スター・プロファイル   作:さけとば

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3-1. 美人は三日で慣れる

《──これまでのあらすじ。

 普通の服着てたおかげで怪しまれることなく「っぽいですね」と周りに言われたのでお嬢様キャラでいくことにしたメリルちゃん(仮)は今、お人よしが信条の格闘回復系ミニスカヒロインのレナちゃんおよびワタクシ系ぼんきゅっぼん紋章術師のセリーヌちゃんの二人に連れられ、元の世界へ帰れるんだか帰れないんだかさっぱりぷーな状態でアーリアに向かって旅をしています。まあぶっちゃけアレじゃ帰れないんだけどね。

 

 とりあえずマーズを出発した後、基本嘘つかないスタイルでお人よし二人との自然な会話をギリ成立させたメリルちゃんでしたが……

 

 

 うん、飽きたからもういい。

 てか、宿はいってからずっと動きないの超絶つまんな……

 

 じゃなくて他にいろいろ寄っときたいとこあるし、もうこっちはいいかな!

 仕方ないね! 私だって外野なりに忙しいのだもん! 

 ほんじゃまたね!

 

 ……あ。そうだ、最後に励ましエール的な“電波”でも送っとくかな。

 じゃ、やるよー。

 

 

 ──レナちゃん!

 キミはそのままでもキラッキラに輝いてるよ! これからも主人公オーラたっぷりでがんばってくれたまえ!

 

 ハイ次、セリーヌちゃん!

 キミもそのままで、うん、非常にいいと思います! これからもそのすんばらしいプロポーションを……という事で食べすぎには注意だよ、セリーヌちゃん!

 ケーキ買うならデザートはダメ! どっちか一個だけにしようね!

 

 じゃあ最後、メリルちゃん!

 えー、キミは……そうねえ、とりあえず応援だけしときますか。

 

 がんばれメリルちゃん! 負けるなメリルちゃん!

 どうせ今何言ったって聞こえてないと思うけど、一応言っておくね!

 

 これでも私はキミの──ミ・カ・タ、だぞ!》

 

 

 ★★★

 

 

 メリルさんが頑なに休憩を拒み続けた結果、レナ達がクロスに到着したのはまだ日もだいぶ高い頃。

 お昼を過ぎたばかり、という早さだった。

 

 一応急ぐ旅ではあるのだし、まだ中継地点とはいえこんなに早くクロスまで辿りつけた事自体は素晴らしいのだが。

 それにともなう代償に見合うだけの意味が、はたしてあったのかというと──

 

 正直疑問が残る結果となってしまったが、過ぎてしまった事はしょうがない。

 クロスに到着したレナ達は、お世話になったバーニィ達を野に返すと。うわ言のように迷惑かけた事を申し訳ながり続けるメリルさんを抱えて、まっすぐ宿へと向かった。

 

 ちょうどクロスにはレナの親戚のおばさん(育ての母ウェスタの姉妹だから、レナと血が繋がっているわけではないけど)が経営している宿がある。

 つい数日前にレナがボスマンと二人でアーリアからマーズへの旅をした時も、クロスを訪れた際にはその“なじみの宿”を利用している。街の入り口からほど近い位置にあるという事もあり、レナは今回も迷わずその宿を利用する事にしたのだった。

 

 

「それじゃあメリルさん、ゆっくり休んでくださいませね」

 

 てんやわんやの末に用意してもらった部屋の、窓際のベッドにメリルさんを寝かせた後。

 買い出しに行くから、といってセリーヌは宿を出た。せっかく早く着けたのだから、今日の内にやれる事をやっておこうというわけだ。

 

「行ってらっしゃい、セリーヌさん」

 

 メリルさんにひと声かけて出ていったセリーヌを見送った後。レナもまだおばさんに宿代を払っていなかった事を思い出す。

 今日はおばさんも含めみんな病人のメリルさんを優先したものの、この宿は本来前払い制なのだ。

 

「ごめんなさいメリルさん。わたしちょっと、おばさんにお金払ってこなきゃ」

 

 少しの間だけでもメリルさんを一人にしてしまう事に後ろめたさを感じつつ、レナは財布を持ってドアへと向かった。

 すぐに戻ってきます、と付け加えて言いかけ

 

「気にしないで休んでてくださいね」

 

 実際にはそう声をかけた。

 なんとなく、彼女にはそう言った方がいいような気がしたのだ。

 

