selector infected WIXOSS―torture― 作:Merkabah
『その少女は希望』
朝になり朝日が昇る。
ベッドに横たわる少女『
瞳を開け眠い目を擦りながらベッドから降り立ち上がる。体を伸ばすと腰から小さな音が鳴る。
「んー....!」
一気に肩の力を抜き、息を吐き出し窓の近くに行きカーテンを開ける。同時に朝日で目が眩む。
「........」
....昨日の夜の出来事をふと思い出したが今始まったことじゃないと流す。
元々それが苦痛でもない。他のセレクターも同じ発想をしているに違いない。勝者は願いという光を求めて歩く。敗者はその勝者の足場。
朝から無駄な事を考えていると腹部からお腹のむしが鳴る。
「ごはん食べるか....」
部屋から出て階段で一階に降りてリビングに入る。
マンションで一人暮らしを始めて約二年経つが物は余り増えず今どきの子とは思えない殺風景な部屋。
離れに住む祖父母が時々顔を出し色々お世話をしてくれているから生活に不自由さはこれっぽっちも感じない。
むしろ女の子として足りないとよく注意を受けるがどうにも揃えようとは思わない。
生前、父と母に「好きな様に遊びなさい」とよく言われていた影響か公園で男の子達と遊びサッカーやバスケットなど汗を流す物ばかりやってきた。
友達の女の子とおままごとやら人形遊びをするのは嫌いでもないけど、やっぱり体を動かしていた方が性に合う。
「あ、そうだ」
カーテンを全開にして朝日を部屋に浴びさせ台所に近いテーブルへ視線を移す。
いつも食事をするテーブルへと向かい裏面で置かれていたカードを静かにめくる。
「おはよう。ミュウ」
挨拶をするがカードの住民から返事は帰ってこない。横になり小さな寝息を立てていた。
「........」
『ルリグ』────カードゲームWIXOSSにおいていかなる場合でも破壊されないカード。言わばプレイヤーの分身とも呼ばれる。
しかしそれは一般のWIXOSSプレイヤーのみが対象で私達セレクターは違う。別の意識を宿すカード。
「性格はこうも違うし、おーい起きろー」
寝ている姿が映し出される部分に軽く指を弾くと眉を八の字にしながらゆっくりと上体を起こす。
『........』
「ん?ご不満そうですね。私の大切なパートナー様ぁ?」
つい癖で皮肉を込めた言葉を使うとさらに不満そうにしてそっぽを向く。
「とりあえず今日も誰か挑んでくるかもしれないからよろしくね」
『ん........』
背を向けたまま猫のように丸くなりまた睡眠を取り始める。
「........はぁ」
気にしていてもしかたない。と思い朝食の準備に取り掛かる。
・・・
身支度を整えマンションの階段を降りて外に出ると冬場の冷たい風が全身に伝わり、ブルッと震えた。
「うぅ、下半身が寒い....」
首元にファーが付いたコートを羽織っているが肌を露出している脚は冷える。
立ちどまっていても冷えるため少し早歩きで学校への道のりを歩く。
中学校から私の住むマンションの距離は徒歩で15分程度。
実家から通うのもよかったがそうなると距離が多少遠くなり電車で通うハメになる。今思えば友達と一緒に通えるならそれでも良かったと少し後悔している。
大きな校舎が見えてきたところで前方には見覚えのある小さな背中。
私は口元をゆるめながら気づかれないようその子の背後へ素早く向かう。
鼻に襟足が少し触れ甘い香りがしてきた直後後ろから襲うように抱きつく。
「おっはよう!るうー」
「きゃっ!!も、桃香驚かさないでよ!」
左の髪を留めていてショートヘアの少女は急な出来事に対応しきれずあたふたしていた。
────『
同じクラスの引っ込み思案で大人しい女の子。最近この学校に転校して来たがまだ馴染めていないのかクラスの子と話している姿はあまり見たことがない。
るうを一目見た時、私は何故か体が勝手に動きほっとけないと感じた。今でもわからないが何か意味があるのだろうか?
