スター・プロファイル   作:さけとば

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念のため本文前に~

※二年ぶりの更新に今気づいてくださった方へ
一章辺りを少し改稿したので、以前のものより話数が短くなっています。
最新話はこの回ではありません。56話、三章17-1から続き更新しています。


18-2. その男の正体

 ルシフェルの高笑いが響き続ける、クロス洞穴内部。

 その場に取り残された三人のうちの一人、プリシスがおろおろしていると。

 急にアシュトンが声を張りあげた。

 

「だから言ったではないか! 我らが傍観者であるべきなのは、その時々によると!」

 

 というかアシュトンじゃない。

 この言い方やら仕草やら……久しぶりに見たけど、明らかに、アシュトンの体を乗っ取っちゃったらしいギョロとウルルンである。

 本人が気絶しちゃったから代わりに出てきた、という事なのか。

 状況が状況なだけに、彼らが出てきてくれたのはありがたいと思うべきなのだろうが、

 

「下手に隠し立てなどせず、皆にも事前に伝えていれば済んだものを! それがなんだ、この間抜けな事態は!」

 

「……っ、あの時点でここまでの大事になっているなど、誰が分かるものか! お前だって最初は、温かく見守ってやろうと言っていたではないか!」

 

「だから途中から意見を変えたのだろう! 私は言ったはずだぞ、あれは怪しすぎると、何度も! それをお前は……偏った情に流され、あのような阿呆の言い分を鵜呑みにして」

 

「ええい、過ぎた事をごちゃごちゃ言ってる場合か! 結局このような事態になるまで、傍観に徹していたのはお互い様だろう!」

 

 出てくるなり言い合いっこ、または説教を始める二匹。

 これもやはり知らない人からすれば、アシュトンが一人で延々怒鳴っているだけにしか見えない、奇妙な光景だが、

 

「なんだと! 言うに事欠いて責任転換とは!」

「説教は後で聞く、と言ったのだ! 今は非常事態だろう!」

「くっ……分かっている!」

 

 ずーっとルシフェルが笑い続けてる中。

 二匹は何やら意見がまとまったらしい。会話と状況の一部分だけが理解できた混乱中のプリシスがどうにか声に出して聞くけど、それも却下された。

 

「ね、ねえ! ちょっと待ってよふたりとも。隠してたって、いったい何の話……」

 

「説明も後だ小娘! 今はとにかく──ちっ、小賢しい真似を!」

 

 言ったところで、ふたりは何かに気づいたらしい。

 アシュトンの体で、双剣を持ったままの手を睨んで舌打ち。

 さっきからの奇妙過ぎるやり取りを気にも留めず、再び塞がれた入り口を、ずっと睨んだままのメルティーナに話しかける。

 

「女! 一刻も早く壁をぶち破るぞ!」

「言われなくても分かってるわよ! あーっもう最悪!」

 

 やっぱりメルティーナは、豹変したアシュトンの事などどうでもいい様子。

 それほどに焦っているだけ、といった方が正しいのかもしれない。

 この崩落した壁の向こうには、レナスを含めた三人がいるのだ。

 逃げ場のない空間。十賢者達の目的である彼女が今、対峙しているのは──

 

 とにかく向こうの三人と、早く合流しなきゃいけない。これだけはプリシスにも分かっていたので、声をあげたのだ。

 

「あ、そっか……壁をぶち破るんだよね? ならアタシに任せて!」

「ちょっと黙ってて今忙しいから」

 

 メルティーナはプリシスを見もせずに、苛立たしげに一蹴。

 かと思えば、一人で何やらぶつぶつ考え直し、

 

「……いや、この際、物理的でもなんでも合わせて、どでかい衝撃与えれば……いけるか? 何にもしないよりマシよね、たぶん」

 

 振り返って、プリシスが乗り込んでいる機械をまじまじと観察。

 やっぱり助太刀を頼む事にしたらしく、メルティーナが口を開きかけたところで、

 

 

「ふっ。貴様ら、この私を忘れていないか?」

「うっさい雑魚、すっこんでろ」

 

 そういえば、いつの間にか笑い声が聞こえてなかった気がする。

 

 

 すっかり背景と化してた彼の事を思い出したプリシスに、開けかけた口をそのまま彼への暴言に変えるメルティーナ。

 よく見ればギョロとウルルンが乗っ取り中のアシュトンも、なんか可哀想なモノを見る目である。

 

