selector infected WIXOSS―torture―   作:Merkabah

17 / 18
『感情/幸福と不幸』

昨日は学校を休んでしまったが今日は体調を崩すことなく放課後を迎えた。

 

すぐに隣の席に座る日向さんに顔を向けるが既に姿はなかった。

 

「あれ、もう帰ったのかな?」

 

「うぅ~ゆず~」

 

ズシッと背中に誰かがのしかかる。 いや気だるそうな声ですぐに誰かはっきりした。

 

「日向さん重たいよ…」

 

「カバン背負ってると思って部屋まで運んでけ~」

「随分重量のあるカバンですね…」

 

背中に柔らかい胸が押し付けられ痛みはないが重量があり段々と押しつぶされそうになる。

 

「その仕事アタシが引き受けまーす!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

元気よく現れた日花里さんが私から日向さんを引き剥がし無理矢理担ぐ。

 

「お、降ろして! 君の場合乱暴すぎて吐き気に襲われるから!」

 

「細かいことは気にせず帰りましょう! ほらゆずっちも」

 

「ま、待って! 日向さんに話があるの」

 

そのまま帰宅しようとする日花里さんの腕をつかみ既に顔が蒼白になりかけている日向さんを見る。

 

「私に…? 勉強なら自力で頑張れー。 というか教えるほど君は頭悪くないでしょ。 日花里ほど」

 

「確かにいっつもアタシの上を……今馬鹿にされた?」

 

また二人だけでやり取りがされ間に割り込み日向さんの顔を見る。

 

「あの…ウィクロスをやってますよね? その……お話が」

 

ピンときたのか目の色を変え自ら地面に足をつけ歩み寄ってきた。

 

「ここじゃ他の子にも聞かれるから…いつもの部室でどう?」

 

頷き了承すると「先に行ってる」と呟き猫背のまま廊下へ出ていった。

 

ただ一人状況が掴めない日花里は口元に人差し指をあて目を点にして首を何度も傾げている。

 

「ウィクロスの話ならここでもよくない?」

 

「これには訳があって…」

 

ここで何て答えればいいだろうか。

 

正直に選ばれし者(セレクター)になり記憶をかけたバトルをしなくてはいけないとは言えない。

 

かと言って嘘をつくのは彼女にも自分にもよくはない。

 

悩んでいると廊下から学年の違う怜さんが顔を覗かせた。

 

「柚、まだ残っていたのね」

 

視線が重なりこちらに近づき声をかけてきた。

 

「怜さんどうかしたの?」

 

「生徒会の仕事で帰りが遅くなるからその報告よ。 部室を覗いたら不在で帰ったかと思っていたわ…。 あら、日花里丁度いいところに、話が………」

 

「うっ!? アタシは忙しいから帰るねー!! ゆずっちと怜さんまたあしたー」

 

怜さんが笑顔を向けただけでたじろぐ日花里さんはそそくさと教室から足早に立ち去った。

 

「折角空きがある運動部の勧誘をしようと思ったら逃げられたわ…感だけは鋭いわねあの子…」

 

「ははは…」

 

日花里さんには申し訳ないが怜さんが来てくれて上手く誤魔化せた。 が、次に質問された時の返答を考えておかなくちゃいけない。

 

それと一つ先程から気になっているのが……。

 

「柚、あまり遅くならない内に帰りなさいよ。 昨日付近の中学校で不審者が徘徊してたみたいだから…」

 

別なことを考えていたが一度止め、今朝のホームルームで担任の先生が言っていたのを思い出す。

 

「分かった。 怜さんも気をつけて帰ってきてね」

 

「いざという時は護身術を学んでいるから返り討ちにするわ」

 

本当にやりそうだと真顔で見つめていると「冗談よ」と少し顔を赤くなった顔を背ける。

 

「それじゃ私は生徒会室にいるから」

 

「うん。 頑張ってね」

 

怜さんが去った後に疑問だった周りの好奇の視線。 今は薄れてきたが怜さんと話している時が一番感じ取れた。

 

(怜さんは生徒会長で支持率も高いから私みたいな地味な人といるのが変だったのかな…)

 

