selector infected WIXOSS―torture― 作:Merkabah
「タウィルちゃん。 何してるの?」
今日は学校が休みで、外の天気は曇だったが今日は大事な日の為外出をしていた。
人通りの少ない道を歩きながらカードを手に持ちタウィルちゃんの様子を見ていると何やら小道具を用意していた。
『あわあわ』
「あわあわ?...もしかしてシャボン玉を作るの?」
頷き用意を終えたと思ったら慣れた手つきで手に持っていた円状の物を別の容器に入った液体に付けすくい上げふっーと息を吹きかけていた。
「(タウィルちゃんは昔の桃香ちゃんみたいで可愛いなぁ)」
『花蓮よ。 タウィルは昔から泡には目がないのじゃ。 大目に見てやってくれ』
「それは全然構わないけど。 泡まみれでタウィルちゃんの姿が見えなくなりそう...」
『困ったやつじゃ...。 おいタウィルよ! 花蓮が困っておるぞ』
手当たり次第に泡を指で割ると顔をひょこっと出す。
『?』
どうしたの?と言わんばかりに首を傾げる。
「タウィルちゃんは可愛いね」
『かわいい........?』
「うん。 食べちゃいたい位。 じゅるり」
『......れすほーぷ』
『花蓮はシグニでは無い。 それに今のは愛情表現じゃ。 本当に食べたいならワシは既に食われておるじゃろう』
「ウムルさん、それって自分で可愛いって言ってる事になるよ?」
『............』
背中を見せ座り込んでしまった。 意外な一面が出たことも驚いたけど可愛いという意識があったのが一番の驚きだ。
「ウムルさんはどっちかというと...クールかな」
『慰めなら要らぬぞ...』
「本音だよ?」
立ち上がり得意げな顔でこちらを見上げ小さい胸を張る。
『そ、それならよい!』
「ははは........。 ん?」
曲がり角でコンクリートの壁に寄りかかり一枚のカードを見つめる一人の女の子。
長い髪がふわっと揺れたと思ったら体に密着してきた。
「お姉さん。 セレクターですね?」
顔を見上げさっきまで見ていたカードを指で挟みチラつかせる。
見た目は私より結構年下だがどこか大人びた口調に視線が泳ぐ。
「そういうアナタも?」
「そうじゃなかったら声なんてかけませんよ?花蓮さん?」
今までの会話を全部聞いていたと言わんばかりに追いつめてくる。
両肩に手を乗せ体をそっと引き離す。
「用件はバトルだよね...?」
「話が早くて助かります。 ............それではオープッ」
顔の前に手を突き出すと少女は反射的に体がビクッと動いた。
「ごめん。 デッキ置いてきてるの」
「...はい?その肩に下げてるバッグに入っていないんですか?」
革製の青いトートバッグに指をさされ首を横に振ると肩を落としおデコに手を当て呆れている。
「はぁ...。 いつなら勝負できますか?」
「私は...バトルは受けないし、したくないの。 だから約束は出来ないよ」
「へぇ...」
それだけ呟くと背中を見せ一歩踏み出し顔をこちらに向け笑顔を見せ口を開く。
「なら今度あった時も今と同じ台詞を言ってください...ね?」
最後に不気味な言葉を残しあっさりこの場を去っていった。
(またすぐに会いそうな気がするけど...出来れば出会いたくない。そんな子ね...)
すぐにウムルさんが口を開く。
『嫌な予感がするのう...
「あぁ、そうか。 ウムルさんは相手の実力を感じ取れるのか」
『わたしもできるの』
「タウィルちゃんも?」
『ちかくにせれくたーがいるのがわかるちから』
『その力は他のルリグも持っておるぞ』
『むー...』
頬を膨らませウムルさんに向けてストロー状の物でシャボン玉を吹きかける仕草をするが、カードから飛び出せず自分の顔にあたり割れる。
『フッフッフッ。 無駄じゃ。 カード越しでは攻撃できんぞ』
『............』
『な、何じゃその目は...』
『うむるきらい』
『す、拗ねたとてワシは悪くないぞ!なぁ花蓮よ』
「喧嘩されたままだと後々困るから仲直りしておいてね」
ポケットにカードをしまい腕時計で時間を確認する。
針が丁度重なり昼の十二時になる。
(午後はゆっくり休みたいし早く済ませよう)
早歩きで行動を始めた時曲がり角でまた人影を目撃する。
遠くでうまく確認出来なかったがコートを羽織った女の子だった。
特に変な様子も無かったが何故か食い入るように見てしまっていた自分に首を傾げつつ歩き出す...。
....................................