 その全体的なリアクションが嫌だったのか。それとも暴言の内容がとっても納得いかなかったのか。怒った様子のルシフェルは、地に足をつけたまま、

 

「自分の置かれた状況が分かっていないと見える! よほど死に急ぎたいらしいな! ──くたばれ、クズが!」

 

 そう言って、さっきみたいに暴風を起こそうとしたのだろう。

 カッコいい決めポーズでプリシス達を指差したまま、そよ風ひとつ吹かない、無風状態の洞穴内でしばらく硬直。

 

 

「ばかな!」

 

 今さら衝撃を受けたらしい。

 がっくり地面に手をつけるルシフェルに、とりあえず教えてあげるプリシス達。

 

「気づいていなかったのか? 先ほどから紋章術の類は無効化されているぞ」

 

「ていうか羽消えてるじゃん、地面に足つけてるじゃん。なんで使えると思ったのさ、亡びの風」

 

 

 現在のルシフェルの姿はというと、言うまでもなく羽なし。見た目はただの、ビジュアル系の人間である。

 少なくともプリシスは彼が高笑いをし始めてすぐ頃、彼の羽がうっすら消えてなくなっていったり、それから羽が完全に消えて、彼が高笑いを続けながらすとんと地面に両足をつけるところを普通に目撃したりしていたのだが。

 まさかの本人は気づいてなかったパターンだったらしい。

 

「ふっははは……。そういう事か、あの男め。『サイレンス』だと。事を確実に近づけるためには、周りがどう巻き添えをくらおうと知った事ではないと……。私は用済みだという事か。くくく……実にあの男らしい手だ──」

 

 ショックを受けている最中らしいルシフェルは、状況を口に出して説明。しかも、そんな時でも笑うのをやめない。

 なんかもうさすがのルシフェルって感じである。

 

 とりあえず紋章術の類を一切使えないらしいルシフェルは、ぶっちゃけ大して危なくもないのでもうどうでもいい。そんな事より、今は早く塞がれた入り口の向こう側に行かなきゃ……

 という気持ちになってるプリシス達全員の雰囲気を察したらしい。

 気を取り直して向こうの三人と合流する算段を話し合おうとしたそばから、

 

「私は十賢者だぞ! 私をいないものとして扱うのはやめろ!」

 

 すっごい主張してきた。

 仕方なく返事してあげようとしたプリシスを遮って、メルティーナが言うが、

 

 

「私は今、あんたなんか相手にしてるヒマないの。三度は言わないわよ。──すっこめクソ雑魚」

 

 

 彼女は本当はいい子なんだと、心から信じているプリシスでも身をすくめてしまうほどに、はっきりと伝わってくる苛立ち。

 チンケな悪役なら震えあがっておとなしくなったであろう。だが相手は、プライドの高さも十賢者級の十賢者ルシフェルである。

 

「ははは、あまりでかい口は叩かない方がいいぞ! そこの女!」

 

 どういうわけかやる気を出してしまった彼は、すっくと立ちあがり、メルティーナを指さして笑った。

 紋章術師なのに紋章術が一切使えない、しかも三対一という、絶望的な状況への悲壮感もどこへやら。今回は罠とかじゃなくて本当に困ってる感じなのに。さすがのポジティブ思考である。

 

「その杖、どうせ貴様も紋章術師なのだろう! 術以外にも貴様らを害せる手段を持つこの私と違って、紋章術の使えない貴様など、ただの非力な女!」

 

 とりあえず紋章剣技が使えない以外は普通に動けるアシュトンと、なんにも戦闘能力を制限されてないプリシスの事は気にしない事にしたらしい。

 セリフをガン無視して何かの詠唱を始めている、術師のメルティーナだけを相手に、

 

「まずは貴様から血祭にあげてやろう!」

 

 と高らかに宣言したルシフェルは懐から、なぜか短刀ではなく万能包丁を取り出し。そもそも位置的にアシュトン辺りに返り討ちにされるであろう現実も恐れず、意気揚々とこちらに向かってくる。

 

「私にあのような侮辱を投げつけた事、後悔しながら逝くがいい!」

 

 やれやれと双剣を構え直そうとしたアシュトン。

 標的にされたメルティーナは、いったん言葉を止め、

 

「地獄めぐりの片道切符、貴様の命であがな──」

 

 杖を前方にかざした。

 

 

