selector infected WIXOSS―torture―   作:Merkabah

16 / 18
『友達/真実と偽り』

すぐに帰宅すると私は玄関から上がり靴を揃えリビングのソファーの上に鞄を乱暴に投げた。

 

「このパックから声が聞こえていたけど…」

 

右手に握りしめすぎて少し汗ばむ外装を破り一番上のカードから見ていく。

 

「違う…違う…」

 

一心不乱にカードを(めく)っていくがどれも声の主と思われるものではなく焦る。

 

とうとう次で最後の一枚に差し掛かった。

 

目をつぶり恐る恐る捲る。

 

そこにあったカード。 明らかに他のとは比べ物にならない不思議な空気を感じる。 しかし同時に妙な違和感を覚える。

 

「私の知っているあの子じゃない…」

 

カードの中で眠る妖精のような白い少女に疑いを向けながら見つめていた。

 

私の記憶が一つ蘇った。 そうあの子の名前は………『アン』。

 

着物を着こなす才色兼備の彼女を忘れていたなんて。 それよりもカードの中に何故人が……。

 

『………はじめまして。 セレクター』

 

目を開けたカードの住人の声で我に返る。

 

「セレクター…私の事?」

 

『まず、あなたの記憶を元に………姿を構築します』

 

次の瞬間、突如身体が軽くなり無重力の空間に意識全てを飛ばされた。

 

 

頭の中の記憶を探り回される気持ち悪い感覚に吐き気を催すが、今私の身体はどこにあるのか。

 

新幹線に乗った時のあの、流れる景色のようにこれまでの軌跡を見せられる。

 

しかし、過去一年間の記憶しか持たない私からすればどれも最近の出来事ばかり。

 

怜さんとの病室で話した思い出、退院後久しぶりに登校した学校。

 

………その中にあの少女の記憶が微かに映し出された。

 

カードバトルをしているのだろうか。 小さいサイズになった『アン』とその後ろで座りながら慎重にカードを選ぶ私────

 

 

「!?」

 

空間をさ迷っていたかはずが今度は地に足をつけていた。

 

右手、左手、顔を触るが変化はない。

 

『………』

 

さっきまでカードにいたはずの少女が私の前に立ち何か言いたげな表情で近付いてくる。

 

身長は私より大きい…。 そして顔立ちが整っている。

 

「あの…一体私の記憶を見てどうしたかったの?」

 

『状況をまだ理解出来ないのは無理もないわ…でも理解しなさい』

 

見る見るうちにつま先から他の者の姿へ変化していく現象に気味が悪く後ろへ一歩下がる。

 

『ごきげんよう。『月咲 柚』』

 

「…アン」

 

頭の中で描いていた人物に出会え声が震え手を伸ばす。

 

欠落していた記憶の一部が蘇った喜びに浸る暇もなく遮断するように四枚のカードが突然浮かび上がる。

 

『この中にあるカードを一枚選んで』

 

「え?」

 

『さぁ』

 

言われるがまま一番右のカードを指で選択するとカードが回り数字の『2』と書かれていた。

 

『これは柚が最初に所持するコインの枚数。 あと三枚は………』

 

喋っている最中に視界の端から真っ黒い影が迫ってくる。

 

「な、なに!」

 

逃げ遅れ私の身体と意識は一瞬にして呑み込まれた............。

 

 

────────

 

 

「ここは…」

 

周りを見渡し景色を見る限りでは怜さんが借りているマンションのリビング。

 

「あれは夢…?」

 

手に持ったままだったカードに視線を移すと、どうやら現実のようだ。

 

カードの中で顔を見上げ寡黙に見つめてくる人物に僅かに思い出した過去の記憶と姿を重ねる。

 

「…アン」

 

 

名前は浮かんできたものの、この子は何処からきたのか、過去に私の身に何があったのかまだ疑問が多く残る。

 

人差し指で顳顬(こめかみ)をトントンと当て整理しつつ考え込む。

 

「………みんなもセレクター? じゃないだろうから特定の人の元に届くのかな」

 

「私の経歴を知ってる人に聞けば、また一つ思い出せそう…」

 

まず最初に思い浮かべた顔は常に一緒に住む『青山 怜』

 

「でも、お見舞いの時や今まで『WIXOSS(ウィクロス)』って言葉は出てきてないはずだから怜さんは知らないか…。 そうなると次は」

 

リビングの入口となるドアノブから回す音が聞こえすぐに思考を止め慌ててカードをポケットにしまう。

 

