スター・プロファイル   作:さけとば

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5-1. 『このままじゃ宇宙マジヤバい』

 一瞬、場がしーんと静まり返った。

 「未来から来ました」って、いきなりそんなこと言われたらそりゃそうなるだろう。

 なに言ってんの、このひと状態である。レナもそう思った。

 

 

「……もう一度言ってくださらない?」

 

 沈黙を破ったのはセリーヌだった。眉間にめちゃくちゃしわが寄っている。

 答えたのはフェイトではなくクロードだ。場全体に話しかけるように言う。

 

「信じられないのも無理はないけど、彼はふざけているわけじゃない。本当に未来からやって来たんだ。“タイムゲート”を使って……」

 

 惑星ストリームにそれはあるという。

 なんでも、時代を行き来できる“ゲート”だそうだ。宇宙はほんとに広い。そんなものまであるとは。

 

「僕も最初は信じられなかったけど、彼らは妙に僕らの事に詳しくてね。そのうえで“タイムゲート”を通って来たなんて言われたもんだから、信じざるを得なくなったわけだ。父さん達の事もあるし」

 

 説明を終えた後、クロードはしみじみ言った。

 

「そんなもの、おとぎ話だと思ってたんだけどな」

 

(クロードのお父さんが? その“ゲート”と関係あるの?)

 

 ふと気になり横にいるクロードをちらっと見かけたものの。

 クリフが話しだしたので、レナもすぐ視線を前に戻した。

 

「“タイムゲート”の事はトップシークレットだからな、お前さんが知らなくても無理はねえさ。俺だって、実際にこの目で見るまでは信じてなかったんだからな。……誰でも気軽に時間旅行なんて出来ちまったら、大変な事になるっつーのはなんとなく想像つくだろ?」

 

(うーん、確かに……そうかもしれないわね)

 

 過去に飛んで好き勝手に動いた結果、本来の歴史と矛盾が起きて世界が消滅、なんてのはおとぎ話でもよくあるオチだ。“ゲート”の存在を一般の人に隠しておくのは当然の事なのだろう。

 言われた通りに想像してレナもなんとなく納得する中、クリフは話を続ける。

 

「まあ、そんなわけで。俺達は“タイムゲート”を通って、この時代のエクスペルにやって来たってわけだ。ちょうどこのクロードって兄ちゃんはその辺の事情に多少理解がありそうだったからな。この兄ちゃんから説明してもらった方がすんなり納得してもらえるんじゃねえか、って思ってよ」

 

 最後の方はレナに向けた説明だったので、「はあ、そうだったんですか」とあいまいに返事をした。

 あの時こそこそ内緒話をしていたのは、つまりそういう事だったというわけだ。

 

 確かに知らない人にいきなり「私は未来からやって来ました」と聞かされて、素直に信じる人なんてめったにいない。

 普通は「うわやだ、何このひと」ってなると思う。

 現についさっき、レナも信じなかったし「何このひと」って思った。クロードにちゃんと説明されなかったら、今も信じていなかったと思う。

 

 十分に納得のいく理由だけど。

 

(納得はできるわよ? でも、やっぱり……納得いかないんですけど)

 

 そんな紛らわしい内緒話されたおかげで、レナはずっといらない心配をしてうだうだ悩んだり、落ち込んだりしていたのだ。人にまで気使わせて。

 それらを思い出すとどうしても、最初からわたしにも隠さないで話してくれればよかったのに、と思わずにはいられない。

 

「それじゃ、地球から来た、って言ってたのは──」

 

「ああ、そりゃ途中でこいつら拾いに地球に寄った、っつうだけの話だ。聞いた事もねえ星の名前だすより、「未来の地球から来ました」って言っちまった方が分かりやすいだろ?」

 

 とクリフはフェイト達の方を親指で指して言う。

 さらに納得のいく説明をされ、レナとしてはもうむうの音もでない。

 そしてさらにフェイトに残念そうに言われる。

 

「本当は君にもすぐ話を聞くはずだったんだけど、君が出ていってしまったからね。……そうだ、用事は済んだのかい?」

 

「……ええ。ちゃんとマーズまで行って、長老様に手紙を届けてきました」

 

 ここまで言われれば、レナももう、この人達は悪くないのだと気づかざるを得ない。人の話を最後まで聞かずに勝手に出てったのはレナの方なのだ。

 この人達は勝手にレナに悪感情を抱かれ、勝手に出ていかれ、今日まで待ちぼうけを食わされていただけだ。悪いどころかむしろ被害者側とも言えよう。

 

 しかしレナはそれでも「待たせてしまってすみません」とも「勝手に勘違いしてすみませんでした」とも謝らない。

 ちっぽけな自尊心にかけて、謝るわけにはいかないのである。

 

(マーズに行かなくてもよかったなんて、そんな事は絶対にないわ。だってそのおかげで、わたしはメリルさんを助ける事ができたんだから……)

 

 などと思っているところで。

 

 

「で? あなた方が未来から来たのはわかりましたけど」

 

 とセリーヌがごもっともな事を未来から来た皆さんに聞いた。

 

 

「それで、わたくし達に何の用があるんですの? 時間旅行した事を自慢しに来た、ってわけじゃないんですのよね?」

 

(あっそうか。そうよね、来た理由を聞かなきゃ)

 