なにがともあれ、日向さんを待たせてしまっているのでカバンを右手に持ち椅子を引くと死角からカメラの様なフラッシュが発光する。

 

「いや~恋に悩める少女の顔ですな~柚やん?」

 

訛り混じり?(関西弁)口調の声に聞き覚えがある。

 

机の影からひょこっと姿を現しスカートに付いたホコリを払い首にかけていたデジタルカメラを構えニコッと笑みを見せる。

 

風華(ふうか)さん…また隠れて撮影ですか…? 怜さんに怒られますよ」

 

赤いフレーム眼鏡を中指で上げる仕草をする怜さんと同学年の『速水(はやみ) 風華(ふうか)』さん。

 

ことあることに怜さんと私の写真を撮っては所属である新聞部の記事に掲載する迷惑な人。

 

「あのなぁ、怜やんと柚やんのツーショットが掲載されるだけでその日に発行した新聞が数分で完売するんやで! 二人はこの学校の注目の的や!」

 

詰め寄りまたカメラを構えたので手で遮る。

 

「生徒会長はお姉さんになって欲しいランキング一位で、柚やんが妹になって欲しいのナンバーワンや!」

 

「しかもその二人は、屋根の下同じ部屋で一緒に暮らしてる。 あんなことやこんなこと…やっとるんやろ?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あの鼻血出てますけど…どんな想像してるか分かりませんが普通にお喋りしてご飯食べてるだけですよ」

 

ポケットティッシュを差し出すと鼻に詰め血を止める。

 

「嘘やろ…あの生徒会長と暮らしたいはこの学校の女子が最も希望する上位の望みやで…」

 

「はぁ…」

 

「とかいいつつ~?」

 

面倒くさくなってきた。

 

「…私はともかく怜さんが黙っているとは思えませんが…」

 

「本人からは事前に写真を見せればオッケーって言われとるから平気や。 前に帰宅する二人の後をつけて撮った写真を見せたら消されたけどな…」

 

「あ、当たり前ですよ! いつの間に…」

 

「別にいかがわしいもんとか、幽霊やら写ってたとかちゃうんやからデータまで消さんでもええやろ!」

 

逆に怒鳴られ身を引く。

 

「まぁバックアップは常にとってあるからモーマンタイや! わははは!」

 

「怜さんに伝えておきます」

 

「わぁー!? まてまて、うそやうそ!」

 

風華さんが腕に必死にしがみつき大きな声で謝罪する姿を周りに見られ恥ずかしくなる。

 

「分かりましたから離れて下さい…」

 

「ほんまに黙っててくれるか?」

 

「はい。 ………ん? 待ってくださいそれって」

 

「女に二言はなしやで~。 ほな今撮った写真を使って記事作るから明日楽しみにな~」

 

日花里さん並に素早く逃走していった。

 

周りの視線も解放され漸く教室から退室出来たのは良かったが数十分ほど日向さんを待たせてしまっていた………。

 

────────

 

 

 

 

「遅い。 危うく長い眠りにつくとこだった」

 

部室件空き教室である扉をスライドして入ると机の上で上体を預けた日向さんは顔を向け目を閉じたまま愚痴をもらした。

 

「怜さんと風華さんと話していたら遅くなりました…」

 

「怜はともかく風華は絡まれると長いから仕方ない…けどたまには断るのも大事よ。 そうしないと私みたいに待ちぼうけで寝るから……ぐー」

 

「あの遅れてきた身で言うのもなんですが…目を開けてもらえると助かります」

 

上体を起こし眠そうな目を擦り口を開いた。

 

「………本題に入るけど、用件はセレクターバトルについてでしょ?」

 

やはり読まれていた。 思わずスカートのポケットを上から指で触れてしまう。

 

「そこに入れてる…のはいいけどカード折れたりしない?」

 

「これに入れてます」

 

電車には乗らないが定期券をしまうケースが部屋にあったので使用している。

 

「ふんふん、柚は今回のバトルで何回勝負したの?」

 

「まだ一度も…それでまず一つ聞いていいですか?」

 

近くの壁に折りたたみのパイプ椅子があり持って日向さんの向かいに座る。

 

「それは私もセレクターかどうか?」

 