「ただいま」

 

「お、おかえりなさい」

 

微笑むいつもの怜さんが帰宅してきた。 私は取り繕った笑顔で答えると、怜さんの目つきが鋭くなる。

 

「ビックリした顔してるけど何かあった?」

 

「ううん」

 

「そう。 ところで今日は部活行かなかったのね」

 

生徒会の仕事をしている時の真面目なトーンに変わり更に心臓に悪くなる。

 

鞄をテーブルに置く怜さんの後ろで切羽詰まった私は首元に手を当て正直に答えるか躊躇った。

 

「え、と…今日は…昨日の頭痛がまだ残ってて…」

 

学校の為貢献する怜さんの前でカードを買っていたなんて答えられる訳が無い

 

「別に怒ってないわよ? でも動揺するって事は他の理由があるのかしら」

 

「それは………」

 

『───帰りに日花里と会って寄り道したから』

 

「えっ?」

 

「どうしたの?」

 

怜さんが言ったのかと思ったが違う。

 

『柚、私よ。 今の言葉をそのまま怜に伝えるのよ』

 

ポケットに入れていたカードから助言が聞こえ、そのまま伝えると怜さんはため息を小さくつく。

 

「日花里ね...あの子帰宅部で暇なら得意のスポーツで運動部に手を貸せばいいのに」

 

「あの、ごめんなさい」

 

頭を深く下げる。

 

「今回は具合悪くならなかったから良かったけど次からは気をつけるのよ?」

 

「はい…」

 

「寄り道するなとは言わないけど、もしそうなったら先に連絡しなさい。携帯にメールなり電話なり入れてくれるだけで不安が無くなるから」

 

「うん。 ありがとう怜さ……ちゃん」

 

「日花里には私から運動部の入部を強く勧めておくわ。 今人手不足な部は………」

 

ブツブツと考え事が始まったので鞄を持ち部屋へそっと移動する。

 

廊下に出て左手にある部屋に入り扉に背を向けたまま閉めるとようやく一息つけた。

 

「ありがとうアンさん」

 

『そんなに畏まらなくてもいい。 あれはアナタのお友達かしら?』

 

「うん。 それどころかお姉ちゃんみたいで凄く優しくて綺麗で……」

 

『………こほん』

 

咳払いではっとなる。 思わず怜さんの魅力をすべて語ろうとしてしまっていた。

 

『大事な人っていうのはよく分かったわ。 ………話が変わるけどセレクターに選ばれた柚にこれからの事を説明をしなくちゃいけないわ』

 

そもそもカードの中に人がいるなんて冷静に考えればおかしい。 携帯の画面に映し出された人と通話してるとは訳が違う。

 

『聞いてる?』

 

「は、はい」

 

どこから取り出したのか桜柄の扇子で口を隠し目を細め話を始めた。

 

『今日から九十日間……他のセレクターと戦い勝たなくてはならない』

 

「勝つ…勝負すればいいの?」

 

『ただの勝負じゃなくて『セレクターバトル』で勝利よ。 そうしないと』

 

私の左手に指を指してくる。 何かと思い手のひらを見るといつの間にか金色のコイン二枚と黒に染まったコイン三枚が乗せられていた。

 

『柚の記憶が記録されたコインを全て金色にすれば、セレクターバトルを降りれる。 逆に負けてコインが黒になれば────”記憶を全部失う”』

 

「…冗談だよね?…ねぇ」

 

(まぶた)を閉じたアンは微動だにせず沈黙を貫く。

 

記憶を失う? それにいきなりバトルをしろだなんて理不尽にも程がある。

 

「い、今からセレクターを降りれない? 私はルールも分からない初心者だから勝つなんて…!」

 

『無理よ。 もう柚は選ばれてしまった。 途中で降りることは許されない』

 

「どうして私が...。アン教えて...私は”また”失わなくちゃいけないの? もう皆を忘れたくないよ…」

 

『………』

 

受け入れられずアンにすがる気持ちで聞くが彼女は何も答えてくれない。

 

その様子に段々と怒りが爆発し腕を振り上げ床にカードを叩きつける。

 

「答えてよ!!」

 

『柚っ! どうしたの!?』

 

後ろから扉をノックしながら私を呼ぶ怜さんの心配する声に気づき呼吸を整えながら扉の前に立つ。

 

「なんでもない…」

 

『大声を出して何もない訳ないじゃない。 ここ開けるわよ?』

 

