スター・プロファイル   作:さけとば

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※今日二度目の投稿です


4-2. 決着

 九人いた十賢者達も、今はルシフェルとミカエル、ハニエルの三人を残すのみ。

 そのうちのハニエルは、ディアスとアリューゼに挟まれ、もはやセリーヌの術にやられるのを待つだけだ。

 

 後の二人も、程度の差はあれど、なんだかんだで満身創痍の状態。

 それにひきかえ、味方は十人とも無事だ。

 最初の大混戦の頃には多少の負傷者もいたが、今はもうそれもなし。いったん後ろに下がって、ノエルに治してもらう余裕すらあったという状況だ。

 

 

 そんな激戦もそろそろ終わろうかという、タワー外の大広場。

 先ほどまで光が途絶えていた、床に刻まれた無人君のお絵描き。それがとたんに強く輝きだしたのを見て、メルティーナが残念そうに言った。

 

「あーあ、援軍は間に合わなかったわね」

 

 心配になって聞き返すプリシス。

 メルティーナは気にするだけ無駄、といった返事だ。

 

「え……。みんな、そんなに危ないの?」

 

「逆よ、逆。勝ち確すぎてもう私の出番がない、つってんの」

 

 クロード達はもちろんの事、こっちもまだ一応は激しい戦闘の最中だ。今だって二人とも、喋りながらめちゃくちゃルシフェルに攻撃してたりするし。

 メルティーナが独自の手段でレナスと連絡をとっていた場面があったようにも思えないのだが。ずいぶんな言い切りようである。

 

「レナスが……クロード達も、アタシ達の事も紋章術で支援してくれてた、っていうのは分かったよ。そうじゃなきゃこんな状況、あり得ないもんね」

 

 プリシスも無人君のお絵描きを、ちらと見て言う。

 描かれているのは正確で、複雑な紋章だ。

 これとはまた別に、手元にある板金にも紋章を描いてもらったらしい。

 レナス自身は紋章術とは全く無縁な存在だから、いくら十分な知識を教えてもらっても、近くに紋章が描かれたものがないと術が発動できないのだ。

 

「で、術がいったん消えて。今は、この通りよ」

 

 メルティーナが指した床のお絵描きは、現在ばっちりと光り輝いている。

 

「これがどういう事か分かる?」

 

「どういう事、って……メルは分かるの?」

 

 向こうの戦闘が終わって、こっちの支援に全力を出せるようになったとか。

 もしくは、さっきまでレナスの限界が近づいてたけど、

 

「なりふり構わなくなったっつうか。意地を張るのをやめたんでしょ、さすがに」

 

 言っている意味がよく分からない。

 首をひねるプリシスに、メルティーナはさらに言う。

 

「考えてもみなさい。そもそも気合で起きてるようなやつが、間に合わせの紋章で、って……。なにがなんでも自分で発動しなきゃダメって、どれだけ効率悪いのよって話でしょ?」

 

 と言ってから、ぼそりと吐き捨てるメルティーナ。

 

「まあ、クソ女がクソ女すぎるから? 術の知識については、あいつじゃなきゃ扱えないんでしょうけど……いっそ肉体の方ぶん殴って本人気絶させとくってのは……するわけないわね、あいつが。やっぱだめか」

 

 前半ぼろくそに言っているのは“彼女”の事だろう。

 

 レナスに協力して、紋章術の知識を教えている。

 クロス洞穴では、意識のないチサトの体を借りて。強力な回復術を使った。

 あのエナジーネーデの──

 

 

「あっ。てコトは今のこれって、レナスじゃなくって……」

 

「そういう事。ネーデだかなんだかの術は、部外者より“ネーデ人”に、ってね」

 

 無人君の描いたお絵描きを守りながら戦うメルティーナは、とりあえず遠くのミカエルに向けて軽く援護攻撃を放った。

 近くに、大がかりな術を終えたばかりのセリーヌがやってきて、

 

「お待たせしましたわ! 次はあなたの番ですわね」

 

 と一息ついたのを皮切りに、メルティーナも今度はしっかり杖に意識を集中させ始める。

 

