巫女は出ない、魔法使いも出ない。何の力もない主人公、それでも彼は自らの目的の為に動き続ける。
全ては彼女の笑顔の為に……
基本的に頭がおかしい作品ばかり書いている私、ホワイト・ラム。
そんな私が割と本気で、まじめ作品に挑戦してみました!!
ぜひご賞味?ください。
これは光の当たらない小さな小さな物語……
朝が来るだけで煙の様に消えてしまう悲しき哀の物語……
「こっちじゃ、気を付けてな……」
おじいちゃんが優しくぼくの手を引く、けーねせんせーがうるう年って言って4年で一日だけ来る日って言ってた。
良くわからないけどおじいちゃんはその日が好きみたい。
「ふぅ……老体にはちと来るものが有るわい……」
何時もは出ちゃいけないって言われてるのに今日はおじいちゃんと二人で、はじめて夜に里の外に出た。
杖を突きながらおじいちゃんはぼくに見せたいモノが有るって言った。
一体なんだろう?
ドンドン暗い中歩いて、何時か妖怪が出て来るんじゃないかって不安になりながらぼくは小さなボロボロの小屋に付いた。
「ここじゃ……こんばんは。お嬢さん……」
「あら、こんばんは……」
ぼくはびっくりした!!
おじいちゃんが聴いた位優しい声を出したからじゃない。
ボロボロの小屋に女の人が立っていたからでもない。
その人に足が無かったからでもない。
その人がすっごくきれいな人だったからだ。
「お孫さん?」
その足の無い女の人は、スーッとぼくの近くに寄ってきてぼくを瞳を覗き見た。
近くで見るとびっくりする位の美人だった。
「ああ、儂の孫です……」
何処か悲しげにおじいちゃんは女の人を見ていた。
それからしばらく3人でいろいろな事を話した。
女の人は人を待っていた事、ぼくは初めて夜に里の外に出た事。
ぼくはすごっく楽しかった。
けどなんでだろう?
おじいちゃんは、たまにすっごく悲しそうな顔をするんだ。
こんなに楽しいのに変なの?
「それでね!!街中でまほー使いさんが――え!?」
ぼくは驚いた、その女の人は悲しそうな顔をすると煙が薄くなるように消えてしまった。
「おじいちゃん!!あの人は何処に行ったの!?」
消えてしまった事が悲しくて。
最後に何も言えなかった事が悲しくて。
おじいちゃんまで悲しそうなのが悲しくて。
ぼくはおじいちゃんに問いただした。
「坊、あの人はの、あの人は2月の29日に行ったんじゃ……」
ぼくは意味が解らなかった、それって今日のハズだ。
けどあの人はいない、ぼくは何も出来なくてただ泣いていた。
4年後……
「こんばんは」
「あら、いらっしゃい」
僕はまた、あの女の人の所に行っていた。
今日は2月29日、ひょっとしたらと思って自分の家をこっそり抜け出した。
今なら分かる。
このとてもきれいな人は亡霊だ、生きた人間じゃない。
一回町中で、剣を持った女の人に聞いたことが有る。
この世には未練が有ってあの世に行けない幽霊がいるって。
きっとこの人もそうなんだろう。
「誰かを待ってるんですか?」
僕は何時かの様にその人に話した。
その人は一瞬驚いた顔をして小さくハイと頷いた。
「名前はなんて言うんですか?」
「桜文……
その人は4年前と変わらない同じ顔で僕に笑いかけたくれた。
何故かはわからないけど胸がくすぐったいような苦しいような、でもずっとそうしていたい様な気分になった。
終音さんは言っていた。
待ってる人がいると。
その事を話す終音さんは何故か悲しそうで、けど何処かうれしそうで……
何故かはわからないけど僕は心が少しムカムカし始めた。
僕はチラリと月の位置を見る。
もうすぐ子の刻だ、日付けが変わる頃だ。
それを証明するように終音さんはまた悲しそうな顔をして姿が薄れ始めた。
僕はそれがやっぱり悲しくて……
どうにかした止めたくって、気が付いたら終音さんに質問をしていた。
「一体、誰をまってるんですか!?」
「XXXXを待っているんです……」
その言葉を最後にやっぱり終音さんは消えて仕舞った。
僕は最後の言葉を聞いた後、暫く呆然と立ちすくんでいた。
その名前は僕の良く知る物だった。
翌日
「じいちゃん……昨日、終音さんの所に行ってきたよ」
病気ですっかり弱ったじいちゃんに僕は話しかけた。
胸に良くない物が出来ていて、一回だけ見てもらった竹林のお医者さんによればもう長くは無いらしい。
けどじいちゃんはその言葉を聞くと同時に、もう殆ど見えないハズの目を見開いた!!
