selector infected WIXOSS―torture― 作:Merkabah
────一人の淋しい少女は許されないと理解していながら大切な人に手を伸ばし許しを求めた。
孤立を好む真っ黒な少女は、それに対し手を払い己の信念の為、長き日に渡る妬み、怒り、恨み全ての負の感情を込めた一撃を放った。
その一撃を受けながら淋しい少女は亀裂の入った関係を修復したくて堪らない。 でも、もう一方がそれを許さない。
"
自暴自棄になりながらも抗う少女に淋しい少女が錯乱する。
そこでその少女はどんな行動をとり、どんな未来を手にするのか………。 暗く永遠に孤独を味わう未来? そのまま堕ちていく未来?
────それとも" 希望で満ち溢れた未来? "
拷問の如く身を裂かれるのが先か救うのが先か────
真っ白な空間で真っ白なドレスを着た少女は不気味に微笑むと瞳をゆっくりと閉じた............。
『selector infected WIXOSS -torture-/ -Re/verse- 』
『この最期は慟哭』
────────
水無月花蓮と一条榎燐は花蓮の地元の街にあるカードショップに足を運んでいた。
地元の近隣のカードショップでは扱っていないカードも多くあり行く価値が十分にあった。
椅子に腰をかけテーブルでデッキを再確認している横で榎燐が花蓮の左にまとめている髪の毛を指でクルクルと遊んでいた。
我慢をしてきたが、スキがあれば抱きついてきたりする彼女に痺れをきらし声を出す。
「榎燐ちゃん...暇なの?」
「そうですわ!」
「そんな自信満々に答えられても...私はデッキを見直してるから出来ればちょっかいは出さないでくれると嬉しいなぁ」
「ならワタクシが見て差し上げますわ!」
横から身体をズイッと出し花蓮の左頬へ密着する。
「ひょっとちかい!」
「むぉ! お返しですわ!」
手で顔を押し離すと榎燐は鼻息を荒くし今度は人差し指を立て花蓮の頬へ押し当てた。
『お主いい加減にせぬか。花蓮が困っておるじゃろう!』
テーブルに置かれたカードの中からウムルの怒り混じりの声にビクッと反応し榎燐は指を離す。
どうにもいつもより様子が変な榎燐に花蓮はウムルを落ち着かせながら顔を見る。
「(積極的なのはいつもと変わらないけど、緊張してそわそわしてる感じが...)」
浮き足立つ榎燐に戸惑い対応に困っていた時、ふとっ彼女のパートナーであるルリグの存在が頭に思い浮かぶ。
「ハナレさん...少しお話しませんか?」
『............』
「? ハナレさ...」
「今はダメですわ!」
反応がないと言うより気配を全く感じない。 榎燐の手に持つカードを上から覗こうとしたが花蓮の目を慌てて手で覆い隠す。
「ど、どうして? いつもなら見せてくれるよね...」
そのままの状態で手探りで榎燐の腕を掴み目を合わせる。
「と、とにかく今日一日ハナレと話すのはワタクシが許可できませんわ」
『りんりんは、はなれのすけじゅーるかんりする、まねーじゃーなの?』
タウィルの小ボケにも食いつかずカードをデッキケースにいそいそとしまい込んでしまった。
触れたら不味いと判断し花蓮は話題をかえようとした時、コートのポケットに入れていた携帯電話から着信音が鳴り出す。
「ごめん電話してくるから、少し席を外すね」
「はい...ですわ」
慌てて電話を取りながら背中を見せ店の外へ出ていく姿を榎燐は気を落としながら見つめていた。
その様子に気づいたウムルとタウィルは同時に口を開く。
『お主...ハナレが手元に居らぬな?』 『はなれどこにいったの?』
「おふた方...す、鋭いですわね」
『るりぐだからとうぜん』
『...今朝から気配が全く無かったからのう。 気にはかけていたが、花蓮にそれを言えば心配するじゃろうから黙っておったのじゃ』
「......貴女達に読まれていたなら全てお話しますわ。 まずは………ワタクシ…今日で元の街に帰りますの」
『きおくもどったんだ』
「記憶が無くなってたというよりもワタクシが自ら無いことにしていたのですわ」
『...思い出したくない事があったから頭の片隅に隠していたのじゃな。 人ならよくある事じゃ』
「えぇ、 この世界は皆様優しくてつい甘えてしまい長く滞在していました...」
『んー? りんりんはどこにすんでるの?』
「............この街の違う景色の街ですわ」
『???』
首をかしげている二人の前に手の平の上に乗せられた変わったデザインが描かれた金色のコインを見せる。三枚は真っ黒に染まっており形しか認識出来ない。
『なんじゃそれは? ずっと握っておったのか?』
「やはりこのコインはまだありませんのね...。 これは」
「───おや? 榎燐お嬢様じゃないですか...こんなところでカードとお話なんて珍しい」
途中で割り込んできた鼻につく言葉使いの主の顔を見上げると目の下にクマを持つ桃香が中腰で立っていた。