「ありがとうございます、レナさん。少し……休めば、良くなるかと……」

 

 頭にぬれタオルを乗っけて、口を開くのも億劫だろうに、それでもきちんと受け答えしようとするメリルさんに、

 

「それじゃ、ちょっと行ってきます」

 

 と短く返し、レナは部屋の外へ出た。

 

 

 受付に向かったレナはさっそく財布からお金を取り出そうとしたが、おばさんにいらないと断られてしまった。

 初めに聞いた時、てっきり「身内相手にお金はとれない」とかそういった話をしているのだと思ったが。落ち着いて聞いてみるとどうやらそういう話ではなく、単に「もうセリーヌが支払っていたから」というだけの話だったらしい。

 

「だからいらないって言ったのに。……レナちゃんは本当にせっかちよねえ。人の話最後まで聞かないとこなんか、もうほんっとうにウェスタの若い頃そっくり」

 

 呆れたように言って笑うおばさんに、レナも「ごめんなさい」と照れ笑いを返した。早とちりぐせ自体はどうしようもない悪癖なのだけれど、それでもお母さんに似ていると言われたのがちょっと嬉しかったのだ。

 

「でもなんでレナちゃんがここにいるのよ? ボスマンさんの話だと……ああやっぱりそうだわ、もうしばらくはマーズにいるって」

 

 おばさんは手元の宿帳を確認して首をひねった。

 宿帳には本来レナがアーリアへ帰るはずだった日に、ボスマンの名前で二部屋分の予約がとってあるはずだ。

 

「それなんですけど、なんというか向こうで色々あって……」

 

 レナは言葉を濁しつつ、メリルさんのいる部屋の方に目をやった。

 レナの目線に気づいたおばさんが咎めるように言う。

 

「そうだわ、こんなとこで喋ってたらだめじゃないのレナちゃん。あのお嬢さんの看病はどうしたの」

 

「は、はい。そうですよね、今すぐ戻ります」

 

 言われた通りそそくさと部屋に戻りかけ、「あっそうだった」と振り返る。

 

「すみませんおばさん。わたしの分の部屋予約なんですけど、取り消しでお願いします。ボスマンさんの分はそのままでけっこうですから、一部屋分だけ」

 

「あーはいはい、それね。わかったわ。──ああ、お金ならいらないわよ」

 

「えっ、でも」

 

「いいのいいの。数日後の稼ぎが今日やってきただけなんだから。事情は知らないけど予定より一人分も増えてることだし、ウチとしちゃ全然損してないのよ」

 

 再び財布から今度はキャンセル料を取り出そうとしたレナに、おばさんはそんな理屈を並べたて、さらには「ほら、早く部屋に戻るんじゃなかったの」と急かしてきた。

 こうなってしまってはもうおばさんにお金を渡す事もできない。

 結局レナはおばさんに短くお礼だけを言い、すぐに受付を後にした。

 

 

 

 部屋の前まで戻ったレナはそーっと、音を立てないようにドアを開けて部屋の中に入った。

 今戻りました、といったような声かけも一切しなかった。

 ベッドにいるメリルさんの様子が見える位置まで静かに歩き。彼女が健やかとは言えないまでも、とりあえずは安定した容体を見せて眠っている事を確認してから、ほっと一息をつく。

 

 起こさないよう細心の注意を払いつつ、さらにベッド近くまで歩き。

 レナはメリルさんが眠っている、隣のベッドの上にそっと座った。

 

 

 それからずっと、レナはできるだけ静かにメリルさんのそばにいた。

 最初の内はメリルさんが今にも起きてしまうんじゃないかと気が気じゃなくて、看病どころか普通に息をする事さえままならない有様が続いた。

 しばらく経った頃にようやく、おっかなびっくりメリルさんの額にかかっているぬれタオルを外す事に成功し、次いで新たに冷たい水でぬらしたタオルを彼女の額にのせなおす事にも成功した。

 その間レナが心配していたような、彼女が目を覚ましそうな気配は全くと言っていいほどなかった。

 

 そこから先は、レナもだいぶ落ち着いてメリルさんの看病ができるようになった。

 起こさないよう、必要以上に世話を焼かないよう気をつけるといった消極的な看病っぷりではあったが、それでもそれなりの効果はあったらしい。時間が経つにつれ段々メリルさんの顔色は良くなっていき、最初は息苦しそうだった呼吸も、次第に深いゆったりとしたものに変わっていった。