「はい。 昨日私のルリグ…アンがセレクターの気配を感じると言ってたので…」

 

「なるほど、私のルリグも感じ取っていたのは柚のだったのね。 ()()選ばれたか…」

 

「今またって……どういうことですか!?」

 

口を滑らせたのか日向は口の前に手を当て焦り始める。

 

その反応を目の当たりにし私は身を乗り出し問い詰める。

 

「教えてください、一年前の私はセレクターだったんですか!?」

 

無言の時間が続きバツ悪そうに話を始めた。

 

「記憶をなくす前の柚に口止めされてないから話すけど…抗う為に闘うって聞かされた。 誰にとか何の為にかまでは聞いてないけど」

 

「誰かに…いじめられてたとかですか?」

 

「今生活してて陰気な嫌がらせされてる? 私の知ってる限り聞いたことないね」

 

「………後は、家族は有り得ないですよね」

 

記憶を無くす一ヶ月前に父と母は仕事の現場で不慮の事故で亡くなっていると怜さんに聞いた。

 

「家族関係の悪い噂も耳にしたことない…。 そういえば柚の両親は怜のお父さんが設立した自動車製造に務めてたっけ」

 

「はい…それで小さい頃に怜さんの家にお邪魔して初めてそこで怜さんと出会ったらしいです…」

 

それから幼稚園から小学校に上がった時怜さんが同じ学校に入学し、常に一緒に遊んでいた。

 

中学は私が普通の学校で怜さんは更に上の学校へ進学した。

 

「ごめん話がそれた。 他に聞きたいのある?」

 

色々考えてみるが思い当たらず、保留し質問を変える。

 

「前のセレクターバトルも記憶をかけてましたか?」

 

「まったく違うわ。 前は願い事を叶えてくれるってルールだったけどそれも表向きだけで叶えてくれるのはカードの中にいるルリグ」

 

「そのルリグは元々セレクターの人達で、簡単に言えば人格の入れ替わりね」

 

「勝っても人格が入れ替わり、体の持ち主はルリグに、ルリグはその人の中に入って願いを叶えるですか…」

 

「叶えてくれても嬉しくない、でしょ?」

 

「えぇ自分の体を使った他の人が叶えてくれも実感はないですね…」

 

「負けた時どうなるか聞きたい?」

 

「いえ結構です…、それよりも今の状況をどうにかしないといけないので」

 

小さく頷く日向は鞄からスリーブに入ったカードを机の上に見えるように置く。

 

「これが日向さんのルリグですか…どことなく似てますね、フフ」

 

「笑うところじゃない!」

 

カードの中で眠る『ミュウ』は彼女のイメージ通りというか…似ている気がする。

 

「今回手元に届くカードは所持者である私達の記憶から構成されているのは経験済みね?」

 

「私の場合アンでしたが…あの変な場所に引き込まれる途中で思い出した記憶が優先されるとは思いませんでしたよ」

 

「柚にとってアンが一番印象に残ってるのよ。きっと」

 

手に持っていたカードを見直すとアンも寝息を立て横になっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

この姿を見ていればただの女の子。 だがカード中にいるという奇妙な光景。

 

アンが私の過去に関係している、足取りを掴みたいがやはり一筋縄ではいかないようだ。

 

「他に私が関わっていた人を知りませんか?」

 

「心当たりなら一人いるけどあったことはないなぁ…」

 

「この学校の人ですか?」

 

首を横に振り顔にかかった黒髪を細い指で触れる。

 

「セレクターになってから会った友達とか言ってた…名前は…水無月……か、か…」

 

水無月と言われ本来なら真っ先に思い当たるのは桃香さんだがその時の私はどうしてか……。

 

「花蓮?」

 

「そうそれ…。 最近会ったの?」

 

指を指され、自分が発言したのだと理解したがどんな人だったかはまったく思い出せない。

 

「た、ただ何となく名前がぽっと、思い浮かんだだけです…。 その水無月さんに姉か妹がいますか?」

 

「さぁ? 聞いてた話じゃ花蓮の名前しか出てないけど」

 

水無月花蓮さんと水無月桃香さん、偶然同じ苗字なだけだとは思えない。

 