話してみると純粋無垢で笑顔がとても似合っている。
彼女の性格がこうだからなかなか、るうから話しかけられることは無い。
それでもいつものように誘ってみる。
「るう、今日のお昼も食堂?」
「う、うん。それより離れて....恥ずかしいから....」
登校する他の生徒達の視線が気になったのか手で頬を力強く押され密着していた体をはがされた。
顔を少し赤らめるるうを見てまた近づこうとするがカバンでガードされる。
「はは、冗談だよ。それで私と一緒に食べないかな?」
「えっと、桃香はいつも他の友達と一緒に教室で食べてるよね?その中に私がいたら迷惑かかるから遠慮するよ」
「それじゃ私一人ならいいんだよね」
「?」
キョトンとした時校舎の方から予鈴を知らせるチャイムが鳴り、通り過ぎていく生徒達は慌てて走り出す。
「またお昼に声かけるからよろしくね。るう」
「うん....」
私達も早歩きで校舎まで足を運んだ........。
・・・
お昼を告げるチャイムが鳴り、机をくっつける生徒や食堂へ向かう生徒達で騒がしくなり始める。
「モモー今日もWIXOSSしない?」
クラスメイトの一人が声をかけてくれたが首を横に振る。「わかった」と言うと他の子達と昼食を食べながら横でWIXOSSのプレイシートを机の上で拡げていた。
窓際の端に座っていたるうが立ち上がるのを見かけ駆け寄る。
「私ひとりだから一緒に食べよ」
「さっき誘われていたよね?もしかして....」
「別にるうの為にキャンセルしたとかじゃないから責任感じなくていいよ。それでも責任を負ってくれるなら体で....むぐ」
邪な考えを口に出している途中でるうに手で遮られる。
「もう。それより混み合うから行こうか」
「はーい」
肩を並べ食堂に向かう。歩きながら先ほど出たワードについてるうが質問してくる。
「うぃくろす....って人気なの?」
「それはもう。女子中高生で知らない子なんてるう位だよ。流行に乗り遅れてるよ」
「えぇ、そうかな....」
少し落ちこんでしまった。
「興味湧いたなら放課後カードショップに行ってみる?」
「............」
黙りとして考えている。
「見るだけならいいかな」
「ふふふ。るうも今日からWIXOSSデビューかー。どうやって弄ぶか....」
舐めるようにるうを見ていると少し大きな声を出す。
「まだ始めるって言ってないよ。しかも弄ぶってどういう意味!」
「まぁまぁ。ほら食堂に着いたよ」
上に下げられていた『食堂』と書かれた表記表に指をさしるうの背中を押しながら進む。
その際、左腰のデッキケースに入れていたミュウが『うるさい』と言った声が微かに聞こえ服の上から手の平で軽く叩いた....。
・・・
放課後になり私とるうは昼に話していたカードショップへ向かう途中信号待ちになりぼっーと空を見上げた。
日中と比べ雲の面積が増えていて夜にひと雨降りそうだ。
ずっと眺めていると悩みを忘れて吸い込まれそうになる。いっそ吸い込まれたいという気持ちになりかけた時
「どうしたの?」
空から視線を隣に立つるうに移すと私は「なんでもない」と首を横に振ると「うん」と答えるものの心配そうな顔をしてくれた。
信号が青になったのを確認してるうと渡る。
「カードショップって初めてだから少し緊張する」
「大丈夫だよ。店員さんも優しいし変なプレイヤーもいないから」
「そうなんだ。桃香はよく通ってるの?」
「それはもちろん。週に三回は当たり前だよ。週末にはショップ内で大会があるから出場してたり」
「優勝したことあるの?」
「一応はあるよ。と言っても片手で数えられる位だけど」
そもそも店に顔を出している理由は他のセレクターを探す為で、プレイをメインで楽しんでいる訳じゃない。
偶然、大会の対戦カードがセレクターとぶつかる事がしばしばあったがその時は何かと理由を付けて辞退している。
大会終了まで近くで待機してそのプレイヤーが店を出るのを待っていたりする。
その後「願い事はないからセレクターバトルをしたくない」と言わず相手も同意の上で戦う。
セレクター同士の戦いで一度しか負けを経験した事がないが三回負ければ今以上に最悪な自体に見舞われることは何度も見たことがある。
「........香............桃香!」
背後から右肩をがっしり掴まれ我に返り振り向く。
そこには不思議そうな顔をするるう。
「ここだよねカードショップ?」
「あ、うん。ごめんるうの事で頭いっぱいだった」
「そ、外で変なこと言わないでよ~!」
余計なことをるうの目の前で考えていた自分を誤魔化しビルの中へ入っていく。