 とレナも遅れて気づく。

 うっかり納得しかけていたけれど、今の話は、単に彼らがここに来た方法であって、理由ではない。

 つまり彼らは──“誰でも気軽に出来ないような時間旅行”をやってのけてまで、今レナ達の目の前にいるという事なのだ。

 その理由とは一体なんなのだろう。

 

(きっと想像もつかないくらい、すごい理由なんだわ)

 

 レナが固唾を呑む中。

 聞かれたクリフは頭をぼりぼりかき、歯切れ悪く答える。

 

「あー、そうだな。じゃ、俺らの事も納得してもらえたようだし……。いい加減本題に入らねえとな」

 

「わたし達に、何か聞きたい事があるんですよね」

 

「ああ。まあ、そうなんだが」

 

 やっぱり歯切れが悪い。

 そんなに言いづらい事なのだろうか、と首をひねるレナには見えていないが……

 他の未来から来た皆さんはその間、「頼んだぞクリフ」みたいな切実な視線をクリフに送っていたり。事情を知るクロードは、心なしか同情顔でその様子を見守っていたりする。

 

「それじゃあ聞くぜ」

「は、はい」

 

 向こうが真剣そのものといった様子なので、レナもぴしっと背筋を伸ばし直した。セリーヌもしっかりと注意を傾ける。

 そんな緊張感あふれる中で、ついにクリフが聞いた。

 

 

「最近“このままじゃ宇宙マジヤバい”と感じた事はあるか?」

 

「──はあ?」

 

 

 意味が分からない。

 え、なに? 聞きたかった事ってこれ?

 

 違いますよね、という困惑に満ち満ちた視線をクリフに送るも、やっぱりクリフの表情は真剣そのもの。

 ひょっとして、これは真面目な顔でふざけるっていうギャグなのだろうか。さっきも美人がどうとか言ってふざけてた人だし、十分ありうる。

 

(けど……本気なのかしら)

 

 眼前のヘンな人にどう対応したものかレナが困る中。

 レナの反応を見たクリフは、よりいっそう必死にヘンな事を聞いてくる。

 

「その、あれだ。ようするにここ最近だな、宇宙の外まで飛んでけー、みたいな強い気持ちでもって“宇宙マジヤバい”的なモールス信号を、あー……その謎の場所に送りつけてみたりとかを」

 

「してないです……けど」

 

「本当か? 寝てる時とかにうっかり強くモールス信号で“宇宙マジヤバい”と思ったりもしてねえんだな?」

 

「すみません、その前にモールス信号がなんなのか分からないです」

 

 レナがそう言うとクリフはハッと息をのみ、次いでセリーヌの方を恐る恐る見た。

 見られたセリーヌも無言で頷く。

 

「そうか。だよな、未開惑星にそんなもんねえよな。それじゃ、転送妨が……いなんかも当然してるわきゃねえな、ああそうだな」

 

 また意味の分からない事を聞いてからに、クリフは一人で勝手に納得し、勝手に肩を落とす。

 それからため息混じりに、念を押すように聞いてきた。

 

「それじゃ知り合いにそういう事を言ったやつがいるとか、そういう話でもいい。とにかく最近、“宇宙ヤバい”と強く感じるような出来事をだな……」

 

「ふざけているんですの?」

 

 最後にセリーヌが一蹴すると、クリフのみならず、他の未来から来た皆さんまでもが一斉にため息をついた。

 会話終了である。

 

 

(なんだったのかしら、今の……)

 

 とレナがあっけにとられる中。

 未来から来た皆さんは口々にぼやいている。

 

「外れでしたね」

 

「無駄に時を費やしただけだった、というわけね」

 

「何も関係なかったな、ネーデの力」

 

「絶対怪しいと思ってたのに……」

 

「かすりもしてねえじゃねえか。ったく誰だよネーデ人パワーなら大体なんでもできるんじゃねえのとか言いだしたやつは」

 

「お前だろそれは。だから僕は最初から違うって」

 

「はあ? 俺がいつそんな事言ったよ。大体だな……」

 

 

 やっぱり意味の分からないぼやきだけど、レナがこの人達の期待に添えられなかった事はなんとなく分かる。

 という事は、さっきのはマジで本気の質問だったのだ。

 騒がしく喋り続ける彼らを、レナが狐につままれたような心境で見ていると。横のクロードが小声で申し訳なさそうに打ち明けてきた。

 

「“ネーデ人って色々すごいんですよね”って聞かれたからさ。ちょっとした気休めのつもりだったんだ、僕は。それじゃ本当にレナかもしれないですね、って」

 

 そんな無茶な期待されても困る。

 謎の場所って何。

 “宇宙マジヤバい”って。そもそもそんな言葉づかいしないし。

 というかモールス信号は何者だ。

 

(クロードもちゃんと否定してよ、わたし関係ないって……)

 

 この人達はネーデ人を一体なんだと思っているんだろうか。

 意味が分からないながらも、そう呆れ半分で未来から来た皆さんの事を見ていたレナは、ふとある事に気づいた。

 

「ねえソフィア、あなた本当に何もしてないのよね」

 

「や、やってないですよ! わたしだってそんな、モールス信号なんか……」

 

「本当に本当だよな? 寝てる時とかにうっかり強く──」

 

「だからやってないって言ってるじゃない、フェイトのばか!」

 

「なんだよ、確認しただけだろ? そんな怒らなくても」

 

