selector infected WIXOSS―torture―   作:Merkabah

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『この夢は非情』

────大切な記憶が欠けている。

 

アイツ(花蓮)と今まで過ごしてきた大切な記憶の欠片。 何処に置いてきたのか誰も知らない。

 

いや、一つだけ残っている。 アイツが何処か暗く狭い部屋で二人きりになった時に吐いた台詞だけは。

 

『私のせいで............。 私が責任を負わなくちゃいけないの。 だから桃香ちゃんは強く生きて...』

 

後日私の前から姿を消した。 連絡先、今何処に住んでるのか分からない状況のまま二年も経過した。

 

...あの日から姉として見るのではなく、臆病者の無責任な女として認識し始めた。

 

そんな日々が続いたある日、クラスメイトから一つのカードゲームを勧められた。

 

 

────『WIXOSS(ウィクロス)

 

今となっては命の次に手放せない物になっているカード。

 

selector(セレクター)』に選ばれた少女は勝ち続ければ『夢限少女』になり願いが叶うという信憑性のない噂で持ちきりだった。

 

流行りに乗ってみるのも悪くないと考え私はカードショップで最後の一つだったデッキ『 BLACK(ブラック) NEED(ニード)』を購入し家で開封すると一枚だけ妙にリアルなカードが混じっていた。

 

それが今のパートナー、『ミュウ』との出会いだった。

 

始めから寝てばかりの姿にバトルをすることよりも面倒を見ることで手一杯だった覚えがある。 挑まれても寝ていては勝負にならない。

 

それから数ヶ月して、セレクターバトルに足を入れ連勝続きで浮かれていた。だが、すぐに一人の少女に敗北し連勝を止められた。

 

 

顔はもう覚えていないが私より年は上で白髪のお嬢様?みたいな風格を持ち、 語尾に必ず『~ですわ』を付けやたら絡んでくる面倒な人だった気がする。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ミュウがセレクターバトルの真理を教えてくれ手を引くよう伝えてきたが逆効果で私は更に興味が湧き上がった。 どうやらルリグ達にもルールがありペナルティ覚悟で伝えた事をミュウは後悔し嘆いているに違いない。

 

そんな気持ちを知っていながら、私は好都合と受け取り戦い続けている。

 

それ程にアイツに憎悪を抱いている。 家族を逝かせ逃げたアイツの命............人生を............

 

終らせてやる────

 

 

 

────────

 

 

休日の昼間から伊緒奈(ウリス)に呼び出されたかと思えば撮影現場である公園の広場の隅にあるベンチに待機させられていた。

 

「まだ来ないのか...」

 

コートを着ているが衣服の隙間から冬特有の冷たい風が入り込み貧乏ゆすりを繰り返していた。

 

『そういえば桃香。 近くでバザーやってるみたいよ』

 

「バザー......一般人がいらない物を持ち寄り売りさばくあれか...」

 

どうせまだ戻ってこないだろうと判断し立ち上がり腕を回す。

 

「ミュウがいくらで売れるか試してみようかな」

 

『................素人じゃ値段つけられない。 それほど貴重なの』

 

「この間カードショップで50円で売ってたけど」

 

『凹むから現実的な値段言わないで............』

 

............................

 

 

 

バザー会場に着き目新しい物がないかフラフラしていると正面から走ってきた人と肩がぶつかる。

 

「っ」

 

舌打ちをしそうになったが、とりあえず喧嘩腰にならず相手の顔を見る。

 

「............るう?」

 

「あ............桃香」

 

少し息を切らしたるうが私と目が合うとすぐに逸らした。

 

「何か探し物? 手伝うけど」

 

「だ、大丈夫。 それじゃ............」

 

「待ってよ。 ............タマは元気?」

 

背を向けて逃げようとしたるうの腕を掴みわざとらしくタマの状況を聞く。

 

知っているがどんな反応をするか様子を見ていると今度はるうの後を追いかけてきた一衣がやってきた。

 

「! も、桃香............るうの手を離して!」

 

あっさり掴んでいた手を離され肩を竦める。

 

「別に取って喰おうなんて考えてないんだからそんな警戒しなくていいじゃない」

 

背を向けたまま一衣に寄り添うるうに投げかけるが反応はない。

 

無言の時間が続いている時、ポケットに入れていたミュウが小声でイイ情報を教えてくれた。

 

『............るう子からルリグの気配を感じる............』

 

「あれ? るうまだセレクター続けてるんだ? パートナーは誰? タマはいないんだよねぇ?」

 

挑発的な言葉に一衣と胸に下げていたカードケースの中にいる遊月が真っ先に驚く。

 

「............」

 

「黙ってないで教えてよ。 あぁ言い方が悪かったか...。 教えて下さいよ小湊るう子さん」

 

「っ!!」

 

「るう子!?」

 

