スター・プロファイル   作:さけとば

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2. 決戦に向けて

 この宇宙全部を壊そうとするガブリエルを追って、全力航行中のディプロ艦内。目前に迫る決戦を前に、彼に立ち向かおうという仲間達はみんな、それぞれの時を過ごしていた。

 

 医務室に残り、今も眠っているレナスとチサトに付き添っている人。

 艦の乗組員に指示を出したり、作戦を立てたりしている人。

 トレーニングルームで動きの確認をしている人や、武器の手入れを入念にしている人。または静かな場所で、ひたすらに精神を集中させている人。本番に響かないよう、今のうちに心身を休めている人。

 

 そんな中、プリシスはというと……

 少々思うところがあったため、医務室のすぐ隣の部屋を借り、そこに持ち込んだ例の一人用搭乗型機械の改良というか改装作業を、大急ぎで行なっている最中だ。

 

 足りない部品の数々は、手の空いていたディプロ乗組員の人に頼んで、『レプリケーター』で作成したやつを持ってきてもらう。

 助手にはおなじみのアシュトン。もちろん無人君も一緒だ。

 今回は特に、かさばる荷物の持ち運びなんかもあったりするので、彼の手伝いは非常にありがたいところだ。後ろに背負ってるギョロとウルルンは……やはりというかなんというか、さっきからずっと渋い顔してたりするけど。

 

 

「ギョロとウルルンは、ちゃんと分かってたんだよね。“彼女”の事」

 

 作業途中に、クロス洞穴での事を思い出したプリシスが聞いてみると。

 アシュトンの背中の二匹は、それぞれ渋い顔で言い返した。

 

「フギャ、フギャギャ」

「……ギャフ」

 

 と言われても何だか分からないので、アシュトンに通訳してもらったところ、

 

「えっと、“仔細までは知らん。存在に気づいていただけだ。あの女の中に別の者が憑りついている事など、我らの目から見れば明らかだったからな”……だって」

 

 ウルルンが言うところでは、エル大陸の地で久しぶりにチサトに会った時点で即、チサトの中に隠れている“彼女”の存在に気づいたらしい。

 しかも憑りつかれているチサトは、それにまったく気づいていない様子で。

 憑りついている方も、明らかに、誰にも気づかれないよう必死に隠れている様子だったと。

 

「……そっか。同じ憑りつき仲間だもんね。それで、ギョロの方は?」

 

「ギャフ」

 

「“最初は、我らのように、あの者も密かに人間達の暮らしぶりを見ているものだと思っていた。ならば大事にはすまい、と思い定めて……”」

 

 

 “彼女”の存在に気づいた時点ではまだ、十賢者達が誰かを探している事も知らなかったから、ふたりとも何も言わず、温かく見守ってやろうという事で意見が一致したらしい。

 意見が割れたのは、ホフマン遺跡に行った後からだそうだ。

 

 トロッコにひかれたハニエルは、ばっちりチサトの方を見て「見つけたぞ」などと最期に言い残すし。

 しまいにはそれから一日と経たずに、どこかの阿呆がやってきて、

 

『怖いお兄さん達と、ちょっとしたいざこざがあっただけなのねん。彼女いろいろあって今ナーバスになってるところだから、できればそっとしておいてくれればうれしいかなーって』

 

 のような事を、朝も早くから、わざわざ“彼女”の存在に気づいてる自分達に話しかけに来る始末。

 

 ウルルンは、もちろんむちゃくちゃ怪しんだ。

 この事を他のみんなにも言うべきだと意見変えをした。

 一方ギョロは……

 

 

「“下手に自らと境遇を重ね合わせたせいで、意固地になっていたのかも知れん”」

 

 今から思えばウルルンの言う通り、怪しまない方がどうかしてるレベルのうさんくささであったと。しかし当時はそれ以上に、そっと見守ってあげていたい気持ちの方が勝ってしまったのだと。

