selector infected WIXOSS―torture― 作:Merkabah
────バトルフィールドが展開する空間で晶と桃香の交戦が繰り広げられていた。
緊迫した空気の中るう子とタマは傍観者の立場で高い位置から二人の戦いを見届けていた。
「ちょいちょいちょい! あれだけ気取ってたクセに弱っちいじゃねぇか!!」
遠く前方にいる晶がバトルフィールドテーブルから身を乗り出し高笑いする。
「モーモーが負けたらぁ泣きながら土下座してくれるんだよねぇ?」
「............」
「うーん? 耳に垢が詰まってるのかなぁ? 返事が聞こえないよ~」
私はテーブルの上で背を向けて立つ実体化した全長15cm程のミュウへ首を下げると溜息を漏らした。
『........もうおしまいね』
「やっぱりか....どうしよう」
『知らない........』
素っ気ない態度にこっちまで溜息を漏らす。
手札からエナチャージを済ませグロウフェイズに入る。
「ミュウをレベル4へグロウ。メインフェイズ、シグニを三体場に出してエンド」
シグニゾーンに出したレベル2『幻蟲 ミンミン』三体のカード効果を見直す。
(このカードが場を離れた時、相手のトラッシュカードを一枚利用して、相手のシグニ一体を[チャーム]に出来る)
私のデッキのクラスは『精生:凶蟲』で構成されている。
ミュウが扱う凶蟲は仲間を犠牲にし召喚する効果があるせいか、周りの人達はあまり使わない。
(こっちから言わせれば損してるとも言えるけど....)
「晶のターン♪ ピルルクたんをレベル4にグロウしてぇ........」
やたら貯めてから晶はテーブルに行儀悪く足を乗せ首に手を回し一枚のカード名を宣言する。
「勝ちは見えてるけど『ピーピング・アナライズ』使っちゃおうかなぁ」
悪戯を閃いた表情の前にアーツカードが宙に舞い光の粒となって散っていく。
「このカードは相手の手札のカードの数字を宣言して、その数字のカードがあったら捨てさせるって効果なんだけどぉ。 ピルルクたんは更におまけで........相手の願いも覗けちゃうんだ♪」
「晶さん! 桃香の願いを見ないでッ!!」
「うっせぇ! お前はそこで大人しく負ける姿を指をくわえて見てろッ」
高い位置から私達のバトルを見守っていたるうは能力を知っていた。
声を張り上げ止めるよう説得するが晶は全く聞き耳を持たない。
その後、レベル4を指定されたが手札には一枚もなく不発に終わる。だが、それが目的で発動したわけじゃないのは十分承知の上。
「さぁてどんな願いを持ってるかなぁ?ひっとえみたいにモッサイ願いだったらウケるけど!!」
晶の傍にいたピルルクの瞳が青く発光し瞬く間に光は消滅した。
『あの子の願い....』
るうには知られたくなかった。この時が来るのはわかっていたがこんな拍子で
願いが公開されてしまうとは........。
そんな気を知らないピルルクは願いを口走る。
『姉の人生を終わらせる』
「っち....」
「........うっそ!? お姉ちゃんを殺したいの?ねぇねぇ!!」
何が楽しいのか腹を抱えて笑う晶に不快感を抱く。
「人の事を上から目線で語ってた人がお姉ちゃんを殺す? コッワー☆通報しなきゃ~♪」
『晶アタック命令は?』
「んなもんしなくても晶の勝ちは決定。 次のターンでバーンしちゃうし☆........モーモーの泣き顔見て勝てるとかアキラッキー☆」
アタックもせずエンド宣言をした直後、「クスッ」と笑ったミュウは私にしか聞こえない声量で呟く。
『終わった........』
「そうね。────私達の勝ちで」
勝手に勝利を抱いている晶に対して、これみよがしにルリグデッキから一枚のカード名を呼ぶ。
「『黒幻蟲 アラクネ・パイダ』召喚」
「願いを見られて頭おかしくなったぁ?かわいそールリグデッキから召喚なんか出来るわけ........」
『最近追加されたシグニ、ルリグ以外に[レゾナ]がある。今はあのクラスだけにしか存在しない....』
「........はぁ? ピルルクお前分かるの?」
ピルルクが晶に説明する中私は出現条件である『シグニゾーンにあるレゾナ以外の[凶蟲]シグニを二体トラッシュに捨てる』を済ませる。
