selector infected WIXOSS―torture―   作:Merkabah

6 / 18
『この感情は偽り』

私の部屋に訪れることになった伊緒奈と一緒にエレベーターに乗っているとウリスが声をかけてくる。

 

『ねぇ、その歳で一人暮らしなの?』

 

「うん。実家から距離があるからこのマンションを借りてる。いずれ自立するから早めに経験して損は無いと思ってね」

 

『思春期真っ盛りの女の子が一人だなんて悪い大人が知ったらどうなるかしら?』

 

半目でクスクスと笑う彼女を横目で睨む。

 

「........何が言いたいの」

 

『わからないの?それはもう....』

 

タイミング良く、エレベーターの到着音が鳴り扉が開かれた。

 

『続き聞きたい?』

 

「結構です。伊緒奈、いつもこんな調子なの?」

 

「普段はこんな会話しないわ」

 

『そうよ。桃香だからベラベラとお喋りしてるの』

 

弄られてると受け取り私は部屋の前まで歩く。

 

鍵をドアノブに差し込み右に回し解除して玄関に足を踏み入れる。

 

「えっと電気は....あった」

 

慣れた感覚で壁に備えられたスイッチをオンにする。

 

暗闇だった玄関に明かりが灯り後ろで待っていた伊緒奈を誘う。

 

「お邪魔するわ」

 

「どうぞ」

 

靴を脱ぎ整える辺り、仕事でもきっちり礼儀正しく行っているだろう。

 

向かい合う形になり伊緒奈は長い髪をかきあげる。

 

「なに?」

 

「容姿端麗な方が私の部屋に来たなあって思ったの」

 

そんな下らない事と言いたげな顔を返された為、すぐにリビングへ案内する。

 

玄関から三歩で着く場所、中に入るとここも照明が消えている。

 

入って近くにあるリモコンに手を伸ばし明かりをつけた。

 

完全に気が抜けていた私は油断していた。

 

背後で待ち構えていた二人に。

 

「適当に座っ───」

 

何気なく振り返った時には遅かった。

 

床につけていた両足が浮き上がった直後後頭部、肩、後頭部に重い痛みが全身に伝わる。

 

一瞬視界が暗転し脳がパニックに陥る。

 

........この間、数十秒かかった。

 

本来照明がある天井を見れる仰向けの状態なのだが無表情の顔が遮っている。

 

抵抗しようと右腕に力を入れるが二の腕をガッチリと綺麗な手で押さえ込まれている。左も同様に。

 

ずっしりと重くを感じている太ももに視線を移そうとしたがグレースカートしか見えず諦める。

 

手も足も出ないとは今の自分の事を言っているに違いない。

 

【挿絵表示】

 

「(前言撤回....。とんでもない来客者を招いてしまったかも)」

 

『手荒な真似してごめんなさい。これからどんな事されると思う?』

 

左から耳元で囁くウリスの声。こちらから見えないが近くにカードがあるはず。

 

「脇をコチョコチョ........で済めばいいんだけど」

 

『こんな時でも(おど)けてられるのは貴女位よ。伊緒奈出来るかしら?』

 

「無理よ。見ての通り手が空いてない。片側だけでも手放したらすぐに反撃されそうだからしないわ」

 

視線が重なったまま答えていたが表情が変わっていない。面倒臭いのだろうか。

 

「それでこれから拷問にでもかけるの?こんなことしなくても、私の答えられる範囲で答えるけど?」

 

『私、目に見える傷はつけない主義なの。やるなら隠れたところを....ね』

 

ふと、昔見た不良ドラマで服に隠れた腹部を殴っているシーンを思い出す。

 

『怯えてる?それとも、どうしようもないこの状況で隙を見つけようと探ってる?』

 

「...............」

 

口をへの字にしているとウリスは薄く笑う。

 

『図星....正解みたいね。これ以上機嫌が悪くなる前に目的を教えようかしら』

 