 

 体調がどんどん回復していっても、メリルさんはレナの度重なるちょっかいによって目を覚ます気配もない。

 この頃になるとレナもすっかり安心しきって彼女の面倒をみていた。

 そろそろ額のぬれタオルの必要性もなくなってきた頃、換気のため開けていた窓が前触れなくバタンと大音を立てて閉まるという出来事もあったが、メリルさんはそれでも目を覚ます気配を見せなかった。

 一人心臓をばくばくさせながら窓に向かい、つっぱり棒をなおしつつ

 

(やっぱり、疲れてたのよね。昨日あんな大ケガしたばっかりだったんだもん、メリルさん。なのに……)

 

 とベッドで眠り続ける彼女のこれまでを思いだし、人前でしっかりしようとしすぎるのも考えものだと、レナは改めてそう感じ入ったのだった。

 

 

 

 その後荷物を抱えたセリーヌが部屋に戻ってきても、メリルさんは目を覚まさなかった。

 辺りがすっかり暗くなり部屋に明かりを灯す頃になっても、レナ達が近くのテーブルで静かに夕食をとっている間も起きなかった。

 

 全く反応を示す事なくベッドでぐっすりと眠り続ける彼女を見て、レナ達は明日の朝早くクロスを発つという当初の予定を変更し、もう一日この宿のお世話になる事にした。

 眠りっぱなしのメリルさんはついに、その日レナ達が寝る時間になっても目を覚まさなかった。

 次の日の朝になって、レナ達が起きた時もまだ眠っていた。

 

 彼女が目を覚ましたのは──

 レナ達がとりあえず身の回りの支度をして、朝食をとり、受付のおばさんに追加でもう一泊分の代金を支払い。

 それからいよいよなんにもする事がなくなって、「せっかくまる一日クロスにいるんですから」というレナのやや強引なおすすめによって、セリーヌが珍しく遠慮がちになりつつも外へ出かけていき。

 

 する事がなさすぎるレナが、部屋の中でひとり、やっぱりクロードの事を考えたり、そのままうたた寝なんかもしてしまったりなんかして……

 

 それからそれから、さらに数時間後。

 とうとうお昼の時間にもなった頃だ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

(……お腹すかないのかな、メリルさん)

 

 お昼ご飯は二人分必要なのか、どうなのか。

 というかあの時の寝ぼけ台詞の通りに、本当にこのまま三日くらい寝てしまうのではないだろうか。

 

 あまりの熟睡に、レナがそんな事を不安に思い始めた頃。

 ようやく目を開けたメリルさんは、少しの間、寝ぼけまなこな様子でちょうど視線の先にいたレナを見た後。

 焦点が合うとほぼ同時に、目に見えて焦った様子ではね起きた。

 

 

(なんか……「寝起きドッキリ第二弾、大成功~」って感じするわね)

 

 などというふざけた事を一瞬考えてしまいつつも、笑顔でメリルさんに挨拶し、

 

「おはようございます、メリルさん。体調はどうですか?」

 

 それから返事を待たずに、まだ戸惑いから覚めやらぬメリルさんのいるベッドまで近づき。喉が渇いているであろう彼女に、水の入ったコップを差し出す。

 メリルさんは勧められるまま少しだけコップに口をつけ、すぐに聞いてきた。

 

「レナさん、私は一体どれくらい」

「大丈夫です、一日しか経ってないですよ」

 

 レナが落ち着いて答えると、ショックを受けたように小さく呟く。

 

「一日? 私は、そんなに……」

 

 どうやらメリルさん的にも、「一日くらい寝っぱなし」というのは記録的出来事だったらしい。三日なんてそりゃもうとびきりとんでもない話だろう。

 

(あーやっぱり。そうですよね、さすがに三日は)

 

 と改めて心の中で安心してから、

 

「あなた方は、その間ずっと私の看病をしてくれていたのですね──」

 

「ずっとじゃないですよ、最初の方だけです」

 

 続けてレナはメリルさんが何か言うより先に、思い出したように口を開いた。

 

「でもちょうどよかったです。一人分だけ頼むのもどうなのかな、って思ってたから」

 

 何の事だか分からず戸惑うメリルさんに、

 

「お昼ごはん、メリルさんも食べますよね」

 

 と一応の確認をとり。

 否定の言葉が返ってこないとみるや、

 