「ごめんなさい。 ……今は一人にして」

 

一分位間が空き扉の先にいる怜さんの足音が遠のいていった。

 

その場で脚から力が抜け次第に涙腺までも緩くなり泣き崩れた。

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

翌朝、起きてリビングに向かうとご飯を食べるテーブルに朝食と一枚のメモ用紙が置かれていた。

 

『先に学校に行ってます。 体調悪かったら欠席していいので無理しないでね。 (怜)』

 

折角怜さんが気にかけてくれているのに昨日の私は酷いことをした。

 

罪悪感が胸を締めつけてくる。 家にいても余計に苦しくなるだけだ。

 

「学校に行こう…」

 

心配をかけまいと用意してくれたご飯を喉に通し身支度を整え家を後にした………。

 

 

 

────────

 

通学路の途中後ろからドン!と肩を叩かれ振り返る。

 

いつものように眩しい笑顔を向ける日花里さんが挨拶をしてきた。

 

「おはよう…」

 

「ゆずっち昨日は…って! 顔青っ! 熱でもあるの!?」

 

私の前髪を上げおでこをピッタリとくっつけてきた。

 

「んー。 これ意味あるのかな? あはは!」

 

「…………………」

 

「うわ! そんな怖い顔しないでー!!」

 

「はぁ…」

 

「そんな調子じゃすぐ倒れそうだし、今から家に帰った方がいいんじゃない?」

 

「大丈夫…」

 

「ゆずっちも頑固だからなぁー。 んー」

 

頭をかき考え込む日花里さん。

 

すぐに手のひらに拳をぽんっと置き私の手を取り今来た道に引き返し始めた。

 

「今日は私も休んであげる! ゆずっちを看病するぞ~!」

 

「ちょ、ちょっといきなり...そんなに早く走られると転ぶから止まって!」

 

日花里さんは普段から天真爛漫な性格だが私の様子の変化にすぐ気づいてくれた事に少し嬉しくなる。

 

突然の行動に混乱しながらも私の心の中にあった不安が和らいだ。

 

 

 

ピタッと足を止め日花里さんはまた頭をかく。

 

「家どこだっけ?」

 

「…………」

 

「ごめんごめん。 そんなに怒らないでよぉ~」

 

顔文字みたいに目を><にし手を合わせる日花里さんに軽いデコピンをした。

 

「いたっ!?」

 

「一人で歩けるからもう手を繋がなくても大丈夫。 あっ、学校に電話しないと」

 

スカートのポケットから携帯を取り出すとほぼ同時に怜さんから着信があり驚く。

 

応答し電話を耳当てると興味津々に日花里さんまで密着して会話を聞き始めた。

 

「もしもし」

 

『柚、おはよう』

 

「うん、おはよう。 今日なんだけど...」

 

『いいわ。 今日は家で安静にしてなさい。 それと…もし良かったら昨日のお話聞かせてね?』

 

セレクターに選ばれて負けたらまた怜さん達のことを忘れてしまうなんて信じてもらえるだろうか。

 

………怜さんなら真剣に受けとめてくれるはず。

 

『近くに誰かいるわね。 鼻息を荒くして…ということは今は学校に近くにいるのね』

 

「今……」

「アタシもいますよー!!」

 

近距離での日花里さんの声に耳鳴りになる。

 

『耳にも心臓にも悪いから大きい声出さないでもえる?』

 

「ごめんなさーい!」

 

『柚、私から言うのもあれだけど...。 友達選びは慎重に、ね?』

 

「ふふ、日花里さんはただ人より活気に溢れてるだけだから安心して」

 

「そう! 体力が有り余ってしかたないんですよー!!」

 

『だ、か、ら!』

 

また近くで大声を出し普段温厚な怜さんに怒られていた。

 

────────

 

 

マンションの部屋の前に立ち鞄からいつものキーホルダーを下げた鍵を出すと日花里さんが「へぇ~」と声を上げた。

 

「ゆずっち熊好き?」

 

「私というよりかは...怜さんが好きで付けてる。 部屋にお邪魔した時他にも飾っていたから」

 

「あにょ生徒会長がっ!? ……舌噛んだ」

 

驚くのも無理もない。 女子しかいない学校の中で可愛いという言葉が一番彼女には似合わないから。 容姿端麗の怜さんはむしろ皆の憧れの大人の女性だろう。

 

「これはいい事聞いたぞ~。 明日クラスに言いふらそ~」

 

「怒られても知らないよ」

 

