selector infected WIXOSS―torture― 作:Merkabah
『悩んでおるの花蓮よ』
「............うん」
『かれん。 めのしたにくまさん』
「冬眠してるんだよ」
『............本当にどうしたのじゃ』
授業時間が終わった放課後。 机の上に置いていたカードの中からウムルさんとタウィルちゃんが不安そうに声をかけてきてくれた。
悩みの種はつい最近ゆらぎちゃんと真子ちゃんがセレクターに選ばれたことにある。
二人はバトルをしているのか。 セレクターバトルの本質を知らないまま戦えば相手と二人が傷つくだけ。
止めたい気持ちが強いがどう説明する? カードを貰うなんて出来ない。 仮に自分の立場に置き換えたとしても友達にウムルさんとタウィルちゃんを差し出すことは躊躇うだろう。
頭痛がしてきたところに右肩を誰かに優しく叩かれそちらへ顔を向ける。
「この世の終わりみたいな顔しながらカード眺めてどうした?」
「樹くん...。 えっ、とデッキを考えてたんだ」
ゆらぎちゃん達と仲良しだがセレクターでない樹くんに話しても混乱するだけだ。 ここはうまく誤魔化そうと考えたが、
「............本当か?」
どうして私は肝心な場面で嘘をつけないんだろう。
あっさり見抜いた樹くんは私にデコピンをしてきた。 ゆらぎちゃんにはよくチョッカイ?を出しているが私は初めてのことに戸惑いながら様子を見る。
「お前がそんな様子じゃゆらぎや尽白が声かけづらいだろ」
親指で示す方を見ると廊下からこちらを覗く二人の姿。 目が合うとすぐに隠れてしまった。
一人で勝手に焦っていたせいで周りに迷惑をかけていた。 それを樹くんが教えてくれた。
何だか悩んでいたことが無駄だったと思い思わず笑ってしまう。
「な、なんだ? 今度は急に笑って...」
「ううん。 なんでもないよ、ありがとう樹くん」
焦らずゆっくり二人には伝えていこう。 そして、二人のルリグもきっと本来のルールを知っているだろうから協力して乗り越えていこう。
「私みたいな人に気をかけてくれて本当にありがとう。 そういうところが好きだよ」
「うっ」と後退りし恥ずかしそうに頬をかく動作をしながら視線を逸らす樹くんに疑問を抱く。
「そういうことサラッと人に言うか普通............。 だから勘違いされるんだよ」
「え? 勘違いって?」
「これだから天然は...ほらっ隣のクラスからの手紙だ! ちゃんと返事返してやれよ」
乱暴に私の手のひらに一枚の手紙を渡され樹くんは教室から出ていってしまった。
???手紙なんてどうしたんだろう?
「今開けよ...「ちょっと待ったー!」
さっきまで廊下にいたゆらぎちゃんが全力疾走で私の前まで接近し手紙を奪い取る。
「ゆ、ゆらぎちゃん。 その手紙............宛名が書いてないけどゆらぎちゃんの? でも隣のクラスの子って言ってたか」
「どうしてそうなるの! これはどうみても「「ゴホンゴホンッ!!」」レター!」
クラスに残っていた男子生徒がほぼ同時に咳き込んでよく聞き取れなかった。
「敗れたー? 何に負けたの?」
「ああもう! デリカシーがないなぁ!」
「???」
「ゆらぎちゃんそこまでにしようよ...。 花蓮ちゃん。 もう帰ろ?」
興奮したままのゆらぎちゃんの後ろからおずおずと顔を覗かせた真子ちゃんの言葉に私はカードを手に取りポケットにしまう。
「うん...!」
………………………………………………………
ゆらぎちゃんとは別れる間際まで弄られてしまったが原因がわからないままで、手紙も返してもらえなかった。
『やっといつものかれんにもどった』
手に持つタウィルが微笑みシャボン玉を作っていた。
「二人ともごめんね。 心配かけて」
『全くじゃ...
『そうそう...。 かれんはえがおがにあう。 だからわらってて』
「............よぉーし! なんだか元気が出てきた! このままカードショップでウムルさんのカードを買いに行くよ!」
『またいきなりじゃの。 じゃがワシのカードなら大歓迎じゃ!』
『むー...。 かれんかれん』
ぷくーと頬膨らませながら今にもカードから飛び出し腕を引っ張ってきそうなタウィルちゃん。
「勿論タウィルちゃんにも関連したカード買う予定だからそんなにムッとしないで」
するとすぐに御機嫌を取り戻しシャボン玉を沢山宙に浮かせていた。
自分の財布と相談しながら購入しようそう考えていた時。 不意に左肩に違和感を感じた。
振り返る瞬間甘い香水の匂いが鼻に入ったかと思えば白髪の髪が目に入る。
「うわっぷ!」
「ご無沙汰ですわね水無月 花蓮! ............しゃがみ込んでどうなさいましたですわ?」
顔を見ようとした拍子に今心配してくれている少女の顔がまさかすぐ目の前にあるなんて思いもせず、髪が眼球に刺さり妙な感覚に襲われる。
目を何度か擦り涙目で声の主へ顔を上げる。 また近い。
マジマジと見るとまつ毛が少し長い綺麗な目が私を心配そうに見ていた。
「あの...