「そうか……『坊も』終音が好きか……似るもんじゃな……」
そう言ってうれしさと悲しさがないまぜになった顔をする。
昨日終音さんが待ってると言った人の名は僕のじいちゃんの名だった。
僕の言葉を聞いたじいちゃんはゆっくり語りだした。
「もう、40年以上前の話じゃ……儂はひとりの女に恋をした……何処か儚く、それでいて芯が強く何よりもどこか悲しげな表情を笑顔に変えてやりたくなる女じゃった……」
もう言われなくてもわかる。
きっと終音さんの事だ。
「相手は呉服屋の一人娘での……儂は農家の5男坊じゃ……口減らしに潰されてもおかしくない奴での……釣り合わんのは分かっておった……周りが反対する事もな……じゃが儂はどうしても彼女を笑顔にしたかった、儂に、儂だけに笑いかけた欲しかったんじゃ……ふざけておどけて、必死に良いトコ見せようとしてな?ふふふぅ……必死であの子の気を引こうとしたものさ……神の気まぐれか儂の努力かは分からんが、ある日あの子は儂に言った。
『一緒に遊ぼう』とな……」
此処で一旦じいちゃんは言葉を区切った。
そしてすごく幸せそうにまた口を開き始めた。
「それから、儂らは長い時を過ごした……そしてある日自身の心の内を告白した……彼女は喜んでくれたよ、自分の同じ気持ちだと言ってくれた……じゃがさっきも言った様に、相手は呉服屋の一人娘で儂は農家の5男坊……親が認めてはくれぬ……彼女は大層泣いてな、儂はそれがいっとう悲しかった……笑顔になってほしかったのじゃが逆に泣かせちまったんでな……だから儂は決心した……終音を攫おうと、里を出て二人で何処かで暮らそうと!!」
僕はそれを聞いてすぐに無理だと思った。
ここには妖怪達がいる、巫女や魔法使いじゃない何の力もないおじいちゃんたちが人里以外で生きられる訳なんてない!!
これは絶対に叶わない願いだと僕はすぐに理解した。
「里の外れにある小屋で、落ち合う約束じゃった……今でも覚えておる、2月の29日……その日の夜が彼女との待ち合わせ時間じゃった……儂は、何とかそこに向かった!しかししかしな……終音は、終音は運悪く妖怪に……!!
儂が馬鹿じゃったんじゃ!!駆け落ちなど、夢など見なければ……今頃、今頃彼女は幸せに生きておったハズなのじゃ!!死ぬことなぞ、死ぬことなぞなかったはずなんじゃ!!」
そう言って咳き込みながらじいちゃんは大粒の涙を流した。
僕は大人がこんなにも大きな声で、たくさんの涙を流すのを初めて見た。
「儂は逃げた……卑怯にもそこから逃げ出し何食わね顔で自分の家に戻った!!儂は、何も知らない顔でその後の人生を生きた!!ばぁさんに愛を語り、息子を産ませ、自分の罪を、彼女を忘れようとさえした!!
じゃが、20年以上たったある日儂は何気なく、彼女との約束の場所に向かった!!
本当にタダの気まぐれじゃ、花の一輪でも供えようとすら思わなんだ。
しかし彼女は待って負ったんじゃ!!ずっと!!20年以上2月29日の中で!!
儂は自分の事かわいさに!!彼女を裏切ったんじゃ!!そんな儂を彼女は待っておったんじゃ!!坊!!儂をののしれ!!畑の肥やしにもならぬ下衆な男だと唾を吐きかけろ!!」
とても弱っているとは思えない力で、おじいちゃんは僕の袖をつかんだ!!
ガクガクと僕を揺らす、その顔には罰を欲しがってる様にも見えた。
おじいちゃんはきっと自分の罪を罰してくれる何かが欲しかったんだ。
だからきっとあの日僕に終音さんを紹介したんだ。
僕を自分を罰してくれる存在にしたかったのか、それとも秘密を一人で抱える事が出来なくなったのか……
どちらかはわからない。
けど僕にはこの男が何処までも自分主義な勝手な男に見えてしまった。
「どうして……どうしてアンタは終音さんに名乗らなかったんだ?待たせてごめんって!!なんで言わなかった!!」
今度は僕もその枯れ木の様な腕を掴み返した!!