顔を俯かせたまま全力で走り去ってしまったるうへ一衣は腕を伸ばす。

 

「............どうして」

 

「ん?」

 

一衣が怒りをあらわにし私に何か言おうとしたがやめるうのあとを追いかけに行った。

 

取り残された私は親指の爪を噛み鼻で笑う。

 

「素直にイオナがルリグって言えばいいのにねぇ」

 

『............』

 

ミュウまでも黙ってしまった。

 

興も冷めてしまい待ち合わせ場所に帰ろうと振り返りとウリスがすぐ側まで向かってきていた。

 

駆け足でより声をかける。

 

「ようやく終わったんだ」

 

「晶と話し込んでいた」

 

「はぁ...。 愛されてますね」

 

「嫉妬してくれてもいいわよ」

 

「それはない。 ないです」

 

手で否定するとウリスは薄い目で私を見つめる。

 

「............ところでさっきまで負け犬さん達と何をしていたの?」

 

「るうと一衣? たまたま見かけて声をかけたら速攻で振られた」

 

「情けないわね」

 

「そうですよ。 私は後を追いかけない情けない人ですよ」

 

「それじゃ情けない人。 いつもの所に行くからついて来なさい」

 

長い髪をふわっと揺らし歩き始めたので横に立ち歩いていると焼き鳥屋の屋台が目に入る。

 

「ウリス。 あれ食べる?」

 

「勝手にしなさい。 先に行ってるわよ」

 

「そうですか」

 

足を止めず出口まで向かうと立ったまま涎を垂らす女がじっと先程までの屋台を見つめていた。

 

どこかで見たことあるが曖昧な記憶の為気に掛けることなく横を通り過ぎると左腕を突然掴まれ身体がぐらついた。

 

「あ、危なっ............」

 

危うく尻から倒れそうになりすぐに掴んでいる腕から顔へ視線を向けると顔が目の前に近づいていた。

 

「貴女、『水無月 桃香』ではありませんか!?」

 

「はっ? 誰よアンタは...」

 

「ワタクシを忘れたのですか! 貴女と一度戦い友情を誓った『一条(いちじょう) 榎燐(かりん)』ですわ!」

 

「とりあえず手離してもらっていい?話すにせよこの体制はきついから」

 

ゆっくり離してもらいコートのシワを直す。

 

「榎燐...って言ってたけど私の友達にはいない名前だよ」

 

「ガガーン! ですわ............」

 

ん?ちょっと待って............この口調といい語尾といいどこか出会ったことあるような...。

 

「白髪のですわ女............」

 

「思い出してくださいですわ!」

 

「五月蝿い。 ちょっと黙って」

 

「ショボーンですわ」

 

「一々擬音を口にしないで」

 

「ガー...」

 

睨みつけると自分の口を自分の手で塞ぎやっと静かになった。

 

目を閉じ古い記憶を探っていく............。

 

「あっ。 思い出した。 ですわ女か」

 

あっさりと発見出来た。 理由は簡単なもので私がセレクターになり調子づいていた頃、今と同じ様に話しかけてきてバトルを仕掛てきた女。

 

「流石はワタクシの友ですわ!」

 

「あーうん。思い出してすっきりしたしそれじゃ」

 

「ガシッ! ですわ!!」

 

今度はコートのファーに無理矢理掴みかかってきた。

 

「久しぶりに顔合わせしたかっただけでしょ? 私は用事があるから。 ほら隣にいる人が怒っちゃうし」

 

「お供の方はもう先に行ってしまいましたわよ?」

 

即座にウリスがいた方を見ると榎燐の言う通り姿が無くなっていた。

 

「まぁ待ってくれる訳ないか。 だけど用事があるの」

 

「友なら友人を置いていきませんわ」

 

「何時から友達になった。 バトル一回で友達関係になるほど親しくなった記憶ないけど?」

 

「桃香は了承してくれたではありませんか!」

 

また思い出すのも面倒だ。 この女に合わせた方が早く済みそうな気がしてきた。

 

「ハァ...分かりました。 それで私にどんな御用ですか?」

 

涎を垂らしながら屋台を見つめていた時点で察していたが確認の為聞く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ワタクシお腹が空いていますわ! 庶民の方がよく使う言葉で言うと腹の虫が鳴いているですわ」

 

「よくご存知で...お嬢様ならお金があるでしょ? それで解決す「この夢の世界に来た時に財布は持ち合わせてませんの!」

 

指をさし偉そうに答える。

 

「(頭のネジが飛んでるのか?)夢の世界って...一度脳に衝撃与えてあげようか?」

 

拳を握りおデコにコンコンと当てる。

 

「以前試しましたが効果なしでしたわ。 ショックで一日寝込んでました」

 

「やったのか...。(寝込んだ原因は頭痛でしょ) 正気じゃないね。 榎燐様は」

 