「両腕痺れてきたから手短でお願いしますよ。ウリスさん」

 

わざわざ身体を不自由にさせたからにはろくでもない企みがあるに違いない。

 

『私と手を組まない?』

 

「嫌だ」

 

『即答か....フフフ。とーっても大切なお友達が傷ついても嫌?』

 

「どういうこと?」

 

首をなんとか起こしウリスを見ることが出来た。

 

『焦った?でも....その感情は本心から?それとも偽りの感情?』

 

「…....私が仮面でも被ってると?」

 

『そうとしか思えないわ。今日の仲直りしてる時の顔、普通の女の子が平気でするなんてねぇ。ましてや友達の前で』

 

「あれは........」

 

遊月やるう達が危険な橋を一緒に渡ってこようとしたのを阻止する為に試しただけのこと。

 

視線が逸れていた私にウリスはまだ言い寄る。

 

『あんな子達と一緒に行動している貴女に手を差し伸べようとしてるの。わかる?』

 

『お友達とつるんでいたら、いつまで経っても桃香の願い事は叶わず水の泡になってその泡が貴女の身体を包み込むかもしれないわ』

 

「あのるうって子願いもない空っぽ........庇う必要ないわ」

 

「好き勝手仰る方々ですこと....」

 

小さく舌打ちをした後、神経の感覚を握っていた右手の拳が震え爪が皮膚にくい込んでいる。

 

外側は平常。内面は怒りで満ち溢れている。

 

伊緒奈とウリスに挟まれながら心の僅かな隙間に入り込もうとしてくる。

 

怒りをぶつけバトルに持ち込んでも沸騰している今、勝算はゼロに近い。

 

そうなるとこの場は........

 

『────考えはまとまったかしら?』

 

「えぇ。ウリスのお誘いは............保留にする」

 

伊緒奈は無反応だったがウリスは予想外だったのか少し間を空けて喋り出す。

 

『へぇ危険な橋を後ろから渡って来てるお友達を突き放すの?』

 

「冗談を。横から突風が襲ってきたなら手を掴んで引き上げる。大津波なら抱きしめて意地でも皆を救う。それくらい硬い意志がウリスのお誘いで柔らかくなったなら........完全に屈服した証よ」

 

『そう。ますます気に入った....。真っ黒な心で腐っているはずなのに、まだ希望を求めてる。掴めもしないのにねぇ!』

 

「実行してみないとわからないよ?」

 

『そのクソッタレで能天気な思考をする脳みそ、今すぐ抉り出してぐちゃぐちゃに握り潰してやりたいわ........そうすれば汚い部分だけ残るから』

 

本人は楽しげだがこっちから聴けば、不気味な笑いでしかない。

 

余韻を残しながらウリスは伊緒奈に拘束を止める指示をする。

 

ようやく開放されたが長く同じ姿勢でいたからすぐには立ち上がれずにいた。

 

上体だけでもと起こし顔を上げるとカードを持ちリビングの扉前で立ちつくしてながら私を見下している伊緒奈とウリス。

 

道化師(ピエロ)さん。今日は楽しかったわ。気長に返事を待ってるから。決心がついたらこの番号に掛けてね。一緒にやれることを期待してるわ』

 

「ご丁寧にありがとう」

 

メモ紙を床に落とし手に取る。

 

『近いうちにとっても心躍る催しを開くからその時までお友達以上の関係になれるのを期待しているわ........』

 

「握手会やサイン会なら手ぶらで行って私が騒ぎを起こしてやりたいくらいよ」

 

『伊緒奈誘ってあげるといいわ。興奮している桃香が見れるいい機会よ』

 

「検討しておく」

 

『あぁ、それと。私は願いを叶える途中のお友達には手を出さないから安心して』

 

 

皮肉混じりの発言に納得はしたが理解できず、妙に引っかかったまま頷く。

 

節々の痺れも取れ立ち上がり腰を左右に動かす。

 