「きす? ...それの意味は接吻ですわね! まだ唇では経験がないの...花蓮。 貴女で試してもいいかしら?」
「良くないよ...。 キスは想いを寄せる人とするんっ!?」
突如、強めの力で両方の頬を手のひらで掴まれジリジリと大きな瞳が接近してくる。
「ワタクシ花蓮にはお世話になっており想いを寄せておりますわ!」
「しょうゆうもんだいじゃにゃい!」
「毎朝お母様とはお互いに頬にしていますから慣れておりますわ!ですわ!」
「にゃ、にゃらほぉへにしてぇ!」
「断固拒否しますわ! ワタクシ一度決めたことは達成しないと気がすまなくてよ!!」
埒があかないと判断し私は榎燐ちゃんの手を取り引き離す。
何とか力ずくで突然の暴走を止められホッとしていると榎燐ちゃんは落ち込んでしまった。
「ショボーンですわ...ワタクシ花蓮を想っているのに」
「気持ちだけで充分嬉しいから...私もまだ経験ないけどこれだけは............」
「............せめて頬に! ずっとお母様に会えずそれすらも叶わなくてワタクシ身が張り裂けそうですわ...」
その言葉から感じ取れる榎燐の辛さ。
以前出会ったときも自分の住む街に帰れないと嘆いていた。
何故彼女の住む家がないのだろう。 疑問が幾つも上がるけど問いかけようにも榎燐ちゃんが更に傷ついてしまうはず。
人には触れられたくない記憶がある。 私にだって幾つもある。 家族...そして桃香ちゃんの件。
............今にも泣き出しそうな榎燐ちゃんから恐る恐る今の状況を聞く。
「...榎燐ちゃん今は何処で寝泊りしているの?」
「昨日は初対面のオジサマがホテルに案内してくれましたわ」
「............え」
「そのオジサマはとーってもお優しく衣装まで用意して下さって、ワタクシ感謝の気持ちで抱きしめましたわ!」
「ちょ、ちょっと...」
いくら鈍臭い私でもそれは危ないと直感で理解し笑顔で振る舞う榎燐ちゃんの両肩に手を乗せる。
「へ、変なことされなかった?」
「えぇ! ......でも、そのオジサマワタクシが寝巻きで着た衣装を使用するとおっしゃって、持ち帰ってしまいましたわ...。 何に使うのか気になりましたが...」
「と、とにかく榎燐ちゃん。 今後初対面の人にはついていかないように!
今度は優しい人とは限らないんだから!」
「...? わかりましたですわ。 そんなに興奮なさって花蓮も同行したかったの?」
返答をするより先に頭の中で榎燐ちゃんが箱入り娘だと認識した方が早く、呆れながら溜息を吐く。
本人は自覚はないがかなり危険な場面に巡り会っている。
「............どうにかしなきゃ」
私は鞄から携帯電話を取り出し今住む従姉の携帯に電話をかける。
通話に応答してくれ理由を説明している横で携帯電話を物珍しそうに恐る恐る触ったり耳を密着させ会話を聴いていた。
電話を終えると榎燐ちゃんは離れ自分の頬に指を当て首を傾げる。
「それがケータイという通話機?」
「うん。 通話も出来てメール...文章とか相手に送信出来る機械だよ。 榎燐ちゃんは...持ってないよね」
携帯電話もとい、スマートフォンを手の上に置くと危険物を扱うといった様子を見る限り分かってしまう。
「これがあれば何処からでも連絡出来まして?」
「山奥は難しいけど、ある程度電波が通ってる場所なら可能だね」
「これ欲しいですわ!」
「うーん...。 それは家の人と相談かな。 買ってあげるって簡単には言えない物だから。 もし榎燐ちゃんが手にしたら連絡先交換しようね」
「ガックシですわ~............屋敷に帰宅したらお母様に相談してみますわ!」
返してもらうと榎燐ちゃんは何かを思い出し声を上げる。
「そうでしたわ。 先程までお話していましたがご用事がありまして?」
「あっ。 忘れてた。 言ってくれてありがとう」
ついいつもの癖で感謝しながら頭を撫でると榎燐ちゃんは嬉しそうに口を緩ませていた。
「それでね、榎燐ちゃんしばらくわたしの家...ではないけど従姉の家に泊まって欲しいなぁって」
「お泊まり!?」
大きな声で反応した榎燐ちゃんの目は携帯を見ている時よりも目をキラキラさせていた。
「友達の家でお泊まりは初めて?」
「初体験ですわぁ~! 憧れの一つでもあるひとつ屋根の下で友と一夜を過ごす!」
「変な言い方な気がするけど、今家には私しかいないから間違ってないか」
従姉は仕事の出張で暫く不在と電話越しに言われた。
「ドキドキが止まりませんですわぁ~」
本人からの了承も得て声をかけ脚を回した。
「さぁ花蓮の屋敷へ出発進行ですわっ!!」
「...期待してるかもしれないけど...想像より何倍も狭いよ?」
........................................
