selector infected WIXOSS―torture― 作:Merkabah
激怒している晶に肩をすくめて目を合わせる。
私の態度が気に入らないのかまた掴まれていた胸ぐらに力が込められる。
「私、アンタに何かした?目障りならすぐに立ち去るけど」
「テメェの人を馬鹿にする態度が気に入らねぇんだよ!!」
「これは地でして、お気に障ったなら謝るよ。だからこの手を離してもらえませんか?」
「ッチ。どいつもこいつも私をコケにして楽しいかっ!」
理由が分かってもまだはっきりと納得出来ない私に晶は怒りに満ちている。
乱暴に振り払われ顔の前にカードを突き出される。
「今からテメェをギッタンギッタンに痛めつけてやんよ........!」
「いいけど、他のセレクターとバトルを予定していたんじゃ?」
「うるせえ!まずお前を虐めて憂さ晴らしだ!!」
「サンドバッグになるつもりはないから私も本気でやらせてもらいますよ。........でも、そっちのルリグはやる気無さそうだね。まさか負けるつもり?」
青の『ピルルク』は無表情だが戦意は全く感じられない。あの性格のマスターだ嫌にもなる。
「あぁ!?まさかビビってんじゃねえだろうなぁ?」
『............』
「なんとか言ってみろよぉ?出ないと大変な事になるよピルルクたぁん........!」
怒りの矛先がピルルクに向くが当の本人からの返答は返ってこない。
みるみるうちにボルテージが上がっていき、腕を高く振り上げる。
『叩きつけて気が済むならやれば?』
「ふっ....ざけんじゃねぇよッ!!!」
蒼井晶を擁護する者はこの場におらず、パートナーであるピルルクにまで煽られる始末。
「てめぇは私の命令で闘ってればいい存在なんだよ!!いちいちイラつかせんじゃねえ!!分かったなら返事くらいしろッ」
ここまで汚い言葉を吐き続けていた晶の髪は乱れ小さな顔が隠れていた。
髪と髪の隙間から鋭い眼光を私に当て舌打ちをされる。
「........笑顔でマスターと接しないと毎回そんなやり取りになるよ」
ピルルクに向けて嫌味ったらしく発言するがやっぱり返答はない。
「........次会った時はぜってぇバトルして、泣いても許さない位まで虐めてやっからよ....覚えとけよ
捨てセリフを残して晶は去っていった。
嵐が通り過ぎ肩の荷が降りる。
「阿婆擦れってねぇ。まさかあんな罵られ方をするなんて思わなかった。ねぇ?」
デッキケースの中で口を出さず黙っていたミュウに問いかける。
『ひやひやした』
「ミュウでもあの空気には耐えられなかったんだ?」
『違う。寝てたから急なバトルが始まることに.......』
「こら。それでもルリグなの?」
左の手のひらでデッキケースを叩き周りを見渡す。
いつの間にか遊んでいた子供達が帰って私一人が公園に残されていた。
設置されている時計で時間を確認すると夕方に差し掛かろうとしていた。
「私達も帰ろうか」
『ぐぅ....』
「私も晶の真似をしてミュウを地面に投げてみようかな」
『冗談に聞こえないからやめて』
木々の間から差し込む夕日を背に私はマンションへと一日あった事を思いがら歩きだした........。
それから約一時間後、休む間もなく嫌いな夜の街を徘徊していた。
パーカーの上にコートを着て嫌いな人混みの中を避けながら先に進んでいく。
眠っていたミュウが不思議そうな声を出す。
『あれ....?家にいたんじゃなかったの』
「それが、遊月が帰って来ないって香月くんから電話きたの」
人混みから抜けて薄暗い歩道橋の下へ向かう。
悪い方向に連想してしまい思考は混乱して早口でぶつぶつと喋る。
「晶に挑んだんじゃないかな。いや挑まれた?現在バトル中とか」
『........焦ってる?』
「まさか。それはあり得ない」
人前で焦りを隠すことは得意だがミュウには....
