今回は、オリジナルの作品を書きました。詳細は、説明文の通りです。
ヒロインは、今回はでません。3、4話くらいから出ます。
あと、僕の作品は全般的にそうですが、不定期更新です。
パーカーの少年
―国害―
かつて、大都市「サウス・メトロポリス」は、国に危害を及ぼす生物を、そう名付けた。
国が国害と認定した生物は、駆除の対象とされ、駆除命令「イレイズ」が発される。しかし、そのイレイズを受けるのは、警察や軍人ではない。特殊な訓練を受けた、一つの学校の生徒達である。
その学校「バタフライ」の生徒達は、その全員が、何らかの罪で捕らわれた死刑囚の子孫である。彼らは、故郷の街を滅ぼされ、拘束されて、バタフライへ連れて行かれる。拘束に刃向かえば、その場で処刑される。
サウス・メトロポリスの間では、バタフライを知っている人間は多いが、彼らが、前記のような方法で集められた人間とは知らない。メトロポリス政府は、バタフライの生徒は志願制で集めていると発表しており、大体の人間は、これを信じている。
少年、病桐刹那とその兄も、バタフライの生徒とするために狩られたが、兄の犠牲でこれを免れた。兄はバタフライへ行くことを拒み、弟である刹那を逃がし、その場で殺された。
刹那は、それを知っている。刹那はその後、隣町に住む親戚に保護された。刹那は、その日から、バタフライや国害について調べ、バタフライへの復讐を背に生きてきた。
そして、4月2日、午前2時25分。運命の時は突然、そして残酷に訪れる。
彼はその日も、パソコンでバタフライや国害について調べていた。
「2時23分…そうか、もうこんな時間か。」
悲劇の2分前。彼のパソコンの隣には、彼のスマートフォンと、コーヒーが一杯。
彼に、悲劇を止める方法はない。いや、彼は2分後に、何が起こるかなど、知る由もなかった。
これほど国害のことを調べていながら、彼は、国害が目の前へ現れた時の対策は、何一つしていなかった。
2時25分。刹那は、急に妙な身体の浮遊感を感じた。その直後、彼は、様々な物が壊れる音を聞いた。しかし、目の前は真っ暗で、何も映らない。
次に視界が開けた時、彼の目の前には、信じられない光景が広がっていた。燃え盛る街、悲鳴を上げて逃げる人々。そして、自分を触手のような何かで持ち上げる、黒い塊。
刹那は悟った。次に自分の身に何が起こるかを。
「このままじゃ…殺される!」
彼は、その姿に見覚えがあった。国害指定の生物、ブラック・スライム。危険度は、6段階の中では、最高のSランク。生身の人間は愚か、武装した兵士ですら、相手にならないほどの強敵。
そして刹那は、ブラック・スライムの弱点を知っていた。奴の弱点は、黒い殻に包まれた、柔らかいスライムそのもの。それにダメージを与えれば、何とかなるかもしれない。そう思った彼は、履いていたスリッパを、ブラック・スライム目掛け、投げつけるように脱ぎ捨てた。
スリッパは、ブラック・スライムの殻の中に入った。攻撃が聞いたのか、ブラック・スライムは悲鳴をあげ、刹那は車道に叩きつけられ、スライムの触手から解放された。しかし、スライムから叩きつけられた衝撃により、刹那は数分間、その痛みから、立ち上がることができなかった。
刹那が叩きつけられた衝撃、それは、建物の3階から叩きつけられることと、ほぼ等しいくらいの衝撃である。彼が頭を地面にぶつけていれば、確実に死んでいた一撃。
数分経つと、身体全体の痛みは和らいだ。しかし、服は血だらけで、右足を骨折し、動くことすらままならない。
ブラック・スライムは、そんな彼の事情も構わずに、触手を地面に叩きつけ、彼を殺そうとしている。
刹那は痛みを堪え、動く左足で地面を蹴り、身体を転がし、スライムの一撃をかわした。彼が左を見ると、スライムが触手で殴った車道は、地割れでも起きたかのように、グチャグチャになっていた。
彼はブラック・スライムの前に、絶望すると共に、これが国害の恐ろしさか、と感心していた。
自分の力では、間違えなく手に負えない敵を前に、彼はスマートフォンで助けを呼ぼうとした。しかし、スマートフォンは彼の部屋の中にあり、手元には無い。右足を引きづって歩こうにも、そんな無様な姿を晒せば、ブラック・スライムの触手に殺されてしまうだろう。
絶望に明け暮れた、その時だった。刹那の耳に、サイレンの音が聞こえてきた。サイレンの鳴る方向を見て、刹那は心に希望を抱いた。
良かった、警察が来てくれた。警察が助けてくれる!そう思った刹那は、目に見えたパトカーを、ずっと見ていた。
しかし、その希望は、意図も簡単に崩れ去った。
パトカーは、ブラック・スライムの触手を受け、廃車と化した。廃車となったパトカーとは別の、もう一台のパトカーからは、警官が四人降り、ブラック・スライムに拳銃を撃った。しかし、撃った弾は、全てブラック・スライムの殻に当たり、弾かれた。