「ここは広めず嫌味を言われた時用に取っておくのもありか...ひひひ」

 

悪い顔で八重歯を見せる日花里さんを置いて玄関に入る。

 

怜さんと日花里さんは真逆の性格で馬が合わないのはどことなく分かっていた。

 

関係自体(こじ)れていないけどいつか揉めそうではある。

 

後から日花里さんが追いかけて入ってくる。 片手をあげながら靴を脱ぎ揃えた。

 

「おっじゃましまーす! まずはゆずっちパジャマに着替えなきゃ」

 

「うん。 その間、リビングで待ってて」

 

「はーい。 ん? この部屋は生徒会長の?」

 

廊下を数歩踏み出してすぐに私の右隣の部屋に指を指す。

 

「勝手に開けちゃ駄目だよ?」

 

「うんうん」

 

「言葉とは真逆の行動してるけど...」

 

ドアノブに手をかけ回そうとしたが鍵が掛けられ手前に引くことは出来なかった。

 

何故か悔しがり後頭部に手を回しリビングに向かっていくのを確認し、着替えの為自室に入る。

 

真っ先に机の上に置いた背面が真っ白のカードに目がいったがすぐにクローゼットに視線を変える。

 

『おはよう柚』

 

囁く声が聞こえた。

 

「おはよう」

 

冷たく返すと察してかアンは黙ってしまった。

 

「………昨日のこと私は信じないよ」

 

『...そう。 ならアナタの記憶は後六日後自動的に無くなるわね』

 

「まだそんなことを……!」

 

『コイン見てみなさい』

 

一度握り開くと金色だったはずの一枚のコインに黒いシミが滲んできていた。

 

『分かったでしょ。 戦わないと三日で一枚は真っ黒になる。 失いたくないなら戦って勝ちなさい』

 

戦わないで期日までやり過ごすという道が途絶え、頭痛がまた襲う。

 

『昨日から気になっていたけど...近くにセレクターがいたわね』

 

「どういうこと…?」

 

『そのままの意味よ。 今は気配を感知出来ないけど確実に近くにいた。 もしかして………』

 

「怜さんは違う!」

 

『根拠はあるの?』

 

「一緒にいてウィクロスの話をしたことないから有り得ない!」

 

『それはアナタに……これ以上言っても機嫌が悪くなるだけね』

 

扇子を閉じ視線を斜め下に逸らしもう一つの根拠を告げる。

 

『...向かいの部屋の住人かもしれないわね』

 

アンが言う住人はこのマンションの隣の部屋を借りる人の事をさしていた。

 

「隣は確か、同じクラスの『山吹(やまぶき) 日向(ひな)』さんが住んでるけど…」

 

クラスでは隣の席でいつも寝ているイメージしかないけどまさか私と同じセレクター…?

 

「明日学校で聞いてみる...。 アンにも来てもらうよ」

 

『かまわないけど…どうして?』

 

「アンの感知する力を頼りに誰がセレクターか教えてもらうために」

 

『あら、頼りにされてるのね。 でも分かったからと言ってバトルをするの?』

 

「………まだデッキがない」

 

昨日買ったのは強化パックでバトルするにはストラクチャーデッキか単品で使うカードを買うしかない。

 

このままルールを覚えず期日を過ぎたら情けない所の話ではない。

 

出来るなら今日買いに行ってルールを早く覚えなくちゃいけない…。

 

『サボりって言われるわよ』

 

「記憶がかかっているのにそんなこと気にしてられないよ」

 

『アナタのそういう決断力、私好きよ』

 

悩みの元凶に好まれても嬉しくない。

 

頭を抑えため息を吐き私服に着替えようとしたがリビングで待つ日花里さんの存在を思い出す。

 

あれから物音一つ立てていないが何してるんだろう…。

 

手を止めリビングの扉を開けるとソファーで横になり眠りについていた。

 

「えぇ…。 まぁタイミングいいかな」

 

日花里さんには悪いけど留守番してもらおう。

 

────────────

 

 

マンションの部屋の鍵を閉めてきたし、テーブルに書き置きもしたから大丈夫なはず。

 

帰ったら怒られるのは承知の上で今更クヨクヨしてもしょうがない。 今は目の前の問題を解決をしなくては。

 

「……着いた」

 

携帯電話に映るデジタル時計の時間と照らし合わせ開店しているのを確認する。

 

これから私は毎日不安と負ければ記憶を一瞬の内になくすかもしれない恐怖に脅えながら過ごさなくちゃいけない。

 

