まだ宇宙空間に創られたばかりと思われるそれは、クロードが覚えている『エナジーネーデ』とはまるで違う全景をしていた。
広大な闇の中に存在を示す、ただ一つの小島。周りには海も何もない。
島の建造物も、後方に高いタワーがひとつ建っているだけ。あとの地面はすべて、侵入者達を待ち構えるためにあるかのような広場になっている。
小島の崖からは、ところどころ金属らしき物も覗いてみえる。
おそらく小島の基礎部分は、すべて機械で出来ているのだろう。まるで星の形を成していないものを、あれで無理やりに維持させているという事か。
同じく自然の力で創られたわけではない、かつての人工惑星『エナジーネーデ』だって、惑星として自然に存在できる総質量や恒星からの向き、大気を逃さない惑星の構造など、色々な物事をちゃんと考えて造られていたのに。
数か月前に、クロード達が十賢者と激戦を繰り広げた『フィーナル』。そのさらに一部分だけを雑に切り取り持ってきたかのような、いびつな光景だ。
『宇宙崩壊さえできれば、あとはどうでもいいって感じだな』
今まさに、その目の前の『フィーナル』へと突入しようという二隻の小型艦。
後方にいる小型艦の中で、クロード達が事のなりゆきを静かに見守るしかない一方。さっきからずっと、もう一方の小型艦からの音声が届いている。
声の主は、最初のがフェイト。応えたのはマリアだ。
『こちらにとっては願ってもない状況ね』
確かに、当時のエナジーネーデがそっくりそのまま再現されていたら。惑星全体を包むクラス9もの強度を誇るエネルギーフィールドをぶち破っての突入はもちろん、そこからガブリエルのもとにたどり着くのも、今よりはるかに厳しい道のりだっただろう。
今目指す先にあるのは『フィーナル』、それもさらに切り取られた一部分だけ。あの中にさえ突入できれば、ガブリエルはもうすぐそこだという事だ。
あくまでも、無事に突入できれば、だが。
(……本当に、いけるのか?)
いくら目の前のフィーナルもどきを包んでいるエネルギーフィールド、すなわちシールドが当時のエナジーネーデより断然しょぼい、クラス9なんてあるはずないと推定できても、あれには間違いなくネーデ関連の技術が使われているのだ。
小型艦に乗り込む前の話し合いの時。フェイト達は、もちろん突入方法はそれなりに考えてあるって言っていたけど……
今はちらっとモニター越しに見えるだけだけど。
たぶん父さんが乗ってた戦艦カルナスのシールドくらいは余裕で上回っている。
というか地球のシールドも上回ってるかもしれない。
もはやクラス4くらいはあっても驚かない。
それくらいのやばい雰囲気がぷんぷんである。
(……とにかく、人間の技術の進歩を信じよう。そうしよう、うん)
こんなシールド、どうってことない。なんたってこっちには未来人のフェイト達がついているんだから。すごいぞ未来人、頑張れ未来人!