『それは本音?』
「晶に見つかって八つ当たり受けて、落ち込んでいたらかなり申し訳ない」
『............やっぱり』
見透かされながら、辺りを探し回り遊月の携帯に何度も電話をかける。
機械の声だけが何度も耳に返ってくる。
通り過ぎる車のライトに目をくらませながら暗い正面を見つめる。
時々ライトが照らされ確認することが出来た。上で電車が通り過ぎていく架道橋の中で地べたに体育座りで座る髪の長い少女。
駆け足で近づくと足音に反応して少女は顔を上げてくれた。
「はぁはぁ....遊月........見つけた」
「も、桃香........」
呼吸を整えながら遊月の隣に倒れ込むように座る。
横目でしか見えなかったが顔を腕で力いっぱい拭いていた。
「どうして....来たのさ」
声が震えている。さっきまで泣いていたのだろうか。
ハンカチを差し出すが首を横に振られる。
「香月くんから連絡が来てね。遊月が夜遊びしてるから探すの手伝って欲しいって言われたの。見つかったから今連絡を....」
コートに入れた腕を出す前に掴まれ猜疑られる。そのまま涙目の遊月は話を続ける。
「香月が?」
「そうだよ。だから連絡を....」
「ダメだっ!」
右腕に力を入れるがさっぱり離す気配はない上怒鳴られる。
やはり晶と会って何かあったに違いない。
「........事情があるみたいだけど香月くんが心配してるよ?」
「いいんだ香月なんて........私の気持ちをこれぽっちも分かってくれないんだ!!」
目を閉じて涙を流し始めた遊月はそのままの姿勢で顔を隠した。
そっと背中に手を乗せ優しく撫でる。すぐに立ち上がり直立不動で遊月を見下ろす。
「晶に嫌な事されたなら責任は私が取る....。ごめんなさい」
心の底から遊月に対して頭を深く下げる。
許されなかったら気が済むまで殴られてもいい、罵声を散々浴びてもいい。それで許されるならいくらでも構わない。
心拍数が増えていく。この後の言葉を恐れ手のひらに汗が滲む。
「桃香のせいじゃないんだ。晶の挑発に乗せられた私が悪いだ....そのせいで花代さんが傷ついた........」
顔の角度を10度程上げると小さな寝息を立てる花代がカードの中にいた。
「だからさ顔上げてよ。責任とか取らなくていいし」
「........ありがとう」
『さっきまでどうしよう、どうしようって焦ってたけどよかったね』
珍しく口を開いたミュウは余計な一言を発する。
「この....!なんで恥ずかしい事を言うかな」
『夕方のお返し。私はひやひやしたから桃香は熱々にしてあげる』
「茹でたタコみたいな顔を見れて満足するならどうぞ。....ったく」
頭をかく動作をしながら遊月の隣に座る。
「桃香とミュウは仲いいよね」
「そうでしょ!」『どこが?』
「........あれ?」
意見が食い違い私はデッキケースからミュウを取り出す。
「ちょっとミュウさん?今なんておっしゃいました?」
『下僕とご主人様の関係』
「酷くなってるけど、私が聞いたのは『どこが?』って」
『........ぐぅ』 「狸寝入りするな。立ちながら寝れるほど疲れてないでしょ」
『........最低のコンビ........』
瞼を閉じたまま親指を立てている姿を遊月に見せる。
「いいコンビだよね。本当に。私もそれくらい堂々と出来たら........」
また落ち込みはじめた。
『........堂々過ぎるのもキズ。いい例が桃香』
「私は直進を寄り道せず堂々と進む人間なのよ。誘惑する物があったらちょっと危ないけど」
胸を張ったがすぐに曲がる。
「真っ直ぐ........」
思いつめた表情で握っていたカードを制服のポケットにしまい込む。
「桃香。香月に連絡して!」
決意したのかグッと左手で拳をつくると立ち上がった。
『............道を見つけたの?』
「うん!二人ともありがとう。これからも真っ直ぐ突き進んでいくよ!!」
間を開けて頷き感情が込めず喋る。
「............。元気になったならよかった。ミュウが初めて私以外の人の役に立てたから二重の意味でよかった」
『やっぱりサイテーのコンビ』
壁を背に寄りかかりながら香月くんに電話で居場所を伝えるとすぐに迎えにくるらしい。
「この周辺を香月くんとるうは探してたみたい。もうちょっとしたら遊月ともっと仲良くなって、あんな事やこんな........むぎゅ」
「だー!!何で平然と変なこと言うかなーー!」