 さらにはハニエルを倒した段階まで、味方のピンチらしい状況がまるでなかったという事も、「内緒にし続ける」という判断の後押しをしてしまったらしい。

 仮に十賢者が来ても、返り討ちにすればいいだけ。

 自分達が、ちゃんと気をつけていればいいだけだろうと。

 

 そうやって強気に言い放った結果。

 クロス洞穴で。あの阿呆が、やたら慌てた様子で現れて。今度は一体なにをほざくのかと。そう思っていたら──

 

「……ギャフ。ギャフ」

 

「“私が馬鹿だった。事実関係を知っていたら、最初からお前達にも言っていた”って言ってる。なんかすっごいしょげてるみたい、ギョロ」

 

「……フギャギャ。ギャ」

 

「ウルルンは“お前達に何も言わなかったのは結局私も同罪。……いや、怪しんだうえでそれでも言わない事にしたのだから、私の方が罪は重いのかもしれん”だって」

 

 それは確かに、落ち込むのも無理はない話の流れだ。

 ウルルンもギョロと一緒になってしょげてしまっている辺り、ホフマン遺跡からのふたりの喧嘩はどうやらまるくおさまったらしい。

 仲直りできてよかったねと思いつつ。

 とりあえず今のふたりの話に出てきた、なんだか気になる部分については、いったん脇に置いておく事にして。プリシスは、二匹をできるだけ元気づけてみる。

 

「詳しい事情はふたりとも知らなかったんでしょ? わざとじゃないんだったら、仕方ないんじゃないかなあ……ってこういうの、アタシが言っていいのかはわかんないけど」

 

 プリシス自身も、現状がこうなった原因はいろいろやらかした自分にもあると思っていたりするので、正直胸を張って言いにくいところではあるが。

 でも、たぶんだけどあの様子からすると、レナスもきっと、自分達に謝ってほしいわけじゃなかったんだろう。

 プリシスの言いたい事を察して、アシュトンも背中の二匹に話しかけ、

 

「ごめんなさいの代わりってわけじゃないけど、今はとにかく僕達にできる事をする。それでいいんじゃないかな。例えば、こうやって……」

 

 途中で自信なさげにプリシスに聞く。

 聞かれたプリシスも思いっきり訝しげだ。

 

「でもこれ、本当に必要になるの?」

「……。そりゃあ、アタシもまさかとは思ったけどさ」

 

 一人で起き上がれるかどうか以前に、目を覚ますのかすら分からないようなあの状態で。一方、決戦の時はもう半日もなくて。

 常識的に考えればどうしたって無理だろう、とは思うものの。

 

 ──私が、いるから。

 

 さっき医務室で、レナスが“彼女”に向かって、「みんながいるから」の前になんかばっちり言ってたような気がする言葉。

 あの発言の意味するところが、プリシスが察しちゃった通りの事だったなら……

 

「アレがアタシの聞き間違いじゃなかったら、やっぱアレじゃん? レナスだってアタシ達の大切な仲間なんだから、そういう仲間外れはよくないってコトだよ」

 

 というかなにより、医務室に残っているメルティーナも、眠っているレナスの横で思いっきり頭を抱えて

「マジ意味不明すぎてもう……私なんで、あの時にこいつ連れ帰らなかったんだか……」

 って言ってた気がするし。つまりはそういうものだと考えた方がいいんだろう。

 プリシスはいっそう気合を入れ、助手達に言った。

 

「ほらちょっとここ、アシュトン押さえてて。ギョロは火吹いて。細くね」

 

「う、うん」

「ギャフ」

 

 

 とにかく今は、やらかしに落ち込んでいる時間などないのだ。

 プリシスもアシュトンも背中の二匹もみんな、大急ぎで力を合わせて、どんどん作業を続ける。

 

 最初にとりかかったのは、搭乗型機械の移動モード追加だ。

 着陸などの際に小型艦が『空中浮遊』をしてみせたあの動きを参考に、モードチェンジで足の部分を引っ込め、地面に向けた噴射機構で上下振動の少ない、滑らかな移動を目指す。

