシオまで見捨てるわけにもいかないしー? それくらいに、いざとなったらって事よ。ようするに」

 

 全面的に賛成なわけでもないけど、今のところはそこまで危険でもなさそうだし、指示には従うつもりだと。

 そのいざとなった時に、はぐれたルシオをぎりぎり探し出せる可能性や、具体的な手段までは一切語らず。

 後ろをちらと見て、しょーがないわねとばかりに言い加えたメルティーナに、

 

 

「けど。この世界は、同じ──」

 

 

 小さく呟いたところで、レナスは息をついた。

 あくまでも冷静に、論理的に。メルティーナの行動指針に意見を挟む。

 

「その場を逃れるためだけの最善策は、長期的に見れば上策にはならない。多少の危難を受け止めてでも、第一に考えるのは根本的な解決であるべきよ」

 

 それから大真面目な顔で付け足されたレナスの指示は、半笑いでメルティーナに承諾された。

 

「それでも私の言う事が、いつも正しいとは限らない。私がまともな指示を出せる状況にないと思った時は、あなた自身の考えで行動して」

 

「はいはい。それこそいつも通りの光景じゃないのよ、あんたバカなんだし」

 

 

 ☆★☆

 

 

 ラクール城下に着き次第、そこら中、大量にいる十賢者カマエルの姿に驚かされたクロード達九人。

 まずは城下の入り口を守っていた兵士に話しかける。

 自分達はこの状況を解決しに来た者であり、ついでにそちらもよく知っている『レオン博士』の知り合いで、もちろん腕に覚えがある者達ばかりだという事を手短に説明し。街の中に入れてもらう許可を出してもらった。

 

 

「それは心強い! なにせ街は今こんな状況で……我々もどうしたらよいか、対処に困っていたところなのです」

 

 と兵士は二つ返事で道をあけてくれた。

 本当はこのまま即座に街に突入して、この大量にいるカマエルを片っぱしからやっつけたいところだが、

 

「その前に聞かせてくれねえか。これは、いつからこうなってんだ?」

 

 いったん立ち止まって兵士に聞くクリフに続き。クロード達やフェイト達もその場に立ち止まったまま、いつでも戦闘に入れるよう身構えて街中の方を見据える。

 

「おそらく数時間前くらいから、でしょうか。それまでは異常は何もなかったはずなのですが……。あの者達は街中にいきなり、いや徐々にその数を増しまして、今ではすっかりこんな有様に……」

 

 困りつつも落ち着いた様子で答えてくれた兵士は、マリアの質問にも困り顔で答える。

 

「被害状況はどうなっているの? ここから見た様子だと……積極的に街の人達を傷つけようとしているようには、あまり思えないのだけど」

 

「え、ええ。我々の中にも、当初はそう意見を述べる者もいたのです。ですがレオン博士が、あの老人は間違いなく倒すべき敵だと、そうおっしゃいまして」

 

 話を聞いたクロードがさらに厄介そうに言ったが、

 

「レオンが? という事は、あのカマエル達はラクール城の方にも出たんですね?」

 

「はい。しかし幸い、あの者達はドアで区切られた室内には入ってこないようですので、王族や研究者の方々には全員それらの場所に避難してもらっています。街の者達にも同様に、戸締りを厳重に、外にはなるべく出ないようにと」

 

「そうなんですか? ……よかった、それならまだなんとかなるかな」

 

「外にいるあの者達についても、時々思い出したようにこちらに危害を加えようとしてくるのですが、我々兵士も大勢がこの件の対処に当たっていますので、どうにか街の者達への被害は最小限に食い止められているようです」

 

 兵士の言う通り、さっきから動きをよく見ていれば、確かに。

 大量にいるカマエル達はどいつもこいつも、両腕を前に突き出し、不気味に笑ってはいるものの、その動きは全体的に緩慢で、逃げ遅れた町の人達にきびきびとは襲いかかってきていない様子。

 

 まるでゾンビ映画のようだな、なんてフェイトが思っていると。

 

「ご覧ください。今も、あのような感じで」

 

 