「さてと。ぼやいてもどうなるもんでもないし」

 

 目標は残り二人のどっちか。

 片方はクリフとミラージュがおさえていて。ディアスも加勢に向かっている。

 ていうかさっきからしつこく邪魔してやってるから飛ぶ事もできなくてなんかずっと「ばかな!」とか長台詞とか叫んでたりする奴の方だ。

 

 狙いを定めて集中を続けるメルティーナ。

 力いっぱい爆弾をぶん投げ続けているプリシスも、元気よく彼女に同意した。

 

「せめてあっちが心置きなく勝利に浸れるよう、残りもきれいさっぱり片づけとくとしますか」

 

「うん! レナスにもレナにも、こんなに応援してもらってるんだもん。アタシ達だって負けてらんないよね!」

 

 

 ☆★☆

 

 

 目の前のクロード達だけじゃない。

 広場にいるみんなが戦っている事だって、床に描かれた紋章を通じてわかる。

 

 急に視界が広がったような感覚。

 頭で理解するのじゃなく、心に直接届いてくる。

 

 どうやったら、みんなを守れるか。

 どうやったら、みんなの力になれるか。

 

 やり方は全部彼女が教えてくれるから。

 あなたにはそれをやれるだけの力がある。必要な紋章も全部、生まれた時からずっとあなたの中にあるって、わたしを励まし続けてくれるから。

 

 だからもう、何も難しい事じゃない。

 守りたい気持ちを、強く心に持てばいい。

 今もわたしに“ネーデ”の知識を託してくれている、レナスさんと一緒に──

 

 

 レナの心に届いてくるのは、今使っている紋章術に必要な情報だけだ。

 “彼女”の、エナジーネーデのすべてじゃない。全体のごく一部の知識。

 レナの精神に悪影響が出ないよう、“彼女”から教わった知識のうち必要なものだけを、レナスが選び取って伝えてくれているらしい。

 

 背中に当てられたレナスの手から伝わってくる“声”も、ひたすら自身の感情を押し隠しているように感じ取れるけど……。

 それでも、わずかに紛れ込んでくる彼女自身の心がある。

 

 ──みんなを、この世界を守りたい。

 

 わたしも彼女も、そしてもうひとりの“彼女”も。心はきっとみんな一緒だ。

 

 

 

 術を発動させているレナは、まっすぐにガブリエルを見る。

 呆然としていたガブリエルは、それから、少し前と同じように乾いた笑い。

 クロードとフェイトが彼の両側から迫ったところで、怒りとともに「力」を爆発させた。

 

「そうまでして、私を否定したいのか!」

 

 今度は吹き飛ばされず、防御の姿勢で持ちこたえる二人。

 防御術の内側にいるレナ達四人にも、攻撃は届かない。

 

「誰にも否定はさせぬ! 私の存在、私の心を!」

 

 傷ひとつつかない相手の様子にも構わず、ガブリエルは攻撃を続ける。

 

「あなたの、心ですって──?」

 

 聞き返すレナに、ガブリエルは怒り叫ぶ。

 

「憎い、すべてが憎い! 憎くて仕方がない! だから滅ぼすのだッ!」

 

「そんなものっ……、否定するに決まってるじゃない!」

 

 レナの声と同時に、ソフィアの放った『ファイアボルト』がガブリエルの肩を焼く。

 よろめきもせず怒りを爆発させ続ける、ガブリエルの目は血走っていた。

 

「こんな世界があったって、意味がない! こんな世界など、なくなってしまえばいい!」

 

 

 彼の心はもう、完全に“壊す”事に囚われてしまっているのだろう。

 だけど、可哀想だなんて思っちゃいけない。

 マリアの銃撃が、ガブリエルの脚をかすめる。

 

 後ろのレナスも自分の感情を出さないよう、ひたすらレナの術だけを支えている中。

 レナは、ガブリエルに話しかけた。

 

 

「ガブリエル……いえ、ランティス博士!」

 

「やめろ、私をその名で呼ぶな! 私は……!」

 

 拒絶されても、本人に届かなくても構わない。

 