「怒るもん! ずっとやってないって言ってるのに、おんなじこと何回も聞かれたら怒るもん! どうして信じてくれないのよ、フェイトのばか!」

 

 

 などと、まだまだ喋り続けていた皆さんに聞いてみようとしたところ。

 声がセリーヌとかぶってしまった。

 

「ネーデって、未来でも有名なんですか?」

 

「どういう事なのか、ちゃんと説明してくださらないかしら?」

 

 

 お喋りをやめて一斉にレナ達の方を見た皆さんに、セリーヌが重ねて言う。

 

「さっきからなんですの? 意味不明な事を聞くだけ聞いておきながら、ひとの事置き去りにして好き勝手にべらべらと……」

 

 セリーヌのご立腹な物言いにつられ、レナもそうよそうよ、といった抗議の目線を便乗して相手に送る。

 自分が聞きたかった事なんて後回しでいい。意味不明すぎて流しかけていたけど、そっちの方がレナとしても断然気になる事なのだ。

 

「さっきも似たような事聞きましたけど、あなた達の目的をはっきりと教えてくださらないかしら。あんなふざけた質問するために、未来から来たわけじゃないんでしょう?」

 

「わりいわりい。拍子抜けしちまったもんで、ついな。……んじゃ、後は頼んだぜミラージュ」

 

 軽く謝ってから、クリフはミラージュに説明をぶん投げる。

 急に振られたにもかかわらず、ミラージュの方も眉一つ動かさず「分かりました」と頷いてさっそく話し始めた。

 

「私達が皆さんの元に現れたのは、この時代のエクスペルからタイムゲートの元に、ある不審な救難信号が届けられたためです」

 

「不審な救難信号、って」

 

「それがさっきの……“宇宙ヤバい”、とかいうやつですの?」

 

 レナ達の質問に、ミラージュは「ええそうです」と頷いて説明を続ける。

 

「その救難信号の事について、私達は“詳細を調べた方がいいのではないか”との忠告をタイムゲートより受けました。その忠告に従い、私達は信号の発信元であるこの時代のエクスペルに来たのです」

 

 ふむふむ、タイムゲートに言われて来たのね。と素直に納得しかけてから。

 ふと疑問に思った事を、横にいるクロードに聞いてみる。

 

「タイムゲートって……喋るの?」

「うん、喋るらしいね」

 

 との返答。

(喋るんだ、ゲート。ゲートなのに)

 レナが感心する中、ミラージュはさらに説明を続ける。

 

 

 

 ミラージュが言うには、この人達の時代で今からひと月ほど前の事。

 タイムゲートがその救難信号と“思しき”信号が、どこからか送られている事を発見したのだそうだ。

 

 発信源は解析の末、この時代のエクスペルらしいとまでは特定できたが、差出人は全くの不明。

 信号は『ブオー』という不気味な重低音のみで構成されていたらしい。

 

 タイムゲートも始めはその音がなんなのかすら、よく分からなかったのだそうだが。戸惑いつつも送られてきた謎の音をじっくり聞いているうちに、その音に規則性がある事に気づいたのだとか。

 つまりこれはモールス信号に違いない、と。

 そして解析の結果、タイムゲートの推論はぴしゃりと当たった。

 その送られてきた信号の内容が、つまりはこれだ。

 

 

『このままじゃ宇宙マジヤバい』(原文ママ)──

 

 

 

 説明がひと段落したところで、思ったままの感想を二人して述べる。

 

「よく気づきましたわね、それ」

「タイムゲートさんってすごいんですね」

 

 いきなり送りつけられた意味不明なモノから、ちゃんと意味の分かるモノを見つけ出すその冷静さと、および根気強さ。

 思わず“さん”をつけたくなるすごさだ。

 

(わたしだったら絶対無視してるわね、そんなわけのわからないもの)

 

 レナがひたすら感心する中、セリーヌが聞く。

 

「タイムゲートさんはただのいたずらだ、とは思わなかったんですの?」

 

 主語はタイムゲートさんだが、セリーヌの言いようからして、質問の内容は未来から来た皆さんにも向けられている。

 はたしてこれは、そんな真剣に捉えるべき問題なのか、という事だ。

 

 こんな意味の分からないふざけきった救難信号、意味が分かったところで、普通はいたずらとして処理するものだろう。ガン首揃えて真面目に未来から調べに来る方がどうかしている。

 揃いも揃ってばかなの? とでも言いたげなセリーヌの目線に、クリフはお手上げとばかりにため息をついて言い返した。

 

「ところがどっこい。そんな信号が、タイムゲートの所に送られてくる事自体が“普通じゃあり得ない”んだな、これが」

 

「そうなんですか?」

 

「考えてもみろよ。未開惑星だろ、ここは。それも過去の」

 

「あ」

 

 それは確かに、普通じゃあり得ないわけだ。

 エクスペルには宇宙艦の存在すらないのに。こんなところから、惑星ストリームとかいうついさっき聞いたばかりの場所にあるタイムゲートに、そんなよく分からない信号を送りつけられるわけがない。

 

「発信源がこの時代のエクスペルだという事に、間違いはないんですのね?」

 

「ああ。俺にはその辺の理屈はよく分からんかったが、それで間違いないらしいぜ。そいつは時空を超えてタイムゲートに接触できてる。んなふざけた謎メッセージ送りつけやがった意図は分からねえが、そいつがただもんじゃねえ事は確かなんだ」