「ビルの一角にあるんだ」
壁にはカードの告知ポスターやシングルでの買取価格表記などが貼られている。後ろを歩くるうの反応を見ると、どうやらこういう店に来るのは初めてらしい。
ドアの前に着きゆっくりと開ける。
中は広くプレイテーブルが約十個備えられており既に座り遊んでいる子達が何人かいた。
「いらっしゃいませー。あら桃香ちゃん」
入ってすぐレジカウンターにいた女性店員がこちらに気づき近くに寄ってくる。
「どうも。今日はこの子のデッキを買いに来たんです」
「えっ!」
横にいたるうは知らない情報に声を上げる。
「あれ?話してなかった?」
「見るっては言ったけど買うってまだ言ってないよ!」
「見たら買ってしまうのが人間の性。今日からWIXOSSプレイヤーデビューのるうの為にデッキをプレゼントしようかなーって思ってたんだけど嫌?」
「嬉しいけど私にも覚えられるかな....あんまり難しいのは....」
私とるうのやり取りを見ていた店員は微笑みながら話しかけてくる。
「基本を覚えさえすれば誰でも簡単にプレイ出来るから大丈夫よ。それで桃香ちゃんはどのデッキをプレゼントするの?」
「その判断はるうに任せます。とりあえず今はショーケースのカードを見ようかと」
「それじゃ決まったら声かけてね」
プレイテーブルの後ろに立てられているガラス張りのケース内に入っているカードを色別に見ることにした。
「この『タウィル=ノル』って白の子可愛いね」
「目の付け所がいいね。その子の属性は『天使』で自分のシグ二のパワーをプラスしてくれるよ」
「へぇ~....この子はどうかな?」
指を指すカードを見る。
「『ミュウ』....それは無口でグータラカードよ」
「えっ?性格じゃなくてカード効果を聞いたんだけど....」
『ぷっ』
デッキケースに入れていたミュウが吹き出す。
「あーごめんごめん効果かー!それは仲間を犠牲にする効果ばっかりだから、清廉潔白なるうには合わない。違うの見た方がいい!」
疑問を残したるうを違う話題に誘い自分の失態に「はぁ」とため息をこぼす。
デッキケースから先ほど笑ったミュウを取り出し睨みつける。
『自分のミスを私のせいにしないで....ぐぅ』
(また寝てるのか....)
カードをしまい腰を下げながらカードを楽しそうに見るるうの姿に少し羨ましくなる。
(純粋にWIXOSSを楽しんでいたらこうなっていたのかな....)
「ねぇ桃香このカードどうかな?」
友達と何も考えずWIXOSSを楽しんでいると時間を忘れてしまう。こんな時間がずっと続けばいいと思っている。
........その為には早く私の願いを叶えなきゃ。
三十分程るうと一緒に全部のカードを見たがどうやらまだ決まらないみたいだ。
「白のカードは決めたけど....どの子にしようか悩むなあ....」
ずっと立ちぱなしだったので近くの椅子に座り雑談していた。
「ふふふ、大いに悩んでいて良いよ」
私はチラッと店に入ってきた客に視線を送る。そこには顔見知りの男子香月くんが店員と話していた。
向こうもこちらに気づき手を振ってきたので振り返す。
「あれ?友達?」
悩んでいたるうも気づき小声で質問してくる。
「ん?うん。『
話を終えた香月くんはこちらに近づいてきた。
「やぁ桃香さん。そちらはお友達?」
優しく声をかけてくれた彼にるうは頭を軽く下げる。
「るう子って言うの。よろしくしてあげてね。あ、でもイタズラは駄目だから」
苦笑する香月くんと横で腕の袖を引っ張り少し怒る、るう。
「今日はカードを買いに来たの?」
「そう。るうの為に買いに来たんだけどどれにするか検討中のところで今止まってる」
「そうだったんだ。るう子さんはどの子がいいとかはあるの?」
「えっと、色は白に決めたんだけど....みんな可愛いからどれにしようか決められなくて」
「白か....それじゃスターターデッキの『
「ホワイトホープ....」
るうは少し唸ると私と目が合い頷く。
「そうと決まれば買うぞー」
るうの手を取り席を立ちカウンター前に移動する。
「ホワイトホープくださーい」
店員は困った表情をする。
「ごめんね。午後に買った人で最後だったわ」
「ガーン」
折角WIXOSSデビューを決心した(半ば無理やり)るうの為に買おうとしたのに....。
ガクッと肩を落としうなだれる。
「今週中にまた入荷予定だからそれまで待ってて貰えるかしら?」
「はぁーい」
「ははは....ごめんね桃香さんにるう子さん。僕が勧めたばかりに」
「いやいや、香月くんは悪くないから」