確信はないが桃香さんに今度会ったら話を聞いてみる価値はありそうだ。

 

「よいしょっと、眠いから帰るけど最後に、私から質問させて」

 

「なんでしょうか?」

 

カードを鞄に戻し立ち上がる日向さんの顔を見上げる。

 

「過去の自分を知りたいのは分かるけど、深く入りすぎると危険な事に巻き込まれる時もある。 ましてやセレクターだった自分を知りたいなら尚更危険…」

 

「……日向さんが私の立場ならどうしてました?」

 

「………」

 

「今の言い方は失礼でした。 すみません」

 

頭を下げると後頭部に手を乗せられ優しく撫でてくれた。

 

「気にしてないない。 顔を上げて。 悩みとかあったらいつでも相談にのるよ。だからすぐに言ってね」

 

顔を見ていないが声が微かに低くなっていた気がする。

 

────────────

 

 

 

『山吹日向……今の学年をもう一度繰り返してるか…』

 

日向さんが帰宅した後、学校の外を歩いていた時アンが声を出す。

 

「その情報は私の記憶を見たから知ってるの?」

 

周りを警戒しながら小声で話しかける。

 

『柚の記憶で構築された私は言わばもう一人の柚よ。 まるで映し鏡みたいなね』

 

「………」

 

気味が悪いがアンの言葉を否定出来ない。

 

『留年の理由は至ってシンプルね。 出席日数が足りなかった』

 

「今は毎日出席してるから今年は問題ないって怜さんが言ってた。 ……ある日を境にまるで人が変わったかのように」

 

『………? 単純に焦りを感じたからじゃないの』

 

「そうなのかな…」

 

いつもの眠たげな日向さんは半年前は、普通の物静かな女の子授業中に寝るなど有り得なかったと聞いている。

 

私の学年が上がり同じクラスになった時からあの調子なので昔の日向さんは見ていない。

 

『本人に直接問いなさい』

 

「そんな…失礼だよ」

 

『……あの五月蝿(うるさ)い友人、日花里とは今年から仲良くなったのね』

 

「日花里さんは命の恩人だよ。 ……階段から転落して一番先に発見してくれて治療先の病院まで傍にいたから…」

 

『それから仲良くなったと…ブレーキが壊れた暴走少女かと思ったら思いやりを持ってる少女なのね』

 

「昨日も自分より先に他人の体調を心配して家まで送ってくれたんだから悪い人じゃないよ。 絶対に…」

 

『他人じゃないでしょ。 二人の関係は……』

 

()()………」

 

『友達』

 

その単語を発すると胸を締めつけられそうな気持ちになる。 悪い言葉じゃないのは分かっているのにどうしてだろう。

 

「……あっ!」

 

曲がり角を左に曲がる為に脚と体を左に向けようとしたが突然人が横から姿を出し頭の対応が遅れ頭と頭がぶつかる。

 

「いたた…」

 

幸い倒れずに済み、おでこを触りコブが無いか確認後前方を見る。

 

地面に膝をつけ散らばったウィクロスのカードを慌ててかき集めていた。

 

「手伝います!」

 

顔を向けられ大きな瞳で顔をじっと見られた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

どれも見たことがないカードイラストと効果ばかりで気にはなるが人の物を長く見る状況ではない。

 

「これで全部でしょうか? 風は吹いてないので飛ばされてはいない筈です…」

 

一枚一枚真剣に確認する姿を横で見ていると二分ほどで見終わった。

 

「ありがとうございました…」

 

「避けなかった私のせいなので頭をあげてください。 むしろ謝るのは私です、ごめんなさい」

 

お互いに頭を下げてる光景がおかしく同時に顔を上げ微笑む。

 

「あ、…急いでるので失礼します!」

 

私の横を駆け足で通り過ぎていきすぐに後ろ姿は小さくなっていった。

 

『あの子セレクターね。 力は弱いけど…底しれない才能があるわ』

 

あの人も巻きこまれた身なのだろうか。 また会えたらバトル抜きで話してみたい。 安らぐような雰囲気を持つ人だった。

 

 

 

────歩くのを再開し商店街通りにあるカードショップを横切り普段通り帰ろうとしたがアンが小さく声を上げ足を止める。

 

