selector infected WIXOSS―torture―   作:Merkabah

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『その輝きは残光』

『随分遅かったわね。 桃香?』

 

長テーブルにポツンと置かれたカードに遅刻を突っ込まれ手を払う。

 

「セレクターとバトルをやってたら遅れちゃったわ。しかもバトルした後も絡まれて面倒だった....」

 

この場には私とカードの中にいるウリスしかいないことを確認した上で毒を吐く。

 

カードの前まで移動し姿が見える位置から指をさす。

 

「というか、一般人の私がモデルが使うスタジオにすんなり入れると思ってたの?」

 

『勿論。 伊緒奈が適当な理由をつけて手配してたから問題なかったでしょ?』

 

「『読者モデル志望で伊緒奈の仕事姿を見学したいので入れてください』で通るのも可笑しいけどね」

 

スタッフやマネージャーの前では皮を被っている伊緒奈に渇いた笑いが溢れる。

 

もちろん見学の為ここに訪れたのではない。それはお互いに知っている。

 

「....それで呼び出した訳話してくれる?」

 

横並びで綺麗に配置された一つのパイプ椅子にどしっと腰掛けカードがある方へ向き直る。

 

『それより一ついいかしら?』

 

「あぁ。髪にリボンを着けてないって事でしょ?」

 

視線がチラチラと髪を下ろした頭部に向いているのははっきりと気づいていた。

 

『そうよ、もしかしてセレクターバトルして奪われた?だったら片腹痛いけど....』

 

口元に手を当て薄目で肩を小刻みに揺らす。

 

「面白くない冗談ね。 単にセレクターバトルで目をつけられないように外してるだけ。タダでさえSNSで拡散し始めてるんだから」

 

『セレクター狩り』がこの私と、離れた地域にいるってだけで人物特定が始まりそうにある。向こうの特徴は知らないが私の場合大いに目立つ赤いリボンを二つ着けている為、即見つかってしまいバトルが出来なくなってしまう可能性がある。

 

その対策で学校以外の場所ではコートのフードを深く被りリボンを外し出来る限り顔が見えないように行動している。

 

『臆病者』

 

「そう言うと思った」

 

視線を正面にあるメイクで使用する縦長の鏡に移す。そこに映るのは無表情で目に光がない自分の顔。

 

何を言われても聞き流し、願いを叶える為なんとしてでも遂行しなくてはならない。

 

要注意人物扱いされ誰もバトルの相手をされなくなってしまえばこれまで積み重ねてきた苦労が水の泡になる。

 

『でもおかしいわね。 お友達を捨てた貴女がセレクター狩りをし続ける理由はなに?』

 

左の親指の爪をひと噛みし首を下に下げる。

 

「........趣味よ」

 

顔上げると鏡に映る口を緩ませている自分の顔を見つめながら呟く。

 

『ホント、悪趣味な人』

 

お前が言うなと言いかけたが引っ込め本題に戻す。

 

「質問タイムを終了してこっちから質問いい?」

 

『どうぞ』と答えるとウリスはカード内の空間に座り込む。

 

「前に言ってた『楽しい催し』の開催日はいつなの」

 

『今週の初雪が降る頃かしらね。 当然桃香も参加よ。 観客としてではなく選手として....ね』

 

「ふぅん...。 何処かの誰かさんがSNSで意味深長な言葉を呟いていたからそろそろだろうとは思ってたけど今週ねぇ...」

 

わざとらしく顎に手を当て斜め上へ視線を上げる。

 

『拡散してくれたファンに感謝ね。桃香にも』

 

事前に電話で伊緒奈から連絡を貰っていた私は概要について少しだけ聞かされていた。 ウリスが計画したものだと疑いを向けてたが違ったようだ。

 

内容としては、現在建設中のビルにセレクターをよせ集めトーナメント式バトルを行おうとしている伊緒奈の心情は分からないがこっちとしては好都合だ。

 

顔に出ていたのかウリスは『あ、そうそう』と声を上げる。

 

『貴女はトーナメントで最後に勝ち残った一人のセレクターと戦うだけでいいわ』

 