 

 実際の操縦やそれに必要な最終調整など、細かい制御はすべて無人君任せ。

 ディプロの人から「これくらいならいいけど。くれぐれも悪用はしないように」と借りた操縦マニュアルを必死にインストールもとい頭に叩き込んでいる最中の無人君をよそに、プリシス達はひたすら、種々の部品を組み込んだり、溶接したり配線を繋ぎ合わせたり。

 

 ある程度完成が見えてきた辺りで、心に余裕が出てきたので。

 さっき話の脇に置いておいた事を、プリシスが作業しつつ口に出すと、

 

 

「あのさ。さっきふたりが言ってた、“どこかの阿呆”ってもしかして」

 

「ギャフ」

「フギャ」

 

 二匹とも、苦虫を噛み潰したような顔で一鳴き。

 

「なに? なんだって?」

「それが……“あの阿呆の話はしたくない”、“思い出すだけでイラつくからな”だって」

 

 アシュトンも反応に困るほどの言いようである。

 

「えーと、なにもそこまで言わなくても」

 

「ギャフ」

「“お前達も実際に会えば分かる。あれはそこまで言っても何一つ問題のない、どうしようもない阿呆だ”」

 

「実際に会えば、って……」

 

「フギャ」

「“というより、これでも穏当すぎる見解だ”」

 

 二匹が口々に言う一方。

 プリシスはというと、少々複雑な心境だ。

 

 

「もう、会ったんじゃないの? クロス洞穴って……あの小鳥ちゃんだよね?」

 

「ええっ、そうだったの!?」

 

 

 途中の記憶がすっぽり抜け落ちているアシュトンはびっくりしてるけど。

 ふたりが言っているのはたぶん、クロス洞穴にいきなり飛び込んできた、あの小鳥の事なんだろう。

 チサトのところに危険を知らせに来て、でも結局ルシフェルが来て。それから……

 

 ガブリエルがいなくなった後、クロス洞穴からはすぐに出た。あの時の状況で、あの子の体を掘り出してあげる時間はなかったのだ。

 

 

「結局あの子は、あんな目に遭っちゃったんだからさ」

 

 そりゃあ確かに、二匹に口止めを頼んだという、小鳥の行動が正しいとはプリシスも思わないけど。

 なにもそんな言い方しなくてもいいじゃん、と二匹に言いかけたところ。

 

「フギャ」

「ギャフ」

 

「“ああそうだな。多少は痛い目をみたのだろうが、しかしそれだけだろう。あれで奴の頭がまともになるとは到底思えん。あれは根っからの悪質な阿呆だ”」

 

「“どうせ今頃は大した反省もせず、他人事のように宇宙の命運を我らに託したとかなんとか、含蓄のある言葉を言ったつもりでひとり馬鹿笑いでもしているのだろう。あれはそういう阿呆だ”……って、つまりそれって」

 

 一通り通訳したところで、気の抜けた声をあげるアシュトン。

 予想外の返事に、プリシスもきょとんと聞き返した。

 

「え……てことは、あの子の心配とか、特にしなくていい感じ?」

 

 という事はさっきからこの二匹の態度が冷たいのも、そういう事をちゃんと知っていたからだったのか。確かに、“彼女”の事も十賢者が狙っている事も知っていた辺り、あの子もただの小鳥ではなかったのだろうけど。

 あんな状況で、まさか無事だったとは驚きである。

 嘘や憶測、気休めを言っているわけじゃなさそうな二匹の様子に、プリシスがほっとする一方、

 

「“安心したか? 我らは落胆しているところだ”」

「“ことに事件の正しいなりゆきを、あの女の口からしっかりと聞かされた直後だからな”」

 

 その“阿呆”にうまいこと言いくるめられた二匹はというと、腹立たしさがぶりかえしてきたらしい。そんな事まで言っている。

 

「まあまあ、一応悪気があってやったわけじゃないんだから」

「それくらいにしてあげなよ」

「フギャ」

「ギャフ」

 