つい不安になりかけるクロードが、心の中で意味も分からず応援してみる一方。
もう片方の小型艦ではクリフが、ディプロの人になにやら指示を出し、
『ああ、量子魚雷二発だ。これでいけたら御の字ってところだが』
その指示通りに、後方にいる旗艦ディプロからフィーナルもどきに向けて、攻撃が立て続けに二回。
フィーナルもどきの直前の宇宙空間で、激しい閃光が発生して、すぐに消える。
結果、フィーナルもどきのシールドはびくともしていない様子だ。
『投げやりに創ったとは思えない頑丈さですね。腐ってもロストテクノロジー、といったところでしょうか』
『……やっぱそうなるか。このまま突入は確実にアウト、だな』
とミラージュの後に、ぼやくクリフの声。
今のは元連邦軍人のクロードも初めて聞く名前の、まさしく未来の兵器での渾身の攻撃だったと思うのだが、それでもダメだったらしい。
向こうの小型艦の方も、しばらくの沈黙。
が、早くも打つ手なしかというと、それも違うらしい。
『悪いな。後はお前らに任せたぜ』
致し方なしとばかりに言ったクリフの後に続けて、
『多少の消耗は仕方ないわ。どうせこうなる気はしてたわけだし』
『できるだけ全力を出しつつ、本番に向けて体力を温存するって……。やけっぱちな作戦だよな、これって』
とマリアとフェイトの声。さらに、
『ソフィア準備できたか? ……って言っても、心の準備くらいしかすることないけどさ』
『うん……。わたし達の愛と勇気が宇宙を救うと信じて、やってみる!』
ソフィアまでもが自分に気合を入れたらしいところで。クリフが両方の小型艦を操縦している人に、改めて指示を出したのだ。
『目標のギリギリまで近づけろ、一瞬の隙を狙って突破する』
『了解』
『っと、後ろの奴らも聞いてたな? て事で、俺らのピッタリ後ろをついてこい。こっちも速度は落とせねえから、死ぬ気でな』
『なっ……!』
最後のびっくりしたような声はフェイトである。
クロード達の小型艦を操縦しているディプロの人が「また無茶な事を。了解」とか慣れた感じで返事している中、
『ずっと繋がってたのか!?』
『そりゃ繋がねえでどうすんだよ。わざわざ情報認識にラグつくれってか? この一大事に』
『そ、それは……そうだけどさ!』
なにやらうろたえているフェイト。
よっぽどクロード達に聞いてほしくない会話を繰り広げていたらしい。
(まあ、初めて聞いた兵器の名前とか、あったしなあ……)
クロードが納得しちゃう中。
二人はひそひそと何かを言い合い、
『今さら隠す事かよ。どうせ本番でも同じモン、使うはめになるんだろうが』
『必ず使うと決まったわけじゃないし、なにより規模が全然違うだろ……。こんなの、普通の必殺技でごまかせる範囲を超えてるじゃないか。敵拠点のシールド相手だぞ?』
『はいはい。なら、もう直接あいつらにお願いするしかねえんじゃねえの』
と結局クリフが投げやりに言い、フェイトもさっそく必死に懇願。
『お願いだみんな、今のはみんな聞かなかった事にしてくれ! あとこれから起こる事も見なかった事にしてくれ! 頼む!』
もちろんこの小型艦に乗っている全員、程度は違えど、みんないい子である。
なんかよくわかんないけど、きっとこれからすごい事してシールドをぶち破ってくれるであろう彼らに対して、「どうしよっかなー」なんて返事をする奴はいない。
「わ、わかった。なるべく見ないようにするよ」
「頑張ってね三人とも、わたし達なるべく見ないようにして応援してるから!」
「どうでもいいけどさっさとやりなさいよ」
そうやってクロード達が、改めて静かに見守る事にした一方。
二隻の小型艦はシールドの影響を受けない、ギリギリの場所まで接近。
さして間を置かずに、フェイト達のよくわからないシールド突破作戦が展開されたのだ。
なるべく見ないようにはしていたけれど。