「....は?それってトーナメントに参加しないでいきなり準決勝で戦えって意味?」

 

考えを一蹴された私は呑み込めずキョトンとする。

 

『そういうこと。不都合だと思うけどこれは伊緒奈の指示だから、私もマスターには逆らえない。 受け入れるしかなかったわ』

 

「じゃあ仮に私が準決勝で勝ったら伊緒奈と戦うのは私になるの?」

 

『そうなるわね。伊緒奈は自分より強いセレクターを求めているからこの催しを開く。でも伊緒奈には誰が勝ち残るか、既に結果が見えているらしいわ』

 

思い当たる節があり一人の顔が思い浮かぶ。

 

「(一衣には勝ってるし、同じく晶も最近負けて願いが逆流したって聞いた。 遊月とは接点がない。 考えられるとすれば前に接触した...)」

 

『余計な詮索は控えなさい。 折角の催しが台無しになるわ』

 

表情を変えず薄目で片手をヒラヒラとさせている。

 

その姿を見て肩をすくめ小さく息を吐く。

 

「理解はしたけど納得出来ないな......何を企んでいるの?」

 

『さぁね。当日のお楽しみにしておくといいわ。すぐに答えを求めてもつまらないでしょ?』

 

「一員に教えてくれてもいいじゃない。ケチケチ!」

 

『...幼い子どもの真似をして恥ずかしくないの?』

 

頬膨らませ「ブーブー」と言っていると出入りする扉が開く音が聞こえそっちへ首を動かす。

 

入室した人物は仕事を終えた制服姿の伊緒奈だ。

 

「伊緒奈お疲れさま」

 

声をかけるが聞く耳を持たず隣の椅子に座る。

 

「だれ?」

 

横目で言われた第一声に顔を顰めてしまったがトーンを変えず答える。

 

「浦添伊緒奈に憧れを抱く『水無月桃香』です」

 

「そう」

 

興味が無いと思っていたが伊緒奈はこちらに身体を向け、顔へ腕を伸ばしてきた。

 

細い指が髪の毛に触れ何度もサラッとやってくる。

 

「い、伊緒奈さん?この行動の意味を教えていただけますか?」

 

「........」

 

『オモチャ扱いされてるわね』

 

「暇潰しのオモチャで来たわけじゃないから止めて」

 

腕を掴むと伊緒奈の口が動く。

 

「どうして髪を下ろしているの?」

 

「弄ってから普通聞く?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

ウリスに話した内容のまま説明すると伊緒奈は近くに置いていたバックに手を伸ばしメイク道具を取り出しテーブルに並べる。

 

「変装するならメイクしてあげるわ。今日だけ特別」

 

「いやいや!似合わないからやめて!」

 

すると顔の前に開かれた手のひらを見せてくる。

 

直後一本一本指をゆっくり折り、握り拳が出来上がり腕を下げお腹の前に添えられた。

 

無言の威圧に押されて渋々されるがまま目を閉じた。

 

 

 

 

 

────あれから伊緒奈達から解放されたのは二時間後だった。

 

メイクは落としたが、リボンは付けず人で溢れる夜の街を歩いているとデッキケースからミュウが話し掛けてきた。

 

『茶番は終わった?』

 

「ミュウが休んでる間に無事終了したけど、どうしたの?」

 

『生存確認したかった...』

 

「おい。あの二人にまた滅茶苦茶にされたと思ってたの?」

 

横断歩道の信号が青に変わり歩き出す。

 

『当たり前、あの二人信用ならないから。話に乗っかり続けていたら貴女..........』

 

「手駒にされるって言いたいんでしょ?」

 

返事が無い。肯定と捉え話を続ける。

 

「私だって使い捨てになるつもりないよ。利用できるものは利用していくつもりだし」

 

『あの二人を利用するのは手強い。分かってて近づく桃香は馬鹿野郎ね...。一人で行動すれば良かったのに......馬鹿野郎』

 

「話を最後まで聞け」

 

パンッとデッキケースを叩く。

 