「適当に座ってて。 隣の部屋で着替えてくるから。 後榎燐ちゃんが着る衣服持ってくるよ」
「はーいですわ」
花蓮が部屋を出てすぐに榎燐は部屋周りをキョロキョロしながら観察していた。
「ワタクシの浴室より狭いですわね...。 ですがワタクシは友の家に来たことがなによりも感動ですわっ!!」
『先程から忙しない奴じゃのお主は』
「はっ! 貴方は花蓮の友ウムム!」
『ウムルじゃ! 悩んでどうする!!』
クッションの上に座っていた身を乗り出しテーブルの上に置いてあった二枚のカードをジッと見つめる。
『わたしたうぃる...』
「たうぃるん!」
『............』
温厚で大人しいタウィルの眉がピクッと動きストローを咥えシャボン玉を吹き出す。
『可愛らしい名前じゃのう。 たうぃるん?』
怒りをあらわにしているのが手に取るように分かっているウムルは笑いをこらえていた。
「ウムムとたうぃるん覚えましたわ。 ワタクシは............」
『一条榎燐じゃろ。 先日花蓮から話は聞いておる』
冬にはいろうと言うのに公園のベンチで寝ていた榎燐を心配して介抱した話を花蓮から聞かされていた。
「ウムム............!」
『分からりづらいからやめるのじゃ!』
「それとこれがワタクシの...」
『見事に回避されたのう...』
「親友............『ハナレ』ですわ!」
『............』
突き出されたカードの中で無表情で佇み微動だにしない少女。 人形と見間違えるほど整った顔立ちにウムルは「ほぉ」と小さく反応した。
『ハナレとやら、お主のマスターは破天荒で疲れるじゃろ?』
『そうかな............。 私は榎燐の行動は無意味じゃないって信じてるよ』
「ムズムズすること言わないでですわ...」
ソワソワしながら視線が左右に泳ぐ。
『かりん...。 かりん...。 りんりんはかわいからだめ』
榎燐の名前をブツブツと呟くタウィルにウムルは呆れ果て頭を抑える。
『まだ根に持っておるのかお主は...』
『うむむ...』
『お主までコケにしておるのか!?』
やり取りするカードの横にハナレのカードをそっと置く。
「これでワタクシ達は友達同士ですわね! 友になった証に...」
『『証《あかし》に?』』
ルリグ二人が声を揃え胸を張り続ける榎燐へ問いかける。
「............考えてませんでしたわ」
『...ぽんこつ』
タウィルは冷たく吐き捨てる。
『タウィルそれは言い過ぎじゃ。 ここはドジっ子と言うのが正しいと花蓮が言っておったぞ』
『それもどうかな...。 榎燐無理に証明しなくても私達は榎燐の友達だから安心して』
「そ、そうですわね...。 コホン。 親しみを込めてウムムちゃんとたうぃるんちゃんと呼びますわ!」
『要らぬお世話じゃ。 まず間違いを訂正せい』
『せいせーい』
タウィルは後頭部に手を回し小振りに腰を振る。
「せいせーい?こうですか?」
『みっともない真似をするでない!』
怒り気味に注意している横でハナレが小さく笑う。
『お主まで気が狂ったのか?』
『そうじゃない...榎燐がこんなに明るいのは久しぶりだなってね』
『...うむ。 なら今はこのままにしておこうかのう』
『そうしてあげて。 ............もう時間がないから』
『なんじゃと?』
意味深長な発言に耳を再度傾けるもハナレは黙り込んでしまう。
動きを止め榎燐は扉へ視線を移し不安そうな声で囁く。
「花蓮遅いですわね...まさか事故に巻き込まれたのでは!?」
『有り得ぬ』
「大いに有り得ますわ、今助けに行きますですわぁーー!!」
『あ、待つんじゃ! ......本当に自由奔放じゃのう!!』
部屋を飛び出した榎燐を追うことも出来ずウムルはその場にお尻からドシッと
............................