「褒めてますか?」

 

「うんうん。 すごーい。 わぁーパチパチ」

 

「??? フフーン!ですわ」

 

気持ちのこもってない拍手して馬鹿に............称えてると胸を張り髪を掻き上げ得意げの表情を浮かべる。

 

合わせつつ続けて話す。

 

「この夢の世界でもお金を払って物を買う。 これは当たり前のことなんだけど本当にお嬢様なんだね」

 

服装を見ると地味なパーカーを着ているがスカートはフリルの物。 似合わない衣装だが言わないでおこう。

 

「そうですわ。 いつもは仕えの者に買わせていますから」

 

「............電話したら? 携帯貸すから」

 

「ケータイ...?」

 

「独り言だから。 ............これはめんどくさいなぁ」

 

助けを呼びたいが更に悪化するだろうし............あっ。

 

「榎燐様にはルリグがいるんだよね?」

 

「はい? これがワタクシの親友『 』ですわ!」

 

名前が聞き取れなかったがカードの裏面だけでそれがルリグだと判断し私はコートのポケットから財布を取り出し、中を確認する。

 

この際お金を少しだけ渡しこの子の面倒はルリグに任せよう。 ......どこまで私はお人好しなんだ............。

 

(一万円しかない...)

 

チラッと榎燐を見ると鳴りっぱなしのお腹を擦りルリグと会話をしている。

 

渋々、最後の一枚のお札を抜き榎燐の手を取り乗せる。

 

「無駄遣いしないでよ! 絶対!!」

 

「はい??」

 

この世間知らずのお嬢様は強く言っても無駄遣いしそうだが言った方が自分の中に安心感が生まれる。

 

興味津々にお札を空に掲げ見上げる。

 

「屋台の人に出せば匂いの元が買えるから」

 

「マネーですわー! でもこれ以前頂いた物とは絵が違いますわ?」

 

「はぁ!? 前にも人からお金を貰ったの!?」

 

一体どうやって生活しているんだこの人は............。

 

「はい。 この衣装を頂いた大切な友人............『水無月 花蓮』から貰いましたわ。 んん? そういえば貴女も『水無月』でしたわね。 もしかして........」

 

「随分優しい人もいたもんだね............」

 

地面に目を向け呆れながら今の会話を頭の中で復唱する。

 

 

 

 

 

 

水無月 花蓮........?

 

 

 

 

 

一番聞きたくない名前に私の身体が無意識のうちに動き榎燐の胸ぐらを掴み取る。

 

「今............なんて」

 

「く、苦しいですわ...」

 

「いいから早く言えよっ!! 誰から貰ったって!?」

 

「か、がれん............ですわ。 水無月...花蓮」

 

パッと手を開き解放する。

 

「何処にいた?」

 

「く、苦しかったですわ......」

 

コンクリートの地面に両膝をつけ息を整える榎燐の髪を強く掴み視線を合わせる。

 

「どこ?」

 

「お、覚えてませんわ...。 ワタクシが迷っていたところ声を掛けて下さったので............」

 

舌打ちをし髪を離すと涙目で榎燐が私の手を握る。

 

「貴女本当に『水無月 桃香』ですわよね!?」

 

「そうですよ。 アイツの妹の『水無月 桃香』だよ」

 

笑顔で答え立ち上がり爪を噛み吐き捨てる。

 

「............アイツと同じ血が流れてるなんて虫酸が走るけどね」

 

「........................」

 

 

……………………………………

 

 

 

ウリスと晶の事務所に同席し帰る頃には夜になっていた。

 

出てすぐにセレクターに挑まれ薄暗く人一人が通れる路地裏で戦い勝利した。 対戦相手はオドオドし今の状況を理解していない様子だった。

 

散らばったカードを一枚一枚集め差し出すが怯えたまま受け取ろうとしない。

 

「どうしたの? 戦う前に言ってたじゃない。 大切なカード達を触らせないって」

 

 

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話を聞かず背中を見せて飛び出してしまいため息をこぼす。

 

「私が欲しかったのはルリグだけだったんだけど」

 

裏面のまま落ちているカードを拾い上げ表を見ると予想通り(から)になっていた。

 

三回負ければルリグはまた新しいセレクターの元に行ってしまう。 そして負けたセレクターは願いが逆流する............。

 

 

さっきの子の願いは『今度のサッカーの大会で勝ちたい』だったかな。

 

 

デッキとルリグカードをまとめ地面に置きさっきの子とは反対の道を歩き出す。

 

 

 

 

 

 

遠くでクラクションが鳴り響き住民がそちらに足を向かわせる中、独り笑みを浮かべながら歩く少女がいた............。

 

 

 

 

『この夢は非情』end............




オリジナルサブ 『一条(いちじょう) 榎燐(かりん)』イラスト


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