「この発想が読まれているのは十分承知、それでもウリスは私を誘っている。それは利用価値があるから」

 

『何を考えてるか分からないウリスの上に立つのは至難の業よ?......それでも桃香は共に行動したいんだ』

 

「そうだよ。彼女にはクソッタレ女を探す為の駒になってもらわなきゃいけない。要はギブアンドテイクってやつよ」

 

制服の胸元に備えられたネクタイを締め直す動作をしているとミュウはゆっくりと息を吐き出した。

 

『......せいぜい足元すくわれて転ばないでよね...ご主人様』

 

無事にというのは変だが危険な橋を渡りきるまで倒れる訳にはいかない。

 

 

・・・

 

 

学校で本来授業を受けている時間に私は電車に揺られていた。

 

サボりと言われればそれまでだが、明日の休みは『楽しい催し』で一日潰れる為、今日向かうことにしていた。

 

電車に揺られ続けて一時間後目的地に到着し降りてホームを抜けると目の前を車椅子に乗ったショートヘアの少女が横切りビクッとしてしまった。

 

「(髪に隠れて顔がよく見えなかったけど..........随分可愛いらしいドレスを着て人形みたいな女の子だったな)」

 

立ち止まり後ろ姿を眺めているとサラサラな髪をかきあげこちらに顔を向けて頭を下げてきた。

 

軽い会釈するとそこにいたはずの少女の姿が消えていた。

 

「幽霊って存在したんだ」

 

『目大丈夫?』

 

「ミュウ。それを言うなら頭よ」

 

カードを持っていた手の方を見ると呆れきったミュウが立っていた。

 

『ただ単に曲がり角に行っただけよ』

 

「つまんない脳みそしてるね。人生楽しいですか?」

 

『上から目線で何か腹立つ..........。言っておくけど私の方が年上よ』

 

「ふーん。カードの精霊もどきが威張っても威厳ないよー」

 

『この..........ん』

 

ミュウの大きな耳がピクッと動く。何か感じ取ったのだろう。

 

『近くにセレクターがいる..........』

 

「この町でもウィクロスが流行ってるならいても普通ね。挑まれたら買うけど今日は出来る限り控えたいなぁ」

 

余計な邪魔が入る前に腕を下ろし目的地に向かうべく足を運ぶ。

 

民家が多い道のりであるが、つい都会では味わえない周りの景色を楽しんでいる。

 

実家の地域に墓を建てず両親の地元であるこの町にしたのには本人らの昔からの希望だったらしい。

 

運命的な出会いをしたかは知らないが幼馴染みで両想いだったとか。

 

「付き合うなら女の子がいいなぁ。ミュウも思わない?」

 

『思わない』

 

「えぇー...。あーそうか、今は私と付き合ってるもんね」

 

『............』

 

「ジョークジョーク。 真に受けないでよ」

 

ジトーと見られ続け手でごめんと謝る。

 

『謝るくらいなら言わなければいいのに..........』

 

「常に家でも一緒だから恋人同然でしょ」

 

『それを言うなら主人とメイドよ』

 

「だーからいつ貴女をパシらせた? 記憶に無いけど」

 

『いつもよいつも』

 

たわいもない会話で盛り上がっていると、今の暗い状況を忘れてしまいそうになる。

 

ふと思い出した事により一気に冷めて溜息をこぼす。

 

『もう疲れたの?』

 

「ん、まぁ...そんなところ」

 

『..........』

 

ミュウも察したのか喋るのを止め、無言になる。

 

夢限少女になったらこんな会話も出来ないだろう。むしろ私の話し相手は誰もいなくなってしまうのではないだろうか。

 

汚れた心の私を構ってくれる人など所詮同類しかいない。

 

そんな世界で一生生きていかなくちゃいけない。覚悟はとうの昔に決めている。

 

今この瞬間がバトルによって終わるかもしれない感覚に私は手が震える。

 

目的地の前に到着したが立ち止まったままで足が動かない。

 

葛藤が頭の中で入り交じり親の墓に顔向けできない。

 