喋り足りないのかウリスがまた口を開く。

 

『桃香夢限少女の仕組みはとっくに判ってるわよね?』

 

「三回バトルに勝ったら、ルリグと意識が入れ替わる。叶えるのはルリグの方って事でしょ」

 

『この際願いを教えて。お友達に言いふらさないから』

 

「あのね人に聞く前にそっちの───」

 

「私より強いセレクターのルリグになる」

 

本人口から力ない声で瞬時に返答され戸惑う。

 

「わ、私は弱いから含まれていないよね」

 

「どうかしら」

 

「焦らすタイプか....今までいなかったから接しずらい........親睦を深めれば仲良くなれそうだけど。どう?」

 

手をワキワキしていると顔を背けられた。馴れ合う気はさらさらないらしい。

 

『答えたわ。次は桃香の番』

 

このまま水に流して帰宅してもらえるかもと、ミジンコ並の希望を抱いていたがあっさり探られた。

 

降参の格好を取り下ろして腰に手を持っていく。

 

ミュウにしか打ち明けなかった私の願い。ウリスは薄々気づいているが本当の答えを知りたくてしかたないはず。

 

だからこそ、私の前に現れ探りを入れた。

 

目を閉じると、夢で見たあの女の笑顔が脳裏に浮かび上がってきた。

 

「私の........願いは」

 

 

喉を軽く鳴らして思い口を動かす。

 

 

「実の姉に........いやあの女の人生を終わらせる」

 

 

 

 

瞼をゆっくり開けた。目の前にはカードを突き出され瞳に映し出されたのは正真正銘最低の笑顔で嘲笑うウリスだった............。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

伊緒奈達に出会ってあっという間に数日経った。

 

るうは晶に呼び出されそこで伊緒奈と初対面を果たした。何を言われたのかわからないが約束通りバトルをしていない。

 

ほっとするつかの間、私は今日までセレクターと三回対峙してきたが敗北していない。

 

同じ橋を渡ってくる者を阻止するには先行し道を経てばいい。そうすれば引き返ざる得ない。

 

その結論に至った私はセレクターバトル前に『負けたらルリグカードを貰う』という条件を提示するようになった。

 

負けた者から蔑まされたが良いように捉え続けている。そしてこの行動がある名称で呼ばれ始めてきてる。

 

『セレクター狩り』

 

SNSでは小規模だが噂が広がりつつある。

 

他の街でもカードを集めている少女がいるらしく私より先に活動していた。

 

(無意味にそんな行動はしないはず。目的が何か知らないけど同じ立場の人がいるなんてね....)

 

『桃香、桃香』

 

黙々と考え事をしていた私にデッキケースから名前を呼ばれ口を曲げながらミュウを取り出す。

 

「お花摘みに行きたいの?」

 

『違う........。今日るう達遊ぶ約束してて、待ち合わせ場所どこだったけ』

 

「犬の銅像が目印の駅前でしょ?............」

 

「はっ」と周りの景色を見渡してみる。

 

無意識なのか意識していたのか、いつの間にか人気の無い廃工場の裏に足を運んでいた。

 

携帯を出し時間を確認しまだ待ち合わせには十分程余裕があり安心する。

 

休日の今日るう、遊月、一衣と街を巡る約束をしていたが上の空で一人フラフラしてしまっていた、

 

「危ない危ない。折角のデートに遅刻するかと思った」

 

『男がいないのにデートなの?............まさか』

 

「男はいなくても獣はいるじゃない。このわた『早く戻ろう』

 

調子が狂いながらも引き返すべく振り返った。

 

『待って』

 

「どっち!?ゴーなのかステイなのかハッキリしてよ」

 

カードに叫ぶがミュウは神妙そうな表情を浮かべたと思えば目線が合う。

 

『............近くでセレクターバトルが始まってる』

 

 

 

・・・

 

 

現場に駆けつけた時にはバトルフィールドは閉ざされ決着が着いていた。

 