「あなたにとってフィリアさんがどれだけ大切なひとだったか。心から理解する事は、わたしにはできないわ。だけど──!」

 

 どうしても自分が言いたいから、理由はそれで十分だ。

 彼を倒す事をためらわないように。

 彼の心を、行動を、完全に否定するために。

 

「その大切なひとが、もうどこにもいないからって、全部意味がなくなっちゃうのはおかしいでしょう!?」

 

「黙れ!」

 

 みんなの攻撃で散々に邪魔をされつつ、それでもガブリエルは足を引きずりながら、ゆっくりレナのところに近づいてくる。

 クロードとフェイトの剣が、ガブリエルの体を徐々に、着実に傷つけていく。

 

 絶対に黙らない。

 大切なひとを失った事が、すべての放棄になるなんて間違ってる。

 どんなに悲しくても、寂しくても。

 いつまで経ってもずっと忘れられなくても、それだけは違う。

 

 こんな事になる前に、他の道だってあったはずだ。自分で、選べたはずだ。

 なのに、あなたは──

 

「愛しているならわたしを絶対に忘れないでって、フィリアさん自身がそんな事言ったの!?」

 

「黙れ、黙れ、黙れ……!」

 

 思う限りの事をガブリエルにぶつけるレナ。

 近づきながら、ガブリエルは力の限りの攻撃を、レナの方へ向けて放った。

 

「わたしのいない世界を好きにならないでって、あなたの心を縛りつけたりしたの!? 違うでしょう!?」

 

 防御術にかかる負荷。背に当てられたレナスの手が、一瞬だけわずかに動く。

 強い心で攻撃を受け止めきったレナは、さらに続けた。

 

「新しくひとを好きになる事は、なにも悪い事じゃない!」

 

 

 こんな事、フィリアさんは絶対に望んでいなかった。

 セントラルシティで会った時だって、彼女は彼の凶行を止めようとしていた。

 あの時に会った彼女は、ランティス博士の記憶をもとに精巧に再現された存在で。しょせん紛い物にすぎないって、ガブリエルは言っていたけど。

 彼女の悲しそうな目は、嘘なんかじゃなかった。

 

「大好きなお父さんが、幸せになれない事を願う娘なんかいないのよ!」

 

 

 わたしのお父さんだって。生きていたらきっと、同じ事を言っていた。

 たとえ望まない形で、大切なひとと永遠に離れてしまったとしても。

 どんなに別れがつらくて、悔しかったとしても。

 

 

 忘れられなくても、乗り越えられなくてもいい。

 それでもどうか幸せになってほしい、って──。

 

 

「黙れ! そんな話はうんざりだ!」

 

 流れた血で自分の服を染めつつ、ガブリエルはなおも足を止めずに、叫ぶ。

 

「愛、幸せ……そんなもの知った事か! 私には、破壊の感情こそがすべてだ!」

 

「この世界にはみんなが生きてる! わたしが好きなひと達が、みんなが愛する、大切なひと達が!」

 

 もう避けられるはずもない。

 相手は傷つき、ぼろぼろで、十分に近い距離だ。

 術を発動させているレナはその場から一歩も退かずに、強い意志でガブリエルを見て言った。

 

「大切な宇宙を、あなたの癇癪で全部なかった事になんて、絶対にさせない!」

 

 

 言ったと同時に、マリアの銃撃。

 重力改変の力を込めたそれは、狙い外れる事なくガブリエルの足に着弾し、その場に留まり続ける。

 

「ちぃっ、これは……!」

 

 ガブリエルの動きを止めたと確認できた頃にはすでに、フェイトは大きく後ろに下がっている。

 その隙を埋めるように、クロードが後ろへ下がりながら空破斬を連発。

 

 二人の正面方向には、レナ達四人の姿がある。

 レナの防御術でも防ぎきれない大技を出す事を察したガブリエルが、足枷を外そうともせず壊れた笑いを浮かべるが、

 

「はっ馬鹿め、それで私を攻撃する気か? こいつらもただではすまんぞ!」

 

 そんな事はもちろん、こっちも織り込み済みだ。

 

「今だソフィア!」

「任せて!」

 