 入り口の兵士が指差した先。

 広場の一角で、逃げ遅れたのか、見るからに足腰の弱そうな杖を突いている一人のご老人を、また別の兵士が近くに寄り添いつつゆっくりと避難誘導しているであろう途中。

 

 近くのカマエルが一体、不気味に笑いながらゆっくりと近づいて行って。

 ゆっくりと腕をあげて、そのご老人に襲いかかろうとして。

 

 付き添っていた兵士が即座に槍で一突き。

 くずおれるカマエルに、

 

「な、なめなさんなよ! お主と違って、わしはまだ現役じゃわい!」

 

 とよろよろのご老人が振り上げた杖もばっちり命中した。

 

 

「弱くない? カマエル。わたしでも殴り倒せそう」

「いやこれ偽物だろ。さすがに」

 

 思わず言っちゃったソフィアにつっこむフェイト。

 兵士も言い、聞いていたクロードもうんうんと一人頷いた。

 

「はあ。レオン博士も、さすがにカマエルはもうちょっと強かったはずだと。珍しく自信なさげではありましたがそうおっしゃっていました」

 

「だよな。やっぱりレオンもあんまりよく覚えてなかったか、カマエルの事」

 

 

 しかしまあ大変そうではあるが、最初に彼らを見た時のインパクトよりは大事には至っていないのかもしれない。

 ……なんたって一般のご老人にも負けるような偽物がたくさんいるだけなんだし。

 

 よく見てみれば兵士だけじゃなくて、普通に冒険者っぽい人達もカマエル返り討ちにしてたりするし。ていうか気味悪がってるだけで、普通に護衛を連れて買い物とかしてるっぽい街の人なんかも見えちゃってるし。

 

 本物の事も、他にもう一人いるらしいガブリエルの事もうっかり忘れて、フェイトが早くも安堵しかける一方、

 

「……やられたわね」

 

 マリアは自分の手元を見て、実に深刻そうに言う。

 ちらと覗き込んだ近くのクリフも同じくうなった。

 

「マジかよ。こういうもんはニセモンには反応しねえのが常識だろ」

 

 続けてその会話が気になった全員に向けて、マリアが自分の手に持ったある物を見せる。

 手のうちにある『十賢者レーダー』。

 画面の表示はなんと真っ白。

 

 ようするにどこもかしこも一面カマエルだらけという、誰でも見れば嫌でも分かるような、当たり前の事を示しているだけだったのだ。

 

「どういう理屈なのか分からないけど、レーダーはこのカマエル全部が本物の十賢者だと示しているわ」

 

 

 マリアの言葉に続き、

 

「物質化、だったかしら。カマエルがその「力」を使ったという可能性は?」

 

「さあな。俺が知ってる物質化ってのは、もっと単純で“なんでもできる”って認識だ。手間かけてまで、わざわざクソ弱え雑魚にする意味がねえ」

 

「うまく使いこなせていないせいで、本物より弱くなったんじゃねえのか?」

 

「確か、私はすでに認識している情報をそのまま形にしているだけ、だったか? 強かろうが弱かろうが、ヒト一人創る労力はさして変わらねえんだとよ」

 

「そう……。完全に消えたわけではないけど、可能性は薄そうね」

 

 と二人の質問にアリューゼが答える一方。

 過去にもカマエルと戦った事があるはずなのに、今さらフェイトやソフィアと一緒に驚いたりしているクロード達四人。

 

「本物と同じ、偽物をたくさん作る力? もしかして、これがカマエル特有の能力だったんじゃ……?」

 

「解せんな。こんな能力があるのなら、なぜ最初に俺達と戦った時に使わなかった」

 

「ふーむ。考えられるとしたら、偽物を作るためには十分な時間が必要とか。もしくは、力を使うのにあのゴーグルが必要だった、とかですかねえ」

 

「ゴーグルだと?」

 

「ほら、ディアスが開幕で叩き壊しちゃったやつですよ」

 

「……なるほど。筋は一応通っているな」

 

「使われる前に倒してたんじゃ、印象に残らないはずですわね」

 

 

