selector infected WIXOSS―torture― 作:Merkabah
『................ュウ、ミュ...。ミュウ』
意識がぼんやりしている中何度も名前を呼びかけられゆっくりと覚める。
目をこすり右、左と首を動かし最後は丸く寝ていた身体を立たせる。
この見なれた光景に呆れた顔をしている人物が一人いる。
このカードの向こうで顔を覗かせる彼女。彼女の名は...。
「...桃香。 おはよう」
『おはよう。と言っても、夕方を通り過ぎて夜になるんだけどね...』
睨みつけながら歩く桃香は何処かに向かっている途中で起こしたようだ。
リボンは付けていないが目に光が戻っている。
...昨日何か嫌なことがあった気がしたがいつも通りの様子でほっと胸をなで下ろす。
前髪を整えミュウは桃香に質問する。
「ねぇこれから何処に行くの?」
『はぁ...。忘れたの? 寝れば脳の記憶が整理される筈なのに残らずすっ飛んでるって...いつか腐るよ』
いつも通り気に触る言い方をしながら答えてくれる。
『これから伊緒奈が開催する大会会場に行くの。 準決勝まで暇だけど控えておかないとウリス達がうるさいだろうから』
...あぁ。ウリスと伊緒奈かとミュウは唇を噛むと作り笑顔で顔を上げる。
「...今からファミレス行こっ。バトルしたくない」
桃香の動きが止まり目を丸くしてまじまじとミュウを見つめる。
無理は承知で頼んだ。すぐにこの子は否定するのは予想できるが僅かな可能性にかけてみた。
『意外な人から意外な発言』
「駄目?」
頭をかく動作をし唸り、暫くすると肩を落としながら息を吐く。
『........しょーがない。 ウリスに連絡してボイコットするかぁ』
「ほ、本当!?」
思わず身を乗り出しカード内の空間から出てしまいそうになる。
それに対して桃香は人差し指でカードの上からミュウの頭をそっと撫でる。
その純粋無垢な笑顔に涙ぐむ。
『ミュウがそうしたいなら、たまには従ってあげる』
口が震えてうまく喋れない。泣いたら桃香に馬鹿にされてしまう。
堪えながら桃香にお礼の言葉を伝える。
「ありが....」
ベチャ
え?
真上から水が落ちてきた?雨?
ベチャベチャ
また一滴また一滴。速度が遅いが量が降水とは違う。
透明な壁で隔てられている為、身体を後ずされば何が落ちてきたのかすぐに分かる。
だが、確認するまでもなく正体がわかってしまった。
「桃香...口から............血が....血が」
{IMG17028}
『............』
前髪に隠れて表情が伺えず更に焦りが高まる。
最悪な事態を過ぎったがまだ信じたくない。
「も、桃香...? いつもの冗談よね............?ねぇ桃香ッ!!」
『あらあら。もう逝っちゃった?』
この空気を更に悪化させる不気味な声にミュウは固まる。
桃香の手から落ちたカードを上から覗く人物は白髪で色白の少女。ケラケラとずっと笑っている。
「ウリス....!どうしてカードから出てる....。それより桃香に何を!?」
直後カードを踏みにじり力が抜けた桃香の身体を抱き寄せる。
『相変わらず五月蝿いルリグ。...アナタのマスターは貰っていくから』
「フザケるなっ!桃香に近づくな触れるな現れるなッ!!」
これみよがしに桃香の身体を舐めまわすかの様に見つめ顔と顔を密着させる。
『この子もう ─ んでるわよ?私がこのナイフをお腹に刺したら一瞬で』
血が滴るナイフを地面に投げ捨てる。
「黙れ....黙れ....黙れ」
目線をミュウに向けたまま舌を出し桃香の口から垂れる血をゆっくりとなぞり舐めとると、ニヤリとまた笑う。
『あぁ冷たくて気持ちいいわ。ほんと生き物って嬲りがいがあるわよねぇ。この子はあっさりだったけど』
ウリスと桃香の周りに黒い靄がかかり姿が目で追えなくなる。
カードから抜け出そうと試みるが踏みつけられて邪魔をされる。
怒りを通り越し憎悪に変わっていくのがハッキリと分かる。初めてここまで人を憎んでいるかもしれない。