 

 セリーヌの再確認に、クリフも再度頷いて言い返してから続ける。

 

「あげく実際来てみりゃ、さっそく謎の障害だかなんだかで艦の転送装置も使用不可能状態ときやがる」

 

「転送装置、ですか」

 

 エナジーネーデでそれらしき物を利用した事があるので、レナも一応、『転送装置』がどういう物かは知っている。

 その装置を使えば、文字通りすぐに別の場所に移動できてしまうとかいう、いかにも先進惑星人御用達な便利機械だったはずだ。

 この人達の艦にもあるけど、それが使えなくなってしまったという事らしい。

 

「壊れちゃったんですか?」

「いや、壊れちゃいねえ。ここじゃ使えねえってだけだ」

 

 壊れてないのに使えないってどういう事なのかしら、と思っていると、クロードが補足してくれた。

 

「機械がおかしくなってなくても、転送先に問題がある場合は使えないようになっているんだ。事故が起きたら危ないからね」

 

「転送先に、問題……? それって」

 

「まあ、エクスペル側に障害があるんだろうね。よくわかんないけど」

 

 不穏な事をクロードがさらっと言う中、未来から来た皆さんがぼやく。

 

「最初は普通に使えてたのにな」

「なんであんな急に……」

「わざとらしいタイミングとしか思えないわ」

 

 最初は普通に使えたらしい。

 という事は、なおさらただの故障というわけではなさそうだ。

 それじゃあ何で使えなくなっちゃったんだろう、転送装置。エクスペルが原因って、なんかよくわかんないけどやだな。とレナがのん気に思う中。

 

「まさかとは思いますけど……。あなた達も帰れなくなったなんて、言い出しませんわよね?」

 

「お? ああ、そういやそうだったな」

 

 セリーヌが眉をひそめて聞く。

 質問の意図を理解したクリフが、メリルさんにちらと目をやって言った。

 

「心配しなくていいぜ。確かに転送装置は使えねえが、俺達にはミラージュが持ってきた小型艦があるからな。姉ちゃん一人乗っけるくらい、屁でもねえさ」

 

「そうですの。それなら構いませんわ」

 

 セリーヌが納得する中、クリフがメリルさんに声をかける。

 

「しかしまあ、こんな時にこんなトコ来ちまうなんてあんたも運がねえな。もうちっと早くに来てりゃ、こんなよくわかんねえ転送障害に巻き込まれる事もなかったのによ」

 

「……」

 

「ん? それともあれか、墜落事故かなんかか。だったらタイミングもくそもねえか、運が悪い事にゃ変わりねえが」

 

「ええ、そうですね」

 

 へらへら笑って言うクリフに、メリルさんは短く言葉を返した。事故を茶化されても反応に困る、というやつだろう。

 一方つれない対応をされてしまったクリフは一切へこむ様子を見せる事なく、

 

「つまりだ。信号自体はいたずらにしか思えん内容だが、信号送りつけたのはどう考えてもただもんじゃねえ奴だし、転送装置が急に使えなくなるっつう不可解な事も実際に起きてる」

 

 とさっさと話のまとめに入る。

 この話題の切りかえよう、こういう扱いには慣れていると見た。

 

「となると信号の内容が内容なだけに、俺らはこれがはっきりいたずらだと断定できるまでは、ただのいたずらとして片づける事もできねえってわけだ」

 

「明らかにいたずらっぽいですけど、もしかするとマジで宇宙がヤバい事になってる可能性もあるかもしれないから、ってわけですわね」

 

「そういう事だ。分かってくれたかい? 姉ちゃん」

 

「セリーヌでいいですわ」

 

 レナ達がようやく納得したところで、マリアが「ただのいたずらだったらどんなに良かった事か」と不機嫌そうに呟き、憂鬱そうに頷いたフェイトやソフィアと一緒にため息をついた。

 ソフィアなどはもう憂鬱通り越して泣き出しそうな表情ですらある。

 

 事情が分かった今になってみれば納得の表情だ。

 ヘンな救難信号が届いちゃったばっかりに、彼らは手探りで“宇宙ヤバい”とか言いだした謎の人物を探すはめに陥っているのである。そりゃあ愚痴りたくもなるし、不機嫌な顔にもなろう。

 

(こんなよくわからないことに振り回されたら、そうなるよね)

 

 レナが心の底から同情する中、セリーヌが今までの話をまとめる。

 

「それであなた達が怪しいと思ったのが、レナだったというわけですわね」

 

「いや、俺らもそこまで怪しいと思ってたわけじゃねえけどな。目下思いついた可能性から当たってみたってだけでよ」

 

 その割には、さっきすごいがっかりな反応をされたわけだが。

 正直疑われるのも心外なので、もう一回しっかりと否定しておく。

 

「言わないですよ、“宇宙マジヤバい”なんて」

「ごめん、疑って悪かったね」

 

 ご期待に添えられなくて申し訳ないけど、そもそもそんな期待する方がおかしいのだ。

 レナはそんなふざけた事は言わないし、ネーデ人だってそんな宇宙艦もなしによくわかんないような場所に信号送りつけれるようなトンデモ種族じゃない。と思う。付き合い短かったからよく分からないけど。

 

(うーん。……それくらいできたのかな、ネーデ人って)

 