「桃香...今の話聞いていました?」
「さぁ? 興味無いから耳に残ってないよ。 それよりここで何をしているの?」
咄嗟にカードを隠したが桃香は目で追うだけでリアクションと興味を示さなかった。
『も、ももか!ももか!!』
「は? ルリグが私に何か用?」
大きな声を上げ指を指すタウィルに顰め面で花蓮が座っていた席に腰をかけ足を組みカードを手に取る。
『
「............へぇ」
『こ、こやつ何処か様子が変じゃ...タウィル気をつけよ!』
場の空気が凍りつき、目つきがさらに鋭くなった桃香の指に力が入る。
「アンタらアイツのルリグか...? あの女はどこだ?」
『......どっちもおしえない。 おしえたらかれんがあぶない...きがする』
「じゃあこのまま破り捨ててやるよ」
『ま、待つのじゃ! ...タウィル挑発するでない』
取り乱しながらも桃香の顔色を伺い静かに問いかける。
『............花蓮はお主に会いたがっておったぞ。 理由は分かっておるじゃろ』
「それがどうした? 逃げ出した臆病者に会いたくもないね」
『逃げ出したじゃと...? お主花蓮がどれほどお主を思って毎日を過ごしてきたか分かっておるのか!』
「逃げ出さなきゃこうならなかった。 違う?」
揚げ足をとる態度に落ち着くよう指示していたウムルが苛立ちを覚える。
『減らず口を叩きおって...お主花蓮とは真逆の性格のようじゃな』
「お褒めいただき感謝します...。 って比べられたくもないけど」
鼻で笑い手で払う仕草をウムルに向ける。 その姿にウムルも同じ仕草で返す。
『............せいぜい足元をすくわれて落ちんようにしておく事じゃな。 真実がお主を混乱させるぞ? 』
「私が持つこの記憶が真実。 アンタらは惑わされて利用されてるだけ。 ...アイツ今度は嘘つきになったとはクズなこった」
「花蓮は嘘つきではありませんわ!」
これまで口を閉ざしていた榎燐が桃香の両肩を強く掴み体を揺らす。
「アンタは関係ないでしょ。 これは私とアイツの問題だ。 部外者は首を突っ込むな......それともあれなの? あの女の親友だから悪く言う人は許せないって?」
「...ワタクシと花蓮は親友以上の関係ですわ! 僅か数日共に過ごしただけですが...花蓮は誰にでも思いやりの気持ちを持って接してくれるお方......!」
「誰が語れって言った? ............頭がおかしくなりそうなので私は引かせてもらいますよ。 榎燐様」
カードを乱暴に投げ立ち上がり歩き出す。
「まだ話は...終わってませんわ!」
テーブルを強く叩き背を向けた桃香を静止させる。
ウムルとタウィルのカードを突き出す榎燐に横目で口角を上げたまま挑発を続ける。
「へぇ。 アンタがそのカードで相手してくれるの?」
『かれんまもる!』
『......』
「デッキも無いうえ、負ければあの女に責任がいくかも知れないのに無責任な方々だ...。 いいよ。 相手になってあげる」
唇を噛み締めていた口を榎燐が開こうとした。
「────なら私が戦えばいいんだよね? 桃香ちゃん...」
榎燐の肩に優しく手が乗せたのは花蓮で二年の間会いたくても会いに行けなかった実の妹の背中をじっと見据えていた。
「............」
「今伊緒菜さんから電話が有って、桃香ちゃんが私と決着をつけたくてここに向かってるって教えてくれたの。偶然、居合わせたけど ............」
「桃香ちゃん私は...貴女に謝らなくちゃいけないことが沢山ある...だから」
「久しぶりに聞いたよ。 アンタのクソみたいな偽善の台詞。 ...やっぱりクソだな」
「桃香ちゃ............」
「一時間後、......の病院屋上に来い。 受付には『浦添伊緒菜』の見舞いに来たって言っておけ。 ...もう逃げられないからな。 クソ女」
桃香は一度も振り返ることなく二人の前から立ち去っていった............。
顔の前に手をあて苦痛の表情を浮かべている花蓮に榎燐は声を掛けようとしたが躊躇い何も無い床へ視線を落とした。
「(目の前で友が困っているのに...肝心な時にまた、ワタクシは......)」
それどころか怒りに任せ身勝手に花蓮のパートナーを使ってバトルを挑もうとした自分がどれだけ無責任だったか冷静になった今、取り返しのつかない最悪な結果に繋がりかねなかったと理解した。
「榎燐ちゃん」
名前を呼ばれ真っ先に視線を向けた先は花蓮の右手の手の平の上にあった鍵だった。
「これは...花蓮の家の鍵ですわね」
「私はすぐに桃香ちゃんが言ってた場所に行かなくちゃいけないから、他に用事が無かったら先に家に帰っていいよ」
「ま、待って下さい...ですわ。 桃香に会ったら戦うのですわよね?」
「............出来ることなら避けたいよ。 でもあの子が許してくれる訳ない」