 なんだかなあとフェイトが思っていると。

 近くにいたカマエルが一体、ゆっくりこちらに歩いてきて。

 

 

「ようやく、来おったか。ほっほっほっ。せいぜい我々の元にたどり着くまで、存分に迷っ──」

「いやあ、来ないで!」

 

 ソフィアに思いっきり杖で殴り倒された。

 

 

「お、おいソフィア、今せっかくカマエルの偽物が何か言おうと」

 

「手がワキワキしてた! 絶対触る気だった!」

 

 確かになんかしてたけど。無駄に手伸ばしてワキワキしてたけど。

 どこを? と本当は聞きたいらしいが聞けないクロードが、ソフィアから目をそらしつつ言い、

 

「ま、まあ、さすがに本物の居場所を言うほど馬鹿じゃないんじゃないかな、たぶん」

 

「あら。そんな事より倒されても消えないんですのね、このカマエル」

 

「視覚的にも厄介だな」

 

 セリーヌとディアスが今しがた倒されたカマエルを冷静に観察。

 なんにせよこのカマエルの偽物は、一応言葉を喋れて、倒されてもこれまでの十賢者みたいに消えたりはしないらしい。

 

 そう思っていると。

 どこかの兵士か冒険者が倒していたらしい。向こうの方で動かなくなっていたはずの一体のカマエルが、むくりと起き上がって、またうろうろと徘徊し出した。

 遠くではっきりとは確認できないが、傷が回復している様子はない。

 ますますゾンビ映画じみている光景である。

 

「こいつら、もしかして倒せないのか?」

 

「きりがない、ってやつですわね」

 

 たぶんこういう場合、偽物達は本物のカマエルを倒すか無力化するかしないかぎりどうしようもないのだろう。

 こっちは地面に倒れてしんなりしてるカマエルを横目に、マリアが仕切り直して言う。

 

「とにかく。意味もなく使い物にならない偽物で街を埋めつくすほど、敵は馬鹿ではないようよ。レーダーが使い物にならない以上、ラクールに今いる十賢者二人は私達全員で手分けして探すしかないわ」

 

 アリューゼがうんざりした様子で聞き返したが、

 

「他に方法はねえのか? まさか、この数だけはクソほどいる雑魚を、偶然本物にぶち当たるまで倒し続けろって言うんじゃねえだろうな」

 

「残念ながら、今のところはそういう事になるわね。一応本物はさすがにもうちょっとは強いらしいから、そういったところで判断はできるんでしょうけど……何か、他にもっと情報があれば……」

 

 結局はいつまでも街の入り口で考えているだけではどうしようもないと。

 三人ずつ三組に別れ、偽物のカマエルをひたすら倒しつつ街中を探索しようという事で、話はまとまったのだった。

 

 

 偽物達自体はとてつもなく雑魚だけど、その中に本物のカマエルはもちろん、もう一人、十賢者の長ガブリエルも混じっているはず。それと可能性は低いけど、この件にはもしかしたら元凶が直接かかわっているかもしれないので、決して油断はしないように。

 

 向こうはあわよくばこちらの各個撃破を目論んでいる可能性が十二分にあるので、決して一人にならないようにする事。

 何かあったらすぐに通信機で連絡する事。

 本物の十賢者を見つけた場合も、できるだけ無理はせず、近くの仲間に連絡する事など。

 確認し合ってから、むくりと起き上がってきた近場のカマエルをもう一度殴り倒し、クロード達九人は三組に別れて行動を始めた。

 

 クロード、ノエル、アリューゼの三人は賑やかな商店の続く通りを中心に。

 フェイト、ソフィア、ディアスの三人は住宅街へ続く路地の方へ。

 

 残ったクリフ、マリア、セリーヌの三人はというと、

 

「城へ行ってみましょう。……本物のカマエルを見分ける、いい方法。そうでなくてもわたくし達より先にこの問題に対処していたレオンなら、何か情報を得ている頃かもしれませんわ」

 

 というセリーヌの言葉を受け、ラクール城へと向かう事になった。

 

 