『────セレクターの気配。 それも今度は力が未知数な感じの』

 

「………このカードショップから?」

 

窓から見える中の景色を覗こうとしたが自動ドアが急に開き身を引く。

 

目が会い咄嗟に逸らしたが死角からまだ見つめられている感じがする。

 

「………柚ちゃん?」

 

自分の名を呼ばれ少しだけ視界を向けてみたが見覚えがない。

 

優しそうな雰囲気と微笑みかける顔に警戒を緩める。

 

「やっぱり柚ちゃん! 会いたかったんだよ!!」

 

大きな声を出したと思えばすぐさま抱き寄せられた。

 

混乱している私を他所に彼女は顔の横で泣きそうな声で名前を呼び続ける。

 

「は、離れてください!」

 

「あ、ごめんなさい」

 

離れて謝る姿はきちんとしていた。

 

サイドテールの女の人はオドオドしながらぎこちなく笑みを浮かべる。

 

「覚えていない? 私の事」

 

簡単に一年前の出来事を説明すると目を大きく開け驚きを隠せない。

 

「そんな…! 今は問題ないの?」

 

「生活に支障はないですが、時々無くす前の友人に会うと困ったりしますね」

 

「そうか………。 じゃあ自己紹介するね。 『水無月(みなづき) 花蓮(かれん)』……それが私の名前」

 

「────かれん… 花蓮さんですか!?」

 

今度はこちらが驚かされ全身に力が入る。

 

「もしかして思い出してくれたの!?」

 

「そうではなく…名前を先ほどともだ…友人から聞いて話をしたかったんです」

 

花蓮と関わっていたとしても交友関係とは限らない。 まだ気を緩めてはいけないと体が信号を出している為か拳を強く握り続ける。

 

『気になるならいっそ単刀直入に聞き出しなさい。風華みたいに迅速に』

 

話したことも無いのにあたかも風華さんの名前を出したがそれよりもセレクターなら何か知っているはずだ。

 

「セレクターバトルについて…いえ、私が関わってる事全て教えてください」

 

「………ここじゃ他の人の邪魔になるかもしれないから場所を変えて話さない?」

 

夕方に差し掛かるにつれこの場所は通行量が増える。 しかし、人気の少ないところに行っても問題ないのだろうか。

 

「……探りを入れる訳じゃないですが花蓮さんと一年前の私の関係を教えてください」

 

「いいよ素直に言ってくれて。 柚ちゃんが疑うのも当たり前だから…。 昔話は歩きながらでも良いかな?」

 

────────

 

「────すみませんでした。 不審がって勝手に変な捉え方をして…」

 

寒い季節の為、近所の小学生達の姿が見当たらない公園のベンチで座りながら深く頭を下げ謝る。

 

花蓮さんの話を一通り耳に入れ、悪い人ではないと認識した。

 

まとめると、昨日出会った桃香さんの姉にあたる花蓮さんは一年前、セレクターバトルを私に挑まれ受けた。 勝利したのは私だったが花蓮さんは手加減をした上で負けたそうだ。

 

その当時の私はさ迷いながらセレクターを探しては誰これ構わず勝負を挑んでは他人を傷つけていた。

 

自分の願いの為に────

 

不安になった花蓮さんは私の相談に乗り、そこから会う回数が増え友人関係を築いたみたいだ。

 

「嘘は絶対についてないから安心して…と言われても信用されないかぁ…」

 

肩を落としガックリする様子に笑いそうになるが堪える。

 

「いえ花蓮さんは優しくてとても信用できる人です。 ……また友人になってくれませんか」

 

「ぜんぜんいいよっ! よろしくね柚ちゃん!!」

 

握手を求められそっと触れ握る。

 

満面の笑顔になると大人びた印象から少しだけ幼く見えるが花蓮さんは笑顔が似合う。

 

「ふふっ。 柚ちゃんに会いたくて学校の前まで行ったけど出てこないから生徒から入院の話は聞いてたんだ。 またセレクターに選ばれたのは今日が初耳…」

 

「階段からの転倒で頭をぶつけてさえいなければこんな事にはならなかったでしょうね…間抜けですね」

 