「なら...!」
「桃香ちゃんに会ってしまった以上、隠し続けるのは...もう限界なの」
「隠し続ける...?」
『...ここからは姉妹の問題じゃ。 お主は立ち入らぬことじゃな』
「............力になれないのですわね」
瞳から一粒の涙がこぼれ落ちるのを花蓮は一瞬見たが榎燐はすぐさま腕で擦り作り笑顔を向けた。
「力になれるか分かりませんが、これを...それではまた何処かで逢えたら...仲良くしてください...ですわ」
「えっ榎燐ちゃん...!」
震えた手で差し出した背面が白のウィクロスのカードを鍵の上に置くと榎燐は脚を回し店の外へ走り去ってしまった...。
タウィルと目が合い視線を逸らす。
『りんりん...ないてた』
『仕方あるまい。 事情が事情じゃ...花蓮よそのカードはなんじゃ?』
「...ブランクカード」
前に一度ブレと名乗る少女から貰ったカードと同じデザインですぐに分かったが何故榎燐が所持していたのか花蓮は気には掛けたが、彼女の気持ちを受け取りそのままデッキに入れた。
「二人とも...桃香ちゃんと戦わないで話をするつもりだけど......もしもの時は力を貸してほしい」
カードを前に頭を下げる姿にウムルとタウィルは一間空け答える。
『主の頼みじゃ。 地獄じゃろうと付き合ってやろうぞ』
『かれんとももかなかなおりさせる。 そのためならなんでもする!』
「............ありがとう。 ウムルさんタウィルちゃん」
震え声になったのを察してウムルがちょっかいを出す。
『泣くのは解決してからじゃろうに...その癖は治っとらんのう』
「ごめんなさい...。 でも、この涙は嬉し涙だから...」
今度はひとりじゃない。 近くに二人がいて遠くから支えてくれる友達が沢山いる。 そう考えただけで胸が暖かくなり涙が溢れてきた。
...数分後、花蓮は落ち着くと鞄から真っ赤なリボンを取り出し見つめていた。
その色に混じる斑点のような乾いた赤黒い色が脳裏にずっと焼きついているあの記憶を呼び起こした。
「あの事故は...」
横断歩道から飛び出し両親が庇ったのは”わたし”じゃない。 桃香ちゃん...貴女なの...。
・・・・・
病院の屋上で地べたに足を伸ばし座る桃香は雲に覆われた空を眺めていた。
「............」
『桃香...これまで色々あったけど......後悔はない?』
指に挟めていたカードから囁くような声で問いかけてきたミュウ。
「何で後悔する必要があるの」
『それは............』
「まさか...ミュウ。 願いが叶って私の身体を使って演じるのが怖くなったなんて言わないよね」
『............聞かなかったことにして』
「この身体で直接アイツに手を出さなくても夢限少女になった時点で願いが叶う。 何度も見てきた光景でしょ」
『そうね。............”手を下さなくても”勝手に発現してくれる』
屋上の隅で立ったままピクリとも動かず地面にカードを置いたままのるう子へ桃香の目が向けられる。
「ウリスはまたルリグになり繭の部屋に向かったんだっけ?」
『るう子はそのルリグになったウリスと対立してる最中のはず』
「あの空間のどこかに裂け目があって繭の部屋に繋がってるって漫画やアニメとかの粋だよねぇ」
『こうしてカードと話してるのは?』
「............現実」
『分かってるのね』
「こうして下らない話をしてたら、ほら」
親指を立て桃香の遠く離れた、出入りする扉を指すとすぐに扉が恐る恐る開かれた先に学校の制服を着たサイドツインテールの少女。
一歩、また、一歩歩みコンクリートを踏み寄る音が耳に入りそのまま立ち上がり振り返る。
「............悲劇の
二年ぶりにお互いに顔を合わせ上から下と視線が動
く。
「............桃香ちゃん。 大きくなったね」
昔の無垢な笑顔の面影が消え去っていたが一瞬だけだが姿が重なった気がした。
桃香は笑っていたがそれは久しぶりに出会った時にする笑顔ではなかった。
「何処で身を潜めていたかは知らないけど、のうのうと過ごしてる間にアンタの知ってる『水無月 桃香』はもう消えてたんだよ」
「私はまだ『水無月 桃香』がいるって信じてる。 胸の中で苦しんでるって」
「怪しい勧誘の人か? お喋りしてる余裕があるなら...その手に持ってるカードを構えろ」
花蓮の指に挟めていた二枚のカードが僅かに震えながらも桃香に向け突き出す。
桃香に真実を全て告げる為、逃げる訳にはいけないと決意に満ち溢れる花蓮。
二年の歳月を掛けこの世で一番憎く目障りな存在が自らの手で
コートを脱ぎ捨て、腕をゆっくりと上げる。
ミュウのカードを構え、そして口を揃えフィールドを展開する為の言葉、
「......オープンッ!」「オープンッ!」
二人を包む光が発現しこの場にいた者達の意識は別な空間へ飛ばされた............。