「わたしもまだなんです。おばさんに貰ってきますね。……あっ、水差しの中にまだお水残ってるんで、足りなかったらそれ飲んじゃってくださいね」

 

 そう言うだけ言って、レナはさっさと部屋を出た。

 

 

 メリルさんちゃんとお水飲んでるかなーと気楽に考えながら、廊下を歩いておばさんのいる受付へ向かう。

 起きぬけのメリルさんに無言でじっと三十秒ほど見つめられ続け、おろおろとうろたえたあげく、お互いに気まずい思いでこっちこそなんかすみません合戦を繰り広げた昨日までのレナからは想像もつかない大胆さだ。

 

 この二、三日彼女と一緒に行動を共にして(向こうは寝てる時間の方が多いから実質まだ一日あるかどうかくらいだけど)やっと初対面の緊張がほぐれた、というのが一番の理由だが──

 

 彼女のようなタイプの人間におせっかいを焼くにはむしろ図々しいくらいがちょうどいい、となんとなく思い始めてきた事もあるだろう。

 

 向こうに遠慮させる隙を与えない。

 自分のペースに付き合わせる。

 初対面の緊張がほぐれたおかげで、レナは今朝がたセリーヌにしたのと同じような事を、メリルさんに対しても自然にやる事ができたのである。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 今日これからの予定はこのまま宿でだらだらする、である。

 病み上がりのメリルさんには念のためもう少しゆっくり休んでほしかったし、というかセリーヌの方が(レナがそう仕向けたからだけど)たぶん今日は遅くまで帰ってこないだろうしで、結局そういう事になるしかない。

 

 一日良く寝て今はすっかり元気そうだけど、落ち着かなさげな様子のメリルさんには

 

「アーリアのお客様もそんなすぐには帰らないですよ、きっと。一日のびたくらいじゃ何にも変わらないです」

 

 などとのん気に言い聞かせ、テーブルの上に二人分のパンとスープを置いて、レナ自身も一息ついて椅子に座る。

 

「食べましょうメリルさん。せっかくのスープが冷めちゃいます」

 

「セリーヌさんは、どうされたのですか?」

 

「大丈夫です。セリーヌさんならどこかその辺でおいしい物食べてますよ」

 

 向かいの席でやっぱり戸惑っているメリルさんを前に、レナは「いただきます」とスープをおいしく一口。

 メリルさんも戸惑いながらレナにならってスプーンを口に運んだところで、

 

「やっぱり気になります? セリーヌさんの事」

 

「……ええ。レナさんが教えてくださると言うのであれば、ぜひ」

 

 本気で気になるというより、言いたそうなレナにつられたような返事だったけど、そんな事気にしない。

 だってそういった理由でもない限り、メリルさんは自分が寝過ごした事をずっと気にしそうだし。

 

(……仕方なく教えるだけですから。メリルさんにならいいですよね?)

 

 この場にいないセリーヌに一応心の中で断りを入れてから、

 

「あっ。……食事中にお話しても、大丈夫ですか?」

「何か、問題でも?」

「問題、ってわけじゃないんですけど……ええと」

 

 食べながらお喋りって、とってもお行儀が悪いのではと今さら焦るレナ。

 お嬢様のメリルさんも、レナの考えている事が分かったらしい。まったく気にした様子もなく、落ち着いた笑みを浮かべて言う。

 

「一昨日の夜も、そうやって私にエクスペルの事を教えてくださいましたね」

 

「あっそうか。そうですよね、あの時ご飯食べながら普通に話してましたよね」

 

 そういえば確かに、そんな事を平気でやっていたような。

 あの時も今も嫌そうな顔を少しも見せていない辺り、どうやらメリルさんは人の無作法にいちいち目くじら立てるようなタイプのお嬢様ではないらしい。

 その辺も大体オペラさんと同じねと、ほっとしたような気持ちでスプーンを再び手にとり、

 

「それじゃ、食べながらお話しましょう、メリルさん。セリーヌさんは」

 

 もったいつけて言葉をいったん区切り、もう一口スープをおいしく頂いた後。

 レナはセリーヌの秘密を、メリルさんに打ち明けた。

 

「今、ある人とデート中なんです」

 

 

 そうなのだ。親御さんに「あの子いつまで一人身なのかしら」と心配されにされまくっているセリーヌだが。

 そのセリーヌには、実は恋人がしっかりといるのである。

 そしてさらに「そんなん別にそこまで必死に隠す必要ないじゃない」と思うかもしれないがこれがどっこい。隠す必要おおありなのだ。

 