「一衣!」

 

公園の地面に膝をつき顔を伏せた一衣に後ろから駆け寄り肩を揺らす。

 

返事は返ってこない。身体から力が抜け下から表情を伺うと目を閉じて気を失っている。

 

この現場を何度か目撃してきた私はすぐに理解した。

 

一衣はバトルに三回負けセレクターの資格を失った。

 

すぐ近くに散らばったカードに手を伸ばしルリグを拾い上げる。

 

「確か一衣のルリグは緑子....。でもカードの中には誰もいない」

 

『また会ったわね道化師(ピエロ)さん』

 

散らばったカードを気にすることなく踏みつける黒のブーツが視界に入り、顔を上げる。こんな事を平気でやり皮肉を込めたあだ名で呼ぶのは....。

 

「伊緒奈........それにウリス」

 

ゴミを見る目で見下してくる伊緒奈とパートナーのウリス。

 

『もしかしてお友達だった?前の現場で見かけなかったから知らなかったわ』

 

口元に手を当て静かにクスクス笑いながら一衣を見つける。

 

『でも約束は破ってないわよね?伊緒奈』

 

「えぇ、願いを叶える"途中"では無かった」

 

反省の色を見せるどころか開き直っている姿に鼓動が高まっていく。

 

「一衣の願いを知っててやったの........?」

 

怒りを抑えながら立ち上がり伊緒奈の前に立ち睨みつける。

 

 

『知っているも何も、彼女は私達がしたいって言ったら快く引き受けてくれたわ。....そういえば、バトルしてる最中ルリグと『夢限少女にならなくても願いは叶ったから』って言ってたかしら?』

 

ウリスの問いかけに伊緒奈は小さく頷く。

 

『でも悪いのはバトルで負けたこの子自身よねぇ?そうは思わない桃香?』

 

「このッ........!」

 

『ダメッ桃香!!』

 

ミュウが声を上げたがそれ以上に怒りが爆発し伊緒奈に向かって右腕を振りかざす。

 

が、あっさり受け流され、お返しにと言わんばかりに水落目掛け左膝を入れらる。

 

「ぐっ!............っうぅ」

 

『桃香!桃香!!』

 

胃に残っていたものが喉まであがってくるが手前で留めることが出来たが、一時的呼吸困難に陥りそのまま膝をつけ腹部を押さえつけながら歯を食いしばる。

 

下を見ていた私の前に伊緒奈がしゃがみ前髪を掴まれ無理矢理顔を上げられた。

 

『大丈夫じゃないわよね?フフ....』

 

心配なんて微塵もしてないウリスは人差し指を立てる。

 

『伊緒奈に殴りかかろうなんて無茶するわね。やっぱり悪い大人が襲ってきたらメチャクチャにされるわよ。も・も・か』

 

「そ........その、下衆な........こえで....名前をよぶな........ぁっ」

 

『この声は生まれつきでしてね。申し訳ない。なんてね』

 

人の台詞を取るなと言いたかったが優先すべきは息を整えること。

 

そんな事を許す訳もなくウリスの紅い瞳と目が合い悪戯を考えた子の様に薄く笑う。

 

『その殺してやりたいって目いいわ........趣味じゃないけど、もっとしてあげなさい』

 

『やめてウリス!ウリスッ!!』

 

『アナタは桃香の悲鳴を耳を澄ませてよおーく聴いてなさい』

 

ミュウの声は届かず、無慈悲にもウリスは伊緒奈に同じ事をさせる命令を下す。

 

「っ!.....やめっ.....」

 

暴れたくても痛みが引かない身体では抗えず、水落に握りしめた拳を添えじわじわと入っていく。

 

『ほらほら腹筋に力入れないとズブズブ入っていくわよ』

 

「っっ!ぁあああ!!!」

 

『やめて........やめて........』

 