花屋で購入した花をふた束持ち両親の墓に供える前にふと気がつく。
既に誰かが備えてくれていた。そして私が持つ花とおなじ種類の花を。
(おばあちゃんが来てくれたのかな...。 見る限り新しい...)
邪魔にならないよう供える。掃除もしていた為すぐに正面に向かい合掌する。
(................お父さん、お母さん。桃香ちゃんに会って全て話すまで見守ってて下さい)
目を開け立ち上がりゆっくりとこの場を後にした...。
(まさか桃香ちゃんが今日訪れたんじゃ...)
最後に顔を見たのは二年前でその時の表情は今でも頭の片隅に残っている。
恨みが困った眼光。でもあれで良かったんだと自分に言い聞かせている。
両親の事故は私のせいで起こった事なんだ。桃香ちゃんは悪くない。
三年前に不慮の事故で私達姉妹のお母さんとお父さんは他界し祖母の家に引き取られたが桃香ちゃんは学校に行かずずっと独りで過ごしていた。
いつも目に光はなく表情も常に暗かった。
ある時には縄跳びのロープを首にかけていた時があった。私はその時泣きながら止めに入った記憶がある。
その数ヶ月後私は決断した...。事故の現場にいた人物を──にすることに。
「────ねぇアナタちょっといい?」
不意に背後から声をかけられ大きく身体が反応した。
心臓がドキドキしたまま振り返り顔を見て更に鼓動の音が早くなる。
「う、浦添伊緒奈さん!?」
中高生に人気の読者モデル『浦添伊緒奈』がどうしてここに?
............あれ?手に持っているカードが動いている。
『......どうやら人違いね。 あの子に似たリボンを付けてるから探してる子かと思ったけど...』
「そう」
「な、何の話をしているの...?」
伊緒奈さんのルリグが手を払い冷めた視線を向ける。
『どっか行きなさい』
「えっ、...はい」
状況がよく理解出来ていないが長居していると怒られそうな気がし足早に去ろうとしたが二人の会話が耳に入り足を止める。
『”桃香”大会に出るかしら?』
「も、桃香っ!?」
妹の名前に反応し大きな声が出てしまった。
『............アナタやっぱり。 『水無月桃香』の姉?』
「も、桃香ちゃんはどこにいるんですか!?」
抑えきれない感情に伊緒奈さんに接近し肩を掴む。
ピクッと眉が動き視線をカードにまた移す。
『...離したら説明してあげる』
「あっ...ごめんなさい」
ずっと沈黙を保っている彼女の姿に落ち着きを取り戻してからとんでもないことをしていたのだと反省する。
『名前は?』
「......『水無月花蓮』です」
『それじゃ花蓮。 願い教えて』
「はい?」
『願いよ、ね・が・い』
「それは........」
『妹に会って謝りたい』なんていきなり初対面の人に言うのも気まずい。
数秒間考え返事に迷いに迷った結果。
「今は...言えません」
嘘は言っていないがいたたまれない気持ちになりつつ二人の表情を伺う。
やはり伊緒奈さんは興味がないようでルリグが代行して口を開いたが、
『妹を...消したいとかじゃないの?』
口角を上げルリグがとんでもない一言を吐き捨てる。
「そんな失礼な願いじゃありません!!」
何故いきなり人が嫌がる言葉を言ったのか問いつけたくなったがこっちが失礼に値してしまう。
『失礼ねぇ...あの子が聞いたらどう思うかしら』
「...桃香とは仲がいいんですか?」
『お友達では無いわ。 でもここ最近は顔を合わせてるわね』
友達でないのに顔を合わせる。どういう意味?
「ウリス」
『時間切れか。 花蓮、桃香に会いたいなら伊緒奈のSNSを見てその場所に来なさい』
「呟きが出来るサイト...わかりました」
『自分の目で確かめればいいわ...今のあの子がどうなっているか』
渋々私が頭を下げるが伊緒奈さんは見向きすることなく通り過ぎていく。その姿を目で追う。
後ろ姿が小さくなったと同時に緊張の糸が切れる。
ウムルさんとタウィルちゃんの声が聞こえカードを取り出す。
『今日はとことん災難じゃのう...。 強者と二度会うとは...』
「一度目は確かにそうかもしれないけど、伊緒奈さんと出会ったのは幸運だよ」
『ももかってかれんのたいせつなひと?』
「そう大切な家族だよ」
(桃香ちゃんにあと少しで会える...。 このまま戦わなくても自分の力で叶えられる)
早速帰ってウリスさんが言っていたSNSで場所を調べよう。
................................