 なんたってセリーヌのお相手は、さるとても高貴なお人なのだから。

 

 この事はセリーヌの両親はもちろん、クロードなどの彼女と親しい仲間達にもまったく知らされてなかったりする。

 それでまあ、なんでそんな重大な事をレナが知っているかというと。

 実はレナがふたりの恋のキューピッドだったりするからなわけで。

 

 本人達に「内緒にしてほしい」と頼まれた通り(これまで通りトレジャーハンターとして暮らしたいから、だとかいう理由は正直いかがなものかと思うけど)、レナはこの事を今まで一切、誰にも言ってなかったのだが……

 

 

「セリーヌさんもあれで結構不器用なところがありますから。今日一日クロスに留まる事になって、わたしはよかったと思ってるんです」

 

 セリーヌは今頃、そのさる高貴なお人とお忍びデートに勤しんでいる真っ最中だという事を、メリルさんに洗いざらい喋った後。

 レナはそう言ってにこやかに話をまとめた。

 

「そう、だったのですか」

 

「他の人にはくれぐれも言っちゃだめですよ。これ、本当に内緒なんですから。わたしもまだメリルさんにしか言ってないんです」

 

 さんざ喋り放題喋ったあげく、いたずらっぽく笑って内緒の仕草をしてみせるレナ。

 それまで戸惑いがちに話を聞いていたメリルさんも、それでようやく気を緩める事ができたらしい。

 

「ええ、分かっています。私はセリーヌさんを知っている方をレナさん以外に知りませんから、そういった意味でも秘密が漏れる心配はありませんね」

 

 若干楽しそうな笑顔を見せつつ秘密を守る事を誓ってくれた辺り、どうやら彼女も、そういった類の話は嫌いではないようだ。

 

 

 それからも、レナはぽつぽつとメリルさんに気楽な話をして食事を楽しんだ。

 直前までセリーヌの恋愛事情について説明していたものだから、自然とレナが話す会話の内容もそれに沿ったものになってしまう。

 話題作りのだしに使ったつもりではなかったけれど、こと現状がこうなっている事を思うと──もう「会話が弾んじゃってごめんなさい」とセリーヌに心の中で謝るほかない。

 

 真っ先に思いつく共通の話題が“それ”という事もさる事ながら、聞き相手のメリルさんが仕方なしに付き合っている様子ではなく、興味津々といった様子で話に耳を傾けてくれているのも、レナを饒舌にさせている要因のひとつだろう。

 

 

 お昼ご飯を食べ終わって、使った食器を返却しに二人で受付へ行って。

 メリルさんがお世話になったお礼を、言われているおばさんの方が恐縮するくらい丁寧に述べてから、二人でまたすぐ部屋に戻って。

 

 部屋に戻った後にも、またまたセリーヌの事を話題に出そうとしたところ。

 メリルさんがくすくすと笑ってレナをたしなめた。

 

 

「そういった事をあまり話しすぎると、己の身に返って来てしまいますよ」

「え?」

 

 不意をつかれたレナに向かって、メリルさんは楽しそうに話を続ける。

 

「レナさんにもそういう方はいるのでしょう? 確か──クロードさん、ですよね。あの夜、セリーヌさんがおっしゃっていた方の名前」

 

「あ……と。それは、ですね」

 

 レナは思いっきり言葉に詰まってしまった。

 彼女としては何気ない話題を振ったつもりだったのだろうが、今のレナにとって、この話題は……なんというか、少しばかりデリケートな問題というか、できれば触れてほしくなかった話題というか。

 

 メリルさんもそんなレナの様子を見て、レナの恋物語に何か事情がある事を察したようで、若干心配そうにレナを見ている。

 せっかく楽しくお話してたのにこんな事で気まずい雰囲気になってたまるものかと、レナはわざとらしいほどに元気よくメリルさんに話しかけた。

 

「そうですよね、いない人の恋愛話で勝手に盛り上がるのはナシですよね! 他の事話しましょう、メリルさん!」

 

 メリルさんもほっとした様子で「ええ、そうしましょう」とレナに同意する。

 そんなメリルさんの目の前で、レナはこれから自分達がする話題の希望を、長々と述べだした。

 

 