『二度と逢えないでしょうけど...またね。そこで永遠に泣き続けてると良いわ』
「ウリスーーーーーーッ!!!」
叫びも虚しく視界が真っ暗闇に包み込まれた────
・・・・・
『............!!』
目覚めすぐに飛び上がりカードの向こう側の世界を直視する。
夕日が落ち夜になる手前がフェンス越しに見える。
『桃香!!』
人の姿が見えず焦る。
『(本当に桃香はウリスに........?)』
鼓動が高まり思考回路が入り交じり冷静に物事を考えられない。
両手で頭を押さえるミュウの前に伊緒奈が立ちつくしウリスのカードを指に挟み見せる。
『随分
『その声はウリス...桃香を何処にやったの!?』
『何言ってるの?桃香はお手洗いで席を外してるだけよ。あと少しで準決勝が始まるのに直前まで寝ているアナタと違ってあの子はデッキを調整してたわ。...意味もないのに』
心配するどころが努力を貶す始末。
ミュウが睨みつけていると手で虫を払う仕草をして顔を背ける。
『ふふっ怖い顔。私を恨むんじゃなくて、起こさずカードを置いていった桃香を恨みなさい』
『そうする........。謝らないから』
『勝手にしなさい』とウリスが答えると伊緒奈は背を向け離れに移動したのを確認し状況整理を開始する。
『(ここは建設中のビルの屋上で既にセレクター同士の戦いがこの下で始まってる)』
僅かであるがバトルフィールドが展開している気配が何箇所からも感じ取れる。
伊緒奈がビデオ中継で開会宣言をしていたのを徐々に思い出される。
『(気がかりなのが一つある...)』
横目でそこらじゅうに鉄筋やら建設道具が転がっているのを見る。
『伊緒奈かウリスにこのビルを借りる権力があるの...?』
「浦添財閥の力を発揮して貸し切ったらしいよ」
死角からカードを持ち上げた人物が答え顔を合わせる。
その人物の目は光を失ったバイオレットカラーの少し鋭い目つきの少女桃香だった。
目が合ったと同時に夢でみた光景が一瞬
フラッシュバックされ視線を外す。
地面に視線を合わせたまま口を動かす。
『それって...』
「一々他人の家族構成を詮索するつもりはないから詳しくは知らない。けど」
『けど?』
ミュウを腰のデッキケースに仕舞い、暗いトーンで一言。
「ここで伊緒奈に媚を売っておけば将来的にも........楽出来るはず」
『............屑』
「嘘だから」
いつもの声質に戻りふざけていると端でフェンス越しに街を眺めていた伊緒奈がこちらに近づく。
何を考えているかまったく分からぬまま桃香に向かって一枚のカードが投げられる。
「おとと」
危うく落としそうになったが無事に受け取り目を通すとすぐに見開いた。
そのカードは桃香のデッキに欠けていたピースになる一枚。
カードと伊緒奈の顔を何度も行き来し、桃香は恐る恐る問いかける。
「...わざわざこのカード買ったとかじゃないよね?」
『どう捉えてもらっても構わないわ』
「ウリス、今は貴女のマスターに質問したんだけど。 ...えっと、そこまで親しくない人からのプレゼントは受け取れない。だから返す」
カード差し出すが受け取る気配が全くない。
『実は伊緒奈が手に余るほど持っててね。使い道がなくて処分する位ならと思って持ってきたの(本当は買わせたんだけど)』
「......そういう理由なら受け取るけど...。ウリス。いつか抱きしめてあげる」
『へぇ今の言葉に嘘偽りもないと信じて胸にしまっておくわ』
嬉しさからかいつも友達に向けて言う冗談をウリスにやってしまった。
「タイム!...やっ『カード返して貰うわよ』
とんでもない約束を交わしたことに後悔しながらもデッキケースに仕舞う桃香にもう一言付け加える。
『もう少しで仕事の時間が来るわ。覚悟は出来てる?』
「当然。...仕事に私情を挟むつもりないよ」
『その言葉通りの結果を期待してるから。...未来の
「ご期待に添えられるよう努力しますよ。............