大きく開けた口から唾液が零れ始める。気を紛らわす為、目を見開き空を見つめているが全身を伝わる裂ける痛みしか脳裏に焼き付かない。

 

視界を閉ざしても襲って来る苦痛と自分の情けなさい悲鳴が悲痛となって返ってくる。

 

反抗出来ず二人にされるがまま私は数秒後伊緒奈の左肩にもたれかかってしまう。

 

『ゆっーくりしてあげたのに呆気ない』

 

「弱いわね貴女....」

 

耳元で伊緒奈が囁きながら拳を拡げて頭を撫でる位の力で水落を摩ってくる。ピクッと反応すると二人に鼻で笑われた。

 

「............」

 

視界が定まらず虫の息の自分に絶望する。

 

小刻みに震える私の右耳からウリスの声が聞こえる。

 

『憎む感情だけを剥き出しに戦ってればいいのよ。一々お友達の甘ったるい優しさに浸る必要なんかない。だから私と手を組みなさい』

 

「.........だ.......ま」

 

『お姉さんを破滅に追いやりたいって言うのは嘘だったの?やっぱりお友達が一番?』

 

「黙れ....!」

 

伊緒奈の手からウリスのカードを奪い取る。

 

「私の願いに首を突っ込むな、大切な友達に手をかけたクソッタレが....」

 

『クソッタレ....フッ、子犬みたいにプルプル震えながら言う子の台詞かしら』

 

血が滲むほど唇を噛みしめていると伊緒奈に突き剥がされてしまった。

 

「人が来たら面倒ね....ウリス帰りましょ」

 

「まて!っ....」

 

尻餅を着いていた身体を起こそうとするが痛みが酷くすぐには立ち直れず、そのままの姿勢で伊緒奈を呼び止める。

 

「この間るうに会って何がしたかったの....」

 

「率直な感想を述べたまで........願いもないのにセレクターだなんて冒涜って」

 

「願いがないのに選ばれたあの子の気持ちを分からないくせに偉そうな....!」

 

「そんなの知ったところでどうなるの?貴女みたいに庇えば理解出来るのかしら」

 

冷たく言い放たれた言葉に言い返せず視線を下に逸らす。

 

「自分でも理解してないのによく守るなんて言えたわね........」

 

『吠えさせておきなさい。自己満足に浸りたいみたいだから........道化師(ピエロ)さんまた会いましょ』

 

小さく鼻を鳴らして伊緒奈は長い髪をかきあげ横を通り過ぎ立ち去っていった........。

 

『しっかりして桃香!桃香ッ』

 

今にも泣き出しそうな声でミュウは呼ぶかけてくるが発する気力がない。

 

取り残された私と気を失っている一衣の元にるうと遊月の呼ぶ声が遠くから聞こえてきたが動く事が出来ずただ硬着していた........。

 

 

 

・・・

 

一衣が目を覚ましたが三回負けた代償に私達と今まで過ごしてきた記憶が全て欠落していた。

 

るうが腕に触れると一衣は痛みを訴え怯えたまま姿を消した。

 

ようやく遊月は花代にセレクターバトルの真相を全て問いただした。

 

セレクターバトルの裏側を聞かされた二人は信じられず戸惑う。

 

憔悴しきった遊月は私の両肩に手を乗せ頭を下げる。

 

「桃香はこれを恐れて私達にセレクターバトルを降りろって言ってたんだよね........ごめん」

 

るうも申し訳なさそうにしていたが私は怒りをぶつけるほど余裕は残っていなかった。

 

お腹を擦るとチクリと痛みが走る。

 

「今日は解散しようか」

 

ぎこちなく笑顔を作り遊月と別れた。

 

気落ちしているるうと一緒に歩くが空気がどんよりと重く息苦しい。

 

このまま帰るのは耐えきれず最寄りのファミレスに立ち寄った。

 

 

 

「................」

 

テーブルに置いたタマのカードを無言で見つめ続けている。

 

『るう....』

 