「気を負う必要はないよ。 またこうして会えてお話も出来たんだから!」

 

頭では覚えていなくても花蓮さんの存在は体で覚えているのかもしれない。 懐かしい感覚。

 

これが友達…。

 

「っう!!」

 

またもや急な頭痛と吐き気に襲われ顳顬を両手で押さえ込む。

 

瞳を強く瞑ると瞼の裏に霧がかかった色の無い景色が映り込み誰かが喋っている。

 

────────ワタクシたち────────────ですわ。────だから────────は────潰しますわ────

 

「しっかりして柚ちゃん!!」

 

花蓮さんの声で意識が戻る。

 

「………わたくしたち」

 

「え? ………どうしたの突然?」

 

「い、いえ。 頭が痛くなっただけですから大丈夫です」

 

両腕を真っ直ぐと空に向けて上げ元気なアピールをする。

 

「………」

 

が、見向きもせず花蓮が深刻そうな表情で地面へ視界を向けていた。

 

「ワタクシか…」

 

「?」

 

「昔ね、ちゃんとした挨拶も出来ずにさようならした友達がいて、その人の口調を思い出したの」

 

「花蓮さんの友達ならきっといい人だったでしょうね」

 

「ちょっと世間からかけ離れた行動が多かったけど妹みたいで後ろからピッタリ付いてきてすごく可愛い子だった…」

 

眉を寄せていた顔を俯かせる。

 

「その子はかり………」

 

名前を聞こうとした時、私の携帯の着信音が響き渡り慌てて鞄に入れていた物を出し耳に当て距離を置いて着信に応答する。

 

 

「は、はいもしもし…」

 

『柚、今大丈夫?』

 

怜さんからの電話だが、疲れているせいか放課後より声が小さい。

 

「うん」と返事すると明るくなり今日の晩ご飯の材料の買い出しを頼まれた。

 

『遅くならない内に帰れるはずだからそれまで買い物と留守番頼むわ』

 

「もう外は暗いから気をつけて下さい」

 

『気遣いありがとう。 柚も用事済ませたらすぐにいつもの道を通って帰りなね』

 

「はい、また夜に……」

 

通話を終了し元の場所へ戻るとニコニコした顔に首を傾げる。

 

「彼氏さんからの電話?」

 

「違います、一緒に暮らしてくれている一つ年上の人です。 私の憧れの人でもあります…」

 

「柚ちゃんは可愛いからモテモテでしょ?」

 

「女子高ですからそれはありえ……」

 

「………もしかして同性と? 愛には色んな形があるから反対はしないけど…」

 

放課後に風華さんの言葉が耳に残っていたせいで、喉をつまらせていると勘違いして困惑していた。

 

「と、とにかく違いますから! これから買い物するので帰りますっ」

 

「あぁ待って柚ちゃん。 明日も会える?」

 

自棄(やけ)になり背を向けたが手を掴まれ足を止めた。

 

「いいですが、また勘違いしないでくださいよ…」

 

「うん、それは…うん」

 

目を合わせず明後日の方をに目がいく。

 

「やっぱり帰りますから」

 

「ごめんなさーい! だから待ってー!!」

 

泣きそうな声を出しすがりつかれ返って恥ずかしくなる。

 

「……明日は多分大丈夫ですが、待ち合わせは?」

 

「今日と同じでここにしようかっ。 雨とか雪降ってたらカードショップでどう?」

 

「了解です」

 

「あとこれは大事な話だけど………柚ちゃんから預かってる物があってね。 今は無いけど家に日記を置いてるから明日渡すね」

 

「? 私が花蓮さんに渡したんですか?」

 

前から日記を定期的に書いていたのだろうか。 中身が気になっていると花蓮さんも目を通していないらしい。

 

「見ても構わないと言われたけどやっぱり柚ちゃんの個人情報だから見るのは抵抗しちゃって…」

 

「………本当に見てないんですね」

 

「気になって捲りそうになっただけ! だけだよ!! 本当にっ」

 

………花蓮さんを信じて明日自分の目で確かめよう。

 

 

セレクターバトルに参加しどうして抗っていたのか真意はまだハッキリしない。

 