 つい数か月前に目の当たりにしたネーデの技術の事を思い出し、レナの自信がなくなってきている中。

 マリアが念のためといった様子で、静かに会話を聞いていたメリルさんにも話しかける。

 

 

「ねえ。あなたは最近──」

「ありません」

「そうね」

 

 会話終了である。

 その間わずか三秒。マリアも誰もそれ以上踏み込んで聞かない。

 

 

 レナも絶対彼女じゃないと思っているからそれはいいんだけど、この疑いの晴れようは一体何なんだろう。

 自分の時と全然違う。そもそも疑われてすらいないし。

 マリアに言い切った後、なにやら首をかしげて考え事をしているメリルさんを見て、自分と彼女の何がそんなに違うのか、レナ自身も大体分かってはいるのだけどそれでも皆にきっちり問い質したい思いにかられる。

 

(そりゃあ、メリルさんは“宇宙マジヤバい”なんて言いそうなイメージ全くないわよ? でもわたしだって……)

 

 レナがそんなもやもやとした思いを抱いていると、クリフが唐突に聞いてきた。

 なんというかまあ、この人は謎のネーデ人パワーの線をまだ捨て切れていないらしい。そんなもんあったらこっちが教えてほしいくらいだ。

 

「エクスペルのネーデ人ってのは、嬢ちゃんの他にもう二人いるんだよな。そっちの方は──」

 

「言わないと思いますよ、二人とも“宇宙マジヤバい”なんて」

 

「そうか。言わねえか」

 

「はい。チサトさんもノエルさんも全く関係ないと思います」

 

「そうか。関係ねえか」

 

 レナにきっぱり否定され、少なからずがっかりとした様子を見せるクリフに、クロードが不思議そうに言う。

 

「それにしても……本当によく知ってるんですね、僕達の事。そんな事まで連邦のデータベースに残ってるなんて」

 

 その言いようからすると、ネーデ人の二人の事はクロードが教えたわけじゃなかったらしい。

 つまりこの人達は、あの二人の事を最初から知っていた、というわけだ。

 ネーデの事も知ってるし、よくわかんないけど未来の人ってすごいのね。とレナが感心する中、クリフが言う。

 

「そりゃまあ、この時代のエクスペルで一番大きな出来事として記録されてたからな、十賢者事件は。十賢者を倒した兄ちゃん達の事がしっかり記録されてんのも当たり前、っつうわけだ」

 

「あー、そっか。十賢者関連で知ったんですね、僕らの事」

 

「十賢者の事がそんな扱いになってるなんて、なんかすごい意外……」

 

 とレナは感想を漏らす。

 十賢者との闘いは、全宇宙の存亡をかけた闘いだったのだ。

 エナジーネーデ中の人々がレナ達の動向に一喜一憂していたし、新聞記者だったチサトにトップニュースだなんだとしつこく追いかけまわされたりもした。

 

 十賢者に関連した記録が、この人達のいる未来にまでしっかり残っているのは、意外でもなんでもないと、頭では理解できるのだが──

 

 

「十賢者の企みである、銀河崩壊の危機を見事阻止した“英雄”──。それが私達の知る、あなた方の情報です」

 

 ミラージュが説明する中、メリルさんがレナ達の方を意外そうに見た。

 よく分からないけど、皆そんなすごい事してたのね。という視線を感じる。

 

(いやいや、そんな大げさな事してないですよ、わたし達。十賢者倒しただけですから。“英雄”って、そんな……)

 

 レナが心中で恐縮する中、クリフが続けて言う。

 

「んで、俺らはその“英雄”の兄ちゃん達なら今回の件についても何か知ってるんじゃねえかと、そう当たりをつけて来たってワケだな」

 

「あら。“宇宙マジヤバい”とか言いだした犯人探しじゃなかったんですの?」

 

「んーまあ、そっちはおまけだな。こん中にいたらラッキーぐらいのもんでよ。俺らが詳しく聞きたいのはどっちかてーと、“宇宙マジヤバい”って状況になりそうな原因の方だったんだ」

 

「原因、ですか」

 

「あんなクソふざけたメッセージ、小細工して送りつけるような奴だろ? 身元も隠してやがるし、探したところでまず自分からは名乗りでねえと思うんだよな、そいつ」

 

「確かに。素直に言ってくれるような人だったら、普通にもっと分かりやすいメッセージ送りますよね」

 

 レナ達が同意すると、クリフはため息をついて言う。

 周りの皆さんもやっぱり憂鬱そうな顔だ。

 

「て事で、もうこの際“宇宙マジヤバい”とかいう原因の方を突き詰める方が手っ取り早いんじゃねえかってわけだ。それほどやべえ事態があるってんなら、何かそれらしい兆候もあるもんだろうしな。普通は」

 

 言ってからレナとセリーヌを見て、クリフはさらにため息をつく。

 周りの皆さんもやっぱり憂鬱そうに、レナ達を見てため息をついた。

 

「その様子じゃ、あなた達にも心当たりなんてないんでしょうね」

 

「はあ。“宇宙マジヤバい”原因って、つまり宇宙の危機になりそうな原因って事ですよね」

 

「ああ。どんな小さな事でもいいんだ。とにかく何かそういった事について、心当たりはないかな?」

 

 フェイトに聞かれて、レナはうーんと唸る。

 心当たりは正直なくもない。というかすぐに思い当たる出来事が一つあったので、試しに言ってみたけど。

 