数日後、放課後になりゆらぎちゃんと真子ちゃんと帰宅路を歩いている時二人から驚きの言葉が出た。
『カードをいきなり渡されてさ、勝手にされちゃったんだよね』
『わ、私は選ばれたんだ...』
ルリグカードを見せられたが私はどう反応していいのか分からない。
「えっと...実は私もセレクターだったんだ」
ウムルさんとタウィルちゃんを二人に見せるとマジマジと見られ何故二枚持っているのか聞かれたがその場は誤魔化した。
他のセレクターから取ったとかでは無いと伝えると納得してくれた。
「そうだ。花蓮今日は急ぎの用事があるって言ってたけど時間大丈夫?」
「いけない!」
今日は桃香ちゃんが住む場所の近くでセレクターだけが参加出来る大会があることを思い出す。
「い、今から走って駅に向かえば間に合うと思うから二人ともごめんね!」
軽く頭を下げ手を振り走ろうとした直後電柱の影から人が現れた。
「花蓮さん今日はバトルしてもらいますよ」
「アナタは...前にバトルを挑んできた」
「若葉と呼んでください♪」
足を止め先日と同じ服装で髪型も同じだった為すぐに分かったが今はかまっている時間は無い。
「今急いでるからまた今度!」
「............それはお友達がやられてもいいってことですね?」
後ろに立っていたゆらぎちゃんと真子ちゃんに視線が移動する、微笑みながら二人に身体を向け踏み出す。
すぐさま間に割り込み遮る。
「二人は関係ないでしょ...!」
「
「っ!アナタッ!」
『お、落ち着くのじゃ花蓮!!』
願いを叶える為なら誰でも構わないと言いたげな若葉の発言に頭に血が上りルリグカードを二枚正面に出す。
「やっとその気になってくれましたか」
「か、花蓮ちゃん...」
「真子ちゃん、ゆらぎちゃん二人は下がってて......ここは私がやらなくちゃいけないの」
状況が掴めないといった様子の二人を置いて若葉を睨み続ける。
数秒後、長く発言していなかった言葉を発したと同時に視界が真っ暗になる。
「「オープンッ!!」」
........................
白と黒が入り交じった空間。右には薄らとだが真っ黒いビル等の建物が見える。近くで音はしないが落雷が相手の背後で何度も落ちている。
顔を上に向けると空を覆う巨大な針...ルーレットが私に指し示す。
『先攻はワシらじゃ!始まったからには仕方ない...花蓮よ手を抜くでないぞ!!』
「モチロン。 そのつもり...!」
立体映像かと今も疑っているけどテーブルの上に立つ小さなウムルさんを見てそんな事も今は言っていられない。
「私のターン!ドロー。 ........エナをセットしてレベル1へグロウ」
本来だったらカードを手に持ち全て手動だけどこの空間は全て発言したままにカードが動いてくれる。
「シグニを左右に出しターンエンド」
先攻はアタック出来なくて後攻からアタック可能になる。
「若葉のターン...」
このターン以降から先攻も二枚ドローになり手札が多くなる。
一通りの動作を終えアタックフェイズに入る前若葉が私に向け指をさす。
「花蓮さんバトルは何回負けてますか?」
「二回だけど...何か問題あるの?」
「後一回負ければ願いは逆流し自身の破滅...ご存知ですか?」
「それでも友達を見捨てるなんて出来ない。 仮にこの場で負けたとしても私だけが犠牲になる」
「............友達思いですね」
笑みを浮かべテーブルの上に立つルリグに手を差し出し肩に乗せる。
瓜二つの顔に驚いたが今はバトルに集中していたい。
「ごめんなさい。脱線してしまいましたね、アタックフェイズに入ります」
ウムルさんは右手に持っていた大きな鍵を両手持ちに変え身構える。
────決着がつきそうになった時肩に乗っていたタウィルちゃんの何気ない一言に唖然とした。
『かれんたのしそう』
散々バトルを避けてきたがそれはこの感情を抑える為でもあった。
以前にもターンが進むにつれ口が緩み笑みを浮かべながらバトルをして勝っていたけどこの感情はおかしい。
負けた人は悔しい思いをしているのにそれを嘲笑うかのような笑顔をしていた自分が恥ずかしい。
意識して挑んだ時もあったが最後にはまた楽しいと気持ちいいの感情が抑えきれず顔に出てしまう。
それから二度連続して敗北してからよく分かっていたつもりでいた。
「........っ」
唇を噛み眉を顰める。
『............どうしたのじゃ』
ウムルさんに心配されたが首を横に振りアタックフェイズに入る。
若葉のライフクロスはゼロ。シグニの攻撃かウムルさんの攻撃が通れば勝てる。
「『コードアンチ ヨグソトス』でアタック!!」
黒の閃光が相手目掛け直進していく。この瞬間また私は............。
....................