「イグニートジャベリン!」

「な……ばかなあっ!」

 

 

 魔力で作られた、光彩を放つ何本もの槍。

 ルシフェルの頭上に瞬時に現れたそれは、彼の体めがけて一斉に降りそそぎ、たやすく地面に磔にした。

 

「ぐ、ばかな……そんな、ばかな!」

 

 槍はルシフェルの腕や足に突き刺さっているものもあるが、大部分は衣服を地面に繋ぎとめているだけ。どれも急所は避けられている。

 射線を対象からわずかにそらす改良がどうのとか、前にセリーヌと話し合っていたところをプリシスも見た事があるけど……どうやらこれが相手を殺さずに情報を引き出すための、彼女流の拘束術というやつらしい。

 

「理解できん、なぜだっ! なぜ紋章術が使える!?」

 

 一方、動きを封じられたルシフェルはというと、大混乱をきたしている様子。

 

「この場はすべて、あの男の手によって、紋章作用の全無効処理がなされているはず! この場にいる者誰一人として……いや、あの男自身ですら、今は使えるはずが──!」

 

 もちろん今はルシフェルの事より、閉じ込められた三人との合流が最優先だ。

 ひとまずこいつは黙らせておこうと、ルシフェルに近寄るアシュトンというかギョロとウルルン。

 メルティーナはその間に、ルシフェルを見下ろして言う。

 

 

「あんたクソやかましいから、特別に教えてあげるわ。あんたと違って、私が術を制限されていない理由」

 

 彼女の眉間には相変わらずの皺。

 教えてあげるというよりも、彼女自身あえて声に出して言う事で、今の状況をなるべく冷静に受け止めようとしていたのかもしれない。

 

「私の術が、“その男”が今使ってるあの壁の結界と、バリバリ同じ世界のものだからよ」

 

 

 

 ルシフェルはその後すぐ、アシュトンの当身によって気絶させられた。

 

 彼がやたらと口にしていた“あの男”とは、一体誰の事なのか。

 その時のプリシスにはまるで分からなかったけど、とにかくその誰かがこの塞がれた入り口の向こうにいて、閉じ込められた三人と対峙している事は嫌でも分かる。

 なにより……レナス以外の二人が、今どういう状況にあるのかという事も。

 

(みんな……。アタシ達が行くまで、無事でいてよね!)

 

 気持ちばかりが先走りそうになる中。

 メルティーナは向こうへの入り口に張られているという、強固な『結界』を打ち破れる術式の構築を、真剣な顔で続ける。

 そちらへの集中にともない、先ほど出現させた光の槍は消えている。

 アシュトンは念のため、プリシスから受け取ったワイヤーロープで体を縛り上げる、マントの一部を破りとり猿ぐつわにして噛ませる等、気絶しているルシフェルの無力化作業中。

 プリシスの役割は塞がれた入り口を、物理的に押し破る事だ。

 

 標準装備のロケットパンチじゃ土砂を掘り進められない。その他ビーム系の装備は論外。時間さえあれば、今乗っている機械を掘削専用に改良する事もできるけど……。

 

 ちょうどいい時間も道具もないしで、しょうがないから可能性に賭けて無人君を自爆させる方向で行こうとしたところ。プリシスの考えを察した無人君が必死な様子で、このホールの中に最初からあった、“ちょうどいい物体”を指さしたので、

 

「そうかその手があったね! でかしたぞ無人君!」

 

 これならさして時間をかけずにできる。

 迷わずそう思ったプリシスはさっそく、ギョロとウルルンが操っているアシュトンの力も借りて、その方法を実行に移すための準備にとりかかった。

 

 

 ☆★☆

 

 

 偽物のカマエルだらけの街中を走り抜け、マリア、クリフ、セリーヌの三人はラクール城内にたどり着いた。

 城の廊下もやっぱりカマエルだらけ。

 まずはレオンに会おうと、入り口近くにいた兵士の一人に話しかけると、

 

「レオン博士でありますか? レオン博士なら、自室の方にいらっしゃるかと」

 

「自室? この前あいつと会ったトコでいいのか?」

 

「はっ、あなたはもしやノッペリン選手!? このような時に城においでいただけるとは、なんたる幸運!」

 

 どうやらクリフの事を知っていたらしい。

 他二人が「ノッペリン?」「ダサいですわね」と小声で言う中。興奮しちゃった様子の兵士は、クリフの指差した方向を見て、ちょっとがっかりしたように言う。

 よく見れば顔にはそばかす。兵士勤めはあまり長くない人物のようだ。

 