 他二組に続き、さっそくセリーヌ達も移動をしようとする中。

 マリアは「少し待って」と言い、懐から通信機を取り出す。

 

「つい数時間前に現れた、レーダーが役に立たない敵……。思い過ごしだといいんだけど」

 

 考えつつ、音声会話の操作をしかけてから。

 先ほど自分達に向けて話しかけてきた、動かないカマエルの方をちらと見て、思い直したように文字入力モードに切り替える。

 送信先は今クロス大陸に向けて小型艦を進めている、ミラージュだ。

 

『こちらは作戦続行中。詳細は省くけど、十賢者カマエルにはレーダーが役に立たなかった。向こうにもレーダーの反応を過信しすぎないよう伝えて』

 

 手元を隠すよう素早く文字を打ったマリアは、送信後すぐに通信機をしまい、

 

「待たせたわね。行きましょう」

 

 と二人に言ってその場を後にした。

 

 

 ☆★☆

 

 

 かび臭く、薄暗い場所に男はいた。

 たまに慌ただしく通りかかる人間には、姿を見られぬよう、影と一体化するように壁に身を預けている。

 

 ──奴らがようやくラクールに来た。その中に“目標”がいるかどうかは、今確かめている。

 

 ここまでは老人から聞いた。それから、今のところは見当たらないとも。

 

 男の耳にも直に聞こえている通り、ラクールの騒ぎはすでに、あの老人だけにこの場を任せておけるほどに大きくなっている。

 男がこんな所に来たのは、第一に、どちらかの報を待つ間の暇つぶし。

 第二に、これから奴らと一人で渡り合う事になるかもしれない老人のため、せめて騒ぎをもう少し大きくしておいてやろうという親切心、といったところか。

 

 すぐ近くの魔物共はどれも、男が本来持つ術ですでにねじ伏せてある。

 外の喧騒とは反対に、この場所では魔物共の唸り声がかすかに漏れるだけだ。

 

 しばらくの間は何もせず。

 ひたすら静かに、男が時を過ごしていると。

 

 連絡が入った。

 

 

 ──貴様の言った場所から、奴の気配がする。どうやらこちらにいるようだ。

 

 

 発信元は老人ではない方の男。

 とるべき行動が決まった男は、術で地面にねじ伏せられ、恨めしそうに唸る魔物を見下ろして言い、

 

「そう睨むな。私はこれから、貴様らを自由にしてやろうというのだ」

 

 扉にかけられた錠を、術で一斉に破壊。魔物の拘束を解くと。

 薄暗い檻の中から、文字通りに姿を消した。

 

 

 ☆★☆

 

 

 クロス洞穴最奥部のホール。

 羽音を響かせつつ、レナ達が待ち構えていた所に姿を見せたのは、ルシフェルではなかった。

 

「──ぴい!」

 

 翼はあるし、飛んでるけど。

 ルシフェルよりずっとちっちゃいし、そもそも人間の姿すらしていない。

 この場所めがけてまっすぐ飛んできたらしい、見るからにただの小鳥である。

 

「あれっ? あなたは……」

 

「とりぃ? どうしてこんなトコに、しかもこんな紛らわしいタイミングで」

 

 プリシスが言いつつ、レーダーと見比べるのも無理はない。

 ちょうどルシフェルらしき反応も、今にもこの場に現れようかというほどに近づいてきたところだったのである。

 

 ホールの入り口からぱたぱたと、やっぱりまっすぐこっちに向かって飛んでくる小鳥は、

 

「うわあ待って! それ以上こっち来たらダ──」

「ぴいい!?」

 

 プリシスが仕掛けた置き型ロケットパンチやらチサトが仕掛けた火炎放射器やらメルティーナが仕掛けた感知式発動魔法やら……、とにかくルシフェル来襲に備えて準備しておいた罠を、一通り発動させてからこっちに来た。

 

「ああーっ! 何やってんのよこのクソ鳥!」

「ていうか大丈夫、小鳥ちゃん!?」

「ぴ、ぴいい……」

 

 後ろを振り返り、冷や汗をぬぐう小鳥。

 当たり判定が小さかったため助かったらしい。

 