「トラッシュに捨てたミンミンは場を離れた時相手シグニにチャーム効果を付与する。....二枚だから二体をチャーム」
『コードアート I・D・O・L』と『コードアート O・S・S』を指定する。
「効果はまだあるよ。レベル4のミュウの常時効果、シグニ一体のパワーをターン終了までマイナス7000。そのシグニは2000....わかるよね?」
晶の右手側にいたシグニカードはガラスが割れた様になり細かく散った。
散ったカードの向こうで顔を真っ赤にして乗せていた足をピルルクの真横で響く程の力で振り下ろす。
「クソッ!!まだ、まだ私のライフは3つある!それに比べ桃香は1つ!どっちにしろ次のターンで........」
「何か勘違いしていない?」
「あぁ? まさか、まだレゾナが出し足りないとか抜かすんじゃねえだろうなぁ!?」
手札から空いていた真ん中へシグニを召喚する。
「ええ、そのまさかよ。 このままアンタみたいにエンドすると思った?........ルリグデッキからレゾナ『黒幻蟲ムカデス 』を召喚!」
左側にムカデスのカードがスライドしていく。
召喚条件はアラクネ同様で場の二体のシグニをトラッシュに捨てる。
効果は異なり、捨てた二枚のレベルを合計した数だけパワーマイナス2000、相手のシグニ一体対象に出来る。
ミンミンはレベル2、 幻蟲オオマキリはレベル4。
合計6でパワーはマイナス12000。
『コードアート I・D・O・L』は対戦相手より手札枚数が三枚以上多い場合パワーが18000になるやっかいなシグニ。
今は二枚差しかない。本来の12000の為バニッシュされる。
ミュウのマイナス7000効果は場に一体だけ残る『コードアート A・S・M』が対象にされる。
15000から8000に下がった正面にパワー10000の『幻蟲 Sソルジャー・アント』を召喚する。
「バトルフェイズに入るけど晶さんは勿論、反抗しますよね?」
アラクネの効果で優先的に晶の場にいたチャーム付与のシグニがバニッシュされガラ空きになる。
序盤に散々アーツを使い果した晶のルリグデッキには残されたカードはゼロ。知っていながらワザと安っぽい挑発をする。
テーブルに足を乗せていた筈がいつの間にか地面に足をつけ晶は自分の髪をぐしゃぐしゃに両手で一心不乱に乱す。
「なんでだよ....! そんなカードがあるなんて聞いてねぇぞ!!!」
『ウィクロスを宣伝してるのに知らなかった自分のせいでしょ。私は知ってたけど』
「じゃあ教えろよ!!テメェも伊緒奈も澄ました顔を決めてねぇでよ!!」
モデル雑誌で伊緒奈と一緒にウィクロスを紹介しているが深くまでは調べていなかったらしい。
前のターンまでの余裕はどこにいったのか。浮き足になりピルルクに当たり始める。
溜息しか出ない。何も発動しないようなのでバトルを再開する。
「(ライフクロスに地雷が無ければ終わりね....)アラクネでライフクロスにアタック!」
『あの様子........もう負けを見せているも同然............』
こちらからミュウの表情は身を乗り出さないと見えないが、呆れきっていることだろう........。
最後の攻撃を終え、残ったのは敗北者の怒り狂った叫び声だった。
・・・
あの空間から意識が戻るや否や身体にとんでもない衝撃を受ける。
「なっ!?(晶にタックルされた?!)」
コンクリートの地面に何とか受け身をとったが天井へ体を向けると晶が素早く下半身に跨り、激昂した顔が嫌でも視界に入る。
「........私に跨って今度はリアルバトルでもしたいの?」
「ヒヒヒ....お前今日伊緒奈にここを殴られたんだってなぁ?」
狂気じみた笑みで腹部にそっと手を乗せ撫でられる。
嫌な記憶が蘇り
「休憩室でウリスと話してるの聞いてよぉ!!」
「がはっ!!」
「....晶!?桃香から離れて!!」
意識が戻ったるうもこの状況にすぐさま反応する。
痛みが引かない水落に拳が何度も、何度も重くのしかかる。歯を食いしばり手のひらで何とか衝撃を受け止めるがすぐに手のひらを通して伝わってくる。
まだ殴ろうとする腕をるうは後ろから体で押さえるが力負けしてしまう。
「おらおらっ!!こんな風にされたんだろ!?やめて欲しかったら「許して下さい」って泣きながら言えよ!!!」
「......の.............た.....」