「あ、すみませんはい、そちらの方向で合ってます。……レオン博士に会いに行かれるのですね? 闘技場じゃなくて」

 

「……。逆になんでこんな時に、俺が観客喜ばせに行くと思ったよ」

 

「い、いえいえ決してそういう事ではなく! そりゃ確かに生であの技もう一回見れたらいいなーとか思ってましたけど……そんな事より、闘技場は闘技場で大変なのです!」

 

「あ?」

 

 兵士いわく、城中にカマエルが現れて大変な事も確かなのだが。

 なんとこの騒動の影響か、闘技試合のために飼われていた魔物が何匹も、檻から逃げてしまったらしい。たくさんのカマエル退治に加え、今現在もその魔物達が闘技場の外にまで逃げないよう、倒したりなだめて檻に連れ戻したり、てんやわんやの最中なのだそうだ。

 

「魔物が逃げたあ?」

 

「は、はい。あの不気味な者達に怯えて、暴れ出した魔物が檻を壊しちゃったんじゃないかって。みんなは言ってますけど。それで、そのう……」

 

 できれば加勢に行ってほしいらしく、兵士が上目遣いでクリフを見てくる中。

 そう言われてもここはやっぱり、レオン博士に会う事を優先すべきじゃないかしらと。思っているマリアの目線のずっと先で、ちょうど慌ただしい様子の一団が横に通りすぎて行った。

 

 

「危険ですレオン博士! 十分な応援を待たれた方が──」

 

「そんなの待ってられないよっ。だいたい闘技場には、すでに多くの兵士がいるんでしょ?」

 

「しかし……! っ、こいつ!」

 

「ああ、そいつらはそこまで気にしなくていいよ。……今は移動が優先! もしも本物を逃がしちゃったりしたら、もっと厄介な事になりかねないんだからね! さあ早く早く!」

 

 

 何人もの兵士に、彼らに囲まれている一人の小柄な少年。

 途中で襲いかかってきたカマエル一体を返り討ちにし、視界を横切って廊下の端に消えた、早歩きの一団を見送った後。

 

「あ、レオン博士。闘技場の方に、行きましたね……」

 

「決まりだな。俺らも行くとするか」

「ええ。もしかするとさっそく、本物のカマエルに出会えるかもしれないわね」

 

 もちろん闘技場に向かうつもりの三人に、

 

「本当でありますか! ありがとうございます!」

 

 と目を輝かせて喜ぶ兵士。

 しばし考えたクリフは「言い忘れてたぜ」と言ってから、その兵士の肩に手を置き、

 

「お前はこんな非常事態でも持ち場をちゃんと守れる、いい兵士だ。だろ?」

 

「あ、う……はい、そうですよね。吉報をお待ちしております、皆さん」

 

 目に見えてしょんぼりしたのを確認してから、三人一緒に一団の後を追いかけた。

 

 

「あー俺もなー、同じ新米でも、“輝く稲妻”(シャイニングボルト)さんみたいに強ければなー」

 

 

 

 なんかぼやいている兵士の声を後に、三人はラクール城内を進む。

 さほど時間もかからず、闘技場の入り口より前で、レオンを含めた兵士の一団に追いつく事ができた。

 

「セリーヌお姉ちゃん、それにこの間のおじちゃんも! それと……」

 

「マリアよ。直接会うのは初めまして、かしら。この間のおじちゃんの仲間だと思ってくれればいいわ」

 

「おいこら。おじちゃんはやめろ、おじちゃんは」

 

 思いもかけない再会にほっとした様子を見せるレオンに、おじちゃん呼びに地味に傷ついている様子のクリフ。

 

「そんな事より。闘技場の方に本物のカマエルがいるかもしれないって、本当ですの?」

 

 さっそくセリーヌが聞いてみると、レオンの方も無駄な立ち話をしている時間が惜しいと思ったらしい。一度は止めた足を再び動かし、

 

「大体の事情説明も省略していいみたいだね」

 

 と前置きしてから、隣を歩く三人に言った。

 

「確実にいると分かったわけじゃない。ただ可能性は高いんじゃないかと思っただけだよ」

 

「偽物騒動に加えて、こんな都合よく魔物が檻から逃げ出すのはおかしいってわけですわね」

 