そして、あの頭痛の時の光景。 今の行動と関連性はあるのか………今はまだ答えが現れない。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

スーパーに寄り買い出しを終えると外は街灯なしでは足元が見えないほど暗くなっていた。

 

鞄とレジ袋を両手で持ち体の前に腕を置く。

 

「そんなに買ってないけど重い…力がないからか…」

 

『男性と比べて女性はひ弱なのは当たり前よ。 …(もやし)みたいに細い殿方がここ最近は多いけど』

 

アンと会話をしながら歩いてるとまるで友達と普通の日常会話をしている感じになる。

 

───私の記憶を共有してカードの中にいる。 口調、声、姿は違えどやはり鏡のような存在。

 

………今は考えるのをやめよう。 今日一日で随分と情報を得られたんだ。

 

 

身体に疲れが覚え早く帰りたくなる。 そういえばここを左に曲がれば近道出来る。

 

人が二人位しか通れない細い路地で明かりは無い。 しかし、時間は大幅に削減出来る。

 

「よしっ」

 

足元に注意しながらゆっくり慎重に歩を進める。

 

抜けさえすればいつもの見馴れたマンションがそびえ立つ。

 

「………ん?」

 

珍しい。 壁に寄りかかり腕を組んでいる人がいる。

 

細い体で真っ黒のフードを頭まで被り顔を見えなくしている。 怖くなり引き返すか悩んだが走って横切れば大丈夫と言い聞かせ走ろうと構えた瞬間────。

 

ほんの一瞬目が合う。この一瞬の間に全身を貫くほどの殺意を脳が感じ取り足が止まる。

 

『柚逃げなさいっ! そいつから真っ黒な…気配が!』

 

「…………」

 

「駄目…前が塞がれた」

 

後ろに後退し距離を離すが一気に詰め寄られ胸元を強い力で掴まれる。

 

手に持っていた荷物が床に落ち、右腕を振り上げるも向こうの方が何倍も早い速度で反応し静止させられ手首が折られそうな力を込められ声を上げる。

 

「ああぁ!!」

 

苦痛に耐えきれず膝を折ると解放されたが次は前髪を掴みあげ一枚の紙切れを顔の前に見せつける。

 

「ウィクロス……バトルが望みなんですか…………」

 

頷くこともなく私のスカートのポケットに手を入れルリグカードを無理矢理取り出す。

 

『柚しっかりして!』

 

手に持たされアンの焦りの表情をまじかにし漸く危険な状況だと理解する。

 

「……………」

 

呼吸している音しか聞こえないこの人が怖い。 腕を掴まれた時に分かったが手の指は細く男性のように太くはなかった。 ………相手は同じ女性。

 

心拍数がこれまでに無いほど上がっている感覚。 痛みを遮断するほど恐怖心。

 

『逃げなさい早く!!』

 

「………ここで逃げたら」

 

膝に力を込め壁に身体を預けながらゆっくりと立ち上がる。

 

「殺されるかもしれない……」

 

『なら助けを────』

 

「これは私に課せられた問題…。 他の人を巻き込んで被害が拡大なんてしたら…逃げ出した私は一生臆病者のままだ」

 

「……………」

 

右手でカードを持ち左手で手首を押さえる。 人1人が入れる距離まで離れる。

 

この道を抜けた先で怜さんが待っている。 それを考えただけで闘士が湧いてくる。

 

「私の道を遮るなら倒すまで……」

 

『柚っ!!』

 

「アン、力を貸して!」

 

『この頑固者……何を言っても無駄よね』

 

「文句は後から聞くっ! だから…」

 

『仕方ない…。 カードを構えて『オープン』の掛け声でフィールドが展開するわ』

 

呼吸を整え腕を伸ばし正面を見据える。

 

「オープ────」

 

言い切る前に誰かが間に割り込み腕を引っ込める。

 

 

 

「────待ちなさいっ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

『感情/幸福と不幸』end

 




『山吹 日向』イメージイラスト

【挿絵表示】


『速水 風華』イメージイラスト

【挿絵表示】


『水無月 花蓮』イメージイラスト

【挿絵表示】


『水無月 桃香』イメージイラスト

【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。