「───花蓮さん強いですね...まさか『クロス』を使っているなんて予想外でした」
「これで反省してくれたなら嬉しいけどね」
若葉ちゃんはしっかり頭を下げてくれた。頭に手を乗せ撫でると頬赤くして払いのけた。
「今度はそちらのお二人が相手してくれるのを楽しみにしてます...フフ」
今すぐ挑みたかったに違いないが、若葉ちゃんは足早に帰っていった。
ルリグも一度バトルすると疲れ休まなくちゃいけない。必ずしも休ませなきゃいけないというルールは無いが力を充分に発揮できなく勝率が下がるとか。
観戦側にいた二人は後ろでポカーンと立っていたがすぐに我に返りゆらぎちゃんが肩を揺らしてくる。
「どどどういう事なの!!?」
「お、落ち着いて...。 うっぷ」
アトラクションに乗った後に全力で揺らされたみたいになり吐き気が襲ってくる。
「ご、ごめん.......。じゃなくて!セレクターバトルってなんなの!?」
「ゆらぎちゃん落ち着いて。 花蓮ちゃん用事の時間に間に合う...?」
興奮しているゆらぎちゃんを抑えながら真子ちゃんは恐る恐る私の腕時計を見つめる。
「そうだった...!戻ってきたら二人にはゆっくり説明するから!」
『その必要はないわ』
何処からか大人びた女性の声が聞こえた。
「ア、アルフォウ?」
ゆらぎちゃんの制服のポケットから出てきたカードが喋っていた。
『私が一通り話してあげる。 ........だから早く行ってきたら?』
どんな姿で今どんな表情をしているのか気になったけどこの場はアルフォウに任せて急ごう。
....................
大会会場前に着いたのは開催後一時間経った後だった。
建設中のビル入口前で立ち止まり日が落ち暗くなった空をカードを持ちながら眺めているとタウィルちゃんの『おぉー』という声が聞こえてきた。
『おっきい...はいらないの?』
「遅刻して今から入ってもすぐに追い出されると思うからここで眺めてようかな」
『何じゃ。お主は妹と会うためにここまで足を運んだのにそれでは無駄ではないか』
「そうだよね...」
『うむる、かれんがこまってるの』
間に入りタウィルちゃんは私に指をさしながらウムルさんの顔を半目でじっと見る。
『...少々言いすぎた。じゃがこのまま帰るのは惜しいのではないか?』
首を横に振る。
「SNSで教えてくれた伊緒奈さんが言うには、桃香ちゃんはこの街にいるみたいだからいつかすぐに会えるよ」
『...会って謝るんじゃったな。ならこんな戦場ではなく面と向かって話せる場所がよいな』
「うん。ごめんねウムルさん」
『謝るではない。これではワシが悪者ではないか。タウィルもいつまで指を指しておる』
『かいけつしたからおろす』
タウィルちゃんは手を開き死角に置いていたストローを口に咥え吹くと先端から何個もの泡がカードの内を埋める。
『早速シャボン玉で遊びおって...』
「ふふ...それじゃカード屋に寄って帰りましょ」
『そうじゃの...ところであの古代兵器が置かれていたカレー屋には行かないのか?』
「...行きたいの?」
『うむ』
腕を組み小さい胸を張るウムルさんに思わず吹き出す。
「童話に出てくる魔法のランプみたいな入れ物だけが目的でしょ?その為にお店に入るのも...」
『何じゃ花蓮は興味がないのか。あの古代兵器はな......』
淡々と説明を始めたウムルさんの言葉を半分聞きながら高層ビルに背を向けた............。
........................
カード屋で一枚カードを購入し食事をすませ人通りの多い道を歩いている時、以前見かけたコートの少女と遠い距離ですれ違った気がした。
横断歩道で渡りきってから振り返ったがこの人混みの中では探しきれない。
(あの赤いリボン......気のせいだよね?)
『ネッシーとやらのデザイン人間に餌付けされておるのだがどう思う?......花蓮?』
「ううん。何でもない」
『そうか。 また一人で背負い込むでないぞ。 今度はワシとタウィルがおるんじゃからな』
「うん。困った時は相談するよ」
『うむるおじさんくさい』
『な、なんじゃとー!!』
この二人と一緒なら桃香ちゃんに正面から向き合って謝れる気がする。
会って真実を話そう。あの交通事故の現場にいた人物の事を全て............嫌な思い出でもいつか振り返らなくちゃいけない時がくる。
その時まで............。
『その真実は齟齬』end