とりあえずマリアの合図で、ディプロの人がもう一回『量子魚雷』とやらを発射したのは分かった。というか会話が聞こえてしまった。
さっきのとは比べ物にならないほどの激しい閃光が起きて、クロード達の乗ってる小型艦も、衝撃でちょっと揺れて。
間髪入れずに、そのすぐ近くの宇宙空間上に、いきなり謎のワームホールみたいなのが出現。
その穴から出てきた青白いビームが、直前の攻撃で弱まったシールド部分をピンポイントで直撃。
見事シールドが消滅したのと同時に、前の小型艦が全速前進。
続くクロード達の小型艦も、新しくシールドが張り直される前に、フィーナルもどきの内部への突入にギリギリ成功したのだった。
☆☆☆
フィーナルもどきの広場の端に、小型艦が二隻とも着陸できた後。
すぐに小型艦の外に出たクロード達に対して、フェイト達の方は降りてくるまでに少し時間がかかった。
どれくらい時間があったかというと……
片腕がドリルになっている搭乗型機械に乗った無人君が、後ろの方で、ゴリゴリと床を削ってお絵描きをし始めちゃうくらいだ。
「ちょちょ、何やってんのさ無人君! レナス乗っけたままで!」
すぐに見咎めたプリシスに、それでもやめない無人君。レナスが小さく何か言っているところで、小型艦から残りの五人が出てきたのだ。
クリフとミラージュに続けて、心配そうに後ろを振り返りつつ降りてくるソフィア。
フェイトとマリアの二人は、揃ってしかめ面。
全く同じタイミングで自分のこめかみを指で押さえ、全く同じタイミングでつらそうに息を吐き、深呼吸しながらゆっくりと降りてきた。
「二人とも、大丈夫かい?」
「……あ。な、なんでもないよ。そんな事より、なんにも見てないよな?」
ぶっちゃけごめんだけど大体見ちゃったし。特に後から発射された青白いビームなんか、前に『パラケルススの円卓』でフェイトが使ってた技のやつにとてもよく似てたし。
そのせいで二人は今こんなに疲れてるんだろうとも、なんとなく察しているわけだが。
「……こんな事、やってる場合じゃないでしょ。早く行くわよ」
「でも……」
「自分の足で走れるし、銃だって問題なく撃てる。足手まといにならない程度には戦えるつもりよ」
「ああ、僕もだ。というか……そのうち治るやつだから、気にされる方が困るんだよなあって」
心配するレナに言い切る二人の表情はやはり厳しいけど、確かに、足はふらついていない。
強がりが半分、本当にまともに戦える自覚が半分といったところか。
「どのみち、ここで休んでる時間はなさそうだぜ」
広場の方に目をやっていたアリューゼが、背中の剣に手をかけて言う。
ガブリエルがいるだろうタワーが建っている側から、人影がぞろぞろと現れたのだ。
「うん……さっそく来たね」
人数は総勢九人。
こちらの行く手を塞ぐように広場に現れたのは、ガブリエル以外の十賢者全員だ。
相手方の様子を驚きもせず確認するアシュトンに続けて、プリシスも言った。
「あちゃー……。やっぱメルが言った通りの展開になっちゃったね」
“彼女”から得た『知識』がある今のガブリエルには、今までに倒されたはずの十賢者達を再び創る事も、おそらくは可能なはず。
……というか今だから言うけど、一度撃破したらそれっきりな今までが異常だったっていうか。
なんかよくわかんないけど、やられた味方の魂とかもまったく回収しに来てない感じだしまた創られる可能性も低いっぽいし、無駄にみんなの士気を下げるのもよくないっていうから今まで黙ってたけど。
でもって今なら創れなかった理由も色々わかるけど、ぶっちゃけ「元凶ホントにやる気あんの?」くらいの事はずっと思ってた、と。
ディプロでの移動中、眠っていたレナスに代わってメルティーナが予想してみせた通り──