「うん。兵士達だってちゃんと見張っていたはずなんだ。確かに闘技場の方にもあいつらは大量に現れたそうだけど、あんなノロマにいいように檻の鍵を壊されるほど、うちの兵士は役立たずじゃない。……だから本物が、その偽物達の中に紛れているんじゃないかってね」

 

 レオンの説明が終わったところで、ちょうど全員が闘技場の入り口前まで着いた。

 

 見渡す限り、闘技場の中もやっぱりカマエルだらけなのだが。

 うろうろしてるだけに見えるそいつら以上に、暴れまくっている魔物達の方がどう見ても厄介な事は間違いない。

 見境なく暴れる魔物に、巻き添えでやられてるカマエルなんかもいたり。

 すでに中にいる兵士達も、大半は魔物達への対処の方にてんやわんやの様子だ。

 

「よりひでえ有様だな。仮にこの中に本物がいるとしてだ、それをどうやって見つけだせ、つうんだか」

 

 クリフが現場を見てうんざりしていると。

 

「まあカマエルは偽物でも、魔物自体は全部本物だし。人手が必要な事は確かだよね。いやあ、おじちゃん達が来てくれて本当に助かったよ」

 

「待てよ。まさかお前、俺らに城の不始末の尻拭いまでさせようってんじゃねえだろうな」

 

「ふう。分かってないなあ、おじちゃんは」

 

 レオンがさらにうんざりするような事を言う。

 大人げなく言い返すクリフだったが、

 

「……。それがしなくていい面倒押しつける側の言う事か? せめてそこは助けてくださいとか、力をお貸しくださいとかだな、ものの言いようってものが」

 

「だからそのカマエルをどうにかするためにも、ここの魔物達は大人しくさせなきゃいけないでしょ? 全部じゃなくても、ひとまずある程度くらいまでは騒動収めなきゃ本物と戦うどころじゃないんだから。いいから早く手伝ってよ」

 

 この流れで論理的思考なレオンが腰を低くしてお願いするはずもなく。

 さらにマリアが話をとっとと先に進める。

 

「ある程度騒動を落ち着かせたら、と言ったわね。そこから先、全く同じ見かけの偽物達と、本物のカマエルを見分ける方法は考えてあるの?」

 

「うーん……。そこに関しては、まだ検討中ってとこかな。一応これが怪しいんじゃないか、っていうのはいくつか見当つけてあるけど」

 

 答えを聞いたマリアは「天才レオン博士を信じるしかないって事ね」と呟き。

 さほど時間をかけず、判断したらしい。

 

「ここはあなたの言う通りに動くわ。私達は兵士達への加勢を含めた、あなたの護衛。あなたはその間に本物のカマエルに関する手がかりを見つける。これでいい?」

 

「うんいいよ。よろしくね、マリアお姉ちゃん」

 

 

 という事なので、いよいよ闘技場内に足を踏み入れた。

 

 まずは魔物が入っていた檻付近を調べたいとの事で、闘技場の奥まで、レオンを中心に囲んで移動。

 通りかかった所の近くにいた魔物やカマエルは、移動ついでにクリフやマリア、セリーヌが殴ったり蹴ったり撃ったりして、大人しくさせ。兵士達に「助かりました!」とお礼を言われつつ、さらに全員で固まって移動を続ける。

 

 周りが混戦状態だし護衛対象もいるしで、そこまで速くは動けない。

 目的地まであと半分はかかりそうな移動中、

 

「そういえばセリーヌお姉ちゃん、このカマエル達に紋章術は使ってみた?」

 

 とレオンが聞いてきた。

 ちょうど近くのカマエルを一体、杖で殴り倒したところだったセリーヌは気難しげな顔で答える。

 

「使ってなかったかもしれませんわね。今みたいに街の人達も紛れていましたし、それに……こんな感じですから。わざわざ使うほどでもなかった、というか」

 

 今も間違えて兵士達に当たってしまってもいけないので、遠くの敵への術での攻撃は控えている。

 近くの敵はというと。

 カマエルの偽物は、純粋な紋章術師のセリーヌですら殴り倒せる強さ。それ以前にそもそも前衛にはクリフがいるので、セリーヌが殴り倒せないような、魔物などの強い敵はまず近くまで来ない。

 

 というより、紋章術にはそもそも詠唱というものがある。

 簡単に殴り倒せるあげく、殴り倒してもちょっと間をおけば起き上がってきてしまうような敵を相手に術を使っても、その分レオンとの合流が遅れるだけだろう。

 