「危なかったわね……。もう、こんなとこまで来たらダメじゃないのよ」

 

 ギョロとウルルンがじーっと小鳥を見る中。

 気を取り直してぱたぱたと近くに寄ってきた小鳥に、チサトが声をかけた。

 

 というより……この小鳥を見た時の第一声もそうだが、まるで知り合いかのような口ぶりである。

 

「ぴい、ぴい」

「ん? なに? また私の顔が見たくなっちゃったって?」

「ぴいい、ぴい! ぴい!」

 

 みたいな事まで言ってるし。

 

「ちょっとねえ。そいつあんたのペットなの?」

 

「いや、そういうわけでもないけど。前に餌あげたら、なつかれちゃった的な?」

 

「……どうでもいいけどちゃんとしつけときなさいよ。あと今そういう場合じゃないから。集中しろ」

 

 言って、入り口の方にすぐ注意を戻すメルティーナ。

 チサトもすぐに、小鳥と遊んでいられる状況じゃないわねと気を取り直したようだが。

 

「ぴい! ぴい!」

「あーごめん。今忙しいから、また後でね」

「ぴい! ぴいい!」

 

 小鳥はしつこくチサトの周りを飛び回り。眼前でアピールするように、時々、首を横に振り振り。なんか必死にぴいぴい言っている。

 ホールの入り口の方に、くちばしで袖を引っぱるような事までし始め、

 

「ほえー。よっぽどチサトと遊びたいんだねえ、その小鳥ちゃん」

 

 横で感心したように言った、プリシスの方にまでぴいぴい訴えだした。

 

「アタシも無理だって。ほらもうルシフェルだって来るし」

「ぴいい!」

 

 そんな前方のやり取り……というかぴいぴい言ってる小鳥の事を、レナスはというと、登場の時からずっと何かが引っかかるような顔で見ていたのだが、

 

「……。もしかすると、あの小鳥は──」

 

「ええっ? もしかしてレナスさんも知り合いなんですか?」

 

「私が……? いえ、違うわ。ただあの小鳥は、私達に何かを伝えようとしているのではないかと」

 

 眉間に皺を寄せて、小鳥を見つつ言ってはみたものの。やっぱりこれも確固たる自信のある意見ではなかったらしい。

 前方を見たままのメルティーナにぴしゃりと言われ、レナスも気を取り直す。

 

「あんたまで変な事言うのやめて。気が抜ける」

 

「……そうね。この場で敵前逃亡は不適当だわ」

 

 

 みんなが見つめる先。入り口からは今度こそ、うっすらと人影。

 ついでに一層激しくなる小鳥の声。と一緒に、ピーという機械音。

 

「ん? 今のキミのじゃないよね? 誰のメッセージかな……後で見るっきゃないよね、もう」

 

 乗り込んでいる機械の中で呟いたプリシスも、気合を入れ直す。

 小鳥がやっと鳴きやみ、はっと息をのんだところで。

 ホールの入り口から、ルシフェルが現れたのだった。

 

 

「おやおや、これは予期せぬ再──」

 

 やはり緑色のローブ。その背中には、紋章力で形成された、堕天使のような禍々しい赤黒い色をした羽がある。

 現れるなりルシフェルは、芝居がかった仕草で言い、

 

「バーニングカーズっ!」

「えーい、やあっ!」

 

 さっそく投げつけられた名刺や石つぶてには、自身の羽で風をおこして対処。腐っても十賢者の二番手といったところか。

 

 同じくセリフをガン無視して詠唱中のメルティーナ、レナ。

 落ち着かなさげに、プリシス辺りの頭上をぱたぱたと滞空中の小鳥。

 最後尾で警戒中のレナス……とホール内の状況を、一通り、ルシフェルはちらと見渡してから。不敵に笑って言う。

 

「ふっ、問答無用か。少しは会話に興じるそぶりでも、見せてくれるものかと思ったのだがな」

 

「会話ぁ? そんなの後で十分だよ!」

「そうよそうよ! やっちゃいましょう、みんな!」

 