もうずっと前に倒したはずのサディケルやミカエル達から、ボコボコにしてやった記憶もまだ新しいカマエルやルシフェルまで全員、何事もなかったかのようにピンピンとした様子でクロード達の前に現れたのである。
「また会ったな、クズどもめ。今度はあの時のようにはいかんぞ、ははは!」
「それにしても、またしても我らの宇宙征服を邪魔するとはな。いい加減見飽きたぞ」
「よほど灰にされてぇみたいだなあ、おい!」
「ワザワザヤラレニ来ルトハ、ゴ苦労ナ事ダナ」
「僕知ってるよ。救いようのない馬鹿って言うんだよね、こういうの」
こいつらの再出現については予想できていたし、驚きはないけど。
過去のと今回のですでに二回は自分達に倒されてるのに、未だにこういう強気な事を言ってくるのも「なんかもうこういう奴らだしな」って感じだけど。
「……はあ。無駄だと思いますけど、一応彼らに言ってあげたほうがいいんですかねえ」
みんなが呆れるやら真顔になるやらの中、困った表情で呟くノエル。
長々と付き合ってやる時間もないし、もしかしたら戦闘を回避できるかもしれないしで、クロードが代表して声をあげた。
「お前達……」
「なんだ、命乞いか?」
「ガブリエルの本当の目的に、まだ気づいていないのか!? 崩壊紋章が発動したら、お前達が征服するつもりの宇宙も全部なくなるんだぞ!」
さっきの言い方からも間違いない。
こいつらは思考回路も、過去の十賢者事件の時と全く同じ。
宇宙を崩壊させようとしているガブリエル以外の全員が、宇宙征服を目的にして自分達の前に立ちはだかっているのだ。
今こうしているのだって、どうせガブリエルに「宇宙征服のために、邪魔なあいつらを倒せ」とでも言われてきたのだろう。崩壊紋章発動までの、時間稼ぎに利用されているだけとも知らずに……
しかし案の定、十賢者達はクロード達の言う事を信じようとしない。
「何かと思えば、そんな戯言を……。崩壊紋章を発動させる? 愚民を支配するための道具にすぎん代物を、安直に発動させるわけがなかろう」
「お前達にとってはそうだろうけど、ガブリエルは違う! あいつはこの宇宙全部を憎んでるんだ! だから……!」
「ハニエル、御託はもう十分だろ? あいつらとっとと畳んじまおうぜ」
さっそく手に炎を纏わせて言うミカエル。
じれったくなって叫ぶチサトにも、平然と言い返すザフィケルとメタトロン。
「なんで信じないのよ! ガブリエルなら本当にやるって言ってるでしょ!」
「あいにく、俺が信じるのはこの剣だけだからな」
「ガブリエル様以上に、貴様らの方が信用ならんと言った方が理解してもらえるか?」
さらにルシフェルがこんな事まで言ってみせる。
「仮に、貴様らの言う事が真実であったとして……。ここで貴様らを見逃す理由にはなるまい? 目障りな貴様らの息の根を止めた後で、裏切り者のできそこないを我々全員で始末すればいいのだからな」
「なんだと……?」
「その場合……現在あの男にあるあの「力」はもちろん、この私が有効活用させてもらう事になるだろうな、ふはははは!」
こっちも昔と変わらず、つい最近ガブリエルに散々いいように使われたばかりでも、まだ懲りずに下剋上を狙っているらしい。
十賢者九人がいっぺんにまとめて出てきた事以外全部、いくらなんでも想定内すぎる敵方の反応に、ディアスとセリーヌが揃ってため息をついた。
「……時間の無駄だな」
「本当に……救いようのないなんとやら、ですわね」
彼らとの戦闘を避けられそうにない事も、事前にちゃんと想定できていたのだ。こうなった場合に自分達がどう行動するのかも、もちろんすでに大体は話し合い済みである。
人数に差があったおかげで楽に各個撃破できたこれまでとは違い、今度は非常に厳しい戦いになるだろう事も、みんな察していたりするけども……。
けどそれでもやらなければ、宇宙が崩壊してしまうのだ。