 そんなこんなでセリーヌは一度も紋章術を使う事なく、ここまでやってきたのだが──

 

 

「じゃあちょっと使ってみてよ。簡単なやつでいいから」

 

 レオンはすでに足を止め、ついさっき殴り倒されたばかりのカマエルを指して言う。

 

「何か思いついたんですの?」

 

「というより、ちょっとした実験かな。本当は僕ももっと色々試したかったんだけど、さっきはそういう事を言ってられる状況じゃなかったからね」

 

 今は頼もしい味方も増えた事だし安心。せっかくだからここで実験の続きをしておきたい、という事らしい。

 同じく足を止めたクリフとマリア、兵士達にも向けてレオンは言う。

 

「大丈夫、そんなに時間はかけないよ。さ、ちゃっちゃとやっちゃおう」

 

「分かりましたわ。それで、種類は? どんなのを使えばいいかしら?」

 

 セリーヌもさっそく倒れているカマエルに、杖を向けた。

 ちょっとだけ考えたレオンは、

 

「まずは雷、いや火かな? とりあえず火の紋章術でお願い。……あ、そうそう、狙うとこはこの辺でね」

 

 言いつつ、大真面目な顔で、カマエルのある部分を指さしたのだった。

 

 

「……それは、本気ですの?」

 

「まあ、もしかしたらって段階だけどね。他にもまだ可能性は考えられるし……。でも、やっぱりこれから試してみるのがいいんじゃないかなあ」

 

 出された指示につい戸惑ってしまったセリーヌにも、ごく冷静に。やはりその部分を指さしつつ、きっちりと念を押して。

 

「よーく狙ってね。ちゃんと、一本も残さず燃えるくらいの勢いで」

 

 

 ☆★☆

 

 

 山ほどいる同じ外見の偽物達の中から、本物のカマエルを探し出すべく、ラクール住宅街の方をあてもなくひたすらに駆け回っていたフェイト達三人。

 

 ガブリエルも本物のカマエルも見つからず。

 やはり相手は雑魚もいいところな、しぶといだけのゾンビもどきばかりだ。

 フェイトやディアスはもちろん、ソフィアですら殴り倒せるその雑魚共を、あいつでもないこいつでもないとひたすらに倒しまくっていた時。

 

 マリアから急に通信が入ったのだ。

 内容はというと、

 

『偽物のカマエルと本物の違い、それと偽物の方を消せる方法が分かったわ』

 

 という、とてもありがたいものだったのだが。

 

 

『依り代、というのかしら。偽物を本物に見せかけるために、本人の髪の毛が使われているらしいの』

 

「……髪の毛?」

 

『ええ。それも一本じゃなく、一人につき何本か。……十本くらい? とにかく偽物自身に生えている髪の中に隠すようにして、その髪の毛がまとめて編み込まれているのをレオン博士が確認したわ』

 

 

 とてつもない衝撃の事実である。

 

 

「偽物一体につき髪の毛十本? ……あのカマエルから、だと?」

『そう。あのカマエルからよ』

 

 珍しく本気で驚いているディアスにも、マリアは冷静に返事をする。

 さらに、

 

『ラクールは見ての通り、大量の偽物達で埋めつくされている。加えてカマエル本体の髪の毛は、これらの偽物ひとつひとつにすべて使用されている』

 

「……。ああ、確かに。そういう事になるな」

 

『総計はもちろん、かなりのものになるでしょうね。それほどの量の髪の毛が、元からあまり毛量の多い方ではない、本体からなくなっているとしたら』

 

 ごくりと唾を飲み込んだフェイト。

 

 

「つまり、本物のカマエルは──」

「偽物よりもっとハゲてるはず、って事ですか? マリアさん」

 

『家屋内部を除いたラクール城下とラクール城内すべてを合わせた面積に、面積当たりの偽物の数、それに一体につき使われている髪の毛の量。最初のカマエルにあったはずの毛量については完全に目分量だけど……ざっと計算しただけでも、現在のカマエルの毛量はほぼゼロに近いという結果が出ているわ。一目見ただけでも分かるくらい、偽物とは明らかに違う外見という事で間違いないわね』

 

 