「..........」

 

『ねぇ桃香。..........もしお姉さんと会えたら話し合ってみない?』

 

共に戦ってきたパートナーからの意外な言葉に口が開いたがまた閉じる。

 

視線を逸らさないままミュウの真剣な眼差しを見続ける。

 

『桃香も分かってるんでしょ? 願いが叶っても救われない未来に。 自分の首を締めて一生、生きるなんて辛いだけだって...』

 

「...私の決意は揺るがない。 それはアンタも知ってるでしょ?」

 

『知ってるからこの話を持ちかけてるのよ。 ...ウリスと手を組むのをやめて、ううん私を捨ててお姉さんと話して』

 

「ミュウ...」

 

『(貴女のルリグとして戦うのが嫌な時が何度もあったけど願いを打ち解けてくれて私は桃香が...好きになった。 だから汚れる前にセレクターを降りさせれば..........)』

 

ミュウは桃香のルリグになる前、ある姉妹のルリグだった。

 

『(由良ごめんなさい...今更罪滅ぼしが出来るとは思わないけど...どうか私と桃香を支えて)』

 

桃香の目に光が戻りつつある。ミュウはもう一押しと声を上げようとした時、

 

 

 

『───桃香。 まだ迷ってるの?』

 

聞き覚えのある声に慌てて振り返ると目の前に伊緒奈が気だるそうに腕を組みながら立っていた。

 

「な...どうしてここに!?」

 

『偶然仕事でこっちに来て終わってブラついていたら駅のホームから出てくるのを見かけたの』

 

「声をかけずにつけてきたと...まったく悪趣味だ」

 

伊緒奈の指に挟まれたウリスはケラケラと笑う。

 

それに対してミュウは何度も私に逃げるように指示してくる。

 

『いっそそのカード捨てて新しいパートナー見つけちゃいなさい。五月蝿くて仕方ないわ』

 

『あんた達が桃香を悪い方向へ誘ってる癖に........あんた達がいなくなれば済む話よ!!』

 

『いやぁねぇ。 私は桃香に救いの手を差し出してるだけよ。 光より闇がお似合いな桃香に。光の貴女はおじゃま虫なの分かってる?』

 

「早くしなさい」

 

顔には出ていなかったが苛立っている伊緒奈は私の胸ぐらを掴み横に並んでいたコンクリートの壁に叩きつける。

 

「っ!また暴力か、趣味じゃないんじゃ...?」

 

『私わね。伊緒奈はどうかは知らないわよ』

 

ギリギリと力がこもるにつれ呼吸が難しく焦点が定まらなくなる。

 

歯を噛み締め地面に落ちたミュウのカードをチラッと見る。

 

前に似た状況になった時のように名前を何度も叫んでくれている。

 

目を見開き伊緒奈の腕を両手で掴みとる。

 

「......わかった。 ウリスにこれからもついて行く。でもパートナーはミュウ以外には務まらない、だから...」

 

手が離れ岩場の地面に膝をつけ呼吸を急いで整える。

 

謝ることなく伊緒奈は髪をなびかせて来た道へ向き直る。

 

『桃香』

 

ウリスに名を呼ばれ顔を上げる。

 

『そうその瞳、貴女にお似合いよ。リボンも着けなくていいわ』

 

「..........ありがとう」

 

後ろ姿が遠くなるのを確認し立ち上がりミュウを拾う。

 

『あっ..........』

 

顔を見てすぐに小さく声を上げた。慌てて首元を触り変なところがないか調べる。

 

「?首にあと残ってる?」

 

『違うの...違うの...』

 

顔を伏せ長い髪に覆われているが声が震えている。

 

「ちょ、ちょっと心配してくれたのは知ってたけど...もしかして私がミュウを捨てると本当に思ってたの?」

 

『ううん........私に構わないでお墓参りにいって............』

 

ミュウは自分の失態に落胆し涙を流していた。

 

素振りに変わりは無いが、桃香の瞳はまた闇が覆いかかっていた............。

 

 

 

 

『その輝きは残光』end

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