手のひらで左頬を押され遮られた。
『女の子にちょっと敏感なの........。遊月がんばれ........』
「応援とかいらないからッ!ミュウも嫌にならないの!?」
『............』
『嫌でも........代わりを務められるルリグはいない............』
「えっ?」
「ミュウ」
遊月の腕を除けカードをしまう。
目を細くして前方を確かめると走りながら向かってくる香月くんとるうの小さな姿が横切る車のライトで、確認できた。
「か、香月達と話さなくていいの?」
るうと顔を合わせづらい私は逆の方に身体を回し横顔で答える。
「むしろ話すのは遊月でしょ?心配かけたんだから」
明るい空気が私の冷たく放つ言葉で変わろうとしている。
「ま、待ってよ!........もしかして朝るうが言ってたのって....」
「朝?あぁ、電車で晶の学校に行く時か....。るうは私に怯えてた?」
「心配してた。桃香が........桃香じゃないって」
グルンと髪を揺らし身体を遊月へ向き直り上目遣いで問いかける。
「私は『水無月 桃香』。それ以外誰でもない。急に人が変わるなんて誰にだってあるでしょう?」
口元を緩ませ腕を遊月の頬へ伸ばす。
「や、やっぱりおかしい....。なんていうか....」
「なんていうか?」
篭る唇に親指が触れるとピクッと体が反応し瞳が揺れる。
「.............不気味.......だよ」
沈黙の間に香月くんとるうが向かい側から近づき息を切らしながら足を止めた直後。
「あははははははは!!!」
トンネル内に響き渡る位、腹の底から甲高く笑う。気味悪がられてる私は人目もはばからず大口で笑い続ける。
「いやぁ....!」
遊月は腕を振り解き離れる。
「不気味....ふふふ....」
三人の顔を笑いながら見つめていると、るうが前に出て来る。
「桃香、昨日からずっと........るうがセレクターになってから可笑しいよ!!」
いつもは穏やかなるうに心配される。
怒鳴られた私は一歩引き下がるが口は止まらない。
「じゃあ、いつもの私に戻って欲しいなら今すぐタマを頂戴?........出来ないよねえ?!」
「ひっ....」
きっと醜い表情をしているだろう。それを見たるうは小さな悲鳴を上げる。
今更気にすることでもないと顔の全筋肉を使い挑発していく。
「私はるうを傷つけさせない。でもるうがそれを拒絶する。要は信用されてないってことだよねえ?」
『違う!』
予期せぬ人物の声に驚く。
るうが出したのはタマ。私が知っているのは『うー!にゃあ!』と無邪気に笑っているタマ。
『るう、桃香、信じてる!さっきもずっと桃香の話してた!!』
腕を上げ説得してくる。るうは私に近付いてくる。
「........ねぇ桃香。説明して?何が桃香を苦しませてるの?」
『........うるさい』
「ミ、ミュウ?」
視線が私から腰にあるデッキケースに移動する。
『桃香は....大切な友達がセレクターに深く足を入れさせない為に........るうや一衣、遊月を止めようとしてるだけ........』
「それってどういう意味....?」
『詳しくは............いずれアナタ達のルリグが話してくれるはず............ペナルティを受けない範囲でね』
欠伸をする音が聞こえて沈黙する。
一呼吸済ませ私は人差し指を空に向けて立てる。
「このセレクターバトルというゲームを楽しんでいる傍観者は厳しくてね。言いすぎるとルリグに酷い罰が下るんだって」
「........桃香は全部知ってるんだ」
「全部とまでは行かないけど、何十回もバトルをしてれば嫌でも体験出来る」
「それでもやめないんだよね....。それはどうして?桃香にも叶えたい願いがあるから?ねぇ答えて!!」
るうに詰め寄られ両手で遮る。
「聞きたい?私がここまで醜い顔を晒してまで夢限少女になりたい理由?聞いて後悔したって言われても責任はとれないよ」
余裕を見せているが内心は恐怖に刈り取られている。
話せばこの関係もおしまいだから。仲良くなることは容易いが、関係をより戻すのは何十倍にも困難で不可能の場合がある。
「それでも............るうは」
『るう!』
タマが声を荒らげる。
「今は聞きたくない....!桃香は私の大切な友達、隠し事を一つ持っていてもあってもるうは気にしない。だからいつもの桃香に戻って........」