皮肉を込めた発言を済ませると桃香は二人に背中をみせて屋上から下の階へ移動する手段のエレベーターに乗り込む。
壁にもたれかかり腕を組む。
「ねぇミュウ。...私がウリスの下で行動しているけどどう思ってる?」
『道を間違ったと思ってる』
「そう。どうすれば良かった?」
『............独りでセレクター狩りを続けてれば良かったんじゃない』
「なるほどね」
会話が途切れエレベーター内で重い空気が包み込む。
桃香は髪留めであるリボンをコートのポケットから出し左右にセットする。
二人の間に目に見えない厚い壁があるかのような関係がこの数日で続いている。
それ以上やり取りをすること無く、指定した階へエレベーターは止まり左右の扉が自動で開かれた。
そこで伊緒奈が求める人物と鉢合わせになり向こうは桃香の顔を見て一歩後ずさる。
「も、桃香...?」
小さなく名前を呟いた人物、るう子は桃香が右足を一歩前に踏み出すとまた後ずさる。
エレベーターから完全に降りると扉が締まり下へ降下していく音が響く。
「残念だったね。次エレベーター来るのはいつかな?」
桃香はいつも通りの笑顔を見せながらるう子を見つめる。
後ろで胸元に手を当てながら様子を伺う一衣の姿も確認出来た。
「桃香。そこをどいて」
「それは出来ないなぁ。仮に退けたら私にプラスになる?ならないよね」
「ふざけないで」
ヘラヘラしている桃香とは対照的にるう子は苛立っているのか言葉遣いが荒い。
「ふざけてるんだよ?久しぶりの会話だから。私達は友達でしょ。もっと楽しくやろうよ」
「......」
るう子は話にならないと思ったのか歩み寄り桃香を手で退けようと腕を伸ばしたが
「ここを通りたいなら私を倒してから進め。小湊るう子」
腕を掴み空いた手でルリグカードを取り出す。
睨まれながらも桃香の言葉に同意したるう子も同じく背面が白いカードを見えるように取り出す。
掴んでいた手を離し距離を置き桃香の瞳から先程まであった光が消える。
友達ではなくセレクターと見方を変えた為表情もまた鋭くなる。
「横槍はいれないでよ?一衣」
横目で頷いたのを見てまた正面に視線を戻したと同時に息を吸い込み
「「────オープンッ!」」
............
「......都会でも夜はやっぱり寒いね」
『その体感はワシらにはまだ理解し難いがお主が寒いなら寒いのだろう』
控えめにカードに語りかける色白で片方だけ髪をまとめた少女と変わった口調で回答するカードの中に佇む金髪の少女。
建設中のビル入口前で立ち止まり日が落ち暗くなった空を眺めていると別の声が聞こえてきた。
『おっきい...はいらないの?』
「遅刻して今から入ってもすぐに追い出されると思うからここで眺めてようかな」
『何じゃ。お主は妹と会うためにここまで足を運んだのにそれでは無駄ではないか』
「そうだよね...」
『うむる、かれんがこまってるの』
間に入りタウィルはかれんと呼ばれる少女に指を指しながらウムルの顔をじっと見る。
『...少々言いすぎた。じゃがこのまま帰るのは惜しいのではないか?』
花蓮は首を横に振り微笑む。
「情報をくれた伊緒奈さんが言うには桃香ちゃんはこの街にいるみたいだからいつかすぐに会えるよ」
『...会って謝るんじゃったな。ならこんな戦場ではなく面と向かって話せる場所がよいな』
「うん。ごめんねウムルさん」
『謝るではない。これではワシが悪者ではないか。タウィルもいつまで指を指しておる』
『かいけつしたからおろす』
タウィルは手を開き死角に置いていたストローを口に咥え吹くと先端から何個もの泡がカードの内を埋める。
『早速シャボン玉で遊びおって...』
「ふふ...それじゃカード屋に寄って帰りましょ」
『そうじゃの...ところであの古代兵器が置かれていたカレー屋には行かないのか?』
「...行きたいの?」
『うむ』
腕を組み小さい胸を張るウムルに花蓮は吹き出す。
「童話に出てくる魔法のランプみたいな入れ物だけが目的でしょ?その為にお店に入るのも...」
『何じゃ花蓮は興味がないのか。あの古代兵器はな......』
淡々と説明を始めたウムルの言葉を半分聞きながら高層ビルに背を向けた............。
............