「なんかこう……どうでもいい話がいいと思うんです。未開惑星と先進惑星の違いとか、大事な人との付き合い方とか、向き合い方とか、そういう真面目な話じゃなくて……毎日会うような友達とだらだら喋るようなやつ! ただの世間話みたいな、とにかく今はそういうのをしたいんです」

 

 

 わざわざ口に出してみるのは、もちろんクロードの事をひとまず忘れたいからだけど。

 ちょっと言いにくい事を、勢いをつけて本人に言うためでもあったりする。

 

「ですからメリルさん」

 

 と様子を見守っていた彼女に向き直り、レナは唐突に言った。

 

「敬語じゃなくて、普通の言葉づかいでわたしと喋ってくれますか? 一番最初に、なんかへんな独り言を呟いてた時みたいに」

 

 

 言われたメリルさんは、しばらくの間かたまる。

 やや時間を置いてからようやく、

 

 

「……一番最初の、独り言とは」

 

「あと三日だけ寝かせて、とか。そのあと、間違えてごめんなさいって誰かに謝ってたり……ですかね?」

 

 正直に答えた後で、やっぱりかたまったメリルさんに正直に謝る。

 

「ごめんなさい、実はけっこう覚えてました。あまりによく分からなすぎて」

 

 

 いやレナも、言おうかどうしようかはかなり悩んだけど。

 本当に敬語でしか話せない人だったらともかく、寝起きの第一声ですでにそうじゃないのは知っちゃってたし。

 礼儀を気にしてるんだろうけど、たぶん年下の自分にまでかしこまった敬語、っていうのにもなんかずっと違和感あったし。

 この際だからはっきり言っちゃおうかなって。

 

 

「……やはり、私はそんな事を言っていましたか」

 

「そ、そんな恥ずかしい事じゃないですよ。お屋敷の人と間違えちゃっただけじゃないですか。寝ぼけてヘンな事言うなんて本当によくある事ですよ、誰にでも」

 

 やっぱりお嬢様的には大汚点だったらしい。漏れ出すようになんとか呟き、手で目頭の辺りをおさえてしまったメリルさんに、レナも一生懸命言い重ねる。

 

「……。そう、でしょうか」

「そうですよ」

 

 見ず知らずの人を“家族”と間違えて寝ぼけるくらい、なんにも恥ずかしくない事なのだと。

 励ましを受けてゆっくり顔を上げたメリルさんだが、その表情に実は多分に安堵の気持ちが混じっちゃったりなんかする事にレナは気づいていない。

 本来言いたかった事をあくせくと訴えるのに精いっぱいである。

 

「あの時の事はただ、話の引き合いに出しただけで。わたしが言いたかったのは、だからその──普通に楽しくお喋りするんだから、メリルさんもあの時みたいに普通の言葉づかいで喋ってほしいな、って……」

 

「そうですか……。私は恩人であるレナさんには、敬意を持って接するべきだと考えていましたが」

 

「いいですよ、そんなの。そんな恩人扱いされるほど大した事してないですし」

 

 なんとか落ち着きを取り戻してくれたメリルさんに、しつこいくらいに重ねてお願いしてみる。

 

「あっ、“さんづけ”もしなくていいですよ。ただの“レナ”でお願いします」

 

 そんなレナのしつこさに根負けしたらしい。

 メリルさんも笑みを浮かべて言ったのだった。

 

 

「レナさんがそこまで言われるのでしたら──。このような言葉遣いはかえって失礼にあたりますね」

 

「えっいや、失礼とか、そんな大げさな話にしたつもりじゃ……」

 

「ええ、そうね。“普通の楽しいお喋り”をする際には、堅苦しい敬語は足枷にしかならない。あなたの言う通り──私もそう思うわ、レナ」 

 

 

 何でもない事のようにさらっと言った後、あまりの唐突ぶりにきょとんとするレナを見て、

 

「やはり、これでは礼節に欠けますね」

 

 と少し考え込むようなそぶりを見せるメリルさん。

 

「そっそんな事ないです! さっきのがいいです、さっきの方でお願いします!」

「そう? 本当に、これでいいのかしら」

 

 真面目な様子で聞いてきたメリルさんに、レナは笑顔で頷いて言った。

 

「ええもう、それでばっちりです。それならメリルさんもわたしも、どうでもいい話を楽しくできると思うんです。──ええとそれじゃ、どんな話がいいかな……」

 

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