こればかりは各自、気合で頑張ってみるしかないだろう。
「どうだ、いけそうか?」
「ああ。この調子ならなんとかね」
「私もさっき言った通りよ」
今にも大規模な戦闘が始まろうという状況の中。
クリフが短く、フェイトとマリアに確認をとる。
横ではメルティーナがなんかやたら投げやりに、体力温存中のレナスに話しかけたり、プリシスはお絵描きの仕上げに入っている無人君に念を押したり、
「危なくなったらちゃんと知らせなさいよねって……どうせこれも、言っても無駄なんでしょうけどー?」
「無人君、レナスの事ちゃんと頼んだからね!」
レナスを乗せたまま搭乗型機械を操る無人君が、ちょうどその手を止めたところで、
「それじゃ……行くぞ、みんな!」
声をあげたクロードが、先頭に立って前に駆け出した。
すぐ後に続いて、レナやフェイト達も駆け出す。
クリフにミラージュ、ディアス、アリューゼ……レナスを乗せた無人君の機械も、一部を除いたほぼ全員が一斉に、十賢者達のところに向かっていったのだ。
例外として、セリーヌとノエル、メルティーナの術師三人はその場でそれぞれ詠唱開始。
詠唱中は隙だらけな彼女達を守るために、主力の武装をレナスに貸し出したプリシスもその場に留まり、爆弾を手に、いざという時に備える。
ある程度の距離までクロード達が迫ってきたところで、
「ようやくかよ。待ちくたびれたぜぇ!」
「全員マトメテ葬ッテクレル!」
挨拶代わりとばかりに、前方に炎を放つミカエル。
即座にアシュトンの背中のウルルンが、冷気のブレスで打ち払う。
「ウルルンっ!」
「てりゃあーっ!」
同時に高く飛び上がり、広範囲攻撃をしようとしていたジョフィエルの動きは、チサトが名刺を思いっきりぶん投げて阻止。
後ろの方でなんかしようとしていたカマエルの方は、やっぱりディアスが遠距離からすごく速い『空破斬』を放ちピンポイントでゴーグルを割って阻止。
この間に、前方に駆け出したクロード達全員がほとんど横並びに、十賢者達に肉薄しようかという位置まで迫る事ができた。
「ふっ、この程度は防いでもらわないと困るというものだ。だが、これはど──」
「サンダークラウド!」
「シャドゥサーヴァント!」
また余裕を見せてなんか言ってるルシフェルを無視して、詠唱を同時に終えたセリーヌとメルティーナの声が揃って響く。
十賢者達の頭上には雷雲。
足元の影からは闇の獣が突如現れ、それぞれが大きく口を開けて、一斉に影の持ち主達に襲いかかった。
「うわわっ、なんだこれ!」
「ち、離れろ!」
次々と闇の獣の牙に捕らわれる十賢者達。
うち何人かは最初の一撃をかわしたが。
魔力でつくられた闇の獣は、地上にその全身をさらしたところで、セリーヌの雷を浴び。消滅するどころかさらに勢いを増して、彼らに食らいつきはじめたのだ。
雷を帯びた闇の獣と、格闘している最中の十賢者達九人。
とっさに絶対防壁『メタガード』を自分の周囲に展開したメタトロンですら、周りを取り囲むように猛り狂う獣にことごとく行く手を阻まれ、自由に身動きができない。
術を発動させている二人とも、集中を切らさないようにしつつも強気な笑みだ。
「ぶっつけ本番でもなんとかなるものですわね!」
「さっすが私。て事で……あと頼んだわよ、英雄サマ達?」
二人の力を合わせた強力な術だけど、これだけで倒されるような雑魚はさすがにいない様子。
敵眼前まで迫っていたクロード達は、速度を緩めず、二人によってかく乱された戦場の中へとどんどんつき進んで行く。
味方の術に巻き込まれないよう、敵から最低限の距離だけはとって。間をすり抜けるように、前へ前へ。
「なっ……どういうつもりだ、てめえら!」
「落ち着けミカエル、今はこの術を振り払う事に専念しろ!」
敵に術を破られてしまう前に、できるだけ前へ。