………本当のところは誰かに(すが)りたい、助けを求めたい。

 

怜さんならきっと助けてくれる。

 

甘えてもいいのかな。

 

「………駄目だ。 これは怜さんを巻き込んじゃいけない。 私自身の問題」

 

『そうよ。 これは『月咲 柚』アナタに課せられた問題よ。 誰も助けてくれないわ』

 

手に持っていたカード『アン』が見透かして私の顔を見つめる。

 

『でも安心しなさい。 ………柚には私がついてる。 どんな状況でも私がアナタの力になり勝利に導いてあげるわ』

 

さっきまで信用していなかったが、今の言葉で心の中にあった不安が一つ消えてた。

 

心を許すにはまだ早い気がする。 彼女の本性をまだ知らない限り警戒していた方がいいだろう。

 

「ありがとう、アン」

 

『どういたしまして』

 

表面上微笑むとアンもそれに応えてくれた。

 

持っていたカードに人影が重なり横目でを見ようとしたが先に声をかけてきた。

 

「────昨日ぶりだね。 名前は知らないけど」

 

聞き覚えのある低い女性の声に慌てて横へ身体を向ける。

 

そこに立っていたのは昨日カードショップ内で声をかけてきた少し乱れた桃色の髪の人。

 

私服の上にコートを着ている姿を見る限り学校へ行っていないのだろうか。

 

「……今学校サボってるて考えたでしょ」

 

「い、いえ…。 考えましたごめんなさい」

 

腰に手を当て首を横に振る。

 

「正直な子は好きだよ。 でも今日は創立記念日で休みなの。 アンタの所も?」

 

否定すると「へぇ」と小さく答える。

 

「そんな子には見えないけど、面倒事は投げ出すタイプか」

 

「………」

 

「黙らないでよ。 私がいじめてるみたいだからさ。 ………セレクターさん」

 

即座に身構えると顔に手を当て不敵に笑みを浮かべる。

 

「そんな堂々とカードとお話してたらモロバレよ」

 

「バ、バトルなら出来ません!」

 

「デッキ忘れた~とか?」

 

「無いんです。 昨日買ったのはパックだけなので…」

 

「でもここにいるってことは準備する為でしょ? 初心者狩りは趣味じゃないからいきなりバトルは挑まないよ。 蒼井晶じゃあるまい…」

 

信じていいのか分からず口を閉じているとカードを持っていた腕を掴みアンをジロジロと見る。

 

「『アン』ね。 ならデッキ作りに手を貸してあげる」

 

「……赤の他人にどうして?」

 

「何かの縁って理由(わけ)でここは手伝わせてよ」

 

「………はい」

 

裏がありそうで怖かったが嘘をついてる様子はなさそうなので信じてみよう。

 

「成立ね。 私は『水無月 桃香』。 アンタは?」

 

「『月咲 柚』です」

 

手を出され握手を求められ慌てて握り返す。

 

「よろしく月咲」

 

「よろしくお願いします。 あの…ウィクロスは詳しいんですか?」

 

さり気なくこのバトルの事を聞きだそうと思い質問する。

 

「自称になるけど詳しい方だよ。 ……このセレクターバトルが始まる前の出来事もね」

 

「え…?」

 

「いや、いきなり色々聞かされても混乱するだけだろうから後々話してあげる。 まずは目の前の事に集中してもらわないと」

 

背を向けてカードショップの中へ入っていってしまった。

 

「前にも同じ事があった…?つっ!?」

 

また吐き気がする程の頭痛に襲われる。

 

────アナタの願い────受け入────────

 

ノイズ混じりの誰かの言葉、ぼんやりと服装だけが見えたがすぐに目を開きコンクリートの地面が視界に入る。

 

「はぁはぁ……」

 

喉元まできている胃液を飲み込み額の汗を手の甲で拭う。

 

私の記憶は何を訴えかけてきてるのか理解できない。 理解すれば真実が見えそうだが、内心それを恐れている。

 

「いまは桃香さんの所に行かないと…」

 

視界がまだ定まらないがフラフラしながら店の中に入る。

 

レジを担当していた店員は昨日とは違う人で挨拶し商品を確認していた。

 

桃香さんを見つけ横に並ぶとカードが多く並ぶショーケース前で腕を組み顎に手を当て顔を向けてきた。

 

「月咲は……気分悪いの?」

 

「気にしないで…下さい」

 