 言いつつも、こちらはメルティーナの攻撃術が完成するまでの時間稼ぎ中だ。本当は罠とか色々用意してたんだけど……なくなっちゃったものは仕方ない。

 言葉と一緒に、いろんなものを投げつけまくっているプリシス、チサト。

 近接攻撃メインのアシュトンは、今はルシフェルの反撃に備えて、最前列で味方を守る防御の姿勢だ。

 

「後でだと? ……ははは、クズどもが面白い事を言う! 本気でこの私から情報を得られる事を期待しているらしいな!」

 

「そりゃそうだよ! ていうか喋るじゃん勝手に、こっちが聞かなくても!」

「そうよそうよ! あなたはそういうタイプの悪役よ!」

 

 対するルシフェルは、飛んでくる攻撃を風で弾き返したり、羽を盾代わりにして防いだりしているだけ。場所が狭いために飛んで避ける事も、攻撃が激しくて反撃もできない様子。

 あと少しもすれば、メルティーナの術だって発動するというのに。

 なのに悪役笑いを続けていられるのは……

 

 まあ彼は元々、そういう感じのポジティブな悪役だったからねえと。

 普通に聞き流していたプリシス達の行動は、まさかの大油断だったらしい。

 

 

「くっ……ふ、ははは……。ようは話は、“目標”を追い詰めた後ですればいい、と。──同感だ」

 

 

 ルシフェルが言ったと同時。

 洞穴の地面が、ぐにゃりと揺れた。

 

 

「えっ──?」

 

「じ、地震!? でも、これって……!」

 

 

 不自然に、大きく揺れる地面。

 宙に浮いてる小鳥、ルシフェルを除いて、次々に体勢を崩していくレナ達。

 重たい機械に乗っているプリシスも、転げ落ちないようしがみつくので精一杯という状況だ。

 詠唱の隙なんか与えていなかったのに──

 

 

「ふっ、ようやくか。あの男め……この私を、ただの時間稼ぎに使おうなどと」

 

 洞穴入り口から真正面を見て、小さく何か言うルシフェル。

 

 ちょうど視線の先にいたレナスは、他のみんながすっ転んでしまっている中、かろうじて二本の足で立っているが。やはり行動が大きく制限されている様子。

 一方、詠唱妨害をされなくなったルシフェルの手からは、いかにもな禍々しい、憎しみに溢れた攻撃が放たれようとしていた。

 

「レナスさん、危ないっ!」

 

 真っ先に尻もちをついていたレナは、転びながらも、レナスを守る『プロテクション』をどうにか展開。

 

 それを気にもとめず。

 ルシフェルが片手で放ったエネルギー弾は、レナスではなく。

 レナ達の頭上をおろおろと滞空していた、小鳥の方に飛んでいく。

 

「ぴ、ぴい!」

 

 すれすれで避ける小鳥。

 外れたエネルギー弾が当たったらしい。時間を置かずに、レナ達の後方から、壁が崩れるような音が聞こえはじめる。

 即座にルシフェルがもう片方の手で放ったエネルギー弾は、今度こそ小鳥を直撃した。

 

 

「ぴ、ぎゃあ……」

 

「貴様は最初にこうしておくべきだったな」

 

 ぽたりと地面に落ちた小鳥を、なおも憎々しげに睨んで言うルシフェル。

 加減を間違えたわけでも、なんとなく目障りだったからでもない。

 今のは確実にあの小鳥を狙った攻撃だったが、

 

(どういう、こと……?)

 

 困惑したレナはもちろん、この場の誰もが、今起こった事について落ち着いて考えていられる状況なんかじゃなかったのだ。

 

 

「小鳥ちゃんっ! しっかりして! どうして、こんなっ……」

「え、なに? ウルルン、ギョロも。今なんて……」

「さてと──。よくよくうるさい女だな、貴様は」

 

 揺れ続ける地面。

 動かない小鳥に、チサトが必死で声をかける。

 と同時に、突拍子もなく騒ぎ出した魔物龍のギョロとウルルン。首をかしげて聞き取ろうとするアシュトン。

 背中の羽を、勢いよく広げるルシフェル。

 