「隣が騒がしいけど楽しそうな声だから大丈夫だよね...」
私は榎燐ちゃんが今着る衣服をタンスから発見し状態を確認していた。
ワイシャツ姿で髪を解いたまま探す姿は他の人に見られたくないが部屋には一人しかいないから気にせず続ける。
「スカートだと寒いからこれかな」
穴が空いてないか空に向けた時後ろから衝撃が襲いかかり耳元で大きな声で名前を呼ばれる。
「かーれーんー♪無事でご安心しましたわぁ」
「か、榎燐ちゃん! 部屋にいたんじゃなかったの?」
「友の身の危険を察してここに訪れましたわ」
「扉開けっ放しだったからすぐに分かったんだね。 心配かけてごめんね? もう少しで終わるから...ん」
寄りかかる榎燐ちゃんの吐息が耳に当たり変な声が出そうになり堪える。
「花蓮はお母様に似ていますわ」
「え?」
嬉しいけど考えてみるとちょっと凹む。
「優しく暖かい香りがしますわ...」
「ありがと...って榎燐ちゃん?」
指が髪に絡み榎燐ちゃんはクンクンと鼻を動かし香りを嗅ぎ始める。
「............お母様。 お母様」
大切な家族に会えぬず恋しい気持ちで胸が張り裂けそうなのだろう。 私も過去に経験している。 何十回何百回と求めたことか。 しかし、帰ってくる事は無かった。
どこにいるかも分からない神様に祈りを捧げたりもしたが得たものはない。 時間だけが過ぎていく。
思い出に浸りたいが今苦しんでる榎燐ちゃんを横目で見ると、涙ぐんでいた。
振り返り優しく榎燐ちゃんを抱き寄せるとすぐに背中に手が回り強くしめられる。
この時間が長く感じたが榎燐ちゃんの気が満足するまで私はずっと寄り添っていた............。
........................
曜日が変わり朝が訪れる。
瞼の裏がムズ痒くゆっくりと目を開けると「はわぁ!」と裏返る声が耳に入る。
「んん...。 おはよう榎燐ちゃん」
パジャマを着た榎燐ちゃんへ身体を向け目を擦る。 何故か部屋の片隅で身構えていた。
「おおおおはようございます!!!」
「何かあったの? 汗がすごいよ」
「ななにっもあっりませんでしたわぁ!」
目も合わせず電気をまだつけていない天井を見上げる。
様子が可笑しいと思い自分の顔を手で触るが何も付いてない。
「ねぇ体調が悪いの?」
「げんきですわー!」
眠れなくて一緒に寝たかったのかな?
「...今日は休みだからもう少し休もうかな。 榎燐ちゃんは?」
ベッドの近くに備えていたデジタル時計は『6:30』と表示されている。
「ご一緒しますわ! 今度は慎重に...ききき......すを」
「身長?」
最後に言った言葉が聞き取りずらく聞き直す。
「さ、さぁ寝ますわよ!」
ボフッと布団に飛び込んできた榎燐ちゃんはいつもの無邪気な笑顔を向けてきた。
「花蓮、大好きですわ!」
........................................
お昼に起きると漫画を読んでいた榎燐ちゃんは息を荒くしながら興奮していた。
「この書物はいけませんわ!」
漫画を振り回し顔を真っ赤にし怒る。
「榎燐ちゃんには少女漫画は早かったね」
「特にこのシーン。 殿方と接吻などと! 考えられませんわ!!」
「それが普通だよ」
「なんと! それではワタクシが変わっていると仰るの!」
「世界は広くて色んな人がいるから榎燐ちゃんでも受け入れてくれる人がきっといる。はず」
「花蓮は受け入れてくれますわよね!?」
「あ、お手洗いに行ってくるね」
「バンッ!ですわ」
立ち上がると同時に扉を背に榎燐ちゃんが覆いかぶさってきた。
両手を壁に当て得意げに語り始めた。
「書物で読んだ『かべどん』ですわ! 殿方が愛の告白をする時に使うアーツですわ!」
「カードに置き換えられても...退けてくれない?」
「まだ書物に書いていた言葉を言ってませんわ」
「もう...それを言ったら解放してよ?」
咳払いをし急に鋭い目つきに変化する。 背中に寒気が走る。
「花蓮、────愛してますわ。 そしてこれが証ですわっ!んっ」
物凄い勢いで顔が近づき口に何か重なる。
一秒程で離れた。
照れた榎燐ちゃんの姿に苦笑しながら頭の中で浮かんだ言葉をそのままいつものトーンで喋る。
「もう榎燐ちゃんたら...キスするなん............て」
いまわたしのくちびるとかりんちゃんのくちびるが................。
「「................」」
「!!!!????!!!!??」
「やりましたわぁーーーー!!!」
『その少女は暴走』end