「それは無理な話。 座って休んでていいから、カードは適当に選んでおくから。 決まったら声かけるし」

 

余程顔に出ていたのか、桃香さんの言葉に甘えすぐ後ろの空いていたパイプ椅子に腰をかける。

 

顔を上げ天井を仰ぎ目を閉じて落ち着こう………。

 

 

────────────

 

 

「月咲、一通り揃えたから起きろ」

 

身体を揺らされ桃香の声で意識がハッキリする。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

慌てて携帯電話の時間を見ると一時間程眠っていた。 天井を仰いでいたはずがテーブルで休んでいた。

 

肩に妙な重みを感じ触ると黒いコートが上に掛けられていた。

 

「さぁ受け取りなさい。 これから肌身離さず持ち歩く物だから」

 

カードの束をテーブルの上に静かに置き隣に座る。

 

「…今買ったものですか?」

 

「そうだよ、アンタの相棒(パートナー)が扱うカードを選んであげた。 感謝してほしいわ」

 

口では文句を言っているけど表情は和らいでいた。

 

「今支払います…!」

 

「それじゃレシート」

 

手に取り値段を見て驚く。

 

「カードっていざ揃えようとするとそれ位するんだなこれが。 今回は私が勝手にしたんだし、タダでいいよ」

 

「流石にこの金額は…」

 

「じゃ身体で払う?」

 

「えぇ!?」

 

また驚かされ身を引くと顔を背け鼻で笑っていた。

 

「冗談冗談。 まぁ嫌いじゃないタイプだから望むなら…」

 

「ご……ごめんなさい。 お金で返します」

 

「あ、そう。 ノリが悪いな…」

 

桃香はレシートを奪い取り手のひらで握りしめ近くのゴミ箱へ投げた。

 

「早速バトルしようか。 セレクターバトルじゃなくて一般人がやるカードバトルね」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「よろしい。 まず服を脱いで」

 

「は、はい!………はい?」

 

「次にカードを唇で挟んで両手でピース」

 

「………また冗談ですか?」

 

呆れた表情をしていると目をそらしデッキを準備し始めた。

 

────────────

 

 

 

昼過ぎになりマンションの部屋に帰ると日花里さんの怒りの声を浴びせられた。

 

「なーんーでー勝手にどこかに行ったの!!?」

 

「日花里さんに心配かけて本当にごめんなさい…」

 

リビングの硬い床で正座させられ何度も頭を下げるがなかなか許してもらえない。

 

しまいには頭を鷲掴みされグラグラ揺らされる。

 

「いつからヤンキーになったのさ!」

 

「そういう訳じゃないけど……うっ」

 

耐えきれず無理矢理離れると尻餅をつきポケットに入れていたカードが散らばる。

 

「ウィクロスのカード買いに行ってたんだ…」

 

「う、うん…」

 

恐る恐る頷くと笑顔になり日花里さんもデッキを取り出し顔の前に出してきた。

 

「そういうことなら言ってよー! 昨日買ったはいいけど対戦相手がいなかったからさー!」

 

「………今からやる?」

 

「やるやる! ゆずっちの部屋にいこっ!」

 

さっきまでの怒りはどこへ行ったのか日花里さんは手を差し伸べ私を立たせる。

 

「バトルの前にこれ貼っておかないと」

 

額の前に手が添えられたらと思えばビタンッ!とヒンヤリした物が貼られ指で触る。

 

まだ顔色が悪いのが気になるのか熱冷まシートを貼ってくれた。

 

「日花里さんありがとう」

 

「看病の為に来たんだからとーぜん!」

 

(これじゃタダの遊びに来たみたいになるけど…日花里さんがいいならいいか)

 

「具合悪くなったらすぐに言ってよ。 ゆずっち我慢して言わない時あるから」

こんなにも私を見てくれている人が身近にいてくれるだけで嬉しくなる。

 

だからこそ、もう記憶を無くしたくない。

 

記憶……。 帰り際にそういえば桃香さんが気になることを言ってたけど…。

 

『過去の記憶が無いのをいいことに、嘘の記憶を刷り込ませる人がいるかもしれないから気をつけておくといい。 ………ドラマの観すぎかもしれないけど』

 

私の身の回りでそんな酷い行為する人なんているはずない。

 

………絶対に。

 

 

 

 

 

日花里さんとただ普通の楽しいバトルをして一日が過ぎた………。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

『友達/真実と嘘』end




『阿宮 日花里』 イメージイラスト

【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。