 なだめる二人に、ひたすら文句を言い続ける二匹。

 医務室を出る時に何かが引っかかるような顔してたフェイト達と同じく、根本的な事実が抜けてるような気がしないでもないけど。ともあれプリシスとしては、気にかかっていた事が一つ解決してなによりな気分である。

 

「フギャギャ」

「ギャフン」

 

「ええっ、そうだったの!?」

 

 プリシスが気を入れ直して、作業に集中する一方。

 二匹の言い分に、アシュトンはまたなんかびっくりしたりしてるけど。

 

「そっか。そういえばあのひと、『マジヤバい』なんて絶対に言わなそうだったもんね。……それも悪気はなかったのかもしれないけど……そういう事なら、ふたりの言ってる事もなんか」

 

「なに? ふたりともなんだって?」

 

 ごにょごにょ納得してるアシュトンが気になったので、いったん手を止めたものの、

 

「な、なんでもないよ! というか気にしない方が精神上いいと思うよ! ……うん、こういう話は全部落ち着いてからにして、今は僕達にできる事を頑張らなきゃね!」

 

 力いっぱい言われてそれもそうだなと思ったので、作業に精いっぱい励む事に。

 そうこうしているうちに部屋のドアが開き、外からチサトが、ばつが悪そうな顔で静かに入ってきた。

 察するに、何事もなく目を覚ました後で誰かにこれまでの事を教えてもらい、なんかいろいろ人と顔を合わせづらい心境、といったところだろうか。

 

「……。みんな、元気?」

 

「まあなんとかね。チサトは?」

 

「いやいや、全然元気だから。そもそも寝てただけだし、私」

 

「そっかそっか。元気ならよかった」

 

 第一声を間違えた感のあるチサトに、忙しいプリシスはさらっと返事をして。

 気持ちの面以外は言葉通りに元気そうな事を確認してから、チサトにも誘いをかける。

 

「見てのとーり、アタシ達、今手が足りてなくてさ。よければ手伝ってくれない?」

 

 

 到着時間までに間に合わせるつもりの作業は、機械のホバーモード追加だけではないのだ。

 クロス洞穴での事を踏まえて、手の片方を最初からドリルに換装しておきたいし。それになにより、とにかく隣の医務室からクッションや毛布などを借りまくって、元気な人間のお尻にも優しくない搭乗席をどうにかしないといけない。

 

 もちろん決戦に備えて、自分たち自身が最低限の仮眠をとるのも大事な事だ。

 やりたい事全部が完璧に仕上がるかは、ともかくとして。

 少なくともチサトが気にしているかもしれない、小さなお友達の事。これからの作業ついでに、話す時間だけはたっぷりあるはずだ。

 

 

 ☆★☆

 

 

 さらに数時間後。いよいよ目前に控えた、突入の時間。

 慌ただしく動き出した周りの気配がきっかけになったらしい。医務室から出ようとしたメルティーナの服の端をぎゅっと握り、意地で目を開けたと思われるレナスの第一声は、「よかった」だったそうだ。

 

 

「ちょっと。何よこの手は」

 

「……目が、覚めたら。神界に、いるんじゃないかって」

 

 クロス洞穴で言われていたように、眠っている間に強制的に帰らされていなくてよかった、という意味らしい。

 不機嫌に言い返すメルティーナに、横になっているレナスはやっぱり服の端を掴んだまま、

 

「帰りそびれただけだっつうの。で何なのよ、この手は」

 

「ありがとう、メルティーナ」

 

「だから、連れ帰るタイミングを見失っただけだっつうの! それもあんたが意味不明に庇いやがった、あのクソ女のせいでね!」

 

 照れ隠しでもなく、本当に帰りそびれただけだったらしい。

 転送位置が狂ってるだの移動速度マジありえないだの、バカなんじゃないのこの世界どれだけ広いのよだの、あのクソ女の言い分が気になったのがそもそもの間違いだったわだの。メルティーナは世界の違いにしてやられたと、うっかり宇宙艦に乗っちゃった半日ほど前の自分を振り返り、ぼそぼそと呟き、