「私のターン!ドロー!!」
いつも冷静を保ちながらバトルに挑んでいる桃香は鬼気迫る表情で声を荒げながらフィールドにシグニを配置していく。
空間の空気は淀んではいないものの薄暗くすぐにでも真っ暗闇に飲み込まれそうな空気が漂っている。
その空間の中でるう子と彼女の距離は遠のいているが常ににらみ合いの攻防が繰り広げられていた。
だが、そのバトルも終盤を迎えようとしていた時るう子がぽつりと呟いた。
「桃香、一つ聞かせて! …願いが叶わなくてもバトルを続ける理由を」
ピタッと手を止め桃香は「はぁ?」と呆れながら返事をする。
「叶わないじゃなくて意地でも叶えてもらうんだよ。この
指でルリグであるミュウの頭をグイグイと横に揺らす。すぐに手で払いのけられたが気にせず話を続ける。
「…それはミュウさんも望んでいるの?」
『…えぇ。ご主人様に忠誠を誓っているつもりだけど』
「ミュウさんも桃香も分かって続けてるなんておかしいよ…」
「おかしい?小湊るう子さんも人の事言えるのかなぁ?」
いつもの挑発交じりの口調になりるう子は顔をしかめる。
「大体、そんなに嫌ならさっさとバトルを下りればいいものを伊緒奈とやって快感を覚えたんだってね」
「挙句の果てに友達がルリグになってからセレクターバトルが危険だと理解出来た。なのに、この場に立ち戦っている。こっちの方がよっぽどおかしいよねぇ?」
「............」
反論出来ず口を閉ざしている。
更に追い打ちをかけようと口を開こうとした時テーブルで仁王立ちしていたタマがその場で飛び上がり握りしめた拳を掲げる。
『るう、タマとトモダチになる!だからバトルつづけてる!ひとえ、ゆづきともトモダチになる!!』
友達。その言葉に桃香のテーブルに立っていたミュウの大きな耳がピクリと反応したが桃香は気づいていなかった。
「私はもう友達に含まれてないのか。泣いてしまいそうだよ」
『モモカ倒してトモダチになる!』
冗談交じりに口に手を当て悲しむ素振りをしていたがすぐに止め真顔に戻る。
「ふぅん。漫画やドラマみたいな綺麗な展開になればいいですね。そろそろバトル続行してもよろしいですか?」
了承を貰ったが既にメインフェイズを終えシグニとレゾナを配置していた。
「バトルフェイズ前だけど何か発動する?」
「.........アーツ『モダン・バウンダリー』指定するレベルは『2』」
宣言すると同時に三枚のカードが山札から宙に浮く。
レベル2のカード『やり直しの対話 ミカエル』が含まれていたのを確認するとるう子はシグニゾーン中心に配置されていた『黒幻蟲 ムカデス』に指を指す。
「レゾナは手札に戻らずルリグデッキに戻る。勿論分かってやったんだよね?」
「うん。......私はアーツを発動。 『スピリット・サルベージ』!ルリグトラッシュにある『モダン・バウンダリー』をデッキへ戻してもう一回発動!!」
「.........!」
このターンまでるう子はアーツを一切使わずエナを貯めてきていた。その行動の意味を理解した桃香の思考がゆっくりと捻れていく。
(今シグニゾーンをガラ空きにされたら確実に次のターンには...........)
『......』
爪を噛み始めた桃香をミュウは無表情で見上げていた。
彼女の悪い癖が久々に出たと落胆している半分、いいキッカケが出来たと受けとめていた。
『(負けて少しは頭を冷やしてくれればいいけど...無理...か)』
レベル指定に成功し桃香の手札へ『幻蟲 クロハ』が戻された。
「......ッチ」
この場にいる誰もがこの瞬間結果を予想出来ていた。
桃香の手札は今加わったカードを混ぜ合計三枚。ガードを持つシグニが二枚確実に入っていたとしてもライフクロスが残り二枚では防ぎきれない。
るう子場には一番厄介なカード、『先駆の大天使 アークゲイン』が中心に存在しているからだ。このカードにより『天使』のシグニはルリグ以外の効果を受けない。
その強力な効果を把握した上でるう子のシグニゾーンは全て『天使』が配置されている。
『(............ウリスから受け取ったカード、『ワーム・ホール』もこの状況じゃどうしようもない............)』
まだ負けを認めたくない彼女には告げず命令に従いアタックを仕掛ける。
タマの前まで接近し体を捻り回し蹴りをするもるう子の手札からガードカードが使用され透明な壁に妨げられ、不発に終わった。
ターン終了の宣言すると桃香は顔を手で覆い隠す。
るう子は目を閉じドローフェイズ後直ぐにバトルフェイズへ移行した。
「......桃香。バトルフェイズ前何かある...?」
「............フフフ。そうだねぇ」
手を下ろすと桃香は満面の笑みでるう子の目を見つめ続け、
「────さようなら。私の親友るう」
........................