体を起こし手を横に振り否定する。
「むしろるうに勧めておいて買ってあげられない私の方が申し訳ない。のどから手が出る程いま欲しいもんね?」
るうへと顔向ける。
「そ、そこまでじゃないよ!今度あった時は自分で買うから大丈夫だよ?」
「それは駄目!私が買ってあげないと気が済まない!」
「それが申し訳ないんだけど....」
「そんなに払いたいなら体で....んぐっ」
「ま、また変なこと言わないでよ~!きゃっ!?」
口元を手で塞がれてしまい抵抗するフリをして、るうの胸に手を伸ばし触れる。
周りの雰囲気は明るく賑やかだった。
そんなやり取りをしながら時間はあっという間に流れていく........。
・・・
るうと別れ自宅であるマンションに帰宅する。
鞄を部屋に置きすぐに夜食の準備に取り掛かろうとした時デッキケースに入っていたミュウが何か呟いた。
「何か言った....あ」
取り出すと横になりながらこちらの目をじっと見てくるミュウに一つの疑問が浮かぶ。
「願い事がない子の所にはルリグは来ないんだよね?」
別れ際にるうに突拍子もなく質問したことを思い出す。
『るう、何か叶えたい願いはある?お金持ちとか永遠の幸せとか』
『?ないけど、どうかしたの?』
『それならいいんだ。うん。じゃあまた明日!』
『う、うん?またね』
私は絶対に達成しなくてはならない願いがある。だから、ミュウが私の前に現れたのだろう。
『来ない。…....まぁこのゲームを観て楽しんでる人の意思次第でもしかしたら』
「来ないならいい。曖昧な答えは求めてない」
『........?』
ミュウの曖昧な返事に私は苛立ちを覚えカードとデッキケースをテーブルに置く。
きっと今鏡を見たら険しい顔をしているだろう。それほど私はるうをこのバトルに巻き込みたくない。彼女にはただ純粋にWIXOSSというゲームを楽しんで欲しいと願っている。
そう。彼女は腐りきった私を照らす希望の光だから────
・・・翌日
昨日の夜中に雨が降ったのだろう。水たまりが足元に出来ていた。
空を仰ぐと昨日と同じ空。いや雲が少し多い気がする。雨の予報とは聞いていないから傘はいらないはず。
いつもと同じ通学路を歩いていると、普段は寝ているミュウが珍しく小さな声を出す。
『........近くにセレクターがいる』
「朝からご報告どうも。距離はどのくらい........」
歩くペースを早める。
この通りをこの時間通る人は限られている。私ともう一人。
それは私の友達るう。
『段々と近づいてる...........。?手が震えてるけど大丈夫........』
行動しながらだとこうもカード一枚を出すのに手間がかかるのか。
鼓動のペースもゆっくり早くなる。妙な緊張感に襲われる。別にセレクターが現れるのはいつもの事だ。だけど違和感がある。
ドクン........ドクン........!
「はぁ........はぁ........」
心臓の鼓動に合わせて呼吸をし始める。
何かおかしい。
前方にある人物が歩いているのを発見し足を止める。
デッキケースからやっとのことでミュウを右手で持ち前方にいる人物を見てもらう為、腕を真っ直ぐ前に伸ばす。
顔を伏せて聞こえないフリをしようとしていたがミュウは簡単に答えた。
『いた........ルリグの気配はあの──から』
気づいた時には既に走り出しるうの肩に手を乗せ力強く肩を掴む手には汗が浮かんでいた。
「ビックリした........。ど、どうした桃香?怖い顔して」
同じ身長の為るうと視線がハッキリと合う。
口を開こうとするが不安が襲って来る。この質問をして返ってくる答えが恐いからだ。
もし間違いなら昨日のようにいつもの日常になる。
絶対に間違いであって欲しい。違うと言って欲しい。
数秒間喉を詰まらせた後恐る恐る口を開く。
「るう............................ポケットにあるそのカード........」
この瞬間、時の流れがコンマ単位で流れる感覚に襲われる。変なことを言っているが確実にるうの一つ一つの動作がゆっくりに見える。
何も知らないるうは裏面が白いカードを一枚見せてくる。
「これ?昨日お兄ちゃんから『ホワイトホープ』のデッキを貰ったんだけど一枚だけおかしくて....」
次の台詞に私の頭は真っ白になった。
「喋ったり動いてる姿が私にしか見えないみたいで....桃香も見てみて」
手の平に乗せられたカードの中にいる主はこちらの顔をじっと見た後無邪気に笑いながら
『にゃあ!ばとるー!!ばとるー!!』
『その少女は希望』end