「ねぇタマは知ってたの?」

 

『........タマ色々わかんない。頭のとこに真っ白のがあってわかんない....』

 

タマの向かいにいたミュウは不快そうに喋る。

 

『だから言ってたじゃない、桃香がカードを渡せって。その忠告を無視した自己責任』

 

痛い所を付かれた二人はさらに沈んでしまった。

 

「ちょっと....」

 

間に入りベラベラ喋るカードに手を乗せようとするがミュウに『邪魔』と言われ遇れた。

 

『大体願いもないのに止めない理由は何?タマみたいにバトルがしたいから?それとも流行りに「あー!お腹痛いからお花摘みに行ってくる!」

 

我慢出来ずカードを持ち出しトイレへ駆け込んだ。

 

無人の個室の鍵を締めて立ったまま人差し指をカードに押し付けグリグリ回す。

 

「きょーうはとっても喋りますね?初雪でも降るのかな?」

 

『ふん....あの子達が大人しくカードを渡せば桃香は怪我せずに済んだ。それを考えたらむしゃくしゃした........』

 

「るうと遊月、一衣は悪くない。これはカードを奪えなかった私の甘さが招いた結果よ」

 

『虫唾が走る』

 

「は....?」

 

腕を組み不快そうな顔をする。

 

『虫唾が走るって言ったの。友情なんて脆くて簡単に引きちぎれる柔い関係。友達がいるから願いが遠いてるんじゃない?』

 

「........るう達を悪く言うな。私になら好きなだけ毒を吐いていいけど」

 

ミュウは喋り終える前に横になり髪で顔を隠した。

 

驚きの一面を見て内面は少し戸惑いと疑問が巡り回る。

 

(ミュウがあんなに怒ってるのは初めてね........。ルリグになる前友達に嫌がらせを受けていたとか?)

 

深い事情があるにせよ、るうの所に戻って謝らないと....。

 

鍵をに手をかけた直後外から話し声が聞こえ留まる。

 

「レッツ連れション♪」

 

(下品な言葉、この声........晶か)

 

何故晶がこの場に居合わせているのか分からないが今出ていくと面倒になるはず。

 

もう一つの別の足音がトイレに入ってきた。

 

「ね、ねぇ晶さん」

 

るう!?........晶にこのファミレスにいるのが見つかり連れてこられたのか。

 

撮影事務所がここから近いとネットで目にしたがまさか伊緒奈と晶の所属だったとは。

 

そうなると伊緒奈が一衣にバトルを挑んだ訳も分からなくもない。単なる偶然か狙っていたのか真意は不明だけど。

 

ひとまず考えるのを中断し、耳を扉に押し付け向こう側の会話を盗聴する。

 

「............二度と友達が出来ない位ねぇ?」

 

「どうして、それを........」

 

晶が口調を変え歩み出す。入ってきた扉へ足を運んだのだろう。

 

「だって戦った時見たもん、あの子の願い。元々ハイパーボッチだったもんねひっとえって」

 

「るうもよかったじゃんあんなもっさい子と友達なんて。るうるうも苛められちゃうよぉ?」

 

(まずい....晶は挑発して初心者のるうを潰そうとしている)

 

爪を噛み向こうで行われているやり取りを聞き続ける。

 

「ひっとえだってさ身の程知ったと思うよ?無理だもんもじもじして気持ち悪いもん」

 

「友達が二度と出来ないくらい大した事ないもん」

 

「大した事じゃない....」

 

るうが復唱すると晶は「そうそう」と半笑いで答える。

 

「訂正して」

 

怒りがこもった発言をし数秒間が開くがすぐに晶は挑発する。

 

「やだぁもんもん☆」

 

「訂正して!」

 

(今だッ)

 

タイミングを見計らい扉を足で壊れる位の勢いで蹴り二人の前に姿を現す。

 

「いやぁ扉壊れてて蹴ったら出られたよ~。あれ晶さんじゃないですか?もしかしてトイレでメイクしに来てましたか?」

 