 直接的な表現で聞いちゃうソフィアに、あくまでも冷静に答えるマリア。

 というかさっきから頑なに“ハゲ”という単語を使わず説明しているのは、マリアなりの相手への優しさなのか。それともむしろわざとなのか。

 

 気にはなったものの、今はもちろんそんな事を言っていられる場合ではない。

 マリアにならって、せいぜい真面目な言動を心がける事にしたフェイトは、仕切り直して話の先を促した。

 

「……。とにかく、よりハゲを探せばいいんだな。それで偽物の消し方は?」

 

 

 マリアの説明によると、とにかくその依り代になっている本物の髪の毛さえどうにかしてしまえばいいらしい。

 方法は偽物からその髪の毛をピンポイントでむしり取るなど色々あるが、偽物の髪の毛全体をまるごと燃やしてしまうのが一番手っ取り早いだろうとの事。

 視覚的にもレーダーの反応的にも、それだけで偽物の存在は消せるのだとか。

 

 それとその情報はフェイト達以外にも、レオン博士経由でラクール中にいる兵士や、冒険者にも伝えている最中だと言っていた。

 火の紋章術が使えない人達でも、たいまつさえあれば髪の毛は燃せる。

 彼らの力も借りて偽物の存在、つまりはレーダーに反映されてしまっている“ハズレ”を片っぱしから消してしまえば──

 

 最後に残ったのが本物の十賢者二人の反応、というわけだ。

 

 

 結局のところは人海戦術になるけども、まあこれが一番確実な方法といったところかしらねと。マリアは大体の状況説明を済ませ、そう言って通信を切った。

 火の紋章術が効果的と聞いたソフィアは、さっそくやる気である。

 

「よーし! ハゲおじいちゃんの髪の毛、片っぱしから全部燃やしちゃうんだから!」

 

 場所はもちろん住宅街の路地。

 杖を手にソフィアが声を響かせたところで、ちらほらと開いたままだった上階の窓が次々と音を立てて閉められた。

 

(確実に誤解されたな、今の)

 

 とは思ったフェイトではあるが。ここで家々を訂正して回る時間も正直もったいないので、気にしない事にしておく。

 たぶんもう少し時間が経ったら、たいまつを持った兵士の一団とかごっつい冒険者達とかも、

 

「ハゲはどこだ!」

「ハゲの髪の毛を燃やせ!」

「むしりとれ!」

 

 とか言いながら街中を練り歩く事になるんだろうけど。

 自分達はこの混乱を完全に鎮めるため、ラクールに来たわけじゃない。この混乱のもとをどうにかするために来たのだ。

 一般市民への事情説明等、細かい後処理はラクールの人達に任せようではないか。

 

 

 自分達が今これからやるべき事は、応援が来るまで、偽物を一人でも多く減らす事。

 とにかく減らし続けて、本物の二人が見つかったら、両方すぐにでも倒すか無力化して捕まえる事だ。

 カマエルの方は偽物がうざいので、無理に捕まえようとするよりさっさと倒してしまった方がいいかもしれない。

 

 クロスの方ではレナ達仲間も首を長くして待っている事だし、とっとと全部終わらせて、向こうに戻ってあげなきゃな。

 

 そんな風に考えていたフェイトには、この時点よりもっと前の段階ですでに、クロスにいる彼女達が大変な目に遭っていた事など──

 最初レーダーに反応があった十賢者二人のうち、今はどうやったって一人しか見つかるはずがない事など、少しも想像していなかったのだ。

 

 

 ☆★☆

 

 

 癒しの力が出せない。

 ずっと手をかざしているのに。いつもならなんにも難しくない事なのに。

 それになにより、

 

(──どうして? どうしてあなたが、ここにいるの?)

 

 レナには意味がわからない事だらけだ。

 

 意図的に塞がれた退路。

 崩れた入り口の前にしゃがんでいるのは、紋章術の使えないレナ。

 頭から血を流し、ぐったりと意識のないチサト。

 そんな彼女を片手で抱きかかえ、もう片方は剣を手に、前方を見ているレナス。

 

 三人それぞれを見てから、十賢者の長ガブリエルは言う。

 

「少々想定外のものまで付いてきたが、これだけ絞れればまあ上々だろう。……さて、後はこれからどうするかだが」

 

 

 彼の周囲を離れず浮かんでいるのは、二つの盾。

 どうしたらいいか分からないでいるレナに、無言でチサトの身を預け。地につけた左手を握りしめてから、レナスは立ち上がった。

 

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