 

 

「違う、世界……」

 

 

 レナスもつられて、ぽつりと呟く。

 一方で、言うだけ言って気を取り直したメルティーナは、

 

「分かってるわよ、ここまで来たら別の世界だからとか言ってる場合じゃないって事くらい。当初の予定通りにあんたの「力」持ってるやつ倒して堂々と帰ればいいんでしょ、だからその手離しなさいよ」

 

 またしてもレナスに同じ事を言ったのだが。

 まあこんなタイミングで起きたからには当然、大人しく「いってらっしゃい」とはなるはずもなく。

 

「そうね。今は……どっちだっていい」

 

 天井の方を向いたまま、ひとの服を掴みっぱなしのレナスは言ったのだった。

 

「彼を、止めましょう」

 

 

 

 その後の展開も想像通り。

 当たり前のように自分も行く気だったレナスは、メルティーナの小言を聞き流し。自力で起き上がろうとしたものの、これも案の定、立ち上がるどころか上半身をやっと肘で支えたところで早くも息切れ状態。

 

「だから、そんなんじゃ足手まといにしかならないって言ってんの。……つかあんた、「肉体以外は大丈夫だから」って。その言い訳、私とアリューゼ以外に通用すると本気で思ってるワケ? ガチで頭まで死にかけてると思われるわよ、マジで」

 

 とかいうメルティーナの呆れたようなツッコミも無視して、レナスはベッドから降りようとするし。

 このままじゃ這ってでも決戦の場について行きかねない。

 そういう状況の中、例の搭乗型機械をどうにか完成させたプリシス達が、満を持して医務室に登場したのだ。

 

 プリシス達の申し出に、レナスはともかくメルティーナは最初難色を示したけど。大抵の事は無人君がやってくれて、それなりの攻撃や防御機能も備えているので、搭乗者の安心安全はばっちり守られている事をプリシスが力説。それに合わせてレナスも、

 

「早く、彼から「力」を……取り戻したいの」と言い。

 メルティーナも最終的には、

 

「そりゃ、あんたが自分で行った方が手っ取り早いってのは、そうだけどさ。……ホントに任せて大丈夫なんでしょうね? いろいろと」

 

 やや疑いを持ちつつも、レナスのやりたいようにやらせてあげる事に。

 そうして一人ではろくに歩く事もできない状態のレナスも、無人君が操縦する機械に搭乗するという形で、きっちり決戦に参加する事になったのである。

 

 

 

 話が決まってすぐ後。

 プリシスとアシュトンはさっそく、隣の部屋に置いてある搭乗型機械を取りに行き。チサトは自分達ごと置き去りにされないよう、先に小型艦前に集まっているだろう仲間達に事情を説明しに、急いで医務室を出ていく。

 

 その場に残ったのはレナスとメルティーナ、の他にもうひとり。というか一機。

 

「って、あんたは行かなくていいの? 実際に動かすのあんたでしょうに」

 

 無人君は、話しかけてきたメルティーナを見上げてからこくりと頷く。

 どういう意味かは分からないが。慌てた様子もない事から、たぶん『ご主人様にも動かせるから平気』という事なのだろう。

 

 今は横になって体を休めているレナスの方を、じっと見る無人君。

 メルティーナはそんな無人君をひょいと持ち上げ、レナスに近づけてみせる。

 

「改めてご挨拶って事? 主人に似ずマメな性格してんのね、この使い魔」

 

 持ち上げられたまま、目の前のレナスにぺこりと会釈する無人君。

 レナスは、その様子をしばらく無言で見た後。

 ふとかすかに笑みを浮かべ、無人君に向けて手を伸ばす。

 

「握手しましょう、ねえ……。まあいいけど」

 

 メルティーナがさらに無人君を近づけてやり、無人君もきっちりと手を伸ばして、無事にレナスと握手成功。

 