「……言ったさ……儂が誰かなぞな……彼女はそれが信じられぬ様だった……その時儂は理解したよコレは儂の罰だと……何度彼女の前で自分を語ろうと、彼女はもう儂に気が付いてくれなかった……儂は自分すら失ってしまったのじゃ……しかし彼女に罪はない……せめて、せめて彼女のそばで一緒に居たかったんじゃ……」
全ての罪を告白したかの様にじいちゃんは、布団に倒れた。
そしてもう2度と起きる事は無かった。
あれから数日が経った。
じいちゃんの埋葬の準備が進んで行く。
命蓮寺の住職さんが、お葬式の準備をしてくれた。
棺桶の中に、白いユリが敷き詰められた行く。
おじいちゃんの無念も悲しさも罪も優しさも醜さもすべて白い華が塗りつぶしていく気がした。
解放されたのか?許されたのか?
そんな事は僕には解らない。
ただ、ただ思い出は美化されて。
一人の女を守れなかった男は静かに眠ったままだった。
思いでの品が、敷き詰められ、お別れの歌と念仏と火葬の煙だけが天に昇って行った。
あれからほんの少しだけ時間がたった。
爺さんがいない異常は日常に変わり、俺の手出しできない速度で時間は流れた。
けど爺さんの言葉と終音さんの事だけは何時までもじくじくと俺の心を蝕み続けた。
「何がしたかったんだ……俺にどうしてほしかったんだ……?」
今日は2月29日……あの人はまだ来ない人を待っているのだろうか?
不憫でならない、けど真実を知らないという事は幸せなのかもしれない……
俺はそんな事を思いながら、爺さんの遺品を整理していた。
なんでも押し入れの奥から出てきたらしい。
ガラクタばかりだ……結局かたずけるのにずいぶん遅くまでかかってしまった。
本の中から何かが落ちる。
茶色くボロボロの紙……
俺は何気なく、それを拾った。
「まさか!?」
俺はそれに驚愕した。
そこに描かれていたのは終音さんと……
「俺?」
現在の俺にそっくりなじいちゃんだった。
2人は何処かぎこちなさそうに並んでいる。
何時か聞いたことが有る、コレは写真だ。
その時の姿を紙に写す天狗の道具。
「――いかなきゃ……」
何を思ったのか自分でもわからない、ただいかなくちゃいけない。
そうおもったんだ。
俺はすぐに上着を着込むと、家の外に出た!!
もうすぐ、日付けが変わる!!
終音がきえてしまう!!
自分は爺さんとは違う。
終音さんとは何の関係もないハズだ。
けど、気が付いたら月明かりの中を走っていた。
何故か解らないが俺は走っていた。
そして少しだけ思い直す。
そう言えば一つだけ爺さんと同じところが有った。
俺はあの人に微笑んでもらいたい!!
あの悲しげな顔を笑顔で俺に向けてもらいたい!!
そう理解した瞬間足に再び力が入る!!
夜の闇をただがむしゃらに俺は走る!!
そして遂に!!
「はぁ、はぁ……見つけた……見つけたぞ!!終音!!」
ボロ小屋で佇む彼女に叫ぶ。
俺の姿を見た瞬間彼女は一瞬驚き優しく微笑んだ。
そして何時もの様にゆっくり消えた。
時間切れだ。
「いいぜ!!いいぜ!!俺は爺さんみたいにならない!!アンタに、アンタに添い遂げて見せる!!」
無人の小屋に俺はそう言い放った。
時間は決して多くは無い。
終音は俺の姿が変わると、俺を爺さんだと認識できなくなる!!
そんなのは絶対に嫌だ!!
俺にはなんの力もない、巫女や魔法使い、メイドや剣士の様に何かの能力を持っている訳ではない。
だけどそれは諦める理由にはならない!!
俺は、もう一度あの笑顔の為にならどんな事だってしよう!!
4年後……
小さな小屋で一人の男の死体が見つかった。
妖怪に襲われたらしいが、なぜこんな所に居たのか全く持って不明だった。
ただ、何故か幸せそうな顔でその男は死んでいたらしい……
更にそれから……
里から離れた有る小屋には、恐ろしいうわさが有る。
それはうるう年の亡霊。
何でも4年に一度、そこに『2人』の幽霊が現れるらしい。
その二人は夫婦で2月29日の夜で日付けが変わるまで仲良く話しているらしい……
本日は2月29日、
きっと今日は月が優しく二人を照らしている……
コレは夜の間だけの、小さな小さな物語。
あー、凄まじく疲れました……
慣れない事はするもんじゃないですね……