つき進んだ味方のうち半数ほどは、今にも術を打ち破ろうとしている何人かの十賢者に対応するため、彼らのすぐ近くで足を止めて身構える。
残りの半数はそれでも足を止めず、さらにその先へ。
向かう先はもちろん、すぐ後方の──
「くっ、俺達を無視だと!?」
「そう来たか。これは面白い展開だ」
ガブリエルのいるタワー内部を目指して、先頭を全力で走るのは、クロードとレナ、フェイト、マリアの四人。
少し遅れて、一生懸命走るソフィア。そのさらに後ろ、無人君の操る機械が、ホバーモードで地面を滑るように移動していく。
そうやって最後列の十賢者、カマエルとサディケルの真横まで機体がギリギリ到達したところで、
「こんなもんっ……、効かねえんだよぉ!」
「奴らを先に行かせるな!」
「承知した」
炎を纏った両手で、輪郭のはっきりしない獣の体を掴み、今にも力ずくで引き裂こうとしているミカエル。
絶対防壁の中で、静かに獣の動きを観察していたメタトロンが、一瞬の隙をついて獣を斬る。
一番に動けるようになったのは彼だが、
「黙って通すとお思いですか?」
行く手を阻むのはミラージュ。
即座に振り下ろされたメタトロンの剣をかわし、拳を浅く打ち込んだ後、また距離をとって彼の前に下がる。
いくつかの攻撃の応酬。
メタトロンをけん制で足止めするミラージュを見つつ、
「二手に別れるとはなかなか、思い切った行動だが……くくく、まさかその人数で我々に挑むとはな!」
ひらりひらりと、獣を倒そうともせず避け続けているルシフェルの嘲笑。
「そんな女一人に手間取りやがって、だらしねぇぞメタトロン!」
遅れて闇の獣を始末したミカエルが、タワー内に入っていくクロード達の方そっちのけで、メタトロンの方を振り向いたところで、
「よそ見してる暇があるのか?」
「てめえさっきから、セリフが暑苦しいんだよこの脳筋!」
アリューゼの大剣による強烈な横なぎ払い。
腕の炎の火力を高めて防御したはいいものの、あまりの威力に大きく吹き飛ばされた先で、今度はクリフの一撃が炸裂した。
あっちいミカエルを勢いよくぶん殴る手には、懐かしの火属性半減鍋。攻撃にも防御にも卵料理にも使える優れモノである。
「て、めえ……!」
「親玉を倒さないかぎり、てめえらいくらでも生き返れるって話らしいからな。本命はあいつらの担当、俺達の戦場はここってワケだ」
少し離れた場所では、遅れて術を破ったザフィケルの相手をアシュトンが、ジョフィエルの相手をチサトがしている。
クロード達の方は、四人はもう完全にタワーの中に入った様子。
いつの間にか小わきにソフィアも抱え、二足走行モードに切り替わっているレナスを乗せた無人君の機械も、あと少しで辿り着けそうなところだ。
「おのれ……、おのれ!」
ハニエルの現在の相手はディアスだ。どうしてもクロード達の動きを阻止したかったのに散々に邪魔をされ、こちらも身動きが取れなくなっている。
「せめてあの者達だけでも──!」
「させるか、空破斬!」
目の前のディアスに隙をみせてまで放った、無人君の機械へ向けた遠距離攻撃もやはり、すぐ後ろから追いかけてきたディアスの衝撃波に打ち消される。
無人君の機械も後ろを振り返らず、えっさほいさと走り続け。
ようやく六人全員が、タワー内に無事突入したのを確認。
すかさずノエルが術を発動させる。
「それじゃあいきます、アースグレイブ!」
こちらも狙いは十賢者達ではなく、さらにその後ろだ。
先ほどまで無人君の機械がいた辺りの地面が次々と、何本もの槍のような形状に突き上がり、タワーの入り口を何重にも塞いでいく。
これから始まるだろう激戦の最中に、万が一にでもここの十賢者達の誰かが、クロード達の方を追いかけないように──
「貴様ら、小賢しい真似を……!」
「そうムキになるな。あの男も、虫けら数匹くらいは己一人で振り払えよう。──ふっ、それよりも」