 

 やたらと長い握手である。

 

 レナスはまるで、全意識を手に集中させているかのような。

 無人君もまるで、膨大な情報の処理に対応しているかのように目を白黒させ、ウィンウィンと音を立て、体はぴくりとも動かず。

 

 

「……。ちょっとあんた」

 

「この通りに、やってほしいの。できる?」

 

 さすがにメルティーナも色々と察するほどに、たっぷりと時間をかけた長い握手の後。

 ようやく手を離したレナスは、無人君に問いかけた。

 

 一方の無人君は、ひょいっとメルティーナの手から離れ。床に足をつけてから、あんぐりと口を開け。そこから取り出した、手のひら大の大きさの板金とマイ工具を使って、なにやらゴリゴリとお絵描き。

 そうして板金に刻んだ模様をレナスに見せつけ、無人君は『こんな感じ?』とばかりに首をかしげてみせる。

 

 お願いしたレナスの方もなぜか、すぐには返事をせず。

 自分の頭の中でもう一度確認をとるかのように黙り込んでいる横で。板金の模様を覗き込んだメルティーナの方が先に、

 

「あんたこれ、私も行くってそういう……」

 

 呆れ果てた声を漏らされたところで、レナスもようやく無人君の描いた複雑な模様が正しいと、なんか確認をとれたらしい。

 

「ええ。それで、いいわ。……あとも、お願い」

 

 ふうと息をついたレナスの枕元に、無人君はさっそく描いたばかりの板金をプレゼントし。ぴしっとした敬礼で、それを大事そうに胸に抱いたレナスに応えたのだった。

 

 

 ☆★☆

 

 

 ガブリエルがいる場所へは、小型艦を使って直接突入する。

 

 転送装置は危なすぎて使えない。

 いくらなんでもガブリエルが、自分達をノーガードで迎え入れてくれるわけがないからだ。どうせ使えるはずがないし、仮に使えたとしても、転送の途中で転送妨害をされる事だって十分考えられる。

 一度は戦力を分散されたせいで、してやられた相手のところにリベンジしに行くのだ。

 あえて自分達から二手に別れるというのならともかく、クロス洞穴の時と全く同じ失敗なんかしてたまるか、といったところである。

 

 一方でクロス洞穴の時には、その場の紋章効果をすべて無効化する『サイレンス』も使われたわけだが。

 こちらについては今度も使われる可能性よりも、紋章術師全員を数に入れない事による、戦力不足の方を心配した方がいいだろうとの事。

 

 

「ガブリエルが『サイレンス』を使ったのは、こちらの戦力を完全に分散した後。逆に言えば、彼はそこにいた六人全員を「創造の力」だけで、どうにかしようとはしていなかった。これはつまり──」

 

「僕達全員を全力で迎え撃つなら、向こうだって、紋章術は存分に使いたいはず。そういう事になる……よな?」

 

 とは言っても、これだけは絶対に読み間違えられない事だ。

 マリアの再確認に続いたクロードが、やや自信なさげにしていると。

 プリシスの作った機械の中、ふかふかの搭乗席の背に深く体重を預けて休んでいるレナスが、「ええ。それに……」と静かに口を開いた。

 

 

「彼は……きっと、『崩壊紋章』にこだわっている」

 

 

 体力を温存しているらしく、呟くような小声ではあるけども。

 確信でもしているかのような言い切りように、周りの人達も、レナスの言う事を信じてみる事にしたらしい。

 事前に決めていた通りに、紋章術師の人達も全員揃って、小型艦に乗り込む事になったのである。

 

「じゃ、やっぱ全員で行って、全力でブッ飛ばすっつう事で。決まりだな」

 

「もちろん。こんな所で指をくわえて待ってろだなんて、冗談じゃないですわ」

 

 

 操縦を今回はディプロの人に任せる事以外は、人数が多すぎるので二つの艦に別れて乗り込む事も、これまでと同じだ。

 片方の小型艦にはフェイトやソフィア、マリア、クリフ、ミラージュの未来人五人。

 その艦に先導される事になる十二人乗りの方の小型艦には、残りの十一人が乗り込む。

 