「十賢者の事は違うんですか? あれなんか、本当に“宇宙の危機”って感じでしたけど」

 

「はあ……。やっぱりそう思いますよね、普通。まさに“宇宙の危機”ですもんね、十賢者事件」

 

 ソフィアが悲しげに呟く。どうやらこれではないらしい。

 

(違うのね、やっぱり)

 

 こんなのクロードだってすぐ思いつくだろうし。そもそもこの人達も最初から知ってた事だし。

 ですよねとレナが思う中、クリフが投げやりな調子で言う。

 

「嬢ちゃん達が十賢者を倒したのは、もう何ヶ月も前の出来事なんだろ? 時代超えて信号送ったにしろ、そこまでのズレは流石に生じづれえんだとよ」

 

「そうなんですか」

 

「ああそうだ、せいぜいひと月がいいとこなんだと。タイムゲート様のありがてえ分析だ」

 

「十賢者事件は、今回の件とは全くの無関係ってわけですわね」

 

「心象的には一番怪しいんだがな。そうもいかねえらしい」

 

 

 クリフに「十賢者以外の事で頼む」と念を押され、レナはさっき以上にうーんと唸る。

 ここひと月くらいの事で、十賢者以外で、宇宙がヤバくなりそうな事……。

 だめだ、何にも思い浮かばない。

 

 セリーヌもレナ同様に、何も皆さんに言えないでいる。

 そもそも自分が思いつくような事は、クロードがもう言っているのではないだろうか。

 考えても無駄だと思うものの、目の前にこんなにも困っている人達がいるというのに、力になってあげられないというのももどかしいものだ。

 

 何かないか何かないかと考え抜いた末に、

 

「……魔物の凶暴化、とかはどうですか?」

 

 とやっとひねり出した“心当たり”を出してみたりもしたのだが、クリフいわく、

 

「宇宙全体の問題ってわけでもねえし、それも可能性としては薄いんじゃねえかなあ。それに、その問題は後で解決されたんだろ? フェイト」

 

 との事。

 

(後で解決される事をこの場で喋っちゃっていいのかしら)

 

 レナがそう思うのと同時に、話を振られたフェイトは見事に焦りまくった反応を見せていた。やっぱり言っちゃダメな事だったらしい。

 

 

「お前なあ、そういう事を軽々と……」

 

「大丈夫だって。ほれ、堂々としてねえと余計怪しまれるだろうが」

 

「……。僕は、そもそも軽率な事を言うなって言ってるんだよ。怪しいとかそういう事じゃ」

 

「ああそうだったそうだった、そういや忘れてたぜ。……なあ、あんたはどうなんだ? なんか思い当たる節とかねえか?」

 

 フェイトの説教をわざとらしく聞き流してメリルさんの方に笑顔で話しかけるも、いきなり話を振られたメリルさんは思いっきり困惑。

 

「え──?」

 

 自分にまで聞かれるとは少しも思っていなかったらしい。

 不意をつかれ戸惑っているメリルさんをやたら親しげに見ているところで、クリフは再びフェイトに注意されたのだった。

 

「なに話題をそらしているんだよ。この人はつい数日前にこっちに来たばかりなんだぞ。ここ最近エクスペルで起きてそうな事件なんて知ってるわけないじゃないか」

 

「ほれ、何事も聞いてみなきゃ分からんってな。案外ああいう美人が、なんかしら重要な鍵を握っていたり──」

 

「するかっ!」

 

 にやけたおっさんを一喝した後、フェイトは申し訳なさそうにメリルさんに向き直り言う。

 メリルさんの方も特に気にした風でもなく、軽く微笑んでフェイトに謝った。

 

「すみません。こいつおっさんだから、どうにもデリカシーってものが足りなくて」

 

「いえ、こちらこそお役に立てずすみません」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その後しばらくみんなで話し合ったけど、具体的にそれらしい変わった事件は、結局誰も思い浮かばなかった。

 

 同じく謎の転送障害発生の理由についても、レナ達はただ首をひねるばかり。

 詳細を聞けば、転送障害が発生したのは今から三日前の出来事なのだそうだが、それも謎メッセージ送った人の嫌がらせじゃないんですかと、向こうもとうに予測できてそうな意見ぐらいしか言えなかった。

 

 アーリア住まいのレナとクロードは、ここ最近のエクスペルの動向に詳しいとはお世辞にも言いがたい。

 セリーヌも最近はクロス大陸の外までは足を伸ばしていないと言った。

 エクスペルの外からやってきたメリルさんに至っては論外だ。その前にまずこの会話についていけているかの段階であろう。

 

 メリルさんは十賢者事件の事なんか少しも知らないのだ。ソーサリーグローブの事だってもちろん意味不明だろう。

 求められた時以外は一切発言をせず、議題が進むにつれ段々と意気消沈していく未来の皆さんの様子を、頭の上にハテナマークがあってもおかしくないくらい、メリルさんはただただおとなしく見守っていた。

 

 というか正直レナも途中から会話についていけていなかった。

 だって──転送妨害装置? の有効範囲がどうだの、そもそも地表全体? に特殊な重力波? がどうだのそんなのありえないだの、ヘンな言葉ばっかり使うんだもん、あの人達。

 

 