バトルフィールドが展開していた気配が消えるのを感じ取ったウリスは不敵に笑い伊緒奈へ合図をした。
『あーあ。あの子嚙ませ犬だったわねぇ』
「やっぱり私のるう子だわ...」
『嫉妬...いや怨むわよ? 私の
「勝手にしなさい」
…………………………
────残り一回負ければ願いは逆流する。即ち死。
後がない。単語が脳に浮かんだだけで桃香の手は小刻みに震えていた。
「………………」
負けてすぐに会場の一階に降り他の参加者から離れた部屋の隅で座り込んでいた。
鼓動の高鳴りが止まらずずっと胸を押さえつけていたがかえって逆効果でしかなかった。
『今になって怖気づいた?』
デッキケースからミュウの素っ気ない声が発せられる。
「……そうよ。悪い?」
『否定しないなんて………重症………』
『でも良かった。まだその感情があるから』
今まで聞いた覚えのない優しく暖かい声が桃香を包むかのように語りかけてきた。
沈黙が長く続き先に口を開いたのはミュウだった。
『桃香。まだ続けるの?』
「………えぇ」
『…………お供するわ。これからはミュウ様って呼んで………』
「この場を使って何を言わせようとしてるんだか...」
『ミュウ閣下でも可』
ミュウの連続する冗談に段々と落ち着きを取り戻していく。胸を抑えていた手は離れデッキケースへ伸びミュウを取り出しカードに唇を当てる。
「それじゃあ最後までよろしく。私の相棒兼彼女♪」
『………ぐぅ』
「ここで力尽きるって......はぁ」
照れ隠しと分かっていながら自然と流す桃香の瞳には光が完全に戻っていた。
────一時間後。エレベーターが下の階へ降りてくる。
参加者は皆屋上にいるるう子達と私を覗いて帰宅していった。
エレベーターの前で腰に手を当てながら扉が開くのを待っていた。
勝者を迎える為に。
「......お待たせ。桃香」
「
『浦添伊緒奈』の体で笑みを作り口を動かす目の前にいる少女。................『ウリス』
「勝った記念に抱きしめてキスしてあげましょうか?」
「そうね。まずは貴女の部屋に行くわ」
「いきなり過ぎない?……ってアンタには関係ないか。そんなこと」
ウリスが横切るのを目で追いその後ろ姿を追いかける。
出口の透明な扉越しでも分かる初雪が夜の街に降り注いでいた。
外に出てすぐにウリスは顔をこちらに向けず質問を投げてくる。
「バトルの結末気にならない?」
「………伊緒奈はるう子のルリグになった。そしてタマは………」
横断歩道の信号が赤になり肩を並べ立ち止まる。
「ウリスの手元?」
「惜しいわねぇ。罰を与えるわ」
「うぇ……ってちょっ」
伊緒奈の体が右腕に密着し戸惑いを隠せない。
「いいじゃない。くだらない友情ごっこみたいで」
「いやこれじゃカップル...」
周りの視線が気になるが仲の良い友達同士の絡みだと思い込み周りに合わせて横断歩道を渡る。
人混みで溢れる時間と分かっていながらワザとウリスは息がかかる距離まで顔を近づけてくる。
「(急に人が変わりすぎじゃ...)」
すれ違う人達の間をあと少しで抜けそうになった時
「!!」
咄嗟に振り返りすれ違った人の顔を一人一人素早く見分ける。
「気のせいか」
「................」
ウリスは無言のまま腕から離れ先に歩き出した。
桃香も点滅する信号に気付き駆け足で渡り切る。またすぐに振り返るが人の姿は小さくましてや夜の為判断出来ない。
(あの女がこの街に来るわけないか……)
空を見上げ舞い落ちる雪を手のひらの上に乗せ体温ですぐに溶けた手を痛みが少し感じる位まで強く握り込む。
「すぐに消える訳にはいかない……アイツに会うまでは...」
『この終焉は誕生』end