その四人の警官もまた、パトカーと同じように、触手に潰された。
このままでは、確実に自分も殺される。そう思った刹那は、警官がここに来るまでに乗ったパトカーへ、右足を引きづりながら近寄った。幸い、ブラック・スライムに眼は無く、自分を狙った先にしか攻撃はしてこない。刹那は、それも知っていた。国害についての知識ならば、誰にも負けない自信があった。
しかし、走った先のパトカーは、ブラック・スライムの攻撃の衝撃により、動かなくなっていた。
「この…糞が!俺、もう死ぬのかよ!何も成せないまま…兄ちゃんの仇も取れずに…」
彼がそう叫んだとき、奇跡は起きた。
彼の乗ったをパトカーを背に、黒いパーカーを着た、紫髪の少年が、ブラック・スライムの前に立ちはだかった。
「ブラック・スライムの初期型…ランクはD。こいつは、蝶には渡さない。俺一人で片付ける。」
少年はそう呟き、鞘から刀を引き抜いた。
ブラック・スライムは、少年の声に反応し、少年と刹那を触手を伸ばす。しかし、少年と刹那をバリアが守り、傷一つ付けられない。
「無駄だ。そんな小手先の攻撃、俺には通じない。守護霊…召喚!双尾之白兎!」
少年が刀を天に掲げると、彼の体内から、白い兎のような姿をした生物が現れた。刹那は、眼を疑った。一体、どんな仕掛けで現れたのか、刹那には、まだ理解できなかった。
「一体化!双尾之白兎!初期型だからって、がっかりさせるなよ!」
白い兎は、現れたかと思うと、すぐに彼の中に消え、彼は白いオーラに包まれた。その後、彼はとてつもない速さでブラック・スライムに近づき、切り刻んだ。
「竹取姫之白夜剣!」
ブラック・スライムは、少年に切り刻まれ、消滅した。少年は、弱すぎる、とだけ呟き、パトカー越しに、刹那に話しかけた。
「大丈夫か?」
刹那は、少年の呼びかけを聞いて我に返り、ああ、大丈夫。と答えた。
「なあ、あんた何者だ?国害でも、最上級のランクに指定されているブラック・スライムを、一瞬で…まさか、バタフライか?」
「違う。とりあえず車から降りろ。話はそれからだ。」
刹那は、少年の言う通り、パトカーから降りた。しかし、右足は骨折していて、全く動かないので、立つことは難しい。左足を上手く使い、降りてはみたものの、バランスを崩し、すぐに倒れてしまった。
「右足を骨折している…ブラック・スライムにやられたか。しかし、よく生きていられたものだ。」
「ああ…ブラック・スライムの弱点の、身の部分を攻撃したんだ。そしたらあいつ、俺のことを投げ飛ばしやがって…右足はやられちまった。」
刹那がそう話すと、少年は、驚いたような表情で刹那を見た。何故、民間人が、ブラック・スライムの弱点を知っているのか。と思っているかのような顔であった。
事実、少年は、現にそう思っていた。刹那はそれを悟り、彼に、誇らしげに自分の立場を話した。
「なるほど、蝶狩りに遭って、君はそこから逃げてきた。と言う訳か。」
「ちょ…蝶狩り?」
「お前が遭遇した災難を、それを知る人間はそう呼ぶ。しかし、初めてだ。蝶狩りから逃げて、生きている人間を見るのは。お前、俺と来ないか?俺はラビット。昔は蝶と組んでいたが、今は手を切り、一人で国害を狩っている。俺と来れば、国害やバタフライへ遭遇する機会は、確実に訪れる。」
少年、ラビットが刹那にそう誘ったのと時を同じくして、ブラック・スライムの消滅を確認したバタフライは、国害に対し、新たな手を打とうとしていた。
バタフライの校長、彼の本性を知るものは、ほとんど居ない。彼が平和を望んでいるのか、はたまた、別の何かを考えているのか。彼の部屋の中にはいつも、彼の描いた絵画や、描き途中の絵画がある。
絵画には、一つとして、明るい絵画が存在しない。血や死体などが描かれた絵画ばかりだ。彼が、何故このような絵画を描き続けるのか。誰も、その解答を知る者は居ない。
知る者も居なければ、知ろうと思う人間も居ない。バタフライの誰もが彼に関して知っていること。それは、彼が、世界最強の人間であり、人類の切り札であることだ。
「失礼します。今回の、サウス・メトロポリスに置ける、国害についての資料をお持ちしました。」
「…国害は、誰がイレイズを受けた。イレイズの命令書ではなく、資料と言うことは、既に国害は駆除されたということだろう?」
「はい。国からのイレイズは、確認されていません。ですが、国害の消滅を確認しました。サウス・メトロポリスとは言っても、首都からは大分外れた地区なので、首都がイレイズを発することに時間がかかり、その間に、我々ではない何者かが、除去したのではないでしょうか。」
「なるほどな。まあ、国害が除去できたのなら、私はそれで良い。資料は、地下の保管庫に入れておいてくれ。」
「はい。では、失礼します。」
スーツ姿の男は、校長に一礼し、校長の部屋を後にした。彼を見送ると、彼はまた、熱心に絵画を描き始めた。