(メリルさんも退屈だろうな……。艦の事お願いするだけのつもりだったのに、こんなよくわかんない話を長々と……)

 

 話についていけてない仲間のメリルさんをぼんやりと見て、そういえば、と思い出す。

 メリルさんを紋章の森で発見したのも、転送装置が使えなくなった日と同じ、今から三日前の出来事だった。

 

 未開惑星保護条約のせいで、本人から詳しい事故の原因を聞く事ができなかったけど、今ようやく納得がいった。

 メリルさんは、ずばりその転送障害とやらのせいで帰れなくなってしまった人だったのだ。あの時彼女の近くに宇宙艦らしきものは何一つ見当たらなかったし、そうとしか考えられない。

 

 つまりメリルさんは──

 さっきクリフが言った通り、もうちょっと早くエクスペルに遊びに来ていたらうっかり帰れなくなる事もなかった人だった、という事だ。

 

 

(うわあ。それ本当についてないですね、メリルさん……)

 

 などと思っているところで、場がいきなり静かになった。

 どうやら向こうの話し合いが終わったらしい。レナも完全にあさっての方を向いていた注意を引き戻した。

 

 

「すみません、力になれなくて」

 

「なに、いいってことよ。兄ちゃん達はなんも悪くねえ。変な話につき合わせちまって悪かったな」

 

 そうクロードに言うクリフの声には、覇気が全くない。

 レナ達の側で最後まで話についていけていたのが、向こうの皆さんとすでにバッチリ情報交換済みのクロードのみというのが、また哀れを誘うところである。

 

 レナも最後までちゃんと話についていけてなくて、今さらながらものすごく申し訳ない気持ちになってきた。

 この人達にとっては切実な問題なのに。退屈だとか思ってしまって本当にごめんなさい。

 

「あの──、皆さんはこれから……どうするつもりなんですか?」

 

 クロードがいたたまれない様子で話しかけると、元気のない声がぱらぱらと返ってくる。

 

「どうもこうもないわ」

「これ以上、ここで得られる情報もないでしょうから」

「他をあたってみるしか、ないだろうね」

「帰りたいよう……」

 

 彼らの言う“他”というのは、情報の乏しい他大陸の事だろう。

 

 先ほどの話し合いで、彼らはこの時代のエクスペルについてすぐ、アーリアに住んでいるクロードの元に来て、それから他の所を調べる前に転送装置が使えなくなってしまったと言っていた。

 レナ達から得られた情報が、彼らの知っているすべてという事だ。

 そしてレナ達が彼らに教えてあげられたのは、大体がアーリアからマーズまでの近況。どんなに広く見積もっても、せいぜいクロス大陸の内の出来事でしかない。

 

 “宇宙マジヤバい”原因が本当にこの時代のエクスペルのどこかにあるのだとしたら、それはエル大陸やラクール大陸といった、他の大陸にある可能性の方が断然高いのだ。

 ……もちろんそんなものが、本当にあるとしたならば、だが。

 

(確かめずに、いたずらで片付けるっていうわけには……いかないのよね、やっぱり)

 

 この人達のこれからを思うと、「かわいそう」の言葉しか出てこない。

 

 

 だって“宇宙マジヤバい”よ?

 マジヤバいの時点で、すでにいたずらだと分かりきってるようなものなのに。

 それを確かめるためだけに、エクスペル全巡りコースなんて──

 

 

「他って、……どこに行けばいいの?」

 

「わからないよ、そんなの」

 

「エクスペルに点在する、主要施設のどこかよ。それしかないじゃない」

 

「めぼしいところをかたっぱしから、だな」

 

「でも……転送装置、使えないんだよね?」

 

「使えないよ、そんなの」

 

「忘れたの? ここにだって小型艦で来たのよ、私達」

 

「過去の未開惑星ですから、あの艦での移動も避けるべきでしょうね」

 

「徒歩、だな」

 

「帰りたいよう……」

 

 

 今目の前で決定したばかりの悲劇に、レナがすっかり心を痛めていると。

 クロードがそんな暗いムードをものともせず、彼らに話しかけた。

 

 

「皆さんはこれから、その原因探しの旅にでるつもりなんですよね」

 

「そういう事になるな。流石に今日からってわけにゃいかねえが、まあ明日にでも……」

 

「それ、よかったら僕にも手伝わせてくれませんか?」

 

「クロード?」

 

 

 突然の申し出に、レナはきょとんとクロードの方を見た。

 向こうの皆さんも同様に、悲しげにうつむいていたソフィアなども驚いて顔をあげクロードを見る。

 たくさんの視線を浴びつつ、クロードは言う。

 

「何の土地勘もない人がエクスペルをかたっぱしから調べるなんて無謀ですよ。道案内ぐらいいた方がいいんじゃないんですか? それに」

 

 いったん言葉を区切り、「いや、今度のは明らかにいたずらっぽいですけど」と遠慮がちに前置きしてからクロードは続けた。

 

「それでもエクスペルのどこかで宇宙の危機が始まってるかもしれない、なんて言われたら、黙って見送るなんてできません。ここには、僕の大切な人達がたくさんいるんだ」

 

(──うん。そうだよね、クロード)

 

 クロードの頼もしげな言葉に触発され、レナも元気よく言う。

 レナの言葉を受け、クロードも未来の皆さんを見つつ、力強く頷いた。

 

「そうですよ、わたしにも手伝わせてください!」

 