完全に塞がれたタワーの入り口。
時間稼ぎももう終わりだ。戦いに備えてセリーヌとメルティーナの二人も破られる前に術を解き、残り数人の十賢者も闇の獣の拘束から放たれる。
「これはこれで愉快だと思わんか? わずかな優位を投げ捨てた愚か者共が。ふ、はは……なぶり殺しにしてくれと、我々に頼んでいるようではないか!」
声高に笑うルシフェルを先頭に、相対する十賢者は総勢九人。
こちらの人数はそれよりも一人だけ多い、十人。
確かに向こうが言う通り、個々人の実力をただ単純に足し合わせた場合の、総合的な戦力はこちらが下だ。
だけど、
「余裕ぶっこけるのも今のうちだぜ。なんたって俺らは超強えからな」
「そーだそーだ! 団結力皆無なアンタ達になんか負けないんだもんね!」
「まあ私的にも? こんな雑魚とっととしばいて、せいぜい出番があるうちにあいつのトコに加勢しに行くかって感じだしー?」
「そうよそうよ! 今までいいとこまるで見せられなかった私の鬱憤、とことんあなた達で晴らさせてもらうんだから!」
「お前達などに、俺達は負けん。……絶対にだ!」
ここにいる全員とも、それでも一歩も退く気はない。
前衛達は睨み合いつつ、じりじりと敵達との間合いを計り。後衛達は前衛の支援をするため、または敵に直接攻撃するために、さっそく術の詠唱を始める。
今度こそ、今にも始まろうという大乱闘。
詠唱する後衛達のすぐ背後では、先ほど無人君がドリルで地面に書いたお絵描きが、ほのかに光を放っていた。
☆☆☆
外観と同様に、建物内部も以前のフィーナルとは異なっていた。
両脇に長く続いていた通路も、その途中途中にある小部屋も見当たらない。
タワー内に入って少し先の中心部に、大きい昇降機が一つあるだけだ。
おそらくはこれに乗れば、以前のようにたくさんの転送装置を渡りつぐ必要もなく、直接ガブリエルの元に辿りつけるのだろう。不利な戦場を仲間達に任せてきたクロード達六人にとっては、やはり願ってもない状況である。
最後にタワー内に入った無人君の機械が、小わきに抱えていたソフィアをよいしょと下に降ろしたところで、すぐに六人全員とも昇降機に乗り込んだ。
「ご、ごめんなさい。わたしこんな……戦闘の前から足引っ張るはずじゃ、なかったのに……」
「ソフィア大丈夫か? 僕らも後ろをみる余裕がなかったから……」
最上階に向かって、ゆっくりと動く昇降機。
決戦のその時を待つ間に、普通にもたもたしたばかりに抱えられて運ばれちゃったソフィアが謝ったり。さっきの移動でさっそく疲れちゃったかもしれないレナスの事を心配したり。結局はいつまでも引きずっていられる状況じゃないので、お互いに励まし合ったり。
「過ぎた事より、今はこれからの戦いの事だけを考えましょう」
「そうだね。……ほらソフィア、マリアも頼りにしてるってさ」
「僕達もだよ。ソフィアもだし、フェイトとマリアの事も頼りにしてるからね」
口から出まかせではなく、クロードも『パラケルススの円卓』でこの三人の実力を見てきたり、一緒に連携を意識した戦闘を練習してきたりもしたのだ。
もちろんすぐ隣にいるレナも含めて、このメンバーで「創造の力」を持つガブリエルに挑む事に後悔はないつもりだ。
それでも若干の心配事というか。
ガブリエルを無事に倒せた後。「創造の力」を回収するはずのレナスが、なんだかすでに疲労の色を隠せなくなってきているのが不安というか、心苦しいというか……。
でも本人に体調を聞いても、意地でも「
揃ってやきもきしている、この場の人達の視線をばっちり感じ取ったらしい。
「……。これくらいは、大丈夫。だから……お願い。最後まで、見届けさせて」
まだまだ昇降機が動き続ける中。
案の定、喋るのも一苦労な調子で。
レナ達の位置からは見えない自分の手元を見たまま、レナスは言ったのだった。