ピタリと殴るのを止め私の胸元を掴み上体を無理矢理起こされる。
「聞こえねぇよ!はっきり言え....」
痛みに耐えながらゆっくりと口元を緩ませ、
「............伊緒奈の方がまだ........上手だった」
「────っ!!」
「やめて!!」
横からるうはタックルをし晶を壁まで吹き飛ばし私の手を取り何度も名前を呼ぶ。
晶も背中を痛めたのか
「ぜってぶっ倒してやる........伊緒奈........」
足音が次第に聞こえなくなるのを確認して力が抜け仰向けで真っ暗天井を見上げる。
(ミュウが起きてたら自業自得の馬鹿って言われてた所だった。........でもるうに被害が無かっただけこの行動は間違いじゃない....はず)
(一衣が私達との思い出を全部忘れ、傷が治ってない腹を二度殴られるは、願いはバラされるし最悪の一日だほんと....)
他人のルリグを奪った代償に災難に見舞われたと咄嗟に考えたが思いこみすぎと頭を振る。
「桃香救急車呼ぶから待って....」
返事をしようにも喉から声が出せず首を横に振り拒否する。
それでも呼ぼうとするるうを私は右腕を振り元気アピールをした。
ズキッと痛みが走りまた心配された。
「しばらく........休めば大丈夫」
手を取り握りしめ微笑みかける。
「............わかった」
冷たいコンクリートから座り込んだるうの太ももに頭部が乗っかり笑みを浮かべる。
『桃香。どうして晶に伊緒奈の事........』
るうがポケットから出したタマは唖然とした顔で疑問を口にする。
一分間呼吸を整え渇いた口を動かす。
「つい挑発する癖が....この後に及んでも残ってたみたいで....ね」
「なんで....いつも桃香は一人で行動しちゃうの!危ないって分かってるのに」
「........誰かに手を借りれるわけないじゃない。私の願いを叶えるために協力してって言われて頷ける?」
晶を通して聞いた願いを思い出した二人は複雑な表情で視線を逸らす。
「その反応が当たり前よ。世間の人達だって絶対同じ反応するから二人は正常」
「お姉ちゃんと何かあったんだよね........その願いを変えられる方法はないの?」
「万が一姉がもう死んでいたならセレクターを降りる。一人で逃げ出した臆病者だからそこら辺でくたばっててもおかしくないけど」
心配そうな表情からタマはパァと何か閃いた表情でこちら向ける。
『それなら、るうの願いで桃香の願いを無くせば』
「邪魔する気?そんな事したら........」
るうの顔の前にあるタマのカードを人差し指と親指で挟み拗じり曲げる動作をする。
カードを破られれば二度とカードから出ることも存在する事も許されない。
それらの恐怖に刈り取られたタマは小さい悲鳴を上げる。
「離して!!」
るうにバシッと手を叩き落された。
『ごめんなさい....ごめんなさい....』
「タマ大丈夫だから泣かないで........。私もどうすればいいのかな........わかんないよ」
万全とは言い難い身体を起こし立ち上がりるうに背を向けて言い放つ。
「私の件はともかく、ミュウも言ってたけどこれはるうの自業自得だよ」
橋を渡るなと言い聞かせたのに無視をして渡り始めたるうが悪いが、まだ戻る事は出来る。
「この件から手を引いて」
振り返りスッと手を差し出すとるうの表情にまた曇りがかかる。
一筋縄ではいかない事は十分承知だが何故ここまでタマにこだわるのか理解に苦しむ。
「別に渡したからってタマに会わせないなんて言わないよ。預かる形になるだけだからさ」
『桃香........タマは』
タマは顔を腕で拭い震える声を抑え喋る。
『タマは........るうと一緒に話すの楽しい。バトルも一緒だともっと楽しい!』
「バトルが楽しい....?」
『『私達からカードを奪う目的でバトルして楽しいの!?』』
以前バトルしたセレクター言われた苦痛な叫びが言葉に反応して脳裏に浮かび唇を噛み締める。
本来のバトルはオリジナルの戦略を立ててただ純粋に勝ちを目指すシンプルな物。
セレクターバトルは違う。相手より上回るには高額なカードを何枚もデッキに加え勝利のみを目的にしたバトル。そんなものが楽しいかと問われたら全然楽しく無いだろう。
それなのにどうしてるう達は楽しいって言える?