目を丸くする二人。一瞬睨まれたが晶はいつもの調子に戻り腰に手を当てる。

 

「モーモーもいたんだぁ。もしかして長くいたのって便秘かな?」

 

「モデルがそんな下品な言葉を使うのはちょっと引きますね........。あぁ、伊緒奈よりも劣るからしかたないか」

 

「あ?....今何つった?」

 

晶の前に立っていたるうを手で横にどけ私の前に立ちふさがる。

 

「図星?それとも本当に聞こえなかったならもう一度おっしゃいますか?」

 

薄笑いで晶を見つめる。

 

「"浦添伊緒奈"よりお下品かつ上品さが足りないから劣るんですね」

 

「っ!!」

 

案の定逆鱗に触れ晶は私の胸ぐらを掴みながら眉をピクピクさせる。

 

「誰が誰に劣るだってぇ?」

 

「難聴ですか。ならいい病院紹介しましょうか?精神も不安定だからそっちも........」

 

「調子に乗るじゃねぇぞ阿婆擦れッ!!!」

 

後ろの壁まで押し付けられるが苦痛の表情は見せずあくまで余裕の素振りを見せる。顔が歪んでいるに違いない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「人の事言えないでしょ。さっきまでるうを挑発してた人が」

 

「そこのブスはどうでもいいんだよ。今はテメェにムカついてんだ!!この間と言い、何偉そうに喋ってんだ!!!あぁ!?」

 

やはり以前も伊緒奈をやたら毛嫌いしている様子があったから名前を使ってみたが正解だった。

 

唾が顔にかかる勢いで罵声を放つ晶の矛先をこちらに向いたので更に煽りバトルに持ち込むまで続ける。

 

「伊緒奈が数日前私のマンションに訪ねてきて、動き見てたけどやっぱり売れるモデルと売れないモデルの差ってのがよく分かりましたよ」

 

「うるせぇ!その口トイレットペーパーで塞ぐぞッ!!」

 

「雰囲気に飲まれてバトルなんかしたら勝ち目ない。でも目の前にいる人はなぁ........余裕だろうね」

 

「上等だ!その減らず口を塞ぐついでに赤っ恥かかせてやんよ!!」

 

手を離してピルルクのカードを突き出す。

 

「その前に条件があるんだけど....。あ、どうも」

 

ピルルクに手を振るが無表情で微動だにしない。

 

「私が勝ったらピルルク渡してくれない?」

 

「バカじゃねぇの?」

 

「じゃいつも通りのバトルで....。ミュウ!」

 

『話は聞いた........ここだと人の出入りが激しいから移動しましょ』

 

あれだけの騒ぎで寝ていたら驚きだったがしっかり起きていた。

 

晶が先に出ていくのを確認して後を追う。

 

「も、桃香どうしてあんな条件出したの?」

 

ずっと晶の後ろで話を黙って聞いていたるうに服の裾を取られる振り返る。

 

「セレクターを無くす為」

 

「そ、それじゃ遊月やるうにも........」

 

「いずれその時は来る。私だって二人にしたくないけど........セレクターを止めさせるにはそれしかないの」

 

「桃香........」

 

「晶に怒鳴られる前に早く行こっ」

 

塞ぎ込んだるうの腕を取り急いで外に出た............。

 

 

・・・

 

 

ファミレスからかなり離れた薄暗い歩道トンネルに辿り着くと怒りの火が消えない晶は離れた距離でカードを前に突き出す。

 

「早くしろ!ギッタンギッタンにして泣き顔拝めてやるからよ!!」

 

「モデルって普通の人が嫌がる趣味を持ってるね」

 

同様にカードを見える位置に出し息を吸い込む。

 

 

「「オープンッ!!」」

 

 

トンネルに声が反射して響き激しい光がこの場にいた者を包み込んだ............。

 

 

 

『この感情は偽り』end

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。