 衝撃で近くの壁がぱらぱらと崩れ、彼の足元付近に落ちる。

 どうにか放ったメルティーナの攻撃術も、ルシフェルに届く前に、見えない何かによって弾かれた。

 

「ちょっ……それ」

 

「やけに協力的だな。いや、せっつかれていると言ったほうが正しいか?」

 

 面白そうに、やはり真正面を向き、今度は全員に聞こえる声で言うルシフェル。

 

「──くっ!」

 

 ここで何かに気づいたらしい。レナスが真後ろを振り向き。

 正面のルシフェルは、その場で大きく羽をはばたかせた。

 

 

「ははは! わかっているとも! 貴様の望み通り、今すぐそちらに送ってやろうではないか!」

 

 

 揺れる地面で、体勢を崩されていたところに、荒れ狂う暴風。

 偶然なのかわざとだったのか。先ほどルシフェルの足元にできていた石ころも一緒になって、プリシス達六人に襲いかかってきた。

 

「きゃっ……」

 

「うわあっ!」

 

 前列にいたが、機械搭乗中のプリシスは飛ばされず。

 踏ん張って耐えているところに、前からアシュトンが飛んできて。プリシスの機械にちょうど引っかかって止まり、

 

「……クソっ! 邪魔だ!」

 

 頭にたんこぶを作ったアシュトンが、暴風と機械の間で揉まれながら、悪態をつく一方。

 同じ前列で暴風をまともに受けたチサトが、後方に飛ばされていく。

 こっちも石が頭に当たったのか。倒れた小鳥とは別々に、力なく飛ばされていくチサトは、受け身すら取る様子がない。

 

 が、後列でもやはり運悪く、風の勢いを遮るものが何もない場所にいたレナにはどうする事もできない。

 なすすべもなく、一足先に、後方に飛ばされていくだけだ。

 

 

(望み通り……? そちらに送る、って……まさか!)

 

 飛ばされつつ、レナが振り返った先。

 先ほどまで、奥のホールへの入り口を埋めつくしていたはずの、岩や石くずは──

 見えない力で持ち上げられたかのように、すべて宙に浮いていた。

 

(だめ、このままじゃ……!)

 

 奥のホールまで吹き飛ばされてしまう。

 今さら気づいたところで、やはりレナにはどうにもできない。

 だけど──

 

 プリシスの機械の影で、メルティーナは反射的に風に耐えている。

 その近くにいた彼女だって、飛ばされずに耐えようと思えば、いくらだって出来たはずなのに。

 

「──っ、いけない!」

 

 暴風の直前まで、その後方の先にあるものを睨み据えていたレナスは。

 振り返り、気絶しているチサトを見るなり、動いたのだ。

 

 

 おぼつかない足元も構わず。

 自ら安全圏から、暴風の中に飛び込む。

 メルティーナが止める隙もなかった。

 

 気づいた時には、空中でチサトを守るように抱きかかえ。

 先に飛ばされていったレナに続いて、レナスも吸い込まれるように、不自然に浮いた岩や石くずのアーチをくぐり抜け、奥のホールの中へと消える。

 

 小鳥の体だけは軽く、ホールの入り口上方まで舞い上げられる。

 壁に叩きつけられた後、それまで浮いていた岩や石くずは一斉に浮力を失い。奥のホールへの入り口を、小鳥ごと、再び完全に覆い隠した。

 

 

 

「なっ……」

 

 吹きやむ風。地面の揺れも治まっている。

 いち早く動き出したメルティーナが、完全に塞がれている入り口に駆け寄るけど。すぐに何かに気づき、崩れた箇所を見て、ただ拳を握りしめる。

 

「ちょっと。なに、やってんのよ。体が勝手に、って、あの大バカ……!」

 

 まだ展開に追いつけないプリシスに、歯ぎしりして後方を睨むアシュトン。

 取り残された三人の耳に、ルシフェルの高笑いがしつこく響く。

 

「はは、どうだ! こんなにうまくいくとはな! ふはは、はは、あーはっはっは……!」

 

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