ウィクロスに関して初心者丸出しのるうが。
あの疑問を投げかけた人物に私は迷いなく不気味な笑顔で答えた記憶も残っていた。
『『相手をなぶり倒せたって実感があって楽しいに決まってるじゃない。実体化したルリグと心を通わせて戦える。これ以上に最高のバトル他では体験できないよ』』
ドクン
胸が急に締めつけられる。
自分の胸を押さえつけるが気分が悪くなる一方で耐えきれず顔を背け後退りしこの場から全力で逃げだした。
後ろで何度も「まって!」と叫んでいた気がしたが振り返る事はなかった........。
・・・
『その感情は本心から?それとも偽りの感情?』
ウリスの言葉通り私は仮面を被りながら生活していたのかもしれない。
日常生活では、なに違和感の無いただ平凡の女子中学生の顔。
セレクターバトルではその顔が取れ醜い本性を曝け出す。
「友達と願いの両立は無理なのかな....」
帰宅してすぐにソファーで横になり天井を仰いでいた。
顔の上に腕を置き暗闇が視界を包み込む。
『............闘う為に戦うんじゃなかったの?』
「そんなの....分かってる」
デッキケースから喋っているはずなのに耳元で話されている感覚になり心が不安定になる。
ミュウは声を低くし言い続ける。
『いい加減に覚悟決めたら?友達を選び願いを諦めるか、友達を捨て姉を殺すか』
二つの重い選択肢が更に胸を締めつける。
「両方」と答えればミュウに失笑されるに違いない。
顔を覆っていた腕を高く伸ばすと照明の光が手のひらの上で光を浴びる。
「目の前に光があって私はそれを掴み取りたい」
『るうのこと?』
「汚れきった心が洗われる気持ちになるから私はるうが大好き」
「るうは何があっても侵食されない心を持ってる。私とは大違いの心をね」
『それで桃香はどちらの道を行くの............』
目を閉じると分かれ道を前に立ち尽くしている私がいた。片方は暖かい光が降り注いでいる。きっとこっちが正解だ。
『『情けない。哀れすぎて涙が出そうだわ』』
もう一方の入口でどす黒い人影が嘲笑う。
『『姉を殺すってあれだけ意気込んで何人ものセレクターを足場にしてきた癖に善人になるって....』』
影は腹を押さえ笑いを堪えている。
『『お友達に助けを求めても無駄よ、だって貴女は....』』
次の言葉に恐れ私はその場に蹲り両耳を手で塞ぐが影の声は脳内に響き渡った。
『『"罪人"だもの』』
・・・・
────約一週間後
スタジオの控え室に一人の少女が椅子に座り雑誌の一ページを捲る。
『伊緒奈電話よ』
テーブルに置いていたカードの中にいる人物、ウリスに促され携帯電話に手を伸ばす。
点滅する液晶画面には着信者の名前が表示されていた。
『誰から?』
質問に答えぬまま応答ボタンに静かに親指が触れカードの横に置かれる。
『あら予定より早いわね』
この電話を予想していたのかウリスの口角が上がる。
そして電話の向こうにいる人物を歓迎する。
『ようこそ未来の
『この決断は誤謬』end