「るう........泣いてるの?」
「うっうっ........だってあんなに優しくしてくれた桃香が消えたみたいで........怖かったから.......」
「............」
顔を拭うるうの腕を掴み自分の顔の前に持ってくる。
「拳をつくって」
「う、うん」
その拳を私の左頬にぶつける。直接的な痛みは無いが心にダメージを負う。
「ありがと。すっきりした」
歪んだ笑顔からいつもの笑顔に戻しさっきの話に戻す。
「私の願いは誰にも理解してもらえない。聞いてしまえば不快感しか残らないから」
「........話したくないなら私達も無理強いはしないよ、だからいつもの桃香でいて。ね?」
「うん........」
私の両手を包み込み微笑みかける。
「いつもの私か........じゃあるうの胸を」
「それはダメ!」
さっきるうの手で殴った頬に手の平が素早くいれられた............。
・・・
『あんな約束してよかったの?』
夕方に来た公園のベンチに座る私に一連の流れを聞いていたミュウが呟く。
「いいの。るう達にあの顔は二度としないし」
『そう。........理解してもらえないのに友達だなんて変なの』
「............心の底から分かってくれる人なんていないわよ。いるとしたら心がドス黒く、脳みそが腐りきった人間だけ」
『ならどうして....あの子達は根っからのいい子ちゃん........』
「だからこそ夢限少女になる時....一人で過ごしたくないから」
弱音を吐くとミュウはカードを持っていた親指の下に潜り込んでしまった。
........砂を踏み歩く音が聞こえ反射的に顔を上げる。
真夜中に公園にいるのは私のみ。ベンチから少しずつ距離を置きながら真っ暗な地面を観察する。
足音は段々と近付いてくる。靴のつま先が見えたと同時に顔を上げる。
『初めまして、セレクター』
気味が悪い少女の声につい拳を構える。
外灯に照らされ姿が顕にされる。その人物に硬着状態になり空いた口が塞がらない。
漂う大人の雰囲気に圧倒されながら手で口を塞いで目をこすり再度ジロジロと見る。
「いやいや、『
同じ読者モデルの晶とは大違いの存在感にいつも気取っている私も冷静ではいられない。
『ごめんなさいね伊緒奈。明日も仕事なのに、すぐ済ませるわ』
伊緒奈はただ無言でカードに頷くだけで私とは目を合わせてくれない。
『アナタ桃香って言ったわね?』
「........どこかで会いましたか?」
顎に手を当て右上を眺めながら思い出す仕草をする。
『初対面よ。晶が休憩室でアナタの名前を叫びながら暴れてたから気になって探してたの』
「....人違いだったら?」
『もう手遅れよ。数時間前のお友達との仲直りを見ていたから....ふふっ』
あの現場を目撃された上ルリグに舐められている様で気が進まない。
『別に取って食おうって訳じゃないわ。ただお話をしたいって思ってね........』
「いいですよ」
あっさり了承した私にルリグが一瞬だけ眉を動かす。
『....随分素直ね。まさか私達は想定内だった?抜け目がないわね』
肩をすくめ首を振る。
「ご期待に答えられませんが、ここで頷かないと変な印象を与えると思いましてね。それに貴女方には到底勝てそうにない」
蛇の前にいる蛙の立場に立たされている気分になっているせいかずっと握っていたカードに汗が染み込む。
「話をするなら....ここは寒いし、私のマンションに行く?」
『あら敬語はおしまい?改まって話されるよりそっちの方がいいわ』
「るう....」
「るう?このマンションには住んでいないよ」
ボソリと伊緒奈が呟いたるうの名前に反応して答えるがそれから会話は続かなかった。
『桃香が私達を誘ってくれているなら遠慮なく乗ってあげるわ』
「あの、いきなりバトルは仕掛けないでね」
『したくなるかもよ?むしろ私はウズウズしてるわ』
「........」
どっちが誘っているのか分からなくなりマンションに向かう為歩き出す。
「ところでそのルリグの名前は?」
横に首を動かしカードに指をさす。
「ウリス」
「ウリス........よろしく」
『よろしく桃香、とそのパートナーミュウ』
『............ぐぅ』
「寝てた....」
親指をどけると身体を丸くめ眠るミュウ。その光景にウリスは薄笑いを浮かべ目を閉じた............。
『この出逢いは必然《後編》』end