 

 出発の直前になって、レナスがプリシスの作った機械に乗って「私も行く」と現れた事。

 アリューゼ辺りは驚いてもいなかったようだけど、すっかり後は任されたつもりだったクロードやレナは、もちろんびっくりした。

 

「あの……。レナスさんは、本当に大丈夫ですか?」

「ディプロで待ってた方がいいんじゃ」

 

 いったん小型艦に乗り込んでしまったら、もう後戻りはできないのだ。

 喋るのも一苦労な本人には聞きづらいので、一緒に現れたメルティーナの方に小声で聞いたものの、

 

「さあね。言っても無駄じゃない? 少なくとも私はもう諦めたわ」

 

 こっちはこっちで、とっても投げやりな様子。

 しかもこちらの会話がしっかり耳に入っていたらしく、

 

「大丈夫。私の「力」さえ……取り戻せば、いいだけだから」

 

 とレナス本人に、休み休み言われた。

 メルティーナもさらに投げやりに、

 

「ああ、一応それはホントね。肉体以外は全然平気らしいから、こいつ」

 

 とにかくガブリエルから「力」を取り戻しさえすれば元気になれるはずなので、まあもう細かい事は気にするなと。

 言われたレナ達の方も、それならまあいいのかなと。

(……それは、全然平気じゃないのでは?)

 という本音は隠してレナスに話しかけ、小型艦に乗り込んだのだった。

 

「分かりました。けど、無理はしないでくださいね」

 

 

 

 あとに続いて乗り込む前に、メルティーナはちらと後ろの機械を見上げ、

 

「無理はするな、ですってよ。聞いてんの?」

 

 言ってすぐに、変わらず板金をひざ元に置いているっぽい中の様子に息を吐く。

 たらたらと足を進めつつ、

 

「やっぱぶん殴っときゃよかったわ、あのクソ女」

 

「え……?」

 

「あんたには言ってないっつの。あんたはクソ女じゃなくてバカ女でしょ」

 

 とかいうメルティーナの過激なぼやきにも、それが聞こえちゃったチサトとのやり取りにも全く反応を示さず。

 無人君が動かす機械の中。レナスは無言で板金を見つめ、そっと手を触れた。

 

 

 ☆★☆

 

 

 ええ。だいぶ、落ち着いて考えられるようにはなったと思う。けど、

 

 ──けど?

 

 本当にいいの?

 彼の考えてる事だって、手にとるように分かるわけじゃない。ただなんとなく、そうなのかもと、思っただけで。……もし間違っていたら

 

 ──大丈夫、間違ってはいないわ。あなたがそう思うのなら。

 

 そう、なのかな。それであっているのかな。

 それなら私、あなたの言う通りにできるのかな。みんなの力に、なれるかな。

 宇宙を守れるのかな。

 本当に彼を、止められるのかな。

 なにもできなかった、私が。私が創ってしまった、彼を……

 

 ──違うわ。あなたひとりで、彼を止めるわけじゃない。私がついてる。

 

 

 ……ありがとう。

 こんな自分勝手な弱音にまで、あなたは付き添ってくれるのね。

 分かってる。いくら言い訳したって、取り繕いようもないくらい、私は彼にもひどい事をしたんだって事。それでもやっぱり、今の私は……

 

 

 ──私も、守りたいの。だからお願い。

 

 

 わかった。

 私が知ってるすべてを、あなたに託せるようやってみる。

 あなたもどうか、無理はせずに。それとこちらこそ、虫のいい話だけどお願い。

 

 この宇宙を守りたいの。どうか私達に、力を貸して。

 




・おまけの報告
今回ようやくここまで投稿できたので、本編中のちょっとした裏設定を活動報告に載せてみました。
十賢者とオリキャラ関連のゆるめなやつです。気が向いた方はどうぞ。
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