 

 クロードの言う通り、自分達がせっかく取り戻しかけているエクスペルの日常がまた破壊されてしまうかもしれないなんて、レナにだってとても耐えられない。

 それもエクスペルだけじゃない。全宇宙のみんなの日常だ。

 

 “宇宙マジヤバい”原因なんて、本当にこのエクスペルにそんなのあるんだかどうかわかんないけど……それでもそんな大事な事、未来から来た人達に任せっきりなんかにはしておけない。

 自分達の平和は、自分達で守るべきものなんだ。

 

 ……いや、どう考えてもやっぱりいたずらっぽいんだけど。

 

 

(……。人助けよ、人助け! だってこんな困ってるのよ、この人達? こんなかわいそうな人達目の当たりにして「それじゃあとは頑張ってください」なんて、できるわけ……)

 

 頭をよぎった冷静な疑問に、一拍置いてから自分で猛反論する。

 危ない危ない。

 さっそくこの人達についていく事の意義を見失うところだった。宇宙の平和はともかく、この人達をしっかり助けてあげないと。

 

 レナが自分に言い聞かせている中。

 急に現れた救世主を拝むように見あげて聞くソフィアに、セリーヌも自信満々で頷き答えている。どうやら彼女も乗り気のようだ。

 

「本当に、本当にいいんですか?」

 

「もちろんですわ。ここで首を突っ込まないなんて、トレジャーハンターの名が廃りますもの」

 

「さすが、“英雄”は違うわね」

「ありがとうございます、みなさん!」

 

 未来から来た皆さんから先ほどまでの絶望的な表情が消え、表情にゆとりができている。

 困っている人の力になれそうでよかったと、レナも自然と温かい気持ちになった。

 

「一時はどうなる事かと思いましたが──。この場に留まって、彼女を待ち続けた甲斐もありましたね」

 

「まったくだ。宇宙を救った“英雄”が道案内たあ、こんな頼もしい事はねえぜ」

 

 ミラージュとクリフが、明るい面持ちで心境を述べ、

 

「それじゃあ、明日からよろしくお願いします」

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 

 クロードとフェイトが、二人で握手を交わそうとした時。

 唐突に口を開いた人がいた。

 

 

「待ってください」

 

 

 メリルさんである。

 自分とは全くもって関係ない話に長々と付き合わせられてからに、なんかいい感じの雰囲気に流され、うっかりみんなから忘れられかけていたメリルさんである。

 

 メリルさん以外の全員がはっと息をのみ、そろそろとメリルさんの方を見る。

 当のメリルさんは忘れられかけた事を怒っているのかどうか全く読めない、ごく落ち着いた様子で言った。

 

 

「皆さんは明日から、エクスペルを巡る旅をされるそうですね」

 

「お、おう。まあそうだな、俺達はそのつもりだが」

 

 そこまで言ってから、クリフは咳払いしてミラージュに呼びかけた。

 ずばり「忘れてなんかないよ、ちゃんと考えてたんだからね!」というごまかし術である。

 がしかし──

 

「ミラージュ。お前は小型艦で、この姉ちゃんをちょいとディプロまで……」

 

「その必要はありません。それより」

 

 そのクリフの言葉を途中で遮り、メリルさんはいきなりとんでもない事を言いだしたのだ。

 

 

「皆さんの旅に、私も同行させていただきたいと思います」

 

「──は?」

 

 

 みんなして驚き、

 

 

「いけませんか」

 

「あ、ええと、いえ、いけないかどうかは……わからないですよ? けど」

 

「そういう問題じゃないでしょ」

 

「なんでまたそんな酔狂な事を」

 

「酔狂ではありません。私にとってもそれが最善というだけの事です」

 

 

 みんなして止めるが、しかし。

 

 

「最善って……。だってあなたは、全く無関係の人でしょう? 僕らが送り届けたらすぐに家に帰れるんだ。こんな事に首を突っ込む必要もないんですよ?」

 

「宇宙の平和は僕達で守りますから!」

 

「そうですわよ、ノリでついてったら後悔しますわよ? それともあなた、まさか本気でエクスペル観光を!?」

 

「違うわ。そんな理由じゃ──」

 

「なっ何考えてるんですかメリルさん! 早く帰らなきゃってあんな真面目に言ってたじゃないですか! エクスペル観光なんて──月単位コースですよ、月単位コース! 帰れるうちに帰らないと、本っ当にお屋敷の人に怒られちゃ……」

 

「聞いて。そんな理由じゃないわ」

 

 

 ざわつくみんなをひとまず静まらせ、メリルさんはため息と共に呟く。

 

「──帰れないからよ、“艦”じゃ」

 

「帰れないって……。それは、どういう、事ですか?」

 

 全員メリルさんの言っている事の意味がまったく分からない。

 フェイトが困惑しながらオウム返しに聞く中。

 メリルさんは目線をあげ、さっき以上にとんでもない事を言いだした。

 

「あなた方の言う“艦”では、私は元の世界に帰る事ができないという意味です。私はあなた方の言う“先進惑星”の人間などではなく、この世界と全く理の異なる、別の世界からやって来た存在なのですから」

 

「……あ? なんだって?」

 

 

 そして今言った事がすぐには理解できていない全員に向かって、メリルさんはこう繰り返したのだ。

 

「私は異世界からやって来た、異世界の住民です」と。

 

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