 フェイトの声を受けて、ソフィアがコネクションで目の前に異界の門を開く。

 レナ達四人の姿を完全に隠すほどに大きな、時空の穴。

 ガブリエルがその意図に気づくより先に、フェイトとクロードが全力の攻撃を放った。

 

 

「イセリアルブラスト!」

 

「吼竜破!」

 

 

 一直線に伸びる青白い光線と、その周りを登り竜のように取り囲んで進む無数の光の玉。

 二つの光が一つに合わさって、ガブリエルに向かっていく。

 動きを止められているガブリエルは、せめてもの抵抗として、両手を前方に突き出し、

 

 

「なぜだ、なぜ──」

 

 

 ガブリエルの体は、襲いかかってくる光に飲み込まれた。

 

 なおも勢い止まらずレナ達の方に向かってくる光の塊は、レナ達の直前で、ソフィアが開いた異界の門の先へとすべて綺麗に吸い込まれていく。

 そよ風ひとつ感じない場所で、レナに見えるのは眩しい光だけだ。

 ガブリエルがどうなっているかも分からない。

 

 それでも目をそらさずに、みんなへの術の維持を続けてしばらく後。

 目の前の光がようやく途絶えた。

 

「……やったか?」

 

 ソフィアが異界の門を閉じて、ふうと一息つく中。

 消えた光の向こう側では、フェイトと一緒にクロードが目をこらし、レナ達と同じ場所を見つめている。

 全員の視線の先にいたのは──

 

 

「壊し、たくない……? 失う……は、嫌……だと……。ふざけるな……ふざ、けるなよ……」

 

 

 ガブリエルの両手は存在が消滅していた。

 残っている肘の先も、淡い光の泡となって、次々に消えていく。

 脇腹もすでに大穴があいたように消え去り、肉体のところどころからも光の泡が、とめどなく漏れ出ていた。

 

「私は……こんなにも、壊したいのに。……べてが、憎くて、仕方ないのに!」

 

 激戦の余波を受けて、遠くの壁が崩れる音を立てている中。その場に立ち尽くす全員の耳にガブリエルの声が残る。

 ガブリエルは体中を崩れさせながら、それでもよろよろとレナスに向かって歩いていき、

 

「貴様が、私を……っ!」

 

 いっそう声を荒げたところで、銃声に阻まれた。

 マリアが油断せずに、ガブリエルの頭を撃ちぬいたのだ。

 我に返るクロード達の目の前で、床に倒れ伏したガブリエルの肉体から光の泡が出ていく。

 

 

「そう……くった、くせに──」

 

 

 次第に空気の中に消えていく存在。

 彼の最後の言葉はとても小さく、レナ達の誰にも聞き取る事はできなかったのだけど、

 

 

(──えっ?)

 

 

 ガブリエルを倒せた事を確認できた直後。ずっとレナの背に当てていた手を、レナスが下ろしたのだ。

 彼女は最後まで気を張っていたつもりなのだろうけど、その頑張りにも限界があったのだろう。

 最後の最後、レナの背から手を外した時に、一瞬だけだけど──

 

 

 感じたのは後悔、懺悔と憐れみの思いに、強く引きずられる“彼女”の心。

 倒れたガブリエルに向かって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼の存在を否定するしかできなかった事を謝り続ける“彼女”に、

 

 ──大丈夫。あなたの願いだって……絶対に、おかしい事なんかじゃない。

 

 寄り添うように。なにより自分自身にも言い聞かせるような、レナスの心。

 

 

「私を、あそこに……」

 

 疲れきった状態のレナスはやはり、その事には気づいていないのか。

 すぐ近くの無人君に、ガブリエルのところまで連れていってもらうよう頼んでいる。

 

 ふわふわと浮かびあがっている自分の「力」の回収に向かう、レナスを乗せた無人君の機械。

 レナが戸惑う一方。

 他のクロード達四人はその様子を、同じくガブリエルの死を悼むように、それでもそれ以上にこの宇宙を守る事ができた、晴れやかな顔で見送りかけ──

 




次回で四章終了。明日投稿予定です。
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